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2013.07.07
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カテゴリ: 気になる本
日曜日の朝日新聞に読書欄があるので、ときどき切り取ってスクラップで残していたのだが、これを一歩進めて、無料デジタル版のデータで残すことにしたのです。
・・・・で、今回のお奨めです。

・「上を向いて」で世界人になった
・脊梁山脈

さっそく、図書館に借り出し予約するのもいいかもね。
********************************************************************************

「上を向いて」で世界人になった より
上を

<文理悠々:尾関章>
「夢であいましょう」――あれがもっとも良質な戦後文化だったような気がする。そのようなことを先輩記者が飲みながら言うのを聞いて、「たしかにそうだ」と共感したことがある。1961(昭和36)年から5年間、土曜夜にNHKテレビが放映した人気バラエティー番組。僕は小学校の高学年から中学生にかけて見ていた。先輩記者は高校生くらいだっただろう。

 黒柳徹子の機知に富んだおしゃべりに引き込まれた。渥美清や谷幹一の軽妙なコントに笑った。だが、それだけではない。中村八大のピアノや松本英彦のテナーサックスが奏でるジャズが、僕たちの知らない自由な世界を教えてくれたのだ。

 思えば、いい時代だった。日米安保条約の改定で日本社会に亀裂が走ったのは1960年。岸信介政権が退陣して登場した池田勇人政権は所得倍増論をぶち上げた。きょうよりも豊かな明日を信じて走り始めた人々を週末に癒してくれたのが、この番組だった。

 このコラム3月19日付の「アベノミクス酔い止め本をもう1冊」で紹介した平川克美著『移行期的混乱――経済成長神話の終わり』(ちくま文庫)に即して言えば――それは、町工場の二階に置かれたテレビ目当てに近所から人が集まった時代から、テレビが「一家に一台」の時代に差しかかったころだった。そんな古き良き日々の思い出がめくるめくように蘇る展覧会を先日のぞいてみた。

 世田谷文学館(京王線芦花公園駅下車)で6月末まで開かれている「上を向いて歩こう展――奇跡の歌から希望の歌へ」。和製ポップスの代表曲であり、日本発のスタンダードナンバーともなった大ヒット曲の歴史をたどる展覧会だ。流行のきっかけは「夢であいましょう」で「今月の歌」になったことだった。「夢で……」を戦後日本最良の文化と言うのなら、それを象徴する歌が「上を向いて……」だった。

 そして「上を向いて……」は欧米にも広がっていく。1963年には全米ヒットチャートの頂点に躍り出た。展覧会には、その史実を跡づける証拠品が並ぶ。別名スキヤキが当初、「SUKIYAKA」と綴られて発売されたことを示す米国のレコード。坂本九が渡米してテレビ番組に出た様子をとらえたモノクロ写真。日米安保反対の余韻のなかで生まれた歌が米国の若者の心を痺れさせたという皮肉な現実がそこにはある。

 たぶん、あのころ日本の若者の多くは、核兵器をかざして世界の警察官たろうとする米国に反発しつつ、ジャズやロカビリーに代表される米国の文化に魅せられていた。戦後十数年、米国文化のボールを受けとめて、初めて投げ返したボールが「上を向いて……」だった。それが米国の若者の心と共振したのだ。なぜなのか。そのことを教えてくれる本に展覧会場の即売コーナーで出会った。

 『上を向いて歩こう』(佐藤剛著、岩波書店)。著者は音楽業界誌の仕事や甲斐バンドのマネージャーをした後、独立して多くのミュージシャンの音楽活動をプロデュースしてきたという。1952年生まれ。「上を向いて……」が「夢で……」で初めて歌われるのを耳にした日を「満九歳、小学四年の夏のことだった」と書いているから、僕とはまったく同学年ということになる。

 この本は、作詞の永六輔、作曲の中村八大、歌手の坂本九という「六・八・九」のそれぞれが「上を向いて……」に至るまでの軌跡を描いていておもしろい。そのどれもが、戦前から戦後にかけての日本社会史の一側面となっているからだ。
(中略)
「六・八・九」の3人は、原語を原語のままで聴覚体験してもらうという異文化発信をやってのけた。戦後日本の若者が肩肘張らずに世界人となった最初の出来事だったかもしれない。「夢で……」の良質さは、それが猿真似の文化ではなかったことにある。

 この本でもう一つ、そう言えばそうだなあと気づかされたのは「上を向いて……」がビートルズ初期のヒット曲群と同じ時代の産物だったということだ。しかも両者には、米国を舞台に因縁話があった。

 米国で「スキヤキ」を大ヒットさせた立役者は、レコード会社キャピトルにいたデイヴ・デクスター・ジュニアという人物だった。この人は当初、ビートルズを評価せず、食指を動かさなかった。彼がビートルズの「抱きしめたい」を米国で売りだそうと決めたのは、「スキヤキ」が全米トップになった後のことだ。「六・八・九」の「上を向いて……」は、あのビートルズともいい勝負をしていたのである。
 ◇

『上を向いて歩こう』佐藤剛著、岩波書店、2011年刊

<「BOOK」データベース>より
人々を希望へ誘う「歌の力」を活写。
【目次】
誕生/光と闇/意志/葛藤/敗北を抱きしめて/再生/新時代/発見/エルヴィスにあこがれて/変革/創造/挫折/邂逅/奇跡/「SUKIYAKI」とビートルズ/スタンダード・ナンバー

<読む前の大使寸評>
アメリカを舞台にして「六・八・九」トリオが日本語のままで「スキヤキ」ブームを打ち立てたが・・・
それは、フロックではなっかったと、この本は説いているようです。

rakuten 上を向いて歩こう



脊梁山脈 より
脊梁

<国や民族揺さぶる木地師の系譜:角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家) >
 日本の山中にはかつて木地師という集団がいた。轆轤(ろくろ)を回して木でお椀やこけしを作り、良材を求めて山中を漂泊していた人たちだ。
 第2次大戦後に中国から復員する主人公がその木地師の男と出会うことから物語は始まる。人を殺すのが嫌になった、これからは山に籠る。男の言葉に強い印象を受けた主人公は、彼が山に籠る理由を知りたくて、自らも信州の山村に分け入り木地師の系譜を調べだす。
 冒頭からしばらくは山と日本人の関係を描く小説なのだと思って読み進めた。ところがやはりその見通しは甘かったらしい。主人公は調査の過程で木地師の成り立ちに朝鮮半島から渡来した秦氏が関わっていたことを確信するのだが、そのあたりから物語は急に混沌としはじめる。さらにその秦氏と日本の古代王朝との深い繋がりから、話は古代史最大の事件ともいわれる大化の改新の秘密に突き進む。天皇家の政治的基盤が確立したあのクーデターには大いなる歴史の欺瞞が隠されていたというのである。
 着地点が見えないまま物語は進行する。その過程で読者はこれまで抱いていた国とか民族に対する理解が揺さぶられることに気づくだろう。木地師が暮らした山の文化と天皇家に象徴される歴史により、日本人の精神性は育まれてきた。それなのにその双方で渡来系の血が濃く関わっていたとしたら、我々日本人とは一体何なのか、よく分からなくなってくるのだ。
 それでも私たちの内側には日本人としての原形質が形作られている。木地師の生き様を求めて山中を彷徨する主人公の旅は、作られたストーリーのさらに向こうで皆が共有している根源的な何かを探り当てる試みのように見える。おそらくそこにこそ私たちの内部を芯から貫くこの国のぶっとい脊梁があるのだろう。読み終わった時にそれが少しだけ見えてくるのである。
  ◇

乙川優三郎著、新潮社、2013年刊

<「BOOK」データベース>より
福島県費生として上海に学び、現地入営した矢田部信幸。復員列車で助けられた男を探し、深山を巡るうち木工に魅せられ、木地師の源流とこの国のなりたちを辿ってゆく。23歳の終戦、いかに生き直すか。直木賞受賞作『生きる』から10年、著者初の現代小説。

<読む前の大使寸評>
前回に引き続いて角幡唯介さんの書評をとりあげました。
木地師と朝鮮渡来の秦氏の繋がりから山の文化へも辿ってゆく・・・
評者が注目するぶっとい脊梁が見えるのだろうか。

rakuten 脊梁山脈


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Last updated  2013.07.07 06:58:37
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