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2018.12.28
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『神の火』という本を、待つこと6日でゲットしたのです。
『リヴィエラを撃て』でスパイ・アクションを描いた高村薫の男性的な筆力に驚いたのであるが・・・
このクライシス小説も期待がもてるのである。





高村薫著、新潮社、1991年刊

<「BOOK」データベース>より
軍事施設なみの防護網。完璧にシールドされたコンピュータ制御機器。「不可能」のハードルを越えると、またひとつ「不可能」が二人の前に立ち塞がった…。超話題作『黄金を抱いて翔べ』から1年。高村薫は持ち前の科学知識を総動員して、原子炉に狙いを定めた。比類なきクライシス小説千枚。巨大な構築物に素手で立ち向かう男たちの、見果てぬ夢がここにある―。

<読む前の大使寸評>
『リヴィエラを撃て』でスパイ・アクションを描いた高村薫の男性的な筆力に驚いたのであるが・・・
このクライシス小説も期待がもてるのである。

<図書館予約:(12/15予約、12/21受取)>

rakuten 神の火


読み始めると冒頭から原発の建設現場がでてくるのだが・・・
加圧水型原発に関する用語や、鉄筋コンクリート打設に関する技術用語が続くのです。
もとエンジニアの大使が読んでも、かなりハイレベルの知識が展開されているわけで、著者の広く深い勉強ぶりに、唖然とするのです。

冒頭の語り口を、ちょっとだけ見てみましょう。
p3~8
<プロローグ>
 男は地上20メートルの高さに組まれた単管の枠組足場を登り、一番上の作業床に乗ったところだった。「良ちゃん、寒うないんか」と、先に上がっていた仲間が声をかけた。
 男は、夏も冬も作業着1枚で、安全のために軍手はつけているが、防寒用のアノラックは着たことがなかった。首に巻いたタオルは、夏は汗止め、冬は埃よけのためだが、皆が「日焼け止めか」と笑うとおり、男は、白磁を思わせる白さの肌を持っていた。

 男は事実、寒いと感じたことはなかった。じっとりと湿った空気は、感覚的には「寒い」というより「重い」という方が合っていた。男は、軽く首を横に振った。仲間は「お前は若いさかいな」と吐き捨てて、鼻をすすった。

 建設中の建屋は、すでに屋上まで型枠工事が終わり、その日は午前中に、屋上部分のスラブ配筋を済ませることになっていた。男に割り当てられているのは、鉄筋を種類別に所定の位置に仮置きすることであり、組み立ては熟練者の仕事だった。鉄筋は、場所ごとにフックや折り曲げの角度が違うので、ただ運ぶといっても、それほど漫然とやれる作業ではなかった。だが、そうして歩き回る間、自由にあたりを眺めるぐらいのひまはあり、ただそれだけの理由で、男は高いところへ上る作業を好んだ。

 その建屋は、他のいくつもの棟とつながった巨大な施設の一部にすぎなかった。造成された40万平方メートルの敷地は、まだ大部分、整地もされず、建設中の一群の建屋と工事用の資材倉庫や販場と、林立するクレーンが雑然とした姿をさらしていた。敷地の背後は松と雑木の緩やかな山腹で、正面は、小さな湾を抱いた海だった。その湾は護岸工事の施された真新しい岩壁で囲まれ、北岩壁に作られた荷揚げ場には、800トン用のジンポールが立っている。湾の両側の海岸線は激しく切り立っている岩場になり、北端は音海断崖だ。

 男が立っている建屋は、海岸の岩壁に面していた。南北200メートル、東西50メートルの屋根の下には、やがて、出力百十万キロワットのタービン発電設備が二基据えられることになっている。その建屋から続いた一段低い棟は、同じように型枠工事が終わっているが、そこは大型計算機の並ぶ中央制御室になる。そこから横に広がる大きな建屋は、細かな内部仕切りが造られていて、間もなく各種冷却器や、ほう酸水のタンクや、高・低圧注入ポンプなどが置かれ、数百の配管が走ることになる場所だった。

 そしてその建屋の南北の両端には、半球型の屋根をもつ円筒型の巨大なドームが二つ、そびえ立っていた男がいるタービン建屋からはそれぞれ100メートル以上離れているが、直径45メートル、地上高40メートルのコンクリートの塊は、山側の視界を半分は遮っていた。

 そのドームが完成したのは、ほかのどの建屋よりも早かった。円筒型の側壁に、半球形の鋼鉄製のドームライナーが被せられ、その上にコンクリートが打設されて屋根が出来上がったのは二年も前のことだ。円筒の側壁は今、周囲の足場と緑色の防護ネットで覆われているが、真新しい屋根は、灰白色の特殊コンクリートが異様に白々として美しかった。
(中略)

 湾の彼方に、小さな船が一隻浮んでいた。まるで、灰白色の雲の中から現れたかのようだ。エンジン音はどこか虚空へ流れ、船は一面の雲の海に浮いたまま、ほとんど止まっているように見えた。漁船だろうか。舳先は高浜に向いているが、どこの港を出てきたのだろう。
 正午のサイレンが鳴り渡っていた。配筋の組み立ては、ほぼ終わりかけていた。手の空いた者が、足場を下り始めた。誰かが男の肩に手を置いた。昨日、よその現場から移ってきた男だった。
 「あんた、良さんやろ? 北のトイレで待っとるから」と、その男は呟いた。


『リヴィエラを撃て』4





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Last updated  2018.12.28 01:02:15
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