全7件 (7件中 1-7件目)
1

でくがこの多摩川の橋の下に流れ着いたのは去年の年の暮、12月30日のことだった。やっと、辿り着いた、安穏できる棲家だったともいえた。 でくは長野の小さな町で育った。でくの父は病弱で、母がリヤカーで魚を売り歩いて生活を賄っていた。でくは背が150センチに満たないチビだった。ぼやーとしている子供で、勉強もひどく遅れていたし、のろまで、運動も後ろからついていくのがやっとだった。 虐めには格好のターゲットで、学校の仲間には入れてもらえなかった。だから、中学も半分くらいしか行かなかった。学校の先生が迎えに来て、一週間は学校にいくが、またいじめられる。「おまえは臭いから、学校へくるな!」 でくは何があっても、逆らわない、怒らない、下を向いて生きていた。虐めや、差別に、辛抱する対処療法が身についていたのかもしれない。修学旅行にも行けなかった、遠足にも行ったことがない。運動会では、いつもダントツのびりでみなから笑われた。 父も母も、でくが学校にいかないことを気にもせずリヤカー引きを手伝わせたし、中学になると、新聞配達、牛乳配達で、朝、夕働いた。 貧しくとも、いや、貧しいから、貧乏人の子だくさん、五人兄弟だった。姉ちゃんは中学をやめて、家を出て、キャバレーで働いた。時々、熱熱の鯛焼きを買ってきてくれるのが楽しみだった。 あんちゃんは、家を出て、喧嘩が強かったので、山中組の下働きをしてるらしいと、聞いた。病弱の父は仕事もせず、酒だけは飲んで、酔っては母と喧嘩していた。 中学を卒業すると、叔父さんの紹介で、鶏卵場で住み込みで働いた、社長は大男で、上半身に唐獅子牡丹の入れ墨をした怖い人だった。従業員には、乱暴者が多く、刑務所帰りの男もいた。 いじめられても、怒鳴られても、慣れっこだったから、でくは我慢できた。愚鈍ではあったが、真面目に働いた。 鼻がひん曲がるのではないかと思う程の鶏の悪臭で、一日が終わる夜になると、体中が鶏糞まみれになった。いつも最後に入る風呂桶には、鶏の毛が浮かび、お湯は薄茶色になっていて、透き通ってはいなかった。 夏の盆がすぎると、鶏の餌を止める、弱った鶏から、ばたばたと死ぬ、死んだ鶏を集めて業者に売る。チキンハンバーグになるんだろうか。でくはそこで、18年も過ごした。 母は別の男と家を出て、父が病死したと、妹からはがきが来た。もう、帰る所もなくなっていた。 でくは、なんとか一人でも生活できていたが、或る日突然、鶏卵場で伝染病が発生し、鶏はすべて殺処分され、会社は廃業になった。以来、でくは鶏肉は食べない、食べれない。 月12万円の給料から、部屋代、食事代、を引かれて、六万円が残ったが、そこから、家に2万円仕送りしていた。多分、父の酒代になっていたんだろう。残りのお金から、少しずつ貯めて、蒲団の下に10万づつ新聞紙にくるんで隠しておいたが、同僚のやっさんに鶏卵場を去る時に盗まれた。(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2014.05.29
コメント(0)

冬にしては暖かい日だった。太陽は夏を思わせるようだ。外壁は明るい穏やかなオレンジいろの色調、屋根はテラコッタ調の瓦屋根で統一された高級住宅街には道路にまでタイルが敷き詰められていた。 多摩川沿いに三年前にできた、この南欧風の高級住宅地にはビバリーヒルズのつもりだろうか、リバーリーヒルズという名前がつけられていた。住民も高所得者が多いのだろう、ガーデニングも凝っており、庭庭には競うように花が咲いていたし、ガレージにはベンツやBMWなどの外車が多かった。 チッチッチッ、舌を鳴らせて高論歩刑事は「どんな悪いことをすれば、こんな住宅地に住めるのかねえ」自転車で駆け付けた丸田万吉巡査に、妬みともやっかみともいえる言葉を投げる。「この辺りには有名企業の役員さんもいるし、有名人も多いんですよ、ほら、そこの豪邸はTBCアナウンサーの安住新次郎の家ですよ、問題がおこると、やっかいですからね、充分注意して、巡回してますよ」「やれやれだね、ほうら、豪邸の奥様たちが蜷局を巻いてお待ちかねだ」 リバリーヒルズは多摩川に沿った陽当たりのいいところに建っていて、その多摩川の土手に品のよさそうな、奥様がセンスのいい格好で高論歩刑事と、丸田丸吉巡査を待ちかねていた。「あの人です、あの人がこちらの御子息を殴って怪我をさせたのです」 まるで、汚いゴミを見るような目つきで、土手に転がって垢だらけのズボンから、泥のついた腹を見せて、眠りこけている男を指さしていた。「ここはこの町でも一番の上品な高級住宅街なんですよ。それが、汚らしいあの人たちのお蔭で台無しですわ!」 なるほど、河原には、高級住宅街には似つかわしくないビニールハウスが点点としていて、のそのそと、浮浪者らしき者が動く姿も見られた。「何とかしてほしいんです。私達リバリーリルの公園も我が物顔で使うし、立ちション便もするんですよ、娘なんかは、顔を赤くして、恥ずかしいやら嬉しいやら、あら、いやだわ、とにかく安心して外に出られませんのよ」「わんちゃんのお散歩も怖いんです、この間なんかも、うちのビーグルの百恵があの人たちが臭いので吠えたんです、そうしたら、よしよし怖くないからねと、百恵ちゃんの頭を撫ぜたんですよ、もう、不潔で不潔で、気味が悪いので、お家に帰ってすぐシャンプーしましたのよ」「そうそう、金城さんのプードルの拓也ちゃんなんか、あのひとたちが腐ったパンや残飯をその辺に撒いておくものですら、食べてしまったんですもの、もう大変よ、お腹壊したら、大変だから、お医者様にみてもらったんですって、無事だったからよかったけれど、もし、胃潰瘍にでもなったら、犯罪ですよね、ね、刑事さん」「ついこの間の事件んも刑事さんご存じでしょう?中学生に博打をさせて、さんざんお金を巻き上げて、それで、橋の下で宴会してたんですよ。赦せませんわ、たしか、丸田万吉巡査が処理してくださっんでしたわね」「自治会としても、市役所に何度も、苦情を申し立てているんですけれど、犯罪行為はしていないからと、でも、今回も犯罪ですからね、傷害罪ですよね、必ず、あのホームレスたちをここから、追っ払ってくださいね」 ホームレスさえいなくなれば、最高の住環境は保たれると、ハイクラスの住民は思い込んでいる。 チッチッチッ、高論歩刑事は額に皺を寄せて、目を瞑って、鼻を塞いだ。 さすがに、リバリーヒルズの選ばれた奥様達は選り取り見取りの美人揃いなので、股間をくすぐる香水が漂ってきて、いつもの刑事の勘が狂いそうになってきたからだ。「とにかく、捜査しますから、今日のところはお引き取りになって、後程、報告いたしますので、では」 軽く手を振って背を向けて、丸田丸吉巡査の肩を叩いた。「あいつらも、どうしようもない奴らですね、こないだ博打事件があったばかりなのに、有無を言わせず、ひっぱりましょうか?」「まあ、一応話を聞いてみようや」 高論歩刑事と丸田丸吉巡査は土手を降りて草に寝転ぶ男のそばによって、顔を覗き込んだ。「随分チビですね、子供じゃないですよね?」「おい、みてみろ、こりゃあ、ひでえ顔だな」 覗き込んだ男の顔にはぼつぼつと穴のような傷があり、凹んだり、腫れたり、血が出ていて、酷い有様だった。「おいっ、警察だ!起きろ!」丸田丸吉巡査が男の方を揺さぶった。 のろい動作で男は半身を起こした。眩しそうに眼を擦った。「リバリーヒルズの住民から、お前に殴られて怪我をしたと、訴えがあったぞ、やったのか?」髪の毛は固くゴワゴワとしていて、首には垢がこびついている。「へえ、やりました。すみません」あっさりと、自供した。刑事も巡査も拍子抜けである。「名前は?」「へえ、でくと、申します」「でく?、随分変わった名前だな」「でくのぼうのでくです、何のお役にも立ちませんので」「でく、署まで連行するぞ、いこうか」 巡査が男の襟首を掴んで同行しようとした。そのとき、背丈ほどもあるすすきをかき分けるようにして、ホームレスらしき仲間が三人出てきた。「おまわりさん、でくちゃんはは正当防衛だよ、おいらが目撃者だ、間違えなあ、悪いのは、あの糞餓鬼どもだよ」 チッチッチッ、高論歩刑事の舌が鳴った。面倒になりそうになると、鳴る高論歩刑事の癖だった。(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2014.05.25
コメント(0)

当ブログも、いつの間にか開設より2年半を迎えてしまいました。これほど長期間に亘ってこのようなブログを運営出来るとは考えてもいませんでしたが、これもひとえに熱心な読者の方々のお蔭だと感謝しております。 また当初はポエムを中心に掲載しておりましたが、最近は短編小説、ショート・ショートなどのほかにも、『名作読書帳』や『ひろし少年の昭和ノスタルジー』などの新趣向作品も掲載し、お蔭さまで多くの読者の方々に注目されております。今後もさらなるチャレンジ精神を忘れず、積極的に面白い作品創りに励みたいと考えておりますので、引き続きご愛顧いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。 また当文学館は常に「参加希望者を募っております」。一度きりの投稿だけでも結構ですから、勇気を出して是非下記メールアドレスまでご連絡ください。文芸愛好家であれば、老若男女全ての方々が対象でございます。 なお投稿された原稿は、特に過激な内容でない限り、一週間以内に当ブログに掲載する予定であります。皆様からのご投稿を心からお待ちしております。原稿送付先メールアドレス:kuchikisan@excite.co.jp『ネット文芸館 木洩れ日の里』管理人:五林寺隆(ごりんじりゅう)※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2014.05.19
コメント(0)

ぱちぱちと炎はじける里の冬ゆらりとゆらりと夕暮れに煙作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2014.05.17
コメント(0)

最近、やたらとラーメン屋さんを紹介するテレビ番組が多くて困っています。これがラーメン行列を作っている原因だからなのです。 特に小さい子供や赤ちゃん連れで並んでいる若い夫婦には呆れてものも言えません。実は子供にとっても、他の客にとっても迷惑このうえないからであります。 小さい子は食べるのも遅いし、テーブルは汚すし、お母さんと一緒に食べても、ちゃんと1人分の座席をキープしますから、店にとってもかなりの損失ではないでしょうか。それに子供たちは狭い店の中で走ったりふざけたり、ほこりは舞うし危なかしくって落ち着いてラーメンを食べていられません。 そのうえおばあちゃん迄連れてきて、孫たちの世話と支払いは全部おばあちゃんが面倒観ているんですね。そしてくだんの若い夫婦は我感ぜずと言う顔つきで、知らんぷりでラーメンをすすっているんですよ。こんな自己中な若者に育てたのは、おばあちゃんの責任だから、孫の世話と支払いは仕方がないですね。日本人はみんな優しくて誰も文句を言いませんが、きっと内心はかなりムカついているに違いありません。 若い夫婦にとっては、ラーメン行列もパンケーキの行列やテーマパークでの行列と同じなのでしょうか。いずれにせよ、私なら30分以上並ぶのなら諦めてしまいますが、若者たちは並ぶことに関しては余り抵抗がないみたい。そのあたりの心理構造がよく理解出来ない私は、きっともう年寄りなのかもしれませんね。 作:湯川和泉※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2014.05.12
コメント(0)

ボロボロ二軒長屋の隣に住んでいるしげちゃんは、ひろし君より一歳上だが、けんちゃんというお兄ちゃんがいた。けんちゃんはひろし君より三歳年上なので、ひろし君はしげちゃんと遊ぶことが多かった。ただ軍人将棋をする時だけは、けんちゃんにも一緒に遊んでもらうことにしていた。 この軍人将棋は、駒の全てが軍隊に因んだ名前で構成されている。駒の種類は16種で、大将、中将、少将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、飛行機、タンク、騎兵、工兵、スパイ、地雷と分類されており、それぞれの駒には強さが設定されているのである。つまり大将は中将以下の駒より強いが、スパイと地雷だけには負ける。また地雷は動けないが、工兵以外の全ての駒より強い。といった具合である。 だから通常はその駒が何なのか相手に分からないように、名前の書いてある面を裏にして相手の陣地に侵略してゆく。そして駒と駒がぶつかったときに、どちらが勝ったのかを判定する審判が必要となるのである。従って公正に勝負を続けるためには三人が必要となるのだ。 対戦者同士はそれぞれ自分の駒だけは分かっているから、例えば「中佐が負けたのだから相手のその駒は、大佐以上なのだな」と推測する。そしてはったりなども飛び交い、プレイヤー同士の心の読み合いが始まるのである。 見つかると大人たちに叱られるのだが、しげちゃんの部屋へは、いつも崩れ落ちそうなトタン屋根を伝って行った。だからしげちゃんちのおじさんが二階に上がってきそうになると、急いで屋根を伝って自分の家に逃げ帰ったものである。この時は屋根がメリメリと音を立て、本当に崩れ落ちそうで怖かった。いつもそうした恐ろしさを胸に抱きながらも、一向にこのボロ屋根伝いはやめないのだから困ったものである。 しげちゃんとは何度やっても軍人将棋では勝てなかった。それは当然であろう。緻密な作戦としたたかな戦略が必要なこのゲームにおいては、幼児期の一歳の違いはかなり大きく影響するからである。それでも懲りずに何度も何度も挑戦しては敗れた。 ある日けんちゃんが不在で、無理やりしげちゃんと二人で勝負したことがある。結局交代で審判役をすることになったのだが、その判定の瞬間一方的に駒情報がバレることになるし、自分のほうが負けていても、嘘の判定をして勝ったりで滅茶苦茶だった。 そしてこれを機に、軍人将棋に興ざめしてしまい。いつとはなくこのゲームをすることもなくなってしまったのである。作:五林寺隆※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2014.05.08
コメント(0)

川に人道橋が架かっていて、北側には原っぱがあり、冬でも風のこない、陽だまりになっていた。 午後になると、三人の老人が集まって、世間話に花が咲いていた。地域の老人たちだ。中にはワンカップを飲んで顔を赤らめている老人もいる。老人たちの仲良し居場所になっていた。 みな、家にいてもやることがない。かかあも嫁も、ぶらぶらしている呆け爺さんがいない方が楽なのだ。老人たちは、愚痴ってはいない。朗らかだ。活き活きしているようにも見えた。「俺のポケットにはほれ、月餅が勝手にはいってきたよ、うれしいな!」「俺は昨日、町のスーパーへ、かかあと買い物にいったらよ、ポケットにほら、ワンカップ三つも飛び込んできて、 あはははは、天国天国」「おらあ、蕎麦屋で一杯やって、そば喰って、勘定忘れて帰ってきちゃったよ、あははは!無銭飲食たのしいな!」「呆けてんだらしょうがねえ、みんなが俺たちのこと、爺さん、すこし呆けてるねって、馬鹿にしおって、でもボケもいいことあるんだな」老人たちが呆け万引きを自慢し合っている。「義春ちゃん危なかったんだって?」「ああ、かかあがよ、真面目に信じちゃってよ、呆けても万引きだから自首しろってよ」「だけどよ、呆けは許してくれるんだろう?なあ、義春ちゃん」「大丈夫、大丈夫、駐在の丸太丸吉も、高論歩刑事も罪にはなんねえといってたよ、だいたい、呆けてるのは警察の旦那のほうだよ」「俺たちの場合はよ、知らねえうちに、向こうから入ってきちゃうんだから、どうしようもねえしな」「悪餓鬼とは一味ちがう、この楽しみは誰にも奪われたくねえな」「まんびき まんびき 楽しいな、大ボケ 小呆け楽しいな、おまわりさんも楽しいな」 大きな声で唄ってる。橋の上の高論歩刑事と丸田万吉巡査に手を振っている。 高論歩刑事はさっきから、老人の様子を見ながら危険な会話を盗み聞きしていた。チッチッチッ、高論歩刑事の舌が鳴った。カッツカッツカッツ、丸田万吉巡査も歯ぎしりして悔しがった。警察を愚弄しやがって、二人の警察官の頭に怒りが渦巻いた。 老人たちの会話はきちんと録音していた。動かぬ証拠になる。丸田丸吉巡査は太った体をくゆらせ、額にびっしょりと汗をかいて、土手を駆け下り、老人たちの輪の中に怒涛のように走り込んだ。「お前ら、警察を馬鹿にしおって!」 老人たちは笑っていた。なんで、丸田万吉巡査が怒っているのか不思議そうに眺めている。 チッチッチッ、高論歩刑事はゆっくりと土手をおり、鬼の判決を下した。甘い態度が老人たちをいい気にさせたのだ。ここは厳しくいかなきゃならない。「万引き常習犯として、皆さんを緊急逮捕します。呆けで、家族に冷たくされているという、情状酌量の余地はあるものの、再犯の虞充分にあり。このままでは、家族、地域に悪影響を及ぼすこと間違いなし、したがって更生するまで、刑務所呆け病院に入院することになります」ビシッ!と言い放った。 義春爺さんが笑っている。ほかの老人も笑っている。腹を抱えて笑っている。こいつら、ほんとうに呆けてしまったのか?高論歩刑事も丸田丸吉巡査も開いた口が塞がらない。 河原から、コンビニのオーナーの鈴木清美と、義春の古女房ウメがやってきた。すみません、すみませんと、ぺこぺこ頭を下げている。「あんたたち、またからかったのね、まったく、性懲りもなく、悪戯ばっかりするんだから、刑事さん、私もね、騙されてたんですよ、『呆け万引きしたふり遊び』だって、悪ふざけもいいところ、鈴木清美さんもおかしいなあと、思ってたそうだけど。本当に、刑事さん、ごめんなさいね、老人にも刺激がほしかったらしいの、呆け防止にはね、ちょっと他人を騙すというか、他人を罠にかける知恵を働かせる、そういうことが、一番効果があるんですって。 峰岸老人医院の院長は囲碁や将棋のことを言ったみたいなんですけど、この人たち、なにを勘違いしたのか、ほんとに他人を騙して悪戯して、喜んでるんです。そのお蔭で、元気になったみたいですけど、赦してくださいな」 チッチッチッチッチッチッ、高論歩刑事の舌が激しく鳴った。刑事生活30数年、これほどの侮辱と敗北を感じたことはなかった。丸田丸吉巡査はきょとんとした顔で「それじゃあ、万引きはしてなかったのかい、あれはお芝居だったのかい?」「おまわりさん、饅頭がね、かってにポケットにはいってきますかねえ?」 河原には乾いた老人のほがらかな笑い声がこだましていた。 おしまい作:朽木 一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2014.05.04
コメント(0)
全7件 (7件中 1-7件目)
1
![]()

