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2017.02.03
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カテゴリ: 中国
大使の新聞スクラップの一つに池澤夏樹さんの(終わりと始まり)シリーズがあるのだが・・・
そこに載っていた「漢字の来し方行く末」がええでぇ♪ということで、紹介します。

坊主憎けりゃ、袈裟まで憎し、というか・・・とにかく中国で使われる簡体字が嫌いな大使である。
簡体字


(終わりと始まり)漢字の来し方行く末 より
 先日、自分が書いている小説の中で、ある男が中国人であることを伝えなければならなくなった。主人公との出会いは一瞬で会話はない。服装や容貌(ようぼう)をしっかり見る暇もない。

 その場に男が書いたメモが落ちていたことにした。「●●●●●(職員駐車場の簡体字表記)」と書いてある。「職員駐車場」の意だが、五字とも中国のいわゆる簡体字。

アルファベットは世界の広い範囲で使われているが、簡体字の漢字を使うのは中国とシンガポールなどに限られる。
 昨今、日本でもテレビの旅行番組などでこの文字を見かけることは少なくないけれど、我々は使わない。


 文字というものの発明に改めて感心する。声に乗って空中を漂ってすぐに消えるものだった言葉が、粘土や木片や石や紙の上に定着できるようになった。そこで記憶が記録に変わった。

 はじまりは帳簿だったか呪術だったか。公的な用途ばかりで私的な使用が始まるのはずっと後のことだ。

     *
文字には表音と表意がある。
 人体が声帯と咽喉と口腔で作れる音にはかぎりがあるから、表音文字の数はさほど多くはならない。七、八十もあればまず充分。

 しかし意想の方は無限に多い。だから表意文字はいくらでも増え、どんどん複雑になった。表意文字は文字であると同時にそのまま単語なのだ。


 世界ぜんたいを見て、繁栄した表意文字は漢字だけらしい。中国に生まれた漢字は日本や朝鮮や越南(ベトナム)に伝わり、異なる言語を記述するのに使われた。マヤの文字はマヤ文明と共に消えてしまった。

 文字としては煩雑なので筆などで急いで書く時は細部を略す。しかし公式の文書では一画ずつを丁寧に美しく書く。そこから崩すのは自由だが、基本は楷書。

 その状態が何千年も続いたのに、二十世紀に入ってなぜ漢字の簡略化が図られたのだろう? 知識の大衆化?

 日本は仮名という表音文字も併用してきたから、漢字の数を制限することができたが、中国には漢字しかない。そこで彼らは文字そのものを変えることにした。「廣」という字は複雑すぎるから「广」にしてしまおう。十五画がわずか三画になるが、見た目はすかすか。日本では「広」で、台湾の繁体字は「廣」と昔のまま。

 中国でどんな論議があったかぼくは知らない。政治的なメッセージを書いた大字報(壁新聞)が書きやすいというのが理由だったとも思えない(日本でも学生運動の立て看板には「斗争(とうそう)」のような文字が踊っていた)。

私用の略字を公用の文字に反映させて文字体系を変えてしまってよかったのか。伝統との断絶ということは考えなかったのか。植字工の作業において、「廣」でも「广」でも活字一本を拾う労力に差はないのだが。

 簡体字が普及した後でコンピュータが登場した。活字の場合と同じでここでも廣と广の間に手間の差はない。もう我々は文字を書くのではなく打ち込む、ないし入力するのだから。


     *
 漢字改革は日本でも行われた。

 戦争に負け、何もわかっていない占領軍の連中が漢字こそが日本の後進性の理由だと誤解したとしても、そんなものは突っぱねればよかった。

 これが中国の場合ほど徹底しなかったのは、中途半端を好む日本人の性格のおかげかもしれない。

 吉行淳之介さんがどこかで、戻るという字は中が犬だから実感があったのに、それが大になってしまってつまらない。と言っていた。手で「戻る」と書いて、犬を書くところで勝手に遊びに行った犬が戻ってくるという情景を人々は一瞬だけ想像した。そもそも、戻と●(戻の大が犬)、一画だけ節約してどんな利があるというのだろう。なんともみみっちい話だ。

 文字を統括するのは度量衡や法律などと同じく権力者の権能である。だから近代の漢字の基準は清朝の最盛期に康熙帝の指示で作られた康熙字典だった。

 文字を改めるのはリスクが多い。朝鮮のハングルはまこと優れた表音文字だが、それだけを用いるか漢字も併用するかで今も議論が続いている。ベトナムは漢字を捨ててアルファベットにしてしまった。ホーチミンが元は胡志明であったことを知る人は少ない。

 ひらかなとカタカナと漢字を使う日本語の表記法は複雑で、習得には手間がかかるが、しかし利点も多い。意味を漢字で表し、発音をふりがなにすると方言などがうまく伝わる。その他さまざまな利用法を駆使して我々はずいぶん豊かな言語生活を送っている。

歴史はもとに戻せない。コンピュータの出現は予想できなかったとしても、中国は拙速に走って何かを失った気がする。 同じことは我が国の仮名遣いについても言えるのだが。

アレ? 楽天が「广」という簡体字を受け付けてくれたなあ…どういう基準になっているんだか?
紙のスクラップとWebデータとで、重複保管になるのだが、ま~いいか。





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Last updated  2017.02.03 06:02:52
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