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2019年08月11日
家族の木 THE THIRD STORY 純一と絵梨 <39 縁談>
縁談
絵梨は梨沙の縁談を大阪の親戚や友人関係に頼んでいた。そのうちに梨央にも縁談が舞い込むようになっていた。梨沙の縁談は次男や三男。梨央の縁談は長男が多かった。皆、こちらの後継者の事情も考慮した昔ながらの縁談だった。
見合い写真は梨央にも一応見せるには見せたが、僕たちも梨央自身もあまり気がなかった。梨沙はもっと無関心だった。梨央は梨沙が自分自身のことに無関心なのが気になるようだった。時々「梨沙ちゃん、この人ハンサムよ。ちょっとカッコいいわよ。」と声をかけても「タイプじゃない。」と言ってまともに見ようともしなかった。
ある日梨央が「私結婚できるかな?」と言い出した。「私、何にもできないけど家事は自信あるの。好きだし。そんな人、世の中に必要?」と聞いてきた。「必要も何も梨央みたいな可愛くて優しい娘はみんな嫁さんにしたがるさ。」といったものの、本心は結婚させたくなかった。
結婚するとなると事件のこと、そのせいで情緒不安定なこと、社会経験は全くないということを説明しないわけにはいかなかった。たぶん性的な被害のことも憶測されるだろう。それは親としてはいたたまれないことだった。
続く
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絵梨は梨沙の縁談を大阪の親戚や友人関係に頼んでいた。そのうちに梨央にも縁談が舞い込むようになっていた。梨沙の縁談は次男や三男。梨央の縁談は長男が多かった。皆、こちらの後継者の事情も考慮した昔ながらの縁談だった。
見合い写真は梨央にも一応見せるには見せたが、僕たちも梨央自身もあまり気がなかった。梨沙はもっと無関心だった。梨央は梨沙が自分自身のことに無関心なのが気になるようだった。時々「梨沙ちゃん、この人ハンサムよ。ちょっとカッコいいわよ。」と声をかけても「タイプじゃない。」と言ってまともに見ようともしなかった。
ある日梨央が「私結婚できるかな?」と言い出した。「私、何にもできないけど家事は自信あるの。好きだし。そんな人、世の中に必要?」と聞いてきた。「必要も何も梨央みたいな可愛くて優しい娘はみんな嫁さんにしたがるさ。」といったものの、本心は結婚させたくなかった。
結婚するとなると事件のこと、そのせいで情緒不安定なこと、社会経験は全くないということを説明しないわけにはいかなかった。たぶん性的な被害のことも憶測されるだろう。それは親としてはいたたまれないことだった。
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THE THIRD STORY 純一と絵梨 <38 婿探し>
婿探し
僕たち夫婦は梨沙には内緒で梨沙の婿探しを始めた。親はわがままだった。梨沙の夫が会社を継いでくれたら梨沙は童話を書きながら暮らしていけるとこちらの都合のいいことを考えていた。そして、会社の若手社員の一人に目星をつけていた。
梨沙は今はパートタイマーとして働いている。その社員とも接点がある。何とかもっとお互いに関心を持たせたかった。僕は意識して、その社員に渡す書類などを梨沙に作らせた。
梨沙は時々その社員にわからないところを質問しに行くこともあった。うまくいきそうな気がしていた。
そうはいっても不自然になってはいけない。僕は少なくても1年ぐらいはただ接点を持つだけでいいと思っていた。多分、その社員本人も薄々は感じていたはずだった。我が家が娘二人で、婿になれば何らかの形で会社の経営にかかわっていくだろうことはわかるし、よそから来られるよりは社員から選ばれた方がうまくいくと誰もが考えていた。
ある日、夕食のときに梨沙に「中島、仕事できるだろ?」と水を向けてみた。梨沙は、ごく普通に「そう思う。言いにくいこともはっきり言うし、段取りもいいし。」と好感触だったので「あいつ、彼女いるのかな?」と持ち掛けると、「うん、同棲してるみたいよ。そろそろ婚約じゃないかな?」とあっさりしたものだった。拍子抜けもいいところだった。絵梨もおおいに落胆した。
食事中は梨沙に落胆した様子は見えないようにしたが、梨沙が風呂に入るや否や夫婦でぼやきたおしてしまった。それを聞いた梨央が「ねえ、梨沙ちゃんは分かってると思うのよ。パパやママの考え。でも梨沙ちゃんはその気がないのよ。梨沙ちゃん、今結婚なんて考えられないんじゃないかな。私のせいなの。あれ以来梨沙ちゃん私のことで、自分のことお留守になっちゃって、彼ともお別れしちゃったみたいだし。梨沙ちゃんに悪い。」と泣きそうな顔をした。
「ねえ、私もしっかりしなきゃいけないって思うの。私がしっかりしないと梨沙ちゃん、結婚なんて考えてくれないと思うの。私アルバイトしようかな?昼間に少しだけどこかで働いてみようかな?」と言い出した。悪いことではない。梨央は生涯手元に置いて暮らす覚悟をしていた。それでも、アルバイトは悪いことではなかった。
それから一カ月もしないうちに梨央はアルバイトを始めた。近所のパン屋の製造員だった。
朝自転車で出かけて昼には帰ってきた。最初の2カ月ぐらいは疲れ切って帰ってきたがパンの製造は楽しいようで、休みの日には家でパンを焼いたりするようになった。この娘は家事が本当に好きなようだ。
梨央がアルバイトを始めたことを梨沙はずいぶん喜んだ。梨央は時々家族の朝食用のパンを大量に買い込んできたりした。商店街でかわいいハンカチを見つけたといっては梨沙や絵梨のために買ってくることもあった。それは、年不相応の高校生のような買い物だったが、絵梨は寝室でそのハンカチを見ながら泣いていた。
続く
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僕たち夫婦は梨沙には内緒で梨沙の婿探しを始めた。親はわがままだった。梨沙の夫が会社を継いでくれたら梨沙は童話を書きながら暮らしていけるとこちらの都合のいいことを考えていた。そして、会社の若手社員の一人に目星をつけていた。
梨沙は今はパートタイマーとして働いている。その社員とも接点がある。何とかもっとお互いに関心を持たせたかった。僕は意識して、その社員に渡す書類などを梨沙に作らせた。
梨沙は時々その社員にわからないところを質問しに行くこともあった。うまくいきそうな気がしていた。
そうはいっても不自然になってはいけない。僕は少なくても1年ぐらいはただ接点を持つだけでいいと思っていた。多分、その社員本人も薄々は感じていたはずだった。我が家が娘二人で、婿になれば何らかの形で会社の経営にかかわっていくだろうことはわかるし、よそから来られるよりは社員から選ばれた方がうまくいくと誰もが考えていた。
ある日、夕食のときに梨沙に「中島、仕事できるだろ?」と水を向けてみた。梨沙は、ごく普通に「そう思う。言いにくいこともはっきり言うし、段取りもいいし。」と好感触だったので「あいつ、彼女いるのかな?」と持ち掛けると、「うん、同棲してるみたいよ。そろそろ婚約じゃないかな?」とあっさりしたものだった。拍子抜けもいいところだった。絵梨もおおいに落胆した。
食事中は梨沙に落胆した様子は見えないようにしたが、梨沙が風呂に入るや否や夫婦でぼやきたおしてしまった。それを聞いた梨央が「ねえ、梨沙ちゃんは分かってると思うのよ。パパやママの考え。でも梨沙ちゃんはその気がないのよ。梨沙ちゃん、今結婚なんて考えられないんじゃないかな。私のせいなの。あれ以来梨沙ちゃん私のことで、自分のことお留守になっちゃって、彼ともお別れしちゃったみたいだし。梨沙ちゃんに悪い。」と泣きそうな顔をした。
「ねえ、私もしっかりしなきゃいけないって思うの。私がしっかりしないと梨沙ちゃん、結婚なんて考えてくれないと思うの。私アルバイトしようかな?昼間に少しだけどこかで働いてみようかな?」と言い出した。悪いことではない。梨央は生涯手元に置いて暮らす覚悟をしていた。それでも、アルバイトは悪いことではなかった。
それから一カ月もしないうちに梨央はアルバイトを始めた。近所のパン屋の製造員だった。
朝自転車で出かけて昼には帰ってきた。最初の2カ月ぐらいは疲れ切って帰ってきたがパンの製造は楽しいようで、休みの日には家でパンを焼いたりするようになった。この娘は家事が本当に好きなようだ。
梨央がアルバイトを始めたことを梨沙はずいぶん喜んだ。梨央は時々家族の朝食用のパンを大量に買い込んできたりした。商店街でかわいいハンカチを見つけたといっては梨沙や絵梨のために買ってくることもあった。それは、年不相応の高校生のような買い物だったが、絵梨は寝室でそのハンカチを見ながら泣いていた。
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