妊娠と出産
香織は聡一と別れてから会社を辞めた。東京へ帰る準備をしているときに体の変調に気付いた。妊娠3カ月を過ぎていた。父の山下が亡くなってから気分が落ち着かなかった。変調はそのせいだと思っていたが、本当の原因は妊娠だった。妊娠の影響で情緒が不安定になっていたのだ。
香織の家では避妊のことはしっかり教えられた。子供は生むつもりで生むもの、できちゃったでは済まないと咲にしっかり教えられていた。それなのに、こんなことで失敗するなんて、また咲に怒られてしまうと思った。
香織は咲には知られないように病院へ行こうと思った。何度も、病院へ行こうとしたが決心がつかなかった。産んではいけないのだろうか?何度も自問自答して結局は産みたい気持ちに逆らえなかった。
聡一に、知らせてはいけない。新婚の夫には酷な話だし、絶対産むなといわれるのは眼に見えていた。香織はこのまま、しばらく大阪で暮らすことにした。
咲が香織の妊娠に感づいたときにはもう中絶できない時期に入っていた。香織の作戦は成功した。咲に父親は誰かとしつこく聞かれたが教えなかった。
言えば、当たり前のように金の話になるだろう。でも、相手は新婚だ。いくら金持ちの息子でも、そんなに右から左に金が出るものでもないだろう。聡一にそんな苦労をさせるわけにはいかないと思った。香織は、それこそ店の経営を頑張れば子供一人ぐらい育てられると思っていた。
香織は結局大阪で出産した。ちょっと大きめの男の子で純一と名付けた。聡一の一をもらった。これなら他人に憶測されることもなかった。咲は最初は不機嫌だったが、そのうちに孫可愛さに香織を援助するようになっていた。最近は月に2,3回は来阪していろいろなものを買い揃えて帰っていった。
続く
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2019年03月07日
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