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2016.04.16
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カテゴリ: 歴史
図書館で『アジア海道紀行』という本を手にしたが・・・
東シナ海の(外交的)波高し昨今であるが、この本がふれている歴史認識が肝要ではないかと思ったのです。



アジア

佐々木幹郎著、みすず書房、2002年刊

<「BOOK」データベース>より
鑑真が漂着した島、倭寇が拠点とした島はどこか?唐辛子はなぜ「唐」なのか?日中韓3国沿岸の港町、島々をめぐる旅。
【目次】
鑑真が到着した港ー入唐道・坊津と秋目浦へ/鑑真が出発した港ー中国・長江の岸辺へ/海の上の観音菩薩ー中国・普陀山へ/風待ちの島、漂流のルートー中国・舟山群島から寧波へ/消えていった大凧/凧の文化とアジアの海とー長崎へ/唐辛子は、なぜ「唐」なのかー韓国・釜山へ/非時の香の木の実を求めてー韓国・済州島へ/元寇の舞台と捕鯨漁ー鷹島と平戸へ/SHANGHAIする!/上海幻変・蟋蟀博打

<読む前の大使寸評>
日中韓に横たわる東シナ海は、今では紛争の海に成り果てたが…
著者が観る歴史的な視点がええでぇ♪

rakuten アジア海道紀行

この本は読みどころが多いので、(その3)として読み進めました。 

長江下流の江南デルタが語られています。遣唐使船も、倭寇もこの江南デルタを目指したようです。
p38~45
<鑑真が出発した港> より
 右岸側の海岸平野を「江南デルタ」と呼ぶ。この地域の、長江(揚子江)に面した古代の河港のほとんどは現在、内陸部になっている。昔の河港だけではなく、近代に入ってからの港でも、容赦なくこの河はその機能を麻痺させつつある。

 長江のもっとも河口部にあるのは上海だが、この町は古代には影も形もなかった。長いあいだ、ここは東シナ海の海の底だった。やがて土砂の堆積によって中州ができ、江南デルタの一部となって、現在の上海の地を形成したのは10世紀前半のこと。漁民が住み始めるようになったのは、それからずいぶん後のことだ。最初にできた漁村の名を「フ」と言った。

 「フ」というのは漁業に使う竹の柵のことを言う。潮が満ちると倒れ、潮が引くと立ち上がる仕組になっていて、満潮時に中に入った魚は外へ出られなくなるという原始的な漁具だ。この村名からもわかるように、長いあいだ、この土地は干満の差の激しい湿地帯だった。

 この辺鄙な漁村が歴史上に登場するのは、倭寇が中国沿岸地域や長江下流、中流域の港町を侵略するようになってからである。たび重なる侵略に耐えかねて、16世紀の半ば頃、この村に周囲5キロに及ぶ城壁が築かれた。これが上海県城であって、上海の都市形成の最初だった。

 上海が後に「魔都」と呼ばれ、アジア最大の商業都市として急成長するのは19世紀半ば以降、欧米列強の租借地となってからのことだが、それは長江の水運を利用して、内陸部の都市と結ぶことができるという地理的条件によっていた。

 中国のそれまでの対外貿易の中心地は広東省の広州だったが、欧米列強は長江河口部の上海に目をつけた。ここからだと、長江中流域の南京や漢口、そして運河を通じて、江蘇省の蘇州や揚州、セツ江省の杭州など、巨大な後背地を市場にしうると考えたのである。

 その計画は清王朝の政治的衰弱とあいまってみごとに成功し、20世紀の初頭、上海は阿片販売や綿花貿易によって栄えることになった。その頃、大型の貨物船は東シナ海から直接、長江の河口部に流れ込んでいる黄浦江を遡り、「十六プー」という上海市内中心部の港に接岸することができた。

 しかし、現在は黄浦江も土砂の堆積量が多くなって、観光船ならともかく、大型の貨物船の入港は無理になっている。

(中略)
 この河は日本人には古代からなじみが深い。遣唐使船も遣明船も、倭寇も、東シナ海を渡って、長江の河口部に達することをめざしていた。日本人はこの河を船で遡り、また同じルートを下ってくることによって、中国の文化を列島まで運び続けた。

 753年、当時66歳だった鑑真和上が6度目の日本への渡航を決行したときの出発港も、長江の岸辺だった。彼は中流域にある「黄スー浦」という河港から遣唐使船に乗り込んでいる。鑑真一行は揚州から川舟に乗って、長江右岸にある黄スー浦まで下り、そこで大型船に乗り換えたのだ。現在この河港は、江蘇省張家港市に属しており、長江の岸辺から車で20分ほどもかかる内陸部の畑の真ん中になっている。

 稲作文化は江南デルタでは六千年前から始まっていた。コメもまた、長江の流れを下って日本に伝わったという説がある。日本に伝播したジャポニカ米の祖先の一つが、舟山群島の小島の遺跡から発見されたというニュースが報じられたのは、最近のことだ(朝日新聞、1995年4月13日)。イネの伝播の江南ルート説は、この発見以後、有力になった。

 イネとは別に、日本人が使っている漢字という文字もまた、江南ルートをたどってきたのかもしれない。長江が上流から押し流してくる土砂と同じように、文字はいったん東シナ海に吐き出され、やがて黒潮に乗って北上し、日本にまでやってきたのだと想像するのは楽しい。

 長江はいつも土色をしている。それは古代から変わりがなかった。長江河口部に立つと、対岸ははるかに霞んで見えず、東シナ海がどこまでも中国大陸にもぐり込んできているような錯覚におちいる。


揚州
歴史と近代が融合する江南都市、揚州 より

『アジア海道紀行』1
『アジア海道紀行』2





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Last updated  2016.04.16 07:38:49
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