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2021.11.12
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『文学界(2021年2月号)』という雑誌を、手にしたのです。
表紙に出ているように創刊1000号記念特大号とのことで、これがゲットする決め手となりました。






雑誌、文芸春秋、2021年刊

<商品の説明>より
通算1000号記念号 短篇競作 村上龍、山田詠美他

<読む前の大使寸評>
表紙に出ているように創刊1000号記念特大号とのことで、これがゲットする決め手となりました。

rakuten 文学界(2021年2月号)


「21世紀の日本文学」というテーマで3人の書評家、評論家たちが語り合っているので、続きを見てみましょう。
(安藤礼二×鴻巣友希子×江南亜美子)
p378~379
<多和田葉子の特異性>
江南: いま海外マーケットで受容されるかどうかに、明快な解がないのがおもしろいと思います。かつて川端康成や谷崎潤一郎、三島由紀夫が評価されたとき、英訳した日本文学研究者の耽美的な審美眼が「日本ブランド」の輸出に一役買っていた。

 しかし例えば多和田葉子さんは、ご自身でもドイツ語で書かれますが、日本的とはいえない。彼女の固有性を突き詰めたら、民族的なルーツを切断してユーモアで世界を救おうとしている感じがします。いっぽうで、現在の世界文学の文脈は、作家が民族的ルーツを掘り下げていき、テーマ化したものが多いですよね。

鴻巣: アメリカの作家はルーツ大好きですよね。みんな移民作家ですから。

江南: 経済がグローバルを極めたら、逆に個人のルーツ探しに小説のテーマが回帰していった。そのなかで多和田さんは、たとえば『地球にちりばめられて』でルーツを切り離していく。

鴻巣: むしろルーツをなくすような方向性がありますよね。例えばリービ英雄さんが持っているようなセンチメントって彼女にはない。もちろんリービさんの場合は英語からより“小さな”日本語に入ってきている。多和田さんの場合は日本語からより普遍的なヨーロッパの言語へ入っているという差はありますが。

江南: まさに越境作家です。翻訳者が苦労しそうな日本語の言葉遊びや地口があるけど、真にグローバルな作家、国と国のあいだにいる作家なんですよね。

安藤: 翻訳にからめて述べれば、私は岡田利規という作家が大変気になっています。

鴻巣: 岡田さん、いいですよね。

安藤: 岡田さんの場合、全世界で戯曲がその国の言葉に翻訳され、上演も多くの場合は字幕付きでなされる訳じゃないですか。だから、翻訳されることが前提で戯曲を書いているはずなんだけど、しかしその日本語はきわめて特異なんです。

 話し言葉と書き言葉が奇怪な形に融合されて、しかも語り手と登場人物がずれていく。日本語で書かれ、日本語でしか表現されるはずのないものが、実は密やかに世界文学を実現している。そうした感触は確かにあります。世界文学という考え方は嫌いですが。


少しとばして読み進めましょう。
p386~387
<悪について>
安藤: 人間の心についてはもしかしたらAIが解き明かしてしまうかもしれないけれど、一方で人間じゃない非人間的な世界というのは、SFがずっと担ってきているという見方もできると思うんです。先ほども出た青木淳悟さんとか上田岳弘さんとか、どうしても人間であることに我慢できない人たちっていると思うんですよね。

江南: まあでも、上田さんはあの形式で人間を書きたいんだと思いますよ。

鴻巣: 上田さんは『私の恋人』とか『太陽・惑星』とかの頃は、すべての歴史はもう意識の中にあるみたいなすごくマクロなことを書いていたけど、『塔と重力』ぐらいから、この人は人間について書こうとしているなとわかり始めた。

安藤: なるほど。最近ですね。

鴻巣: 『ニムロッド』も『キュー』もそうです。だから面白いと私は思っています。あのままずっとマクロな視点の、すべて見えてはいるけどどうにもならないみたいなものを書いていかれたら、どこに行ってしまうんだろうとは思っていました。
(中略)

江南: 素朴なことを言うと、文学って結局、人間の謎を追いかけている部分があると思います。最近、東浩紀さんがテーマにしている、人間が歴史的にくりかえし巨悪に傾いてしまう謎とかもそうです。人体実験を行った731部隊、優生思想のナチス・ドイツ…人は邪悪な存在になりうるという問題を引き受けて次世代に継承する義務もあるはずです。

 さっき鴻巣さんの話で面白いと思ったのが、ディストピア小説では記憶を失うことができない人が駆逐されるというストーリーが多いという部分です。

鴻巣: 『1Q84』もそういう部分がありますね。

江南: イシグロの『忘れられた巨人』も老夫婦の悲しみは記憶にこだわったことに起因します。日本のこのところの政権がまさにそんな感じで、都合の悪いことを国民が速やかに忘れてくれればいいという魂胆がありありとしている。文学はその流れへの抵抗のかたちだと考えることもできるはずで…。

鴻巣: 村上春樹は自伝エッセイの『猫を捨てる』ではっきりとそういう趣旨のことを言いましたね。

江南: あるいは、小川洋子さんがニューヨーク・タイムズに書いた「死者の声を運ぶ小舟」というエッセイもそう。

鴻巣: ああ、良い文章でした。

江南: 声を持たなくなった死者、か細い声の弱者たちの代弁のために私の文学というものはあるんだ、とおっしゃっていて。「健全」すぎる定義かもしれませんが、人間が犯した取り返しのゆかない過ちを、記録し、記憶するのも文学の仕事だとやっぱり言いたい。

 要するに、「21世紀の日本文学」は、多くの記録媒体のひとつ、遅効性の再現メディアであればいい。売れる売れない、文学賞で評価されるされないもそこでは関係ない。出版業も商売なのはわかっていますが、純粋に文学とは何かと考えれば、人間のそうした営為だとしかいえない気がしています。

鴻巣: 語り継ぐということは人間の本能的なものですよね。カルト教団とか新興宗教の話もしておきたいです。人の篤信と狂信の境はどこかというようなことが、角田光代さんの『八日目の蝉』、それから『1Q84』、最近だと今村夏子さんの『星の子』で書かれていますね。

 日本は特定の宗教が広く普及しているわけではない、いわゆる無宗教者の多い国ですから、そういう中におけるカルト教団の重さがある。

江南: 合理性だけで解明しきれない人間の謎の部分。


『文学界(2021年2月号)』2 :翻訳される日本作家たち
『文学界(2021年2月号)』1 :21世紀の日本文学





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Last updated  2021.11.12 00:01:48
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