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2018.08.31
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『全身翻訳家』という文庫本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると、映画好きで、世界の酒が好きな鴻巣さんが見えてくるわけで・・・いけてるでぇ♪






鴻巣友季子著、筑摩書房、2011年刊

<「BOOK」データベース>より
食事をしても子どもと会話しても本を読んでも映画を観ても旅に出かけても、すべて翻訳につながってしまう。翻訳家・鴻巣友季子が、その修業時代から今に至るまでを赤裸々かつ不思議に語ったエッセイ集。五感のすべてが、翻訳というフィルターを通して見える世界は、こんなにも深く奇妙でこんなにも楽しい。エッセイ集「やみくも」を大幅改編+増補した決定版。

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくってみると、映画好きで、世界の酒が好きな鴻巣さんが見えてくるわけで・・・いけてるでぇ♪

amazon 全身翻訳家



鴻巣さんが南アフリカのアパルトヘイトを語っているので、見てみましょう。
p219~222
<たがいの物語を聴く>
 小説家・中島京子さんの紹介で、南アフリカ共和国のマクシーン・ケイスという新鋭作家の短篇を翻訳した。ケイスは、創作学科の名門アイオワ大学主催の<創作プログラム(IWP)>で中島さんが出会った世界の作家の一人だ。ちなみに中島さんはIWPから帰国後、『小さいおうち』という長篇を書きあげ直木賞を受賞した。

 大規模な反アパルトヘイト運動へと発展した「ソウェト蜂起」の起きた1976年、マクシーンはカラード(混血)の一家に生まれ、思春期までを人種隔離政策下ですごす。住居からバス、飲食店、トイレまで厳しく使用区域が分離され、彼女は幼心に自分たちが「二級市民」であることを肌で感じとっていたという。

 しかし当時、政府の情報操作は徹底しており、各地で暴動の武力鎮圧や市民の虐殺が続いていることは、カナダの知り合いからの連絡で初めて知った。94年、マンデラが大統領になり、アパルトヘイトは撤廃されたが、16年がすぎた今も、南アの社会には過去の差別による深い亀裂が残る。

 2010年夏、米国ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による政治哲学講義が、日本でも話題になった。NHKの「ハーバード白熱教室」と題する番組で講義が放映され、その講義禄『これからの「正義」の話をしよう』は大ヒット。8月末、来日したサンデルによる東大での特別講義をわたしも聴講した。「ソクラテック・メソッド」と称する講義では、教師が一方的に教えるのではなく、聴講者に問題を問いかけて「対話」を重ね、学生同士で話し合いをさせる。議論を通じて実感を得ること、「腑に落ちる」ことが大切という。話が白熱したのは「共同体の前世代による過ちについて後世代は謝罪・償いの責を負うか?」というテーマの時だ。「日本は侵攻した東アジアの国々に今も謝罪すべきか」「現米国は広島・長崎の原爆被害者に償いの義務があるか」
(中略)

 特別講義から帰ったわたしはだれかと対話したくなり、夜更けに思い立って、南アのケイスに長いメールを書いた。サンデルと同じ質問をぶつけてみたのだ。
 「マクシーン、今日は訊きにくいことをお訊きします。過去のアパルトヘイト差別によって黒人とカラードが被った損失に対して、今も、今後も、白人は謝罪と償いの責を負うと考えますか。それらを表するにはどんな方法が最良と思いますか?」

 翌日届いた返信には、インフルエンザで寝込んでいるとの断り書きの後、こう書かれていた。
 「ユキコ、南アの真実和解委員会は、アパルトヘイトの生んだ問題の数々に取り組んできました。公のレベルでは、涙ながらの謝罪があっり、赦しがあったけれど、そんなものは上っ面を軽く引っ掻いたにすぎません。現在も南ア社会では、不平等の多くが広範囲に残り、恵まれた側にいた多くは、アパルトヘイトが存在したことすら意識していない。
 マンデラは故人レベルの小さな痛みは忘れようと言うけれど、公の大がかりな償いのジェスチャーがだれかの為になるのか。賠償を行なえば社会の亀裂を解決することができるのか。また現在、白人の多くが感じている逆差別をどうすべきか。答えは出ません。

 でも私は、南アの中にある別な世界や、異国の異文化の中にいる人たちに、小説を通して自分が育ってきた文化を見せようと思う。どんな『異文化』にも良い面と悪い面があるけれど、たがいの物語を聴く気持ちがあるかぎり、個々人のレベルで心は癒され、考え方に変化が訪れると信じます」

 前世代の過ちの当事者であった、今もそうである人の、毅然として対話に臨む姿勢に、机上の理論を超えた重みを感じつつ読んだ。ケイスは支配者であったイギリスの言葉、英語で作品を書く。アパルトヘイト下の暮らしを、差別や弾圧といった語の一切出てこない静かな日常の物語に昇華する。ある中年男性のささやかな夢と挫折。社会情勢からも人種の観点からも、何もかもが遠い世界の物語が、読み進めるうちに、他ならぬわたしのことを書いたものだと感じられるようになった。まさか何かが「腑」に落ちたのである。小説の普遍性、底知れぬ力に打たれた。


『全身翻訳家』2 :愛しの下高井戸シネマ
『全身翻訳家』1 :酒は深くて容赦がない





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Last updated  2018.08.31 18:54:10
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