似た男
ある夜のベッドの中で、「梨央は男が苦手なのに何でおれとお見合いしようと思ったの?」と聞いてみた。「あなたのお見合い写真を見たとき、なんだか見たことがあるって思ったの。家族中みんなそう思ったのよ。それで、みんなが気が付いたの。あなたうちの、ひいお爺ちゃんの写真に似ているの。」
「うそ、俺そんなに老けた写真送られてたのか!」
「そうじゃなくて、ひいお爺ちゃんの若いころの写真よ。ひいお爺ちゃん、ちょっと有名だったのよ。雑誌に写真が載ってたの。その写真をひいお婆ちゃんが大切に保管してたのよ。その写真にそっくりなのよ。」
「へえ〜、今度その写真見せてよ。」
「そうね、今度実家に帰ったら見せてあげるわよ。そっくりなんだから。それに、写真のそばに金の仏様も飾ってあるんだけど、なんだかその仏様にこの縁談は梨央を幸福にする縁談だよって言われているような気がしたの。これを逃すと後がないよって。」と言って笑った。
東京の会議に出るときに梨央も一緒に東京に帰った。実家には日帰りだといって泊まらなかった。俺の実家は俺が泊まらないというとホッとするようだ。
梨央が待っている田原の家に泊まった。この家は暖かかった。夫にとっては妻の実家はとても居心地がよかった。義母も姉の梨沙ちゃんも面白い人だ。梨央が別に冗談を言わなくても、何とはなしに面白い雰囲気があるのは母娘三人で冗談ばかり言って育ったからだろう。
ひいお婆さんが大切に保管していた雑誌は金の仏様と同じ棚に置かれていた。なんでもその仏様は田原家のお守りらしい。その雑誌に「島本真一氏」として写真が載っていた。ひいお爺さんは長い間島本真一のペンネームで榊島の自然についてコラムを書いていたらしい。
雰囲気が自分にそっくりなので驚きもしたし恥ずかしくもあった。義父も義母も、「この人がTコーポレーションを起こした人で、フィットネスジムも榊島の施設もこども園の前進である幼児教室も全部の創業者だ」と説明してくれた。
「苦み走ったいい男で女にもてた。君に似ている。」とお世辞を言ってくれた。この家族は、俺とこの人を結び付けて俺に好感を持っていてくれているようだ。
義父が「この爺さんは本当に婆さんにぞっこんだったんだよ。」というと義母も「外で会うと結構強面で近寄りがたい雰囲気なの。それが家では、お婆ちゃんにいいように扱われてたのよ。お婆ちゃんにお世辞を言われてはへらへら笑ってたの。なんでお爺ちゃんはあんなにお婆ちゃんに弱かったのかしらね。」といった。
義父が「女が家に乗り込んできたんだよ。ところが婆さんは堂々としたもんで相手の女のほうが逃げ出したらしい。それから、爺さんは婆さんに頭が上がらなくなったって話だよ。」といった。家族で「うっそ〜。そんなことあったの?」と大盛り上がりだったが、俺は冷や汗が出た。梨央もみんなと一緒に盛り上がっていた。俺は笑うに笑えなかった。
この家の仏間にはこの田原真一夫妻の写真と田原俊也夫妻の写真が飾られていた。確かに田原真一氏と俺は似ているような気がしたが、同時に梨央が真一氏の奥さんの梨花さんに似ている気もした。梨花ばあちゃんと梨央は血がつながっているのだから当たり前のことだった。
金の仏像やひいお爺さんの写真を見てわかったことがあった。俺はきっと梨央の言いなりに動くようにプログラムされている。プログラムしたのは、あの仏像だ。あの仏像が、梨央が二度と不幸な事件に巻き込まれないように梨央を守る役目を負った人間をつくったのだ。
そして、梨央のすることに過剰に反応するようにプログラムしたのだ。田原真一が可愛いひ孫を守るために作ったのが俺だ。やっと腑に落ちた。
続く
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2019年09月08日
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