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============================================================光ノ章_02-05【追跡】============================================================【改稿・加筆/冒頭】 皓々たる光の連なりがレムギザロス大聖堂の宏壮な輪郭を浮かび上がらせている。 囚人馬車を率いた護送隊が、その始発点であった大聖堂前広場へと帰着してから既に一刻余りが経過していた。 一時は大聖堂を取り囲むように押し寄せた人波も、今では疎らな人影と化している。 群集の大半を占めた物見たさに集まっただけの人間は、高地特有の昼夜の温度差が齎す寒風が吹きすさむ前に、そそくさと家路に着いたようである。 僅かに残った狂信者たちも、数に頼んだ仮初の熱気から醒めたように静観の構えをみせていた。 「さて、どうしたものかな?」 エドゥアルトは振り向きざまに頭部を覆う頭巾を脱ぎ落とす。 他の二人と違い教会内に無用なしがらみのない彼だけは、何処で何をしようと無用な憶測を呼ぶことも無い。 もっとも、これから決行すべき事柄を考慮すれば、素顔を晒そうなどと並みの胆力の持ち主では思わない筈である。 「背教者の烙印を捺されても、彼女がメナディエルの敬虔な信徒だった事実に偽りはありません。 恐らく投獄の前に女神への赦しの機会が与えられているのでしょう」 ファティマ・イスの視線は青年の肩越しに大聖堂周辺を巡回する黒い陰影を追っている。 護送隊の衛兵は聖堂神官に囚人を引き渡した後、そのまま大聖堂の警備に着任していた。 対象を見失うわけにはいかなかったが、迂闊に大聖堂に踏み入れば全てが元の木阿弥となる。 先方の動きが皆無な以上、憶測のみで打つ手は限られていた。 「ほう、その敬虔な信徒とやらになれば、過去に俺が犯した罪も赦し賜れるのかな?」↓★推敲★↓ レムギザロス大聖堂の宏壮な輪郭が夜に溶け込むように鎮座していた。 囚人馬車を率いた護送隊が、神都の南城壁聖門から大聖堂前広場への道程を終えて、既に数刻が経過している。 一時は大聖堂を取り囲むように押し寄せた人波も、冬季の訪れを予感させる寒風に吹き散らされて、今では疎らな人影と化していた。 「もう、これは必要ないかな」 エドゥアルトは振り向きざまに頭巾付きの外套を脱ぎ落とす。 シャルロットとファティマ・イスの両者とは違い、教会内に不必要なしがらみがない分、気兼ねなく素顔を晒せるのだろう。 もっとも、容貌・言動・服装と殊更に目立つ青年だけに、隠密を旨とする同行者にとっては迷惑極まりない。 「お二人もそんな暑苦しいものいい加減に脱いだら如何かな?」 エドゥアルトの視線の先には、黒衣の弔問者に身を窶したままのシャルロットとファティマ・イス。 神に賜れた美貌を秘する行為は大罪に等しい、とはエドゥアルトの信条である。 「落ち着きが無い殿方は嫌われますわよ」 ファティマ・イスが黒布の隙間から呆れたようにひと睨みする。 「これは手厳しい。 それじゃ真面目に質問するが、娘子軍の団長殿は大聖堂で何をしているんだい?」 エドゥアルトがこの救出計画の発案者であるファティマ・イスに尋ねる。 「恐らく……、投獄の前に女神への赦しの機会が与えられているのだと思われますわ。 背教者の烙印を捺されても、ミルフィーナ卿がメナディエルの敬虔な信徒だった事実に偽りはありませんから……」 ファティマ・イスの口調は幾分曖昧に聞こえた。 聖堂神官に囚人を引き渡した護送隊の衛兵たちが、そのまま大聖堂の警備に着任していることから推測したのだろう。 対象を見失うわけにはいかなかったが、迂闊な行動は元の木阿弥となる。 先方の動きが皆無な以上、憶測のみで打つ手は限られていた。 「ほう、その敬虔な信徒とやらになれば、過去に俺が犯した罪も赦し賜れるのかな?」 だが、エドゥアルトは本来の主旨とは別のところに興味を抱いたようである。============================================================【改稿/ファティマとエドゥアルト】 ファティマ・イスは外衣の内側に手を差し込むと、そのままエドゥアルトの背後に回りこむ。 「美女とそれに準ずる美少女の願いは、どのような無理難題でも断らないのが信条でね。 俺に出来ることならなんなりと」 エドゥアルトは鷹揚に頷くと、芝居がかった口調で従順の意志を示す。 「では、そのまま両腕を後ろに差し出してくださいまし」 「ああ……て―――ちょ、ちょっと待て……」 両手首に紐状の物体が巻きつく感触に、エドゥアルトが慌てふためく。 しかし、時既に遅く青年の両手は後手に縛り上げられた後だった。↓★推敲★↓ ファティマ・イスはにこやかに微笑むと、エドゥアルトの背後へと回りこむ。 「美女とそれに準ずる美少女の願いは、どのような無理難題でも断らないのが信条でね。 俺に出来ることならなんなりと」 エドゥアルトは鷹揚に頷くと、芝居がかった口調で従順の意志を示す。 「では、そのまま両腕を後ろに差し出してくださいまし」 「これでいいのかい?―――てっ……ちょ、ちょっと待て!?」 言われるままに差し出したエドゥアルトの両手首が、恐るべき早業で後ろ手に縛りあげられる。============================================================【改稿/准士官の反応】 ファティマ・イスは頭巾を僅かに引き上げると、立塞がる准士官の腫れぼった顔を睨めあげる。 頭巾の内側に覗く白蝋の麗顔を視認すると、その表情が一変した。 「ファティマ枢機卿猊下!?」 呼吸するのも億劫そうな肥満体がはじかれた様に姿勢を正す。↓★推敲★↓ ファティマ・イスは頭套を僅かに引き上げると、立塞がる准士官の腫れぼった顔を睨めあげる。 黒布の内側に覗く白蝋の麗顔を視認すると、その表情が一変した。 「ファティマ枢機卿猊下!?」 黒布の内側に覗く白蝋の麗顔を視認した准士官の表情が一変した。 呼吸するのも億劫そうな肥満体がはじかれた様に姿勢を正す。============================================================【改稿/准士官の反応2】 「で、ですが……、そのような話聞いておりませんが?」 准士官の声に不審の色が混ざる。 ファティマ・イスの言いようは、元老院から与えられた任務と明らかな齟齬をきたす内容であったからである。 しかし、枢機卿位にある人間の要請を無碍に退けることも出来ずに自然と婉曲な返答となる。↓★推敲★↓ 「で、ですが……、そのような報告は受けておりませんが?」 准士官の声に不審の色が混ざる。 ファティマ・イスの話は寝耳に水で、元老院から与えられた任務と明らかな齟齬をきたす内容であったからである。 しかし、枢機卿位にある人間の要請を無碍に退けることも出来ずに自然と婉曲な返答となる。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/07/27
今回は僅かな改稿が多いです。============================================================光ノ章_02-04【慫慂】============================================================【改稿/冒頭】 「このまま手を拱いていれば、元老院は全ての実権をその掌中に収めることでしょう」 唐突に、あらぬ方向へと逸れたファティマ・イスの独白めいた予言は、ここアレシャイムで口にするには最も危険な議題であった。 それが教皇位に次ぐ聖位の持ち主から発せられたのだから尚更である。↓★推敲★↓ 「このまま手を拱いていれば、元老院は教会の全実権をその掌中に収めることでしょう」 ファティマ・イスの独白めいた兼ね言は、ここアレシャイムで口にするには最も危険な話柄であった。 それが教皇位に次ぐ聖位の持ち主から発せられたのだから尚更である。============================================================【改稿・加筆/インドブルクス家】 ファティマ・イスの挙げた名は世情に疎いシャルロットにも覚えがあった。 インドブルクス家は嘗て宗教世界にその有名を馳せた名門貴族である。 生前フォン=バレル三世が推進した教会改革によってその特権を剥奪され、一時は歴史の表舞台から姿を消した。 しかし、後にインドブルクス家の嫡女であったイザベラがフォン=バレル三世に見初められ聖室入りする。 教皇の寵愛を授かり、二人の間に生まれたのが一粒種のゲティス・フォンである。↓★推敲★↓ ファティマ・イスの挙げた名は世情に疎いシャルロットにも覚えがあった。 インドブルクス家は嘗て宗教世界にその有名を馳せた名門貴族である。 生前フォン=バレル三世が推進した教会改革によってその特権を剥奪され、一時は歴史の表舞台から姿を消した。 しかし、後にインドブルクス家の嫡女であったイザベラがフォン=バレル三世に見初められて聖室入りする。 今となっては教皇の寵愛の裏に隠された実情を知る術はないが、数年後、二人の間に生まれたのが一粒種のゲティス・フォンである。============================================================【改稿/ファティマの台詞】 「教皇位は世襲制であり、代々フォン家の人間が継ぐと教会法で定められています。 それは犯すべからず聖域であり、元老院の振舞いは神聖冒涜に属するでしょう」↓★推敲★↓ 「教皇位は世襲制であり、代々フォン家の血脈が継承すると教会法で定められています。 それは犯すべからず聖域であり、元老院の振舞いは神聖冒涜に値するでしょう」============================================================【改稿/ファティマの台詞2】 「話が逸れましたわね。 聖女さまも知っての通り次期教皇は枢機卿会議によって選出されます。 そして、残念ながらアンヌベルク卿、ライオネル卿、カルロ卿の御三方は既に元老院の意向に賛同を表明致しておりますわ」↓★推敲★↓ 「話が逸れましたわね。 聖女さまも知っての通り次期教皇は枢機卿会議によって選出されます。 そして、遺憾ながらアンヌベルク卿、ライオネル卿、カルロ卿の御三方は既に元老院の意向に賛同を表明致しておりますわ」============================================================【改稿/シャルロットの当惑】 シャルロットの紅眼には当惑の色彩が滲んでいた。 ファティマ・スがヴィルヘルムに対して、聖女の名を引き合いにだしたこともあるが、ゲティス・フォンの失墜した人望を考えれば、元老院を敵に回してまでその即位に協力を表明する人間がいるとは思えなかったのだ。↓★推敲★↓ シャルロットの紅眼には当惑の色彩が滲んでいた。 ファティマ・イスがヴィルヘルムに対して、聖女の名を引き合いにだしたこともある。 なにより、ゲティス・フォンの失墜した人望を考えれば、元老院を敵に回してまでその即位に協力を表明する人間がいるとは思えなかったのだ。============================================================【改稿/ファティマの台詞3】 「メナディエル正教は本来の姿に立ち戻るべきなのです。 現在の教会法は嘗ての神官たちが己が地位を維持する為に作り上げた俗法に過ぎませんわ。 本来尊ぶべきは女神の憑代たるリュズレイの血筋だと私は考えています」↓★推敲★↓ 「メナディエル正教は本来の姿に立ち戻るべきなのです。 現在の教会法は嘗ての神官たちが己が地位を誇示する為に作り上げた俗法に過ぎませんわ。 本来尊ぶべきは女神の憑代たるリュズレイの血筋だとわたくしは考えています」============================================================【改稿/ファティマの思惑】 ファティマ・イスの言葉が連々と積み重なる度に、彼女が示唆する内容が次第に浮き彫りになっていく。 そして、それは聖アルジャベータ公会の教義そのものである。↓★推敲★↓ ファティマ・イスの言葉が連々と積み重なる度に、その真意が次第に浮き彫りになっていく。 そして、それは聖アルジャベータ公会の教義そのものであった。============================================================【改稿/エドゥアルトの態度】 エドゥアルトはふてぶてしくも鼻先で笑うと、更に愚鈍で無思慮な小人ほど権力や金の匂いに敏感だから性質が悪い、と付け加える。↓★推敲★↓ エドゥアルトはふてぶてしくも鼻先で笑うと、更に「愚鈍で無思慮な小人ほど権力や金の匂いに敏感だから性質が悪い」などと付け加える。============================================================【改稿/ファティマの台詞4】 「勿論、最初から過激な改革を行う必要はありませんわ。 当面必要なのは元老院との対決の構図を教会内外へと明確に示すことです。 教会改革は民意を得た後に存分に権勢を振るえば宜しいのです」↓★推敲★↓ 「勿論、最初から過激な改革を行う必要はありませんわ。 当面必要なのは元老院との対決の姿勢を教会内外へと明確に示すことです。 教会改革は民意を得た後に存分に権勢を振るえば宜しいのです」============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/07/25
※続きです============================================================光ノ章_02-03【涜聖】============================================================【改稿/贖罪の牢獄に関する描写】 「予てより咎を犯した高位聖職者や貴族たちは、金銭供与によってその罪を軽減されておった。 贖罪の牢獄は、そういった者達の巣窟となっていると実しやかに囁かれておる。 端から贖罪の牢獄など実在せず、元老院との裏取引の媒体として作り出された空想虚言の類だと専らの噂じゃ。 もっとも、ワシも古書・聖書の類で得た知識のみで語っておる故、偉そうなことは言えぬがの」 要するにヴィルヘルムは、そういった流説に対する事前策だと言いたいのだろう。 「元老院がそれを望んだのですか?」 だが、そこには疑問が残る。 確かに教会にとって都合の悪い噂の流布は好まざるところであろう。 しかし、古老たちは教皇の死に関連する何らかの真実を秘匿せんと目論んでいる節があった。 その当事者であるミルフィーナが民衆の前に姿を晒すことは別種の危険性を孕んでいる筈である。↓★推敲★↓ 「予てより咎を犯した高位聖職者や貴族たちは、金銭供与によってその罪を軽減されておった。 贖罪の牢獄の存在は、そういった不正の温床となっていると実しやかに囁かれておる。 なかには端から贖罪の牢獄など実在せず、元老院との裏取引の媒体として作り出された空想虚言の類だと噂する輩もおるぐらいじゃて。 もっとも、ワシも古書・聖書の類で得た知識のみで語っておる故、偉そうなことは言えぬがの」 要するにヴィルヘルムは、そういった流説に対する事前策だと言いたいのだろう。 「元老院がそれを望んだのですか?」 シャルロットが義憤を押し殺した声音で尋ねる。 確かに教会にとって都合の悪い噂の流布は好まざるところであろう。 しかし、古老たちは教皇の死に関連する何らかの真実を秘匿せんと目論んでいる節があった。 その当事者であるミルフィーナが民衆の前に姿を晒すことは別種の危険性を孕んでいる筈である。============================================================【改稿/口を挟むエドゥアルト】 今まで執務室の壁に背を預けて聞き耳を立てていたエドゥアルトが興味あり気に尋ねる。↓★推敲★↓ 執務室の壁に背を預けて、会話の成行きを見守っていたエドゥアルトが興味あり気に尋ねる。============================================================【改稿/エドゥアルトの推測】 「会話の内容から察するに、シャルロット姫とファティマ・イス猊下は到底有縁とは言い難い。 こう言っちゃ悪いが、地位も名誉もある人間が赤の他人の為にそこまでする理由に皆目見当がつかないものでね」 エドゥアルトは意図的に相手の感情を逆撫ですることで、何らかの反応を引き出そうとしているようだ。 言葉を釣り糸にした駆け引きはヴィルヘルムの最も得意とする所だが、この直弟子も同様らしい。↓★推敲★↓ 「会話の内容から察するに、ファティマ・イス猊下とミルフィーナ卿は到底有縁とは言い難い。 こう言っちゃ悪いが、地位も名誉もある人間が赤の他人の為にそこまでする理由に皆目見当がつかないものでね」 エドゥアルトは意図的に先方の感情を逆撫ですることで、何らかの反応を引き出そうとしているようだ。 言葉を釣り糸にした駆け引きはヴィルヘルムの最も得意とする所だが、この直弟子も同様らしい。============================================================【改稿/シャルロットの憤慨】 「いいわ、最初から聖女さまにはお話するつもりでした。 それに遅かれ早かれ公になることですから、主席枢機卿がご一緒な今が最良の時かもしれません」 ファティマ・イスの決意を籠めた瞳がシャルロットを見据えていた。↓★推敲★↓ 「いいでしょう。 どのみち全てお話するつもりでしたしね。 それに遅かれ早かれ公になることですから、主席枢機卿がご一緒な今が最良の時かもしれません」 ファティマ・イスは小さく吐息を漏らすと、群雲を払うように語り出した。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/07/22
※半角一万文字オーバーしたのでわけます============================================================光ノ章_02-03【涜聖】============================================================【改稿・加筆/冒頭】 「あっ…」 鋼鉄の車輪が横切る甲高い金属音に反応して目深に被った頭巾を擡げる人影がある。 そこに覗く顔はシャルロット・アルジャベータ・リュズレイのものであった。 少女は喪に服した神都に溶け込むように漆黒の外衣を纏っていた。↓★推敲★↓ 鋼鉄の車輪が横切る甲高い金属音が響く。 沿道の一角、喪に服した神都に溶け込むように漆黒の外衣を纏った三者が囚人馬車を見守る。 耳元まで覆われた頭套に口元は黒布で隠されており、その正体を傍目に窺い知る術はない。 「あっ……」 内の一人、目深に被った頭巾の内側から少女の声が漏れる。 そこに覗く紅眼はシャルロット・アルジャベータ・リュズレイのものであった。============================================================【改稿/ファティマの様相】 振り返ったシャルロットの眼前に己と同様に漆黒の佇まいがあった。 目深に落ちた頭巾から窺える血色を帯びた唇が微笑を浮かべている。 首元より流れ落ちる黒髪と袖口から伸びる手指の白さが病的な対比と映る人物である。↓★推敲★↓ 振り返ったシャルロットの眼前に己と同様に漆黒の佇まいがあった。 頭套の首元より流れ落ちる黒髪と袖口から伸びる手指の白さが病的な対比と映る人物である。============================================================【改稿/シャルロットとファティマ】 心にも無いとはこれ正にだが、他に適当な返答が浮かばないシャルロット。 少女の紅玉眼が困ったように宙を泳いでいる。 暫くの間、ファティマ・イスはその様子を愉しげに見守っていたが、不意に真顔に戻ると再度口を開いた。↓★推敲★↓ シャルロットの紅玉眼が困ったように宙を泳いでいる。 心にも無いとはこれ正にだが、他に適当な返答が浮かばないようだ。 暫くの間、ファティマ・イスは少女の動揺を愉しげに見守っていたが、不意に真顔に戻ると再度口を開いた。============================================================【改稿/シャルロットの憤慨】 その無実を信じるシャルロットにとって、殊更彼女の尊厳を傷つける行為を黙って見過ごすことなどできるわけもない。↓★推敲★↓ その無実を信じるシャルロットにとって、不当に彼女の尊厳を傷つける行為を黙って見過ごすことなどできるわけもない。============================================================【改稿・加筆/シャルロットの憤慨2】 「フィーナが贖罪の牢獄へと収容されることは、審問会に於いての決定事項とお聞き致しました。 彼の牢獄から生きて帰還した囚人が皆無だとも……。 既に極刑に等しい処罰が下った者に、更なる厳罰を付加することは正しい行いとは到底思えません」↓★推敲★↓ 「フィーナが贖罪の牢獄へと収容されることは、審問会の決定事項とお聞き致しました。 彼の牢獄から生きて帰還した囚人が皆無だとも……。 既に極刑に等しい処罰が下った者に、更なる厳罰を重ねることが正しい行いとは到底思えません」 シャルロットは尚も食い下がる。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/07/22
※続きです============================================================【改稿・加筆/シャルロットとエドゥアルトの問答】 それは教皇庁でも最上位の聖職者、つまり教皇と並び立つ聖位に与えられるものである。 傍目にその様は、己が聖女だと吹聴しているようなものであった。 「少しは民草の苦しみにも目を向けて欲しいものだ」 シャルロットが中央通りに出るや否や、エドゥアルトの目算どおり幾つもの視線が少女の紫色の法衣に注がれる。 但し、その内の三割ほど、特に若い娘の目線は隣のエドゥアルトに対して直線的であった。 「あなたはアダマストル公国の人間ではないでしょう?」 視線を正面に据えたまま神都の舗装された石畳を歩くシャルロット。 その堂々たる様にエドゥアルトは思わず目を見張る。 少女の横顔から一般人では決して持ち得ない洗練された気品が感じられたからだ。 それは生まれや育ちで養われる類のものではなく魂に宿る感性とでも喩えるべきだろうか。 「ふむ、確かに他国の民が背負う辛苦にまで口出しするは、幾分王族としての思慮に欠けるか。 だが、聖女としてはどうだい? 敬虔な一信徒の願いを聞き届けてくれてもよいだろう?」 「(聖女として…)」 聖女という単語に反射的に脚が止まってしまうシャルロット。 ミルフィーナを救い出したいという気持ちに偽りは無い。 だが、己が生きた過去の全てを否定することは、やはり出来なかった。 これ幸いと無言で立ち尽くすシャルロットの眼前にエドゥアルトが再度立ち塞がる。 「メナディエルの敬虔な信者は私に対してそのような口の利き方を致しませんわ」 エドゥアルトを睨みあげると、シャルロットは語尾を荒げる。↓★推敲★↓ それは教皇庁でも高位の聖職者に供される聖職衣である。 傍目にも少女の様相は、己が教会の重要人物だと吹聴して回っているようなものであった。 「少しは民草の苦しみにも目を向けて欲しいものだ」 エドゥアルトの目算どおり、中央通りに差し掛かると幾つもの視線が少女の紫色の法衣に注がれる。 しかし、当の本人は全く動じる気配がない。 その堂々たる様にエドゥアルトも別の意味で感嘆せざるを得ない。 そこには、一般人では決して持ち得ない洗練された気品が感じられたからだ。 それは生まれや育ちで養われる類のものではなく魂に宿る感性とでも喩えるべきだろうか。 もっとも、周囲の視線の三割ほど、特に若い娘の目線は隣のエドゥアルトに対して向けられていたが、今は構っている余裕はないようである。 「あなたはアダマストル公国の人間ではないでしょう?」 シャルロットが視線を正面に据えたまま尋ねる。 「ふむ、確かに他国の民が背負う辛苦にまで口出しするは、幾分王族としての思慮に欠けるか。 だが、聖女としてはどうかな?」 「聖女として……」 シャルロットの脚が聖女という単語に反射的に止まってしまう。 ミルフィーナを救い出したいという気持ちに偽りは無い。 だが、己が生きた過去の全てを否定することは、やはり出来なかった。 「敬虔な一信徒の願いを聞き届けてくれてもよいだろう?」 エドゥアルトが不意に立ち止まったシャルットの正面に回り込む。 「メナディエルの敬虔な信者はわたしに対してそのような口の利き方を致しませんわ」 シャルロットは語尾を荒げると、エドゥアルトを睨みあげた。============================================================【改稿・加筆/エドゥアルトの陶酔】 顎裏に親指を添え両眼を閉じると何やら自己陶酔を始めるエドゥアルト。↓★推敲★↓ エドゥアルトは両眼を閉じると何やら自己陶酔を始める。 奇抜なのは服装だけではなく、その内面にまで及んでいるようだ。============================================================【改稿/元老院に対するシャルロットの見解】 元老院が管轄する審問会において、ミルフィーナには教皇殺害の首謀者としての聖審が下った。 古老たちの意向は明らかだ。 彼らにとって都合の悪い何かを隠匿する為に、ミルフィーナを人柱とするつもりなのだろう。 だが、人前には決して現れない古老たちの在所を突き止めるのは不可能に近い。 しかも、教皇座空位となった現在、このアレシャイムの実質的な支配者は彼ら元老院であるといっても過言ではない。 表立ってその根城を探すことは得策ではなかった。 世間に疎いシャルロットにもそれぐらいは理解できる。 しかし、なにもせずに指を加えて傍観者となることは、過去の自分に立ち戻る行為であった。↓★推敲★↓ 元老院が管轄する審問会において、ミルフィーナには教皇殺害の首謀者としての聖審が下っていた。 古老たちの意向は明らかだ。 彼らにとって都合の悪い何かを隠匿する為に、ミルフィーナを人柱とするつもりなのだろう。 だが、教皇座空位となった現在、元老院は名実共に教会の最高権力を有している。 表立って対立するのは得策ではなかった。 世間に疎いシャルロットにもそれぐらいは理解できる。 しかし、なにもせずに指を加えて傍観者となることは、過去の自分に立ち戻る行為であった。============================================================【改稿/シャルロットとエドゥアルト02】 自暴自棄になりつつあるシャルロットの二の腕を鷲掴むエドゥアルト。 彼は少女のしなやかな身体を力任せに胸元へと引き寄せる。 「くっ……放しなさい! これ以上あなたの無駄話に付き合っている暇はありません。 こうしている間にもフィーナは……」 「おいおい、俺の話を聞いていなかったのかい? はじめから止める気なんてないさ。 それに俺の言葉で止められるとも思っていない。 流石にそこまで自惚れてはいないよ」↓★推敲★↓ エドゥアルトは自暴自棄になりつつあるシャルロットの二の腕を鷲掴み動きを封じる。 「くっ……、放しなさい! こうしている間にもフィーナは……」 「おいおい、話は最後まで聞くものだと老卿から教わらなかったのかい? はじめから止める気なんてないさ。 それに俺の言葉で止められるとも思っていない」============================================================【改稿/エドゥアルトの提言】 「現在、老卿がさる人物と密かに連絡をとっている。 話によるとミルフィーナ・グラドユニオンを救出する為には必要不可欠な人材らしいが―――」↓★推敲★↓ 「現在、老卿がさる人物と密かに連絡をとっている。 話によるとシャルロット姫の目的を遂げるには必要不可欠な人材らしいが―――」============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/07/20
※半角一万文字オーバーしたのでわけます============================================================光ノ章_02-02【我意】============================================================【改稿・加筆/冒頭】 大きく息を吸い、そして吐く。 シャルロットは鉄の門扉に手を掛けると、ひとつの決意と共にそれを押し開く。 「これはこれは、いったい何所にいかれるのかなシャルロット姫?」 軽い口調と共に、赤と紫の奇抜な衣装に身を包んだ青年が煉瓦の門柱の陰から現れる。↓★推敲★↓ 主席枢機卿邸の前庭を小走りに移動する人影がひとつ―――褥を抜け出したシャルロットである。 「フィーナ待っていてください……」 シャルロットは大きく息を吸い、そして吐く。 それから徐に鉄の門扉に手を掛けると、ひとつの決意と共にそれを押し開いた。 「これはこれは、いったい何所にいかれるのかな?」 金属の軋む音に混じり不意に湧き上がる声。 煉瓦の門柱の陰から赤と紫の奇抜な衣装に身を包んだエドゥアルトが現れる。============================================================【改稿・加筆/シャルロットの反応】 「おいおい、まさか覚えてないのかい?」 シャルロットの思わぬ反応に、さも心外だと言わんばかりに天を仰ぐ青年。 「昨日、老卿の執務室で対面済みの筈だが…。 ほらっ、あの場に美の女神もかくやあらむと喩えるべき美貌の持ち主がいただろう?」 続けて不届きにも神仏を引き合いに自讃を繰り広げる。 青年が襟足を見せつけるように白銀色に斑な紅が混じる長髪をかき上げると、左右非対称に編込まれた髪束が波打つように揺れた。 「どちらにしても貴方には関係のないことです」 だが、シャルロットの返答は素っ気無い。 青年の容貌どころか存在自体に興味が無いらしい。↓★推敲★↓ 「おいおい、まさか覚えてないのかい?」 こくりと頷くシャルロットに、さも心外だと言わんばかりに天を仰ぐエドゥアルト。 「これは嘆かわしや。 美の女神もかくやあらむと喩えるべき美貌を宿すこの俺を忘れられる筈もないのだが……」 エドゥアルトが襟足を見せつけるように白銀色に斑な紅が混じる長髪をかき上げる。 気障ったらしい所作であるが、それが様になる容姿は確かに兼ね備えていた。 「どちらにしても貴方には関係のないことです」 だが、シャルロットの返答は素っ気無い。 エドゥアルトの容貌どころか存在自体に興味が無いらしい。 いや、少女の眉間に寄った皺が増えたことからも、不届きにも神仏を引き合いに自讃を繰り広げる青年に対する不信感が募ったようである。============================================================【改稿/シャルロットの負い目】 故に世話を焼いてくれた侍女たちの目を盗み、黙って主席枢機卿の邸宅を抜け出すつもりであった。↓★推敲★↓ 故に黙して独りでことを成し遂げるつもりであった。============================================================【改稿/シャルロットとエドゥアルト】 そう言うと、青年の脇をすり抜けて歩みを進めるシャルロット。 エドゥアルトは慌てて少女に追い縋るとそれに並走する。↓★推敲★↓ シャルロットは僅かな逡巡の後、青年の脇をすり抜けて歩みを進める。 エドゥアルトは軽く肩を竦めて溜息を吐くと、先行する少女に追い縋った。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/07/20

チョコナレフ手記ありのまま、先日起こったことを話す(=^・ω・^)ニャ-ある朝、起床したら外の親ネコ&仔ネコがそっくり入れ替わっていた(=^・ω・^)ニャ-な……、何を言ってるのかわからニャーと思いますが、チョコも何をされたのかわからなかった(=^・ω・^)ニャ-頭がどうにかなりそうだった(=^・ω・^)ニャ-催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ断じてない(=^・ω・^)ニャ-もっと恐ろしいものの片鱗を味わった(=^・ω・^)ニャ-とりあえず、八方手を尽くして、3匹は引き取り手が見つかりました。残ったこの子はウチで飼うことになりそうです。仔ネコがもう少し大きくなったら親ネコと共に避妊手術にいかないといけませんね。
2010/07/17
※続きですフリーページで差し替え済みです。============================================================光ノ章_02-01【籠姫】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 「私はソフィア。 アナタのお母様の双子の妹なのよ。 今日は、アナタとお友達になりたいと思ってやってきたのだけど……」 ソフィア・リュズレイ―――エレシアムの死後間も無くシャルロットの父ルクサーの後妻として迎えられた女性である。 正妻を亡くし、その喪が明けきらぬ内に後妻を娶ったことは、国内でも様々な物議を醸したが、アダマストル公国が聖女の血脈を受け継ぐ女帝制であることを考慮すれば、必要不可欠な処置とも解釈できた。 次代の女王候補であるシャルロットが成人するまでの間、王権を担える血脈者がルクサーと婚姻することが最も妥当な選択肢だったのである。 「いらない」 幼いシャルロットの返答は無機質で短かった。 ソフィアを正面から見据えて拒絶する様子は、他者の思惑に屈することを嫌う少女なりの意思表示であった。 「あら、残念。 でも、私は諦めが悪くて有名なのよ。 そのお陰でこうしてアナタに逢えているのだから」 冗談めかして感情を濁すと、ソフィアは気にした素振りもなく微笑んだ。 その言葉通りソフィアは見掛けによらず豪胆な性格の持ち主だった。 彼女は日ごと後宮を訪れると、乳母のサリマと共にシャルロットの身の回りの世話を献身的に始めたのだ。 籠姫の戒律を破ることも厭わずに、直向に尽瘁するその姿は、傍目から見ても常軌を逸しているように映った。 一方、シャルロットは無関心を貫くことで、それらの感傷をやり過ごそうと考えた。 そうすることで、大概の人間の心は離れていくことを知っていたから。 しかし、ソフィアは諦めるどころか、足りない何かを補うように一層深い愛情をシャルロットへと注いだのだった。 「どうして……」 ソフィアの一連の行動は幼いシャルロットに苛立ちと戸惑いを抱かせた。 まるで腫れ物を扱うように接してくる血族たち。 忌避と畏敬の入り混じった視線を投掛けてくる王侯貴族や高位聖職者。 煌びやかに彩られた虚構に満ちた少女の世界で、ソフィアという名の異物は無視できないものとなっていた。 「なんで……、なんで……ここに居るの? わたしは友達にもならないし……、あなたを母親だとも思わない!!」 それは、シャルロットの心から溢れで初めての激情だった。 「これ以上、わたしの世界に入ってこないでよ……」 シャルロットはソフィアへと向けた視線を支えきれなくなると、その場にへたり込んでしまう。 「それは違うわ。 アナタ自身が望まない限り、他の誰も、喩え神様だってアナタの世界に入ることは適わない。 私を受け入れたくないのなら拒絶すればいいの。 でもね、アナタがどんなに拒んでも私のなかにはシャルロットが居る。 それを変えることもまた、私以外の何者にも出来ない」 ソフィアはシャルロットの頬に手を添えて顔を上げさせた。 「怖かったの……」 シャルロットの目から大粒の涙が零れ落ちる。 少女はそれを拭おうともせずに、震える声で話し続ける。 「わたしはわたしが嫌いだった……、認めたくなかった……。 でも、わたしがわたしでなければ、誰にも認めて貰えない……だから、だから―――」 それは、壊れかけた心を守る為に少女自身が己に課した呪縛だった。 シャルロットが恐れていたのは、他者に心を開く行為そのものではない。 誰よりも何よりも嫌悪する存在―――それは自分自身であり、そんな自己を受け入れてくれる人間が現れることを常に畏怖していた。 望まぬ自分が他人の世界に確立されることから逃げたかったのだ。 「シャルロット。 アナタがアナタであることを否定する必要はないのよ。 喩えアナタが聖女であろうとなかろうと、私の中のシャルロットは生まれた時からたった一人しかいないのだから」 ソフィアという存在は灰色に塗り込められた少女の心に差した初めての色彩だった。 ともすれば、彼女の笑顔の中に求めて已まなかった母親の姿を重ね見ていただけなのかもしれない。 だが理由はどうあれ、シャルロットの時間はこの時から動きだしたのだった。 ・ ・ ・ 紗幕の隙間から白々とした朝陽が差し込んでいた。 寝台に横たわったまま、ぼんやりと窓の向こう側に視線を延ばすシャルロット。 そこには澄み切った青い空が続いていた。 「いつからだろう、こうやって見上げる空が美しいと感じられるようになったのは……」 シャルロットが漠然と独り言つ。 幼き日に仰ぎ見た狭く切り取られた空と、今現在、視界を占めるこの空は、一体何が違ったのだろうか? そんな疑問がシャルロットの胸中を占めていた。 「そうだ……。 わたしに大切な人が出来る度に、無機質だった周囲の風景に、様々な感情が刻まれていった。 お義母様や婆やの中に在る自分自身を認めた時、あの風変わりな妹たちが突然に押しかけて来た時も、爺や先生に出会ったことも―――そしてフィーナ……少し頑固で恥ずかしがり屋な彼女は、わたしにとってはじめての友達だった」 己の弱さすら甘受出来ずに逃げ続けていた幼き日の自分に、シャルロットは今更戻るわけにはいかなかった。 「お義母様のお言葉通りかもしれない……。 わたしは何を恐れていたのだろう。 事が公になれば、全てが壊れてしまうと思っていた。 大切な人達も、帰る場所も、何もかも失ってしまうかもしれないと―――でも違う、わたしはフィーナを信じている。 無実たる得る証拠なんてなくても、わたしはわたし自身の意志で行動すればいいのだから)」 シャルロットの双眸には揺るぎない決意の色が宿っていた。============================================================
2010/07/15
改稿が全文に及んだので2-1【籠姫】も全文載せます。投稿後に半角一万文字を超えていたことが判明したので分けておきます(汗)う~ん、通常ツールの文字数チェックだと超えてないのですが……============================================================光ノ章_02-01【籠姫】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 「聖女に一服盛るとは、老卿も罰当りなことだ」 エドゥアルトは横抱きにしたシャルロットを隣室へと運びながら苦笑する。 ヴィルヘルムが差し出した香草茶に睡眠薬が混入されていたらしく、シャルロットは強制的に夢の中の住人であった。 青年は半ば呆気にとられながらも、師の大逸れた行動に感嘆の息を漏らしていた。 「では、良い眠りを―――おっと……」 エドゥアルトがシャルロットを寝台に横たえると、傍らで控えていた若い侍女が二人の間に押し入る。 「まだ、おやすみの接吻がまだなのだが?」 「エドゥアルトさまのお役目はここまでです」 ヴィルヘルムから予め吹き込まれているのだろう。 なかなかに用意周到である 侍女の言葉は木枯らしの如く冷え切っており取り付く島もない。 ヴィルヘルムから予め吹き込まれているのか、この繊細な美貌を持つ青年が、聖宮の女官との浮名を馳せる色情狂だと存知しているようであった。 全て計算ずくとは、なかなかに用意周到である。 「この場合、ご褒美の一つや二つあって然るべきだと思うのだが?」 エドゥアルトが仏頂面で抗議する。 「それは、ヴィルヘルムさまに頂くのが道理に適っていると思われます」 二の句を継がせぬ筋の通った正論。 エドゥアルトも渋々ながら退散を余儀なくされた。 そもそもが、自己の不徳が招いた結果なので従わざるを得ない。 もっとも、エドゥアルトにも彼なりの言分があり、「色恋沙汰の方が懇意に近づいてくるのだから、それを拒む理由はない」などと持論を展開している。 「俺も大概に信用がないらしい」 肩を竦めたエドゥアルトだったが、不意に真顔に戻ると、 「だが、幸か不幸か、あの如何にも頼りなげな姫君が聖女の名を冠するに相応しい人物であるのなら、長い付き合いになるかもしれんな」 予言めいた言葉を吐きつつ、鼻歌と共にその場を後にした。 ・ ・ ・ シャルロットは深い眠りの中にいた。 ―――貴女は聖女ではない…… フォン=バレル三世の言葉。 胸の中に生まれた小さな棘が少女を苛む。 記憶に染み付いた闇はシャルロットの心底まで浸透して居座り続けていた。 『わたしはいったい何者なのだろう?』 籠姫の聖女として忌避と同情の眼差しに晒される日々。 教会教義や信仰の象徴で在り続けなければならない重荷は、少女を呪縛する血鎖であった。 だが、それは同時にシャルロット・リュズレイという人間を象る礎でもあったのだ。 己が聖女ではないという事実は、少女が背負わざるを得なかった過去の全てを否定するものだった。 『ソフィアお義母様……』 壊れかけた心が苦痛と恐怖に軋みながら過去の記憶と融合していく。 シャルロットに自分を生んだとされるエレシアム・リュズレイの記憶は殆ど無い。 幼少期に幾度か形式的な対面を果たしてはいたが、母親は籠姫として後宮に幽閉された我が子に進んで会おうとはしなかったのである。 赤子時代のシャルロットの世話は乳母のサリマに任じられ、親族ですら聖女の名を継ぐ第一嫡女に近づくことはなかった。 幼い籠姫は、周囲の愛情から隔絶された空間にひとり取り残されていた。 ―――そして、閉塞した後宮での生活が八年目に達したある日、母エレシアムの死がシャルロットへと伝えられる。 「そう」 それが肉親の死に直面した八歳の少女が零した唯一の言葉だった。 それ以上でもそれ以下でもない。 シャルロットにとって、エレシアムとはそういった存在であった。 そして、時を同じくして、心を閉ざし周囲の全てを拒絶していた少女の前に、ひとりの女性が現れる。 「……っ!?」 幼いシャルロットの双眸が僅かに見開かれる。 驚嘆すべきか、その人物は少女の記憶に残る母親の姿と瓜二つだった。 「誰?」 だが、少女の抱いた感情は直に払拭される。 目の前の女性とエレシアムには、決定的な差異があったからである。 笑顔―――シャルロットの記憶のなかの母親は決して笑うことはない。 しかし、目の前の女性はまだどこか少女を思わせる穏やかな微笑み浮かべていたのだった。============================================================
2010/07/15

ちまちまと進めていた世界樹の迷宮3を最近になって漸くクリアしました。これで世界樹シリーズも1/2/3と完全攻略です(`・ω・´)序にDSiLL購入時に纏めて購入したソフトも粗方クリアしたので、過去の面白そうな作品を適当に見繕ってみました。昨日からルーンファクトリー3に嵌ってます┃壁┃ω・o)ノまだ一年目の春の段階ですが、畑の手入れをして街の住人全員と話してると半日終わっちゃうんですけど……(汗)コレやってて悠久とエタメロを思い出しました。
2010/07/13
地味に改稿+加筆が多かったので2-0【老卿】も全文載せます。シャルロット編ではこの話までが初期に書いた部分です。次回からはきっと推敲も楽な筈!!(※希望的観測)============================================================光ノ章_02-00【老卿】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 落日の最後の余光が消失して神都アレシャイムに夜が堕ちる。 教皇フォン=バレル三世の死は、西大陸全土に衝撃と動揺を齎した。 それは教皇庁儀典室から公にされた内容がひどく限定的であったこともにも起因する。 教皇の死因は老衰や病死ではなく、教会転覆の陰謀に巻き込まれ命を落としたとされていた。 そして、その断片的な事実は聖アルジャベータ公会にとって、甚だ芳しくないものであった。 教皇殺害の首謀者として挙げられた人物が聖公会の中枢に名を連ねていたからである。 ―――ミルフィーナ・ド・グラドユニオン 彼女はアダマストルでも有数の名門貴族グラドユニオン家の一人娘であり、聖女を守護するガーディアンの団長を務める人物であった。 同家は古派のひとつである聖アルジャベータ公会に多大な影響力を誇り、アダマストル王室とも縁深い。 故に此度の問題は宗教世界のみならずメナディエル教圏の国家間に様々な軋轢を生んでいた。 今や人々の尊敬と信望を集めた娘子軍の名声は地に堕ちていた。 ・ ・ ・ 「ヴィルヘルム先生、フィーナに会わせてくださいっ!」 シャルロットの狼狽した声が執務室の空気を震わせた。 それは室内を囲むように備え付けられた書架を揺るがす程の感情の乱れだった。 「落ち着きなされ」 優雅な曲げ木を誂えた揺り椅子に腰掛けた白髪の老人が、手に持った書物から視線をあげて少女を嗜める。 年輪じわの刻み込まれた彫りの深い顔を彩るのは、包み込むような深蒼の瞳に意志の強そうな口元と長い顎鬚。 高い鼻筋に斜めに挟み込むようにのせられた眼鏡が印象的であった―――ヴィルヘルム・アンスバッハ首席枢機卿、その人である。 ヴィルヘルムはランスロットからミルフィーナの言伝を聞くや否や、元老院の手がシャルロットに伸びる前に一計を講じたのだ。 彼はいち早く枢機卿団を召集すると、シャルロットを教皇殺害の重要参考人として召喚したのだった。 外面的には証人の監視と尋問となっているが、実際はシャルロットの身を守る為に体裁よく口実を並べているだけだ。 それが証拠に元老院の特使がシャルロットの身柄引き渡しを幾度となく求めてきたが、ヴィルヘルムはその要求の全てを突っ撥ねている。 最終的な破局には到っていないが教皇庁内部の緊張も日々高まっていた。 「落ち着くなんて出来るわけがありませんわ! こうしている間にもフィーナは……」 シャルロットが声を荒げる。 ヴィルヘルムの冷静な対応が逆に苛立ちを募らせてしまったようである。 「ミルフィーナ・ド・グラドユニオンは審問会での聖審を終えた後、近日中に贖罪の牢獄へと護送されるそうじゃ」 「そんな……」 シャルロットは声まで青ざめて絶句する。 贖罪の牢獄は教会の面子を守る為、表立って処罰できない高位聖職者や王侯貴族、異端者として認定するには不都合な人間を秘密裏に幽閉する寓居の類である。 嘗ては存在自体が根も葉もない噂と一笑に付されたが、十数年前のある事件がきっかけとなり、広く取り沙汰された。 もっとも、その在処は未だに秘匿されている為に真偽の程は定かではない。 「全ての命は女神が創りたもうたもの。 聖下亡き今、政務を司る元老院の意思は女神のご意思でもある」 教皇の権威は唯一無二のものでなければならない。 それは使徒座空位期間に教皇の権威を必要とする承認事項は成立しないことからも実証されている。 だが実情では、教会の実質的な支配者は元老院であるといっても過言ではなかった。 元老院は過去幾度となく傀儡の教皇を擁立することにより教会を影から操ってきた。 そして、対立する機関の権限を悉く縮小することによって、自己の発言力を高めていたのである。 ヴィルヘルムは不心得にも女神の名を引き合いにそれを皮肉っているのだ。 「ヴィルヘルム先生はフィーナではなく元老院の詭弁を信じるおつもりですかっ!?」 もっとも、精神的なゆとりを著しく欠いた人間相手では逆効果である。 激昂したシャルロットはヴィルヘルムに詰め寄ろうとするが、床上に乱雑に積み上げられた蔵書に足を取られよろめいてしまう。 「おっと」 体勢を崩した少女の身体を奇抜な衣装に身を包んだ青年が受け止める。 書架の陰から会話の成行きを見守っていたが、そうもいかなくなったのだろう。 「老卿の肝っ玉は図太いを通り越して鈍感なんですよ」 偏屈の塊のようなヴィルヘルムが初めて取った直弟子。 それがこの若者だった。 「エドゥアルト、お前は黙っておれ」 ヴィルヘルムがしかめっ面で窘めると、青年はそそくさと書斎の隅に退散する。 元から深入りするつもりはないようである。 「姫にはミルフィーナ・ド・グラドユニオンを無実たらしめる確証がおありか?」 ヴィルヘルムはアダマストル公国の出身である。 嘗ては王家の教育係を勤めていたこともあり娘子軍の面々とも知己である。 故にガーディアンの女団長が信用に足る人物であることは十分心得ていた。 だが、相識であったからこそ、その危うさも同時に理解していた。 ミルフィーナがシャルロットへと示す忠誠は守護騎士としての職務の範疇を超えたところにあると、ヴィルヘルムの目には映っていた。 「それは……」 シャルロットは無意識に首元へと手を添える。 首元を隠すように幾重にも巻かれた真紅の絹布。 そこには聖アルジャベータ騎士団の紋章が縫いこまれていた。 それは常日頃、ミルフィーナが愛用していた手巾帯である。 「きっと、フィーナは私を護るために……。 そ、それに……聖下は―――」 人間ではない……そう続けようとして言葉を呑み込むシャルロット。 教皇が屍族との間に“渇きの契約”をしていた真実を明かせば、自分が聖女でないという事実までも公になるかもしれない。 いや、そのような突拍子もない話など気狂いじみた妄言と捨て置かれるのがおちである。 「焦っても事態が好転するとは限らぬ。 なにより、今下手に動いてはあの娘の心遣いを無駄にすることになるじゃろうて」 ヴィルヘルムはシャルロットの苦悩を心得たように諄々と諭し聞かせる。 「ヴィルヘルム先生……」 シャルロットはどこかやりきれない面持ちで下唇を噛む。 「それより一杯どうじゃな?」 ヴィルヘルムはゆったりとした動作で立ち上がると、馴れた手つきで東方製の茶器で香草茶を蓋碗へと注ぐ。 古書独特のかび臭い匂いに混じり芳しい香りがシャルロットの鼻腔をくすぐった。============================================================
2010/07/12
ブログTOPに凝ったGIFアニメを載せようと昨夜、せっせっと作っていたのですが、どうしても500KBの壁が破れずに挫折です(´;ω;`)ウッ…補正→劣化→補正→劣化の繰り返しに疲れました(汗)面倒になって、枚数を1/3&画像縮小などの妥協措置を施してとりえずTOPを入れ替えてみました。・・・後々、暇を見てどうにかします。追記壁紙Dタイプ製作時にプルの大口が違和感で描き直したイラストですが、改めて見てみるとコチラの方がよかったかも……
2010/07/11
ここは原文が短い&改稿部分が多岐に及んだので個別に載せず推敲部分を含め全文載せます。ランスロット関連の描写の加筆に伴い追加設定した武道大会に関してはミューク編の3章で使用する予定です。向こうサイドは今後貧困に喘ぐ展開になりますしね(笑)あと、フリーページの1-02【古怪】の記載ミスを直しておきました。============================================================光ノ章_01-06【脱出】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 白金の長髪を靡かせてミルフィーナが走る。 急勾配の螺旋階段を速度を緩めずに一足飛びで駆け下りる姿は、まさしく飛燕が舞うが如くであった。 敵が追撃してくる気配はないが、休む余裕もまたなかった。 背中から伝わるシャルロットの体温が急激に失われていくように感じていたからである。 だが、搭外回廊へと開かれた鉄扉を潜り抜けた時、ミルフィーナは息を呑み立ち竦んだ。 「なっ!?」 聖宮殿と水晶の搭を結ぶ跳橋の上に鉛色の障壁が築かれていた。 待ち伏せていたのは、完全武装の兵士たち。 湾曲した長方形の盾を構えて橋桁を封鎖するような密集陣形を形成している。 方盾に刻まれたアレシャイムの紋章から、それが教皇庁直属の正規兵であることがわかった。 その数は軽く十五を超え、数人を斬り倒したところで囲みを突破するのは不可能だろう。 「言い逃れる台詞を考えておくべきでしたね」 ミルフィーナは内心で舌打ちをすると、シャルロットを鉄扉の陰に横たえる。 そして、自己を鼓舞するように腰に携えた長剣の柄に手を伸ばした。 「これはミルフィーナ卿。 随分と急がれているご様子だが、ここが教会にとってどのような意味を持つ場所であるのか、知らぬわけでもありますまい」 うちの一人、隊長格と思しき壮年の男が前に進み出る。 短く切り揃えた黄昏色の髪、理知的な双眸と均整のとれた体格を兼ね備えており、僅かな所作から滲み出る風格は威厳に満ち溢れていた。 「ランスロット卿……」 ミルフィーナは強く下唇を噛み締めると表情を曇らせた。 ランスロット・レン・エグレイス。 教皇庁の軍備の要となる聖堂騎士団の団長にして、領主司教を兼任する才幹の持ち主である。 アルル=モアで数年に一度開催される武術大会においては不敗の英雄としての勇名も馳せていた。 「水晶の塔に賊が侵入したという密告が騎士団詰め所にありました。 最初は性質の悪い悪戯かとも思いましたが、その書状に捺された刻印が些か気になりましてね。 どうやら、このような夜更けにわざわざ兵を率いた甲斐もあったようです」 ランスロットはミルフィーナの挙動を視線で制しながら更に言葉を続ける。 「ミルフィーナ卿、大人しく我々にご同行願えますか?」 ミルフィーナは微動だにしない。 いや動けないのか? 「……わかりました。 ただし、シャルロット様の身の保全を約束して頂けますか?」 ミルフィーナは暫しの葛藤の末、苦渋の決断をする。 交換条件を突きつける立場にないことは重々承知していたが、やむを得なかった。 それに公明正大で名高い聖堂騎士団の団長ならば、それを受け入れるだろう確証もあった。 「よろしい。 聖堂騎士団の名誉に懸けて約定致しましょう」 ランスロットは苦笑すると、その申し入れを受諾した。 そして、背後に控えた部下の一人に目配せすると一言三言耳打ちする。 その兵士は酷く緊張した面持ちで水晶の塔へと姿を消した。 どうやら、教皇の無事を確認する為に部下を祭壇の間へ向かわせたようだ。 「再び御尊顔を拝する機会に恵まれて光栄の至りに存じます。 しかし、このようなカタチでの再会は避けたかった」 ランスロットは横たわったままのシャルロットに歩み寄ると、片膝を地に着いて静かに聖印を切った。 「我々がここで鉢合わせたことも単なる偶然ではない。 恐らく何者かが仕組んだ歯車の一環として利用されているのだろう」 ランスロットはミルフィーナにだけ聞こえるようにそっと呟く。 ミルフィーナは歯噛みする想いだった。 あの時、水晶の塔に赴こうとするシャルロットを力ずくにでも止めるべきだった。 ともすれば避けられた事態であったのかもしれない。 だが、今更どんなに悔いても後の祭りであることは確かだった。 聖域である水晶の塔に脚を踏み入れ、その神聖を穢したというだけでも罪は重い。 それに、祭壇の間へと向かった兵士が教皇フォン=バレル三世の惨殺体を発見するのも時間の問題だろう。 どのような申し開きをしようにも、ミルフィーナの置かれた現状は最悪だ。 唯一の望みは、あのオルカザードの屍族が祭壇の間に留まり、全ての災厄を引き受けてくれることだが――― 「ラ、ランスロットさま!!」 その淡い期待はすぐに裏切られた。 先ほどの兵士が這う這うの体で螺旋階段を転げ落ちてきたからである。 その兵士は縺れるような足取りでランスロットへと駆け寄る。 齎された報告の内容にランスロットの端整な顔が驚愕に歪む。 「ミルフィーナ卿。 貴女の身柄は一時的に我らアレシャイム聖堂騎士団が預からせていただく。 追って審問会にかけられることとなりましょうが、先んじて何か申されたいことがあるのならば、出来うる限り聞き届けましょう」 ランスロットはミルフィーナに向き直ると努めて冷静な口調でそう言った。 現状のまま審問会にかけられれば断罪は避けられないように思えた。 ランスロットの申し出は想定される幾つかの未来を踏まえた上で、せめてもの心遣いなのだろう。 ミルフィーナは静かに瞑目すると口を開いた。 「それではヴィルヘルム主席枢機卿に伝言をお願い致します」============================================================
2010/07/09
やっと部分推敲で済むようになりました(汗)まぁ、暫くして見直すとココも直したくなるのでしょうけどね……============================================================光ノ章_01-05【残光】============================================================【改稿/ラールウェアの再生能力】 屍族の少女はまるで何事もなかったかのように微笑んでいる。 その細首から致命傷とも思われた刀傷が消え去っていた。 いや、首元に僅かに残る血線の跡だけが、先程の斬撃が夢や幻でないことを物語っている。↓★推敲★↓ ラールウェアはまるで何事もなかったかのように微笑んでいた。 致命傷と思われた刀傷も首筋にうっすらと走る血線を残すのみだ。 紅のドレスに浮ぶ黒い斑点だけが先程の斬撃が夢や幻でないことを物語っている。============================================================【加筆/元老院とオルカザード家】 それは、オルカザード家が聖剣戦争に於いて人間と屍族、そのどちらにも組することなく中立を貫いたこととも無関係ではないのだろう。 当時、教会との間に不可侵の密約が取り交わされていたのだと邪推する者も多い。 確かに元老院の頑ななまでの態度もそう考えれば頷ける。↓★推敲★↓ それは、オルカザード家が聖剣戦争に於いて人間と屍族、そのどちらにも組することなく中立を貫いたこととも無関係ではないのだろう。 当時、教会との間に不可侵の密約が取り交わされていたのだと邪推する者も多い。 果てには、同家の持つ不死の秘術を欲した古老たちの独断だという噂もある。 確かに元老院の頑ななまでの態度も、そう考えれば頷ける話だが、どれも憶測の域はでなかった。============================================================【改稿/ミルフィーナの心理描写の変更】 戦うにしてもシャルロットを庇いながらでは限界がある。 「(ならば逃げるか?―――いや)」 この少女は追い詰められた獲物を易々と逃がす性格には到底思えなかった。 シャルロットの身を案じればこそ余計に身動きがとれないミルフィーナ。 自分の決断がこの場の趨勢ばかりか、シャルロットの命まで危険に晒すことに繋がるのだ。 下手に動けるわけがない。↓★推敲★↓ ミルフィーナが苦しげに呟く。 戦うにしてもシャルロットを庇いながらでは限界があった。 それに目の前の屍族には獲物を追い詰めて楽しんでいる節があり、逃走を計るにも危険が大きい。 シャルロットの身を案じればこそ余計に身動きがとれなかった。 自分の決断がこの場の趨勢ばかりか、守るべき命まで脅かすことに繋がるのだ。 下手に動けるわけがない。============================================================【改稿/ラールウェアとミルフィーナ】 つかつかと無造作に近づいてくるラールウェア。 ミルフィーナは苦しげに舌打ちをする。 もはや逃げることは不可能と判断し、シャルロットを背後に庇うように長剣を構える。↓★推敲★↓ ラールウェアの纏う殺気が膨れ上がる。 ミルフィーナは苦しげに舌打ちをすると、無造作に近づいてくる屍族少女からシャルロットを庇うように長剣を構えた。============================================================【改稿・加筆/教皇の最期の足掻き】 フォン=バレル3世は喉奥から絞り出すように途切れ途切れに言葉を綴る。 その双眸は深い悲しみと絶望を宿していた。 教皇はミルフィーナと目が合うと、最後の力を振り絞るように小さく右手を振る。 何か小さな塊が床の上を転がる。 それはラールウェアの足元で止まり―――屍族の少女は目を見開く。↓★推敲★↓ フォン=バレル三世は喉奥から絞りだすように途切れ途切れに言葉を綴る。 その双眸は深い悲しみと絶望を宿していた。 「聖下……」 ミルフィーナの胸を抉られるような痛みが走る。 教皇は女騎士と目が合うと、最後の力を振り絞るように小さく右手を振った。 何か小さな塊が床の上を転がる。 それはラールウェアの足元で止まり―――屍族の少女は目を見開く。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/07/08
※続きですフリーページで差し替え済みです。ラールウェア関連の描写を細々と変更致しました。あと、半端にヌギヌギ描写を追加(笑)ヤルならヤルでもっと派手に冒険しないと駄目だと思う今日この頃。============================================================光ノ章_01-04【蠱毒】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 「なにを……する気だ」 フォン=バレル三世が掠れた問いを吐く。 ラールウェアは笑みを絶やさぬままに、右手の親指と人差し指を蠢く腫瘤の中に突き入れた。 そして痙攣する教皇の体内で指先を数回動かすと、小さな塊を摘みだす。 「これは千年壺毒(蠱毒)と呼ばれる太古の秘法によって生み出された黒死蝶の幼体」 “ソレ”は細長い体をくねらせると後部に開いた気門から赤黒く変色した液体を噴出する。 分泌液には粘着性があるようで屍族少女の指先を淫らに彩っていた。 ラールウェアは愛おしげに黒死蝶の幼虫を見つめると、 「黒死蝶は摂取した栄養を糧に浸潤と変異を繰り返す内部寄生虫なんだよ。 老化した細胞や破壊された肉体を飽食し、それを正常な組織に作り変えてくれる。 この子達が宿主に齎す高い恒常性機能は、限りなく不死に近いと謳われる大屍族と同等かそれ以上かもね♪」 ラールウェアは禁じられた知識を得意げに語る。 「余を……謀ったのか?」 「人聞きが悪いよ。 そもそもアタシはおっさんの血なんて吸うつもりはないの。 それに別の手段でも、あの時死の淵にあったキミの命を救ったことに変わりはない筈だよ」 ラールウェアは手の甲に穿たれた咬傷をペロリと舐めると更に続ける。 「まぁ、死黒蝶の主従関係に、ここまで強い肉体的精神的な相互干渉があったことは計算外だったけどね。 女王の営巣を護ろうと、幼体が己の宿主を攻撃するなんて美しい話だと思わないかな?」 ラールウェアは感心したように何度も頷いている。 「……女王だと?」 ファン=バレル三世の乱れた鼓動に呼応して喰い破られた腹部から赤黒い濁流が溢れだす。 皺のよった額には脂汗に塗れた白髪が張りついていた。 「特別に見せてあげる♪」 ラールウェアは僅かに身を屈めると、真紅のドレスの胸元の釦をゆっくりと外していく。 幼い双球から肋骨のカタチが浮きでた胸板にかけて蒼白い肢体が露になった。 「なっ!?」 絶句するフォン=バレル三世。 少女の肉の内側を透けるように漆黒の影が流動していた。 「女王はアタシのなかにいる。 死すべき定めとして生まれた赤子―――先天性の異常体だったアタシに施された延命処置ってところかな」 ラールウェアは茶目っ気たっぷりな表情でにんまり微笑んだ。 そこに自己の生立ちや運命に対して悲観した様子はまったくない。 「と、いうわけで……邪魔者も消えたことだし、やっぱり味見しちゃおうかな♪」 ラールウェアは待ち兼ねたように昏倒したシャルロットへと興味を戻す。 だが、不意にその笑みに亀裂が走り―――血煙が宙を舞う。 「あえ?」 ラールウェアは不思議そうに己の顎下に突きでた切先へと視線を落とす。 それは屍族少女の後頭部から前頸部までを横断した長剣の先端であった。 半ばまで断ち切られた細首から壊れた噴水のように血が溢れだしている。 「シャルロット様! ご無事ですか!?」 ミルフィーナは崩折れた屍族少女の喉元から愛剣を抜取ると、横たわるシャルロットへと一目散に駆け寄る。 「霊環が……」 ミルフィーナは霊環の喪失を目の当りにして暫し愕然とする。 だが、その当惑を振り払うように頭を左右に振ると、シャルロットの首筋に手を伸ばす。 「……よかった」 ミルフィーナは鼓動の有無を確認して深い安堵の息を漏らした。 「うわっ、血だらけじゃない。 お気に入りのドレスだったのにどうしてくれるの!!」 無邪気な声がミルフィーナの背筋を氷柱の如く走り抜けた。============================================================
2010/07/07
「改稿・加筆・削除」がほぼ全体に及び、個別に推敲経緯を載せるのが困難な為、【蠱毒(推敲版)】も全文載せますです(汗) ※半角一万文字オーバーしたので二つに分けます。============================================================光ノ章_01-04【蠱毒】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 「ふ~ん……これがアシュタリータ? でも、思ったより普通っぽいね」 ラールウェアは手中の霊環を物珍しげに弄り回す。 「どうかお気をつけください。 霊環アシュタリータは別名“聖霊環"とも呼ばれ、アルジャベータの遠き子孫でもあるアダマストル王家に代々伝わる秘宝。 そして、女神メナディルがこの世界に残した遺具【神剣アンネ・シュティフ】【聖鎧アリグノートス】と並ぶ3神具のひとつでございます」 フォン=バレル三世はラールウェアの軽薄な振舞いを軽く諫める。 「そして、女神を再臨させる呼び水としての霊具であり、死者を甦らせる反魂の力を秘めているでしょう?」 ラールウェアが嬉々とした表情でその言葉を継いだ。 「仰せの通りです」 フォン=バレル三世は忠節を保ちつつ慇懃そうに頭を垂れる。 だが、ラールウェアの関心は霊環そのものにはないらしく、移り気な視線は間近に横たわるシャルロットへと向けられた。 「ねぇねぇ……コレ、もう必要ないならアタシにちょーだい♪」 ラールウェアの少しつり上がった紅瞳にねっとりとした好色が混じる。 「この娘には先程、口約束とはいえ身の安全を約束しております。 それを違えるのはオルカザード家のご尊名を穢すことになりますぞ」 シャルロットの身の保全はファン=バレル三世が持ち出した提案である。 ラールウェアには直接の関係はないのだが、屍族元来の高い自尊心を刺激するには丁度よく思えた。 更にフォン=バレル三世は畳み掛けるように続ける。 「なにより、この娘はアダマストル王室がそれと認めている以上、実質的にも形式的にも、なんの問題もなく女帝制度たるアダマストルの次期女王となる存在。 徒らに害することは得策とは思えませぬ」 何処の馬の骨ともわからぬ人間を王座に据えるほどアダマストルの王室が愚鈍であろう筈もない。 軽率な行動は、教会と公国との間に禍根を残す可能性が高かった。 フォン=バレル三世が望むのは世界の調和であって混乱ではないのである。 「う~ん……」 ラールウェアは諦めきれないように人族の少女に未練がましい視線を送っている。 「どうかご自重なされるよう。 事の成就を計る上での已む無き犠牲には目を瞑りましょう。 ですが、罪無き者を無用に殺生することあらば、これ以上の協力は致しかねますぞ」 フォン=バレル三世は再度強い口調でラールウェアに制止を促した。 「ぶー。 下僕の分際でアタシに命令する気?」 ラールウェアの冥く輝く紅玉眼にあからさまな殺気が混じる。 フォン=バレル三世は臆することなくその眼光を真っ向から受け止めた。 息を呑む緊張感がその場を支配する。 だが、意外なことに一触即発の空気を断ち切ったのはラールウェアの方だった。 屍族少女はフォン=バレル三世の頑なな態度に肩を竦めると、 「あ~あ……めんどくさー。 もう、勝手にしたら」 投やりといった態でそっぽを向いてしまう。 「ご理解頂き重畳でございます。 霊環の紛失に関しては、聖女の偽者を仕立て上げた聖アルジャベータ公会、もしくはアダマストル王家が進んで隠蔽してくれましょう。 この娘もここであったことを口外する程、愚か者ではありますまい。 ことが公になることは、己の身の破滅を意味しますからな」 フォン=バレル三世は意識を喪失したシャルロットを軽々と抱えあげると、祭壇の上に壊れ物を扱うように横たえた。 「それで、ラールウェア様……。 事が成就した暁には件の約束をお忘れなきよう」 フォン=バレル三世は祭壇上で胡坐をかいたラールウェアに期待を籠めて訊ねる。 「そんなにアタシの血が欲しいの?」 ラールウェアは悪戯っ子めいた微笑みを浮かべると、フォン=バレル三世の眼前に蒼白い繊手をひけらかす。 「はい、我が大願には必要なことでございます」 フォン=バレル三世はラールウェアの眼前で跪くと重々しく言った。 「生来から夜の眷属ではない半屍族は、自己を屍族化させた主の血を飲むことにより、完全な屍族となる―――そう、聞き及んでおります」 「いいよ♪ 飲んでも。 でも……後悔しても知らないよ?」 ラールウェアが意味ありげに微笑む。 「もはや後戻りなど出来よう筈もなく、それを望むこともありませぬ。 それに毒を食らわば皿までとも申します。 お許しとあらば喜んで受けさせて頂きます」 フォン=バレル三世は刹那の逡巡を断ち切ると、差し出された冷たい手をとる。 それは聖誕祭でシャルロットと交わした光景そのままであった。 「ん……」 屍族であっても恐怖を感じるのかラールウェアの口唇が僅かに震える。 フォン=バレル三世は屍族少女の細腕から伝わる震えをそう解釈した。 そして、剥き身の乱杭歯が白い肌に喰いこみ、 ―――絶叫が祭壇の間に響き渡る。 フォン=バレル三世はもつれる両脚をどうにか支えると、口元を押さえ低く呻く。 節くれ立った手指の間から赤黒い液体が染みでる。 「プ、アハハハ……。 やっぱりそうなるよね♪」 そこにラールウェアの押し殺した笑い声が混じった。 「グ、ガァアアァァァ」 再度、フォン=バレル三世は食いしばった歯の間から軋むような苦鳴を響かせる。 身体を九の字に折り曲げると、首だけを傾けてラールウェアを見上げる。 魂さえ凍りつかせるような凄まじい形相であった。 「こ、これは……、どういう……こと、だ」 「アタシのかわいい子供たちが怒っているんだよ♪」 ラールウェアが氷の微笑を浮かべる。 フォン=バレル三世の全身に次々と腫瘍のようなものが浮かび上がり、鈍い破砕音が室内の闇を震わせた。 「被検体としてのキミの役目はおしまいかな」 ラールウェアは足元で這い蹲るフォン=バレル三世の身体を蹴り上げる。 破れた教皇衣の下で剥きだしになった腹部に、醜く腫れ上がったこぶし大の肉腫があった。============================================================
2010/07/07
※続きですフリーページで差し替え済みです。いろいろと酷すぎて……挫けそうです(涙)誤字脱字や文脈の整合性が低すぎて、書き直したほうが楽な気がする今日この頃です。まぁ、キリがないので先に進みますが……============================================================光ノ章_01-03【呪夜】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ フォン=バレル三世の言葉に呼応して、場の空気が変貌した。 教皇の足元から伸びた影が獲物を狙う大蛇を形象化するように螺旋を描きだす。 その渦に祭壇の間を彩る血液が呑み込まれ収束していく。 何か奇妙な芸術のように見えざる技巧によって、それらはひとつのカタチへと練り上げられ――― ひとりの少女として具現化した。 薄闇のなかで、真っ赤なドレスが音もなく揺らぐ。 「いつまで待たせるつもり? さっさとそのニセモノから霊環を奪い取っちゃってよ♪」 無邪気な子供のような声がシャルロットの心臓を凍りつかせた。 年齢はシャルロットよりも幾許か幼く見える。 流れるような銀髪にすらりと伸びた細い手足。 蒼みを帯びた白い肌はこの世のものとは思えないほど幻想的な輝きを放っていた。 まるで夜の妖精のような少女。 しかし如何に美しかろうとそれは人間の持つ美しさではない。 あどけない表情をみせる唇がつり上がり、そこから覗く一対の乱杭歯。 隠そうともせずに屍族たる本性を剥き出しにしている。 元は人間であるフォン=バレル三世とは根本から違う。 魂から闇に染まった存在であった。 「ラールウェア様……我が主よ。 出来うる限り事を大袈裟にはしたくないのです。 理由を話せばきっと聖女殿にもご協力頂ける筈ですぞ」 「ふーん。 人間の価値観はよくわかんない」 ラールウェアと呼ばれた少女は、ふわりと祭壇に飛び乗ると不服気に呟いた。 フォン=バレル三世は苦笑すると、改めてシャルロットに向き直る。 「聞いての通り無駄話をしている暇はないようだ。 我が主が霊環アシュタリータを欲しているのだ。 素直にご提供頂ければ身の安全は保障しましょう」 「うんうん♪ アタシにはその三神具のチカラがどうしても必要なの」 ラールウェアが賛意を表して横合いから口を挟む。 屍族少女の指先はシャルロットの首元で鈍い輝きを放つ霊環を指していた。 「この霊環はわたしが聖女である証。 おいそれとお渡しするわけにはまいりません」 シャルロットの精神を恐怖が鷲掴みにしていた。 しかし、聖女としての尊厳までは縛られてはいなかった。 「アハ♪ でもシャルロットちゃんは聖女でもなんでもないんだよ」 ラールウェアがシャルロットの矜持を揶揄する。 「なにを言って……」 吹きつける毒気にあてられて言葉を失うシャルロット。 「純然たる聖女の生血は屍族にとっては毒酒に等しいものだ。 そして、その真偽は先の聖誕祭で予自身が確かめておる」 「―――っ!?」 シャルロットの脳裏に甦る忌まわしき光景。 屍族に血を吸われた生物は夜の眷属となり、主に従属・隷属を強られる。 吸血した屍族の格の違いにより程度の差こそあるが、そこに例外はない。 シャルロットの動揺を見透かしたようにフォン=バレル三世が更に続ける。 「そちらの不安は杞憂に終わろう。 生来の屍族ではない予に他種族を屍族化するほどの力はない。 だが、僅かなら強制力を発揮するようだ。 貴女がここにいるのもそういった“力”の賜物であるのだろうな。 貴女の周囲には邪魔者も多く、容易に近づくことは出来ぬ故、有効利用させて頂いたわけだ」 フォン=バレル三世が提示した真実は、シャルロットには受け容れ難く、そして突拍子も無いものだった。 渇いた喉に舌が張り付いて、シャルロットは巧く言葉がでない。 唾を飲み込むことさえ困難だった。 「わ、わたしは……シャルロット・アルジャベータ・リュズレイです。 それ以外の何者でもありません……」 シャルロットは下唇を強く噛むと、消え入るような声でそれだけを口にする。 「予にも紛いものである貴女が、どのような経緯で聖女として育てられたのかはわからぬ。 それは貴女自身で確かめればよかろう」 「う、嘘です」 シャルロットが血の滲むような声で否定する。 信じたくない、いや信じられるわけがない。 だが、フォン=バレル三世が進んで偽りを述べる理由もわからない。 なにより、事の成否を確かめる術がなかった。 「我々には貴女が何者であろうと関係は無い。 だが、貴女が聖女ではないという事実は枢要である。 その霊環は聖女を縛る呪具、聖女の資質を所持する者が身に着けている限り何者にも外すことは叶わぬからだ」 フォン=バレル三世は呆然と立ち尽くすシャルロットに音も無く近づく。 「如何に信じられなくとも、これは紛れもない事実」 フォン=バレル三世は冷たい指先をシャルロットの頼りなげな両肩に置く。 そのまま身悶えする可憐な肢体を苦もなく床の上に押し倒していた。 床に広がる血だまりから血潮が跳ね純白のドレスに赤い華が咲く。 「何をするのですか―――放してっ……」 シャルロットは必死に抵抗するが、その身体はフォン=バレル三世によって完全に組み敷かれてしまう。 吐き出される生臭い息が顔にかかり少女は眉を顰める。 「失礼を。 だが、貴女に霊環を手放す意志がない以上、多少扱いが手荒になることは許していただきたい」 皺だらけの骨ばった手指が、剥き出しになったシャルロットの首元に触れる。 白い柔肌に一斉に鳥肌が立ち、張り詰めていた糸が切れたように少女の身体から力が抜ける。 シャルロットの意識は暗闇のなかに落ちて消えた。============================================================
2010/07/05
「改稿・加筆・削除」がほぼ全体に及び、個別に推敲経緯を載せるのが困難な為、【呪夜(推敲版)】も全文載せますです(汗) ※半角一万文字オーバーしたので二つに分けます。============================================================光ノ章_01-03【呪夜】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 「如何されましたかな?」 振り向いたフォン=バレル三世が怪訝に眉を顰める。 教皇の視線の先には、跳開橋の手前で立ち竦むシャルロットの姿があった。 「い、いえ……なんでもありません」 シャルロットは意を決すると足早に橋桁を渡る。 「ふむ、やはりまだ“チカラ”が足りぬか……」 フォン=バレル三世はシャルロットの不安定な様相を見咎めて、秘めやかに独り言つ。 両者が搭側の石露台へ辿り着くと、まるで訪れた獲物を誘い込む顎の如く巨大な鉄扉が開口する。 「では、参りましょう」 フォン=バレル三世の姿が塔の内側に消える。 一瞬の躊躇の後、シャルロットも後に続いた。 塔内部を照らす光源は、上方へと続く石段の側壁に備え付けられた燭台の明かりだけである。 一定の距離を置いて踊る蝋燭の炎が、祭壇が座す最上階へと誘う道標となっていた。 カツン――カツン――…… 静寂の空間にシャルロットの靴音だけが反響する。 そこにフォン=バレル三世の足音が混じることはない。 シャルロットはまるで死刑台への階段を上る囚人のような心持に陥る。 それにずっと誰かに見られているような気がしてならなかった。 無論、辺りを見回してもそのような人影はない。 得体の知れない恐怖に乾いた喉、じっとりとした冷たい汗が少女の額に滲んでいた。 「ふぅ」 シャルロットはゆっくりと息を吐くと、胸元で聖印を切ってそれらの雑念を払拭しようと努める。 更に石段を上り続けると、いつしか少女の靴音に別の音が混じり始める。 ―――ピチャ……チャ 空耳や幻聴の類ではない確かな質感を保った響き。 それは何か液体の様なモノが垂れ落ちる音であった。 そして、律動を刻む音色の発生源が目と鼻の先に迫った時、不意に螺旋を描き続けた石段が途切れる。 正面の闇の中にぼんやりと両開きの扉が浮かび上がっていた。 「……っ!」 シャルロットは口元に手巾帯を当てると、数回唾を飲み込む。 なにかが腐ったような臭いが鼻を突く。 フォン=バレル三世が真鍮製の把手を押し込むと、重厚な両扉は苦鳴みいた軋みを響かせながら内側へと開いていった。 途端に先程とは比べ物にならない強烈な臭気がシャルロットを襲う。 「なに……コレ……?」 シャルロットの瞳が驚愕に見開かれていた。 口元を手巾帯で塞いでいなかったら、悲鳴を上げていたに違いない。 祭壇の間の内壁には悪趣味な絵画のように紅い斑模様が走っていた。 床には引き千切られた内臓や肉片が散乱している。 どのような力を加えればこのような惨状になるのかシャルロットには見当もつかない。 「どうぞお入りください」 フォン=バレル三世が平然と促す。 シャルロットは後退ろうとする両脚を鼓舞して、どうにかその場に留まっていた。 「……聖下、これはいったい?」 出来るだけ室内の状況を見ないようにフォン=バレル三世に問い掛ける。 「これはお目汚しを、聖女殿には些か刺激が強すぎたようですな」 フォン=バレル三世は祭壇の間の中央に座す祭器台へと歩み寄ると、赤黒い液体がなみなみと注がれた玉杯に手を伸ばす。 「人間の血にはまだ抵抗がありましてな。 こうして食用として飼われている家畜の血で渇きを癒しているのです」 フォン=バレル三世が玉杯を掲げると、そこに紅い波紋が生じた。 シャルロットが弾かれたように天井を見上げる。 「―――ヒッ」 声にならない悲鳴を上げるシャルロット。 天井付近に巨大な丸籠がぶら下がっており、四肢をもぎ取られた様々な獣の生首が詰め込まれていた。 「……酷い、どうしてこんな惨いことを」 シャルロットは双眸に涙の雫を滲ませると、震える声で訴えかける。 「これは異なことを。 生きる為に糧を必要とするのは“貴女たち人族”も同じ筈ですぞ」 フォン=バレル三世は悪びれた様子も無く論じた。 一方、シャルロットは絶句していた。 フォン=バレル三世は今なんと言ったのか? 確かに、聞き紛うことなく“貴女たち人族も”と口走っていた。 それはまるで自身は人族ではないと示唆するような言い草だ。 「屍族―――」 シャルロットは目の前の人物から発せられる違和感の正体に気づく。 左手の咬痕が熱をもって疼いていた。 「ようやく気づかれましたか」 フォン=バレル三世の両眼に僅かな燐光が燈る。 「どうして……?」 「世界は不完全すぎるのだ。 聖人や賢人がどのような理想を唱えようとも、人間の本質はなにも変わりはしない」 フォン=バレル三世はシャルロットの疑問には答えず、静かな声音でそう零した。 「世の中に完全なものなどありませんわ。 それに―――」 シャルロットは表情を強張らせると、胸に溜めた心情を吐露するように続ける。 「それに、人は変われます……。 多くの人が望めば世界だって変えられる筈です」 それは定められた一生を歩むことを運命付けられた少女の衷情でもあった。 「確かに聖女殿の意見は正論だ。 そして気高き理想でもあるのだろう。 だが予は絶望したのだよ。 メナディエル正教を統べる教皇座に就き、信徒に賢聖と讃えられても、予が成したことなど刹那の灯火のようなものだ。 依然として権力者は“古き利権”にしがみつき、旧態依然とした体質はどのような手段を講じても絶やすことは出来なかった。 なまじ改革が成されたところで、支配者とその代弁者たちは自己を正当化し、新たな既得権を生み出し続ける。 無知な民はそれを否定する知恵を持たず、半ば理解できても抵抗する力など到底持ち得ない」 言葉が重なるごとにファン=バレル三世の顔から表情が消えていく。 「聖下は弱き者を助け、教会内に蔓延した悪しき風習を断つ為に様々な改革をお進めになりました。 そして今も聖公会と白十字教、対立する二大宗派を融和へと導かれようとご尽力なさっておられます。 それは聖下の理想ではないのですか?」 シャルロットの感傷にもフォン=バレル三世は静かに首を横に振った。 「だが、それも予の意志を継ぐべき者が絶えれば易々と水泡に帰すだろう。 人は弱く容易に欲望に屈する。 世界を正しく導く為には永久に変わらぬ意志を持った存在が必要だ。 そして、それは死すべき定めの者には勤まるまい」 「だから屍族になられたと仰るのですか? 不死を得て世界を変えるために?」 シャルロットの硬く強張った表情に、困惑の影が差す。 「勘違いをされては困る。 世界を変えるのは予ではない。 予はそれを見届ける為に不死となったのだよ」============================================================
2010/07/05
※続きですフリーページで差し替え済みです。============================================================光ノ章_01-02【古怪】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ ・ ・ ・ 聖宮の回廊には美術史において計り知れない価値を宿した巨大な絵画が一面に飾れていた。 シャルロットは好事家垂涎の光景に心を奪われることも無く、前を行くフォン=バレル三世の大きな背中を見つめ思考する。 フォン家の長子であったグランディエは、教皇位を継承するとフォン=バレル三世と名を変え、善政に努めた。 清廉潔白で贅沢を嫌い、教皇庁に蔓延る古き悪習の撤廃を推進する姿は歴代教皇の中でも屈指の聖人であった。 しかし即位後、僅か二年で彼は病に倒れる。 病床から療養の合間に職務を遂行するという状態が長く続いた為に、心身に負担の掛かる長時間の式典などには代理を立てることが多かった。 近年、その病状は悪化の一途を辿り、近しい者達の間では余命幾ばくもないと専らの噂であった。 故に此度の聖誕祭も教皇が担う斎行については代理が立っていた。 しかし、周囲の心配や危惧を一掃するようにフォン=バレル三世は姿を現した。 絢爛たる装いに確かな足取り、その両眼には強き意志を宿していた。 死に直面している人間とは到底思えない堂々たる様子に、誰もが驚きを禁じえなかった。 しかし、民衆から賢聖とまで称された現教皇の健在ぶりはメナディル正教にとっても明るい材料でもあった。 特に改革派の聖職者達は、さぞ安堵の息を漏らしていたことだろう。 シャルロットもフォン・バレル三世の温厚な人柄には少なからず好感を持っていた。 だが左手の傷口から伝わる鈍痛が彼に対する警戒と同時に、この人物には逆らってはならないという根源的な恐怖を少女の心に植えつけていた。 「なにかご心配がお有りですかな?」 前を向いたままフォン=バレル三世がシャルロットに語りかけてきた。 その声には少女の心裡を覗き込もうとする意思が感じられた。 「い、いえ……」 シャルロットが言いよどむと、フォン=バレル三世はそれ以上の追及はしてこなかった。 更に歩を重ねると、地理に疎い人間では気づかぬまま素通りしてしまうであろう黒曜石の小さな階段が横合いに連なっていた。 それを上まで登りきると、東外回廊にでる。 夜の帳が完全におりて、空中庭園に咲き乱れる花々のいっそう熟れた香りが、外壁の風に運ばれて辺りに漂っていた。 静寂が周囲を包み込み、外の冷たい空気がシャルロットの肌を撫でる。 教皇領はバールペオル大陸の北東に位置するソウルガイス諸島群でも絶壁の断崖に囲まれたルブリス島に存在する。 標高が高い為に、平地では残暑を感じられる今の時期も夜になればかなり冷え込んだ。 「あれが水晶の搭……」 シャルロットの声が驚愕に掠れる。 少女の目前に天を貫くような強大な石の塊が姿を現していた。 遠目に見ても美麗な佇まいであったが、目近にすると更に圧倒される。 外壁は水晶細工技術の粋を集めて造られた美麗な黒水晶の層で覆われていた。 それがこの宝塔が“水晶の塔”と呼ばれる所以でもあった。 だが、シャルロットは塔へと至る回廊棟を歩みながら、どこか釈然としない予兆めいたものを感じていた。 ここに来るまでに護衛官どころか、聖宮内の誰ともすれ違っていない。 まるで意図的に用意された無人世界に迷い込んだ登場人物のように、少女は心許なげに表情を曇らせていた。 水晶の塔は外部から完全に隔離されている。 塔への入り口は地上にはなく、聖宮の東外回廊から塔の四階部分に設置されている鉄門へと跳ね橋を降ろして渡るしか方法はない。 しかし、そこに橋守の姿はなく―――その必要も今はない。 目的地と至る跳ね橋が既に降りていたからだ。 シャルロットはこの舞台から降りる術を完全に失っていた。============================================================
2010/07/03
「改稿・加筆・削除」がほぼ全体に及び、個別に推敲経緯を載せるのが困難な為、【古怪(推敲版)】も全文載せますです(汗) ※半角一万文字オーバーしたので二つに分けます。============================================================光ノ章_01-02【古怪】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 「ファティマ様はお母様をご存知なのですか?」 シャルロットの意識の深層から亡き母親の記憶が浮かび上がる。 しかし、それは少女が成長するにつれて靄がかかったように不確かな姿へと変貌していった。 次第に少女の心の奥底に封じ込められていた澱みが意識の表層に漂いだす。 それは―――赤 視界が紅く染まる。 生臭い匂いが鼻を突く。 撒き散らされた血液が全てを斑に彩っていた。 転瞬、シャルロットの視界がぐらりと揺らいだ。 「シャルロット様!?」 ミルフィーナがよろめくシャルロットの身体を背後から支える。 「……ごめんなさい、大丈夫です。 それよりもお母様の話を聞かせてください」 エレシアム・リュズイレは十二年前、公国の第二王女を出産して間も無く失踪する。 それから一年後、辺境修道院の火災現場で彼女は発見された。 当局から異端の嫌疑が掛けられ、その監視下に置かれたエレシアムは、幽閉された牢獄内で流行り病に犯されて最期を迎えた。 それがシャルロットの知る全てである。 エレシアムに関しては誰もが口を閉ざし、それ以上のことを知る術はなかった。 だが、ファティマ・イスは教会に於ける異端審問の全てを司るイス家の人間である。 エレシアムが異端者の烙印を捺されたのならば、シャルロットが知り得ぬ“何か”を存知していても、なんら不思議はなかった。 「今は止めておきましょう」 ファティマ・イスはシャルロットの複雑な心裡を知ってか知らずか、やんわりとその申し出を断る。 「で、でも……」 尚も食い下がろうとするシャルロット。 しかし、ファティマ・イスは無言で首を横に振ると、 「いずれ時が来ればお話することになるでしょうから。 なにより―――」 ファティマ・イスがシャルロットの背後へと目配せする。 少女の肩越しに貫くような厳しい眼光が女枢機卿へと向けられていた。 「それを望んでおられぬ方もいらっしゃるようですしね」 ファティマ・イスが肩を竦めて苦笑する。 淡い期待が焦燥と落胆へと変わり、シャルロットは舌を噛みそうな心持でうな垂れていた。 「聖女殿の母君のことならば余も僅かだが記憶しておる。 他愛無い雑談で構わなければ話して進ぜよう。 如何かな?」 だが、思わぬ方向から助け舟が出された。 一瞬、シャルロットの顔が期待に明るく輝くが、それはすぐに仄かな動揺へと変わる。 「……ですが」 シャルロットが口篭る。 先の聖誕祭での出来事が脳裏を掠めたのだろう。 少女は左手を庇うように胸元へと抱き込んでいた。 「子が親の姿を追い求めるは真理。 なにも遠慮することはない。 それに余がここに参ったのは、聖女殿を“水晶の塔”に招待する為。 そこでなら余計な邪魔も入るまい」 ファン=バレル三世の双眼が怪しく輝くと、シャルロットの紅玉眼が暗く濁る。 「……はい、確かにお話を承りました」 シャルロットがぼんやりと応える。 左手に穿たれた傷口が熱をもったように疼き、正常な判断力を奪っていくようだった。 「お待ちください」 それまで押し黙っていたミルフィーナが声を張り上げる。 場の成行きから察すれば、十分我慢したほうであろう。 女枢機卿との無言の遣り取りから察しても、この女守護騎士団長がエレシアムの過去を知った上で、シャルロットに伏せているのは明らかであった。 「聖下、シャルロット様は先程からお体のご様子が優れません。 どうか私奴の同行をご許可ください」 それがミルフィーナに譲歩できる限界である。 いざとなれば力ずくにでもシャルロットを連れ帰る算段であった。 聖アルジャベータ騎士団はメナデェルの信義を旨とする。 だがその忠誠は全て聖女の血縁者へと向けられていた。 ミルフィーナは教皇の思惑に顧慮するつもりはないようだ。 「ミルフィーナ・ド・グラドユニオン、言葉を慎みなさい。 一介の騎士風情が聖下のご意思に背反するなどあってはなりませんわ」 シャルロットはきつい口調でミルフィーナを嗜める。 それはミルフィーナの行き過ぎた発言を庇う意味でもあったのだろう。 「シャルロット様……、しかし―――」 ミルフィーナもシャルロットの言葉に含まれる真意を理解していたが、守護役としての義務感、いや、彼女自身の衷心がそれを嚥下させなかった。 「それにわたし自身も聖下にお伺いしたいことがあります。 だからフィーナはなにも心配せずに待っていてください」 シャルロットも姉のように慕うこの女騎士の性格は良く心得ているようだ。 敢えて少しずつ言葉を重ねることで説得しようと試みていた。 「それは罷りなりません。 私奴もお供させて頂きます。 我ら守護騎士団にとって聖女の血脈をお守りすることは唯一無二の聖務故」 だが、シャルロットの予想を上回る程に、ミルフィーナは武人特有の石頭であった。 「ミルフィーナ卿、水晶の塔は聖下ご自身でさえ護衛を伴うことを許されてはいません。 それは裏を返せばそこに危険がないことの証明でもありますわ」 見かねたファティマ・イスが二人の遣り取りに口を挟む。 水晶の塔はこのアレシャイムで最も天に近い場所。 教皇が女神メナディエルの信託を授かる聖域である。 そこは古より教皇位を世襲するフォン家の人間以外の立ち入りは原則禁じられている。 「それとこれとは関係ありません」 こうなってはミルフィーナは一歩も退かない。 頑固なのか実直なのか決して自己の意見を曲げようとはしなかった。 融通の利かない護衛役を前にして、シャルロットは大きなため息をつく。 仕方なしに、少女は最終手段を講じることになった。 「フィーナはわたしが礼節を心得ない恥知らずだと陰口を叩かれてもよいのですか?」 シャルロットはミルフィーナの衷情を逆手にとる。 「で、ですが……」 ミルフィーナもそこまで言われては口を噤まざるを得ない。 そして、如何にも口惜しそうに瞑目する 「……わかりました。 ですが、どのような状況においても、常に御身の安全を第一に考えてくださりますよう」 「ありがとうフィーナ。 でも、本当に心配は要りません。 聖下にお話を伺ったらすぐに帰ってきます」 シャルロットは努めて歯切れ良く断言した。 そして口を真一文字に結ぶと、ファン=バレル三世に向き直る。「宜しい、ではさっそく水晶の塔へとご案内致しましょう」 フォン=バレル三世は何事もなかったかのように柔和に微笑んだ。「そう、心配はない」 シャルロットは己に言い聞かせるように小さく反芻した。============================================================
2010/07/03
※続きですフリーページで差し替え済みです。============================================================光ノ章_01-01【神都】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ 「アルストファー様、ご心配をお掛けして申しわけありません」 シャルロットは努めて冷静に言葉を返す。 「いやいや、女神の代弁者たる聖女様にご拝謁賜ること事体、本来なら憚るべきところ。 このような下賤な宴にはご足労頂けぬものとばかり思っておりました」 言葉の内に秘められた鋭い棘。 嘗め回すような視線が少女の身体に絡みつく。 そういった悪意に免疫のないシャルロットは顔を伏せてしまう。 アルストファー・ファージが更にシャルロットを威圧しようと身を乗り出した時――― 「ガザロフオード公王様もご健在でなによりです」 ミルフィーナが二人の間に割って入る。 王族同士の会話に容喙する不遜ともいえる行為であるがミルフィーナは事も無げに続けた。 「聖女を快く思わぬ不心得者達の毒気に中てられたのでしょう。 シャルロット様は体調を崩されております故、続きは僭越ながら私奴が代わりに拝聴させて頂きます」 痛烈な皮肉である。 アルストファー・ファージが白十字教でも強硬派の最先鋒であると知っての発言であるから尚更だ。 彼ら強硬派は聖女の伝承そのものを否定している為、シャルロットは教敵にも等しい存在である。 「ミルフィーナ殿も相変わらずのようですな。 しかし、そのような外敵がいるとして、貴女にそれを阻む術はありますまい。 武芸の嗜みもここでは無用の長物でありましょうからな」 アルストファー・ファージの嘲弄めいた声が響く。 聖宮内部では防衛の関係上、帯剣を認められない。 武器の携帯を許可されるのは教皇直属の聖宮護衛官と正規兵である聖堂騎士団に限られている。 アルストファー・ファージの言葉はそれを指しているのだろう。 「ご高説傷み入りますが、我ら守護騎士団の人間は武器を持たなくとも戦う術を心得ています。 たとえ相手が屍族であろうと須らく撃退してみせましょう」 口元にかすかな笑みを浮かべ、ミルフィーナがやり返す。 事の成り行きを興味本位で見守っていた人々からざわめきが洩れる。 場の空気は一触即発の様相を孕んでいた。 「お二人ともそれぐらいになさいませ」 そこに、たおやかな、それでいて凜とした声が響いた。 声の主を知る者達の中からどよめきが起こる。 人垣が左右に割れると、そこには紅の枢機卿衣を纏った女性が柔和な微笑を浮かべて佇んでいた。 「ファティマ枢機卿……」 アルストファー・ファージは会話に割り込んだ第三者の姿を見咎め露骨に顔を顰める。 「聖下のお膝元でもあるこの聖宮セラフィムガードで、メナディル教徒同士の諍いとは些か関心できませんわね」 ファティマ・イスはここアレシャイムで教皇に次ぐ高位聖職者である枢機卿位にいる人物だ。 異端審問の総てを司る最高顧問でもあり、アアル=セナートと呼ばれるメナディエル正教の原型ともなった教えを崇拝する人間である。 「これは私達の問題で貴女には関係ない。 余計な口を挟まないで頂きたいものだ」 アルストファー・ファージは込み上げる憤りを隠そうともせずに女枢機卿を睨みつける。 「あら、ちゃんと要用はありますのよ。 でも、それはわたくしではなく―――」 突然、周囲が騒然とした空気に包まれる。 ファティマ・イスの言葉に呼応するように、もうひとりの人物が姿を現したからだ。 それを視界に捉えたミルフィーナが弾かれたように片膝をつき頭を垂れる。 「こ、これは……フォン=バレル三世聖下」 アルストファー・ファージの顔が苦虫を噛み潰したように醜く歪む。 一拍遅れて、シャルロットは震える指先で聖印を切った。 少女は肌が粟立つような怖気と共に、左手の傷跡の発する熱が増したように感じていた。 「それとも、カザロフオード公はこれ以上騒ぎを大きくすることをお望みなのかしら?」 ファティマ・イスがこの状況を面白がるような口調で毒舌を振るう。 「くっ……いいでしょう。 ここは聖下のお顔を立てておきましょう」 アルストファー・ファージは忌々しげに女枢機卿を一瞥すると、小さく舌打ちする。 そして、ファン=バレル三世に向けて形ばかりの敬意を払いその場を足早に立ち去った。 「聖下、此度の騒動は私奴の責任です。 如何様な処罰も甘んじて受け入れる所存です」 ミルフィーナはそう陳謝すると実直な態度で再度頭を垂れる。 だが、これに慌てたのはシャルロットだった。 「い、いえ、フィーナは何も悪くはありませんわ。 わたしがもっとしっかりしていればこのようなことには……」 「心配めさるな聖女殿。 余も此度の宴の主賓の気を煩わすような無粋な真似をするつもりはない」 フォン=バレル三世の言葉にシャルロットも落ち着きを取り戻す。 「それにしても、ますますお美しくなられて……。 亡きエレシアム妃殿下もきっとお喜びになられていることでしょう」 ファティマ・イスは一度も微笑を絶やすことなく、そう話を切り出した。============================================================
2010/07/01
「改稿・加筆・削除」がほぼ全体に及び、個別に推敲経緯を載せるのが困難な為、【神都(推敲版)】も全文載せますです(汗) ※半角一万文字オーバーしたので二つに分けます。============================================================光ノ章_01-01【神都】============================================================【改稿・加筆・削除/全文】 ※原文省略↓★推敲★↓ レムギサロス大聖堂に透き通るような歌声が満ちる。 謳い手はアルジャベータ聖誕祭の主賓―――聖霊の血脈に連なるシャルロット・アルジャベータ・リュズレイである。 少女は儀式用の祭祀服ではなく、繊細な刺繍が隅々まで施された純白のドレスを纏っていた。 その姿は場の荘厳な雰囲気と相まって、可愛いというよりも清純な大人の華やかさを醸しだしていた。 歌声が止むと、絢爛たる祭服に完装した教皇フォン=バレル三世が聖女の待つ主祭壇へと身廊を真っ直ぐに歩む。 その入場に伴い中央尖塔にぶら下がる聖者の鐘が荘厳な音色を響かせていた。 「メナディエルの祝福を……」 教皇はシャルロットの目前で跪くと骨ばった指先で複雑な聖印を組み上げた。 そして、差し伸べられた聖女の左手に恭しく触れると、己の唇をゆっくりと近づけていった。 教皇が聖女の左手の甲に接吻してメナディエルの祝福を賜ることで祈りの儀は完遂される。 それは丁度、大聖堂内陣の上天に描かれた聖剣戦争の壁画にもある光景であった。 「―――っ……くっ」 不意に肉を破る鋭い痛みがシャルロットの身体を走り抜ける。 だが、少女の苦鳴は鐘音にかき消され列席者の耳に届くことはない。 押しつけられた口唇と少女の肌の隙間から朱い筋が糸が引く。 異変を察知するものは誰もなく、レムギサロス大聖堂を包みこむ神聖なる祈りは最高潮に達していた。 ・ ・ ・ ここは聖宮セラフィムガードの空中庭園。 式典を終えたシャルロットは目下に広がる神殿都市セラディムを虚ろに見下ろしていた。 夜の帳がおりて、古色蒼然とした街並みは数多の篝火によって彩られている。 それはアルジャベータ聖誕祭に臨む為、大陸各地から訪れた巡礼者たちが燈した燐光であった。 高揚たる余韻に包まれたレムギサロス大聖堂に向かう参拝の列は、今以て途切れる気配がなかった。 「ん……くぅ」 首元を飾る霊環へと無意識に添えた左手から鈍痛が伝わる。 ―――左手に穿たれた2つに傷跡 シャルロットは自分の身に起こったことを未だ理解しきれずにいた。 それはきっと他者に伝えるべき事柄であるのだろうが、なぜかそうする気にはなれなかった。 まるで、己の意識を他者に乗っ取られたような威圧感が少女の心を支配していた。 「シャルロット様……これ以上はお身体に障ります。 どうか聖宮へお戻りくださるよう」 背後から近寄ってきたミルフィーナが気遣いながら進言する。 馬車の一件以来、シャルロットは何処か他者を拒絶するような雰囲気を醸しだしていた。 ミルフィーナの知るシャルロットは俗世間に疎く人を疑うことを知らない。 悪く言えば世間知らずで警戒心に欠けている。 他人に対し不振や疑念を抱かないところはシャルロットの美徳でもあり欠点でもあった。 しかし、今は違った。 少女の心のなかに不可視の壁がはっきりと感じられた。 それを敏感に察知したミルフィーナは心ならずも離れた場所から少女の様子を見守っていたようだ。 「……そうですわね」 シャルロットは手套で左手の傷口を隠すと小さく頷いた。 いつの間にか周囲には石畳を叩く雨音が小さく響いていた。 ミルフィーナも降りだした雨にうたれるシャルロットを見かねて声をかけたのだろう。 ミルフィーナに手を引かれながらシャルロットは漆黒に染まった空を見上げる。 何も無くただただ吸い込まれるような闇―――そこに遮るものもはなにもない。 それは見る者の平衡感覚を奪い、その存在を希薄にさせていくようだった。 漠然とそんな想いがシャルロットを支配していた。 今はただ手のひらから伝わるミルフィーナの温もりだけがシャルロットにとって確かなものだった。 ・ ・ ・ 聖宮の入り口に差し掛ると左右に控えた警備の護衛官が、口々に女神の御名を唱え聖印をきる。 彼らは白十字教側の信徒ではないのだろう。 それはシャルロットに対する敬意の払い方でもわかる。 教皇庁内部の古参者は宗派を超えてメナディル正教そのものに対する敬虔な信者である比率が高い。 それはこの聖地独特の現象でもあった。 宮殿の中央を伸びる鏡の回廊を進むと、祭典・祭事用にと設けられた白の間に到る。 シャルロットは大扉の手前で傍らに退いたミルフィーナを背後に従え、総大理石で造られた白亜の空間に脚を踏み入れる。 八本の巨大な大理石の円柱に支えられた広大な空間、見上げれば神代の叙事詩を象った天井画が彼方へと連なっていた。 その壮大な造りは見る者を常に圧倒した。 聖女の存在に気づいた列席者からざわめきが漏れる。 続けて各国の居並ぶ重臣や廷臣の間から敬虔や奇異など様々な感情が入り混じった視線がシャルロットに向けられた。 ミルフィーナはあからさまに眉を顰めると、主人に不躾な態度を見せる人間を威圧するように端から順に睨みつける。 ミルフィーナと目が合うと皆面白いように目線を逸らしていった。 「フィーナ……お顔が怖いですわよ」 「も、申し訳ありません……」 シャルロットにそう言われると、少し困ったような表情になるミルフィーナ。 「でも、ここは人が多すぎて少し息がつまってしまいそう……」 「はい、主席枢機卿であらせられるヴィルヘルム卿、それと各国の代表各位への顔見せがお済になれば、貴賓室へ退席しても問題はないでしょう」 この夜会は聖女であるシャルロットを労うために開かれたものである。 立場上、宴の主役が顔を見せないわけにはいかなかった。 しかし、華やかな宴に招かれた客人は相当数に上っているようで、この中から目的の人間を捜すのはかなり骨の折れる作業になりそうだ。 「これはこれは聖女様、お姿が見えず心配しておりましたぞ」 横合いから唐突にかけられた声に反射的に振り向くシャルロット。 そこには金銀珠玉で飾り付けられた礼服に身を包んだ痩身の男。 病的なまでに青白い肌に上等の絹糸のように流れる金髪、他者の目を見張らせるには十分な容姿とを兼ね備えた暗い紅眼の持ち主。 男は上体を屈めると、右手を左胸に当てて恭しく一礼をみせた。 ―――アルストファー・ファージ 五公国連合ベルムーテスのひとつガザロフオードの現公王である。 だが、彼は正統なる血脈に連なったガザルフォードの王位継承者ではなかった。 それはその出生に関係する。 前ガザロフオード公が名も知れぬ屍族の娘との間に身篭った子供。 呪われた烙印の下に産み落とされた忌み子。 それがアルストファー・ファージであった。 前公王妃が子宝に恵まれなかった事や、彼自身の屍族に対する凄まじい憎悪が齎した凶運であったのだろう。 彼はガザロフオード公国の国教でもある白十字教の司教達の強い推薦もあり公王となった。 シャルロットもアルストファー・ファージとは幾度か顔を合わせたことがある。 だが彼から漂う鬼気は人間とは明らかに違った存在だと認識せざるを得なかった。============================================================
2010/07/01
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