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2020.11.17
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『大名倒産(上)』という本を、待つこと1週間でゲットしたのです。
笑いと涙の経済エンターテインメントってか・・・これは期待できそうである。





浅田次郎著、文藝春秋、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
泰平の世に積もりに積もった大借金に嫌気のさした先代は縁の薄い末息子に腹を切らせて御家幕引きを謀る。そうとは知らぬ若殿に次々と難題が降りかかる!笑いと涙の経済エンターテインメント、始まり、始まりー

<読む前の大使寸評>
笑いと涙の経済エンターテインメントってか・・・これは期待できそうである。

<図書館予約:(2/01予約、副本13、予約347)>

rakuten 大名倒産(上)



この本の冒頭の語り口を、見てみましょう。
p7~12
<前口上>
 不思議な記憶がある。
 生家の近所に、日がな一日ぼんやりと往来を眺めている老人があった。
 冬ならば陽だまりに、夏には木陰に縁台を据え、まるでそうしていることが務めであるかのように、じっとしているのである。幼い私が通り過ぎても、声をかけるでもなく目を細めるでもなく、一挙一動を監視するように見送るだけだった。

 昔はご近所付き合いが親密で、いきおい老人たちは子供らを分け隔てなく可愛がった。だが、彼に限っては例外だった。何やら通りすがりにステッキで尻を叩かれそうな気がして、その家の前では早足になったものだった。

 あるとき、夕食の買物がてらたまたまその家の前を通りがかったところ、祖母がくだんの老人にていねいな挨拶をした。ご近所なのだから当然の礼儀ではあるのだが、祖母は様子がいつも凛としていて、相手が誰であろうとそこまで慇懃に腰を屈める人ではなかった。

 そのときも老人は、面白くもおかしくもない顔で返事をしたきりだった。
 家の前を離れてしばらく歩いてから、祖母は小声で言った。
「あのおじいさんは、江戸時代の生まれなんだよ」
 心にとどまるはずもない当たり前の出来事は、祖母のその一言のおかげで「ふしぎな記憶」にすりかわった。夏の夕まぐれに祖母と二人して、時間を踏みたがえたような気がしたのだった。

 しかし、後年になって考えてみれば、実は少しもふしぎな話ではなかった。
 私が生れた昭和26年は、大政奉還から数えて85年目にあたる。物心ついたころにも、江戸時代に生れた人はまだ多く存命だったはずである。そのうちの矍鑠(かくしゃく)たるひとりが、ご近所に住まっていたというだけの話であった。

 思えば明治30年生れの祖母は、肉類や乳製品を一切口にしなかった。のみならず、ときどき膝前に金盥を据えて着物の片肌を脱ぎ、おはぐろをさした。それも祖母が言うには「カネを打つ」のである。

 毎年12月14日の義士祭には、私を連れて高輪の泉岳寺を詣でた。芝居が好きだったせいもあろうが、祖母にとっては節句と同様の、あだやおろそかにできぬ行事だったのであろう。そのころの義士祭は大変な人混みで、年寄りに連れられた子供の姿も多かった。だから私も、学校を休んででも行かねばならない法事か何かだと思っていた。

 江戸時代はそれくらい身近だったのである。しかし一方では、全盛期のチャンバラ映画や芝居が、たった80数年前の世の中を遥かな歴史の向こう側に押しやっており、なおかつ戦後復興の勢いを駆った社会は、めまぐるしく変貌していた。
 あの江戸生れの老人は、縁台に腰をおろして日がな一日、いったい何を考えていたのであろう。

 いつの間にかその姿は見かけなくなり、小学校三年生の夏の終りに祖母が亡くなると、私の指先がわずかに触れていた江戸時代は、たちまち影もかたちもなく揮発してしまった。
(中略)

 江戸時代は西暦1603年の開府に始まり、1867年の大政奉還によって終焉したとされる。その間、264年の長きにわたり、人類史上稀にみる平和な時代が続いた。
 戦争といえるものは、幕府成立当初の大坂の陣ぐらいで、戊辰戦争は大政奉還ののちであるから、正しくは明治時代の内戦である。そして、そののちの80年たらずは、戦争に埋めつくされてしまった。

 この物語は、そうした平和な時代の、江戸城中から始めることとしよう。幕府の余命はわずか数年しか残っていないのだが、登場人物たちはまさか予見してはいない。ただ淡々と、260年間ほとんど変わらぬ生活をくり返しているだけである。
(中略)

 時は文久2年8月1日、すなわち東照神君家康公の江戸入りを祝う、八朔の式日の出来事である。
 総登城した御大名たちもあらまし退けて、風通しのよくなった本丸御殿帝鑑の間に、ぽつねんと座り続ける御殿様があった。
 白帷子の襟には汗が滲みており、長袴の裾は不安げに乱れている…。

<一、和泉守殿下城差留之事情>
 御目見をおえて殿席に戻り、ほっと胸を撫で下ろしたのもつかのま、茶坊主が忍び寄って下城差留を伝えた。

 和泉守の驚きようはただごとではなかった。思わず「エエッ」と声を上げて、居並ぶ大名たちの失笑を買った。茶坊主は理由も告げずに立ち去った。

 それからは時が止まってしまったかのようであった。さては御目見の折に、畳の縁に手をついたか、それとも脇差のこじりが襖に触れでもしたか、などとあれこれ考えてみたが、はっきりそうと思い当たる無調法はなかった。

 越後丹生山三万石松平和泉守信房は数え21歳、さきごろ襲封をおえたばかりで万事に不慣れである。
 そもそも御家の跡をとるなど夢だに思わぬ部屋住みの身分で、殿中作法どころか武将としての心構えもできてはいなかった。
 近じか家督を継ぐはずであった兄が急逝し、よもやまさかと思う間に跡継ぎのお鉢が回ってきたのだった。


ウーム まさかなことで松平の御殿様になった小四郎さんのストーリーなのか♪
でも、三万石の所領といえば今なら、田舎の市長レベルくらいなんだけどね。
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Last updated  2020.11.17 00:02:28
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