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2023.07.06
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『動的平衡3』という本を、手にしたのです。
目次を見てみると・・・がんの転移とか、遺伝子とか、腸内細菌とか読みどころが多いのでチョイスしたのです。




福岡伸一著、木楽舎、2017年刊

<「BOOK」データベース>より
生命現象の核心を解くキーワード、それは「動的平衡」。哲学する生物学者が問う生命のなりたち、ふるまい、ありようー流麗な文章でつづられる、福岡生命理論の決定版。

<読む前の大使寸評>
目次を見てみると・・・がんの転移とか、遺伝子とか、腸内細菌とか読みどころが多いのでチョイスしたのです。

rakuten 動的平衡3


胃を全摘した私にとって、がん治療は気になるわけで・・・
「第7章」で気になる「がん闘病記」を見つけたので、見てみましょう。

<第7章「がんと生きる」を考える>
■あるジャーナリストの闘病
 本棚から古い本を探し出す。『ニューヨークでがんと生きる』(千葉敦子著)。1ページ目。物語はこう始まる。

「次のステップを踏み出さなければならないことは分かっていた。次のステップが何であるかもわかっていた。それでも、思い切って踏み出すのには、かなりの勇気を要した」

 フリーランスのジャーナリスト千葉敦子は、乳がん再発のおそれを抱えたまま、愛猫とともにニューヨークに渡る。この街に住む。これが彼女の長年の夢だった。当時彼女は40歳と少し。がんに侵された今。躊躇する時間の余裕はそれほど残されていない。「次のステップ」とはその夢を実行に移すということだった。

 西麻布にあったアパートの荷物を整理し、引き払う。ニューヨーク行きの飛行機を手配する。しかしニューヨークで何が一番たいへんかといえば、安全で安価な住まいを探しだすこと。千葉さんはとりあえずニューヨークに行くことを優先し、知人宅に間借りをして、アパート探しを開始する。ジャーナリストとしての仕事の態勢も整えなければならない。慌ただしい毎日が始まる。

 幸い、間もなく友人のつてでグリニッジヴィレッジによいアパートを借りることができた。しかし家賃は東京の二倍。ニューヨークではすべてがチャレンジとなる。家主と闘い、引っ越し業者と闘い、警察と闘う。たくましい。

 彼女は、意欲的に外出し、取材し、書く。MoMAなど美術館をめぐり、大好きなバレエを鑑賞したりリンカーンセンターへ行く。つまりニューヨーク生活を満喫する。その日々がリズムの良い文章で克明に綴られる。
 一方、がんは実際、再発した。正確には再々発である。彼女は三年前、乳がんの手術を受けた。そのあと乳房を再建した。すっかり回復したかと思われた二年後、リンパ節への転移が見つかった。放射線治療を東京で受け、しこりは小さくなった。

 それがニューヨークへ来てから9ヵ月ほど経過した夏のこと、左胸の上に異常を見つけた。検査では医師から大丈夫と言われていたにもかかわらずである。しかし自分の身体に関して自分以上に心配りをしてくれる者は他に誰もいない。
「私はしこりの感触が、過去二回のときとそっくりなので、再々発であると確信していた」

 バイオプシー(生体組織診断)の結果、やはりがんであったことが判明する。彼女は、制度や言葉の壁があるにもかかわらず、ニューヨークで治療を受けることを決意する。

 放射線治療と化学療法。激しい副作用に苛まれながらも、彼女は決して弱音をはかない。冷静に自らの病状を観察し、日米の医療現場の差を記録する。アメリカの医療費は驚くほど高額だ。しかし医療の質も高い。ありとあらゆる情報を与え、患者に自分のことを自分で決めさせようとする。そして医師や医療スタッフは常に患者と対等に接する。医師と患者の立場が非対称的な日本とは大きく異なる。独身の彼女には家族はいないが、ニューヨークの友人、知人たちが次々と手を貸してくれる。

 これが掛かれたのは1980年代のなかばのこと。思えばもう30年以上も前である。今なぜ再び、彼女の本を読み返す気持ちになったのか。それはかつて刊行された直後に読み、今また私自身がニューヨークで生活するようになったので読み返してみたくなったのだ。筆致はまったく古びていない。むしろ彼女の真摯さがより迫力を持って迫ってくる。そして地名や街の様子、位置関係などもよくわかる。

 彼女が選んだ病院は、スローン・ケタリングがん研究所病院。これは私の留学先であるロックフェラー大学の向かい側、アッパーイーストサイドに位置している。世界最高のがん治療・がん研究の拠点である。ロックフェラー大学とも研究交流、共同研究がさかんに行われている。

■がんの転移と免疫
 千葉敦子は、乳がんを患い、その後、繰り返し起こった転移・再発と闘い続け、彼女が終の生活の場として選んだ街・ニューヨークで、親しい友人たちに看取られながら旅立った。享年43という若さだった。

 彼女が選んだのは最初は外科手術による切除、乳房の再建、リンパやもう片方の胸への転移が発見されたあとは、放射線照射による治療と抗がん剤による化学療法だった。完結的に襲ってくる副作用(だるさ、吐き気、脱力感、悪寒・・・)に苛まれながら、ジャーナリストとして取材し、書くことを続けた。

 彼女は、もっと早期に抗がん剤治療を始めていれば、再発を防げたかもしれないと思ったが、始めることができない理由があったのだからくよくよしないことにした、と書いている。このあたりのきっぱりした合理的な割り切り方が彼女の持ち味である。

 しかし、今日的な視点から見ると、たとえ早くから化学療法を始めていたとしても、再発を防ぐことはおそらくできなかっただろう。なぜなら転移性の、つまり悪性のがんは、そもそも原発巣(彼女の場合は乳がん)のしこりがはっけんされた時点で十分に増殖しており、そこから無数のがん細胞が全身に転移してしまっていたはずだからである。

 このようなケース、つまり、すでに多数の転移が起こってしまった後、外科的に切除することは不可能で、広範囲に固形がんの転移が広がってしまった状況で、抗がん剤でも治る見込みがない場合、もはや闘うのはあきらめるべきなのだろうか。

 私が考える生命観のキーワードは「動的平衡」である。声明は絶え間のないバランスの上にある。押せば押し返し、欠落があればそれを補い、損傷があれば修復する。生命を清明タラ占めるこのダイナミズムを動的平衡と呼びたい。

 最近、以下のような事例を放射線科医から聞いた。
 がんが発見された。しかし、すでに肺全体に多数の転移が起こってしまった後だった。治療チームは、病巣の一つを超音波を使ってピンポイントで焼いた。転移しているので、もちろんがんを一つだけ殺しても根治療法にはならない。

 しかしこの処置の後、まもなく、すべての転移巣は消失もしくは大幅に縮小し、患者は生還を遂げた。一体、何が起こったのだろうか。
 がん細胞が顕在化するまでには、体内におけるいくつもの“検問突破”がある。その最たる“検問官”は私たちの体内に備わっている免疫細胞だ。本来なら、がんの予備軍は早いうちに免疫細胞に見つけられて排除される。

 一方、がん細胞のほうも驚くべき狡猾さを身につけている。サイトカインと呼ばれるある種の信号物質を放出し、免疫細胞の一部を騙して味方につけ、自らの周囲を守る防御壁として利用、がんを退治する別の免疫細胞の接近を封じているのだ。

 上記のケースは次のように解釈された。1ヵ所のがん病巣を超音波で焼くことによって、この防御壁を壊すことができた。つまり、がん細胞からサイトカインが出なくなった。こうして、防御壁を乗り越えて、“検問官”たる免疫細胞が焼け跡に到達した。そこで免疫細胞は初めてがんの存在を認識した。一度認識が成立すると免疫細胞の動きは急激に高まる。たちまち免疫細胞は増産され、あらゆる転移巣に対して総攻撃を開始した。
(中略)

 この事例は非常に特殊なケースかもしれない。しかし、もし21世紀、がん治療に何らかの革新があるとすれば、それは敵と直接対決するのではなく、むしろ予め身体に備わっている味方の力を応援し、増強することにこそ活路があるのではないか、という示唆がある。それはとりもなおさず動的平衡から生命を捉えなおすということでもある。私はここに希望を感じる。





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Last updated  2023.07.06 00:08:05
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