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浦賀和宏『彼女の血が溶けてゆく』~幻冬舎文庫、2013年~ 浦賀さん久々の新刊。本書は、ノンシリーズの長編です。 ごく簡単に、内容紹介と感想を。ーーー 離婚した妻・聡美が、医療ミスで提起された…。 フリーライターの「俺」―桑原銀次郎は、多くのマスコミが医療ミスを糾弾する風潮のなか、被害者本人に過失はなかったのか、という観点から調査を進めた。 妻に会い、亡くなった綿貫愛の病状を訊く。彼女は、溶血という、自身の免疫システムが自身の赤血球を破壊する病にかかっていた。聡美の判断により脾臓の摘出手術を行ったものの、その後、血小板が増加し、肺血栓塞栓症により死亡した…。聡美が行った脾臓摘出の判断がミスだったのではないかと世間ではいわれるが、そもそも溶血の原因は、綿貫にあったのではないか。 調査を進めるうちに、愛が非常にしばしば家を空けていたこと、訴えを起こした夫とは不仲であったこと、なぜか小学校の頃の同級生と接触をとっていたことなどを突き止めていく。 彼女の溶血の原因は、なんだったのか―。ーーー これは面白かったです。浦賀さんの作品を読んできて良かったとあらためて思いました。 ハードボイルド風というのでしょうか、桑原さんが調査を進める過程を、手に汗にぎりながら、どんどん読み進めました。 ミカさんと桑原さんのやりとり、愛さんの不利な状況を知って、それまで情報提供をしていた義父が怒り出すあたりなど、印象的なシーンも多々あります。 桑原さんが真相を語るシーン(場)も、ものすごい緊張感がありました。 あらためて、とにかく面白かったです。 浦賀さんの作品に出会えていて、本当に良かったです。
2013.12.28
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緑川聖司『晴れた日は図書館へいこう』~ポプラ文庫ピュアフル、2013年~ 緑川聖司さんのデビュー作。図書館(と、市立図書館で働くいとこの美弥子さん)が大好きな小学五年生、茅野しおりさんが主人公の、日常の謎を解き明かす短編集です。 本書には、番外編も含めた6話が収録されています。 簡単に、内容紹介と感想を。ーーー「第一話 わたしの本」図書館の中で迷子になった女の子が、わたしに声をかけてきた。たまたまわたしが手に取った本を、その子は「あ、わたしの本」と取り上げてしまい…。「第二話 長い旅」同級生の安川くんが、図書館の返却期限を過ぎてから返すと何かあるのかな、と訊いてきた。話を聞くと、60年前に借りた本があるというのだが…。「第三話 ぬれた本の謎」図書館のブックポストにコーヒーの空き缶が投げ込まれるという、悲しい出来事があった頃。わたしが気になっていた本も、水をかけられていたらしい。どうも空き缶事件とは事情が違いそうなのだが…。「第四話 消えた本の謎」図書館では、勝手に持ち出されるなどの理由で所在が分からなくなる不明本がけっこうある―。そんな悲しい話を聞いた矢先、わたしの気になっていた本も不明本になっていた。最近急に、児童書を中心に本がなくなるというのだが…。「第五話 エピローグはプロローグ」図書館祭りの日。自分の子供が騒いでいても注意しない、図書館の司書に叱られたら「お姉さんに叱られるからダメ」という言い方しかしない親の姿を見て、悲しい気持ちになっていたとき、静かにその女性に注意した人がいた。その人が、図書館祭りで講演することになっていた、関根要という作家だった。「番外編 雨の日も図書館へいこう」雨の日に本を借りて、傘を差して公園で音読している女性の行動の理由とは…。ーーー 本屋さんでふっと見つけ、そのままの勢いで購入した一冊です。最近、こういう買い方は珍しいのですが、買って良かったです。 日常の謎は好きなジャンルですし、児童向けのやさしい雰囲気も好きです。 私はあまり図書館を利用しませんが、その雰囲気にふれられるのも、そしてなにより主人公たちが本好きなのが嬉しいです。 シリーズ第2作も文庫で出ているようですし、また読んでみたいです。
2013.12.21
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加納朋子『レインレイン・ボウ』~集英社、2003年~ 『月曜日は水玉模様』の続編にあたる連作短編集です。タイトルが示すとおり、7つの短編からなり、全体で一本の筋がとおる構成です。 ごく簡単な内容紹介と感想を。ーーー「サマー・オレンジ・ピール」ソフトボール部で一緒だった友人、牧知寿子が死んだという知らせを受けた。渡辺美久は、彼女のお通夜で部のメンバーと再会し、そのなかで、とつぜん泣き出してしまう。本当の涙の意味は、きっと誰にも分からない…。「スカーレット・ルージュ」出版社に勤める小原陽子は、自他共に認める気が強い女性だった。そんな彼女が、どうにも調子の狂う作家と出会い、友人・知寿子の死について話したところ、作家は思わぬ推理を展開し…。「ひよこ色の天使」保育園につとめる佳寿美が受け持っている園児の一人が行方不明になった。別の園児の言葉を聞いているうちに、佳寿美には嫌な想像が浮かんでしまうが…。「緑の森の夜鳴き鳥」看護師の井上緑が、屋上で気づかず涙してしまったとき、大学生である患者が声をかけてきた。無視して去ったそのときから、患者の態度ががらりと変わってしまう。彼は何を抱えているのか…。「紫の雲路」姉の結婚式に参加した坂田りえは、二次会で不審な男と言葉を交わす。花嫁側の客でも、花婿側の客でもないようだった。後日、佳寿美と話しているうちに、りえは男の正体についてある考えを抱き…。「雨上がりの藍の色」三好由美子は、誰も行きたがらない会社の社食の管理栄養士を引き受けることとなった。その社食では、社長の親族で口うるさいという噂のおばちゃんたちがいるというのだが…。案の定、一筋縄ではいかなかったが、由美子はそこで思いがけない出会いをする。「青い空と小鳥」片桐陶子の会社に電話をかけてきた長瀬里穂は、しかしすぐに電話を切ってしまった。知寿子と最も仲が良かった―というか、完全に依存していた里穂が、失踪したという連絡を、彼女の母親から受けた後のことだった。陶子はソフトボール部のメンバーたちに、里穂についての情報を求めるが…。ーーー タイトルで、あらためてrainbowは「雨の弓」なんだなぁ、ととりとめのないことを思いました。ちなみにフランス語で虹はarc-en-ciel(空の弓)(あのバンドは虹という意味ですね)。さらにちなみに、「虹」はどういう語源なのかと『漢語林』を引いてみると、虫が蛇の意味、工がつらぬくという意味で、天空をつらぬく蛇、とのこと。言葉って面白いですね。 さて、本作では、『月曜日は水玉模様』の主人公、片桐陶子さんはちょっと第一線をひいて、彼女の部活動のメンバーたちにスポットライトが当てられます。当然ですが、それぞれがいろんな性格で、いろんなことを抱えていて…。人物描写がとても丁寧です。 前作でもタッグを組んだ萩さんもとても素敵で、二人の今後の行方も気になります。 少し悲しくもありますが、素敵な物語です。 最後に、一節を引用しておきます。「色んな色が虹みたいに重なり合って、複雑な模様を作っているからこそ、人間って面白いんじゃないですか」 萩さん、素敵です。
2013.12.14
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ジャック・ル・ゴフ(樺山紘一監修/橘明美訳)『[絵解き]ヨーロッパ中世の夢[イマジネール]』(Jacques Le Goff, Heros & Merveilles du Moyen Age, Seuil, 2005)~原書房、2007年~ 西洋中世史研究の大家、ジャック・ル・ゴフによるやや軽めの本の邦訳です。軽めといっても、参考文献は充実していますし、(数はごく少ないですが)注もついているので、さらに研究を深めるための入門としても十分な一冊です。 本書では、アーサーやロビン・フッドといった実在の人物をもとに想像界でふくらまされた英雄や、女教皇ヨハンナなど想像界でうみだされた英雄のほか、驚異として、大聖堂や城塞、コカーニュの国(桃源郷)など、全部で20の項目が紹介されます。 すべてを列挙するのは大変なので、印象的だったことを簡単にメモしておきます。 個人的に、本書の中でもっとも重要だったのは序文です。すでに上の紹介で「想像界」という言葉を使いましたが、これは原語ではimaginaire[イマジネール]です。ル・ゴフの説明からいくつかの要素を抜き出すと、それは(1)ある社会、ある文明の夢のシステムであり、(2)象徴システムとも区別され、(3)さらにはイデオロギーとも区分されます。本書では、中世の想像界の歴史を、英雄と驚異という二つの切り口から、いくつかの例を挙げながら見ていく、という試みです。 テーマのなかでは、驚異や動物についての話題が興味深かったです。 たとえば、大聖堂。司教座にたてられる大聖堂ですが、この建設には、国王の許可が必要とされていたとか(38頁)。俗権と教権の対立については、中世史の大きなテーマのひとつですが、カテドラルについては、国王はその権利により、カテドラル建設に力を入れるようになったといいます。そしてそのため、カテドラルは国家と結びつき、都市の記念碑としての位置づけから、国家の記念碑へと変わっていくと指摘されます。 2年ほど前にフランスに行った際に、パリのノートルダム大聖堂やシャルトル大聖堂などをみてきましたが、とにかく圧巻です。建設当時は彩色されていたといいますし、それはまさに「驚異」だったでしょう。 動物では、ユニコーンや狐のルナールが項目として取り上げられています。ここでは、ユニコーンについてメモを。 ユニコーンといえば、有名なタペストリー<貴婦人と一角獣>などでもおなじみ、女性(処女)のそばにおとなしくはべっているというイメージがありますが、処女がいないと非常にどう猛で、どんな狩人でもつかまえられない、という性格付けもされていたというのが興味深いです。 また、ユニコーンの角には解毒作用があると考えられたらしく、教会や王侯の宝物のなかに「一角獣の角」もみられるそうです。ちなみに、現存しているそのほとんどが、イッカクの歯だそうです。 英雄のなかでは、女教皇ヨハンナについての項目が面白かったです。もちろん、想像上の人物なのですが、こんなお話です。学問を志すヨハンナは、男装して学問にうちこみます。そして頭角を現し、評判になると、教皇庁に迎え入れられ、ついに教皇にまで上りつめます。しかし、ある教皇行列のさなか、公衆の面前で子供を産んで死んでしまう―というお話です。 面白いのは、これはいわばカトリック側の醜聞ですから、ルター派がこの話をさかんにとりあげた、というのですね。歴史的事実であると信じたふりをして(想像と認めるよりもそうした方が、カトリック側を責める口実になります)。 本書の原題を直訳すれば、『中世の英雄と驚異』です。個人的には、「絵解き」や「図説」があたまにつく書名はあまり好きではないこともあり、ちょっと邦訳タイトルが残念ではありますが、タイトルどおりカラー図版も豊富ですし、訳も読みやすいですし、満足でした。
2013.12.07
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