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2016.12.04
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カテゴリ: カテゴリ未分類
図書館で『戦争画とニッポン』という本を手にしたのです。




戦争画

椹木野衣×会田誠著、 講談社、2015年刊

<「BOOK」データベース>より
70年目の「戦争画」と向き合う。たんなる研究や評論だけでは決して割り切れない、絵描きならではの宿命。
【目次】
太平洋戦争の記憶/暗い叙情/70年目の「戦争画」/やさしい戦争画/藤田嗣治の巨視的視点/裸婦と戦争画/画家たちの歴史/近代の超克/頭蓋骨が描けないと/肉が足りない/国家とモニュメント/美術家の節操/戦争画のDNA/もうひとつの戦争画ーある画家の絶筆を訪ねて/再録 陸軍派遣画家ー南方戦線座談会/作品解説

<読む前の大使寸評>
戦争画といえば、その存在自体がキワモノあるいは傍流であるが・・・興味は尽きないのです。

rakuten 戦争画とニッポン


戦争画といえば、藤田嗣治の《アッツ島玉砕》などが想起されるが・・・
この絵で戦意高揚できるのか?と思ったりするわけですね。
そのあたりについて、お二人が語っています。
p38~40
<藤田嗣治の巨視的視点>
アッツ島玉砕アッツ島玉砕 1943年

ハルハ喀爾喀河畔之戦闘 1941年

椹木: 改めて、当時の戦争画を見てみても、やっぱり藤田は他の画家たちとは明らかに違いますね。今話に出た《アッツ島玉砕》もそうですが、サイパン島での住民まで巻き込んだ玉砕図《サイパン島同胞臣節を全うす》では、バンザイ・クリフから飛び降りて自決するところまで描いています。今回はふだんあまり出ないニューギニアの死闘のほうを載せました。

会田: 先ほど「暗い叙情」と言いましたが、僕には太平洋戦争に対して漠然と抱いていたイメージがあって、それはひと言では言い表せない、非常に混沌としたものなのですが、最初に《アッツ島玉砕》を見た瞬間に、「ああ、これは近いかもしれない」と思いました。

椹木: 《アッツ島玉砕》をはじめとする一連の藤田の「玉砕図」は、見方によっては「反戦画」と言ってもおかしくないくらい、厭戦的な気分が漂っていますよね。あれを見て誰も、こんなふうにむごたらしく死にたいとは思わないでしょう。当時、《アッツ島玉砕》を実際に見た野見山暁治さんも、藤田の戦争画は「戦争がすべてを奪って死の世界へ引きずり込むようなまさしく反戦的な雰囲気を醸し出していた」と書いています。

会田: 前にどこかで書きましたが、あのやるせない暗さ、そこに蠢くパッション、根深い日本人の血、近代戦の理不尽な死・・・・そういったものすべてをひっくるめて、「人間の宿あとしての戦争」のどうしようもなさが描かれているように思いました。戦場のひとコマを描いたスナップ的でレポート的な戦争画が多い中、藤田だけは太平洋戦争全体を総括するような、巨視的な視点を持ち得ているように思います。

椹木: 東近美所蔵の藤田の戦争画の中に、ノモンハン事件を描いた《喀爾喀河畔之戦闘》という作品があるのですが、ご覧になったことがありますか?日本兵がソ連の戦車を果敢に攻撃している勇ましい絵なんですが、実は藤田はもう一枚、同じノモンハン事件を題材にした絵を描いていたという話があります。

 終戦の混乱の中で行方不明になったとされる作品ですが、そこに描かれていたのは、ソ連の戦車が容赦なく日本兵をひき潰し、多くの兵隊が轢死している場面だったというんですよ。

会田: それは軍から正式に委嘱された戦争画ではないわけですよね?

椹木: ノモンハンを指揮した荻洲中将が、個人的に藤田に依頼したと言われている作品で、2003年に放映されたNHKの番組「さまよえる戦争画」では、荻洲中将の四男が登場して、荻洲家にあったというその絵を描写しています。

 番組のディレクターだった近藤史人氏が著わした『藤田嗣治「異邦人」の生涯』によれば、それは「巨大なソ連の戦車から絶え間なく銃弾が降り注いでいる。阿鼻叫喚の声を上げる日本兵。死体は累々と積み重なっている。その死体の山を踏みつぶしていくソ連の戦車・・・。凄惨きわまりない戦争の実像」を描いた絵だったといいます。

会田: 軍は、絶対死者を描くなと言っていたのに、なぜ、藤田だけは許されたんでしょう。

椹木: 陸軍美術協会の初代副会長は藤島武二ですが、藤島が43年に没した後、その職を継いだのは藤田でしたからね。トップが描くぶんには、簡単に批判できない雰囲気があったのかもしれません。あとは単純に受けがよかったという可能性もあります。

会田: 藤田はやっぱり、フランスで成功した人だから、芸術家として矜持もあったんでしょうね。芸術家たる者そこらの役人や軍人の言うことなどへいこら聞くものか、という態度が身についていたんじゃないかと。

椹木: 前述したノモンハンの絵や《アッツ島玉砕》などもそうですが、藤田は一旦、軍の意向に従って戦争画を引き受けたうえで、誰よりも熱心に戦争画に取り組む姿勢を見せ、ちょっと周囲が口を挟みにくい雰囲気を作っておいて、他の人では許されない絵をあえて描いた可能性もあるんじゃないかと思うんです。岡本太郎が大阪万博に関わったのと、ちょっと似ているかもしれません。

会田: 一方で戦時中の美術雑誌なんかの座談会では、身も蓋もないほどの軍国的な熱い言葉を並べていますよね。

椹木: それが裏目に出て、戦後は風当たりが集中して、挙げ句の果てにおまえが全部責任とればよいっていうことにまでなって、日本から出ざるを得なくなっちゃったわけだけども。顛末も含め、やはり藤田は面白いですよね。

会田: あの矛盾というかギャップはすごいです。ちょっと、変わった人だったんだろうなとか思いますけど(笑)。

椹木: 局面ごとになりきるタイプですね。

会田: だから、こうと決めたら髪型も変わるし、戦争画を描くと五分刈りになって、軍服着て敬礼してとか。

椹木:

会田: 前にふと思ったんですけれども、藤田の玉砕図のぐちゃぐちゃぶりに、僕は何となくアンフォルメル的なものを感じるんです。戦後、フランスではアンフォルメルが出てきますよね。藤田は長年パリにいたので、パリの美術界のノリとか、その後の方向性とか何となく体感的に察知していたんじゃないかな、と。


この本の今日的意味について、「まえがき」を見てみましょう。
p2~4
<生々しい21世紀という「今」:椹木野衣>
 戦後70年の年に、日本の戦争画ともう一度、向き合いたかった。思い起こせば、私が物書きとしてよちよち歩きを始めた頃から、「戦争」は、自分の批評にとって秘密の入口としてあった。

 ちょうどその頃、アメリカとソ連からなるふたつの超大国が、それぞれ敵に核兵器を向けてにらみ合う東西冷戦が、ベルリンの壁の崩壊によって、いよいよ終焉の時を迎えようとしていた。自由主義と共産主義の対立が解消されれば、5大陸は自由の気運に包まれ、民主主義が世界の津々浦々まで浸透し、血で血を洗う凄惨な争いごとの火種もなくなる・・・激動の世界史は、ついに終りを迎えるのだ。そんな楽観的な予測が、「歴史の終り」という標語とともに一瞬、浮上したりした。

 が、ことはまったく裏腹に進んだ。私たちがその直後から目の当たりにすることになったのは、アラビア半島の一角にあるクウェートに、ある日突然、イラクが軍事行動に打って出る姿だった。イラクの侵攻を食い止めるため、アメリカを中心とする先進的な民主主義国家が、久しく使われることのなかった最新兵器を駆使し、ベトナム戦争以来の実戦へと突入することになる、それは子どもの頃から言葉でしか聞いたことのなかった本物の戦争(湾岸戦争)の勃発だった。

 まもなく、バルカン半島も血みどろの内戦に突入。NATO軍が介入して空爆を繰り返し、豊かだった旧ユーゴスラビアの国土は、宗教や民族の対立を巻き込んで、終わりのない泥沼の様相を呈した。2001年の9月11日に、ニューヨークで同時多発テロが勃発すると、アメリカはすぐに「対テロ戦争」を宣言。まもなく本格的な戦争(イラク戦争)となり、数えきれないほどの市民が命を落とした。その影は、現在のウクライナ紛争やシリアの内戦、イスラエルによるパレスチナの隔離、さらにはISIL(イスラム国)の台頭によって、ますますその血腥さの度合いを増している。結局、世界は、ふたたび戦火に包まれたのだ。

 こうして私たちは、新たな戦火のもと、奇しくも戦争画について別の角度から考える機会を与えられた。かつてなら、まだお目に掛かる機会そのものが乏しかった日本の戦争画についてわかりやすく紹介したり、秘匿された過去の遺物という位置付けから掘り当て、実証的に研究したりすることが、急を要する課題であった。

 しかし、私自身が編集委員の一員として加わった『戦争と美術1937-1945』(国書刊行会)を始めとして、そうしたたぐいの本は、近年、ずいぶん見掛けるようになった。まだ十分とは言えないけれども、153点の戦争画を所蔵(アメリカからの無期限貸与)する東京国立近代美術館も、それらの絵の展示に(まだまだ限定的ではあるけれども)、以前とは比較にならないくらい時と場所を割くようになった。

 だからこそ、私たちに今必用とされているのは、自国の戦争画と向き合う、これまでとは異なる新しい態度なのではないか。日本の戦争画を、過去の過ちとその反省のための材料や、その裏返しでしかない美術史的な再評価といった次元を超えて、硝煙の匂いさえ漂い始めた、生々しい21世紀という「今」の中で、あらためて考えてみる・・・それが、私たちに切実に突きつけられている、真の課題なのではないか。そのように思うのである。


この記事も 藤田嗣治アンソロジー に収めておきます。





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Last updated  2016.12.04 08:19:39
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