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歩世亜さんComments
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図書館で『探検家の事情』という本を、手にしたのです。
著者の角幡唯介氏といえば、兵庫県の偉人・植村直己に次ぐ探検家というのが私の評価なんで・・・この本をチョイスした次第です。
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【探検家の事情】
webp
画像につき開示できず
角幡唯介著、文藝春秋、
2019
年刊
<「
BOOK
」データベース>より
「じつは私、こんなにイケナイ人間なのです」
-
不惑をすぎても妻とケンカ、自分は原始人のニオイがすると浮かれ、忘れ物をしすぎて北極で死にそうに!非日常を追求した『極夜行』の探検家・角幡唯介が、実は小市民的すぎる日常を明かすエッセイ。文庫特典として宮坂学ヤフー会長との「脱システム」をめぐる対談を収録。
<読む前の大使寸評>
著者の角幡唯介氏といえば、兵庫県の偉人・植村直己に次ぐ探検家というのが私の評価なんで・・・この本をチョイスした次第です。
rakuten
探検家の事情
著者の悲喜こもごもの性格が語られているあたりを、見てみましょう。
P59
~
61
<忘れ物列伝>
バルブキャップが流されてしまった・・・。
あせった私は周辺の岸沿いを細かな石の隙間もふくめて徹底的に探した。荻田もテントから出てきてしばらく手伝ってくれたが、結局、数時間探しても見つからなかった。
バルブキャップがないということはゴムボートに空気を入れられないということであり、ボートは使用不可能ということである。そしてゴムボートが使えないということは、この湖と水路が縦横無尽に張りめぐらされたツンドラ無間地獄において移動手段を失ったことを意味していた。
何しろほぼ北極圏の極北地帯なので、渡渉や泳ぎなど到底考えられないほど水は冷たいのである。そのうえ、われわれはこのとき衛星電話などの通信連絡手段を、自らの主義の問題からあえて携帯していなかったので、かりに救助を呼ぼうにも呼ぶことができない。
つまりこのままだと私はこの先で渡渉不可能な川にぶつかったとき、先に一人、ボートで渡河する荻田に「さよなら、気をつけてな!」と手を振って、この広大無辺のツンドラ地帯で昔のイヌイットみたいに狩猟採集生活をしてサバイバルしていかなければならないことになるわけだ。
「どうすんの?」
沈鬱な雰囲気につつまれたテントのなかで、荻田が少し冷めた声色でそう言った。要するに、おれはボートで一人でも帰れるけど、お前は本当にサバイバルでもするのか?
と訊いているのだ。いくらパーティーを薫でいるとはいえ、冒険行為は自己責任が原則である。現場での失敗の責任を仲間が連帯する義務はなく
(
義理や誼となると話はべつだが
)
、そのへんはわれわれもシビアに考えている。
併し認識がいくらシビアでも頭のネジがゆるんでいてはどうしようもない。彼はたぶん度重なる私の失態にウンザリしていたのだろう。この旅では最初にレゾリュートを出発した直後の段階で、私はスキーを乱氷にひっかけて壊すという失態を演じていた。
スキーはその日の夜に針金やビスなどで応急修理して問題なく使いゆづけることができたが、この段階ですでに彼は、私ががさつで慎重さに欠ける人間であり、冒険旅行というシビアな現場でもその性格は変わらないことを見抜いていたのだ。そして、そこに不安をいだいてもいた。
彼自身は自分で「おれは絶対にミスをおかさない」と豪語する自信家なので、取り返しの付かない失敗を次々とおかしては平然と居直っている私という人間が信じられなかったにちがいない。
ただ、私のほうはというと、失くした瞬間こそ気分はどん底に沈んだが、探しながら、まあ、どうにかなるか・・・と気をとりなおしていた。立ち直りが早いのは私の唯一の取り柄である。キャップがなくなったのなら代用品を作ればいい。生れてこのかた、忘れ物、落とし物などに苦しめられてきた私は、冒険旅行の現場でもそれを完全に防ぐことはもはや不可能、装備というのは失くしたり壊れたりするのが当たり前ということを前提に考えていたし、実際これま
でもなんとかなってきたので、バルブのキャップだって代わりのものが作れるにちがいない
と、テントに戻ったときにはすでに余裕をとりもどしていたのだった。
https://plaza.rakuten.co.jp/foret/diary/202508250000/
:著者の修行時代
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