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2016.04.27
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カテゴリ: アート
『村上春樹ロングインタビュー』というムック雑誌が積読になっていたが…
暇な大使は、再読しようと思い立ったのです。



村上
考える人 2010年 08月号 、新潮社、2010年刊

<内容紹介より>
特集 村上春樹ロングインタビュー 日常から離れた新緑の山にこもって、たっぷりとお話をうかがった3日間。
【1日目】 一人称から三人称へ 『ノルウェイの森』のこと 僕と鼠の物語の終わり 歴史少年だったころ 物語の間口と奥行き プリンストンへ 「第三の新人」講義 『アンダーグラウンド』と『サハリン島』 『アフターダーク』と『1Q84』 『1Q84』はいかに生まれたか クローズド・サーキット 手を握りあう 物語を掘りだす 文体が支える BOOK3 女性たちとセックス  「1Q84」という世界 パラフレーズすること
【2日目】 プリミティブな愛の力 『静かなドン』から始まった 話し言葉と語りの力 メタファーの活用と描写 BOOK4の可能性 近過去の物語 十歳という年齢と偶然を待つこと 父的なものとの闘い 漱石のおもしろさ 芦屋から東京へ 心理描写なしの小説 自由であること、個であること 時間が検証する 十歳で読書少年に 芦屋のころ 19世紀的な小説像 自我をすっぽかす小説 長距離ランナー 
【3日目】 リスペクトの感情 古典の訳し直し サリンジャー、カポーティをめぐって カーヴァーの新しい境地 20世紀の小説家の落とし穴 アメリカの出版界 オーサー・ツアー 全米ベストセラーリスト エルサレム賞のこと 短篇小説と雑誌の関係 今後のこと。

<大使寸評>
村上さんがインタビューで、小説を書く舞台裏とかノウハウを惜しげもなく語っています。
小説を書きたいと思う大使にとって、たいへん参考になります♪

Amazon 村上春樹ロングインタビュー


村上さんは『1Q84』は近過去の物語だと語っています。
p56~58
<近過去の物語>
Q:『1Q84』における歴史性の重要さについて、もう少しうかがってみたいのですけど・・・

村上:近未来ものというのは、なぜか知らないけどだいたい退屈なんです。オーウェルの『1984』という小説も、ジャーナリスティックな意味でおもしろくはあるけれども、純粋に小説として読むとかなり退屈じゃないですか。少なくとも僕には退屈だった。

 近未来について何かを描写しようとすると、多くの場合、話は構造的に凡庸になりがちです。映画でも、たとえば「ブレードランナー」にしても、「ターミネーター」にしても、作品としてはおもしろいんだけど、雰囲気はおおむね同じですよね。暗くて雨が降っていて、人々が不幸で、世界は深刻な問題を抱えていて・・・というような。

 だからというか、僕は個人的に近未来ものについてはほとんど興味が持てないんです。僕が興味を持てるのは、言うなれば近過去です。

 近未来というのは、未来はこうなっているんじゃないかという想像ですよね。近過去というのは、いまはこうだけど、ひょっとしたらこうなっていたかもしれないというさかのぼった仮定です。それによってもたらされる現在の事実の作り換えです。そういうほうが僕にはずっとおもしろい。近過去に惹かれる傾向が昔から僕にはあります。

 つまり、『1Q84』は一口でいえば近過去小説であり、僕としてはいわば、過去の書き換えをしているわけです。なぜそんなことをするかというと、僕自身の生きてきた時代の精神性みたいなものを、ひとつ違うかたちに置き換えて検証してみたかったからです。僕は批評家じゃなくて小説家だから、そういう虚構への置き換えによってしか、有効にものごとを検証することはできません。

 戦争から帰ってきた父親たちが結婚をして、戦後すぐに僕の世代が生まれた。平和な時代がやっと訪れ、貧しかったけれどみんな一生懸命働いて、昭和30年代の高度成長があって、生活も右肩上がりに向上し、これからすべてよくなっていくだろうという時代だった。そりゃおもしろい時代だったな。活気があり、少なくとも退屈はしなかったです。新幹線が開通して、東京オリンピックがあって、アポロ11号の月面着陸があった。
(中略)
 だいじなのは、そのころの20代の青少年は基本的に未来を信じていたということです。いまの大人はばかで貪欲で、意識が低く、何も考えてないから、愚かしいことがいっぱい行われているけれど、われわれのような理想主義的で先進的な決意を持った世代が大人になったら、世の中がよくならないわけがないと考えていた。いまになってみればずいぶん浮き世離れした話だけれど、当時の若い人はだいたいそう信じてたんです。
(中略)
 当たり前のことだけど、理想主義なんてあっという間に壊れていった。やがてバブルははじけて、日本は多かれ少なかれ、舵をもがれた船みたいなありさまになってしまった。僕らの世代は、それに対する責任をとってないんじゃないかという思いがあります。世代的責任というのが具体的にどういうものかはよくわからないけれど、でもやはりそういうのを感じます。
(中略)
 1984年という時代設定は、オーウェルの本から引っ張ってきたものであっても、それなりに意味を持っていたのかもしれない。そういう時代を描くことの必然性みたいなのは、僕の中にもともとあったのかもしれない。書き終えてそう思います。


村上さんの生活パターンが語られています。
p78~79
<長距離ランナー>
Q:ではきょうの最後に、村上さんの典型的な1日の過ごし方についてうかがえますか

村上:それはいちばん退屈な部分だな(笑)。長編小説を書いているときは、目覚める時間がどんどん早くなっていきます。だいたい朝の4時ごろ起きるんだけど、3時に起きたり2時半に起きたりしても、そのまま仕事をしてしまうときが多いですね。

Q:自然に目が覚めるんですね。

村上:そう。目覚し時計なんて使ったことはありません。目が覚めるとその時点で全開状態になっているから、すぐ仕事にとりかかる。コーヒーを温めて、何か小さいもの、スコーンを半分とか、クロワッサンとか、そういうものを食べて、コンピュータの前に座って、即仕事に入る。うだうだはなし。

Q:いきなり入るのですか。

村上:いきなり入る。うだうだしていると切りがないから、即入っちゃう。

Q:昔からそうですか。

村上:昔はそうじゃなかったかもしれない。まえにポール・セローと話したとき、「おれは朝早く起きて仕事をする」と言うから、「じゃあ僕と同じだ」と言ったら、「同じじゃない、おれは起きてから1時間半ぐらいクロスワードをやっている」(笑)。どうしてか聞いたら、「すぐ仕事なんかできないじゃないか」と言うから、「できるよ」と言ったんだけど。ともかく僕はすぐ始めます。

Q:ティム・オブライエンも早起きだった気がします。

村上:習慣はすごく大事です。とにかく即入る。小説を書いているときは音楽を聴きませんね。日によって違うけれども、だいたい5,6時間、9時か10時ころまで仕事します。

Q:朝ごはんは食べずに。

村上:朝ごはんは、7時ころチーズトーストみたいなのを焼いてちょっと食べたりするけど、時間はかけない。

Q:あとはひたすら書いているのですか。

村上:そうですね。だれとも口をきかないで、ひたすら書いています。10枚書くとやめて、だいたいそこで走る。

Q:10枚というのは、四百字詰めの原稿用紙に換算して10枚。

村上:そう。僕のマックの書式だと、2画面半で10枚。書き終わると、9時から10時くらいになります。そうしたら、もうやめてしまう。即やめる。

Q:そこから先は書かないんですね。

村上:書かない。もう少し書きたいと思っても書かないし、8枚でもうこれ以上書けないなと思っても何とか10枚書く。もっと書きたいと思っても書かない。もっと書きたいという気持ちを明日のためにとっておく。それは僕が長距離ランナーだからでしょうね。だってマラソン・レースなら、きょうはもういっぱいだなと思っても40キロでやめるわけにはいかないし、もっと走りたいからといってわざわざ45キロは走らない。それはもう決まりごとなんです。


『村上春樹ロングインタビュー』1





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Last updated  2016.04.27 00:08:42
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