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2016.11.12
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カテゴリ: アート
図書館で『氷山の南』という厚めの本を手にしたのです。
池澤夏樹さんの長篇小説といえば、『カデナ』以来となるのだが…読んでみるか♪



氷山

池澤夏樹著、文藝春秋、2012年刊

<「BOOK」データベース>より
2016年1月、18歳のジン・カイザワは、南極海の氷山曳航を計画するシンディバード号にオーストラリアから密航する。乗船を許されたジンは厨房で働く一方、クルーや研究者たちのために船内新聞をつくることに。多民族・多宗教の船内で、ジンはアイヌの血という自らのルーツを強く意識する。女性研究者アイリーンとともに、間近で見る氷山に畏怖の念を覚えるジン。真の大人になるための通過儀礼を経て、プロジェクトに反対する信仰集団と向き合う。このプロジェクトの行方は…。21世紀の冒険小説。

<読む前の大使寸評>
冒険小説というマイナーなジャンルであるが、たまには夢を見たいではないか。
池澤さんの長篇小説といえば、『カデナ』以来となるのだが…読んでみるか♪

主人公の18歳のジンはアイヌの血が混じる青年で、少数民族交換事業の一環でニュージーランドで学んでいたという設定である。
英語がペラペラの18歳のアイヌ系日本人というのはなんだか没入できないところもあるが・・・そんなのは読者の狭量なのかも。

rakuten 氷山の南


オーストラリアの港町の画廊で、アボリジニの絵をみていたら、その絵の画家(アボリジニ)が、ジンに話しかけるという導入部が印象的である。

アボリジニドリーミング

この小説の語り口を、ちょっとだけ見てみましょう。
p361~366
 「ドリーミングはカントリーの中を移動し、そうやって世界を創造した」とトミーじいさんが言った。
 「ドリーミングって、夜寝て夢を見ることですか?」
 「いや、ドリーミングは創造主だ。彼らが世界を造ったし、造っているし、われわれがきちんとしていれば、将来も造る」

 ドリーミング
 カントリーに続いてまたむずかしい言葉がでてきた。
 一応は英語だけれど、アボリジニの人たちとのとても抽象的な概念をなんとか英語に当てはめたのだろう。だから英語として考えても意味がつかめない。

 「ドリーミングはずっと動いている。世界があるかぎり彼らが停まることはない。だから人間も動いている。カントリーの中を動いて、いくつもの景色を目で見て、耳で聞いて、風を肌に感じて、匂いを嗅いで、そうやってカントリーとつながっていなければならない」
 「カントリーのために?」
 「カントリーと自分たちのために」
 「絵を描くんだってそうなんだよ」とジムが言った。「絵に描くことでカントリーを人間たちのものにする。そうやってカントリーを元気づける」

 「それじゃ、カントリーは人間は人間の働きかけに応じるの?」
 「そうだ」とトミーが言う。「川に行って釣りをするだろう。その時、人は川に向かって歌を歌って、魚を授けてくれるように頼む。川は人が来たことを喜び、人に魚を与えてくれる。どちらもがハッピーになる」

 「そのためにはまず川まで行かなければならないのさ。川を見なければならないのさ」とジムは言った。
 「わしは英語で聖地という言葉があるのを学んだ」とトミー・ムンガが続ける。「しかしその意味がよくわからなかった。どうして白人の世界には聖地があんなに少ししかないのか。すべての土地は無数の聖地で覆われている。わしらはそんな風に考えるんだ」
 少しわかってきた。

 「トラックというのもあるよ」とジムが言う。「道筋。これもカントリーやドリーミングと同じように大事な言葉だ。ぼくたちが移動した跡がトラック、ドリーミングが移動する道がトラック。カントリーの中には無数にトラックが走っている。そこを人はいつも行き来してカントリーの幸福をはかる。そうするとカントリーも人間の幸福を考えてくれる」

 「カントリーは世界なの?」
 「世界の一部、わしらの住む部分だ」
 「じゃ、他の人のカントリーに入ってはいけないわけ?」
 「ああ、それこそ白人の考えかただな。柵を作ってその中は自分の土地だから他人は入ってはいけないと言う。そういう考えがどうしても理解できなくてアボリジニはすたすた彼らが作った柵の中へ入っていって、それで殴られたり時には殺されたりした」
 「不法侵入?」
 「そう言われた。どこにせよ人が歩くことを禁止する法があるとはわしらにはわからん。わしらの考えではカントリーには境界はない。むしろ、たくさんの人たちが歩かないとカントリーはやつれてしまう。わしらは自分たちのカントリーだけでなく、別のカントリーもたくさん歩く。言ってみればあっちの人とこっちの人でカントリーを交換するんだ。カントリーを元気にするために」

 「いろんな道筋(トラック)が交差するところがみんな聖地だと想えばいいよ」とジムが言う。「トラックの網の目が大地ぜんたいに広がっている」
 「そこをいつも人は歩いているわけ?」
 「それが人が生きるということで、世界があるということだから」
(中略)

 カントリーと自分はいい仲だ、と思った。ここまでやってきてよかった。ジムの誘いの絵はがきに応じてよかった。
 でも、自分はこの先どこまで行くんだろう?
 北海道からニュージーランド、南極、そして今はここ。行き詰るたびに先が開けた。それを繰り返してここまで来た。遠くが見えている時もあったし、目の前が壁という時もあった。あのワシかタカにはいつだって遠くが見えているのだろうが人間はそうはいかない。

 ここまでは運がよかった。
 でも、なんでこんなに動いているんだ?
 そこで、唐突に、自分が持っているもののことを思い出した。ムックリを入れたアルミのチューブの底に押し込んである小さな隕石。
 あれはもっと遠い旅をしてきたんだ。

池澤さんはアボリジニの芸術を (終わりと始まり) 人と土地をつなぐ神話 として語っています。

『氷山の南』1





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Last updated  2016.11.13 06:29:21
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