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May 5, 2022
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カテゴリ: REALIZE2
一晩休むと、ヒカルもすっかり元気になっていた。朝からリッキーは老人の薪割りを手伝い、ヒカルとハワードは近くの川で魚を釣ってきた。そして揃って畑を耕したり収穫を手伝ったりした。ベスは小屋の中の掃除をがんばり、ご飯の支度を手伝った。昼食をとったあと、今まであまり目を合わそうとしなかった老人が4人の前に座って語りだした。その昔、華やかだった在りし日の旧アイスフォレスト王国の話だ。

「贅沢を極めた貴族たち、商魂たくましい商人たち、平民たちも精一杯に生きていた。しかし、王族には平民の生活が見えていなかった。あの災害で最初に亡くなったのは平民たちだ。地響きを立てて襲い掛かってくる土石流になすすべもなく村ごと流されていった。今のアイスフォレストはどうだ?少しはマシになったようだが、あの悪ガキのガウェインに平民を守る意思はあるのだろうか。王太子となる青年はずいぶんひ弱だと聞くが、ちゃんと世間が見えているのだろうか」

 問いかけるように一人一人に視線を送る。ヒカルは、そんな老人の視線を跳ね返すように訴えた。

「陛下は、すべての国民を大切に考えています。」

 老人の目がヒカルを捉える。薄茶の髪に薄いとび色の瞳。そして、まっすぐに見つめ返す強い視線にふっと合点がいった顔をした。

「ところでそなたのようなまだ若い娘が、ずいぶんと過酷な旅をしているのだな」
「はい、父と先生に世間をしっかり見て来いと、そして視野を広げて来いと言われました。確かに昨夜は厳しい状況でしたが、私には、頼りになる仲間がいますから、たとえ疲れて座り込んでも、また立ち上がることが出来るのです」
「ほう…」

 真剣な目で見つめるヒカルを、どこか懐かしさを感じるような表情で見つめ返した。そして、思い出したように告げた。



 4人は荷物をまとめて、若い衆が来る直前まで薪割を手伝った。そして、老人に礼を言って、馬車に揺られて街までやってきた。

そのまま市場に向かうと言う若い衆に礼を言って街を歩きだすと、早々に見覚えのある馬車に出会った。どうやら問屋に売りつけに来ていたようだ。店の前では店主と見覚えのある御者が言い合いをしている。店主は、馬車の荷台の後ろに小さく記された王家の紋章を指さして「こんなものを買い取るわけにはいかない」と恐れおののいていた。

「あの、商談中のところを失礼するよ。これはうちの馬車なんだ。返してもらおうか」

 言うが早いか、リッキーが御者の首根っこをひねり上げ、早々に縄で締め上げた。

「食品も着替えも路銀も無事です。ご亭主、お騒がせしました。」
「いや、しかし。あなたたちはいったい…」

 店主が戸惑うのも無理はなかった。4人はそろってどろどろの服を着て、髪もぼさぼさだった。仕方なく、ヒカルが紋章の入ったお守り袋を見せると、やっと店主も納得した。

 そこからは、リッキーが御者を務め、ベスも隣に座ることにした。街中の宿に落ち着くと、途中で買っておいた軽食を取り、ゆっくりと湯あみをして、ふかふかのベッドで横になる。生き返ったとつぶやいたのは、ヒカルだけではないだろう。

 翌朝、4人は馬車に乗り込み、再び東の最果てを目指した。ベスがリッキーの隣に座ったことで、馬車の中は二人きりになってしまった。ぎこちないながらも歴史の講義は続く。

「ここまでで分からないところはありますか?」

 講義の終わりにハワードが尋ねると、ヒカルは少し考えてからぽつりとつぶやいた。



 言いながらも自信のなさが瞳ににじむ。

「私のような小娘に心配されるなど、不快かもしれもしれませんが、旅の仲間として、できるなら力になりたいのです」
「ヒカル…。いえ、ご心配には及びません。馬車も手元に戻ってきましたし、これで安心して旅が続けられますよ」

 笑顔で返すハワードをじっと見つめていたヒカルだったが、視線は徐々に下がって、しまいには首を垂れてしまった。

「そうですか。私がもう少ししっかりしていればよかったのですが。不甲斐ない私で本当に申し訳ないです」

「旅の仲間に信頼してもらえなかったということです。もとより王座に就く者ではありませんが、これでは王族として失格です。」
「…はぁ。あなたって人は、本当に15歳なんですか?まるで大人のような発想ですね」

 途端にヒカルは口をへの字にしてすねてしまった。

「どうせ私はおばさん思考ですよ。友達にもよくからかわれていました。まるでお母さんとしゃべってるみたいだって」
「ふぅ。殿下の教育が行き届きすぎだったのですね。その考え方は王族ならではなのでしょう」

 参ったなぁと考えを巡らせていたハワードは、あきらめたように向き直って告げた。

「…そうですね。白状すると、私は、もう少しだけ、少女らしいヒカルの姿を見ていたいと思ったのです。だから、その時が来たら、私の抱えているものについても聞いていただけますか?」

 真摯な態度のハワードに、少しわだかまりを残したままのヒカルも「分かった」と言うしかなかった。

 しばらくすると、馬車の外から声がかかった。もうすぐ次の街に入るという。今回はここで宿に泊まることになった。2日かけて歩いたあの土地を、馬車では遠回りしていくしかないのだという。窓の外は、金色の麦畑が広がっている。風になびく麦の穂が波のように美しかった。

つづく





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最終更新日  May 5, 2022 09:18:24 AM
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