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春画の展覧会は、以前、永青文庫で見たことがありますが、今回のこの展覧会にも度肝を抜かれました。歌麿のそれこそ、大画面モニターのような大きさの「夏夜のたのしみ」という大作もあり、当時の人々の誰がどのようにこれらの絵を鑑賞していたのかと思いを巡らしました。 鳥文斎英之の肉筆画、四季花鳥図ではなく「四季競艶図」なんて周辺の風景は美しく、主人公の男女もまったくイヤらしい感じはしません。まさに自然の営みの一つという感覚。 逆に北斎の「肉筆波千鳥」なんかは、これでもかというくらいの執念を感じる作品。どんな題材でも本質を追求するんだという気迫を感じました。 面白かったのは鈴木春信の「風流艶色真似ゑもん」、小人になった主人公が男女の営みを覗き見するという題材。彼のつぶやくセリフには笑えました。 春画は文化のひとつだなぁと実感した展覧会でした。 (11/1)
2024年11月18日
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塩田千春というアーティストをはじめて知ったのは、5年前の森美術館での「魂がふるえる」でした。赤い糸に絡めとられたような船。そして、黒い糸に覆いつくされた焼けたグランドピアノと多くの椅子。あの時の言葉にならない衝撃は今でも忘れられません。 本来、人が着るべきなのに無数の黒い糸に覆われて触ることもできないドレス。拒絶されている絶望感に打ちひしがれた後の展示では、東京の街を借景にした多くの人形や、赤い糸につるされたスーツケースで、明るい希望を感じることもできました。 その後、いくつかの小作品を見てきていますが、今回の大阪展は東京に巡回しないそうなので、覚悟を決めて出かけました。 今回も美術館のエスカレーターを上がっていくと見えてきたのは無数の赤い糸に覆われた真っ赤なドレス。期待感は大いに高まります。目がチカチカしてきました。会場に入ると打って変わって、黒い背景に白糸が張り巡らされた大規模なインスタレーション。一方には巨大なプールがあり、そこに滴り落ちる水滴の音が響きます。ここは生命も何も存在しない無の空間。白と黒の太極図を思い浮かべました。朝、一番の展示だったので人もいなくて、この空間を独り占めできたのは嬉しかったです。 過去の作品を紹介したビデオのコーナーがあり、また巨大なインスタレーションがありました。くるくる回る巨大な白いドレスも面白かったです。 圧巻は、チラシにもなっている「つながる輪」。無数の赤い糸の合間の白い紙には、「あなたは何とつながっていますか?」という問いに、公募によって集められたメッセージや絵が描かれていました。ひょいと覗いた紙には、死を迎える伴侶への感謝の気持ちが書かれていて、読んでいて思わず涙が零れ落ちそうになりました。白い紙は千羽鶴のように赤い空の中を渦を巻いて飛んでいました。 大規模なインスタレーションは6点と少なかったのですが、それぞれのビデオ作品も、最初から最後まですべて見て、濃密な時間を過ごしました。(11/1)
2024年11月18日
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昔から一度行ってみたいと思っていた奈良での正倉院展に念願かない、今年ようやく出かけることができました。コロナ以降、チケットも日時指定制となり、長時間、長い列に並ぶ必要もなくなったとの話を聞いたからです。実際、入場開始時間直後はかなりの人が並んでいましたが、15分ぐらい過ぎると列は解消されていました。館内の混雑も、そこそこでしたが、人の頭に隠れてまったく見ることができないというほどではありませんでした。 正倉院の宝物は最低でも一度公開されると、10年間は展示されないとのこと。今回、コロナ前に東博で開催された正倉院の世界展で見て気に入った紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)」、赤い象牙の物差しに再び出会えたのは、嬉しかったです。30センチほどの赤い物差しに動植物や建物が細かく描かれ、その細かい技法に感動しました。 「緑地彩絵箱」は花の文様が描かれた緑色の箱。丸く装飾的に描かれた草花の姿には言葉もなくうっとりと見つめるばかりでした。側面などウミガメの甲羅が使われているように見えるのですが、実際にはだまし絵のように描かれているものです。1300年前の道具がそこにあるだけでものすごいことなのに、それがまだ当時の色彩を保ったまま美しく残っていることが信じられません。 四色のガラスの魚形はそのままアクセサリーとして持って帰りたくなります。緑、黄緑、青、黄色とそれぞれが美しい発色を保ったままです。当時の役人が腰につるして楽しんでいたとのこと。古代人もおしゃれです。(10/31)
2024年11月18日
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徳川綱吉の治世、幕府の怒りを買って三宅島に流罪になるも、およそ10年後、奇跡的に江戸へ戻ることになる波乱に満ちた生涯を送った絵師である。一蝶の絵に描かれた人々は皆、欲動感があり溌溂としており、眺めているこちらも絵の中の人々と同じように、歌い笑い語り合っているように感じるのだ。私が出かけたのは前期で、残念ながら重要文化財「布晒舞図」は展示されていなかったのだが、東博とメトロポリタン美術館所蔵の「雨宿り図屏風」が同時に展示されており、見比べることができて嬉しかった。武家屋敷の門前で夏のにわか雨を避けるさまざまな人々。子供がが柱にぶらさがって遊んでいるが、東博版とMET版ではポーズが少し異なっている。雨宿りする人々も全て一緒ではない。でもいろんな職業、身分の人たちが出会う一瞬の時。なんとも楽しい絵だろう。(10/10)
2024年11月12日
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黄土水という名前は初めて聞いたのだが、ポスターとなっている女性像の彫刻が気になって出かけてみた。黄土水とは台湾出身の東京美術学校の留学生で1920年頃活躍した彫刻家。高村光雲の指導を受けたそう。会場の奥にこの女性ヌードの彫刻が鎮座している。「甘露水」という大理石の彫刻。台湾で国宝指定されているそうだ。台座は貝殻をモチーフにしているということで、この女性はヴィーナスを表現しているということが分かる。顔つきは東洋人そのままだが、その張りのある肉体は生命のオーラを発しているようでまぶしく、そして美しい。黄土水以外の彫刻も、高村光雲をはじめ平櫛田中や高村光太郎、荻原守衛などの作品も多数。けっこう、見応えあり。油絵でも1920年前後の近代絵画が展示されており、中でも和田英作の「野遊び」を見ることができて嬉しかった。藤の花を背景に奈良時代の夫人が笛を持ってたたずむ。着物の美しさにうっとり。(10/5)
2024年11月11日
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今年は印象派展が開かれてちょうど150周年の年にあたる。日本人は印象派が好きだというのが定説だが、ご多分に漏れず自分も印象派、そしてモネが大好き。高校1年の時、生まれて初めて出かけた美術館が当時のブリヂストン美術館。そこでモネの「黄昏のベニス」の美くさに圧倒されたからだ。それ以来、モネの絵は何枚見たことだろう。モネの展覧会には何度出かけたことだろう。昨年の今頃は上野の森美術館でモネ展を見ていたと思う。(しかし入館料3.000円は高かった)そして、今回の西美でのモネ展はマルモッタン美術館からの多くの睡蓮を中心に構成されている。ほとんどがジヴェルニーのモネの庭を描いたもの。晩年の絵は色彩の乱舞。ラストの「バラの庭から見た家」は圧巻。もうやけっぱちになってキャンパスに絵の具をたたきつけているよう。老いて目もよく見えない。だからこそ、気力を振り絞って創作する画家の気迫を感じる。年が明けたら、もう一度、西美に出かけようと思う。まったくの余談だが、DIC川村記念美術館の「睡蓮」は私のお気に入りのひとつ。閉館したらどこに行ってしまうのかとても心配。(10/11)
2024年11月07日
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今回の田中一村展はものすごいボリュームだった。幼少期から晩年まで300点余りの作品を年代に沿って展示している。7歳の頃の絵を見ても、もう天才だったことが分かる。父の英才教育を受けていたのか。一村の描く南画もステキだったが、やがて濃密な写生画へと移行していく。もし一村が、東京美術学校を2か月で退学しなかったら、もし日展や院展に入選していたら、どんな画家になって、どんな作品を描いていたのだろう。でもこの奇跡のような奄美の光景は見られなかったかもしれない。「アダンの海辺」の濃密な砂浜と波の描写には見るたびに度肝を抜かれる。閻魔大王への土産と本人は語ったが、まさに命を削って描いた作品だと思う。(9/28)
2024年11月07日
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出光美術館も、この展覧会と次回の展覧会を最後に建て替えによる休館となるとのこと。この展覧会で出光美術館らしい江戸絵画を見られるのもしばらくお預け。ここで旧プライスコレクションの若冲の「鳥獣花木図屏風」は絶対に見ておかなかければと出かけてきた。やはりこの屏風の持つオーラは抜群のものがある。升目描きによって、それぞれの動物たちはちょっととぼけた味わいに感じられるのだが、それぞれが生き生きと描かれていて、楽しいこと半端ない。ありがとう若冲さんといつも言いたくなる。酒井抱一の「十二か月花鳥図」を並べて展示してあるのも見応えがあった。展示解説を眺めながら、なるほど同じ草花を描いていても、こんな違いがあるのかと、こちらも楽しめた。文人画のコーナーでは、大好きな浦上玉堂に出会えて嬉しい。国宝伴大納言絵巻をはじめ、重要文化財、重要美術品のオンパレード。英一蝶の「四季日待図巻」でいい気分になって、皇居の眺めて、美術館を後にした。(9/27)
2024年11月07日
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毎年恒例の建物公開。今年は「照明」に焦点を当て、アールデコのデザインの照明器具を楽しめる。改めてこの美術館の照明を眺めているだけでも、どんどんと時間が過ぎてしまう。この美術館の人気はラジエターカバーと照明だそうだが、自分もずっと昔からそう思っていた。とにかくお気に入りは2階姫宮寝室前廊下のチェーンペンダント照明だ。制作したのはルネ・ラリックではなくこの建物の設計、管理をした宮内省内匠寮とのこと。しかし、何ともかわいい照明を作ったものだ。どこかにステンドグラスの窓も作ってほしかったなぁ。今回は、3階のウィンターガーデン(温室)に特別に見学できる。市松模様と赤い椅子が調和している。椅子とテーブルはマルセル・ブロイヤー。無料で配られるカタログになっている写真集の小冊子がかわいくてステキ。(10/10)
2024年11月05日
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実は空が絵画に描かれたのは、江戸時代になってからで、それ以前は空はまさに「くう」として、表現されていなかった。画家はいかにして空を発見して描くようになったのかというテーマで構成された展覧会。お気に入りの作家の作品も多く、とても楽しい企画だった。次の6つの章立てで江戸時代か現代までの日本の作家と19世紀頃のジョン・コンスタブルの絵を中心とした西洋画を紹介している。1日本美術に空はあったのか?-空の輸入2開いた窓から空を見る-西洋美術における空の表現3近代日本にはさまざまな空が広がる4宇宙への意識、夜空を見上げる5カタストロフィーと空の発見6私たちはこの空間に何を見るのか?1章のコーナーを見ると、なるほど空を積極的に描こうとしたのは西洋画の影響を受けた江戸時代の司馬江漢や北斎らの浮世絵師だったことがよく分かった。明治以降の絵画では洋画にしろ日本画にしろ、積極的に空を描くのも当たり前になっていく。そして写実での空でなく、表現主義やシュールレアリスムの空に変わっていく。萬鉄五郎の「空のある自画像」の雲なんて、まるで、エクトプラズムのようだ。関東大震災ののちの空の光景、戦中大空の中で敵機を撃墜する光景、敗戦後の空。そしてチラシにもなっている抑留生活の中でみた香月康男の「青の太陽」。いずれの空も美しいのだ。ホンマタカシの幕張ベイタウンの写真、Chim↑Bomの空を埋めつくすカラスの映像など、現代作家の作品にも心を打たれた。(9/25)
2024年11月05日
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奈良の飛鳥園の小川晴暘と小川光三親子の仏像写真展。仏像は生でその姿を眺めるのもいいが、写真で見ると、実際には見えないものが見えてくるようですばらしい。とにかく、晴暘のモノクロにしろ、光三のカラーにしろ、背景の黒がまさに「漆黒」でそこから浮かび上がってくる仏の姿が素晴らしいのだ。お気に入りは東大寺戒壇院の四天王のうちの広目天。我が家には入江泰吉の憂いに満ちた表情の写真が飾ってあるのだが、小川晴暘の写真は力士のように力強い。本物の仏像でもないのに、それぞれの写真の前で思わず合掌してしまった。入場無料というのも嬉しかった。(9/27)
2024年11月05日
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Nerhol(ネルホル)という二人組のアーティストの展覧会。千葉市美の一階のさや堂ホールの床が和紙で覆われている。どんなアーティストなんだと展示室に向かった。200枚ほどの写真を多層的に張り合わせ、その表面を削って凸凹をつけた作品の数々。2次元の写真が3次元のレリーフのように表現されている。じっと眺めていると、写真の歪みから自分の立ち位置が分からなくなり、めまいを覚えた。まるでホラー小説の挿絵を見ているようだった。千葉市の大賀蓮を題材にした作品。時間軸が揺らいでいて、満開の蓮の花も、あくまでも見せかけの姿で、実はそこにはもう存在していないのではないかと感じた。不思議な体験だった。(9/14)
2024年11月05日
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これもステキな展覧会でした。美術館にある作品はもともとこんな感じで個人の部屋などで飾られていたのだろうと、部屋の一部ごと再現して見せてくれます。畳の上に上がって、応挙の描いた襖絵を間近に眺める貴重な体験ができました。ピカソの「腕を組んですわるサルタンバンク」はホロヴィッツの家の居間に飾られていたそう。今、この絵の前に置かれたソファに座って、この大音楽家が経験したものと同じ体験ができます。とくに良かったのは、佐伯祐三の「テラスの広告」が飾られているこの空間。こんな環境を自分のものにできたらさぞかし素晴らしいだろうなと思いながら眺めていました。残念ながらこの椅子には座ることはできませんでした。(8/27)
2024年09月09日
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この人は20世紀後半のベルギーを代表するアーチストということですが、まったく知りませんでした。今回初めて見て、こんなにステキな絵と出会えて、大感激でした。とにかく、絵が優しいのです。ほんのりとしたパステルカラー調の色彩で、心地よいのです。それが現代社会の様々な矛盾や問題を指摘していても、声高に主張していません。展覧会を巡っていると、主題として現れる帽子コートを羽織ったリトル・ハット・マンに連れられて、都会だったり、山の中だったり、夢の世界をあちこち旅しているように感じられます。時々展示されている彫刻も楽しいです。まさに「空想両行案内人」というテーマがぴったりの展蘭会でした。チラシも何種類も出ていて、額に入れて部屋に飾りました。(8/27)
2024年09月09日
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この展覧会が始まったばかりの8月9日に88歳で亡くなられた田名網敬一の60年以上にわたる活動の回顧展。私はこの作家については、ケバケバ!ハデハデ!な画家という印象くらいしかなく、実際に出かけてみてその凄まじいパワーに圧倒されました。入口を入ると「俗と聖の境界にある橋」とうプロローグのコーナー。暗闇の中に異様な怪物が投影される橋のオブジェと原色ギラギラの屏風があります。カラフルに色が変わる橋。まさに異界への入口というイメージで、ドキドキ感が高まりました。おどろおどろしい作品ばかりではなく、初期のシルクスクリーンのポスターなど懐かしく感じました。特に今回あの日本版プレイボーイ創刊号のデザインを手掛けていたということを知って感激しました。この雑誌の発売を心待ちにして、実際に手に取った時の感動を思い出しました。アニメーションは見たことがありませんでしたが、平山みきの「真夏の出来事」の歌の映像はあの時代の雰囲気感満載で懐かしさで心が弾みました。こちらのオブジェは立体曼荼羅のように並んでいます。アルチンポルド、キリコ、ルソー、ダリ、ピカソ、若冲などの絵があちこちに取り入れられているので、それを見つけたりするのも楽しかったです。つい先ごろまで精力的に製作していた田名網敬一の冥福を祈りつつ、自分も最期の時まで生き生きと過ごせればいいなと思い会場を後にしました。(8/22)
2024年08月26日
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「ひとり民主主義にようこそ」というサブタイトルの展覧会。この作者の手法は一人で行うゲリラ的な観客とののコミュニケーションによる作品作りであるらしいです。実は、もう十年以上も昔、越後妻有の大地の芸術祭でこの作家と出会ったことがあります。山の中の会場を歩いていたら突然地面の中から顔を出してきて、びっくりしました。穴の中にずっと潜っているなんて何とまぁ忍耐強い方だなぁと思いました。それ以来、あちこちの芸術祭で何度か作品を見かけています。お客さんが参加できるワークショップ的な展示があったり、社会問題を提議する作品もあります。いろいろな現代作家からインスピレーションを受けた作品やオマージュの作品がたくさんありました。ビュラン、モンドリアン、ポロックへの巨大オマージュシリーズシリーズはなるほど大きく分かりやすい。男子用便器を横に倒して、桃のジュースが流れ出る蛇口をくっつけた作品はマルセル・デュシャンの泉へのオマージュとのこと。このジュースだけは飲みたくないって感じました。イヴ・クライン・スペシャルにはびっくり。そして大笑い。おいおい、そこまでやるのかと呆れたのですが、実は自分もこういうことをやってみたいと思ったことはあります。この方、真面目なのかふざけているのかちょっと分からないところも多いのですが、参加型イベントもあり、楽しめました。(8/17)
2024年08月21日
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精神科医の高橋龍太郎さんのコレクション展。草間彌生。村上隆、奈良美智、会田誠、山口晃…から今活躍している作家(ほとんど知らない作家)まで戦後の歴史を追うように展示しています。もう何度も見たことのある作品も多かったのですが、好きな作家さんの展示に出会えると嬉しくなってしまいます。塩田千春の黒い糸に絡め取られた純白のウェディングドレスには「恐怖」を感じました。特に地下の「崩壊と再生」の展示会場は何とも言えない空間でした。青木美歌のガラス工芸や鴻池朋子の巨大な皮革の緞帳、小谷元彦の彫刻。311への鎮魂の展示空間ですが、その美しいこと。心に響きました。<津波にのまれた車から生まれる新しい命のようでした>その展示数と迫力に最後の方は疲れましたが、ハッとするような作品に出会え、楽しく充実した体験をしました。(8/17)
2024年08月19日
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たまに本郷の弥生美術館に行った折、併設の竹久夢二美術館も覗くので、夢二の絵に出合う機会は割と多く、この展覧会はパスしてもいいかなと思ったのですが、目黒に来る用事もあったので見ることにしました。ところが、何と!夢二の絵にこの庭園美術館の佇まいが驚くくらいぴったりと合うのです。ちょうど朝香宮邸が建てられた当時は夢二の絶頂期だったので、実際に夢二の絵も掛けられていたのかもしれません。個人的には夢二の絵はなよなよっとした女性ばかりが目についてあまり好きではないのですが、この大食堂の展示にはぞくぞくっとしました。ちょうど浴衣姿の二人連れの女性も絵を眺めていて、思わずタイムスリップしたような気分になりました。夢二はデザインにも力を入れていたので、この時代の建物の装飾にはドンピシャなんでしょう。夢二再発見の展覧会でした。(7/4)
2024年08月06日
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戦前から戦後活躍したこのおもしろい名前の画家は全く知りませんでした。ただ幼いころキンダーブックなどを愛読していたので、どこかで見たことがある絵だなぁと思いました。サブタイトルに「幻想の世界へようこそ」とあるとおり、ファンタジックな絵が多く、子どもも大人も楽しめる作品ばかりでした。かわいいイラストも素敵でした。刊本という、いろいろな技法を駆使して手作りで作った数量限定の本も見事でした。最後、黒柳徹子の童話に挿絵を描くことを約束した直後に亡くなられ、残った作品で絵本を作り上げたという「木にとまりたかった木のはなし」もじっくりと味わい大満足でした。(7/27)
2024年08月06日
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過去に奥の部屋で何回か見てきましたが、その都度、中世の手仕事の見事さ、そしてその美しさに感動を覚えました。今回はその内藤コレクション150点を一気に地下の企画展示室で公開しています。印刷技術がまだなかったヨーロッパ。中国から木版印刷が伝わったのが15世紀初頭。そのあとグーデンベルグの活版印刷が発明されたのが、15世紀中頃と印刷技術が発明されるのはけっこう遅いのにはちょっと驚きました。だから中世の時代はこんなに美しい写本がひとつひとつ作られて大切にされてきたのでしょう。とにかくそれぞれの本の装飾が美しすぎます。美しいフォントの文字の間に巧みに様々な動植物や人物が配置されていたり、縁を飾っています。職人たちの努力は並大抵のものではありません。西洋美術館に寄付していただいた内藤裕史さんには、ひたすら感謝です。こういう個人コレクションの寄付によって、美術館は成り立っているんだということをひしひしと感じました。(そもそも西洋美術館は松方コレクションから始まったものですし。)中世は暗黒時代というイメージが強いのですが、いつの時代も人々は「美」を求めているのだなと実感しました。
2024年08月05日
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日本の「民藝」と黒人の人種差別の撤廃を訴えるスローガン「ブラック・イズ・ビューティフル」と重ねて捉えたというアフロ民藝。今まで、西洋文化と日本文化の融合というテーマの展示は何度か見た記憶があるが、黒人文化と日本の民藝との融合というテーマは初めて。とにかく各部屋の開放的な空間の中に展示されるインスタレーションはどれも心地よく楽しめた。黒人差別問題をテーマにした作品も何となくそうなのかなと思ったくらいで、深く理解はできなかったのだが、常滑焼と融合した焼き物の作品は造形的にも楽しめた。いろいろな造形の焼き物があって楽しい。圧巻は最後の「みんなで酒を飲もう」のコーナー、天井にはミラーボール。壁面にはずらっと並んだ信楽の「貧乏徳利」。ディスコを再現したインスタレーションだがけばけばしく落ち着いた空間だった。(7/4)
2024年07月25日
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東博の平成館の企画展です。この時期、カルティエ、内藤礼と東博は多彩なジャンルの企画展が開かれていて、楽しいです。昔々、神護寺の長い階段を上って薬師如来を見に出かけたことを思い出します。今回はわざわざ高尾から虚空蔵菩薩と共にお出ましくださいまして、本当にありがたく思います。国宝薬師如来立像は最後の神護寺の彫刻のコーナーでお目にかかれます。日光月光菩薩像と共に展示されていて、横からも眺めることができます。横から見ると顎がとがっていていかつく感じます。肉付きのよい身体に鋭い衣文線がすばらしい。肉眼ではお顔の瞳の様子がどうなっているのかよく分からなかったので、次回は単眼鏡を持って確認しようと思いました。十二神将はほとんど江戸時代のものですが、鋭い影が映るライティングの見事さもあり、迫力満点の展示になっていました。そのほか、子どもの頃、教科書でおなじみの源頼朝像。これが神護寺にあったことは知りませんでした。「伝」となったのはいつ頃のことだったでしょう。国宝の両界曼荼羅は前期は胎蔵界の展示。これも単眼鏡が必要でした。後世の写本でオリジナルの図像を確認しました。空海といえば、「風信帖」と暗記しているのですが、これは後期展示。やはり国宝の「灌頂歴名」が展示されています。最澄の名前が第一に記載されているのが興味深かったです。(7/19)
2024年07月25日
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渋谷にできた「UESHIMA MUSEUM」のオープニング展にでかけました。6月1日にオープンしたばかりの現代アート専門の美術館です。よく知っている作家から、まったく初めて名前を聞く作家まで、多くの現代アートがあってとても楽しめました。最近、お気に入りの宮永愛子の作品がありました。「くぼみに眠るそら-寝虎-」。いつも思うのですがこのトラはナフタリンが昇華したら果たして存在するのか否か?禅問答みたいなテーマです。宮島達男の作品もありましたが、ずいぶんとこじんまりとしています。薄暗い中での展示でしたが、この作家の作品はやはり真っ暗な中で見たほうが神秘的ですね。逆に面白かったのが、オラファー・エリアソンの「Eye seeyou」。このように鏡を使った作品に出合うと震えます。塩田千春の糸が張り巡らされた作品も見応えがありました。「存在様態」シリーズは赤い糸の髑髏と黒い糸に支えられた二脚の椅子のオブジェ。メメント・モリという言葉が頭の中に響いてきます。ダン・フレイヴィンの作品も、ミニマリズムの作家の中では、実際に見ていてもきれいでなかなか楽しかったです。地下は抽象画の部屋でした。リヒターとイケムラレイコくらいしか知りませんでしたが、ぼうっと座っていると、高揚感が湧き出てきます。名和晃平のピクセルの鹿や杉本博司の写真もあり、このあたりは、私の壺にドンピシャとはまります。ただ、各展示室が個室のようになっていて、入口にQRコードのチケットをかざさないと入れません。うまく読み取れないことも多く困りました。横開きではなくふつうのドアのような扉なので、人がいると開け閉めしずらく、また会場内に段差があったりして、バリアフリーには配慮されていないのが、残念でした。高齢者にはちょっと利用しずらかったです。
2024年07月03日
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東博の表慶館で開催されているカルティエの工芸品と日本の現代作家の作品をコラボした素敵な展覧会でした。ジャポニズム感満載の19世紀の工芸品の美しさには目を見張ります。キラキラ、キラキラと輝く宝飾品のオンパレードかと思ったら、それだけではありませんでした。昨年、松濤美術館の展覧会で見た杉本博司の藤の写真の屏風とカルティエのフジの花のブローチとのコラボなど、日本の現代作家との共演が大部分です。1階と2階を結ぶ二つの階段には、どちらも束芋の映像作品が投影されています。一見きれいですが、よく見ると結構どぎつかったり生々しく感じました。宮島達男の暗闇の中で、点滅しながら回転し流れていく数字。いつも彼の作品を見て思うことですが、数字と数字の切り替わる瞬間に何があるのだろうかと感じます。それは永遠なのか、それとも沈黙なのか。とにかくぼうっと見ていて時の経つのを忘れてしまいます。川内倫子の映像もよかったです。ちょっと前の田舎。長年連れ沿ったおじいさんとおばあんの日常。そして別れ。淡々としたスライドショーの中でゆったりと自然と人生が映し出されていました。ビートたけしの作品がなぜかたくさんありました。こんなのは好みです。
2024年07月02日
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ちょうど新日曜美術館のアートシーンで紹介されていてぜひ見に行きたいなと思っていたところ、新聞に訃報が載っていてびっくり。追悼の意を込めながら鑑賞しました。私がこの作家を知ったのは、天王洲アイルにあった巨大なゴミ箱のオブジェでした。缶ビールやら日本酒やらの段ボール箱が折り曲げられて捨ててあって、これが陶でできているとは!と驚愕したことを覚えています。さてこの展覧会。1階は初期の抽象画やコラージュ作品、シルクスクリーンなどの展示が中心です。昭和の時代を感じる懐かしい光景の作品があったり、なかなか面白かったのですが、本人は、これではだめだと思い、陶による作品を作り始めます。ガラスケースの奥にそんな「割れる印刷物」の初期作品が並んでいます。溢れる情報を永遠に保存しようと陶に写してみたけれど、実は陶も割れやすいんだ....という情報化社会の不安を表現しているとのこと。なるほど!と感心。2階の会場は、そんな陶の作品ばかり。ただ陶で表現されるのは、情報から空き缶や古雑誌、段ボールなどのゴミに変わっていきます。おまけにそれらがどんどん巨大になっていきます。途中で陶製の空き缶のオブジェを実際に触れるコーナーがありました。さすが陶でできているため、かなりの重さがあります。やはり触ってみないと分かりません。<先日、オッペンハイマーの映画を見たばかりなので印象に残りました>そして一部屋すべてを使った「20世紀の記憶」のコーナー。ひとつひとつに20世紀の様々な新聞記事が写し出されたレンガ片。その数何と1万個を超えているとのこと。廃墟のようです。過去の情報は実態を伴わない「記憶」なんだなぁと思いました。それでも20世紀後半を生きた自分には「記憶」がありますが、実体験のない若者にはどう映るのでしょうか。入口に追悼文が掲示されていました。合掌。しっかりと記憶に残る素晴らしい展覧会でした。(6/27)
2024年06月30日
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走泥社は戦後すぐに生まれた前衛陶芸家のグループです。器などの実用品ではなく、オブジェとしての立体の陶芸作品を製作したグループです。名前だけは知っていたのですが、まとまった作品を見たことがなかったのでいい機会となりました。特に見たかったのは八木一夫の「ザムザ氏の散歩」です。前衛陶芸といえば、いつも引き合いに出されるこの作品。カフカの「変身」からインスパイアされた作品です。とにかく、よくこれで立っているなぁというのが初めて見た際の印象。ころころと転がりながら散歩するへんてこな虫を連想します。初期の頃の八木一夫はまだこんなにかわいい器を作っていました。「春の海」という器です。蕪村の「春の海 ひねもす のたりのたりかな」を連想しました。フグが海中をゆっくり泳いでいるさまを思い起こします。とてもかわいい作品です。こちらの「二口壺」はミロかピカソの作った器に似ています。これもいい味わいでした。八木一夫以外でも気に入った作品がありました。川上力三の「面相」という作品です。海辺のフナムシに見えました。じっと見ていると動き出しそうな気がします。「かたりべ」と題されたこちらも、山の中で妖怪にじっと見つめられているような気になりました。森里忠男の作品には笑えました。楽しくてたまりません。陶器でもこんなに楽しめるんだと実感した展覧会でした。(6/8)
2024年06月18日
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パリのパリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪の大阪中之島島美術館のコレクションから34の切り口でそれぞれ一作品づつモダンアートの作品を紹介するというユニークな展覧会でした。例えば、「都市の遊歩者」という切り口では、ユトリロと松本俊介と佐伯祐三の風景画が並べられていました。これが実に素晴らしかったのです。それぞれの画家の立場で時代や場所を越えて画面の中を行き来した稀有な体験ができました。「モデルたちのパワー」のテーマで、マティスの「椅子にもたれるオダリスク」萬鉄五郎の「裸体美人」モディリアーニの「髪をほどいた横たわる裸婦」が並んでいます。三作品とも腕枕をして横たわる女性。一つ一つの作品だけでも見応え十分なのに、3つそろって眺めることができるなんて何とも贅沢なことだと思いました。そのほか、パリ市立近代美術館のボナールの「昼食」の色彩は、とろけてしまいそうな美しさで見応えがありました。ヴィクトル・ブローネルの「ベレル通り2番地2の出会い」はルソー「蛇使いの女」のパロディでおもしろすぎです。ブローネル、初めて知ったと思ったのですがシュルレアリスム展で見ていました。今後要チェックです。とにかく、それぞれのコーナーの3作品並べてみても楽しめ、1作品だけ切り取ってみても十分見応えのある素晴らしい展覧会でした。また見に行きます。(6/14)
2024年06月18日
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東京都立の動物園水族園4館(上野動物園、多摩動物園、葛西臨海水族園、井の頭自然文化)が合同で各園のデザインに関する資料を展示しています。デザニャーレという架空のデザイン室を作り、過去のチラシや、動物園のお土産グッズなどの成果物。またそれらが作られる過程を紹介しています。デザニャーレというのはデザインの語源のラテン語デジナーレの語呂合わせ。ネコのデザイナーが活躍しています。動物園や水族園の魅力を伝えるためにどのようにデザイナーが活動しているかが、再現されたデザイナーのデスクの様子からわかります。どんなに動物をかわいくデフォルメしても、実物に忠実に、間違ってはいけません。細かいチェックが入ります。動物園ならではのピクトサイン。蝶を採らないでというのと反対に蝶を放さないでというものもあります。自分の家で勝っているマニアが「放蝶」することがままあるそうです。ダンゴムシやアメリカザリガニの脱皮を表現した学習グッズはかわいいです。市販化してほしいです。(ちなみに昨年、アメリカザリガニは生態系を変えるとして特定外来生物に指定されました)動物のデザインは見ていて飽きません。小さな展示会場でしたが、とても楽しました。(6/1)
2024年06月02日
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5月18日はクルックフィールズをはじめ君津市と木更津市を巡りました。クルックフィールズのシンボルは、やはり草間彌生の作品でしょう。「新たなる空間への道標」や「明日咲く花」のカラフルなオブジェはこの広大な空間の中での華やかさを演出しています。「無限の鏡の間-心の中の幻」も楽しめました。早稲田の草間彌生美術館でも鏡の間に入ったことがあるのですが、どこまでも続く幻想の世界に浸れます。ツボのようなヒョウタンのようなユニークな形をした物体があります。オラファー・エリアソンのインスタレーションです。中に入ると自分が仏になったような感覚になりました。増田セバスチャンの「ぽっかりあいた穴の秘密」もキラキラと原色に輝く室内からまん丸い空を見上げた時の感覚はドキドキものでした。Chim↑Pomの明日の神話のオブジェ。渋谷の駅にゲリラ的に付け加えられた絵が立体になっていました。後ろの太陽光パネルから原発を連想します。地中図書館の中の広場に置かれた名和晃平のピクセルのオブジェも知を司る図書館にぴったりでした。ジビエ料理を食べてクルックフィールズを後にして、君津市に向かいます。ここで素晴らしかったのは廃墟になった社宅の部屋の中のインスタレーション。保良雄の「種まく人」というタイトル。団地の部屋の中に緑の草が生えています。ここも異界に迷い込んだ感覚で楽しめました。木更津駅界隈。ここにも増田セバスチャンのオブジェがありました。木更津だからやはり狸。町中の土蔵の中の小谷元彦の「仮設のモニュメント5」土偶、菩薩像、女神像などが融合したとてもカッコいい姿でした。
2024年05月31日
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5月16日と18日の2日間、市原と木更津の千葉誕生150周年記念事業 100年後芸術祭を巡って来ました。まずは16日。市原インターを降りて月出まで下りました。廃校になった月出小学校跡の月出工舎を中心とした展示。雨の残る中、校舎壁面に描かれた巨大壁画に心が弾みました。特に田中美緒子の「彼方の家」には痺れました。廃屋の中を進むと生活道具が床に埋没していく光景。トイレや風呂にもオブジェがあり、出口には蟻地獄のような巨大な穴が待ち受けて居ました。ほかにお客もいなく、表に出たときには正直、ホッとしました。月崎・田淵 チバニアンに行ってみたかったのですが、場所がよく分からなかったのと天気も回復していないのでパスしました。旧平三小学校 ここは冨安由真のインスタレーションが素晴らしかったです。階段や理科室に仕掛けがあります。特に理科室で繰り広げられる出来事にはびっくりしました。レーザービームの中に突然、シカのはく製が出現したりしました。佐々岡由梨子の「アニマーレ」の歌う生き物には笑いました。学校の下の階段を降りるとこんな川が流れていて醍醐味溢れる光景でした。旧里見小学校 ここは何といっても体育館の中の「里美プラントミュージアム」豊福亮。市原は京葉臨海工業地帯の中核を担っているんだということを実感します。それが山奥の廃校に表現されていることのギャップ。市原湖畔美術館 ここに来るのは2回目。クワクボリョウタの作品。影絵を作るのが電車ではなかったのが残念。今回のフェスに合わせての新作ではなく、昔からあったのらしいが記憶なし。内田未来学校 内田小学校には昔、研究発表を見に来たことがありました。ここも閉校になっていました。上総牛久駅周辺 こちらは商店跡に数々のインスタレーションの展示。千田泰広の「アナレンマ」の空間。暗闇の中、張り巡らされた糸に光が当たり、無限に変化する時空間。ここは飽きません。楽しかった。柳健太郎の「KINETIC PLAY」のガラスのタワーも美しかったです。というわけで、16日は市原市内のみ。閉校になった学校をインスタレーションの会場に転用するとういうのは、この手の芸術祭ではスタンダード。学校はすべての人の記憶に残っているため、それを刺激し、アートとの相性がいいのでしょう。平日だったので、湖畔美術館以外、どこの会場もガラガラ。ほとんど貸し切り状態で楽しめました。
2024年05月31日
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素晴らしい展覧会でした。御年90歳の宇野さんの70年に渡る創作の数々。その多岐にわたる作品の数々に圧倒されました。高校生のころ、憧れていた寺山修司。残念ながら天井桟敷の芝居は残念ながら見る機会は無かったけれども、宇野さんの作ったポスターは、横尾さんの状況劇場のそれと時代の双璧をなしています。えっ!これも宇野さんの作品だったの?と懐かしいチョコレートの包み紙。懐かしの夏目雅子。なぜ?と思ったら伊集院静の「乳房」の映画広告。伊集院さんも昨年末逝去。こちらのポスターは、宇野さんらしいメタモルフォーゼする動物に乗る若き日のあの歌手。素敵です。先日、日曜美術館で放映されていましたが、横尾忠則さん共々お元気で活躍していただきたい。(5/11)
2024年05月31日
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伊藤潤二の作品は「富江」くらいしか読んだことがないのですが、とにかく話題の展覧会ということで出かけてきました。とにかく怖い!怖い!その美しさとグロさに圧倒されて、声も出ません。悪夢の世界です。世代的にはほとんど同世代。影響を受けた本もほぼ同じ。懐かしいです。自分の顔が渦巻き状に変化するコーナーには痺れました。展覧会グッズもとても充実していましたが、これらを身に着けて街を歩く勇気はありません。(5/11)
2024年05月30日
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キリコ展を最初に見たのが、2005年の10月に東京駅前の大丸ミュージアムでのことです。そのあと2014年の11月にパナソニック汐留ミュージアムでも見ています。とにかくキリコの絵は「カッコいい!」の一言に尽きます。私はあの人気のない広場に立つマネキン人形の絵が好きなんです。小学生の頃、「ヘクトールとアンドロマケの別れ」の絵を雑誌で見て、これはすごい!顔のないマネキンが泣いている!と驚愕したことを覚えています。その後、この絵が形而上絵画と呼ばれていることを知ったのですが、シュルレアリスムの絵とどう異なっているのか、今の今でもよく分かりません。キリコの絵が後のシュルレアリストに影響を与えたということは分かりました。キリコはその生涯で何度も作風を変えています。今回の展覧会でも初めに自画像・肖像画のコーナーがありましたが、ルネッサンスの巨匠たちの作風で描いた自画像や奥さんの肖像画など形而上絵画とは似ても似つかない作風なんですが、とてもカッコいいのです。もちろん形而上絵画も、何とも言えない郷愁を感じ、意味は分からなくても胸に迫ってくるので好きです。そしてこれだと思ったのは1930年に描かれた「南の歌」です。マネキン人形がルノワールのタッチでふくよかに描かれていてギターを弾いています。眺めていると何だか幸せな気分になれます。後年のユルイ新形而上絵画は、私のお気に入りの佐々木マキさんのイラストを思い起こします。初期の村上春樹の本の表紙絵のようです。彫刻も展示されていて、この間見たブランクーシのミューズ像とそっくりだなと思いました。もういちど見に行きたいと思いました。(5/24)
2024年05月30日
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ブランクーシの彫刻は、とてもかっこいいです。抽象彫刻と言われればそうなんですが、黄金の鏡面仕上げになっており、オブジェとして見ても美しいデザインに見とれてしまいました。あの卵型の顔はモジリアーニに影響を与えたとのことでアーティゾン所蔵のモディリアーニ作品と並べて展示されていました。やはりこの作家に親近感を感じるのはミューズの卵型の顔からウルトラマンや仏像を思い起こすからでしょう。もう一つ有名な「接吻」も面白い作品です。実際にこんな風にキスはできないでしょうし、これが金ピカの鏡面仕上げだったら引いてしまいそうです。白い大理石だからこそサマになっていると思います。(5/5)
2024年05月09日
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自動扉を抜けるともうそこは、花々の世界。弘前の桜をはじめ、季節の花々の写真に取り囲まれたむせるような空間です。途中には、天井から下がっている花のオブジェとその四方の周りに映し出される花々の映像。よく見るとそこからはみ出ている花は枯れています。まさに儚くも一瞬の間だけ煌めく花々。このスクリーンが生と死の境界なんでしょうね。父親の蜷川幸雄が亡くなる日の写真もありました。淡々とその日の光景を写しているのですが、この一連の作品が生と死の境界なのかなと感じました。(4/25)
2024年05月07日
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2015年に、松戸の博物館で(美術館でなく)初めて板倉鼎が奥さんの須美子を描いた絵を見たとき、その衣装の赤がとても素敵でそれ以来、この画家に心惹かれています。松戸にゆかりのある板倉鼎・須美子夫妻はともに画家であり、エコール・ド・パリの時代にを発表しましたが、夫婦共に20代の若さで早世し、埋もれた画家となってしまいました。鼎の絵をよく見ると、キスリングを連想するような表現があって、生きていたらきっと藤田のようにエコール・ド・パリの日本人を代表する画家になっていたかもしれません。今回のチラシになっている「休む赤衣の女」は亡くなる直前の作品です。まず、目を引くのは赤い衣装。そして、左端の花束と右端の金魚鉢。その真ん中の窓の外に広がる海の光景。白いヨットが浮かんでいます。(須美子の絵にも同じような光景がありました)構図がしっかり固まっていて安定感を感じます。女の顔、どうも目の大きさがアンバランスだと感じていたのですが、キュビズムの影響を受け、異なる視点から描いたものだということが分かりました。抒情的な素敵な作品です。板倉須美子 ベル・ホノルル24須美子の絵もローランサンの描いたような少女の絵が特徴です。ルソーの絵のようにも見えます。素人だった須美子に鼎が手ほどきをしたのだそうですが、画壇では須美子の絵の方が人気があったのだそうです。二人の早すぎる死が惜しまれます。(5/2)
2024年05月07日
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北欧の絵画と聞いて、連想するのはまずムンクの「叫び」、そしてハンマスホイの誰もいない室内の光景、そのほか、北欧神話の妖精やトロルを描いたものなどですが、この展覧会にもそんな雰囲気の作品がいくつも出ていて、楽しませてもらいました。ムンクの作品もありましたが、叫びとか吸血鬼とかマドンナといったおどろおどろしい作品が好きなので、今回出ているような荒いタッチの風景画?はいまひとつという感じでした。全体的に風景画が多かったように感じましたが、なるほど北欧の自然の神秘をあらわしているんだなと納得していました。(神秘と幻想は違うのですね)一番のお気に入りはフィンランドのヴァイノ・ブロムステットという画家の「冬の日」でした。流氷?の上を白いカモメが飛び交うブルーと白を基調にした何とも清々しい冬の光景でした。お約束の北欧神話をテーマにしたファンタジックな作品もあり、これも楽しめました。北欧の民話といえば、森に住む怪物トロルです。日本昔話だと鬼にあたるのでしょう。ムンテとかキッテルセンという画家のユニークな作品がありました。妖精を描いたものでは、アウグスト・マルムストゥルムという画家の「踊る妖精」がいかにも北欧の神秘という感じで素晴らしかったです。とにかく馴染みのない名前の画家の作品がほとんどで、覚えきれないし、すぐに忘れてしまうのですが、スウェーデンの「エウシェン王子」には王族のプロの画家がいたなんてと驚きました。(4/11)
2024年05月01日
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春の江戸絵画まつりに通いだして、もう何年になるだろうか。満開の桜を楽しみながら、こうして平日にのんびりと来れるようになったことに喜びと一抹の寂しさを感じます。今回は仏教をキーワードにした展覧会。今年も素晴らしい内容で大満足でした。まずは京都二尊院の「二十五菩薩来迎図」。楽器を打ち鳴らしながらやってくる菩薩たち。截金(きりかね)で描かれた文様の美しさ。平等院鳳凰堂の雲中供養菩薩の絵画版のように感じました。一方。金沢の照円寺蔵の「地獄極楽図」の色彩感溢れた地獄に落ちた亡者の悲惨な様子が生々しく見応えがありました。白隠や仙厓の禅画はなじみ深く、いつ見ても楽しみです。そして今回いちばん見たかったのは、曽我蕭白の「雪山童子図」です。画面を覆う鬼の青と童子の赤い衣との鮮やかな対比の妙。奇怪な表情。奇想の画家蕭白の面目躍如といった作品です。「群仙図屏風」と並んでお気に入りの一枚です。長沢蘆雪のワンちゃんも楽しくていい気分になりました。(4/11)
2024年04月30日
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広報をめぐって大きな批判があったため、あえて遊郭は二度とこの世に出現してはならない制度であるとキャプションで強調しています。そんな負の側面と江戸文化を担ったという2つの側面を考えながら眺めていたら、展示されているそれぞれの作品のすばらしさに見とれてしまうことに少々、罪悪感を感じてしまう展覧会でもありました。喜多川歌麿や鳥文斎栄之などの浮世絵版画も美品ばかりだったが何といっても、歌麿の肉筆画の大作「吉原の花」は素晴らしいの一言。これを見れただけでも来た甲斐がありました。登場人物はすべて女性ばかり、豪華絢爛です。まさにこの世の春です。バーチャルで吉原の地形的な全貌も知ることができた。今の吉原はなかなか歩きづらいところですが、お歯黒どぶなど確認しながら歩いてみたいです。今回の展覧会で初めて知りましが、吉原の桜は常にあるのではなく春の季節だけ、急ごしらえで植えられたものだということでした。どこから運んできたのでしょう。まさに見せかけの栄華の世界、江戸時代のテーマパークだったのでしょうか。(4/5)
2024年04月29日
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この美術館は、世界中の美しいデザインの椅子が多数コレクションされていて、さらに実際に座れることができる素敵なところです。そんな椅子にこだわりを持つ美術館が、デザインの視点からではなく、現代アートの視点からの様々な切り口で、椅子をモチーフとして表現した作品の展覧会でした。マルセル・デュシャンのレディメイドの作品として有名な自転車の車輪が載った椅子からはじまって、まさに椅子をめぐる様々なドラマを見るような非常に興味深かい展覧会でした。椅子って何のためにあるのか?と問われれば、ふつうは仕事をしたり、食事をしたりする際に使い、また楽をしたり、身体を休めるためにあると考えるのでしょう。ところが、実際にはそうでない場合が多々あります。権力の象徴としての王座、バリケード封鎖に利用される椅子、そして拷問に使う椅子や究極は死刑執行のための電気椅子もあります。アンディ・ウォーホルのカラフルな椅子のシルクスクリーンの裏には、実は死のにおいが漂っているのです。そんなことに気が付くとても恐ろしくなります。日本の現代作家では名和晃平のピクセルシリーズがありました。今回はお得意の動物のはく製を利用したものではなく、椅子やテーブルの周りを球体で覆っています。そして、その間から覗くのはタロットカードです。はく製の作品を見た際に感じる生と死の有り様ではなく、占いという観念のようなものを封じ込めたなぁと感じました。宮永愛子のナフタリンで作った椅子もありました。形あるものはいつかはなくなるが、痕跡だけは永遠に残る・・・このようにどの作品も椅子という家具を通して、作家の持つ問題意識を表現して、いろいろな課題を私たちに投げかけてきます。そんなことをつらつら考えながら、現代アートを楽しめる展覧会でした。常設展でも多くの椅子の展示があり、倉俣史郎のバラをアクリル板に閉じ込めたミス・ブランチもありました。こちらは世界で一番美しい椅子だと思います。どんな座り心地なんでしょう。(4/6)
2024年04月18日
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世田谷区には東急、小田急、京王の私鉄3社8路線があるそうで、私鉄網が充実している。昔々、学生時代に京王線の芦花公園駅そばに住んだことがあった。その際、千歳船橋の叔母の家によく出かけて夕食をご馳走になったものだ。だから小田急線には何となく愛着がある反面、旅行の際、事故で小田急が運休になってしまったことも複数回ある。箱根に行こうとした時、予約していたロマンスカーが運休になった際には落ち込んだ。こういう愛憎相半ばする?小田急線界隈で活躍した美術家の作品を集めた展覧会。アラーキーの撮影した写真。今となってみてはとても懐かしい光景だ。他に横尾忠則、高山辰雄、舟越桂など私のお気に入りの作家も住んでいたそうで興味深く眺めることができた。その他に伊原宇三郎という画家の「トーキー撮影風景」もちろん戦前の作品だが、当時の映画撮影風景の緊張感が伝わるいい感じの絵。この画家は今後要チェック。成城のアトリエがあった高山辰雄を追いかけてきた日本画家に稗田一穂がいる。今回は展示されていなかったが以前、こちらの展覧会で見た和歌山県立近代美術館所蔵の帰り路(かえりみち)を見て一目ぼれした。今回は、「雪止む」と「白いフェンスの散歩道」の2点。抒情性あふれる光景が心に染みる。さらに京王線・井の頭線篇も同時開催中だったので、たっぷり鑑賞できた。(2/23)
2024年03月21日
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戦国期から江戸幕府成立期に活躍した本阿弥光悦の全貌を紹介した展覧会。江戸ブームのせいか、かなりの人出があり、本阿弥光悦ってこんなに人気があるのかと驚きました。この展覧会の目玉の「舟橋蒔絵硯箱」東博では何度も見たことがありますが、珍しい形をした国宝だなぁと思うくらいで、あまり注視していませんでした。それよりも京都国立博物館にある「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」。俵屋宗達が金銀泥で描いた鶴の下絵に光悦が書を散らしています。はるか昔の学生時代に辻邦生の「嵯峨野明月記」を読んでからずっと見たかったこの絵巻。やっと夢が叶いました。物語に登場する嵯峨本の展示もありました。もう一度「嵯峨野明月記」を読み返そうと思い帰路につきました。(3/1)
2024年03月14日
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奥州藤原氏の栄華のあとを忍ぶことのできる中尊寺。芭蕉の句にもあるとおり、人の世の栄枯盛衰をも思い起こさせる展覧会でした。入ってすぐ上映されている大型ディスプレイでの8Kの堂内の映像は原寸大で再現されているとのことでしたが、素晴らしい迫力で驚きました。その勢いで実際の仏像を眺めてみると思いのほか小さく感じました。また3つの須弥壇のすべての仏像がやってくると思っていたのですが、実際に展示されているのは中央檀の仏像のみで少々期待外れでした。でもすべての仏像がお出ましになってしまったら、本家本元中尊寺はもぬけの殻になってしまいますからね。それでも阿弥陀三尊像、地蔵菩薩、持国天、増長天と360度の角度から間近に眺めることができ、嬉しかったです。とくに勢至、観音両菩薩の細やかな指先には見とれてしまいました。(3/1)
2024年03月13日
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東郷青児や古賀春江など日本のシュルレアリスム初期の作品から、戦中戦後までのシュルレアリストたちの作品を集めた展覧会。そもそも抽象画は???となる絵が多いのだけれども、シュルレアリスムの絵画は一応(本当に一応だが)何が描かれているかが分かるのでちょっと安心。それぞれのモチーフの不思議な感覚に引きずり込まれる作品が多い。今回の展覧会も東郷青児、古賀春江ら草創期の画家の作品。シュルレアリスム絵画をリードしながら、逮捕された福沢一郎。その消息を案じた手紙などの資料も興味深い。戦地で行方不明になった浅原清隆など時代に翻弄された画家たちにも思いを馳せる。特にこの浅原清隆という画家のリリシズムあふれる作品は大好きだ。今回展示されている「多感な地上」と、同じく東近美にある「郷愁」の2作品しか見たことがないのだが、どちらの作品もじっと眺めていると頭の中で物語がどんどん展開していく。最後は高山良策や小山田二郎の絵もあり、幅広い種類のシュルレアリスム絵画を楽しむことができた。今回、はじめて名前を知る画家もあり収穫大だった。初日の午後の割にはかなりの人が入っていて人気の高さを感じた。(3/2)
2024年03月12日
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今回の展覧会でライトが浮世絵ファンであったことをはじめて知りました。広重の目黒千代が池、なるほどライトの代表作落水荘の光景によく似ています。明治村で旧帝国ホテルを見に行ったことがありますが、あのごつごつした感のある姿。マヤ文明や平等院鳳凰堂のモチーフを借りていたのですね。ライトは1959年に亡くなっていますが、1958年の最晩年の設計のリビングシティー構想。交通手段として家庭用小型ヘリコプターが縦横無尽に空を飛び交う近未来の図。未来を予見している姿には驚かされました。(2/25)
2024年03月12日
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昨年の今頃、Bunkamuraで見たばかりなので、またかとは思ったのですが、キュビズム展を見てもう一度ローランサンの絵を楽しもうと出かけました。今回の展覧会で確認したこと。やはりローランサンはキュビズムの時期がいちばん好きだなということ。ピカソやブラックのようにキュビズム絵画を極めようと突っ走るのではなく、得意のパステルカラーの色面とキュビズム風の線が調和したほんわかとした画風になっています。晩年の絵は色彩に鮮やかさが加わり、苦手だった朱色も取り入れて、よりはっきりした画風になりました。絵にゴージャス感が加わり、昔の絵に比べてインパクトが強く感じられます。マリーローランサン美術館、ホテルニュー・オータニにあったと思ったのですが、すでに閉館しているんですね。この花束に見とれてしまいました。キュビズム期に描かれた自画像
2024年02月22日
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19世紀後半、フランスに誕生した印象派は世界各地に影響を及ぼしていった。そんな印象派の広がりをアメリカのウスター美術館の作品を中心に紹介した展覧会。オーソドックスにバルビゾン派あたりの風景画から始まり本家フランスの作家たち、そして日本をはじめ世界各地の印象派の画家たちの紹介へとつなげています。アメリカの印象派画家はメアリー・カサットくらいしか知らないのですが、今回はチャイルド・ハッサムなど新しい作家を知ったのが収穫でした。アメリカではビッグネームなんでしょうけれど、どうしても本場フランスの印象派画家の陰に隠れて地味な存在です。日本の印象派画家も同様に感じます。今回、ダントツでよかったのはやはりモネの睡蓮。1908年の作品で、私のいちばん好きなDIC川村記念美術館蔵の睡蓮の翌年に描かれたもの。ウスター美術館は1909年にこの睡蓮を購入したことで、世界ではじめて睡蓮を購入した美術館となったという蘊蓄も知った。とにかくパステルカラー調の優しい色合いがすばらしい。初夏の早朝から午前中にかけてのジベルニーの庭での光景でしょうか。ショップで美術館名にちなんでウスターソースを売っていたのには笑えました。ちなみにウスターソースの元祖はイギリスとのことでした。(2/11)
2024年02月19日
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日本初の鳥文斎栄之の企画展。千葉市美で開催される浮世絵展は、いつも力が入っているので楽しみです。今回は昔の鳥居清長展、江戸のヴィーナスを思い起こすすばらしい企画でした。元武士である鳥文斎栄之は、やはり町衆からみたら特別の階級で、デビュー当時から別格扱いだったこと。武士からは身近な、また町衆からは上流階級をのぞき見するような好奇心から人気があったこと。栄之担当の版元西村屋与八と歌麿担当の蔦屋重三郎とのライバル争い。鳥居清長が浮世絵をやめて歌舞伎の看板描きに専念したあとに活躍したのが栄之だったこと。歌麿が寛政の改革に反骨精神を発揮したのに対して、栄之はその出自から版画制作をやめ、肉筆画に専念したことなど興味深い史実も紹介されていました。栄之の浮世絵は上品であり、他の浮世絵師に比べてモデルの表情を的確につかんでいるように私には感じられて大好きです。今回の展覧会では、紅嫌いの作品、春画(冒頭の部分でさほど危なくない)やボストンやロンドンからの里帰りした摺りの状態の非常に良い美しい作品など、堪能できました。いちばんのお気に入りは、ボストン美術館の「若那初模様 丁子屋 いそ山 きちじ たきじ」(千葉市美術館のHPで紹介されています)花魁と禿の目元に入った朱。艶やかで色っぽい絵に夢中になりました。栄之の弟子たちの絵もそれぞれ見応えがあり、後期も必ず出かけようと思いました。(1/6)鳥高斎栄昌「郭中美人競 大文字屋内本津枝」ボストン美術館
2024年01月10日
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江戸時代、職業仏師ではなく地元の大工などが作った素朴な仏像たち。東北地方にはそんな仏像=民間仏が数多く残っているのだそうです。江戸時代の素朴な仏像といえば、円空や木食を思い起こしますが、今回の展覧会では、そうではなくほとんど無名な人々の作った仏像。モアイ像のようなもの、先日のキュビスム展で見たアフリカの仮面のようなもの。どの仏も思わず笑ってしまう愛らしい像でとても楽しい内容の展覧会でした。今までも変わった仏像をいくつも見てきましたが、今回のような微笑ましい仏像をこんなにまとめて見た記憶はあまりありません。憤怒の顔であるはずの不動明王にしても、優しいお顔です。どの仏像も地元の人々に愛され、大切にされてきたのでしょう。チラシのメインビジュアルになっている岩手県八幡平市 兄川山神社の「山神像」もほんわかしたいい味わいですが、一番ツボにはまったのが岩手県葛巻町にある宝積寺にある「六観音立像」です。十頭身くらいの長身で胴長のひょろったした体形にそのへんのおじさんのようなお顔をした六体の仏像でした。「ちょっとしっかりしてよ」と失礼ながら声をかけてしまいそう。そんな親しみのある癒しの仏像でした。 (12/23)
2023年12月26日
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はじめは、またおなじみのモネの絵の展覧会か~と思ったのと土日の入館料3,000円と高額なので及び腰だったのですが、思い切って出かけてよかった展覧会でした。サロンに出店していたころの初期のモネ。「昼食」に見られるようなきっちりとした室内画も描いていたという発見もあり、初期の風景画の明るい色彩はやはりモネだなぁと実感しました。印象派の時代の作品。モネもドービニーに倣ってセーヌ川を廻るアトリエ舟を利用していて風景画を描いていたことを知ったのも発見でした。2階に移ってからのエトルタを描いた作品もステキでした。マンヌポルト=大きな門の光景も日によって、時間によって、天気や季節によってまったく趣が変わった絵になっており興味深く眺めることができました。エトルタの光景だけでひとつの展覧会を開いても面白いかもしれませんが、これは贅沢というものでしょうね。いよいよ積みわら、ウォータールー橋の連作のコーナーです。特にロンドンのウォータールー橋のような固定の建造物が様々にその表情を変えます。まさに「印象派」の面目躍如の作品です。最後の「睡蓮」とジヴェルニーの庭のコーナーになると、人があふれて、ひとつの絵の前で何回も前後に移動して見ることは困難になりました。後ろに移動するともう前の人で絵が見えません。モネがはじめて描いた睡蓮の絵。その凛とした花のたたずまいに心惹かれました。 (12/23)
2023年12月25日
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