こじれる気分
「君はいつもこんな感じなのか?」
「こんな感じって?」
「その、すごく感じやすい、なかなか帰ってこない感じ。」
「帰ってこないって、どこから?」
「その、意識が飛んでから、なかなか帰ってこないよね。なんか、ぼんやりして。今も、まだなんとなくはっきりしないよね。いつもそんな感じか?」
「こんな感じ?どんな感じ?」
「ほら、そんな感じだろ?そういう調子じゃ危なくてしょうがないじゃないか。運転しても危ないし、電車に乗っても危ないじゃないか!ちょっと、しっかりしろ!」僕は思わず、きつい調子で責めてしまった。
僕は驚いていた。梨花はポンポンとはっきりものをいう。そういう性格だと思っていた。それが、今日は僕の下で一瞬、意識が飛んでから、いつまでも、とろんとしてなかなか覚醒しなかった。まるで何か薬を飲んだような感じでいつまでもあられもない姿でボーっとしていた。服を着てからもぼんやりして目が潤んでいて、誰が見ても、その後だとわかってしまう気がした。
梨花は言われている意味がわかったらしく、急に真っ赤になってうつむいてしまった。少し涙ぐんでいるのが分かった。自分でも、なぜ責めてしまったのかわからなかった。
「いつもってどういうこと?誰と比べてそんな言い方してるの?好きな人に抱かれてボーっとなったらおかしい?夢の中みたいになったらおかしい?」梨花はうつむいたまま僕に抗議した。
「いや、おかしくない。ごめん。責めてるわけじゃないんだけど、そんな調子じゃ一人にできないと思って。よその男に、そんな顔見られたら付け入られるよ。危ないんだよ。」
「そんなこと言われても、今思い出しても、なんかポワンとなって立ってるのが嫌になるのよ。きっと私、真ちゃんのために生まれてきたんやと思うのよ」
「だから、しっかりしろ!そんなこと言われたら帰れないだろう!とにかく今日は送っていく。」
「なんで?大丈夫よ。私が送っていくし。そんな荷物持って一人で帰るの大変やないの。」
「とにかく、家の近くまで送る。運転は僕がするから。」
「私、そんなに頼りない?」
「ああ頼りない。」と言い返すと梨花はまた涙ぐんだ。
僕はなぜこんなに気分がこじれているのか不思議だった。なぜ、こんなにイライラするのだろう。
僕は運転しながらも「絶対他の男に、そんな弱みを見せちゃいけない。だまされるよ。」ときつい口調が止まらなかった。
「なんで他の人に見せるのよ。なんで騙されるのよ?真ちゃん、ちょっとおかしい。私のこと、セックス好きのいい加減な女やと思ってるんでしょ。あの時私から仕掛けたから。私が誰にでもあんな風にすると思ってるんでしょ。あの時真ちゃんが一番気にしてること、あんな言い方して嫌われるのん怖かったし焦って、それに、この人なんでこんなに泣くんやろって思ったら自然に抱きしめたくなったんよ。女がそういう気持ちになったらおかしい?」と今度は本当に泣き出してしまった。
あの時梨花は焦ったのか?と思うと心臓がドキンと鼓動した。梨花はいつまでも、めそめそした。僕はこういう時の対処法が分からなかった。というか、なぜ泣くまで言いつのってしまったのか自分でもわからなかった。
そのまま家の近くまで送って行った。街灯のない場所で車を止めて今度は僕がぐずぐず弁解をしなければならなかった。「
「あの時は本気でうれしかったし、いい加減な女だとは思ってないんだよ。要するに、ほかの男の前でああいう顔をされるのは嫌なんだよ。あの声を他の男に聞かれるのは絶対嫌なんだよ。ああいう格好は僕の前だけにしてほしいんだよ。」
「私、そんなにみっともない?」
「みっともなくないんだ。その、男ならだれでも手を出したくなるんだよ。要するに、その僕は嫉妬心が強いんだよ。もう絶対僕以外の男と関係しないでほしいんだ。これは僕のお願いなんだよ。」上から、言い含めようとしていたのにいつの間にか懇願していた。
梨花は「真ちゃん、要するに私が誰かにとられへんか心配なん?要するにいない人にやきもち焼いてるのん?」と顔を覗き込んでくる。「真ちゃん可愛い」と急に首に両腕を巻き付けてくる。
「だっから〜、そういうことを簡単にしちゃいけないんだよ。僕はこれから4時間もかけて家に帰らなくちゃならないんだよ。いつもでも、君とこんなことしてちゃ帰れないだろう。」といっても梨花は離れない。
僕は、時々女のぐずぐずに手を焼く時があった。そんな時は簡単だった。さっさと抱きしめて行動に移してしまえばそれで治まった。
自分が女にぐずぐず絡んで泣かせて結局黙らされてしまうのは初めてだった。梨花は勝手が違っていた。自分でも、いい年をして何を馬鹿なことをやっているんだと思った。
そのそばから、もっと身体がギシギシいうほど激しくしたら梨花は気絶してしまうのだろうかという野卑な好奇心が沸き起こった。しっかりしなければいけないのは僕だった。
続く
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2019年04月03日
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