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光ノ章_01-03【呪夜】【改稿/シャルロット回想】 シャルロットの脳裏に甦る忌まわしき光景。 屍族に血を吸われた人間は夜の眷属となり、主となった屍族に従属・隷属を強られる。 吸血した屍族の格の違いにより程度の差こそあるが、そこに例外はない。 シャルロットの動揺を見透かしたようにフォン=バレル3世が更に続ける。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。============================================================さて、ここで区切って月の章の推敲に入るか、はたまた、もう少し先―――贖罪の牢獄部分に1章の終点を設けるかで悩んでいます。贖罪の牢獄は血の章(※大人向け描写有り)に繋がるのでそれなりに大事なのですが、時系列的に血の章側で書くことも可能、且つ血の章のヒロインの一人、ラールウェアとの絡みも済んでいますしここで次のターンに入るのもありなのかな・・・そういえば、年末年始のPC不調→買い替えの流れの中で『†PDS†』専HPの立ち上げも有耶無耶になってますね(汗
2009/03/28

『†Princesse du sang†』 光ノ章 1-03【呪夜】b光ノ章 1-03【呪夜】b―シャルロットSIDE― それは小柄な少女であった。 年齢はシャルロットよりも幾許か幼く見える。 流れるような銀髪にすらりと伸びた細い手足。 蒼みを帯びた白い肌はこの世のものとは思えないほど幻想的な輝きを放っていた。 まるで夜の妖精のような少女。 しかし如何に美しかろうとそれは人間の持つ美しさではない。 あどけない表情をみせる唇がつり上がり、そこから覗く一対の乱杭歯。 隠すこともなく屍族たる本性を剥き出しにする。 元は人間であるフォン=バレル3世とは根本から違う。 魂から闇に染まった存在であった。 「ラールウェア様……我が主よ。 出来うる限り事を大袈裟にはしたくないのです。 理由(わけ)を話せばきっとシャルロット殿にもご協力頂ける筈ですぞ」 ラールウェアと呼ばれた少女は、ふわりと円卓に飛び乗ると不服気に呟いた。 「ふーん。 人間の価値観はよくわかんないなー」 フォン=バレル3世は苦笑すると、改めてシャルロットに向き直る。 「聞いての通り無駄話をしている暇はないようだ。 我が主が貴女の持つ霊環アシュタリータを欲しているのだ。 素直にご提供頂ければ貴女の身の安全は予が保障しよう」 「うんうん♪ アタシにはシャルロットちゃんの霊環アシュタリータがどうしても必要なの」 ラールウェアは横合いから茶々を入れると、その指先でシャルロットの首元で鈍い輝きを放つ霊環を指す。 「この霊環は私が聖女として生を享け授かったものです。 おいそれとお渡しするわけにはまいりません」 恐怖がシャルロットの精神を鷲掴みにしていた。 しかし、聖女としての尊厳までは縛られてはいなかった。 シャルロットの示した儚き矜持に、ラールウェアが緊張感の欠片もなく笑いだす。 「あは、あははははははははは・・・♪ シャルロットちゃんは聖女でもなんでもないんだよ」 ラールウェアがおどけたような調子でシャルロットを揶揄する。 「なにを言って……」 吹きつける毒気にあてられ言葉を失うシャルロット。 「どうやら何も知らぬようだ。 ならば教えて進ぜよう。 貴女に流れる血脈は純然たる聖女の血統ではない。 それは先の聖誕祭で予自身が確かめておる」 ―――屍族に血を吸われた シャルロットの脳裏に甦る凄惨な光景。 屍族は血を吸った者に従属・隷属を強いる特殊な力を持つという。 シャルロットは自らが危惧していた現実に身を置いていることに漸く気づく。 シャルロットの動揺を見透かしたようにフォン=バレル3世が更に続ける。 「其方の抱く不安は杞憂に終わろう。 生来の屍族ではない予に他者を服従させる力はない。 だが、先程の言葉は事実である。 貴女もメナディエルの教義ならば知っておろう。 聖女の血は屍族を滅ぼす聖血。 もし、貴女が真実に聖女であるのならば、如何に半屍族とはいえ、この身が無事で済むわけもない。 危険な賭けであったが、予には確信があった。 なにより聖女と謳われる其方に近づく機会はそうそうあるものではないからな」 彼らが提示した真実は、あまりに受け容れ難い、そして突拍子も無いもの。 渇いた喉に舌が張り付いて、シャルロットは巧く言葉がでない。 唾を飲み込むことさえ困難だった。 「わ、私はシャルロット・アルジャベータ・リュズレイです。 それ以外の何者でもありません……」 唇を強く噛むと、消え入るような声でそれだけを口にするシャルロット。 「予にも紛いものである貴女が、どのような経緯で聖女として育てられたのかはわからぬ。 それは貴女自身で確かめればよかろう」 信じたくない、いや信じられるわけがない。 だが、シャルロットにはフォン=バレル3世が進んで偽りを述べる理由もわからない。 なにより、事の成否を確かめる術がなかった。 「そして、我々には貴女が何者であろうと関係は無い。 だが、其方が聖女ではないという事実は枢要である。 その霊環は聖女を縛る呪具、聖女の血脈を保つ者が身に着けている限り何者にも外すことは叶わぬのだ」 呆然と立ち尽くすシャルロット。 いつの間にか、その傍らにフォン=バレル3世がいた。 「だが、貴女は聖女ではない。 この言葉の意味するところがわかるかな―――」 死人のように冷たい指先で細い両肩を掴まれシャルロットは漸く我に返る。 シャルロットは身悶えするように抵抗するが可憐な肢体は苦もなく床の上に押し倒されていた。 床に広がる血だまりから血潮が跳ね純白のドレスに赤い華が咲く。 「何をするのですか―――放してっ…」 フォン=バレル3世は完全に少女の身体を組み敷き伸し掛かっていた。 吐き出される生臭い息が顔にかかりシャルロットが顔を顰める。 「失礼を。 だが、貴女に霊環を手放す意志がない以上、多少扱いが手荒になることは許していただきたい」 皺だらけの骨ばった手指が、剥き出しになったシャルロットの首元に触れる。 シャルロットの白い肌に一斉に鳥肌が立った。 「くっ―――」 霊環アシュタリータへと伸ばしたフォン=バレル3世の手指が弾かれたように遠ざかる。 「ほぅ…これは……」 だが、フォン=バレル3世は一言そう漏らすと、今度は注意深く少女のうなじへと手を回し聖印が刻まれた留金を指先でなぞる。 必死に張り詰めていた糸が切れたようにシャルロットの身体から力が抜ける。 その視界は闇に閉ざされ彼女は意識を失った。==============================================※推敲は1-03【呪夜】の全パートを書き終えた後、フリーページ内で行います。
2009/03/24

少し前の記事で、瞳の描き方や塗り方に変化を付けてみようかと検討中などと書きましたが、違いがわかり易いようにTOPの暑中お見舞い絵で実験してみました。暑中お見舞い絵(※前ば~じょん)暑中お見舞い絵(※アリアリ瞳改善版)瞳枠に関してはこんな感じで描きこみを入れてみようかなと考えています。口の開き方を小さくした影響が大きいのだと思いますがかなり印象が変わった感じです。ただ、もっと根本、ベース部分から描きも塗りも変えてみたいという欲求も少しだけあったりします。それにしても、この絵…アリエッタの左右の腕のバランスが崩れているんですよね…流石にそこの手直しは手間が掛かり過ぎるのでスルーしましたけど……(汗※追記プルの髪部分を微修正致しました。
2009/03/18

『†Princesse du sang†』 光ノ章 1-03【呪夜】a光ノ章 1-03【呪夜】a―シャルロットSIDE― シャルロットは意を決すると足早に跳開橋を渡り、水晶の塔の鉄門へと至る。 まるで少女の到着を待ちわびていたように鉄と鉄の擦れ合う音がシャルロットを向かい入れた。 訪れた獲物を誘い込む顎の如く開かれた鉄扉。 一瞬の躊躇の後、シャルロットは塔内部に足を踏み入れた。 外よりは少しだけ温かい空気が少女を包み込む。 暗い――― 塔の中を照らす光源は、最上階へと続く石段の左右の壁に一定距離を開けて備え付けられた燭台から漏れる光だけだ。 頼りない明かりが揺れる中、シャルロットは教皇の執務室がある最上階へと向かう。 カツン――カツン――… 静寂の空間に少女の靴音が反響する。 「……(まるで、死刑台への階段を昇る囚人のような気分…)」 シャルロットは冗談めいた感慨を抱く。 階段を上り続けるといつしか少女の靴音に別の音が混じり始める。 ―――ピチャ・・・ぴちゃ 空耳や幻聴の類ではない確かな質感を保った響き。 それは何か液体の様なモノが垂れるような音だった。 果てなしと思われる時間を掛けてシャルロットは最上層へと辿りつく。 闇の中に両開きの扉がぼんやりと浮かび上がる。 瀟洒な趣のあるその扉には異質な紋章が描かれていた。 目の前に聳える扉はまるで別の世界へと誘う顎のように見えシャルロットは数回唾を飲み込む。 何かが腐ったような臭いが扉の隙間から漂い少女の鼻を突く。 シャルロットは口元に手巾帯を当てたまま動けなくなっていた。 「……聖下、シャルロット・アルジャベータ・リュズレイお召しにより参上致しました」 得体の知れない恐怖に乾いた喉。 その奥底から引き上げるようにして漸く自らの洗礼名を告げるシャルロット。 銀製のノッカーに乗せた手の平からじっとりとした冷たい汗が滲んでくる。 「お入りになられよ―――」 室内から諾否の有無を受け、シャルロットは身を強張らせた。 少女は扉にあてた腕に体をあずけるように体重をかける。 重厚な真鍮の開き戸は軋みながら内側へと開いていった。 ――少女の瞳が驚愕に見開かれる。 それと共に強烈な臭気がシャルロットを襲う。 口元を手巾帯で塞いでいなかったら、シャルロットは悲鳴を上げていたに違いない。 「なに・・・コレ・・・?」 室内の至る所にまるで悪趣味な絵画のように紅い斑模様が走っている。 床には引き千切られた内臓や肉片が散乱している。 どのような力を加えればこのような惨状になるのかシャルロットには見当もつかない。 それらがかろうじて人間だった“モノ”だと判別できたのは、周囲に散らばった衣服と思しき布切れが血肉に絡まるように四散していたからだった。 そしてシャルロットの真正面、円卓を挟むようにしてひと際豪奢な造りの肘掛椅子に白髪の老人が悠然と鎮座していた。 「ようこそいらっしゃった。 待ち侘びていましたぞ」 席を立ちフォン=バレル3世は深々と白髪頭を下げる。 シャルロットは後ずさろうとする両脚を鼓舞しどうにかその場に留まっていた。 「……聖下、これは…いったい……」 出来るだけ室内の惨状を見ないようにフォン=バレル3世に問い掛ける。 「これはお目汚しを。 意識の戻った供物が暴れだし食事に手間取ってしまいましてな」 フォン=バレル3世はその言葉とは裏腹にまるで悪びれた様子も無く平然とそう述べる。 教皇が手に添えた玉杯を掲げると、そこには何か赤黒い液体のようなものが並々と注がれていた。 その時―――シャルロットの視界は上方から垂れ落ちてくる影を捉えた。 それは杯の中に一定の間隔で紅い波紋を生じさせていた。 少女は弾かれたように天井を見上げる。 「―――ヒッ」 常軌を逸したその光景に声にならない悲鳴を上げるシャルロット。 そこには四肢をもぎ取られた生首が奇妙な調度品のように吊るされていた。 頭部の切断面から流れ落ちた血液が円卓の上の杯に零れ落ちていたのだ。 「貴女には些か刺激が強すぎたかもしれませんな」 シャルロットの視線を追い、フォン=バレル3世は苦笑する。 「…酷い……どうしてこんな惨いことを」 シャルロットの瞳から涙が溢れ出す。 少女はそれを拭おうともせずに震える声で訴えかける。 「これは異なことを。 生きる為に糧を必要とするのは“貴女たち人間”も同じ筈ですぞ。 それにこの者達は中央異端審問会で死罪を宣告された咎人。 予は処刑人の手間を減らしているに過ぎないのだよ」 「たとえ罪人であってもこのようなことが許されるわけ―――」 シャルロットは不意に言葉を失う。 フォン=バレル3世は今なんと言ったのか? 教皇は確かに“貴女たち人間も”と―――口走っていた。 まるで自分自身は人間ではないと示唆するような言い草だ。 目の前の老人から発せられる違和感と左手の咬痕が今も伝える鼓動が避けていた結論を導き出す。 「ま、まさか……本当に屍族―――」 「ようやく気づかれましたか。 予は人を捨て屍族となった」 フォン=バレルの両眼に僅かな燐光が灯る。 「なぜ……」 「世界は不完全すぎるのだ。 聖人や賢人がどのような理想を唱えようとも、人間の本質はなにも変わりはしない」 フォン=バレル3世は少女の疑問には応えず、再び肘掛椅子に深く身を沈めると宙を仰ぎそう零す。 「世の中に完全なものなどありませんわ。 それに―――」 シャルロットはそこで一度言葉を切ると、姿勢をただし胸の前で手を合わせ祈るようにして続ける。 「それに、人は変われます……多くの人が望めば世界だって変えられる筈です」 それは誰よりも変化に憧れ、変わらずを得ないシャルロットの衷情でもあった。 「確かにそれは正論ではある。 そして気高き理想でもあるのだろう。 だが予は絶望したのだよ。 メナディエル正教を統べる教皇座に就き、信徒に賢聖と讃えられた予が成したことなど刹那の灯火のようなものだ。 依然として権力者は“古き利権”にしがみつき、旧態依然の体質はどのような手段を講じても絶やすことは出来なかった。 なまじ改革が成されても支配者とその代弁者たちは自らを正当化し、新たな既得権を生み出し続ける。 無知な民はそれを否定する知恵を持たず、半ば理解できても抵抗する力など到底持ち得ない」 言葉が重なるごとにファン=バレル3世の顔から表情が消えていく。 「聖下は弱き者を助け、教会内に蔓延した悪しき風習を断つためにご尽力なさっておられます。 そして今も聖公会と白十字教の融和への道を切り開かれようとなさっていますわ。 それは聖下の理想ではないのですか?」 シャルロットの感傷にもフォン=バレル3世は頭を振った。 「だが、それも予の意志を継ぐべき者が絶えれば易々と水泡に帰すだろう。 人は弱く容易に欲望に屈する。 世界を正しく導く為には永久に変わらぬ意志を持った存在が必要だ。 そして、それは死すべき定めの者には勤まるまい」 「だから屍族になられたと仰るのですか? 不死を得て世界を変えるために―――」 シャルロットの硬く強張った表情に、困惑の影が差す。 「勘違いをされては困る。 世界を変えるのは予ではない。 予はそれを見届けるために不死となったのだよ」 フォン=バレル3世がそう言った時、空気が変貌した。 教皇の足元から伸びた影が躍るようにゆらめき、獲物を狙う大蛇を形象化したように螺旋を描く。 その渦状に引き込まれるように周囲に飛び散った血液が収束していく。 何か奇妙な芸術のように見えざる技巧によって、それらはひとつのカタチへと練り上げられていく。 奇怪な現象が終わりを告げると、ひとりの少女がそこに存在していた。 闇を練り上げたかのような豪奢な漆黒のドレスが音もなく揺らぎ、 「いつまで待たせるつもり? さっさとそのニセモノから霊環を奪って黙らせちゃってよ♪」 無邪気な子供のような声がシャルロットの心臓を凍りつかせた。==============================================※推敲はフリーページ内で行います。巧いかどうかは別問題として、こちらも漸く斎がノリノリで書いちゃう展開に突入(笑
2009/03/17
光ノ章_01-02【古怪】まず最初に、『古怪』とは中国語で奇怪な,風変わりなという意味を指す形容詞です。【改稿/シャルロットの教皇に関する回想】 シャルロットもフォン・バレルの温厚な人柄には少なからず好感を持っていた。 それがまるで忌むべき屍族の習性を真似た醜悪な所作―――問題が公になれば屍族を異端視するメナディエルの最高位にあり、精神的指導者でもある教皇の権威を揺るがしかねない。 少女は何か偶発的な事故であったのだと思い込もうとしていた。【改稿/水晶の塔の記憶部分】シャルロットは幼い頃、当時主席枢機卿に選出されたばかりのヴィルヘルムに我侭を言って、水晶の塔を案内させた記憶があった。 その思い出を手掛かりに少女は歩みを進める============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2009/03/14
16世紀に流行した疫病の犠牲者らを埋めた集団墓地から悪魔払いの儀式の痕跡が認められた頭蓋骨が発見されたそうです。(ローマ 12日 ロイター)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090313-00000730-reu-intナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト(3月10日)http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2009031102&expand吸血鬼好きにはホームのジャズ並みにGREATなNEWSです♪吸血鬼とは人間が創りだした生ける死者であり、蘇生した骸が生者の血を求める霊的現象を指します。『生命の源=血液』という根源的概念が民話や伝説に様々なカタチで吸血鬼を誕生させたのでしょうね。ちなみに、16世紀のイタリアと云えば、パウルス・グリランドゥスが最初に浮かぶ名前です。悪魔や魔女に精通し、ローマ管轄区域で魔女裁判官にあった人物です。黒ミサに偏見を植え付けたお馬鹿さんのお一人として有名です。
2009/03/13

『†Princesse du sang†』 光ノ章 1-02【古怪】光ノ章 1-02【古怪】―シャルロットSIDE― 「ファティマ様はお母様をご存知なのですか?」 シャルロットの意識の深層から亡き母親の記憶が浮かび上がる。 しかし、それはシャルロットが成長するにつれて靄がかかったように不確かな姿へと変貌していった。 次第に少女の心の奥底に封じ込められていた澱みが意識の表層に漂いだす。 それは―――赤 視界が紅く染まる。 生臭い匂いが鼻を突く。 撒き散らされた血液が全てを斑に彩っていた。 転瞬、シャルロットの視界がぐらりと揺らいだ。 「シャルロット様!?」 よろめくシャルロットの身体をミルフィーナが背後から支える。 「ごめんなさい…大丈夫です。 それよりもお母様の話を聞かせてください―――」 母ソフィアは禁忌を犯し異端審問にかけられたと聞いている。 その後、幽囚された牢獄内で死病にかかり最期を迎えたとも。 ソフィア・リュズレイに関しては誰もが口を閉ざし、それ以上のことはシャルロットにもわからない。 だが、目の前の人物は異端審問の全てを司るイス家の人間である。 シャルロットが知りえぬ“何か”を知っていたとしてもなんの不思議もなかった。 それを知ってか知らずか、ファティマ・イスは、 「今は、止めておきましょう。 いずれ時がくれば貴女にもお話することになるでしょうから……それに―――」 やんわりとシャルロットの申し出を断り、ミルフィーナに目線をおくるファティマ・イス。 少女の肩越しに貫くような厳しい視線が女枢機卿へと向けられていた。 「それを望んでおられぬ方もいらっしゃるようですしね」 「で、でも……」 尚も食い下がろうとするシャルロット。 しかし、ファティマ・イスは無言で首を横に振る。 「……」 淡い期待が焦燥と落胆へと変わり、シャルロットは舌を噛みそうな心持でうな垂れる。 「それに、シャルロット様。 今の貴女には他になすべき事があります。 教皇様が貴女に内々のお話があるそうです。 詳(つばひ)らかなことは私にもわかりません。 ですが、くれぐれも貴女お独りで“水晶の塔”へ出向いてくださるようにとのことです」 シャルロットはファティマ・オイスの言葉を反芻する。 古より水晶の塔は教皇位を世襲するフォン家の人間以外の立ち入りを禁じられている聖域である。 よほど他者に聞かれては困るような話であるに違いなかった。 「はい……確かにお話を承りました」 ファティマ・イスはシャルロットの答えに満足そうに頷く。 「私はこれから外せない所用がります。 貴女も早々に水晶の塔へと向かわれますよう」 手馴れた仕草で十字を切ると、踵を返して白の間を後にするファティマ・イス。 シャルロットの指先は無意識の内に教皇の歯牙によって穿たれた傷痕に触れていた。 「ヴィルヘルム先生への挨拶は後回しに致しましょう」 シャルロットは迷いを振り払うようにミルフィーナにそう告げる。 「シャルロット様。 お体が優れないようでしたら無理をなさる必要はありません。 理由を話せば教皇様とて無理強いはなさらない筈です」 ミルフィーナの進言はシャルロットの身を案じての心遣いである。 聖アルジャベータ騎士団はメナデェルの信義を旨とする。 だがその忠誠は全て聖女の血縁者へと向けられていた。 ミルフィーナは教皇の思惑に顧慮するつもりはないようだった。 「ありがとう。 でも、私自身も教皇様にお聞きしたいことがあります。 フィーナは心配せずに待っていてください」 シャルロットはミルフィーナを安心させようと微笑みかける。 「それは罷りなりません。 私奴もお供させて頂きます。 それが我ら守護騎士団にとって聖女の血脈をお守りすることは唯一無二の聖務故」 ミルフィーナは武人特有の石頭であった。 「…わかっています。 でも、ファティマ様のお話だと教皇様は私に何か内密のお話があるご様子。 護衛を伴って向かうようでは失礼に値しますわ」 「それとこれとは関係ありません」 ミルフィーナも一歩も退かない。 頑固なのか実直なのか自らの意見を決して曲げようとはしなかった。 融通の利かない護衛役を前にして、シャルロットは大きなため息をつく。 そして、少女は最終手段を講じた。 「フィーナは私が礼節を心得ない恥知らずだと陰口をたたかれてもよいのですか?」 流石に反論する術を失うミルフィーナ。 元々、シャルロットを困らせることも本意ではなかったらしく渋々ながらも頷く。 「……わかりました。 ですが、どのような状況においても、常にご自分の身の安全を第一に考えてくださるようお願い致します」 ミルフィーナの殊更真摯な眼差しに心裡に抱く不安を見透かされてしまいそうで、シャルロットは思わず目を逸らしてしまっていた。 広間から退出する際、すれ違った給仕のひとりに蜂蜜酒の継がれたグラスをひとつ貰うと、シャルロットはそれを一気に喉奥に流し込んだ。 傍から見ればかなりはしたない行為に見えただろうが、ともすれば萎えてしまいそうな気分を鼓舞する為にあえて他者の視線は気にしなかった。 フォン家の長子であったグランディエは、教皇位を継承するとフォン=バレル3世と名を変え、善政に努めた。 しかし彼は即位後、僅か二年で病に倒れる。 病床から療養の合間に職務を遂行するという状態が長く続いた為に、心身に負担の掛かる長時間の式典などには代理を立てることが多かった。 近年、その病状は悪化の一途を辿り、近しい者達の間では余命幾ばくもないと専らの噂であった。 此度の聖誕祭も教皇が担う斎行については代理が立っていた。 しかし、周囲の心配や危惧を一掃するようにフォン=バレル3世は聖誕祭へと姿を現した。 絢爛たる装いに確かな足取り、その両眼には燐光めいた強い光を宿していた。 死に直面している人間とは思えない堂々たる様子に、誰もが驚きを禁じえなかった。 今も尚、ファン=バレル3世は清廉潔白な人柄で贅沢を嫌い、教皇庁に蔓延る古き悪習の撤廃に勤めている。 民衆から賢聖とまで称されたフォン=バレル3世の健在ぶりはメナディル正教にとっても明るい材料であった。 なかでも改革派の聖職者達は、さぞ安堵の息を漏らしていたことだろう。 シャルロットもフォン・バレルの温厚な人柄には少なからず好感を持っていた。 今回のことも何かの間違い―――いや偶発的な事故であったと信じたかった。 聖宮の回廊には美術史において計り知れない価値を持つであろう巨大な絵画が一面に飾れていた。 しかしシャルロットはそれらに気をとめることもなく正面を見据えていた。 水晶の塔には過去に一度だけ、我侭を言い連れていって貰った覚えがあった。 その記憶を手掛かりにシャルロットは歩みを進める。 地理に疎い人間だと、気づかぬまま素通りしてしまうであろう黒曜石の小さな階段。 それを上まで登りきり東外回廊にでる。 少女の目前に強大な石の塊が姿を現す。 塔の石壁は水晶細工技術の粋を集めて作られた美麗な黒水晶の層で覆われている。 それがこの宝塔が“水晶の塔”と呼ばれる所以である。 夜の帳が完全におりて、空中庭園の花々のいっそう熟れた香りが外壁の風に運ばれてここまで届いていた。 静寂が辺りを包み込み、外の冷たい空気がシャルロットの肌を撫でる。 教皇領はバールペオル大陸の北東に位置するソウルガイス諸島群でも絶壁の断崖に囲まれたルブリス島に存在する。 標高が高い為に、平地では残暑を感じられる今の時期も夜になればかなり冷え込む。 塔へと至る回廊棟を歩みながらどこか釈然としない予兆めいたものをシャルロットは感じていた。 「……」 ここに来るまでに護衛官どころか、聖宮内の誰ともすれ違っていない。 まるで意図的に用意された舞台に迷い込んでしまった登場人物のように、少女は心許なげに表情を曇らせていた。 水晶の塔は外部から完全に隔離されている。 塔への入り口は地上にはなく、聖宮の東外回廊から塔の4F部分に設置されている鉄門へと跳ね橋を降ろして渡るしか方法はない。 そして、そこに橋守の姿はなく―――その必要も今はない。 水晶の塔へと至る跳ね橋が既に降りていたからだ。 シャルロットはこの舞台から降りる術を完全に失っていた。==============================================※推敲はフリーページ内で行います。
2009/03/11

『†Princesse du sang†』 光ノ章 1-01【神都】下光ノ章 1-01【神都】下―シャルロットSIDE― 聖宮の入り口に差し掛ると左右に控えた警備の護衛官が、口々に女神の御名を唱え聖印をきる。 彼らは白十字教側の信徒ではないのだろう。 それはシャルロットに対する敬意の払い方でもわかる。 教皇庁内部の古参者は宗派を超えてメナディル正教そのものに対する敬虔な信者である比率が高い。 宮殿の中央を伸びる鏡の回廊を進むと、祭典・祭事用にと造られた白の間が正面に見える。 その壮大な造りは見る者を常に圧倒する。 8本の巨大な大理石の円柱に支えられた広大な空間、見上げれば神代の叙事詩を象った天井画が彼方へと連なっていた。 入り口の手前で傍らに退いたミルフィーナを背後に従え、総大理石で造られた白亜の空間にシャルロットは脚を踏み入れる。 聖女の存在に気づいた列席者からざわめきが漏れる。 続けて各国の居並ぶ重臣や廷臣の間から敬虔や奇異など様々な感情が入り混じった視線がシャルロットに向けられた。 ミルフィーナはあからさまに眉を顰めると、主人に不躾な態度を見せる人間を威圧するように端から順に睨みつける。 ミルフィーナと目が合うと皆面白いように目線を逸らしていった。 「フィーナ…お顔が怖いですわよ」 「も、申し訳ありません……」 シャルロットにそう言われ少し困ったような表情になるミルフィーナ。 「でも、ここは人が多すぎて少し息がつまってしまいそう……」 「はい、主席枢機卿であらせられるヴィルヘルム卿、それと各国の代表各位へのご挨拶がお済になれば、貴賓室へ退席しても問題はないでしょう」 この夜会は聖女であるシャルロットを労うために開かれたものである。 立場上、宴の主役が顔を見せないわけにはいかなかった。 しかし、華やかなる宴に招かれた客人は相当数に上っているようで、この中から目的の人間を捜すのはかなり骨の折れる作業になりそうだとシャルロットは半ば落胆していると、 「これはこれは聖女様、お姿が見えず心配しておりましたぞ」 横合いから唐突にかけられた声に反射的に振り向くシャルロット。 そこには金銀珠玉で飾り付けられた礼服に身を包んだ長身の男。 病的なまでに青白い肌、上等の絹糸のように流れる金髪に紅眼。 この世のものとは思えぬほどの美貌の持ち主であった。 男は上体を屈めると、右手を左胸に当てて恭しく一礼をみせた。 ―――アルストファー・ファージ 五公国連合ベルムーテスのひとつガザロフオードの現公王である。 だが、彼は正統なる血脈に連なるガザルフォードの王位継承者ではない。 それは彼の出生に関係する。 前ガザロフオード公が名も知れぬ屍族の娘との間に身篭った子供。 呪われた烙印の下に産み落とされた忌み子。 それがアルストファー・ファージであった。 前公王妃が子宝に恵まれなかった事や、彼自身の屍族に対する凄まじい憎悪が齎した凶運であったのだろう。 彼はガザロフオード公国の国教でもある白十字教の司教達の強い推薦もあり公王となった。 シャルロットもアルストファー・ファージとは幾度か顔を合わせたことがある。 だが彼から漂う鬼気は人間とは明らかに違った存在だと認識せざるを得なかった。 「アルストファー様……、ご心配をお掛けして申しわけありません…」 「いやいや、女神の代弁者たる聖女様におかれましては、このような下賤な宴にはご興味を抱かれないものだとばかり考えておりました。 態々ご足労頂くとはメナディル信徒としては光栄の至りです」 言葉の内に秘められた鋭い棘。 嘗め回すような視線がシャルロットの身体に絡みつく。 そういった悪意に免疫のないシャルロットは顔を伏せてしまう。 アルストファー・ファージが更にシャルロットを威圧しようと身を乗り出した時――― 「ガザロフオード公王様もご健在でなによりです」 ミルフィーナが二人の間に割って入る。 王族同士の会話に容喙する不遜ともいえる行為であるがミルフィーナは事も無げに続けた。 「聖女を快く思わぬ不心得者達の毒気に中てられたのでしょう。 シャルロット様は体調を崩されております故、続きは僭越ながら私奴が代わりに拝聴させて頂きます」 痛烈な皮肉である。 アルストファー・ファージが白十字教でも強硬派の最先鋒であると知ってのミルフィーナの発言であるから尚更だ。 彼ら強硬派は聖女の伝承そのものを否定している為、シャルロットの存在は教義の根底を揺るがす脅威以外の何者でもない。 「ミルフィーナ殿も相変わらずのようですな。 しかし、そのような外敵がいるとして、貴女にそれを阻む術はありますまい。 武芸の嗜みもここでは無用の長物でありましょうからな」 アルストファー・ファージの嘲弄めいた声が響く。 聖宮内部には防衛の関係上、帯剣を認められない。 武器の携帯を許されているのは教皇直属の聖宮護衛官だけになっている。 アルストファー・ファージの言葉はそれを指しているのだろう。 「ご高説傷み入りますが、我ら守護騎士団の人間は武器を持たなくとも戦う術を心得ています。 たとえ相手が屍族であろうと須らく撃退してみせましょう」 口元にかすかな笑みを浮かべ、ミルフィーナがやり返す。 事の成り行きを興味本位で見守っていた人々からざわめきが洩れる。 場の空気は一触即発の様相を孕んでいた。 「お二人ともそれぐらいになさいませ」 たおやかな、それでいて凜とした声が両者を諌めた。 声の主を知る者達の中からどよめきが起こる。 人垣が左右に割れると枢機卿衣を纏った女性が柔和な微笑を浮かべながら近寄ってくる。 「ファティマ卿……」 アルストファー・ファージは不意の乱入者の姿を見咎め露骨に顔を顰める。 「教皇様のお膝元でもあるこの聖宮セラフィムガードで、メナディル教徒同士の諍いとは些か関心できませんわ」 ファティマ・イスはここアレシャイムで教皇に次ぐ高位聖職者である枢機卿位にいる人物だ。 異端審問の総てを司る最高顧問でもあり、アアル=セナートと呼ばれるメナディエル正教の原型ともなった教えを崇拝する人間である。 「これは私達の問題だ貴女には関係ない。 余計な口を挟まないで頂きたい」 アルストファー・ファージは込み上げてくる憤りを抑えきれずに女枢機卿を睨みつける。 「あら、ちゃんと要用はありますのよ。 教皇様よりシャルロット姫への言伝を与って参りましたの」 ファティマ・イスはシャルロットは姿を確認すると、落ち着いた口ぶりでそう告げる。 「それとも、カザロフオード公はこれ以上騒ぎを大きくすることをお望みなのかしら?」 「く……わかりました。 ここは枢機卿の顔を立てておきましょう」 アルストファー・ファージは忌々しげにファティマ・イス、そしてミルフィーナを其々一瞥すると足早にその場を立ち去った。 「ファティマ枢機卿。 此度の騒動は私奴の責任です。 如何様な処罰も甘んじて受け入れる所存です」 ミルフィーナはそう言うと実直な態度で深く頭を垂れる。 それを見たシャルロットが慌てて止めに入る。 「い、いえ、フィーナは何も悪くはありませんわ。 私がもっとしっかりしていればこのような―――」 ファティマ・イスは動揺するシャルロットの口元に人差し指をそっとあてる。 「そこまでです。 貴女方のおっしゃりたいことはよく理解しているつもりです。 敢えて誰が悪いかなどと咎め立てるつもりはありません」 シャルロットはその言葉にかすかに頬を染め、安心したように破顔する。 「それにしても、ますますお美しくなられて……亡きソフィア妃殿下の生写しといったところかしら?」 ファティマ・イスは一度も微笑を絶やすことなく、そう話を切り出した。==============================================※推敲はフリーページ内で行います。一度書いた教皇庁までの旅路部分を思い切って削りました。シャルロット編の物語も漸く動き出します。光ノ章とは名ばかりで暗い展開に陥るのですけれど…(汗
2009/03/02

『†Princesse du sang†』 光ノ章 1-01【神都】上光ノ章 1-01【神都】上―シャルロットSIDE― レムギサロス大聖堂に透き通るような歌声が満ちる。 謳い手はアルジャベータ聖誕祭の主賓でもあり、聖霊の血脈をその身に宿すシャルロットである。 胸元には見事な細工が施された古代王国期の首飾り。 コルセット風のカットラインのシルク素材上にレースやビーズの刺繍が細かく散りばめられたシックな純白のドレスが良く似合っていた。 ソフトメッシュのフリルがふくよかな胸元のラインを柔らかく演出している。 後ろで3つに束ねた金色の長い髪が印象的である。 瞳は強い意思の力を感じる紅色。 その整った顔立ちは、纏ったドレスと相まって可愛いというよりも清純な大人の華やかさを醸しだしていた。 シャルロットの歌声に誘われるように絢爛たる祭服に完装した教皇フォン=バレル3世が歩を進める。 教皇はシャルロットの目前で跪くと骨ばった指先で複雑な聖印を組み上げた。 それに合わせるようにシャルロットが左手を前方に差し伸べる。 フォン=バレル3世は恭しく差し出された聖女の手を取ると、己の口唇をゆっくりとそこに近づけていく。 教皇が聖女の左手の甲にくちづけをし、メナディエルの祝福えお授かることで祈りの儀は完遂される。 それは嘗ての大戦。 聖剣戦争を描いた壁画にもある光景だ。 「―――つ……っ」 次の瞬間、鋭い痛みがシャルロットの身体を走り抜ける。 肉を破る痛みにシャルロットは反射的に手を引こうとしたが理性がそれを押さえ込んだ。 押しつけられた口唇と少女の肌の隙間から赤い筋が糸が引いていた。 大聖堂の中央尖塔に備え付けられた聖者の鐘がその荘厳な音色を響かせる。 レムギサロス大聖堂を包みこむ神聖なる祈りは最高潮に達していた。 ・ ・ ・ ・ 「…(―――ふぅ)」 シャルロットは深く重いため息をついた。 聖女としての典礼を終えた終えた彼女は聖宮セラフィムガードの空中庭園にいた。 目下に広がる神殿都市セラディムは古色蒼然とし、活気溢れたナイトクランとはまた違った趣きのある美しい街並みだ。 今、この聖地はアルジャベータ聖誕祭に臨む為、大陸各地から訪れた巡礼者によって溢れかえっている。 夜の帳がおりても尚、高揚たる余韻に包まれたレムギサロス大聖堂に向かう長蛇の列は途切れる事がなかった。 現在、大聖堂では聖誕祭を締めくくる信者による閉祭の儀が行われている筈だ。 シャルロットは鼓動と共に襲い掛かる鈍痛に耐え、左手で頸もとの霊環に触れる。 ひんやりとした冷気が伝わってくる。 シャルロットは自分の身に起こったことを未だ理解しきれずにいた。 ―――自らの左手に穿たれた2つに傷跡 フォン=バレル3世の醜悪な行動によって刻まれたものだ。 だが、シャルロットはそれを誰にも話すことは出来なかった。 聖女として俗世から殊更遠ざけられるように育てられてきたシャルロットは人を疑うことを知らない。 悪く言えば世間知らずで警戒心に欠けている。 他人に対し不振や疑念を抱かないところは彼女の美徳でもあり欠点でもあった。 「シャルロット様・・・これ以上はお身体に障ります。 どうか聖宮へお戻りくださるよう―――」 そっと近寄ってきたミルフィーナが気遣いながら進言する。 彼女はシャルロットの異変を敏感に感じ取り、今まで離れた場所からその様子を見守っていたようだ。 シャルロットは傷口を隠すように手套をつける。 「―――そうですわね」 シャルロットは小さく頷くと踵を返そうとして―――そこで、はじめて石畳を叩く雨音に気がついた。 降りだした雨にうたれるシャルロットを見かねてミルフィーナも声をかけたのだろう。 シャルロットは漆黒に染まった空を見上げる。 何も無くただただ吸い込まれるような、闇―――そこに遮るものもはなにもない。 それは見る者の平衡感覚を奪い、その存在を希薄にさせていく。 信頼する守護役に手を引かれながら漠然とそんな想いがシャルロットを支配していた。 今はただ手のひらから伝わるミルフィーナの温もりだけがシャルロットにとって確かなものだった。==============================================※半角1万文字オーバーの為前後編に分けます。推敲はフリーページ内で行います。
2009/03/02
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