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2020.11.24
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カテゴリ: カテゴリ未分類
図書館で『国境の南、太陽の西』という本を手にしたのです。
この本には目次の頁がないのです。それと各章の名称としては1から15までの数字だけであり、しおり紐をきちんとしないと、どこまで読んだか分からないのです。
章の名前が書かれてあれば、興味のある箇所が分かると思うのだが・・・
要するに素っ気ない装丁になっているので、ご注意ください。





村上春樹著、講談社、1992年刊

<商品のレビュー>より
「ノルウェーの森」以来、かつおそらく最後のラブストーリーと思われる。その意味で村上春樹作品としては異質。ファンタジー要素は特段無く、島本さんのバックボーンが謎めいている以外はリアリティに徹している。

<読む前の大使寸評>
この本には目次の頁がないのです。それと各章の名称としては1から15までの数字だけであり、しおり紐をきちんとしないと、どこまで読んだか分からないのです。
章の名前が書かれてあれば、興味のある箇所が分かると思うのだが・・・
要するに素っ気ない装丁になっているので、ご注意ください。

rakuten 国境の南、太陽の西



冒頭の語り口を、見てみましょう。
p3~6
<1>
 僕が生れたのは1951年の1月4日だ。20世紀の後半の最初の月の最初の週ということになる。記念的といえば記念的と言えなくもない。そのおかげで、僕は「始(はじめ)」という名前を与えられることになった。でもそれを別にすれば、僕の出生に関して特筆すべきことはほとんど何もない。

 父親は大手の証券会社に勤める会社員であり、母親は普通の主婦だった。父親は学徒出陣でシンガポールに送られ、終戦のあとしばらくそこの収容所に入れられていた。母親の家は戦争の最後の年にB29の爆撃を受けて全焼していた。彼らは長い戦争によって傷つけられた世代だった。

 でも僕が生れた頃には、もう戦争の余韻というようなものはほとんど残ってはいなかった。住んでいたあたりには焼け跡もなかったし、占領軍の姿もなかった。僕らはその小さな平和な町で、父親の会社が提供してくれた社宅に住んでいた。戦前に建てられた家でいささか古びてはいたが、広いことは広かった。庭には大きな松の木が生えていて、小さな池と灯籠まであった。

 僕らが住んでいた町は、見事に典型的な大都市郊外の中産階級的住宅地だった。そこに住んでいるあいだに多少なりとも親交を持った同級生たちは、みんな比較的小綺麗な一軒家に暮らしていた。

 大きさの差こそあれ、そこには玄関があり、庭があり、その庭には木が生えていた。友だちの父親の大半は会社に勤めているか、あるいは専門職に就いていた。母親が働いている家庭は非常に珍しかった。おおかたの家は犬か猫かを飼っていた。

 アパートとかマンションに住んでいる人間を、僕はその当時誰一人として知らなかった。僕はあとになって近くの別の町に引っ越すことになったが、そこもだいたい同じような成り立ちの町だった。だから大学に入って東京に出てくるまで、通常の人間はみんなネクタイをしめて会社に通い、庭のついた一軒家に住んで、犬か猫を飼っているものだと僕は思い込んでいた。それ以外の生活というものを僕は、少なくとも実感をともなって思い浮かべることができなかった。

 大抵の家には二人か三人の子供がいた。それが僕の住んでいた世界における平均的な子供の数だった。少年時代から思春期にかけて持った友人の顔を思い浮かべてみても、彼らは一人の例外もなく、まるで判で押したみたいに二人兄弟か、あるいは三人兄弟の一員だった。彼らは二人兄弟でなければ、三人兄弟であり、三人兄弟でなければ、二人兄弟だった。六人も七人も子供がいる家庭は稀だったが、一人しか子供がいない家庭というのはそれ以上に稀だった。

 でも僕には兄弟というものがただの一人もいなかった。僕は一人っ子だった。そして少年時代の僕はそのことでずっと引け目のようなものを感じていた。自分はこの世界にあっていわば特殊な存在なのだ、他の人々が当然のこととして持っているものを、僕は持っていないのだ。

 子供の頃、僕はこの「一人っ子」という言葉がいやでたまらなかった。その言葉を耳にするたびに、自分には何かが欠けているのだということをあらためて思い知らされることになった。その言葉はいつも僕に向かってますぐに指をつきつけていた。お前は不完全なのだぞ、と。

 一人っ子が両親にあまやかされていて、ひ弱で、おそろしくわがままだというのは、僕が住んでいた世界においては揺るぎない定説だった。それは高い山に登れば気圧が下がるとか、雌の牛は多量の乳を出すとかいうのと同じ種類の自然の摂理とみなされていた。だから僕は誰かに兄弟の数を訊かれるのが嫌でたまらなかった。

 兄弟がいないと聞いただけで人々は反射的にこう思うのだ。こいつは一人っ子だから、両親にあまやかされていて、ひ弱で、おそろしくわがままな子供に違いない、と。人々のそういったステレオタイプな反応は僕を少なからずうんざりさせ、傷つけた。しかし少年時代の僕を本当にうんざりさせ傷つけたのは、彼らの言っているのがまったくの事実であるという点だった。そのとおり、僕は事実あまやかされて、ひ弱で、おそろしくわがままな少年だったのだ。


更に読み進めます。
p8~9
<1>
 家が近かったせいで(彼女の家は僕の家の文字通り目と鼻の先だった)、彼女は最初の1ヶ月間、教室で僕の隣の席を与えられた。僕は学校生活に必要な細かい手順をひとつひとつ彼女に教えた

 教材のことや、毎週のテストのことや、掃除や給食の当番のことなんかだ。いちばん近所に住んでいる生徒が転校生の最初のケアをするというのが学校の基本的な方針だったし、特に彼女の場合は脚が悪かったので、先生は僕を個人的に呼んで、最初のうちしばらくは島本さんの面倒をよく見てあげなさいと言ったのだ。

 初めて顔を合わせた11歳か12歳の異性の子供たちがだいたいそうであるように、最初の何日かの僕らの会話はぎごちなく気詰まりなものだった。でも自分たちがどちらも一人っ子であるとわかってからは、僕らの会話は急速にいきいきとした親密なものに変化していった。彼女にとっても僕にとっても、自分以外の一人っ子と出会ったのはそれが最初だったからだ。

ウーム 村上さんの文章は端正で茶目っ気がないのです。ある意味、無国籍の文章といえるわけで・・・翻訳にむいているとも言えそうですね。





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Last updated  2021.11.22 14:37:03
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