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May 18, 2022
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カテゴリ: REALIZE2
その頃ハワードは、カリフォルニアの住宅エリアに来ていた。観光客の多い道路を避け、細い路地を抜けて長い坂道を登っていくと、緑の屋根のこじんまりした家がある。門の前までくると、スミスと書かれたウェルカムボードが置かれている。

「懐かしいなぁ」

 そっとウェルカムボードに触れた後、庭を覗いてみると、子どもの頃遊んだブランコが未だ健在だった。

「リチャード、リンダがお庭に行きたいんだって、少し付き合ってあげて。今手が離せないの」

 家の中から若い女性の声がした。そのまま庭を通り過ぎて様子を見ていると、明るい金髪を短く刈り上げた男性が、同じく明るい金髪の巻き毛を愛らしく編み込んだ幼女を連れて出てきた。

「よーし、今日は天気がいいからブランコしようか。リンダ、ここにすわってごらん」

 楽しそうに笑い声をあげる子どもと、目じりを下げたリチャードがブランコで遊んでいる。ああ、子どもの頃はあいつともあんな風に遊んだなぁ。ハワードは懐かしさを抑えて通り過ぎ、少し離れたところから懐かしい我が家を眺めることにした。
 その時、家の中からリチャードを呼ぶ声がした。

「リチャード、電話よ」


 リチャードが急いで家の中に入ってしまった。リンダはしばらくゆらゆらとブランコに揺られていた。お天気が良く庭でのんびりするにはぴったりの休日だ。
 ハワードは、もし自分に子供が生まれたら、あんな感じなのだろうかと少し離れた場所からぼんやりと眺めていた。ヒカルの薄茶の巻き毛も捨てがたいなぁ。などと考えていると、家の裏側から不審な動きをする男が現れた。ハワードが反射的に自宅に駆け戻ると、リンダが口元を抑えられているところだった。
 ハワードは夢中で庭に飛び込むと、男を蹴散らした。飛び込んだ拍子に、目深にかぶっていた帽子が転げ落ちる。突然やってきたハワードにひるんだ男は慌てて逃げ去った。ハワードは男を追いかけず、ベソをかいている幼い少女に近づいた。そして、胸ポケットにあるブレスレットを取り出して、リンダに差し出した。

「怖かったね。もう大丈夫だよ。これはお守り石が入ったブレスレットだ。良かったら持っててね」
「おにいちゃん、だぁれ?」

 リンダはまだまるい頬に涙の粒をつけたままブレスレットを受け取ると、ハワードを見つめてはっとした。

「パパとおんなじお目目」

 それには答えずに微笑み返すと、「じゃあね」と立ち上がり、帽子を拾って再び目深にかぶると、そのまま庭の柵を超えて去っていった。

「リンダ、どうした?大丈夫か?」

 物音を聞いてやってきたリチャードに、リンダは嬉しそうにブレスレットを見せた。

「あのね。怖い人が来たの。お口をぎゅってされたのよ。そしたらね、かっこいい王子様が来たの。パパとおんなじお目目の人だったよ。悪い人をやっつけてくれたの。怖かったねぇって言って、お守りだよって。」


 リチャードはすぐさま道路に飛び出して辺りを探したが、ハワードの姿を見つけることはできなかった。その頃ハワードは、すでに撮影スタジオに向かっていた。手にはリンダのふわふわした柔らかな感触が残っている。ヒカルとはまた違った愛しさを覚える。

「元気に大きくなってね。」

リチャードがちゃんと父親として暮らしている姿を見られたのが何よりもうれしかった。

 通いなれたスタジオには監督がいるはずだ。彼には一度きちんと会って謝罪しなければならない。スタジオの入り口前で、係員に監督を呼んでほしいというと、怪訝な顔をされた。仕方なく目深にかぶっていた帽子を取ると、明るい金髪がさらりと肩に零れ落ちた。

「お久しぶりです」



「ハワード!戻る気になってくれたか!」
「監督、今日は、謝罪とお別れを言いに来ました。長らくよくしてくださってありがとうございました。事故に遭って、しばらく記憶をなくしていたのです。でも、もうそちらの世界で生きて行こうと決めました」

 監督は蒼白な顔で嘆く。

「ふう、これはえらいことだぞ。世界中の女性が号泣だ」

 監督は頭を抱え、ハワードは大げさだと笑った。

「あの時の子役の子、良い感じに育ってるんじゃないですか? ちょうど僕がデビューした年齢ぐらいにはなってるでしょう」
「ああ、そうだ。あいつもお前に会いたがっていた。親は子役だけにさせて、他の道に進ませたいようだったが、おまえさんの演技が気に入ってずっと俳優をやると言い出したんだ」
「そうですか。彼の事どうぞよろしくお願いします」

 監督は残念そうに眉を下げ、名残惜し気にハワードを見つめた。

「決心は固いんだな。はぁ、チクショー。どんな道に進むのか知らんが、がんばれよ!俺はいつでも応援している。うまくいかなかったら、いつでも戻ってこい」

 二人は固く握手して、それぞれの道に別れて行った。スタジオを出ると坂道から海が見えた。この海を見ることはもうないかもしれない。それでも、ハワードはためらわずに水晶玉を握り締めた。

つづく





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最終更新日  May 18, 2022 08:23:54 AM
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