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2008.01.25
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見張り戊辰戦争始末記

                 (三春町内)


と言って恭順の使者を二本松藩に送っていたのである。
 そして季春のこの言葉を胸に、使者の大山巳三郎が、すでに出発していた。嘉膳の手配で動いていた二本松藩穏健派の秋山次郎左衛門の働きにより、ようやく二本松藩上層部との連絡が取れたからである。
 これらの手配をしながら、秋田季春はまだ釈然としていなかった。
「叡感勅書では、『官軍諸道より進撃救援可有之に付』と申しておるのに、なぜわが藩はここで降伏せねばならぬのか! 降伏願を提出することは、わが藩が賊軍である、と認めることになるではないか!」
 嘉膳は季春が言うのを聞きながら、声も出なかった。
 ──三春藩降伏では、わが藩の恥辱ではないか!
 彼自身、痛切にそれを感じていた。
 ──あの必死で得た叡感勅書に、何の意義もないというのか!

 七月二十五日、新発田藩(新潟県)が奥羽越列藩同盟を離脱、新政府軍と共に会津攻撃に参加した。三春には、伝令が引きも切らず城に入っていた。
  [応援の会津勢は船引に出陣、第二戦線の構築をはじめました]
  [蓬田の新政府軍は、三春より南へ二里の赤沼に迫っております。わが藩
  兵は、新政府軍との連絡に成功いたしました]
  [須賀川の同盟軍は、自ら須賀川の町に火を放ちました。須賀川陥落は、
  目前かと思われます]
 それらの情報を聞きながら、季春は時間のないことを悟っていた。
 ──もはやこれまで。
 季春はそう思うと叡感勅書と降伏願を持ち、赤沼方面に出発した。もはや「降伏」という言葉に対する面子に、こだわっている時間がなかった。しかもそれを提出した場所は、貝山村であった。貝山村は、三春の隣の村で、城から一里ほどの所である。河野広中らの嚮導による新政府軍の一部は、既にここまで進出していたのである。
 七月二十六日の払暁、新政府海軍は小野新町を攻撃した。ここの明神山を守備していた二本松兵は勇敢に戦ったが、三春兵と共にここの赤沼を守備していた仙台兵は突如、広瀬村(いまの滝根町広瀬)に退却、残されて少数となった三春兵は戦わずして三春へ逃げ帰った。
 そしてこの日の早朝、三春にいた福島藩兵や残っていた同盟軍が北の二本松方面へ逃れて行って間もなく、舞鶴城下には緊急事態を告げる三ツ打ち太鼓が乱打された。城には、二十人位の徒士が登城して来た。もはやそのくらいの兵しか、町には残っていなかったのである。嘉膳はそれらをまとめると、大手門に仁王立ちになった。城に逃げ込んで来る領民も多く、城下は騒然としていた。
 またこの日、大政天皇を擁して北部政府を標榜した奥羽越列藩同盟は、同盟軍つまりは北部政府軍自らを官軍と称し、新政府軍を西賊と呼ぶことを決定した。しかし、名前だけをいくら取り繕っても、その官軍側では敗退や脱落が相次ぎ、すでに満身創痍の状況であった。
 一方このとき、嘉膳の頭を中をよぎっていたのは、
 ──叡感勅書を、北部政府側に明確にする機会を失ってしまった。
 という辛い思いであった。

  [官軍大勢柴原道より入りきたる。太鼓笛にて行列を立て、二千人余、人
  足荷物多く用物玉薬沢山なり。貝山道、鷹巣道よりも入りきたる。家中町
  家は皆人多く市の如く賑ひけり。守山筋よりも入りきたる。惣軍は五~六
  千人なり。外に人足千余人なり]
 このとき三春の領民は、新政府軍の鼓笛隊が打ち鳴らす軍歌をはじめて耳にした。

       宮さん宮さんお馬の前に
           ひらひらするのはなんじゃいな
               トコトンヤレトンヤレナ
       あれは朝敵征伐せよとの
           錦の御旗じゃ知らないか
               トコトンヤレトンヤレナ
       長い刀は伊達には差さぬ
           朝敵征伐するためよ
               トコトンヤレトンヤレナ
       薩摩轡で止まらぬ時は
           長州鉄砲で攻めてやる
               トコトンヤレトンヤレナ
       軍をする身と生まれたからにゃ
           どこのいずこで果てるやら
               トコトンヤレトンヤレナ
       国の土産に生首下げて
           白河発つときゃお目出たい
               トコトンヤレトンヤレナ

 やがて新政府軍の幹部十人ほどが舞鶴城西殿に入ってきたが、三春藩家老・秋田作兵衛はただ一人出ると帰順の御礼を申し上げ、人々を集めて役所を立てて御用を務めた。そのときの新政府軍は、薩摩・長州・人吉・土佐・彦根・柳川・大村・忍・佐土原・大田原・細川・烏山・黒羽・笠間・佐倉・備前・館林・古河・阿波の諸藩で、町家に分宿した。その夜の三春は、[今日の御繰込ニて御用多事筆ニ尽くしかたし]という状況であった。しかし嘉膳は、これらの混乱の中で、気の利いた農民の橋本周次を召し出すと、二本松藩へ恭順の勧告に行っている大山巳三郎を追わせた。大山に、三春藩帰順の事実を知らせなければならなかったのである。橋本周次は、翌二十七日の早朝、二本松へ出立して行った。
 この七月二十七日、船引に撤退していた北部政府軍は、小野新町から三春へ入ってくる新政府海軍に押し出されるようにして、二本松へ逃走した。
 この日、秋田季春らが新政府の参謀局に呼び出され、守山藩とともに正式に帰順が認められた。この無血開城が認められたのは、新政府軍の断金隊々長である土佐藩の美正貫一郎の奔走によるものが大であった。今度は三春から守山に、新政府軍の柳川・大村の藩兵が防衛のため進駐して行った。そして三春兵も錦旗印章を与えられ、新政府軍に組み込まれていった。







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最終更新日  2008.01.25 21:39:09
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