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2021.08.31
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カテゴリ: アート
図書館で『ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち』という本を、手にしたのです。
毎年、ノーベル文学賞発表の時期には、村上春樹受賞の知らせを待つのが恒例となっているが・・・この本には村上春樹やカズオ・イシグロが載っていて、興味深いのです。
(カズオ・イシグロは2017年に受賞したが、この本は2014年刊なので、当然、触れていません)





青月社編、青月社、2014年刊

<「BOOK」データベース>より
27ヵ国38人の作家が大集結!

<読む前の大使寸評>
毎年、ノーベル文学賞発表の時期には、村上春樹受賞の知らせを待つのが恒例となっているが・・・この本には村上春樹やカズオ・イシグロが載っていて、興味深いのです。

rakuten ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち




先ずカズオ・イシグロを、見てみましょう。
p162~167
<遠い過去を見つめて>
 現代イギリスを代表する作家カズオ・イシグロは、石黒一雄として1954年に長崎で生まれる。海洋学者であった父親の仕事の都合で1960年に渡英し、その後かの地に留まり続け、30歳を目前にしてイギリス国籍を取得した。

 日本語をほとんど解さない彼は、1982年に英語で書く小説家としてデビューを果して以来、2014年現在に至るまでに6冊の長編と1冊の短編集を発表している。

 1981年にインド出身のサルマン・ラシュディがブッカー賞(イギリスでもっと権威のある文学賞)を受賞したことに象徴される通り、1980年代のイギリスでは、第二次大戦以後の主に旧植民地からの移民流入の影響を受けて、国際的な背景を持った作家による文学作品への需要が高まっていた。

 そのような時代背景の影響もあり、イシグロの最初の二つの長編小説である『遠い山なみの光』(1982年)と『浮世の画家』(1986年)は、敗戦直後の日本を主な舞台としている。だが、イシグロは5歳で日本を去った後、1989年に至るまで故国の土を踏むことはなかったがゆえに、この2作における日本像は、彼自身が保持する日本の記憶よりもむしろ、戦後の日本文学や日本映画(例えば川端康成の『山の音』と成瀬巳喜男によるその映画版、小津安二郎の『東京物語』と『秋刀魚の味』など)に依拠しながら描き出されたものである。

 この実際には借用から成り立った日本像は、日本に明るくなかったイギリスの読書の異国趣味を掻き立てることとなり、『浮世の画家』は高名なウィットブレッド賞を受賞するという快挙を成し遂げる。

 だが、イシグロの作家としての地位を不動のものとしたのは長編三作目の『日の名残り』(1989年)であり、この小説によって彼はブッカー賞を獲得することとなる。本作は、物語の舞台こそイギリスに設定されているものの、そのイギリス像が、イシグロが直接目にしてきたイギリスではなく、文学、映画、旅行ガイドなどに登場するステレオタイプなイギリス像からの借用によって成り立っているという点で、前二作との共通性を有している。また『日の名残り』までの三作は、扱われているテーマにおいても一貫している。

 日本とイギリスという舞台に違いはあるものの、この三つの小説においては、第二次大戦中、職務への忠実さがゆえにファシズムに積極的に加担し、その結果、戦後の民主化した社会において、自らの人生を振り返っては激しく苦悩することとなる老人が共通して登場しているが、彼らの姿を通してイシグロは、価値観が大転換する時代を生きた人々の苦しみとともに、過去に犯した過ちに真正面から向き合えずに、ひたすら言い訳を繰り返してしまう人間の弱さを描き出しているのである。
(中略)

 戦後のイギリスを舞台とした、続く6作目の長編『わたしを離さないで』(2005年)では、芸術の失墜という主題が『充たされざる者』から引き継がれている。本作の主人公は移植用臓器供給のためだけに生み出され、遅くとも30歳前後までに臓器摘出により死ぬことを運命づけられたクローンたちである。

 彼らは幼少期から10代半ばまでを過ごす全寮制寄宿学校で、徹底した人文学教育、芸術教育を施されるが、ある時、優れた芸術作品を生み出せば延命を勝ち取れるという噂を耳にした後、作品制作に必死で取り組むようになる。しかし物語の最後で、生み出された作品は彼らの延命を可能にしないことが明らかとなり、主人公たちは予定されていた通りの死を迎えることとなる。

 クローンたちの無残な死という形で芸術の無力さを描き出すことによって、『わたしを離さないで』は『充たされざる者』と同様に現代社会における芸術の意義を真摯に問いただしているのである。





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Last updated  2021.08.31 00:00:53
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