家政婦の死
宮本さんが榊島の施設で亡くなった。この施設に入って9年目の夏だった。僕に遺書があった。僕が田原の家を紹介しなかったら、今頃どうなっていたかわからない。大奥様には娘のように可愛がっていただいた。と感謝の言葉が書かれていた。やっぱり、宮本さんに大阪へ来てもらってよかったと思った。遺品はごくわずかな身の回りの品だけだった。
大阪の祖母は生涯を賄えるだけの資産を宮本さんに渡していた。僕は古い傷が痛むような、心の隅になにか取りこぼしたものがあるような妙な気がしたが、また、忘れていった。
THE THIRD STORY純一と絵梨 <31 祖母の話>
大阪の叔父、僕の実父は何かと東京へ来たがった。東京の家で父や母と昔話をするのが楽しいようだ。その日も、僕たちの両親と大阪の叔父夫婦が食事をしながら昔話をしていた。
絵梨が用事で席を立った時に大阪の祖母の話になった。
祖母は再婚で田原に嫁いだ。最初の結婚で嫁いびりにあって流産していたこと、その元夫から瀕死の重傷を負わされた話を聞いた。なにかひっかりのある話だった。この時、父も母も同じことに引っかかっていたと思う。
それも今ではどうでもいい話だ。絵梨には長谷川のことはあえて知らせていない。ひょっとしたら新聞か何かで読んだかもしれない。しかし、家でそのことを話すものは誰もいなかった。
絵梨は二人の娘に囲まれて幸福そうだった。二人の娘の子育てが一段落した今、会社が経営する幼児教室をこども園として運営していた。絵梨もその中で働くようになっていた。
この二人の娘たちも、やがては恋をするだろう。どんな男と恋に落ちるのかとおもうと、期待と不安がごちゃまぜになった。
続く
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2019年08月04日
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