『ミヤザキワールド』1

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2020.11.05

カテゴリ：アート

図書館に予約していた『ミヤザキワールド』という本を、待つこと1週間でゲットしたのです。
　ハードカバーでぶ厚くて重たい本であるが、冒頭に16ページものカラー画像を配するサービスがええでぇ♪
取りあげた題材が宮崎駿のアニメとあれば、これは読破できるような気がします。

ｽｰｻﾞﾝ･ﾈｲﾋﾟｱ著、筑摩書房、2020年刊

＜「BOOK」データベース＞より
世界を魅了しつづける巨匠の秘密とは?中・韓・ロシア・アラビア語版も刊行される決定版「宮崎駿論」。30世紀の有毒の森、神々が疲れを癒す湯屋、赤毛のさかなの女の子、ふわふわの森の精―これらに共通する要素とは?“アニメ・クイーン”の異名をとる米タフツ大学教授が、アニメーション作家・宮崎駿(1941‐)が手がけた『ルパン三世カリオストロの城』(1979)から『風立ちぬ』(2013)まで11の長編映画と、漫画版『風の谷のナウシカ』(1982~94)を徹底解剖。その人生と芸術との知られざる関わりを解き明かす。映像作品はもとより、膨大な日本語・欧文文献を8年がかりで渉猟、宮崎監督本人とスタジオジブリ関係者への直接インタビュー、大学で教える宮崎駿ゼミでの知見も踏まえ、「闇と光」がせめぎ合う「ミヤザキワールド」の魅力に迫る。日本版オリジナルの序文を収録。

＜読む前の大使寸評＞
ハードカバーでぶ厚くて重たい本であるが、冒頭に16ページものカラー画像を配するサービスがええでぇ♪
取りあげた題材が宮崎駿のアニメとあれば、これは読破できるような気がします。

＜図書館予約：（10/25予約、11/01受取）＞

amazon ミヤザキワールド

「第12章『千と千尋の神隠し』の私的な世界の終り」の語り口を、見てみましょう。

p309～312
　長年にわたって大学で教えていると、学生たちから時折｢一番好きな宮崎作品は何ですか？｣と聞かれることがある。私の答えは、聞かれた時間帯やその日の気分や朝刊で読んだニュースの内容次第でちょくちょく変わる。

　それでも、宮崎の全作品のうち、一貫して私を魅了してきた映画と言えば、2003年のアカデミー長編アニメ映画賞受賞作『千と千尋の神隠し』（2001年公開）をおいてほかにない。この作品には、奥行きの深さ、登場人物への思いやり、そして夢のように不思議な世界観など、あらゆる点でミヤザキワールドの最も魅力的で異彩を放つ要素が凝縮されている。

　大ヒットした大作『もののけ姫』の4年後に公開された『千と千尋の神隠し』は、前作とはスケールも雰囲気もまるで異なる作品となった。実は、宮崎は1998年1月14日付けで一度ジブリを退社していたが、そのわずか1週間後に事実上の｢後継者｣だった近藤喜文監督が47歳という若さで他界したために、急遽現場に復帰することになったのである。

　近藤はスタジオジブリを21世紀へと導く新世代の監督として期待されていた人物だった。つまり、『千と千尋の神隠し』は、ジブリが幾分混乱状態にある中で生み出された映画であり、それは作品自体の時に混沌とした内容にも反映されているように思える。それでも、私の考えでは、緊迫した物語展開、豊潤な映像美、そして真の独創性といった点から見て、本作は宮崎の全作品の中で最高傑作とは言わないまでも、その有力候補の一つに挙げられることは間違いない。

　『もののけ姫』と同様、『千と千尋』もまた日本で大ヒット作となり、しかも前作よりも海外でははるかに多くの観客を集めた。この映画は、魔法にかかった両親を救うことを誓う千尋という少女の成長物語で、ファンタジーと心理的リアリズムを見事に融合させた傑作である。宮崎の鮮やかな演出がアニメのファンタジー世界を支えており、そこでは赤と青の色彩が渦を巻き、ある時は眩いほど華やかに、そして別の時には黄昏時のようにうっすらとした色合いの映像が展開される。

　映画の型破りな舞台･･･高くそびえ立つ赤い湯屋（銭湯）に支配された魔法の村･･･に命を吹き込むのも、優れたアニメーション技術のなせる業だ。この湯屋は｢八百万の神様たちが疲れを癒やしに来る｣場所である。神々は浄めとくつろぎ、それに美味しい食事を求めてここにやって来る。彼ら自身も骨休めのために来た湯屋と同じくらい、奇妙で記憶に残る存在ばかりである。

　また、湯屋にはスタジオジブリを彷彿とさせる面もある。従業員の男女は常に仕事に追われてピリピリしており（映画の中では男は蛙、女はナメクジの化身という設定になっている）、それ以上に酷使されている下っ端の労働者に『トトロ』でも活躍したススワタリがいる。その再登場の仕方は印象的かつコミカルで、ペチャクチャしゃべくり、喧嘩をい、仕事をさぼる様子まで人間そっくりだ。

　湯屋の経営陣も、さらに輪をかけて異彩を放っている。経営者の湯婆婆は、従業員に対しては口うるさくて厳格な上司だが、顧客にはもみ手をせんばかりの愛想の良さを示す。普段は湯屋の最上階にある贅沢に飾られた複数の部屋に住み、夜になると怪しげな任務のために外に飛び去っていく。湯屋の謎めいた番頭はハクというハンサムな少年で、実は湯婆婆から魔法を学ぶためにやって来た川の神であり、結局彼女に支配されるようになってしまったことが後に判明する。

　最後に、湯屋の最下層にあるボイラー室に潜む釜爺という老人がいる。六本の腕を持ち、湯を沸かしたり薬湯を調合したりする作業を担当する人物で、その存在なしには湯屋の商売は成り立たない。

　宮崎は、湯婆婆はプロデューサーの鈴木に基いたキャラクターであると冗談交じりに語ったことがある。確かに鈴木は仕事柄、時折（渋々か嬉々としてかは不明だが）スタジオの外に出掛けては興味深そうな仕事をしてくることがある。もっとも、宮崎はその後すぐに、湯婆婆は実際には鈴木と自分を組み合わせたようなキャラクターであることを認めている。

　また、湯婆婆には銭婆という別人格のような双子の姉がいる。銭婆は恐ろしい能力を持つものの実際には心優しい人物で、おとぎ話に出てくるような魅力的な一軒屋に住んでいる。湯屋のバタバタした日常から遠く離れた場所で、銭婆は訪ねてきた千尋たちをお茶やケーキでもてなすのである。

　宮崎自身にも唐突にスタッフを怒鳴りつけ、その後すぐに謝罪する傾向があることから、湯婆婆と銭婆は彼の性格の二つの異なる側面を反映していると考えてよさそうだ。さらに、銭婆が住んでいる茅葺屋根の民家には、中世の隠者として知られる鴨長明の｢草庵｣に対する宮崎の憧れが込められているのかもしれない。また、銭婆の家の内装が西洋風なのは、青年時代に抱いたヨーロッパへの憧憬を表しているのだろう。

（）

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