不幸な子
ある日継父が叔父の会社に来た。三崎専務に丁寧にあいさつして僕には目を合わせただけで何も言わなかった。珍しく深刻な顔をしているので少し心配になった。
その日継父は、社長室で叔父と2時間ぐらい話してそのまま帰っていった。継父が来ればたいていは三崎専務と僕を誘って食事に出た。酔って「俊也が、俊也が」と叔父を差し置いて父親ぶりを発揮した。それが今日は挨拶もそこそこに帰ったのを三崎専務も気にしていた。三崎専務が社長室へ資料を持っていくように指示をくれた。
僕が社長室に行くと叔父は難しい顔をして天井を見ていた。考え事をするときの癖だった。「何かありましたか?」と尋ねると、「うん、ちょっと複雑な話だ。今晩、家に来てくれないか?真梨も一緒に頼む。プライベートな話だ。」といった。
三崎専務には「親戚の問題みたいです。ご心配かけてすみません。」と断った。「そうか、大変だね。もし私で役に立つことがあれば言ってくれ。」と答えた。三崎専務は接待の時には面白くて豪快な営業マンだが普段、オフィスではマナーも頭もいいビジネスマンだった。
夜7時ごろに叔父の家に着いたときには、真梨と絵梨が来て待っていた。いつもなら叔母が大張り切りで夕飯を用意しているのだが、今日は近所の寿司屋からの出前が来ていた。
叔父は「まず飯だ。」と言って夕食を優先した。叔父の性格では用事が先で、それをすませてから食事にするのが普通だったが今日は違った。それだけ面倒な用事だと思った。
沈んだ雰囲気で食事が終わった。普段は叔母と絵梨の掛け合いでみんなが笑うのだが今日は叔母が冗談を飛ばすことは無かった。
食事が終わって絵梨が寝てしまってから話し合いが始まった。「養子をとろうと思うがどうか?」という唐突な話だった。養子にしようとしているのは大阪の聡一の息子らしい。
聡一は大手のデベロッパーに就職して地元の名士の娘と結婚していた。田原の家には住まずに大阪の中心部にあるマンションに住んでいた。いずれは田原の家に入るにしても一時的にはそういう暮らしがしてみたいということだ。特に珍しいこともない普通の結婚だった。
聡一の妻という人とは、たまに会うがおとなしい人であまり皆となじむことは無かった。しかし感じの悪い人ではなく気立てもいいようだ。聡一はその人を大切にしていた。ただ、引っ込み思案ということで、なかなか親戚に馴染み難いようだった。
聡一に家の外に女性がいたことを初めて知らされた。サラリーマン時代の後輩の女性らしい。聡一は彼女が妊娠していることを知らずに彼女と別れた。そして今の奥さんと結婚した。聡一の恋人は妊娠も出産も聡一に知らせなかったらしい。出産後、彼女の母親から知らされてはじめて知った。
女性は聡一の新妻の妊娠が分かった時期に出産した。子供は既に6カ月になるらしい。聡一は養育費や慰謝料などすべて用意して家庭の外の母子を支えていた。聡一は子供可愛さにその女性との縁が切れなかったのだ。
多分、子供の母親のことも好きだったのだろう。そのまま大学を卒業するまで援助するつもりだったらしい。聡一にしてみれば、その子こそ第一子だった。
ところが、その子供の母親が交通事故で亡くなってしまった。赤ん坊は一時的に母親の兄に引き取られたが見ていて幸福になれそうな気がしないという。聡一がなんとか田原の養子にしてほしいと頼み込んだそうだ。
考えてみれば図々しい話だ。自分が確実に目が届いて、絶対に信用ができる相手に、しかも絶対に断らないだろうと見込んだ申し込みだ。本来は聡一が育てるべき子供だ。
継父の悩みは聡一の妻が病弱だということだった。継父は「嫁さんが弱いんや。」と叔父に打ち明けた。「身体が弱いだけなら家政婦を雇えば解決できる。実は心も弱いんや。」というのが継父と聡一の悩みだった。
今もマタニティーブルーで悩んでいる。この上、外にできた子供を育てろ等ととても言えたものではない。継父の養子にしたとしても聡一の妻の心は乱れるだろう。
一番問題なのは無理して引き取っても、その子が幸福に育つような気がしないということだった。それは当たり前だ。自分の妊娠中に生まれた夫の愛人の子を愛せる妻はそういない。
続く
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2019年05月31日
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