この分析の調査範囲は、2013年1-3月期集計分〜2017年7-9月期集計分(同年10月発表速報値)の18回分です。
?T.定性的傾向
【1. 指標概要】
本指標の意義は、当該期の総合的な経済実態を表し、政府や中銀の政策に影響を与える点です。
主要国では、翌期に速報値・改定値・確定値が順次発表され、平均的な反応が最も大きいのは速報値です。
英国のGDP速報値は1・4・7・10月に発表されます。1月発表の前年10-12月期GDP前年比は、前年の成長率と読み替えられます。
GDPの内訳には大きくふたつの捉え方があります。支出項目別と産業別構成比です。
英国の場合、支出項目別では、民間最終消費(65%)>政府最終消費(19%)>総固定資産形成(17%)>在庫品増加(0%)>財貨・サービスの総輸出(△2%)、の順となります(出典:国連統計資料2015年)。
産業別構成比では、商業・飲食・宿泊(12%)>運輸・倉庫・通信(10%)>製造業(9%)>建設業(5%)>鉱業・光熱・上下水等(3.1%)>農林水産狩猟(1%)>その他(60%)、の順となります(出典同じ)。国連が何でこんなにその他が多い資料を発表しているのか謎ですが、その他の内訳は金融保険・教育・医療健康・防衛などが占めると推察されます(英雇用統計補足資料の就業者数から)。
さて、後記図示するように、本指標前月比は2014年4-6月期をピークに、前年比は2014年1-3月期をピークに下降基調となっています。
少し意外ではないでしょうか。
2016年EU離脱国民投票の2年も前から成長率の低下が始まっていたのです。
この大きなトレンドな中では、GBP安による輸出好調による一時的な成長率回復や、失業率が既に3年以上に亘って改善トレンドも関係ありません。タイミングで言えば、物価上昇も2015年以降に顕著になったのだから、成長率下降転換の理由説明になりません。
タイミングだけで言うなら、住宅価格の下降トレンド転換です。
【2. 反応概要】
過去の 4本足チャート の各ローソク足平均値と、最も指標結果に素直に反応する直後1分足跳幅の分布を下表に纏めておきます。
指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足跳幅は、過去平均で26pipsです。改定値ではそれが17pips、確定値では18pipsです。速報値への反応が大きくなる理由は、最も発表結果と市場予想の乖離が大きくなるからです。
分布はほぼ2回に1回が20pips以上跳ねています。13pips以下しか跳ねなかったことは28%、14-36pips跳ねたことは50%、37pips以上跳ねたことが22%です。
反応が大きく、指標発表時刻を跨いでポジションを持つことには慎重であるべきです。
次に、直近3年間の反応平均値の推移を下図に示します。
反応が過去3年間に徐々にもっと小さくなってきています。2017年に至っては、とうとう直後1分足跳幅が20pipsを割ってしまいました。
その理由のひとつに、2017年の本指標発表時には前回結果(確定値)を下回ることが多かったことが挙げられます。円クロスでは、指標が下降基調のときになぜか反応が小さくなる傾向があります。
そのことを、直後1分足値幅と直後11分足値幅の分布で確認しておきましょう。
直後1分足値幅(x)に対する直後11分足値幅(y)は、回帰式(赤線)の傾きが1.20となっており、平均的には反応がかなり大きく伸びる指標、と言えます。
ただ、直後1分足終値(横軸)が0を境に、右側にドット分布が多く、左側にドット分布が少なくなっています。これが、前述の指標が下降基調のときに反応が小さくなる事象を表しています。発表結果が市場予想より良くても前回結果を下回れば、陽線で反応しても頭を押さえられてしまいます。
そして、対角線(黒線)上下のドット分布を見ると、いわゆる「抜けたら追う」べき閾値(しきいち)が直後1分足が陽線で値幅10pips以上と見受けられます。
逆に、直後1分足が値幅20pips以上の陰線だった場合は、直後11分足値幅が直後1分足値幅を削っています。
?U.定量的傾向
分析には、事前差異(=市場予想ー前回結果)と事後差異(=発表結果ー市場予想)と実態差異(発表結果ー前回結果)を多用します。差異がプラスのとき陽線・マイナスのとき陰線と対応していれば、反応が素直だと言うことにします。
【3. 回数分析】
下図は発表結果と市場予想をプロットしています。市場予想は発表直前の値をプロットし、発表結果は後に修正値が発表されても定時発表値のままをプロットしています。
本指標発表値は前月分の集計データです。グラフ横軸は集計月基準となっています。データは集計月基準で整理しておかないと、他の同時期集計の指標(例えば小売・鉱工業などの他の実態指標)と対比するのが不便になるからです。
グラフは、前月比が2014年4-6月期をピークに、前年比が2014年1-3月期をピークに下降基調となっています。
前述の通り、タイミングだけで言うなら、住宅価格の下降トレンド転換とほぼ一致しています。
反応方向への影響は、前月比>前年比、です。予想と結果の乖離程度を上のグラフで見れば、これは当然のことですね。
事前差異は、1?前月比事前差異ー1?前年比事前差異、という判別式の解の符号(プラスが陽線、マイナスが陰線)と、直前10-1分足の方向一致率が76%です。事前差異に対し、指標発表直前は素直に反応しています。
事後差異は、2?前月比事後差異+1?前年比事後差異、という判別式の解の符号と、直後1分足の方向一致率が80%です。判別式はアテにでき、反応方向は指標結果の良し悪しに素直です。
実態差異は、ー2?前月比実態差異+1?前月比実態差異、という判別式の解の符号と、直後11分足の方向一致率が59%です。前回結果に対する良し悪しは、指標発表前の反応で調整されているため、指標発表後には影響が小さいようです。
(3.1 指標一致性分析)
指標一致性分析 は、各差異と反応方向の一致率を調べています。
発表結果は市場予想を上回ることがやや多いようです(60%)。調査期間におけるほとんどの期間が下降トレンドに属しているので、市場予想が低めだったのでしょう。
事前差異と直前10-1分足の方向一致率が76%です。市場予想が悪ければ直前10-1分足は陰線、良ければ陽線と、素直な動きになりがちです。
事後差異と直後1分足・直後11分足の方向一致率は各80%・70%です。指標結果の良し悪しには素直に反応しています。
直前10-1分足は実態差異との方向一致率が24%(不一致率76%)しかありません。がしかし、実態差異と直後11分足の方向一致率も59%しかありません。実態差異の指標発表後の反応方向との一致率が低いので、取引上の役に立つ情報ではありません。
(3.2 反応一致性分析)
反応一致性分析 は、先に形成されたローソク足と後で形成されるローソク足の方向一致率を調べています。
直前1分足の陰線率が82%、直後1分足の陽線率が76%、と反応方向に偏りがあるようです。
そして、直前1分足と直後1分足の方向一致率は35%(不一致率65%)と、矛盾はありません。
直後1分足と直後11分足の方向一致率は88%と高く、反転リスクは低そうです。
(3.3 反応性分析)
反応性分析 では、過去発表後に反応を伸ばしたか否かを調べています。
直後1分足と直後11分足との方向一致率は88%です。その88%の方向一致時だけに注目すると、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことは67%です。
指標発表後の反応が伸びているのだから、発表後に反応方向を確認したら追撃は早期開始です。
そして、指標発表から1分を経過しても、直後1分足終値を超えて直後11分足終値が伸びていたことが65%あります。発表から1分を過ぎても、順張りでの追撃が適切です。
【4. 特徴分析】
以下に過去の直前10-1分足・直前1分足・直後1分足・直後11分足の始値基準ローソク足を示しておきます。
下図は直前10-1分足の始値基準ローソク足です。
直前10-1分足の過去平均跳幅は11pips、同値幅は4pipsです。値幅方向に対する大きな逆ヒゲが10pipsにも及ぶことも多く、指標発表前も短期取引中心が望ましいでしょう。
指標一致性分析で記したように、最終的には直前10-1分足の方向は事前差異との一致率が76%にも達しています。よって、事前差異と逆方向の逆ヒゲ形成を待って逆張りし、短時間で5pips以上を稼ぐのが理想です。
直前10-1分足が10pips以上跳ねたことは過去11回あります(頻度61%)。
その11回の直後1分足跳幅は平均25pipsで、直後1分足跳幅の過去全平均(26pips)とほぼ同じです。また、この11回の直前10-1分足が10pips以上跳ねた方向が直後1分足の値幅方向と一致したことは6回(一致率55%)です。
よって、直前10-1分足が大きく跳ねても、それが指標発表直後1分足の反応程度や反応方向を示唆している訳ではありません。だから、直前10-1分足が大きく跳ねることがあっても、慌てて釣られないようにしましょう。
次に、下図は直前1分足の始値基準ローソク足です。
反応一致性分析の項で述べたように、陰線率は82%と偏りが目立ちます。この期間に取引するならショートしかできません。
ところが、この期間の取引は指標発表直後と同様、かなり難しいと思います。
直前1分足には陽線側へのヒゲが目立ちます。過去には13pipsもの陽線側への逆ヒゲを形成したこともありました。一方、陽線側への逆ヒゲはなくても、陰線側に25pipsも反応したこともあります。
いつショートを持つかは、すぐにそれを解消できるとき、としか言えません。
考えるのが面倒なら、とにかくショートで指標発表直前まで頑張ることです。大きく負けることはあっても、それで年間ではプラスにできるでしょう。
そして、下図は直後1分足の始値基準ローソク足です。
反応一致性分析の項で述べたように、陽線率は76%と偏りが目立ちます。指標発表時刻を跨いでポジションを取るならロングしかできません。
指標発表直後の跳ねが大きいので、危なくてあまり薦められませんが。
それよりも、反応性分析の項で述べたように、指標発表後の反応方向が判明したら順張り追撃です。直後1分足終値に対して直後11分足終値が反応を伸ばしていたことが65%あります。
何が起きるかはわからないので、それでも短期取引の繰り返しで追撃する方が良いでしょう。
過去の傾向を見る限り、直後1分足が値幅10pips以上陽線だったなら、順張り追撃の徹底です。それが20pips以上の陰線だったなら、直後1分足終値が付く頃に逆張りで数pips狙いです。
最後に、直後11分足の始値基準ローソク足を下図に示します。
直後11分足の過去平均跳幅は36pips、値幅のそれは25pipsです。平均的なヒゲの長さは全幅の31%です。やっぱりポジションの長持ちは避けて、チャンスがあればさっさと利確すべきです。
?V.分析結論
本指標の特徴は以下の通りです。
以下の特徴を踏まえた取引を行うか、その日の値動きが異常なら取引を止めるかがベターな選択肢と考えています。少なくとも過去の傾向に反した取引方法は、長い目で見ると勝率をさげてしまいがちです。
- 大きく反応し、反応方向を示唆する兆しもいくつかあるにも関わらず、取引が難しい指標です。指標発表前から上下動が激しく早いので、狙ったところでポジションが取り難いのです。
- 指標発表前から上下動が大きく、大きな損切をしかねません。いつもに増してタイミングを見て取引は短期で終える方が良いでしょう。
直前10-1分足や直前1分足は大きな逆ヒゲを形成することが多いのです。そのヒゲの方向と指標発表後の反応方向とは関係ありません。
最終的には、直前10-1分足は事前差異との方向一致率が76%、直前1分足の陰線率は82%となっています。 - 指標発表直後の跳ねは大きく、発表時刻を跨いだポジション取得は慎重に行うべきです。
頼るべき論拠は、直後1分足の陽線率が76%と反応方向に偏りがあることです。そして、直前1分足と直後1分足の方向一致率は35%(不一致率65%)なので、取引するなら直前1分足が陰線のとき(陰線になりそうなとき)のロングに限ります。 - 指標発表後は、直後1分足と直後11分足との方向一致率が88%あり、その88%の方向一致時だけに注目すると、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことは67%ある点に注目すべきです。
指標発表後の反応が伸びているのだから、発表後に反応方向を確認したら追撃は早期開始です。このポジションは、遅くとも発表から1分を過ぎたら利確の機会を窺った方が良いでしょう。 - 過去の傾向を見る限り、直後1分足が値幅10pips以上陽線だったなら、順張り追撃の徹底です。それが20pips以上の陰線だったなら、直後1分足終値が付く頃に逆張りで数pips狙いです。
本ブログを始めてからの本指標での取引成績を下表に纏めておきます。
2017年は、本指標で4回の取引を行い、指標単位で4勝、シナリオ単位で8勝4敗(勝率67%)でした。1回の発表毎の平均取引時間は9分49秒で、損益は年間で+23pipsでした。
指標発表前から上下動が大きく、取引が難しい指標です。
以上
ーーー注記ーーー
本記事は、同じ指標の発表がある度に更新を繰り返して精度向上を図り、過去の教訓を次の発表時の取引で活かせるように努めています。がしかし、それでも的中率は75%程度に留まり、100%ではありません。詳細は 「1. FXは上達するのか」 をご参照ください。
そして、本記事は筆者個人の見解に基づいています。本記事に含まれる価格・データ・その他情報等は、本記事に添付されたリンク先とは関係ありません。また、取引や売買における意思決定を、本記事の記載通りに行うことは適切ではありません。そして、本記事の内容が資格を持った投資専門家の助言ではないことを明記しておきます。記載内容のオリジナリティや信頼性確保には努めているものの、それでも万全のチェックは行えていない可能性があります。
ポジションを持つ最終的なご判断は読者ご自身の責任となります。その点を予めご了承の上、本記事がFXを楽しむ一助となれば幸いです。
ーーー注記ーーー
本記事における分析シート、一部乃至は一連の体系化された手順を、個人の取引以外の目的で使用・公開・二次利用を行う場合には、著作権者及びFX手法研究会に対し、連絡を取り何らかの合意を行う必要があります。
以上