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2022.10.24
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『両手にトカレフ』という本を、待つこと3ヶ月ほどでゲットしたのです。
ドキュメンタリー作品で知られる著者であるが、初めて小説を出したとのことで興味深いのです。




ブレイディみかこ著、ポプラ社、2022年刊

<出版社>より
ブレイディみかこ氏からのメッセージ
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には出てこないティーンたちがいました。ノンフィクションの形では書けなかったからです。あの子たちを見えない存在にしていいのかというしこりがいつまでも心に残りました。こうしてある少女の物語が生まれたのです。

<読む前の大使寸評>
ドキュメンタリー作品で知られる著者であるが、初めて小説を出したとのことで興味深いのです。

<図書館予約:(7/01予約、10/14受取)>
rakuten 両手にトカレフ


フミコのその後、ミアのその後を、見てみましょう。
p114~119
<6  本当のことは誰にも言えない>
 女子大学・・・、私の心は躍った。
 女学校のみならず、その上の学校にも行かせるというのだ。
 夢のようだった。ああ、私は勉強をしよう。玩具なんていらない。たくさん本を読んで、女子大学まで行かせてくれる祖母や、私を養女に迎えてくれる叔母夫婦のために、勉強しよう。それがこの幸福への恩返しだ。私は心からそう思った。そう考えると、身がぴりりと引き締まるようだった。

 祖母に連れられて朝鮮に発つ日。それは抜けるような青空が広がる晴天の日だった。何日もしとしと降り続いた雨が急にからっと上がり、天気さえ私の旅立ちを祝福しているようだった。

 少し肌寒い朝だったが、誰もが幸せな少女の門出を祝っていた。素朴で優しかった叔父や、何かと世話を焼いてくれた叔母や祖父母、一緒に遊んだ近所の子どもたち。彼らと会えなくなるのは寂しかったが、それよりも遥かに大きな希望で、私の胸は高鳴っていた。朝鮮。行ったことのない土地で、新しい生活が私を待っている。こことは違う世界に、本当に私は足を踏み出すのだ。

          *
 ミアはバタンと本を閉じた。フミコが唐突に幸福になったことに拍子抜けしたからだ。
 遠い時代の遠い国に生きていた少女が、ひどい虐待や差別や、貧困から抜け出せるといいと願っていた。だが、まさかこんな一発逆転のおとぎ話になるとは想像していなかった。
 これじゃつまらないと思った。そもそも、朝鮮に住んでいる祖母のような人がいたなんて、最初からフミコはミアのような子どもとは違っていたのだ。

 ミアは母方の祖母しか知らないが、十代で子どもを産んで、その頃からアルコール依存症で、ミアの母親と同じようにこの団地でシングルマザーとして暮らし、肝臓の病気になって三十代で死んだと聞いている。ミアは赤ん坊のときに抱かれたりしたことがあるらしいが、そんなことは覚えていない。

 父親には会ったこともないし、どこにいるか、生きているのかしんでいるのかさえわからない。だから、もちろん父方の祖父母なんて誰だか知らない。もしかしたら、血が繋がっている人たちと一緒のバスに乗っていたり、スーパーのレジの列で前後に並んでいたりするかもしれないと思うときがある。でもミアは彼らのことを知らないし、向こうもミアのことを知らない。ということは、単なる他人と同じことだ。

 どんなに苦しい体験をしても、家族や親戚がたくさんいるだけ、まだフミコのほうが幸福なのだ。預けられるとしても家族のところだから、どこに行っても連絡を取り合えるし、互いにどうしているか情報も入る。

 逆にいまの時代のほうが、誰が親戚かなんてわからない。それに、もし親が子どもを福祉に取られて里親に預けられたり、養子縁組されたりしたら、もうそれっきりになる。なんとかっていう法的な決まりがあって、もとの家族は勝手に連絡を取ったりできなくなると近所の人たちが話していた。

 翌日、ミアは学校でフミコの本を読まなかった。おとぎ話の続きを読む気になれなかったからだ。
(中略)

 何年か前に、小学校の保護者会が地域のチャリティーと協力して、家にパソコンがない子どもたちに無料でタブレットを貸与してくれたことがあった。でも、母親がビールをこぼしてしまって動かなくなり、修理してもらったり、新しいものと取り換えてもらったりするには保護者会から書類を貰って手続きする必要があると言われて母親が面倒くさがり、そのままになっていた。

「私にメールとか送ってもらっても、意味ないと思う」
 現実問題としてメールを見る手段がないからミアはそう言った。
 でも、事情を知らない人が聞いたらひどく失礼な拒絶の言葉に聞こえるだろうなとも思った。だから、とりあえず、ウィルが差し出した紙の束だけは受け取ることにした。
「これは貰っとく。ありがとう」
 ミアはウィルから貰った髪の束を握りしめ、レイラと並んで教室を出た。レイラが不思議そうにミアに聞いた。

「なんでスマホ使わないの?」
「なんか、面倒そうだなって。連絡がついちゃうと、いろんなところにいろんな人が追いかけてくるみたいで、気が落ち着かない気がして」
「だけど、そんなことしていると、情報がわからないじゃん」
「情報とかって、そんなにいろいろ知ってないといけないのかな」

 ミアがぼそりと呟いた。
「うちは貧乏だからスマホもパソコンも情報も買えないんだよ」と正直に言ったら、レイラやウィルヤラグノールやキムはどんな顔をするだろう。少なくとも、もうにやにやはしていられないだろうし、気まずくなって会話はそこで止まってしまうだろう。
 雰囲気は重苦しくなり、みんながミアに気を遣い始める。本当のことを言ったら、もう彼らの一人として喋れなくなるのだ。ミアはきゅっと口をつぐんだ。


『両手にトカレフ』2 :悲惨なミアとチャーリーのその後
『両手にトカレフ』1 :この小説の冒頭





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Last updated  2022.10.24 00:12:06
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