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2016.05.15
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『僕の叔父さん網野善彦』という新書を手にしたが…
おお 中沢新一の本ではないか♪ 最近読んだ『東方的』という本が良かったので、この本もいけるかも。



網野2

中沢新一著、集英社、2001年刊

<「BOOK」データベース>より
日本の歴史学に新たな視点を取り入れ、中世の意味を大きく転換させた偉大な歴史学者・網野善彦が逝った。数多くの追悼文が書かれたが、本書の著者ほどその任にふさわしい者はいない。なぜなら網野が中沢の叔父(父の妹の夫)であり、このふたりは著者の幼い頃から濃密な時間を共有してきたからだ。それは学問であり人生であり、ついには友情でもあった。切ないほどの愛を込めて綴る「僕と叔父さん」の物語。
【目次】
第1章 『蒙古襲来』まで(アマルコルド(私は思い出す)/民衆史のレッスン ほか)/第2章 アジールの側に立つ歴史学(『無縁・公界・楽』の頃/若き平泉澄の知的冒険ー対馬のアジール ほか)/第3章 天皇制との格闘(コミュニストの子供/昭和天皇に出会った日 ほか)/終章 別れの言葉

<読む前の大使寸評>
最近読んだ中沢さんの『東方的』という本が良かったので、この本もいけるかも。

rakuten 僕の叔父さん網野善彦


中沢さんと網野善彦の出会いあたりが語られています。
p10~14
<アマルコルド(私は思い出す)> より
 網野善彦は私の叔父にあたる人であった。正確に言うと、私の父親であった中沢厚の妹にあたる真知子叔母の結婚した相手が、当時はまだ駆け出しの歴史学者だった網野さんだったのである。二人は渋沢敬三の主催していた常民文化研究所で知り合ったのだ、と聞かされていた。

 「レンアイケッコン」という言葉が、何度もみんなの口から出てきていた。その言葉が口にされるたびに、あたりに甘い香りが漂ってくるのを、まだ幼い私でも感じることができた。

 祖父が早く亡くなったしまっていたために、父の兄弟たちは真知子叔母のことを父親がわりになって、かわいがっていた。そのかわいい妹が、少し遅咲きだったが結婚するのである。とりわけ私の父などは民俗学の研究をしていたから、常民文化研究所の動向には並々ならぬ関心を寄せていて、そこの仕事のお手伝いに入った妹が、同じ山梨県の出身で、中世の荘園や漁業史の古文書に埋もれながら研究生活を送っている網野さんと結ばれたことが、よほどうれしかったとみえて、二人がはじめて山梨の実家に挨拶にやってくる日の朝などは、めずらしく私におめかしをさせたあと、いそいそと一人で駅へ迎えに出かけていった。

 私はといえば、さわやかな初夏の朝なのに、気分はまったく沈んでいた。あれは1955年の5月のことだったから、私はもうすぐ5歳だった。ひどく人見知りをする性格で、退陣恐怖症の気味もあった。他人が自分に視線を送っているのに気づくと、もうそれだけで頭に血がのぼって、顔が真っ赤になってしまうのである。どちらかというと、一人で遊んでいるほうが好きだった。だから初対面の人などはまっぴらごめんな気持ちだった。

 それなのに、私は東京のいとこのお古のビロードの上着を着せられて、玄関先に座って、叔母さんの結婚相手を笑顔で迎えなければならないのだ。祖母たちは、先方は井ノ上村の網野銀行のご子息で、とても上品な方なのである、だからいつものような品の悪いおちゃらかしを言うものではな、ととくに私には厳重に言い含めていた。まったくこんな気持ちのいい朝に、迷惑なお客さまだこと。私は内心むくれていた。

 30分ほどして、父親が上機嫌で戻ってきた。そのあとから、ちょっと恥ずかしそうにしながら、叔母が入ってきた。それから大きな黒いかばんを手に提げた、異様に背の高い若い男の人が、少し緊張した顔つきをしながら入ってきた。まずいことにその瞬間、私はその男の人とばっちり視線が合ってしまったのだ。しかい、不思議なことに私は狼狽して真っ赤になったりしなかった。それよりも、その男の人の大きいことにびっくりしてしまったのである。

 私は挨拶もそこそこに、急いで母親の背中に隠れて、その耳元にこうささやいた。
 「あの人はアメリカ人?」それを聞いてみんなが笑った。
 「こちらが網野さんよ」と叔母から紹介されたその人は、背丈が立派であるばかりではなく、とても鼻が高く、ハンサムだった。だから私はてっきりアメリカ兵だと思ってしまったのである。その頃はまだ、ジープに乗って田舎道を走り抜けていくアメリカ兵の姿を見かけることがときどきあった。

 初対面にもかかわらず、網野さんと私はすぐに仲よしになった。深い井戸の底から響いてくるような上品な声も好きだったし、大きな目玉をギョロギョロさせながら、子供たちの遊びを興味深げに眺めている、優しい姿も好きだった。年上の姉たちは、「アミノ酸、アミノ酸」と言っては、げらげら笑っていた。

(中略)
 この最初の出会いの日から、私と網野さんは、人類学で言うところの「叔父ー甥」のあいだに形成されるべき、典型的な「冗談関係」を取り結ぶことになったわけである。この関係の中からは、権威の押しつけや義務や強制は発生しにくいというのが、人類学の法則だ。そして、精神の自由なつながりの中から、重要な価値の伝達されることがしばしばおこる。こうしてそれ以来40数年ものあいだ、私たちのあいだにはなによりも自由で、いっさいの強制がない、友愛のこもった関係が持続することになった。


『僕の叔父さん網野善彦』1

『東方的』4
『東方的』3
『東方的』2
『東方的』1





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Last updated  2016.05.15 00:02:44
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