特別養子
咲は聡一から「純一は田原の親戚に特別養子として迎えられる」という話を聞いた。今後は純一の戸籍から田原聡一の名前も風羽田香織の名前も消える。一切の縁が切れてしまうと教えられた。純一は、もう二度と真由美や咲の前に現れることは無いらしい。
咲にも聡一にも辛いことだが純一はごく普通の子供として幸福に暮らせるという話だった。やっぱり田原の人間はすることがきっちりしている。咲は、長年水商売で鍛えた真由美の目は確かなものだと感心した。
それから1年ぐらいして聡一から「純一はずいぶん可愛がられて、にこにこ笑う明るい子供になった。」と聞いた。また暗に「お前の家では笑わなかった。」と責められているような気がした。
この稼業にコンプレックスを持ったことは無かった。でも息子の健を見ると、つくづく自分の家では男はまともに育たないと思った。
真由美は純一が特別養子になった3カ月後にはガンで亡くなった。もう早くから相当辛かったはずだと医者に言われた。ゴタゴタしていて真由美の健康状態にまで気持ちが回らなかったのだ。
咲は、今まで生きがいだった店の経営が煩わしくなった。化粧をするのもきれいな着物を着るのもむなしくなった。咲はこの商売もこれで終わりだと思った。
店を売って老人ホームに入ろう。化粧なんかやめて、同年代の人と世間話をしながら暮らそう。大事な孫を人手に渡さなければならないようにな暮らしに嫌気がさした。その原因を作った息子には何にも残さななくてもいい。
咲は、老人ホームのパンフレットを集めた。大阪もいいと思っていた。あの誠実そうな聡一の近くに居れば、ひょっとしたら純一の消息を教えてくれるかもしれない。そんな未練がましい気持ちを持っていた。軽井沢は嫌だ。寒いところはかなわない。
榊島なら温かそうだし、いいかもしれない。このペアブロッサムっていうのは、ずいぶんおしゃれな建物だけど、ちょっとお高い。まあ、何にも残さなくっていいんだから贅沢に暮らそう。咲はそんなことを考えていた。
真一と梨花のストーリーに続く
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2019年03月11日
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