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2021.01.29
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カテゴリ: アート
図書館に予約していた『ことり』という本を、待つこと3日でゲットしたのです。
この本を『歓待する文学』というNHKテキストで、小野正嗣さんが高く評価していたので、即、図書館に予約していたものです。






小川洋子著、朝日新聞出版、2012年刊

<「BOOK」データベース>より
世の片隅で小鳥のさえずりにじっと耳を澄ます兄弟の一生。図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて歩く老人、文鳥の耳飾りの少女との出会い…やさしく切ない、著者の会心作。

<読む前の大使寸評>
この本を『歓待する文学』というNHKテキストで、小野正嗣さんが高く評価していたので、即、図書館に予約していたものです。

<図書館予約:(1/19予約、1/22受取)>

rakuten ことり


冒頭の語り口を、見てみましょう。
p3~5
<1>
 小鳥の小父さんが死んだ時、遺体と遺品はそういう場合の決まりに則って手際よく処理された。つまり、死後幾日か経って発見された身寄りのない人の場合、ということだ。

 救急隊員、警察官、民生委員、町内会長、役人、清掃業者、野次馬。さまざまな人間が入れ替わり立ち寄りやって来、ては、各々定められた仕事を為した。ある者は遺体を運び出し、ある者は消毒液を調合し、またある者は連絡先の手がかりを求めて状差しの葉書をめくった。野次馬たちでさえ、がやがやとした噂話で、その場に立ちこめる陰気な空気を多少なりとも紛らわせる役目を果たした。

 彼らのほとんどが、小鳥の小父さんの顔をよく知らなかった。多少顔を見知っていても、親しく口をきいたことのある人はいなかった。小鳥の小父さんの家がこれほど大人数の訪問を受けるのは、その時が初めてだった。

 遺体を発見したのは新聞の集金人だった。郵便受けに新聞が溜まっているのを不審に重い、門から庭伝いに家の南側へ回ったところで、開け放たれた居間の窓辺に倒れている小父さんを発見した。

 いくらか腐敗ははじまっていたが、もがき苦しんだ様子はなく、むしろ心から安堵してゆっくり休んでいるように見えた。ありふれたシャツにズボン姿で横向きになり、両足を軽く曲げ、背中を丸めていた。ただ一つ、集まった人たちを驚かせたのは、遺体が両腕で竹製の鳥籠を抱いていることだった。鳥籠の中では小鳥が一羽、止まり木の真ん中に大人しくとまっていた。

「鳥ですね」
 と最初に口にしたのは、第一発見者としての責任から、現場の片隅にたたずんで成り行きを見守っていた新聞の集金人だった。小鳥の小父さんの家に小鳥がいても何の不思議もないはずなのに、皆はその一言にはっとし、まるで生まれて初めて鳥というものを目の前にしたかのような表情を浮かべた。

 たやすく掌に隠れてしまうほどの小さな鳥だった。餌箱が空になっている割には弱った様子も見せず、小首をかしげながら人々の様子をうかがっていた。死者の腕に守られ、何の不安もなく、黒い目をきびきびと動かしていた。羽は淡い黄緑を帯びていたがあくまでも色調は大人しく、目立った模様も飾りも見当たらず、小鳥、という以外、他にどんな付け足すべき言葉も必要としていなかった。

 ひとときの沈黙のあと、警察官が庭から差し込む光にかざすようにして籠を持ち上げた。小鳥は二、三度羽をバタバタさせ、籠の側面につかまり、また止まり木へ戻った。底に溜まった餌の殻と、干からびたフンと、抜けた羽毛が一緒になって舞い落ちた。光を浴びてもその羽は遠慮深い色合いのままだった。

 やがて、チィーチィーと短い鳴き声がしたあと、不意にさえずりが響き渡った。そこいる全員が籠の中を見やった。庭の隅々にまで染み渡る、澄んだ小川のような
その声が、本当に目の前の小さな生き物から発せられているのかどうか、確かめるような思いでじっと見つめた。

 小鳥は長く鳴き続けた。そうして鳴いていれば、いつしか死んだものがよみがえると信じているかのようだった。


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Last updated  2021.01.29 00:03:10
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