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「When the War Is Over」 W.S.MERWIN
When the war is over
We will be proud of course the air will be
Good for breathinng at last
The water will have been improved the salmon
And the silence of heaven will migrate more perfectly
The dead will think the living are worth it we will knowWho we are
And we will all enlist again
「戦争が終わった暁」 W・S・マーウィン
戦争が終わった暁には私たちの
胸はもちろん誇りに満ちようやく
空気は吸っておいしいものになり
水質も改善されて鮭と星々の静寂が
より美しく正確に回遊して
死者たちは生きているものを少しも
恨まず犠牲を払ってよかったと思い
わたしたちもみな自分自身への
不安が解消してもう一度
志願して出兵する
二十世紀のアメリカで最も信頼された演劇評論家ブルックス・アトキンソンは、第二次世界大戦の間じゅう「ニューヨーク・タイムズ」の戦線特派員をつとめた。そして一九五一年にこう振り返った―“After war there is a little less democracy to save.”「戦争が終わってみると毎回、守ろうとしていたはずの民主主義が、少しずつ減ってしまっている。」
その後も朝鮮半島、インドシナ半島、中東、中米、南米などで米軍は戦争を幾度も繰り広げ、アトキンソンの言葉どおり毎回、アメリカの民主主義が減少した。しかも自作自演の、仮想敵を作り上げるところから始まる戦争なので、飛び交う情報のほとんどがフィクションだ。「ホワイトハウス本営発表」を鵜呑みにした国民が、現実とかけ離れた妄想に包まれて暮らすことになる。
“When the War Is Over”という詩を作るにあたってW・S・マーウィンは、ひとまずそんな妄想の真っただ中に身を置き、想像を大きく膨らました。当局が決まって約束する「戦争が終わった暁には・・・」の画餅を、拡大してその薄っぺらな不条理を照らす。鮭と星々と死者たちの向こうに、わたしたちの不毛な繰り返しが透けて見える。ベトナム戦争の頃に書かれた作品だが、少しも古くなく、悲しいことに現在のアメリカの虚構にもぴったりだ。
マーウィンの観察眼は鋭いだけでなく、常に人間の枠を超えた広がりを秘めている。ただし派手に人間をかなぐり捨てようとはせず、少しも力まずに、さりげない比喩で読者に新しいレンズを与える。例えば“Separetion”では、別離の悲哀を味わっている自分自身を、刺繍の針の目を通して見つめた。
「Sepration」
Your abusence has gone through
Like a thread througouh a needle.
Everything I do is stitched with its color.
「離れているとき」
ここにあなたがいないことが、針に通した糸のように、私の中を貫く。
何をやるにもその縫い目が見える。
いないあなた色で。
自然界を見つめるマーウィンの目は、その事象を逆に人間のそばへ、やわらかく手繰り寄せて活写する。一言でいえば「擬人化」だが、マーウィンのそれは澄み切った語り口で、微妙な客観性を保ちながら流れてくる。ホモサピエンスと、他の事物との間に引かれている境界線が、空虚なものとして消え失せる。自然を擬人化すると同時に、人間を擬自然化して、自由に行き来できる環境をととのえる。
「Dsuk in Winter」
The sun sets in the cold without frends
Without reproaches after all it has done for us
It Goes down believing in nothing
When it has gone I hear the stream running after it
It has brought its flute it long way
W・S・マーウィン は 2005 年 の 全米図書賞 を 詩部門 で受賞したアメリカの現代詩人らしいのですが、ぼくはこのエッセイで初めて読みました。英語の詩ですが、落ち着いていて僕にでもわかりますね。高校や、女子大の学生さんだって、一つ二つ辞書を引けば分かるに違いないでしょう。ビナードさんの解説もなかなかいいと思います。詩を読むというだけでなく、現代社会に視線を導いてくれています。「冬の夕暮れ」
太陽は寒い中、友だちもなく沈んで行く
あれだけみなに尽くしたというのに誰の
非をとがめるでもなく、何も信じないまま
沈むと、その後を追って走る小川の
音が聞こえてくる―フルートを吹き
吹きながらはるかどこまでも遠くへ
新聞の書評で気になりハードカバーのこの本を買い求めました。作者は 40 歳ぐらいのアメリカ人。大学卒業後、来日して日本語で詩やエッセイを発表しています。この本を読むまで知りませんでしたが。ここに書かれていたエッセイで一番面白かったのは、アメリカの空港を出るときたった2音節だったスーツケースが、成田に着くと、6音節にボリュームアップすることに驚くという話です。アメリカ人である筆者は日本語を勉強するとき飲み込みにくい言葉は佃煮にするくらい沢山あったと言っています。楽しい本ですが、鋭く日本や世界を見て表現しています。(U) U さんが紹介してくださった 「日々の非常口」 は、その後、手に入れて読みました。その話はまたいずれ、というか、それから、その本が行く方不明で、今回とても困っています。というわけで、また、なのでした。
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