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2016.08.18
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カテゴリ: 気になる本
図書館で村上龍著『すぐそこにある希望』という本を手にしたが・・・・
「カンブリア宮殿」やサッカーのような話題が多いのだが、創作ノウハウを知りたいわけでおます。



村上

村上龍著、ベストセラーズ、2007年刊

<「BOOK」データベース>より
自殺、格差、老後の不安…どうやって生きのびるか?村上龍の体感エッセイ’05→’07。

【目次】(「BOOK」データベースより)
クール・ビズと経済制裁/貧乏な老人はどう生きればいいのか/北朝鮮コマンドの「文脈の断片」/「この程度」の外交能力/現代を象徴するキーワードは「趣味」/「微妙な違い」が差異のすべて/「戦争概念」の変化/ライブドア事件と大手既成メディア/民主党と永田元議員の悪夢/大手既成メディアが滅亡する日/「カンブリア宮殿」と「成功者」/攻撃とリスク(ドイツW杯1)/惨敗は洗練と閉塞の象徴(ドイツW杯2)/北朝鮮のミサイルで大騒ぎ/日本はハワイを買えばよかった/レバノン侵攻より梅雨明けが重要なのか/北朝鮮が核実験をした、らしい/ソウル明洞の屋台で考えたこと/国家と個人の優先事項/『半島を出よ』の亡霊のような影響力/「もっと多く救えたはずだ」とシンドラーは…/不祥事で、会社経営者はなぜペコペコ謝るのか/「NO」にあたる否定語がない日本/「どう生きるのか」という問いのない社会

<読む前の大使寸評>
「カンブリア宮殿」やサッカーのような話題が多いのだが、創作ノウハウを知りたいわけでおます。

rakuten すぐそこにある希望


村上龍の文体論を見てみましょう。
p163~165
<『半島を出よ』の亡霊のような影響力>
 わたしは新連載を書くに当たって、『半島』と同じように、すべてを箱根の別荘で書くと決めていた。『半島』の脱稿からちょうど1年後に連載は始まったが、当初予定通り箱根に閉じこもってその月の連載分を書いた。まとまった期間箱根に入ることができない月は休載にしてもらった。そういった書き方が間違っていたわけではない。だがわたしは当然のことのように、箱根以外ではこの作品は書けないと思い込んでいたのだ。

 まさにそういうことが『半島』の影響だったと気づくのにさらに半年かかった。またわたしは新連載を始める前に膨大な量の資料を読もうとした。新連載の作品に必要だと思われる資料を片端から揃え読んでいった。資料を読んだことがムダだったと思っているわけではない。しかしわたしは、「ごく当然のことのように」ものすごい量の資料を取り寄せ読んでいったのだが、そういう態度にしても『半島』の影響下にあるのだと気づかなかった。

 さらにわたしは新連載の小説には「あたらしい文体」が必要だと思い込んでいて、いろいろな文体を試した。『半島』を書いている途中、シーホークホテルでの戦闘シーンで、非常に奇妙な文章を書いた。その戦闘シーンはむずかしくてそれまで自分が獲得したありとあらゆる文体を駆使しなければならなかった。もう使える文体がないとわかったあと、さらに面倒くさい別の戦闘シーンが待ち受けていて、手持ちの文体が底をついたために、脳が過剰な状態になり今となっては思い出せない変な文体で、ある人物の行為を描写した。

 その文章は自分でも興味深かったが、『半島』全体のムードを壊しかねないものだったので、もうろうとした頭で、惜しいな、とか呟きながら文章そのものを消去してしまった。

 その文章を残しておけばよかったと新連載を始めるときに何度も思った。そしてその変な描写を新連載で試したがうまくいかなかった。理性で考えて書けるようなものではなかったのだ。意味が通じるか通じないかギリギリのところにある、目眩がするような文章だったような記憶があるが、今となってははっきりしない。

 文体は考えて考案できるものではない。作品が要求する文章の質をギリギリまで高めようとしてあがいているときに、無意識の領域から何かが浮かんできて、それを捉えることがでえきたときに、文体が誕生する。


もうひとつ、村上龍の問題提起を見てみましょう。
p198~201
<「どう生きるか」という問いのない社会>
 テレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で最後にゲストに対し「あなたが考える人生の成功者の条件を一つ挙げてください」と聞いている。わたしは成功したと思っていないと答えるゲストもいた。実はわたしも、自分が成功したとは思っていない、というか、そんなことを考えてもまったく意味がない。

 自分は成功者だと思うヒマがあったら、資料の1冊でも読んだ方がいいし、成功したぞ自覚すると危機感が磨耗する危険性もある。

 わたしが「人生の成功者」について質問しているのは、子どもや若い人たちに「成功者」の定義を正確に伝える必要があるのではないかと思うようになったからだ。誰だって成功した人生を送りたいと思っているはずだ。人生の失敗者になりたいと思う人はいない。子どもや若い人は、人生の敗残者になるのをひどく恐れる。しかし今の日本社会には正確な「成功者」の定義も正確なイメージもない。

 お金があって、健康で、いい友だちがいっぱいいて、他人から尊敬されて、幸福な家族に囲まれて、いい趣味をいくつか持っていて、みたいな感じの曖昧なイメージが漂っているだけだ。

 それでは、お金がどのくらいあれば「成功者」と言えるのか、何とか食べていけるだけあればいいのか、長者番付に載るくらい必要なのか、自家用ジェット機が買えるくらい必要なのか、わからない。それがわからないと、子どもや若い人はどういう風に努力をすればいいのかがわからなくなるのではないだろうか。いい友だちがいっぱいいて、というが、それでは「いい友だち」とはどう定義するのか、いっぱいとは何人くらいいればいいのか、すべてが曖昧だ。

 教育再生会議をはじめ、社会的規範や規律の重要性の指摘は多いが、「どういう風に生きればいいのか」という本質的な問いへの言及はほとんどない。

 親や教師を殴ってはいけない、校庭にバイクを乗り入れてはいけない、煙草を吸ってはいけない、などと「・・・・してはいけない」という禁止項目がいろいろと挙げられているだけで、「どうやって生きていくのか」という問いも、その答えも、議論すらもないように見える。近代化途上では自明のことだった。「近代化に尽くす」生き方をすればよかったし、それは実際に合理的だった。

 教育再生会議の委員たちや、文部科学省の役人や、メディアや、教師や、大人たちは、子どもたちに対し、どうあって欲しいと思っているのだろうか。どんな子どもが望ましいと考えているのだろうか。たぶん、理想の子どものモデルを示すことはもう無理なのだ。「どうやって生きていくか」は規範ではなく戦略の問題だ。戦略の論議がなく規範だけが求められることと、自殺の蔓延は無関係ではないとわたしは考えている。







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Last updated  2016.08.18 00:02:58
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