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2021.01.22
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『本の森 翻訳の泉』という本を手にしたのです。
ぱらぱらとめくると、取り上げている作家が多和田葉子、村上春樹、水村美苗、池澤夏樹と好きな作家が多いのが借りる決め手となりました。

なお、この本を借りたのは二度目なので、この記事は(その6)としています。





鴻巣友季子著、作品社、2013年刊

<「BOOK」データベース>より
角田光代、江國香織、多和田葉子、村上春樹、朝吹真理子ー錯綜たる日本文学の森に分け入り、ブロンテ、デュ・モーリア、ポー、ウルフー翻訳という豊潤な泉から言葉を汲み出し、日本語の変容、文学の可能性へと鋭く迫る、最新評論集!

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくると、取り上げている作家が多和田葉子、村上春樹、水村美苗、池澤夏樹と好きな作家が多いのが借りる決め手となりました。

rakuten 本の森 翻訳の泉



翻訳における直訳と意訳が語られています。
p212~215
<翻訳における操作―直訳か意訳か?>
■序
 世界で最も古い国際語のひとつに、紀元前ニ千年紀に起源をもつとされるギリシャ語がある。旧約聖書をギリシャ語に訳した「七十人訳聖書」など、聖書をはじめとする公的文書を著す普遍言語となった。

 ギリシャ語で書かれた諸種の文献は古代ローマ時代にはラテン語に、そしてイスラームが台頭してくるとラテン語はアラビア語に翻訳され、また12世紀、ルネサンスが勃興するに伴い、古代ギリシャをはじめとする各種古典文献がアラビア語から再びラテン語に訳し戻された。

 また、言文一致の近代日本語は明治開国以来、西洋語の翻訳を通して作られてきた、というのは広く認められた事実だろう。現代の日本文学を代表する大江健三郎、池澤夏樹、村上春樹といった作家もみな、翻訳を通して、翻訳を接しながら文体と作品を確立してきた、ある種の「翻訳家」である。そして今、電子書籍など電子メディアの時代を迎え、その文章を英語に訳しうるか・訳しやすいかというのは、そのテクストひいては言語の存亡をかけた問題となりつつある。

 翻訳はつねに新しい文化の誕生に立ち会い、新しい時代への橋渡しをしてきた、そんな側面をもつ。

■1 原文に忠実か、訳文としての読みやすさか
 日本の翻訳史のみならず、世界の翻訳史において、古代から現代に至るまで議論を喚起している大問題と言えば「直訳か意訳か」で、ほぼこれに尽きる感がある。

 古代ローマ時代にはすでに、「この翻訳は直訳に傾きすぎている」との批判がキケロやヒエロニムスに見られた。翻訳者は二千数百年前から原文に忠実であろうとする一方、訳文としての美しさや味わいを追求し、翻訳する際に、意識的にせよ無意識にせよ、訳文にあらゆる操作を加えてきたのである。

 原文への忠実さを優先するか、こなれて読みやすい訳文を重視するか。ロシア語通訳者だった米原万里流に言えば「不実な美女か貞淑な醜女か」である。また、19世紀ドイツの神学者フリードリヒ・シュライアマハーは「翻訳野さまざまな方法について」(1813年)という文章のなかで、翻訳者の二者択一についていみじくもこう書いた。

「著者をできるだけそっとしておいて著者を読者に向けて動かす」のどちらかで、両方いっぺんにやろうとする翻訳は信用できないと。 

 原文重視か訳文重視か。原文重視の逐語訳に関してホルヘ・ルイス・ボルヘスは、その遠い起源を「聖書の翻訳にある」としている。聖書を書いたのは精霊であるのだから、神の書いた聖典を勝手にいじりまわすのは「冒涜」であるという考えが基にある。

 日本にとって、長く西洋文学は聖典のごとき存在であったため、精緻で忠実な翻訳が発達する反面、創造性については非常にストイックであると言える。ボルヘスは、ニューマンによるホロメスの逐語訳や、エドワード・フィッツジェラルドによる『ルバイヤート』の逐語訳のいささか奇異な表現にふれ、「外国風の表現のなかに美を発見する」という言い方をしている。

 これは翻訳の神秘ともいえる「訳文の違和感のもつ魅力」ということだろう。読みにくく、すぐに理解しにくいところに、むしろ読み手は得も言われぬ快感を見いだす。

 原文と訳文のどちらを優先するかという問題が浮上するケースで非常にわかりやすいのは、ひとつにジョークや駄洒落などその言語の特性をいかした表現の場合。もうひとつには、宗教がらみの表現である。

 たとえば、preaching to the converted(改宗者に今さら伝道する)という言い回しを「釈迦に説法」と訳すのなどは日本語に引きつけた翻訳。原文は「無意味なこと、不必要なこと」を意味し、訳文は「愚かなこと、僭越なこと」という意味で、どちらも「要らぬこと」という点では意味の重なりがあるが、全体の含意はかなり異なる。

 preaching to the convertedを「改宗者に伝道するがごとく無意味な」と訳すのは日本語のなかでかなり違和感があり、改宗という行為が実感としてわからない。

 こういった事情から、自国の文化に引きつけた翻訳がどこの国でも多かれ少なかれ考案されてきた。しかし、この異質さを翻訳文から取り去ってしまうことへの抵抗感というのも、古今東西の翻訳者が感じてきたことなのである。


『本の森 翻訳の泉』5 :『エクソフォニー』で読む『文字移植』(続き)p32~35
『本の森 翻訳の泉』4 :阿部和重との対談p271~275
『本の森 翻訳の泉』3 :読書つれづれ日記2006~2007 :p71~74、p86~87
『本の森 翻訳の泉』2 :『エクソフォニー』で読む『文字移植』p29~32
『本の森 翻訳の泉』1 :対談 日本語は滅びるのか p295~298





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Last updated  2021.01.22 06:02:40
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