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島田荘司『星籠の海(上・下)』~講談社、2013年~ ついに!御手洗潔シリーズの最新刊です。 ときは1993年夏、御手洗さんと石岡さんが日本で一緒に動き回って解決した、最後の事件ということになります(…と石岡さんは書いているのですが、時系列的には、その後10月に『最後の一球』があるかと思います。スケールは段違いですが)。 瀬戸内海の小さな島に、死語数日経過した死体が浮かぶという話から、御手洗さんと石岡さんの調査は始まります。島で亡くなっている人はおらず、島周辺で自殺したという話も聞かない、と依頼者の女性は語ります。 解決の鍵を求めて、御手洗さんたちは広島県福山市へ向かいます。そして、事件は思わぬ様相を帯びていくこととなります。 久々の御手洗シリーズですが、もはや謎解き自体に重点は置かれていません。石岡さんの一人称ではなく、事件の関係者を中心においた三人称スタイルで描かれる章も多く、むしろサスペンスというか、人生模様というか、そちらにも重点が置かれています。そして、犯人との手に汗握る戦いを、どきどきしながら楽しみました。 一方、瀬戸内海の覇者にまつわる歴史の謎も、同時に解かれていきます。 本書には登場しませんが、同じく瀬戸内海に近いまちに住んでいるので、瀬戸内海はとても身近な舞台で、そこも面白かったです。 というんで(?)、謎解きの面白さを期待していると、ちょっと方向は違ってしまっていますが、御手洗さんの活躍をわくわくしながら楽しめる一冊でした。
2013.10.26
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森博嗣『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』~新潮新書、2013年~ 久々に森博嗣さんの著作を読みました。 本書の構成は次のとおりです。ーーーまえがき第1章 「具体」から「抽象」へ第2章 人間関係を抽象的に捉える第3章 抽象的な考え方を育てるには第4章 抽象的に生きる楽しさ第5章 考える「庭」を作るあとがきーーー あとがきでふれられている執筆直後の原題『抽象思考の庭』の方が素敵なタイトルだと思いますが、新書という性格上、仕方なかったのかもしれません…。 とまれ、構成に示したとおり、本書は抽象的・客観的な思考のあり方の重要性を指摘します。抽象的な思考が重要だ、という趣旨のため、内容もあえて具体的な事例は書かないようにされています。 領土問題などなど、主観的に考えられがちな諸問題について、もう少し引いて、客観的にみてみよう、と指摘されています(これらの問題について、具体的な根拠の少なさも指摘されています)。関連して、「『決められない』という正しさ」「『決めない』という賢さ」の小見出しで示されたあたり、私には特に有意義な内容でした。
2013.10.19
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有栖川有栖『長い廊下がある家』~カッパ・ノベルス、2012年~ 火村英生&作家アリスシリーズの短編集です。4編の短編が収録されています。 それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。ーーー「長い廊下がある家」 怪談の名所として有名な家で起こった奇妙な殺人事件。西の家と東の家をつなぐ長い廊下の真ん中、閂がかかった扉の前で、取材に訪れていたチームの一人が死んでいた。その他のメンバーは、死者とは別の側の家で過ごしており、アリバイも保証された状況であった。密室トリックか、アリバイトリックか――。「雪と金婚式」 雪の降る夜、金婚式を祝う老夫婦の家の離れで、居候していた妻の弟が殺された。容疑者は2人まで絞られたが、しかしお互いにアリバイが成立している。一方、老夫婦の夫は、犯人に心当たりがあるということだったが、警察に相談しようとした直後、事故で記憶を失ってしまっていた…。はたして男はなぜ犯人に気づいたのか。「天空の眼」 有栖川の隣人の教え子が、心霊写真をとってしまったという。旅先でとった写真を同級生に見せると、これはヤバイと言われたという。一方、その同級生の友人が、空き家の屋上から落ちて死亡した。はたしてこれは事故か、殺人か。「ロジカル・デスゲーム」 火村の授業を聴講していた男が、火村に挑む。3本のコップから、毒入りジュースを選ぶかどうかのゲーム。火村は、いかにその場を切り抜けたのか。ーーー まず、表題作は、犯人の目星がついているにもかかわらず、いかなるトリックがつかわれたのかが不明、しかもトリックも、密室トリックなのかアリバイトリックなのかが判然としないという、興味深い謎の提示があり、面白かったです。 本書の中で最も好きなのは、「雪と金婚式」です。電車で読んでいたのですが、涙ぐんでしまいました…。素敵な老夫婦です。「天空の眼」は、シリーズ異色作だと思います。「ロジカル・デスゲーム」は、とても読後感の悪い作品です。火村先生に挑む男の最悪ぶりが気持ち悪かったです。
2013.10.12
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池上俊一『図説 騎士の世界』~河出書房新社、2012年~ 池上俊一先生は、現在、東京大学大学院総合文化研究科教授で、ものすごいペースで著書を刊行されています。そのテーマも、想像界や象徴、宗教運動、動物、食生活などなど、多岐にわたっています。 本書は図版豊富な「ふくろうの本」シリーズの中の一冊です。 本書の構成は次のとおりです。ーーーはじめに第一章 騎士の誕生と活躍第二章 騎士団第三章 儀礼と遊技の世界第四章 騎士道第五章 武器と甲冑第六章 もう一人の主役―「馬」の歴史第七章 物語のなかの騎士第八章 騎士身分の民主化と閉鎖化おわりに参考文献ーーー 騎士の起源としてのゲルマンの戦士から、十字軍での活躍などを通じて騎士たちが宗教的な色合いを強め、やがて衰退するものの、現在も勲章などに騎士道精神は残っているというところまで、1000年以上に及ぶ歴史をコンパクトにまとめた良書です。こうした通史的な面だけでなく、騎士たちの儀礼(騎士叙任式や君主への臣従礼など)や遊技(騎馬槍試合や狩り)、装備品の話もあり、興味深いです。 特に面白かったのは、馬に一章が割かれていることです。私の手元にある関連文献としては、橋口倫介『騎士団』やデュ・ピュイ・ド・クランシャン『騎士道』などがありますが、馬については論じられていないようです。とても面白い論述のあり方だと思います。 私自身がどちらかといえば聖職者や修道士、民衆のあり方に興味があり、貴族層や騎士たちへの関心は低いのですが、中世ヨーロッパ史のいろんな側面を理解していくためには、騎士も避けては通れないテーマです。私にとって、図版も豊富で、近年の研究の知見もふまえたコンパクトな本書は、騎士たちのあり方を知るために便利な一冊です。
2013.10.05
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