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2015.01.11
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カテゴリ: 気になる本
図書館で借りた池沢夏樹著『パレオマニア』という本を読んでいるのだが…
歴史的な該博な知識を持つ池沢さんが訪ねた先で、事物を見て綴る感興が、凡庸な大使と違って、深くて端正なわけでおます♪

やはり、人間性が表れるんでしょうね。


【パレオマニア】
池澤

池沢夏樹著、集英社インターナショナル、2004年刊

<「BOOK」データベースより>
ギリシャ、エジプト、インド、イラン、カナダ、イギリス、カンボディア、トルコ、韓国、オーストラリアなど、古代妄想狂を自称する男が大英博物館で気に入った収蔵品を選び、それが作られた土地を訪ねる。知的興奮に満ちた旅。

<読む前の大使寸評>
池沢夏樹は古代妄想狂なのか(笑)・・・各地の取材費は出版社持ちなんやろか♪
大使にとっては、トルコ、韓国、オーストラリアあたりが興味深いのです。

Amazon パレオマニア



この本の「韓国」に関するあたりを紹介します。
池沢さんの文章は、その思考を表わすように明晰で端正である。

<韓国篇>p270~272
「ここまでいらしたのだから、まずは仏国寺をご覧になるといい。開基は6世紀の前半だが、8世紀半ばになって新羅随一の大きな寺になった。文禄の役ですっかり焼かれて規模は十分の一になってしまったが、それでも見るだけのことはありますよ」
 そう言われて、一瞬考え、文禄の役とは何かを思い出した。これと「慶長の役」をまとめて日本史では「豊臣秀吉の朝鮮征伐」と呼んでいる。征伐か、やれやれ。

 両国の交渉史には、近代の負債とは別に、あの一方的な侵略があった。その時に日本軍は多くの寺を焼いた。織田信長が叡山を焼いたのには、まだ戦略的な意味があったけれども、秀吉の出兵は妄想の産物でしかなかった。周囲はなぜそれを止めることができなかったのか。「太閤が一石の米買いかねて今日も五斗買い明日も五斗買い」というのはたしか曾呂利新左衛門が秀吉をやんわりとたしなめた狂歌だ。「五斗買い」は「御渡海」である。つまり周囲も秀吉の異常な征服欲にうんざりしていたのだ。後に江戸の儒学者藤原惺窩は「罪なき朝鮮民衆の惨禍、日本生民の憔悴ここにきわまる」と書いた。

 半島の人々が沖の列島に対して領土的野心を抱いたことはなかったのに、逆の例は16世紀末と20世紀前半と二度もあった。どちらの場合も半島の側はひどい目にあった。

 そういう男の思いを知ってか知らぬか、Kさんはなおも説明を続ける―「それに、この種の素朴な石仏がお好きならば南山に行かなくてはなりません。山の中にたくさんの石仏や磨崖仏がある。文化財であると同時に今もって信仰の対象でもあります。今の韓国は国民の五割がクリスチャンですが、四割は仏教と儒教を一緒に信じている。魂を仏に委ね、生活を儒で律する。このような仏への思いは1400年前とあまり変わっていないのかもしれませんよ」

仏国寺

 翌日、仏国寺に行って、この大伽藍の規模だけでなく、色の鮮やかさに驚いた。日本の寺には色がない。まさか色即是空を字句のまま解釈したわけではないだろうに、日本の寺で建物にまばゆい色を塗る例はあまりない。例外は京都の金閣寺と日光の東照宮だが、この両者はしばしば悪趣味の典型のように言われる。

 韓の寺には色があった。山門の守護の役にある緒神の像も屋根を支える木組みも派手な色に彩色してある。大太鼓まで鮮やかに塗り分けてある。この色への傾倒は列島の文化と半島の文化を分ける基準の一つかもしれないと男は考えた。人々が着ているものの色にしてもこちらの方が各段に派手だ。中間色がなく原色がくっきりと対比的に使われる。老いた人たちも地味に走らない。

 宗教はどこでも官能の魅力で信徒を誘う。カトリックならばミサで人気のある僧は顔がよくて声がよいと決まっている。聖歌隊はそのまま天使の歌声のように聞こえる。更に香を焚いて善男善女を別世界へ誘う。その点では仏教とて例外ではなく、魂は理性よりも官能の方に一歩だけ近いところにあることを僧たちが知らないはずはなかった。
 ヒンドゥー教の場合など、女神たちは丸い乳房を突き出して肉体の魅力を誇示していたし、初期のインドの仏教はそれを借りていた。建物や像を色あざやかに塗るくらいは当然のことだったのだろう。

 日本の寺に色がないことを時代の違いや宗派の違いで説明できるだろうか。侘びや寂び、枯山水が列島の人々の美意識の主流になったのはなぜか。これはあまりに大きな設問で、すぐに答えの出ることではないようだ。

 さて、仏国寺はその名のとおり官の寺、国の寺だった。今、われわれは長い長い歳月を経て初期の勢いと力を失った仏教を知っている。仏教は、信徒にとってもそうでない人々にとっても、人生の傍らに静かにあるものとしてあった。だから、古代の国々に初めて仏教が伝わった時の人々の興奮を想像することができない。それは、東アジアの至るところで起こった文化的な一大事件、いわば信仰の津波のようなものだっただろう。

 各国の宮廷では、この新しい経済思想に飛びつく者と反発して昔ながらの緒神を立てる者が対立し、それは当然ながら政権を巻き込む争いになり、やがてどこでも仏教を信奉する派が勝った。列島の場合、これは蘇我と物部の争いという形で伝えられている。外来の魅力あるものを容れるか拒むか、文化はいつもこの難しい選択を経て変容してゆく。

 新羅に仏教が伝わったのは6世紀前半のことだった。たぶんここでもいくつもの争いを経たあげく、王家は全面的にこれを受け入れ、国の力で仏国寺を創建した。2百年ほどして大幅に拡張されて8百年間はその規模を維持したが、前に述べたとおり日本軍によって焼かれた。

 新羅の王にとって、あるいは大和の王にとって、仏教はどこまで自分自身の切実な信仰だったのだろう。もちろんこれは個人差がある。形式的な帰依に終わった者も少なくはなかっただろう。それでも仏教は都の雰囲気を一変させた。日本史でもそこまではわかる。だが、列島で信仰が大衆化したのはずっと後の時代のことだった。韓ではそうではなかったらしい。


大使も慶州の仏国寺に行ったことがあるのだが…
池沢さんのような探訪記を綴るのはとても無理。まずは思索を深める必要があるのでしょうね。





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Last updated  2015.01.12 06:26:04
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