2017年7月31日18:00に欧州物価指標「HICP速報値」が発表されます。今回発表は2017年7月分の集計結果です。
同時刻に、欧州雇用指標「6月分失業率」の発表が予定されています。がしかし、本指標と比べた場合、過去の反応を見比べると無視しても差し支えないでしょう。
今回の市場予想と前回結果は次の通りです。市場予想は本記事作成時点の値です。
※ 本稿は7月30日に記しています。市場予想は発表直前に確認しておきましょう。
本指標の特徴は以下の通りです。
- 反応程度は小さく、過去の指標発表直後に63%が10pips以下しか跳ねていません。反応方向は、HICP>コアHICPに影響されます。但し、あまり素直に反応する指標でもありません。
- 追撃にはあまり適していません。やるなら、指標発表後に早期参加・短期利確です。
- 指標発表前後1分間を除くと、指標結果の影響よりも、その時々のトレンドが影響しているように見受けられます。
定型分析の結果は以下の通りです。
調査・分析結果は以下の通りです。
- 指標結果の予想分析の結果、次のことが言えます。
(1) まず先に、指標発表前後1分間の反応方向には偏りがあります。これは、指標結果の予想を当てても取引に意味がない、ということです。
(2) 市場予想はかなり精度が高く、発表結果と0.2以上ズレたことが2015年以降たったの3回しかありません。我々のような日本のアマチュアが調べきれていなくても、本指標で取引するプロはHICP速報値をかなり精度良く当てているのです。この取引は(もともとそうですが)アマチュアに不利です。 - 過去のローソク足には次のような特徴が見受けられます。
(1) 直前1分足は陽線側にヒゲを残して陰線となることが多くなっています。たいしたpipsではないようですが、発表時刻を跨いでポジションを取るなら、指標発表直前まで我慢した方が良いでしょう。
(2) 指標発表前のローソク足方向が、指標発表後の方向を示唆している兆しは見受けられません。 - 定型分析の結論は次の通りです。
(1) 直後1分足と直後11分足との方向一致率は71%となっているものの、その71%の方向一致時だけを取り上げて直後1分足と直後11分足とを比較すると、跳値同士・終値同士で反応が伸びたことは各60%・60%です。また、直後1分足終値がついた時点では、それからも反応が伸び続けて直後11分足終値が直後1分足終値を超えた事例は43%しかありません。
反応が伸び続けることが少ない以上、追撃するなら早期参加・早期利確です。
(2) 直前1分足は陰線率が86%、直後1分足は陽線率が82%と、偏りが目立ちます。両者の方向一致率は25%(不一致率75%)となっており、矛盾ありません。
単純な陰線・陽線への偏りなので、指標結果にあまり関係ない指標だと言えるでしょう。
(3) 事後差異と直後1分足との方向一致率は68%で、発表結果の市場予想に対する良し悪しに素直に反応するのは3回に2回程度です。3回に2回という確率は低くないものの、取引基準の70%には達していません。
以上の詳細ないしは論拠は、以下の「?T.調査・分析」に記しています。
?T.調査・分析
公開情報や既出情報に基づく調査を行い、過去の指標と反応の関係を比較分析しています。方向に関する的中率に比べ、程度に関する的中率は残念ながら低いというのが実情です。利確・損切の目安は、過去平均値を最近の反応の大小と見比べて感覚的に微修正しています。
【1. 指標概要】
本指標の意義は、ECB金融政策に影響を与えることです。
毎月、速報値と改定値が発表されます。速報値も改定値も反応は小さいものの、速報値の方が10pips前後の反応が期待できるので、取引には適します。
速報値では前年比のみが発表されます。
EU以外の日米独英豪等の主要国では、消費者物価指数をCPIと表します。欧州のそれだけがHICP(= Harmonized Indices of Consumer Prices)と表記されます。FX参加者にとってはHICPもCPIも同じ内容だと思っていても構いません。
消費者物価指数は、一般消費者から見た商品・サービスの価格変化を表しています。
ECB(欧州中央銀行)は、実質的にインフレ目標(前年比2%付近で以下)を設定しています。現在、その近辺まで回復したという見方と、まだ目標付近に安定していないという見方があり、ECB政策に絡むだけに本指標は重要視されています。
ECBのHPは こちら です。
ーーー$€¥ーーー
本指標に関する調査期間と、過去の反応程度・分布を下表に纏めておきます。
最も指標結果に素直に反応する直後1分足跳幅は、過去平均で10pipsです。発表直後の反応が小さいため、発表前のトレンド方向を確認しておく必要があります。
また上表分布を別の言い方で説明すると、
- 7pips以下だったことは33%
- 8-10pipsが30%
- 11-15pipsが14%
- 16pips以上は23%
です。
つまり、過去63%が10pips以下しか跳ねていないのです。
過去の発表結果と市場予想を下図に一覧します。
下図は、前回改定値と市場予想と発表結果をプロットしています。経済情勢を正確に分析するためには、発表値修正値を見るべきです。がしかし、このブログの目的は、発表結果がどう反応するかに特化しています。そのため、市場予想は発表直前の値をプロットし、定時発表値のままをプロットしています。後日、修正値が発表されても、このグラフには反映していません。
ふたつのグラフは、上がHICP前年比速報値で、下がコアHICP前年比速報値です。以下、面倒なので単に、前者をHICP、後者をコアHICPと記します。
簡単なことから見て取ると、上のHICPグラフは、全体的に上昇基調でしたが、2017年2-4月に2つピークを形成後、やや下降に転じたように見えます。今回発表で前回結果を下回れば、下降基調転換との解釈する方が自然です。再び上昇に転じたと見て取るには、2017年3月結果の+1.5%を上回る必要がありそうです。
次に、下のコアHICPグラフは、2017年3月を直近の底とし、もし今回が前回結果を多少下回ってもまだ、下降基調転換とは言い切れません。2017年5月結果の+0.9%を下回れば下降転換、2017年4月結果の+1.2%を上回れば上昇継続、と見えるでしょう。
この、発表後に上昇基調と見て取れるか、下降基調と見て取れるかは、結局のところ、発表結果が市場予想を上回るか下回るかと同じことです。中間的などちらかわからない発表結果がどの範囲かを考えるための方便で- 反応程度は小さく、過去の指標発表直後に63%が10pips以下しか跳ねていません。反応方向は、HICP>コアHICPに影響されます。但し、あまり素直に反応する指標でもありません。
- 追撃にはあまり適していません。やるなら、指標発表後に早期参加・短期利確です。
- 指標発表前後1分間を除くと、指標結果の影響よりも、その時々のトレンドが影響しているように見受けられます。
HICPは+1.3%〜+1.5%が、良い結果か悪い結果かの解釈が難しい中間値(小さい陽線)、コアHICPは+0.9%〜+1.2%が中間値(反応方向はわかならい)、です。
ーーー$€¥ーーー
各項目が反応方向にどの程度影響しているのかを調べておきました。
一般に、事後差異(発表結果ー市場予想)と直後1分足の方向一致率は高くなります。この方向一致率が高いほど「素直に反応する」指標だと言えます。
上表から、事後差異と直後1分足との方向一致率は、次の式のように重み付けすると、発表直後に指標結果の影響を受がちだという前提が満たせます。
3?HICPの差異ー1?コアHICPの差異 - 7pips以下だったことは33%
- 以上の調査・分析結果に基づき、以下のシナリオで取引に臨みます。
(0) 以下の取引は、16:00以降に強い下降トレンドを生じている場合、全て諦めます。無理に取引する指標ではありません。
(1) 直前1分足は陰線と見込みます。
(2) 直後1分足は陽線と見込みます。指標発表直前にポジションを取り、発表直後の跳ねで利確であれ損切であれ、ポジションを解消します。
(3) 追撃は、発表後に早期参加し、なるべく発表後1分以内に終えます。
この式から、反応方向に影響するのはHICPの方で、コアHICPはHICPの差異が0のときに逆方向への反応に影響する、と言えます。
ーーー$€¥ーーー
本指標取引には関係ない話ですが、本指標の「改定値」は「指標分析に基づく取引」に全く向いていません。
先に挙げたHICP・コアHICPのグラフをもう一度ご覧ください。黒ドットが改定値のプロットですが、HICPのグラフでもコアHICPのグラフでも、黒ドットがほぼ速報値のドットに隠れて見えません。これは、本指標改定値が速報値からほとんど修正されていない、ということです。
でも、改定値の発表前後だってチャートは動いています。
つまり、その動きは指標結果の良し悪しとは関係ない動きだということです。
欧州物価指標のHICPは、この記事の「速報値」反応方向の偏りを見ても、そして改定値が速報値からほぼ修正されないことを見ても、指標結果の良し悪しなんて分析しても意味がない、ということです。
(2-2. 過去反応)
過去の直前10-1分足・直前1分足・直後1分足・直後11分足の始値基準ローソク足を示します。
ここまでの話で明らかになったように、本指標のローソク足分析には意味がありません。
【3. 定型分析】
反応性分析では、過去発表直後の1分足と11分足の跳幅と値幅を使います。この分析で十分なpipsが狙えそうな指標か否かが判断できます。詳細は 「反応性分析」 をご参照願います。
反応一致性分析は、指標発表前後の反応方向に特徴的な偏りがないかを調べています。詳細は 「反応一致性分析」 をご参照願います。
指標一致性分析は、指標の前回結果と市場予想の差(事前差異)と、発表結果と市場予想の差(事後差異)と、発表結果と前回結果の差(実態差異)を求め、そのプラス・マイナスと反応方向に偏りがないかを調べています。詳細は 「指標一致性分析」 をご参照願います。
反応性分析の結果を下表に示します。
直後1分足と直後11分足との方向一致率は71%です。そして、その71%の方向一致時だけを取り上げて直後1分足と直後11分足とを比較すると、跳値同士・終値同士で反応が伸びたことは各60%・60%です。また、直後1分足終値がついた時点では、それからも反応が伸び続けて直後11分足終値が直後1分足終値を超えた事例は43%しかありません。
次に、反応一致性分析の結果を下表に示します。
直前1分足は陰線率が86%、直後1分足は陽線率が82%と、偏りが目立ちます。両者の方向一致率は25%(不一致率75%)となっており、矛盾ありません。
最後に、指標一致性分析の結果を下表に示します。
事後差異と直後1分足との方向一致率は68%で、発表結果の市場予想に対する良し悪しに素直に反応するのは3回に2回程度です。
【4. シナリオ作成】
巻頭箇条書きのシナリオの項をご参照願います。
以上
2017年7月31日18:00発表
以下は2017年7月31日19:45頃に追記しています。
?U. 結果・検証
【5. 発表結果】
(5-1. 指標結果)
本指標発表結果及び反応は次の通りでした。
結果は、HICPが前回結果・市場予想と同値、コアHICPが前回結果・市場予想を上回りました。事後差異はプラスとなり、反応は陽線で素直でした。
指標は、HICPがもし前回結果・市場予想を下回ると、下降基調が鮮明になるところでした。が、1%台に踏み留まりました。コアHICPは、今回が前回結果を上回ったことで、上昇基調を維持しているように見えます。
これなら陽線での反応も納得できます。
反応は、発表から1-2分後に129.9付近で上昇が抑えられ、再び18:05に同値付近で頭が抑えられました。これは、この付近に1時間足の雲下端があって、それがレジスタンスとして働いたからです。18:50時点で、結局、このレジスタンスを上抜けできずに、ほぼ指標発表前の129.7付近まで戻されています。
(5-2. 取引結果)
取引結果は次の通りでした。
最後はシナリオ外取引で、レジスタンス到達を確認して逆張りで少し稼ぎました。
【6. 分析検証】
(6-1. 分析検証)
事前調査分析内容を、以下に検証します
- 事前分析では、反応程度が小さく、過去の指標発表直後に63%が10pips以下しか跳ねていない、と指摘していました。また、反応方向は、HICP>コアHICPに影響される、と記していました。あまり素直に反応する指標でもない、と記していました。
結果は、過去平均よりやや大きく14pipsの跳ねて、方向は素直でした。HICPは市場予想と同値だったので、反応に寄与していません。
次回の内容見直しは、まだ必要ありません。 - 事前分析では、追撃にあまり適しておらず、やるなら指標発表後に早期参加・短期利確と、記していました。
結果的にこの内容で良いものの、今回は1時間足の雲下端がレジスタンスとして存在していたことが、反応が思うように伸びなかった原因です。 - 事前分析では、指標発表前後1分間を除くと、指標結果の影響よりも、その時々のトレンドが影響しているように見受けられる、と記していました。
今回も、時間足・4時間足チャートのレンジを抜け出せない、という意味では分析通りです。
(6-2. シナリオ検証)
事前準備していたシナリオを検証しておきます。
- まず、取引の前提だった「16:00以降の強い下降トレンドなし」を確認しました。
- 直前1分足は陰線と見込んでいました。
結果は陰線です。分析を当てて取引で損切ですから、やっぱり下手なのですね。 - 直後1分足は陽線と見込んでいました。指標発表直前にポジションを取り、発表直後の跳ねで利確であれ損切であれ、ポジションを解消するつもりでした。
結果は、ポジション取得が遅れて、記録を見ると18:00:01にポジション取得しています。これで損切になっていたらたまりません。分析でなく、ポジション取得のタイミングに問題がありました。 - 追撃は、発表後に早期参加し、なるべく発表後1分以内に終えるつもりでした。
問題ありません。
下表に、本ブログを始めてからの本指標シナリオでの取引成績を纏めておきます。
以上
ーーー注記ーーー
本記事は、同じ指標の発表がある度に更新を繰り返して精度向上を図り、過去の教訓を次の発表時の取引で活かせるように努めています。がしかし、それでも的中率は75%程度に留まり、100%ではありません。詳細は 「1. FXは上達するのか」 をご参照ください。
そして、本記事は筆者個人の見解に基づいています。本記事に含まれる価格・データ・その他情報等は、本記事に添付されたリンク先とは関係ありません。また、取引や売買における意思決定を、本記事の記載通りに行うことは適切ではありません。そして、本記事の内容が資格を持った投資専門家の助言ではないことを明記しておきます。記載内容のオリジナリティや信頼性確保には努めているものの、それでも万全のチェックは行えていない可能性があります。
ポジションを持つ最終的なご判断は読者ご自身の責任となります。その点を予めご了承の上、本記事がFXを楽しむ一助となれば幸いです。
ーーー注記ーーー
本記事における分析シート、一部乃至は一連の体系化された手順を、個人の取引以外の目的で使用・公開・二次利用を行う場合には、著作権者及びFX手法研究会に対し、連絡を取り何らかの合意を行う必要があります。
以上