I歯科医院の高楊枝通信。

I歯科医院の高楊枝通信。

2012/01/16
XML
カテゴリ: 原発
夏目漱石の友人だった東大教授寺田寅彦先生の有名な文章です。
もったいない学会会長石井先生から読んどけ、、と言われました。

寺田先生は原子物理学専攻で、いわば原子力村の住人の大先輩に当たります。
そんな先生が、うかうかと世界有数の地震国に原子力発電所を54基も建てていると聞いたら、
どう思われるでしょうか?

どうぞ。

ーー全文引用ーー
石油ピークは食料ピーク、そして文明ピーク

[津浪と人間] 寺田寅彦 1933年
 昭和八年三月三日の早朝に、東北日本の太平洋岸に津浪が襲来して、沿岸の小都市村落を片端から薙
なぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。明治二十九年六月十五日の同地方に起ったいわゆる「三陸大津浪」とほぼ同様な自然現象が、約満三十七年後の今日再び繰返されたのである。

 同じような現象は、歴史に残っているだけでも、過去において何遍となく繰返されている。歴史に記録されていないものがおそらくそれ以上に多数にあったであろうと思われる。現在の地震学上から判断される限り、同じ事は未来においても何度となく繰返されるであろうということである。

 こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならないというのがこの人間界の人間的自然現象であるように見える。

 学者の立場からは通例次のように云われるらしい。「この地方に数年あるいは数十年ごとに津浪の起るのは既定の事実である。それだのにこれに備うる事もせず、また強い地震の後には津浪の来る恐れがあるというくらいの見やすい道理もわきまえずに、うかうかしているというのはそもそも不用意千万なことである。」

 しかしまた、罹災者りさいしゃの側に云わせれば、また次のような申し分がある。「それほど分かっている事なら、何故津浪の前に間に合うように警告を与えてくれないのか。正確な時日に予報出来ないまでも、もうそろそろ危ないと思ったら、もう少し前にそう云ってくれてもいいではないか、今まで黙っていて、災害のあった後に急にそんなことを云うのはひどい。」
 すると、学者の方では「それはもう十年も二十年も前にとうに警告を与えてあるのに、それに注意しないからいけない」という。するとまた、罹災民は「二十年も前のことなどこのせち辛い世の中でとても覚えてはいられない」という。これはどちらの云い分にも道理がある。つまり、これが人間界の「現象」なのである。

 災害直後時を移さず政府各方面の官吏、各新聞記者、各方面の学者が駆付けて詳細な調査をする。そうして周到な津浪災害予防案が考究され、発表され、その実行が奨励されるであろう。

 さて、それから更に三十七年経ったとする。その時には、今度の津浪を調べた役人、学者、新聞記者は大抵もう故人となっているか、さもなくとも世間からは隠退している。そうして、今回の津浪の時に働き盛り分別盛りであった当該地方の人々も同様である。そうして災害当時まだ物心のつくか付かぬであった人達が、その今から三十七年後の地方の中堅人士となっているのである。三十七年と云えば大して長くも聞こえないが、日数にすれば一万三千五百五日である。その間に朝日夕日は一万三千五百五回ずつ平和な浜辺の平均水準線に近い波打際を照らすのである。

 津浪に懲りて、はじめは高い処だけに住居を移していても、五年たち、十年たち、十五年二十年とたつ間には、やはりいつともなく低い処を求めて人口は移って行くであろう。そうして運命の一万数千日の終りの日が忍びやかに近づくのである。鉄砲の音に驚いて立った海猫が、いつの間にかまた寄って来るのと本質的の区別はないのである。

 これが、二年、三年、あるいは五年に一回はきっと十数メートルの高波が襲って来るのであったら、津浪はもう天変でも地異でもなくなるであろう。

 風雪というものを知らない国があったとする、年中気温が摂氏二十五度を下がる事がなかったとする。それがおおよそ百年に一遍くらいちょっとした吹雪ふぶきがあったとすると、それはその国には非常な天災であって、この災害はおそらく我邦の津浪に劣らぬものとなるであろう。何故かと云えば、風のない国の家屋は大抵少しの風にも吹き飛ばされるように出来ているであろうし、冬の用意のない国の人は、雪が降れば凍こごえるに相違ないからである。それほど極端な場合を考えなくてもよい。いわゆる颱風たいふうなるものが三十年五十年、すなわち日本家屋の保存期限と同じ程度の年数をへだてて襲来するのだったら結果は同様であろう。

 夜というものが二十四時間ごとに繰返されるからよいが、約五十年に一度、しかも不定期に突然に夜が廻り合せてくるのであったら、その時に如何なる事柄が起るであろうか。おそらく名状の出来ない混乱が生じるであろう。そうしてやはり人命財産の著しい損失が起らないとは限らない。

 さて、個人が頼りにならないとすれば、政府の法令によって永久的の対策を設けることは出来ないものかと考えてみる。ところが、国は永続しても政府の役人は百年の後には必ず入れ代わっている。役人が代わる間には法令も時々は代わる恐れがある。その法令が、無事な一万何千日間の生活に甚だ不便なものである場合は猶更なおさらそうである。政党内閣などというものの世の中だと猶更そうである。

 災害記念碑を立てて永久的警告を残してはどうかという説もあるであろう。しかし、はじめは人目に付きやすい処に立ててあるのが、道路改修、市区改正等の行われる度にあちらこちらと移されて、おしまいにはどこの山蔭の竹藪の中に埋もれないとも限らない。そういう時に若干の老人が昔の例を引いてやかましく云っても、例えば「市会議員」などというようなものは、そんなことは相手にしないであろう。そうしてその碑石が八重葎やえむぐらに埋もれた頃に、時分はよしと次の津浪がそろそろ準備されるであろう。

 昔の日本人は子孫のことを多少でも考えない人は少なかったようである。それは実際いくらか考えばえがする世の中であったからかもしれない。それでこそ例えば津浪を戒める碑を建てておいても相当な利き目があったのであるが、これから先の日本ではそれがどうであるか甚だ心細いような気がする。二千年来伝わった日本人の魂でさえも、打砕いて夷狄いてきの犬に喰わせようという人も少なくない世の中である。一代前の云い置きなどを歯牙しがにかける人はありそうもない。

 しかし困ったことには「自然」は過去の習慣に忠実である。地震や津浪は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである。紀元前二十世紀にあったことが紀元二十世紀にも全く同じように行われるのである。科学の方則とは畢竟ひっきょう「自然の記憶の覚え書き」である。自然ほど伝統に忠実なものはないのである。
 それだからこそ、二十世紀の文明という空虚な名をたのんで、安政の昔の経験を馬鹿にした東京は大正十二年の地震で焼払われたのである。

 こういう災害を防ぐには、人間の寿命を十倍か百倍に延ばすか、ただしは地震津浪の週期を十分の一か百分の一に縮めるかすればよい。そうすれば災害はもはや災害でなく五風十雨の亜類となってしまうであろう。しかしそれが出来ない相談であるとすれば、残る唯一の方法は人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はないであろう。

 科学が今日のように発達したのは過去の伝統の基礎の上に時代時代の経験を丹念に克明に築き上げた結果である。それだからこそ、颱風が吹いても地震が揺ゆすってもびくとも動かぬ殿堂が出来たのである。二千年の歴史によって代表された経験的基礎を無視して他所よそから借り集めた風土に合わぬ材料で建てた仮小屋のような新しい哲学などはよくよく吟味しないと甚だ危ないものである。それにもかかわらず、うかうかとそういうものに頼って脚下の安全なものを棄てようとする、それと同じ心理が、正しく地震や津浪の災害を招致する、というよりはむしろ、地震や津浪から災害を製造する原動力になるのである。

 津浪の恐れのあるのは三陸沿岸だけとは限らない、寛永安政の場合のように、太平洋沿岸の各地を襲うような大がかりなものが、いつかはまた繰返されるであろう。その時にはまた日本の多くの大都市が大規模な地震の活動によって将棋倒しに倒される「非常時」が到来するはずである。それはいつだかは分からないが、来ることは来るというだけは確かである。今からその時に備えるのが、何よりも肝要である。それだから、今度の三陸の津浪は、日本全国民にとっても人ごとではないのである。

 しかし、少数の学者や自分のような苦労症の人間がいくら骨を折って警告を与えてみたところで、国民一般も政府の当局者も決して問題にはしない、というのが、一つの事実であり、これが人間界の自然方則であるように見える。自然の方則は人間の力では枉まげられない。この点では人間も昆虫も全く同じ境界きょうがいにある。それで吾々も昆虫と同様明日の事など心配せずに、その日その日を享楽して行って、一朝天災に襲われれば綺麗にあきらめる。そうして滅亡するか復興するかはただその時の偶然の運命に任せるということにする外はないという棄すて鉢ばちの哲学も可能である。

 しかし、昆虫はおそらく明日に関する知識はもっていないであろうと思われるのに、人間の科学は人間に未来の知識を授ける。この点はたしかに人間と昆虫とでちがうようである。それで日本国民のこれら災害に関する科学知識の水準をずっと高めることが出来れば、その時にはじめて天災の予防が可能になるであろうと思われる。この水準を高めるには何よりも先ず、普通教育で、もっと立入った地震津浪の知識を授ける必要がある。英独仏などの科学国の普通教育の教材にはそんなものはないと云う人があるかもしれないが、それは彼地には大地震大津浪が稀なためである。

 熱帯の住民が裸体はだかで暮しているからと云って寒い国の人がその真似をする謂いわれはないのである。それで日本のような、世界的に有名な地震国の小学校では少なくも毎年一回ずつ一時間や二時間くらい地震津浪に関する特別講演があっても決して不思議はないであろうと思われる。地震津浪の災害を予防するのはやはり学校で教える「愛国」の精神の具体的な発現方法の中でも最も手近で最も有効なものの一つであろうと思われるのである。

 (追記) 三陸災害地を視察して帰った人の話を聞いた。ある地方では明治二十九年の災害記念碑を建てたが、それが今では二つに折れて倒れたままになってころがっており、碑文などは全く読めないそうである。またある地方では同様な碑を、山腹道路の傍で通行人の最もよく眼につく処に建てておいたが、その後新道が別に出来たために記念碑のある旧道は淋さびれてしまっているそうである。それからもう一つ意外な話は、地震があってから津浪の到着するまでに通例数十分かかるという平凡な科学的事実を知っている人が彼地方に非常に稀だということである。前の津浪に遭った人でも大抵そんなことは知らないそうである。
(昭和八年五月『鉄塔』)

初出:「鉄塔」1933(昭和8)年5月1日 ※初出時の署名は「尾野倶郎」。※単行本「蒸発皿」に収録。
底本:「寺田寅彦全集 第七巻」岩波書店 1997(平成9)年6月5日発行、底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店1985(昭和60)年

本随筆を参照したネット人気記事です: http://www.alterna.co.jp/7897







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2012/01/16 06:46:41 PM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Freepage List

重曹が虫歯を救う!?


重曹水の作り方


MMS口腔用二酸化塩素水の作り方


唾液中のHCO3(重曹成分)の濃度は?


重曹はみがき


重曹が虫歯に効くワケ2動画(酸の中和)


重曹水の作り方動画(重曹うがい用)


歯周病01。


歯周病解説その1~その4+おまけ。


咬合の常識と非常識


うがい剤 「プロトンフリー」、リリース!


使用している材料器具


α-TCPセメント+3MI○


僕が使っている機械器具・材料00


僕が使っている機械器具・材料01


CRでの隣接面の作り方


3MIXの作り方


3MIX(スリー・ミックス)


歯と金属間の電位差


虫歯の常識、非常識1


虫歯とはどういうものか?


抜歯再植症例リスト0.01


ほんとうの虫歯の発生メカニズム


ほんとうの虫歯の発生メカニズム2


虫歯の発生実験


無限大バッフルの製作0.00


無限大バッフルの製作0.01


無限大バッフルの製作0.02


無限大バッフルの製作0.03


無限大バッフルの製作0.04


無限大バッフルの製作0.05


無限大バッフルの製作0.06


無限大バッフルの製作0.07


無限大バッフルの製作0.08


無限大バッフルの製作0.09


無限大バッフルの製作0.10


無限大バッフルの製作0.11


無限大バッフルの製作0.12


無限大バッフルの製作0.13


無限大バッフルの製作0.14


無限大バッフルの製作0.15


無限大バッフルの製作0.16


無限大バッフルの製作0.17


無限大バッフルの製作0.18


歯の電気伝導経路(遠心歯根面カリエス)1


歯の電気伝導経路(遠心隣接面カリエス)2


歯の電気伝導経路(八島、藤森論文)3


1回で終わる根管治療8.0(α-TCP+3MIXによる根管充填法)


抜歯再植症例1.0


高カリエスリスク症例0.2(虫歯の電気化学説)


高カリエスリスク症例0.3(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例0.4(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例0.5(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例0.6(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例0.7(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例0.8(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例0.9(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例1.0(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例1.1(糖質と虫歯の関係)


高カリエスリスク症例1.2(右上6の再建)


高カリエスリスク症例1.3(右下6の修復、歯の発生上の虫歯の問題)


歯の発生のイメージ


高カリエスリスク症例0.0


高カリエスリスク症例0.1


1回で終わる根管治療(歯髄壊死症例)


部分的歯髄失活歯の歯髄保存法


Calendar

Comments

neko@ Re:今日の抜歯再植術シリーズ26.2(ここの技術のベースは?)(05/29) ありがとうございます スーパーテクニッ…
neko@ Re:今日の抜歯再植術シリーズ26.1(05/28) お忙しいなかお返事ありがとうございます …
mabo400@ Re[1]:今日の抜歯再植術シリーズ26.1(05/28) nekoさんへ 0%です。次回にでもお見せし…
neko@ Re:今日の抜歯再植術シリーズ26.1(05/28) こんばんは 魔法のような治療の数々に、一…
スポンジパンマン@ Re[111]:「重曹水」で虫歯が治った症例1(03/26) 訂正 松果体再石灰化 ↓ 松果体石灰化

© Rakuten Group, Inc.

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: