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※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-03【灯台】月ノ章 2-03【灯台】―ミュークSIDE― 『一度目の鐘の音か……』 『みゅーみゅー!!』 鐘の余韻が残響するミュークの鼓膜にプルミエールの怒声が突き刺さる。 ミュークが背後を振り返ると、復活を果たしたプルミエールが、不規則な回転を続ける歯車の上を器用に踏み込みながら近づいてきた。 その有り余る生命力を僅かでも知能に振り分けていれば、隣国にも名が通る美姫となっていたことだろう。 もっとも、現実では、別の意味で有名である。 『ムカー! プルは子供じゃないですよ!!』 どうやら、地獄耳でもあったらしく、ミュークの繰言を聞き咎めていたようだ。 『そ、そうか、それは悪かったの。 それで、大人なプルミエール嬢に聞き忘れたことがある』 無駄な労力は最低限に止めて、ミュークはさっさと話題を切り替える。 勿論、以降の会話が円滑に進むように、おべんちゃらも忘れない。 『うにゅ、くるしゅーない。 きいてあげないこともないです』 プルミエールの機嫌がわかりやすく反転した。 相手を見下したような言葉遣いも、口調が舌足らずで子供っぽい為か、何処か憎めない。 それは、この少女の発する快活な雰囲気や生来備わった徳望の成せる業であるのだろう。 王族としては得難い資質だが、天才の方と紙一重の頭脳が邪魔をして、理知的対話が成立しない点が厄介である。 『う、うむ。 お主、鐘の音を聞いたのは今が初めてかや?』 『カネ? お金ならお城にたくさんあまってます。 欲しいならあとであげますよ♪』 血税を搾取されるアダマストルの民には聞かせられない台詞だろう。 だが、気前が良い分、私腹を肥やす悪徳為政者よりは、随分とマシかもしれない。 『それは有り難い申し出じゃが、ワチキが云っておるのは、貨幣を指す“金”ではない。 其方の街の教会や学問所などにもぶら下っておった椀型の金属器具のことじゃ』 ミュークはひくつくこめかみを軽く押さえて、会話型方向音痴の思考を是正する。 『うにゅ。 けしからん“カネ”のほうですか!? アレが鳴るせいでプルは、きゅーくつな生活をさせられているのです!!』 意志の存在しない金属の塊が、謂われもなく糾弾されている。 しかし、無機物への助け舟を出すほどミュークも暇ではない。 『うむ、恐らくそのけしからんほうじゃろう。 で、鐘の音を聞いた覚えはあるのかや?』 ミュークは急速に芽生えた徒労感を抑え込み、再度、同様の質問する。 『う~ん……むーうー……ぅ……ぅぅ……はっ!? うに……ん―――』 プルミエールは小首を左右に傾げながら記憶の照合作業に入った。 途中、幾度か全機能を停止しかけてミュークに張り倒されたが、暫くしてポンと手を打つ。 『そういえば、ミューミューが来るちょっと前にも鳴ってましたね』 『なるほどの』 ミュークは軽く息を吐くと、視線を前方へと向ける。 “運命の輪”の少年は、振り子の金属球に腰を下ろして鼻歌を口ずさんでいた。 『この空間の不文律は、個別に適応されておるのかや?』 ―――ボクはそれを“肯定”する。 その子は一足先に時を刻む運命の間に招待されている。 よって、元の世界に戻るための猶予は屍族のお姉さんよりも短いよ 想定はしていたが、ミュークにとって聞きたくもない答えが返ってくる。 要するに、ミュークに残された時間は、プルミエールにとっての限界猶予―――つまり、次の鐘が鳴るまでというわけだ。 『致し方ない。 ならば次で勝負を決するしかあるまいな』 ―――ん? “運命の輪”の少年が怪訝そうに眉根を寄せる。 『これからワチキは奥の手を講じる。 じゃが、今のままではワチキたちに万に一つの勝機もない。 そこで一定の譲歩が欲しいのじゃ』 ―――譲歩? 『其方がプルミエール嬢に対してフェイトリングの不文律を使用しないという確約じゃ』 ミュークはいけしゃあしゃあと言い放つ。 ―――随分な無茶振りだね。 ボクがそれを受け入れる利点はあるの? “運命の輪”の少年は軽く肩を竦めて、首を左右に振る。 『ある。 其方の楽しみが増す筈じゃ。 結果の分かりきった勝負事ほど詰まらぬものはないからの。 加えて、その一度の攻勢で其方を捕らえること適わねば、ワチキが潔く諦める特典付じゃ』 ミュークはここぞとばかりに、一連の会話から伺えた相手の自尊心を刺激する。 “運命の輪”を司る夜の意志が、その姿形通りの人柄であること。 つまり、不確実性を好む子供特有の好奇心の持ち主であることを見抜いていたのだ。 ―――後者は別として前者は確かにその通りだね。 『どうじゃな?』 ―――いいよ、屍族のお姉さんの希望を全面的に受け入れる。 それに、その条件下でもボクを掴まえることは、不可能に近いしね。 その口振り同様、“運命の輪”の少年には余裕の色が窺えた。 『感謝する』 ―――いつでもどうぞ♪ “運命の輪”の少年は片目を瞑ってミュークの返礼に応える。 『では、遠慮なくいかせて貰うとしようか。 プルミエール嬢、覚悟はよいか?』 『にゅにゅ?』 ミュークは傍らに佇むプルミエールの身体を徐に担ぎ上げる。 そして、振り子の鉄球が最高速に到達する半円の下頂点に差し掛かった瞬間、“それ”を無造作に投げつけた。 『ふにゃあぁぁ~ああ……ぁぁぁ~』 ―――なっ!? この行動は流石に想定外だったようで、“運命の輪”の少年は、身体を仰け反らせてプルミエールの短躯をやり過ごす。 『プルミエール・リュズレイ、ここに眠る』 ミュークはわざとらしく瞑目すると、故人に追悼の意を捧げる。 酷い話であった。 ―――まさか、これが奥の手だったのかな? “運命の輪”の少年は頬に汗を伝わせて確認する。 意表は突かれたが、これでは些か芸がない。 『いいや、これからじゃ。 インクル・ノス・クルンよ』 ミュークは人差し指の先を噛み切ると、更に凛として言い放った。 具現化した黄金の輪が、振り子の鉄鎖を巻き込んで対象の自由を束縛する。 ―――ボクの“真名”を!? 跳躍するミュークの姿を視界の正面に捉えた“運命の輪”の少年の顔が驚愕に歪んだ。 ―――ミューク・ウィズイッド! “運命の輪”の少年は、己を縛る円環の解呪ではなく、ミュークの動きを封じることを優先する。 拘束を解いても、捨て身で飛び掛るミュークから逃れる術はないと、瞬時に判断したのだろう。 『ちっ』 掴みかかるミュークの指先が空を掴んだ。 ―――残念。 “真名”を盗み取ったまではよかったけど、詰めが甘かったね 勝利を確信した“運命の輪”の少年が笑みを浮かべる。 ミュークの身体は、後一歩のところでフェイトリングによって空中に縫いとめられていた。 『果たしてそうかな?』 ミュークが不敵に微笑む。 ―――? 心理的余裕を取り戻した“運命の輪”の少年は、その時になってはじめて、周囲の機械音に混じり、たどたどしく呟かれる声の存在に気がついた。 『ぅ……にゅ……れ……ぃ?』 それは、足場の鉄球が振り戻る先、つまり後方から聞こえた。 振り返った“運命の輪”の少年の双眼に、黄金色に輝く円環に拘束されたプルミエールの姿が映り込む。 『ワチキのとっておきじゃ、存分に味わうがよい』 振り子は慣性の法則に従い、半円弧の軌道上に存在する障害物との距離を狭め―――“運命の輪”の少年こと、インクル・ノス・クルンは、成す術も無くプルミエールと正面衝突していた。 ・ ・ ・ 『やれやれじゃな……』 ==============================================
2010/11/30

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-03【灯台】月ノ章 2-03【灯台】―ミュークSIDE― 『うにゅ、わかりました♪』 プルミエールは元気に頷くと、額に手を翳して頭上を仰ぎ見る。 好奇心に満ちた眼差しの先には、異貌の少年の姿。 人族と屍族が繰り広げる凸凹漫才を、機械盤の上に陣取って観覧していたようだ。 『きまりました!』 プルミエールの人差し指がびしっと“運命の輪”の少年に突きつけられる。 『見世物小屋1号の名まえは“コンコン”にけっていします♪』 ―――えっ、ボク? 蚊帳の外の傍観者が、哀れな当事者に成り下がった瞬間であった。 『このキツネ狩りを提案した其方には、存外にお似合いじゃと思うぞ』 ミュークはくつくつと喉奥を震わせて賛同する。 試練内容と対象者の特徴的な風貌に着目した想定外に理知的な命名である。 ―――ボ、ボクのどこがコンコンなんだよ!? て、ゆーか見世物小屋1号って……。 そもそも、ボクには、あるお方から戴いたとっても栄誉な名前があるんだぞ!! もっとも、名付けられた当人には不満があるようだ。 頬を痙攣させて、反論の声を挙げている。 勿論、誰も取り合うことはない。 『むっ! コンコンは、コンコンのどこが不満なのですか!?』 プルミエールがさも心外だと言わんばかりに嘆息する。 ―――全部、何もかも、余すとこなく、そっくりそのまま不満なんだよ!! 『むー、これだから下民は……』 何処ぞの怪しい宗教団体で洗礼名を賜る自称信徒の如く、喜びに打ち震えて堅信するとでも考えていたのであろうか? ミュークはプルミエールの頭の中を覗いてみたい衝動に駆られる。 しかし、惜しむらくは、彼女のそういった“力”の大半は、現在、別の対象に向けられていた。 『口でわからぬ輩には実力行使しかあるまいて、どうじゃな?』 ミュークは背後からプルミエールの頭をポンと叩き、無責任に焚きつける。 猟犬(プルミエール)を追い立てて、狐を狩る算段らしい。 『うにゅ、オシオキがひつようですね♪』 我が意を得たり、プルミエールは膝に撓めた力を解放すると、歯車を跳ね上る。 少女の小さな身体は瞬く間に、目標へと到達した。 ―――うわっ!? “運命の輪”の少年は軸棒から立ち上がろうとして踏鞴を踏んで体勢を崩す。 それもその筈、プルミエールの人間離れした身体能力には、同行するミュークも教会船での一件で驚かされたばかりだ。 『血の渇きに囚われるのは避けたいが、贅沢はいっておられぬか』 上層で展開する攻防に向けられたミュークの紅眼が冥い炎を宿す。 ―――君、面白いね “運命の輪”の少年は、肉薄したプルミエールのハチャメチャな多段攻撃を、跳ねて舞って転がって、どうにかやり過ごす。 『喰らえー! 必殺アリアリ殺しーっ!!』 叫ぶや否や、軸棒の上で器用に前宙したプルミエールの踵が綺麗な弧を描く。 ―――よっと “運命の輪”の少年が余裕をもって大きく跳び退る。 前もって必殺技の宣言をされているので、この警戒は当たり前である。 『うぎゃん!?』 目標を喪失したプルミエールが、勢いあまって顔面から着地する。 ―――うわ、痛そ…… 『ぐぬー、ちょこまかと!』 プルミエールは足腰の発条だけで跳ね起きて、瞬時に復活を果たす。 ゴキブリ並みの生命力であった。 ―――こっこまでおいで♪ “運命の輪”の少年は軽業師の如く、積層旋盤を跳ね上る。 『ムカー! に・げ・る・なー!!』 プルミエールが上層基盤へと消えた獲物を追走する。 ―――あっ、そこ危ないよ 『ンガっ!! らふぁう~ぇ……ぇぇぇ……』 手近な丸穴車に飛び乗ったプルミエールに巻き上げ機の軸棒が直撃。 解読不明な悲鳴が重層旋盤が奏でる金属音に吸い込まれる。 ―――え~と……大丈夫かな “運命の輪”の少年は、巨大な旋盤が多重回転する主軸台の上に降り立つと、心配そうに周囲を見渡す。 人族の少女は、回転する機械盤に揺られながら、潰れたカエルのように痙攣を繰り返していた。 『まさか、あんなワナがあるとは……』 流石に堪えたらしく、起き上がってくる気配は無い。 ―――いや、罠というより君の不注意だけど。 それにしても、ボクの知る人族とは、いろいろな意味で掛け離れているね。 この大灯台に篭って数百年しか経っていないのに、人族も随分と興味深い固体へと変化したみたいだ。 もし、よかったら名前を教えて欲しいな なんと、プルミエールを人族の平均個体として認識しているらしい。 だが、この突然変異体を人族代表として検体活用しようものなら、人類全体から、名誉毀損で訴えられても文句はいえない。 惜しむらくは、この場に不当性を糾弾できる人類が存在しない点である。 『よい……こころ、がけで……す。 ……プ、プルはプルミエール・リュズ……レイです』 仰向けに伏したままのプルミエールがたどたどしく名乗りをあげる。 無駄に偉そうだが、この時を刻む運命の間で名を知られる意味をまるで理解していない。 『この大ウツケ者がっ!!』 堰を切った叱咤、それは主軸台の裏側から聞こえてきた。 ―――っな!? 声の正体に気がついた“運命の輪”の少年が驚愕の表情で足元を見下ろす。 回転する旋盤の裏側から、伸ばされた白い腕。 ―――ミューク・ウィズイッド “運命の輪”の少年が飛び退きざまに叫ぶ。 獲物に掴み掛からんとした狩猟者の動きが不自然に停止する。 『ちっ、抜かったわ』 あと一歩のところで、ミュークの身体がフェイトリングによって拘束されていた。 ―――あそこで声を上げなければ、勝負は決していたのに惜しかったね “運命の輪”の少年が心底残念そうに首を横に振る。 『くっ、五月蝿いわ! 我、フォルトゥナの剣なり!!』 解呪の言霊を唱えると、ミュークは苦虫を噛み潰したような表情で、“運命の輪”の少年を睨みつける。 諭されるまでもなく、千載一遇の好機を逃したことは理解していた。 ただ、プルミエールの度を越したボケっぷりに、ツッコミが口を衝いてしまったようだ。 ―――あの子より動きが鈍いよ。 屍族のお姉さんは運動不足かな? “運命の輪”の少年は、掴みかかるミュークの手指を弄ぶように紙一重で躱す。 屍族は血脈の純血性が、肉体の保有する能力の絶対値に直結する。 しかしながら、その最高峰に位置する二十二家の純血屍族であっても、生まれ持った怠惰な性格が災いすると、この体たらくであった。 『可愛いげのない餓鬼じゃ』 ミュークは“運命の輪”の少年との間合いを詰めようと図る。 しかし、回転する旋盤上での足取りは覚束なかった。 元来、肉体派ではないミュークにとって、単純明快な鬼ごっこという試練内容は、相性の悪い部類に属するだろう。 故に焦りが生まれ余計に動きが鈍る。 ―――よっと “運命の輪”の少年は、突き出た機械軸の上から、軽やかな身のこなしで、振り子運動を続ける鉄球に飛び乗った。 正しく常人離れした身体能力であった。 振り子が最高点に達する最寄りの時機を見計らっても尚、ミュークの跳躍力では届くかどうか疑問を抱く距離である。 『しかし、随分と念の入ようじゃな。 あのような子供の名を訊きださねばならぬほど余裕がないとみえる』 ミュークはその場に立ち止まって“運命の輪”の少年を挑発する。 無論、この場合、あっさりと口を割るほうにこそ問題があるのだが、そちらを糾弾するのは、精神的な費用対効果と還元率の関係で回避したようだ。 ―――ボクは“肯定”する。 用心深いかな? でも、あの子、普通じゃないよ。 本当に人族なの? 慮外、素直な反応に、ミュークの脳内で結実した嫌味が行き場を失い煩悶する。 『不本意ながら賛同じゃ。 そして、出来うるなら、最後まで侮っていて欲しかったのじゃがな』 ミュークも己が運動音痴であることは存知している。 故にプルミエールの未知数の活躍に期待を寄せていたのである。 ―――あの子にもこの空間の不文律は説明したんだよ。 まぁ、聞いてた様子はなかったけど……ああも、あっさり口を割られると逆に疑わしいけどね。 あの子ってもしかして馬鹿? 『不本意ながらそれにも賛同じゃ』 と、ミュークの身体が強張る。 鐘の音―――荘厳な音階が長い尾を引きつつ時を刻む運命の間で反響していた。 ==============================================
2010/11/30

※大まかな流れは変わってませんが、ほぼ全文書き換えました。※2-3【灯台】下はかなり長いので前半・後半に分けて推敲します。今回は前半部分ですが、文字数制限を大幅に超えたので三つに分けて投稿します。1.時を刻む運命の間の不文律・黄金の鎖→黄金の輪(運命の輪)=フェイトリング・解呪の言霊「我、時を断つ剣なり」→「我、フォルトゥナの剣なり」2.時計台の基盤関連描写3.ミュークの運動音痴描写などが主な加筆&変更点です。『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-03【灯台】月ノ章 2-03【灯台】―ミュークSIDE― 『ここは……?』 ミュークが目を見張る。 回復した網膜が焼きつけた光景は無機質な異様を誇っていた。 幾何学的に交差する大小様々な歯車が、時を告げる円舞曲を踊りながら視界を埋め尽くしている。 『これでは、大灯台ではなく時計台じゃな……。 いや、此方側が真の姿なのかや?』 そう考えれば、がらんどうだった大灯台の内装にも合点がいく。 現実世界の大灯台は、精神世界で構築された時計台の支持構造を収容する殻であったのかもしれない。 ―――ようこそ、時を刻む運命の間へ 場違いに明るい声が、異界の韻律に混ざって降り落ちる。 小さな人影が、歯車から伸びる軸棒のひとつに優雅に腰掛けていた。 それは、赤と紫で彩られた奇抜な道化服を纏った年端も行かぬ少年であった。 『それが、其方の本当の姿かや?』 仰ぎ見たミュークが訊ねる。 ―――ボクたち夜(アルカナ)の意志に肉体という概念はないから。 特定の姿形に意味はないよ。 でも、精神世界で顕現したこの姿は、ボクが生物として最期に象っていたカタチでもあるから、当らずも遠からずだね。 “運命の輪”の少年は人懐っこい笑顔でミュークを迎えていた。 黄昏色の頭髪から覗く尖った耳端に白蝋の肌、妖精族と屍族の特徴を併せ持った特異な容姿である。 『最初からその姿で現れておれば、随分と愛想も良かったのじゃがな。 しかし、中身が小童ならば、会話の端々で露呈していた感情の揺らぎにも合点がいく』 ―――君たち屍族は、外見で相手の正体を推し量ることの無意味さを心得ている筈だよ ミュークの皮肉にも動じることなく、“運命の輪”の少年は切り返す。 『もっともじゃな。 それで、其方の試練はどのようなものになるのじゃ?』 ミュークは重い息を吐いて本題へと入る。 ―――ああ、そうだったね。 ボクの提示する試練はキツネ狩りだよ 『キツネ狩り?』 ミュークが訝し気に訊ね返す。 ―――そう、ボクが狐で屍族のお姉さんは狩る側である狩猟者。 どう、わかり易い構図でしょ? 『なるほど、鬼ごっこというわけか』 血統アルカナの試練には幾つかの系統がある。 守護者の打倒や知恵比べなどが最も典型的な例だが、資格者として認められる為に、一風変わった条件を突き付けられることもある。 “運命の輪”の試練は、どちらかに区分するならば、後者に属するものであろう。 しかし、一見、幼稚な発想ではあるが、仮にも相手は“夜の意志”である。 到底、一筋縄でいくとは思えない。 ―――でも、このキツネ狩りには3つの不文律があるんだ “運命の輪”の少年はピンと三本指を立てると、意味深げに続ける。 ―――ひとつ、【狐は狩猟者の質問に対して嘘はつけない】 ただし、質問の内容は“はい”又は“いいえ”で答えられる単純なものに限られる ―――ふたつ、【狩猟者は時を告げる鐘が奏でる三度目の音を耳にしてはならない】 鬼はこの制限時間を越えると、永遠に元の世界には戻れなくなるから気をつけてね 案の上である。 どうやら命を賭けた鬼ごっこに挑めということらしい。 ―――最期はある意味、一番大事なこと。 そうだね、言葉で説明するのも面倒だから。 屍族のお姉さんの真名は確か……ミューク・ウィズイッドだったよね? 『そぅ―――なっ!?』 口を開きかけたミュークの四肢を、何処からともなく現れた黄金の輪が拘束する。 ―――それが三つ目だよ。 この空間では相手に名指しされると、“運命の輪”(フェイトリング)に拘束される。 ちなみに、これは狐と狩猟者、どちらにも適用される不文律 『しかし、この程度の軟弱な束縛など逃れる術は幾らでも……くっ、なんじゃと』 ミュークの余裕の表情が一変、口唇から苦鳴が漏れる。 束縛から逃れようと、身を捩った瞬間、身体に掛かる圧力が増したように感じたのだ。 ―――物理的な力で、フェイトリングは断ち切れないよ。 ボクでさえ、それに捕まったら解呪の言霊を唱えない限り逃れられない 『解呪じゃと?』 ―――そう、フェイトリングに捕縛された状態で「我、フォルトゥナの剣なり」って、唱えればいい。 『……我、フォルトゥナの剣なり』 半信半疑ではあったが、ミュークは言われるままに解呪の言霊を呟く。 すると瞬く間に、彼女を拘束する黄金の円環は跡形も無く消失した。 『じゃが、これでは些か不公平ではないかや?』 血統アルカナの“真名”は継承者にのみ明かされる秘匿名である。 故に現時点でミュークに“運命の輪”の少年を足止めする術はない。 一方、相手方は、ミュークの正式名(フルネーム)を心得ているのだ。 僅かな時間といえども、狐の方は幾らでも狩猟者の足止めが出来るのである。 到底、対等な条件とはいえない。 ―――これは、屍族のお姉さんが、自らの意志で望んだ試練なのだから、不平不満は我侭だよ。 それに、今回は特典付きだしね。 あっ、ほら来た♪ 『もらったぁ~!!』 勝ち誇った雄たけびが、けたたましく反響しながら急降下してくる。 ―――……っと “運命の輪”の少年は軸棒を基点に一回転して、頭上から躍り掛かるプルミエールをやり過ごす。 ―――今回に限り、特別に二人がかりなんだから、これでもかなり融通を利かせているんだよ そして、何事も無かったように、片目を瞑ってみせた。 『うにゅ~、すばしっこいヤツですね』 ミュークの眼前に着地したプルミエールが地団駄を踏みつつ悔しがっている。 どうやら、一足先に同様の試練に挑んでいたらしい。 『もはや遣り直しは効かぬようじゃな』 ―――うん、少なくともその子の試練はもう始まっているし、後戻りできないよ 『肉体労働は担当外なのじゃが、致し方あるまい』 嘆息したミュークが肩を回して筋肉を解していると、 『ああー!? こんなところにいたのですか!』 振り向いたプルミエールが、幼げな顔を紅潮させてミュークへと詰め寄る。 『それはこっちの台詞じゃ』 そこにミュークの三白眼が真正面から突き刺さる。 だが、プルミエールに動じる気配は微塵もない。 残念ながら、自戒とか改悛とか自己責任を司る心理的作用が動作不良であるようだ。 『まったく、プルがどれだけ捜したと……ブツブツ。 これから“みゅーみゅー”には首輪をつけないといけませんね』 如何なる状況下でも失われない独創的な思考回路であった。 『いろいろと、問い質したいところじゃが……。 先だっては、その呼び名をどうにかせい』 ミュークは砂糖菓子に蜂蜜を塗りたくったような愛称の訂正を促す。 同時に少女の奇抜な命名感覚が突発的に発生した事故か天災の類であることを願う。 『うにゅ? やっぱり、ウィズウィズの方が……。 はっ!? まさかっ、ワチワチ!!』 プルミエールは小首を傾げつつ腕を組むと、それが純然たる人災であることを立証した。 『……いや、ミューミューで結構じゃ』 諦めたミュークが堅実的な妥協点を見出す。 物事の論点や焦点といったものが絶滅危惧種と化す前に、先手を打ったようだ。 『みゅーみゅーはゆーじゅーふだんですね』 不本意にも、プルミエールに理不尽な苦言を呈される。 『そうじゃ、人族の娘よ、お主に頼みがある』 なけなしの自己犠牲が見事に殉死したミュークであったが、ふと、何かを思いついたように、人の悪い笑みを浮かべた。 『プルプルでいいです』 『そ、それではプ、プル……プルミエール嬢、耳を貸すのじゃ』 話の腰を折られまいとミュークは適当に相槌を打つが、 『むっ、あげませんよ』 矢継ぎ早に襲い来る想定外のお馬鹿発言。 結局、ミュークは半ば無理矢理にプルミエールの耳朶を摘み、こそこそと耳打ちを始める。 『……どうじゃ?』 ==============================================
2010/11/30
先日購入したソフトのなかにあった「ファンタシースターZERO」をチマチマと遊んでます。1stはフォニュエールで主力武器は、★アリスオビリア/N40B18M20D0H38/セレブLv3/マジカルサイン/済もっと高エレメントのマジカルアリスが欲しいのですが、命中も補えているので、コレと魔法を半々使って全エリア闊歩してます。★ホワイトディザスター/N0B0M0D0H0/ヘブンLv1/無し/未手持ち武器の中では一番法撃力が高いのでボス戦専用です。■アルアジーフ/N15B0M0D23H0/ソウルLv3/マジカルサイン/未■スターライト/N40B0M22/D0H0/ダークLv5/アクトトリック/未■ロネオス/N40B0M0D17H43/セレブvL3/ブライトサイン/未この3つは気分転換用。===============================================サイコウォンドと手裏剣2種が全然でません。===============================================2ndはヒューマールで主力武器は、★ルズパリアス/N26B40M31D0H0/セレブLv4/ゼータカトラス/済使い勝手が格段に良いので暗黒神殿以外はほぼコレを装備してます。★シュテルマー/N50B38M26D0H0/セレブLv5/ゼータカトラス/済スロットの関係で主力補佐要員。★エインスレイフ/N0B0M0D61H0/セレブLv3/オーバーエンド/済暗黒神殿&各種ボス戦で使用。★ハダンバイト/N45B15M0D42H0/セレブLv4/バイトスタンプ/済強いと聞いたので塔用に作ったけれど「アレ?」な品■ルージュパレス/N37B17M0D34H0/セレブLv4/スリラーコンボ/済■エンペルアキシオン/N0B0M22D53H0/ヒートLv3/アースバレット/済地味に役にたってます。ビック・メビウス/N0B0M0D37H0/スタンLv3/スピアライダー/未ディオスクロイ/N40B15M0D0H31/ジェルLv3/ミリオンレイヴ/未ただ持ち歩いているだけ(汗)===============================================高性能ゼロセイバーが欲しいです(`・ω・´)キリ===============================================
2010/11/24

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-02【灯台】月ノ章 2-02【灯台】―ミュークSIDE― ―――汝、真の資格者あらずや 『やめろ……やめるのじゃ……』 ………あの娘は……逃げ出した ………不適合者………恥晒し………一族の汚点 ………哀れみと蔑み ミュークの視界がぐらりと揺らぐ。 「知らぬ知らぬ知らぬ……。 ワチキは……」 故意に、疑いも無く恐怖心故に―――拒絶した。 ミュークは不明瞭な叫びを上げつつ己の両肩を掻き抱く。 そして、うわ言のように否定の言葉を繰り返して、膝から崩折れてしまった。 「ミュークさま!?」 レムリアが触れたミュークの身体は小刻みに震えていた。 「ミュークさま、いじめる……許さない」 ルムファムが火を吹くような眼差しで、頭上に展開する血統アルカナ“運命の輪”を睨みつける。 常に無機質な碧眼に、はっきりとした敵愾心が宿っていた。 放っておけば、相手が誰であろうと飛び掛らん剣幕であった。 「待つのじゃ……」 ミュークはレムリアに支えられて、よろよろと立ち上がる。 そして、覚束ない足取りで前方に進み出ると、 「“運命の輪”の血統アルカナよ。 先程の話し振りから察するに、其方はワチキの中に眠る存在に用件があるのじゃろう。 ならば、無関係な者を巻き込む謂れはあるまい」 双子にも理解できるように思念ではなく、質量を伴った言葉を用いる。 ―――我はグリムデンの血の契約から解き放たれた。 今や我が意志は“力を求める者”を拒まぬ。 その娘の心は力を欲していた。 故に、我はそれに応じたにすぎない。 我が試練に打ち勝てば自ずと意識をとり戻すだろう 「この娘は二十二家どころか、屍族ですらないただの人間じゃぞ。 到底、試練になど打ち勝てる筈が無い。 そもそも、仮に継承者として認められても、“其方”を受け入れる器がない。 結果がどうあれ命を落とすことになるじゃろう。 それでは、幾らなんでも本末転倒であろうが」 ミュークはともすれば竦みかける心を必死に奮い立たせて反論する。 血統アルカナは古き盟約に連なる血の絆によって、二十二家の血脈の中に脈々と受け継がれてきた契約の証である。 無論、それを受け入れる資質さえあれば、二十二家以外の者でも力を手にすることは可能だ。 だが、古き血の加護を享かる二十二家の大屍族でさえ、“渇きの継承”と畏怖される契約の試練を克服することは、容易ではなかった。 ―――然もありなん。 だが、その娘が死すべき定めであるのなら、それを打ち破ってこそ、我が試練なり 「この安本丹め。 それが無理だとわからぬのかやっ!」 元来、捻くれ者で一癖も二癖もあるミュークである。 他者の心を読み取り、それを戯弄することには慣れているが、この無機質な問答者相手では随分と勝手が違うようであった。 だが、幸か不幸か、ぐつぐつと煮え滾った苛立ちが恐怖を上回り、いつもの調子を取り戻しつつあった。 ―――我、真理を語るのみ 「もう少し、融通を利かせろと言っておる」 事実のみでは意志の疎通を図ることは叶わない。 なにより、そこには最も妥当的な未来しか成立しない。 ミュークが求めているのはもっと別の可能性であった。 ―――我が司るは運命ぞ。 そこに融通を利かせては元も子もなかろう “運命の輪”の血統アルカナの意思に僅かな色彩が宿る。 「ワチキはワチキなりの遣り方で、この娘の運命を変えようとしているだけじゃ。 それを拒絶することは其方の真理に背くことになるのではないか?」 然りとてミュークも、この手の問答は己が領分であった。 半ばこじ付け紛いの訴えに、水を打ったような沈黙がその場を支配する。 ・ ・ ・ ―――よもや我ら夜の意志に説教を垂れる者が現れようとは…… 暫し間を置き、呆れたような声がミュークの脳内に響く。 それは先ほどまでは存在しなかった明らかな感情の揺らぎであった。 同時に圧し掛かっていた重圧が次第に薄らいでいくのがミュークにもわかる。 ―――屍族も変わったものよ。 このように口喧しい娘が二十二家の血族とは……。 我が知る古き屍族たちは己が感情を悟らせぬ術を心得ていたものだ 「黴臭い通念の押し売りなど糞喰らえじゃ」 「ミュ、ミュークさま……?」 レムリアが素っ頓狂な声をだす。 如何せん、耳で聞き取れるミューク側の発言でしか状況を推察できない。 故にミュークの劇的な感情変化について行けずに、違和感を感じても仕方が無いところだろう。 ―――だが、確かに、汝の言葉にも一理ある。 ならば、汝が、我が資格者となり、その娘に与えられた定めを不軌のものとすればよい ミュークの心臓が大きく鼓動を打つ。 「良い機会やも知れぬ……」 ミュークは小さく独白すると、背後に佇む双子を招き寄せた。 「よいか、ワチキにもしもの事があったら、東大陸に渡るのじゃ。 彼の地は今も尚、屍族の支配が根強く残る故、お主達が身を隠すには最適じゃろう」 「そっ―――」 開きかけたレムリアの口唇に指先を押し当て、ミュークは抗議の声を封じる。 「レムの言いたいことは理解(わか)っておる。 ワチキとて母上との再会が叶うまで、無駄死にするつもりはない。 あくまで、万が一の備えとして、今後の指針を授けただけじゃ」 「はい……」 レムリアは僅かに視線を逸らすと心ならずも頷いた。 頭で理解していても、感情が思い通りにならないのだろう。 「問題はプルミエール・リュズレイのことじゃ。 もし、このまま目覚めの時は、クリスティーナ老公妃を頼るのじゃ。 ウィズイッドの家名をだせば、きっと力になってくれよう。 特にレム、お主は男子故、ふたりを護ってやらねばならぬ」 「でも、ボクなんかよりルムの方がずっと強いのですが……」 どこか拗ねたような口振のレムリア。 ミュークは小さな額を軽く小突くと、 「強さとはなにも肉体的な力だけを指すものではない。 それがわからぬほど、レムは愚かではあるまい?」 「わかりました」 二度目の了承は一度目より素直であった。 「いい子じゃ―――ん?」 と、不意に衣服の袖口を強く引かれて、ミュークは半ば強制的にルムファムと向かい合う。 表面上は無表情だが、配意が公平に等分されていないことに、ご立腹のようだ。 「ルム、お主はレムが誤った道を選んだとき、それを正すことが役目じゃ」 コクリと頷くルムファム。 行動原理に些かの疑問は残るが、決断力の高さは折り紙付きである。 ―――話はすんだか屍族の娘よ? 「要らぬ気遣いをさせてしまったようじゃな。 はじめてもらって構わぬぞ」 ミュークは“夜の意志”に他者を気遣う心があったことを素直に感謝する。 ―――ならば、我が一端に触れ、試練に挑むがよい その言葉に導かれるように、ミュークは回転を続ける黄金の輪へと足を踏み出す。 「くっ……」 凄まじい重圧により視界が濁り、五感の全てを閉ざされたような感覚に陥る。 「あの時と同じか……だが、今のワチキは以前のそれとは違う」 ミュークは希薄になりつつある自我を保つ為に精神を集中させた。 そうすることにより、意識の喪失を免れたまま、実体化した“運命の輪”の足元にまで近づくことができた。 「“運命の輪”の血統アルカナ、何者にも縛られぬ古き夜の意志よ。 二十二家に連なりしウィズイッドの血名に懸けて、そのチカラ、ワチキのものにしてみせようぞ!」 ミュークの右腕が前方に伸ばされる。 しなやかな指先は臆することなく、回転を続ける円環に到達して―――ミュークの世界は白光に包まれた。 ==============================================
2010/11/23

※大まかな流れは変わってませんが、ほぼ全文書き換えました。※文字数制限を大幅に超えたので二つに分けます『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-02【灯台】月ノ章 2-02【灯台】―ミュークSIDE― 「少しばかり迂闊じゃったかの」 ミュークが自戒するように肩を竦める。 想定はしていたが、屍族の暗視眼を以ってしても、大灯台内部に蔓延る無明の闇を見通すことは適わなかった。 「わわっ、真っ暗で何も見えませ―――イタっ」 ミュークの背中でレムリアの声がひしゃげる。 目前で立ち止まった背中に顔面から突っ込んだようだ。 「うう、急に立ち止まらないでください」 レムリアは赤らんだ鼻頭を押さえて抗議する。 「なんじゃ、ついて来たのか?」 「当たり前で―――ンガっ」 憤然と返すレムリアの口調が悲鳴に変換される。 最後尾から追従したルムファムの頭突きを後頭部に受けたらしい。 頭を抱えて蹲るが、ミュークを非難した手前、文句は言えない。 ちなみに、被害者と加害者とを分けたのは頭の硬さだけである。 「まったく、騒がしくするなら外で待っておれ」 「うう、今更帰れませんよ」 レムリアの言葉通り、大灯台の入り口は跡形も無く消え去っており、四方の全てが闇に覆われていた。 もっとも、このような異空間であっても永久に続く物我は存在しえないようだ。 黒く塗り潰された世界に、ぽつんと青白い光が浮かび上がる。 それは大灯台の内壁に沿って数を増やし、周囲の闇を切り取っていった。 「退屈凌ぎには丁度良い余興じゃな」 その軽口とは裏腹に、ミュークの心は得体の知れぬ胸騒ぎに襲われていた。 視界には灯台内部の様相が、滲むように浮き彫りになっている。 そこは遮蔽物の無い広大な空間だった。 天井は葺きぬけになっており、その内壁を這うように伸びる長大な螺旋階段が遥か上方へと続いている。 「ミュークさま、あそこっ!」 レムリアの指差す先、広間の中央に設けられた祭壇に目的の少女が横たわっていた。 「心配させおってからに……」 周囲を警戒しつつ、ミュークは足早に祭壇へと歩み寄る。 「これは……」 ミュークの表情に動揺の色彩が滲む。 プルミエールはまるで魂が抜け落ちたかのように、両眼を見開いたまま宙を睨んでいた。 「大丈夫ですか……?」 レムリアが心配そうにミュークの肩越しから覗き込む。 我に返ったミュークがプルミエールの口元に手の甲を翳し、強張った表情を僅かに緩めた。 「息はしておるようじゃ。 もっとも、無事とは云い難い状態ではあるがの」 目立った外傷は見受けられなかったが、抱き起こした少女の身体は、死んでいるのかと思えるほど冷たかった。 「ナニかいる」 横合いから発せられた声に、一瞬ドキリとするミューク。 目線を右傍らに傾けると、ルムファムが当たり前のように佇んでいた。 この屍族の少女、所構わず気配を絶って行動する為、心臓に悪い。 おまけに、周囲の者を驚かせて楽しんでいる節があり、同行者にとっては極めて厄介であった。 「ルム、それは真かや?」 ミュークの問い掛けに、ルムファムが無言で頷く。 「なにかってなんだよ」 状況を把握できないレムリアが、動揺を隠し切れずに声を荒げた。 「ふたりとも、ワチキの側を離れぬなや」 ミュークは緊張した面持ちで視線を周囲に巡らす。 首筋に突き刺さるような冷たい感触があった。 久しく忘れていた感情がふつふつと蘇る。 今や虚無の空間は圧倒的な力場へと急速な変貌を遂げようとしていた。 「やはり、消失しておらなんだか……」 ミュークの口唇から、歯軋りと共に唸り声が漏れる。 「あれはっ!?」 レムリアが驚きの声を発する。 祭壇上空に、巨大な二匹の獣を巻きつけた黄金の輪が現出していた。 最初からそこに在ることを定められていたように、膨大な質量が溢れ出して、闇と絡み合う。 「ベルムード三世も随分と面倒な置き土産を遺したものじゃな」 ミュークたちの頭上で、ゆっくりと回転を始める円環。 その中心に、浮かび上がった黒い斑点が、膨張と伸縮を繰り返しながら、二十二の夜の一角を象っていく。 「悪魔……」 レムリアがひどく抽象的な感想を漏らした。 少年屍族の目に映るそれは、人型の頭部に黄金の冠をたたえ、漆黒の両翼と凶獣の身体を併せ持つ禍々しい姿を晒していた。 「器を失った夜の意志が、断片化した状態で物我に残留する判例は過去にも確認されておる。 じゃが、これほど完全なカタチで消失を免れるとは驚きを禁じえぬな」 ミュークが喘ぐように口を開く。 両の手の平に冷たい汗が滲んでいた。 血統アルカナは二十二家に連なる血族に呪縛された“力”である。 “運命の輪”の血統アルカナを使役するグリムデンの一族が滅び去った今、その力は本来、物質界に具現化する術を失っている筈であった。 「まさかアレって……」 レムリアもミュークと同様の結論が帰結に到ったようである。 「察しの通りじゃよ。 あの化物は血統アルカナ“運命の輪”の屍霊じゃ」 ミュークは半ば吐き捨てるように断言する。 フルフルフルフル…… “運命の輪”の血統アルカナは、笑っているようにも、怒っているようにもとれる奇怪な響きを、口蓋の隙間から漏らしていた。 ―――久しいな ミュークの頭蓋の内側に、静かではあるが圧倒的な存在感を伴った意識が接触する。 「くっ……」 押し潰されそうな圧迫感にミュークは苦しげな息を漏らした。 「ミュークさま?」 レムリアが気遣わしげにミュークを見上げている。 どうやら、夜の意志が発する思念は、対象の脳内に直接語らいでいるらしい。 ―――貴女とこうして直に見えるのは、いつ以来であろうか…… 『お招きに預かり光栄―――と云いたいところだが、人違いじゃな。 ワチキはミューク・ウィズイッド。 ここには行き掛かり上、已む無く立ち寄っただけじゃ』 ミュークは内心の動揺を糊塗するように、脳裏に然るべき言葉を思い描く。 そうすることで、声として発するまでもなく、相手には伝わっている筈であった。 ―――我、汝であって汝であらぬ存在に語りかけている。 “彼女”を解放せよ女教皇の継承者よ 『ワチキはそのような問答など求めておらぬ。 それより、この娘の心を元に戻すのじゃ。 この症状には見覚えがある。 恐らく“夜の意志”と接触したことに起因している筈じゃ』 ミュークは腕に抱いたプルミエールの身体を祭壇に戻すと、頭上を見上げて真偽を問う。 ―――愚かなり。 汝、我らが理を知らぬとみえる 『理なら知っておるわ。 其方たち血統アルカナは、遠き過去、我ら二十二家と血の契約を結び、この地に呪縛されし屍霊の類であろう』 圧し掛かる精神の重圧から、ミュークの額には多数の汗粒が染みだしていた。 そしてそれを拭う余裕さえ今は無い。 ―――汝、真の資格者あらずや 『……なっ!?』 その言葉は無慈悲なほどの冷徹さを以って、ミュークの脳裏から過去の幻影を抉りだす。 ==============================================
2010/11/23

※更に続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-01【灯台】月ノ章 2-01【灯台】―ミュークSIDE― 「開かぬのか?」 状況をひと目で察したミュークの問い掛けにルムファムが頷く。 巨人族の為に誂えたかと思われる巨大な鋼鉄の扉は固く閉じられていた。 「ふむ、今度は流石に入り込む隙間などなさそうじゃな」 ミュークが苦笑して大灯台の外壁を見渡す。 おおよそ人の力では持ち運びが不可能と思える巨石が、刃を差し入れるすき間さえなく積み上げられて外壁を成していた。 その精巧な石組みは太古の優れた石加工技術の象徴であろう。 「幸か不幸か、人の手は入っておらぬようじゃな」 ミュークの言葉が示す通り、船の墓場とアセリエル大湿原、陸と海の二つの魔境に囲まれたテトラモルフ大灯台は、その環境も相まって盗掘の憂き目に遭うこともなく、未だ手付かず状態の貴重な古代遺跡であった。 大灯台を管轄するサリナハーム公国は、開国当初から定期的に起きる大干ばつに悩まされ続けており、慢性的な食糧難に陥っている。 故に、知識の探求などという腹の足しにもならない費目に感けている余裕はないようだ。 尚且つ、近年、勃発した公王選出の跡目争いや、長年続く、部族間の抗争も影響しているのだろう。 数年前に隣国アルル=モアの学術研究機関との共同調査隊が組織されたとの噂もあったが、未だに実行に移される気配はない。 「しかし、どうしたものかの……」 ミュークが溜息交じりに視線を前方に戻すと、鉄扉に体当たりをするような姿勢で、プルミエールが足を踏ん張っていた。 とりあえず、実害はなさそうなので放置することに決める。 「引き返しますか? もう手遅れっぽいですが……」 レムリアが額に手を翳して頭上を仰ぎ見る。 既に夜の衣は綻び、太陽の息吹が地上を覆いだしていた。 「ここでこうしていても始まらぬな。 確か、先程通過した前庭に、崩れた石柱が折重なった場所があった。 贅沢はいっておられぬ、今日はそこを塒とするしかあるまい」 踵を返そうとしたミュークが立ち止まり、背後を振り返る。 そこには未だ大門扉と格闘を続けるプルミエールの姿があった。 「コラッ、いつまでやっておる―――って、なんじゃと!?」 ミュークの紅眼が驚きに見開かれる。 「うにゃ」 前触れも無く巨大な鉄扉が内側に開き、勢い余ったプルミエールがつんのめる。 咄嗟に伸ばしたミュークの手も虚しく空を切った。 人族の少女は唐突に広がった無明の闇へと吸い込まれてしまった。 「こ、これって……」 傍らのレムリアが戸惑うような視線をミュークに投掛ける。 白みはじめた景観が、大灯台の入り口から先で不自然に切り取られているのだ。 それはまるで陽光の意思が大灯台に踏み入ることを躊躇しているかのようにも見える。 「大灯台を護る古のカラクリか、はたまた魔導の類か……。 どちらにしても、厄介なことになりそうじゃな」 ぼやくように嘆息したミュークが、漆黒の顎を広げた入口へと一歩踏み出すと、 「ミュークさま、危険です!!」 ミュークの眼前に両手を広げたレムリアが立ち塞がった。 「危険は重々承知じゃが、放っておくわけにもいくまい。 プルミエール・リュズレイはワチキの……、否、この先の取引でなくてはならぬ人材じゃ」 「駄目です。 あの子には悪いけど、ボクたちにとって大事なのはミュークさまだけです。 それに、ここで待っていれば自力で出てくるかもしれません」 レムリアの真摯な眼差しにミュークは苦笑する。 「相手が人族とはいえ、ここで見捨てては目覚めが悪かろう。 なにより一度取り交わした約定を違えてはウィズイッド家の名折れじゃ」 「それなら、ボクとルムにお命じください」 レムリアの苦渋の決断に、ミュークは朝陽に焼かれた首筋を擦りながら再度口を開いた。 「ワチキは、帰るかどうかもわからぬ者を待ち惚けた挙句に、日干しになる趣味はないぞ。 それに、お主達双子に危険を押し付けて、ワチキだけ安全な場所から傍観者気取りでは、母上に会わせる顔が無い」 ミュークはレムリアの額を軽く小突いて下がらせると、臆することなく、大灯台内部へと足を踏み入れた。 「気が進まぬのなら、レムはここに残ってもよいのじゃぞ♪」 そして、その姿が漆黒に溶ける寸前、ミュークは悪戯っぽく笑うとそう付け加えた。 「ミュークさまは意地悪です」 元々、レムリアの進言はミュークの身を案じてのものだ。 付き従う他に選択肢などあるわけもなかった。 ==============================================
2010/11/18

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-01【灯台】月ノ章 2-01【灯台】―ミュークSIDE― 「落ち着いてください。 此方側からなら、必ず何処かで開閉できる筈です」 レムリアが必死に止めに入るが、ふたりの耳には届いていないようだ。 「遅かれ早かれワチキの所有物になるのじゃ、観念せいっ!」 「プルはシャル姉さまのモノだから、欲しくてもあげませんですぅー!!」 「聖女も此度の報酬で戴く手筈じゃから、聖女のモノはワチキのモノじゃ!」 などと、売り言葉に買い言葉。 傍から見れば、三分どことか一分の理もない持論の応酬である。 「ムカー、なんてワガママなヤツ」 プルミエールはミュークの顔面を足蹴にすると、落とし格子をよじ登りはじめる。 「ぐっ、其方にだけは云われとうないわっ! ま、待つのじゃ、このお転婆娘」 無益な口論が更なる深みに差し掛かった時、鼓膜を揺さぶる轟音と共に、物凄い勢いで落とし格子が上昇を始めた。 「―――んっと!?」 圧迫感から解放されたミュークは、咄嗟にしがみ付いていたプルミエールの下半身を手放す。 「はにゃぁぁぁぁぁ………………ぐぎゃん」 僅かに遅れて、金属と人族の潰れた悲鳴がミュークの頭上で交錯した。 ミュークが恐る恐る見上げると、外郭上部に空いた暗渠と格子門の隙間に頭部を挟まれた物体がひとつ。 それはまるで、首吊り死体のようにぶらぶらと前後に揺れていた。 とりあえず、その不吉な光景から目を逸らす。 「ミュークさま大丈夫ですか?」 そんな惨状を知ってか知らずか、レムリアが門柱の影からひょっこり顔をだす。 「う、うむ。 この通り解放された」 ミュークはゆっくり立ち上がると、胸に溜まった息を吐く。 それから、衣服に塗れた粉塵を払おうとして、指先に白い布切れが絡まっていることに気が付いた。 故意か偶然かプルミエールの下穿きである。 「ボクがひとりでこの巻き上げ機を見つけたんですよ♪」 レムリアは得意気に外郭内壁から伸びた取って棒らしきものを叩いている。 「なるほど、これはレムの仕業……、いや、お陰だったのか。 少なくともワチキは助かった。 礼を云うぞ」 ミュークは頬に冷や汗を一筋垂らしながら、微妙な言い回しを用いた。 「そういえばあの子は何処にいったのですか?」 レムリアが不思議そうにきょろきょろと左右を見渡している。 「上じゃ上」と言いかけて、なんとか自制するミューク。 「レムよ、世の中には知らぬ方が幸せなこともあるのじゃぞ」 ミュークが表面上だけ寂しげに人生の理を説く。 できれば忘れ去りたい悲しき人身事故であった。 「よくわかりませんが、ボクもミュークさまのご本心を伺う機会が持てて幸いでした。 件の取引の裏側で、そのような不謹慎な報酬が約束されていたなんて初耳でしたし」 レムリアがジト目でミュークを非難する。 アルフォンヌを捜しだす布石と銘打って、双子に手伝わせている手前、ミュークの旗色は極めて悪い。 「そ、それはじゃな……。 え~と、そ、そうじゃ、コレをやるので許してたもれ」 ミュークはちょっとだけ名残惜しそうに、純白のショーツをレムリアに手渡す。 「ん、なんですかコレ? ……って、あわわ……あう」 レムリアは白い布切れをマジマジと観察した後、その正体を知って顔を真っ赤にして狼狽した。 「こ、こんなモノの渡されても困ります。 ボ、ボクにどうしろと!?」 「楽しみ方は人其々じゃ。 まぁ、今のところは、持ち主に返すのが最良の選択だと思うぞよ」 そう言って頭上を見上げるミューク。 釣られて上を向いたレムリアの目に飛び込んだのは、視界いっぱいに広がるふたつの靴裏だった。 「レムの尊き犠牲は無駄にはせぬぞ」 ミュークは、目の前で押し潰されたレムリアに対して静かに瞑目する。 「返しなさいですっ!」 プルミエールは引っ手繰るようにレムリアからショーツを奪い返す。 そして、その小さな布切れを跨ぎ穿き、聖職衣の内側で剥き出しの股間へと引き上げた。 どうやら、多少の羞恥心はあるらしい。 「んー、もう少し脚をあげるのじゃ。 それでは何も見えぬではないか」 不自然に首を傾けたミュークが不謹慎に一言。 「このヘンタイ牛チチ女め、プルを亡きモノにするつもりでしたね!?」 下穿きを装着したプルミエールは、目前の不審者―――もとい、ミュークへと詰め寄る。 一難去ってまた一難である。 もっとも、先の一難は未解決のまま、後の一難の足の下で潰れているだけだ。 「気にするでない。 ただの不幸な事故じゃ」 しれっと言い放つミューク。 どうやら口先で誤魔化しきる算段らしい。 「事故ですむかー! プルじゃなかったらお空のお星さまになってますよ!!」 プルミエールがミュークの鼻先に人差し指を突きつける。 よく見ると、愛らしい容貌に痛そうな格子模様が走っていた。 「そもそも、最初に放せと云ったのは其方じゃろう」 人道的配慮は皆無だが、表面上は正論である。 「あーいえば、こーゆう……。 まったく、フィーナみたいですね。 それと、プルはとってもエライのです。 よってこれからは、壊れモノをあつかうように大事にしなさいです!!」 「それ以上、壊れるところはないから安心するがよい」 その点だけは保障できるミュークであった。 「あ、あのいい加減に背中の上から退いてくれませんか?」 口論の終息を見計らってレムリアが意見する。 「むっ!? いつの間にプルの足の下に? えっちぃですね」 「レムにそんな趣味があったとは意外じゃな」 口々に勝手なことを宣うプルミエールとミューク。 「もう、何かいろいろとわかった気がします。 それよりさっきからルムファムの姿が見当たりません。 これ以上碌でもないことを増やしたくないので、ボクたちも先に進みましょう」 悟りか、はたまた諦めか、きっと何処かの境地に辿り着いた台詞である。 レムリアはむすっと口をへの字に結んで、歩き出してしまった。 思いのほか素直にプルミエールが後に続いたので、ミュークも異論無くその提案を受け入れる。 ふた騒動ぐらいあった外郭を抜け、荒れ果てた前庭を横切ると、幅の広い石段があった。 それを登りきると、太古の紋様が刻み込まれた大門扉の前でルムファムが静かに佇んでいた。 ==============================================
2010/11/18

※大まかな流れは変わってませんが、ほぼ全文書き換えました。(+三千文字程度加筆しております)※文字数制限を大幅に超えたので三つに分けます1.古代グリーニアルに関する会話・大灯台と空中都市ニクネベェンの関連性・血統アルカナ“隠者”の継承血族ルズアリス・老屍族ヴァーサ2.ミュークとプルのぷちHぃお馬鹿描写などが主な加筆部分です。『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-01【灯台】月ノ章 2-01【灯台】―ミュークSIDE― 弾かれたように尻餅をつくルムファム。 遅れて、折れ飛んだ短剣の刀身が石畳の上で硬質な響きを虚しく響かせた。 「ルムの居合いを弾き返すなんてスゴイですね。 何か特殊な金属で造られているのでしょうか?」 レムリアは感心したように、外郭門に降りた巨大な落とし格子を見上げていた。 「ルムに買い与えた短剣は、現代の鍛造技術の粋を集積した黒鋼製。 そう易々と折れるものではないのじゃがな」 ミュークが己の胴回りはありそうな金属柱をたおやかに撫で上げる。 そして、斬撃により劈開した破面に宛がった指先を、徐に口に含んだ。 「存知せぬ味じゃ。 古代グリーニアル期の失われた精錬技術で純化された錬成金属なのじゃろう。 この大灯台は空中都市ニクネベェンを監視する為に建てられたという説も実しやかに囁かれておる」 ミュークがひとつの可能性を示唆する。 「古代王国期、屍族が天と地に分かれて争ったというアレですね。 でも、当時の文献や記録は、尽く抹消されていると聞いています」 レムリアの両眼は陽射しを浴びた朝露のようにキラキラと輝いていた。 誰がどのような理由で歴史の隠蔽を謀ったのか、知的好奇心をそそられているのだろう。 「その答えが知りたければ、ルズアリスの血統を捜すしかあるまいな」 「ルズアリスですか?」 レムリアが眉を顰めて問い返す。 「血統アルカナ“隠者”の正統なる継承血族じゃ。 彼の一族は“隠者”の能力によって代々の継承者の知識・記憶の全てを受け継いでおるらしい。 恐らく失われた歴史についても精通しておろう。 もっとも、ルズアリスの血統は、数世紀も前に途絶えておるがの」 ミュークは仄めかした私案を、にべも無く自己完結させる。 それなら最初から口にしなければ済む話なのだが、この辺は性格上の問題なのだろう。 要するに捻くれているのである。 「ヴェーサさまなら何かご存知ではないでしょうか?」 だが、レムリアは諦めきれないようで次案を提示する。 「確かにあの貴老は存命する屍族の中では、最も古き夜を永らえておる。 しかし、それとて齢三千年に達するかどうかじゃ。 過度な期待は―――」 ミュークが非合理的な会話を打ち切ろうとした丁度その時、 「この下から忍びこめるです♪」 唐突に明るく弾む声がしゃしゃりでる。 知識の探求に不参加だったプルミエールが目敏く抜け道を見つけだしたようだ。 人族の少女の足元には、石畳の陥没した箇所があり、金属格子の下側に子供の肩幅程度の隙間が空いていた。 「体の小さな者なら向こう側に渡れそうですね」 レムリアもようやく本来の目的を思い出したようだ。 しゃがみ込んで、石畳に穿たれた窪みを覗き込んでいる。 「いっちばーん♪」 先頭を切ってプルミエールが反対側へと抜け出る。 前世は芋虫かと思わせる見事な蠕動運動であった。 次いで双子も難なく落とし格子の下をすり抜けていく。 だが、最後に残ったミュークが窪みに身体を滑り込ませた時、思わぬ計算違いが生じる。 「……!?」 ヒクリと、ミュークの頬が引き攣った。 「…………抜けぬ」 随分と間を置いてから、ミュークが苦しげに一言。 他の者は言うに及ばずミュークも同様に“小柄な体型”である。 しかし、彼女にのみ“豊か”と形容される箇所があり、該当部分が引っかかっているらしい。 端的に、人並み外れて大きな乳房が邪魔なのである。 「にゃはは……。 おデブさんですね♪」 ここぞとばかりに、プルミエールがやんややんやと囃し立てる。 豊満な肢体に対する憧憬が、暗黒面に堕ちた挙句、劣等感から敵愾心へと昇華する稀な例である。 それは付き人であるアリエッタの天然さが積み上げた負の産物でもあった。 「くっ、悪口を叩き追ってからに! このようなもの容易に、抜け……出て……みせ、……る」 珍しく醜態を露呈したミュークは、意地になって通り抜けようとしていた。 「あ、あの……ミュークさま、あまりご無理はなさらないでください」 レムリアは目のやり場に困ったように視線を宙に彷徨わせている。 気を抜くと、自然とミュークの胸元に目が惹き寄せられてしまうからだ。 今も、石畳で潰れた大きな双球が、持ち主の動きに合わせて柔らかそうにカタチを変化させている。 「ぬぐぐぐぐぐ……ひわっ!?」 暫しの悪戦苦闘の末、 ぶにょん―――擬音で表現すると、そんな描写になるであろう過程を経て、ミュークの上半身が反対側へと抜け出る。 「ほれ見るがいい。 その気になればワチキとて容易に―――うっ!?」 しかし喜んだのも束の間、再び汗だくになるミューク。 どうやら今度は臀部が引っ掛かったらしい。 要するに先にも行けず後にも退けない状態である。 「……」 その場の空気が流石に凍りつく。 居た堪れなくなったレムリアなどは、明後日の方向に目線に逸らしていた。 「シャル姉さまのことはプルにまかせてジョウブツしなさいです」 最初に口を開いたのはプルミエール。 人族の少女はこれ幸いとミュークを見捨ててその場を立ち去ろうとする。 「待つのじゃ」 そうはさせじとプルミエールの足首を掴み動きを封じるミューク。 「こうなったら、ここで想いを添い遂げさせて貰うのじゃ」 自棄になったミュークが、引きずり倒したプルミエールの衣服を剥きにかかる。 羞恥心が極限に達して、理性の箍が外れてしまったようである。 「は~な~せ~! 無礼者ぉぉぉう!!」 組んず解れつ砂埃を撒き散らして、じゃれ合うミュークとプルミエール。 ==============================================
2010/11/18

今日は半日、お休みだったので、某家電店でテレビを購入しました(`・ω・´)キリッ(パナソニック VIERA TH-L32X2-K)です。とりあえず、場所を空けて簡易設置。正直42型と迷ったのですが、家庭用ゲーム関連はリビングの大画面でしかやらないので、半端に大きくすることの利点が見つからず、手頃な32型で我慢です。なによりお財布に優しいので!!
2010/11/17

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-00【呪地】月ノ章 2-00【呪地】―ミュークSIDE― 「テトラモルフ大灯台か……。 一時、身を隠すには最適適やもしれぬ。 じゃが……いや、今は何よりも時間が惜しい。 ここは素直にルムの意見を採らせともらうとしようかの」 僅かな逡巡を振り払うようにミュークが意を決すると、 「そ、それじゃ。 早く行きましょう」 その場で急かすように足踏みをするレムリア。 一行は夜灯火に誘われる夏虫のように、上天に輝く大灯台の灯明を目指す。 暫くの間、何事もなく獣道とも水の通り道ともつかない泥濘を注意深く徒行していると、先頭を歩くプルミエールが口を開いた。 「それにしても、キモチ悪い水溜りですね。 真っ赤かです」 プルミエールは膝上まで鮮血色に染まった聖職衣の裾を捲り上げると、小さな声で低く唸る。 「ほう、この暗闇のなかで水の色がわかるのかや?」 ミュークは晒け出された少女の太股から視線を引き剥がすと、別種の関心を抱く。 「プルは大人だから当たり前です!」 プルミエールがおしゃまな感じで鼻を鳴らした。 「大人かどうかは別として、聖女の血縁となにか関係があるのやもしれぬな」 無論、人族にそんな便利な肉体的変異がないことはミュークも心得ている。 屍族の暗視眼を以ってすれば、夜間でも視界の確保は容易だが、物質の色彩を正確に認識することは難しい。 この人族の少女が宿す虹彩異色と何か関係があると考えて間違いないだろう。 「ええっ、この水赤いんですか? 全てが同系色に見えるのでわかりませんでした」 レムリアがプルミエールの疑問を受けて恐々と足元を見下ろしている。 「嘗て、ここら一帯は緑溢れる肥沃な大地だったと母上から伺ったことがある。 聖剣戦争末期、ベルムード三世が滅び際に放った呪詛が、この地の生きとし生けるもの全てを呑みこんだとされておる」 「それが真実だとしたら凄まじいですね」 レムリアが身震いするように、その短躯を更に縮こませた。 「そうじゃな。 真偽の程は確かではないが、この湿地帯の水源はこの地に攻め入った数千にも及ぶ人族の血液で出来ていると謂われておる」 ミュークの説話に思い当たることでもあったのか再度、レムリアが口を開く。 「アセリエル大湿原に群生するルルワインが、赤い花を咲かせることにも何か関係があるのでしょうか?」 「気になるならどうじゃ、味見でもしてみるかや?」 振り向いたミュークは、悪戯を思いついた子供のように、にんまりすると、湿地帯に冠水した水塊の味見を提案する。 「い、嫌ですよ……絶対に」 毒見役をさせられては堪らないと、レムリアは両手をぶんぶんと交互に振って拒絶の意思を示す。 「つまらぬ奴じゃ。 長年寝かせた葡萄酒のように味わいが増しておるやもしれぬぞ?」 「そこまで言うなら、ミュークさまがご自分でどうぞ」 「こんな小汚い泥水を飲むわけがなかろう。 そもそも件の逸話が真実なら、このような豊かな生態系が形成されるわけもない」 ミュークはさも心外そうに呟くと、踵を返す。 どうやら自身の舌で吟味するつもりはないようだ。 「あ、あの……泥水って」 その場にポツンと取り残されたレムリアは、やり切れない理不尽さにがっくりと肩を落としている。 ミュークの興味が逸れたことには、ほっと安堵するが、何処か釈然としないようであった。 ともあれ、そんな他愛もない遣り取りが更に数回繰り返されて、流石のミュークもレムリアを戯弄することに飽き始めた頃、 「どうやら間に合ったようじゃな」 前方の夜闇越しに、黒々と聳える巨大な影が伺えた。 大地から感じる感触も変わり、長く続いた湿原での行程も終焉を迎えたようだ。 一行が更に進むと、大灯台を取り囲むように乱立する石柱郡が肉眼でも確認できるようになる。 「プルのお家(アダマストル王城)よりでっかいですね♪」 物珍しげに大灯台へと駆け寄ったプルミエールが、頬を紅潮させながらはしゃいでいる。 「目近にすると、流石に圧倒されるの」 大灯台は地上の全てを睥睨するような威容を誇っていた。 ==============================================
2010/11/13

※加筆+改稿箇所が多岐に及んだ為、通常形式で載せます※半角一万文字(タグ込み)を超えたので二つに分けます『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-00【呪地】月ノ章 2-00【呪地】―ミュークSIDE― 「わ、どひぃぃぃぃっ!?」 不細工な悲鳴を尻目に、ルムファムの手刀が“エサ”に喰いついた竜鳥の眉間を貫く。 粉砕された異形の頭蓋から脳漿と黒血が滝となって降りそそぎ、少女屍族の身体を斑に染め上げた。 「まったく、余計なものまでついて来おってからに……」 ミュークは小さく舌打ちすると、足場の悪い泥濘を蹴り上げるように歩を進めていた。 教会船を来襲したグリムデンの竜鳥の群れは、船から逸れた獲物を標的に選んだらしく、ミュークたち一行を追尾していた。 「むぅ……、あのデカ鳥、しつこいですねぇ」 プルミエールが頭上を旋回する竜鳥を見上げて仏頂面を形成している。 人族の少女は、ミュークの前方をバシャバシャと派手な音を立てながら闊歩していた。 船上でミュークが危惧した通り、夜の眷属である竜鳥は、嘗て主人であった大屍族ベルムード三世と同様の負の魂に惹かれているようだ。 もっとも、野生化した竜鳥に従属の意思は無く、本能のままに血肉を啄ばむ為にである。 「ミュークさまぁ。 後生だから、許してくださいぃぃぃ」 一方、一行の最後尾では先程から憐憫の声が宙を舞っている。 ルムファムが“エサ”を括りつけた巨大な丸太を振り回し、追いすがる竜鳥をあしらっているのだ。 無論、悲痛な訴えは、“エサ”役のレムリアからである。 「己の不手際が齎した現実じゃ、甘んじて受け入れるがよい」 振り向きもせずにミュークは、恩赦の要求を突っ撥ねた。 「オニ~、悪魔ぁぁぁ!!」 レムリアの罵詈雑言にミュークの柳眉がピクリと反応する。 「“エサ”役は公正に多数決で選んだのじゃ。 文句を云われる筋合いはないぞよ」 もっとも、公平感が著しく損なわた投票を、民主的解決と呼べればの話である。 「ル、ルム……、ボクはこの世でただ一人の血を分けた双子の“兄”だよ。 まさか見捨てるなんてことは―――」 ミュークの懐柔を断念したレムリアの矛先は、双子の片割れへと移る。 「ダメ、ワタシがおねーさん」 しかし、即断即決、別の理由で却下された。 殊この件に関しては、双子共に譲れない一線があるらしい。 そもそも、エサ役選抜投票で、レムリアはルムファムに一票を投じているのだ。 端から同情など買えるわけも無い。 「うぅ……」 俄かには名状し難い現実に直面したレムリアが苦しげに呻く。 配慮とか慈悲とか労わりとか、対人関係において本来あって然るべき要素が見当たらないのであった。 「牛ちち魔神と凶悪鉄仮面」 レムリアの恨めしげな呟きに、初めてミュークの歩みが止まる。 幸か不幸か、主人の逆鱗に触れる単語がそこに含まれていたのだろう。 「レム、哀しいことじゃが、世は無常、是非もなしじゃ。 それに、ワチキが頭脳、ルムが手足を担当すれば、残りはお主が担うしかあるまいて」 振り向いたミュークは、さも残念そうに首を横に振る。 「ボ、ボクの担当って……?」 「“不幸”じゃ♪」 ミュークがにっこり笑って目で合図する。 小さく頷いたルムファムは、丸太を無慈悲且つ冷酷に空高く晒しあげた。 その様は、上空で旋回する竜鳥に「さぁ、喰え」と云わんばかりであった。 「イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 レムリアの悲鳴に触発された数羽の竜鳥が、カチカチと赤黒い嘴を閉口させながら次々に滑空する。 「ひわっ」 屍肉を孕んだ鉤爪がレムリアの額に触れる寸前、ルムファムは丸太を無造作に放り投げる。 そして間髪置かず、懐から取り出した短剣の一振りで、最初に踊りかかってきた竜鳥を肉塊へと変貌させた。 更に続けざま、逃げ遅れた数羽の竜鳥がルムファムの短剣の餌食となった。 「相変わらず惚れ惚れする手並みじゃな。 さて、これだけ屍肉を誂えれば時間稼ぎには十分じゃ」 ミュークの思惑通り、一行がその場を離れると、生き残った竜鳥が沼地に舞い降りて、共食いをはじめていた。 「今のうちじゃ先を急ぐとしよう」 ミュークは投げ捨てられた丸太に歩み寄ると、後ろ手に縛られたレムリアの縄を解く。 「ゼェ、ゼェ……。 なんでボクだけこんな目に……うぅぅ」 漸くのことで開放されたレムリアは、息も絶え絶えにその場にへたり込む。 「むぅ……、なさけないですねぇ~」 プルミエールの歯に衣着せぬ物言いに微苦笑を浮かべるミュークだったが、概ねその感慨には同意見だった。 「レム、泣き言を言う暇があるなら脚を動かすのじゃ。 夜が明切る前に何処か身を隠せる場所を見つけねばならぬ」 ミュークが東の空に向かって顎をしゃくる。 薄霧の彼方、サドクリア山脈の稜線が微かに白み始めていた。 「えっ、あわわ……。 そ、そういえば、さっき海に落ちたせいで、陽除けの天然染料が剥がれ落ちてる!?」 レムリアはびしょ濡れの衣服の袖口を捲くると、ぺたぺたと肌の質感を確かめて青ざめている。 「光を遮るものがない広大な湿地帯で、昼日中を闊歩するのは自殺行為じゃな」 「ど、どうするんですか!?」 ミュークがしたり顔で不安を煽ると、これは効果覿面だったようだ。 レムリアは慌てて立ち上がり、狼狽した口調で尋ね返した。 「近くに人族の住む集落でもあれば助かるのじゃが、土地柄を考慮すれば期待は出来ぬな」 サリナハーム南東部に広がるアセリエル大湿原は、大陸最大の湿地帯である。 この広大な水域は、ルルワインなどの固有植物、黒古亀や沼地鹿などの小動物から、大型肉食獣までが生息する動植物の宝庫として名高い。 加えて東部未踏地には、首刈り竜や一角蜥蜴など、危険な竜亜種も巣食っており、ここら一帯は人間が住むには適していない。 現状を打破する効果的な妙案が思いつかずミュークが押し黙っていると、 「大灯台」 ルムファムが北西の空を指差す。 霧が晴れると、大灯台が戴く巨大な黄昏色の焔は一層その輝きを増したようだった。 ==============================================
2010/11/13
伝奇モノの方が一段落したので、こちらも小説モドキの推敲を終わらせて早く続きに移りたいと思います。どうも、どちらかで本編を書いていると、もう片方で、絵を描いたり推敲していることが多くなってきました。絵の場合は、ジャンルが違っても問題なく描けるのですが、執筆系は、一度頭のなかをゼロにしないと、再始動できないので厄介です。絵は暇つぶしに描けるけど、文章は、構えないと書けない感じです。内容はどちらも低レベルですけどね(汗)でも、いつの日かきっと……
2010/11/11

ヴィルヘルム・アンスバッハ主席枢機卿です。原画の段階では、髪がフサフサだったのですが、彩色時、急にツルピカにしたくなり、禿散らかしましたヾ(▼ヘ▼;)12個連続で制作したので、流石に疲れました。デフォGIFアニメ制作は暫くお休みします。光ノ章シャルロットミルフィーナエドゥアルト人族(16歳)人族(18歳)人族(19歳)ファティマアルフォンヌ人族(22歳)屍族(クビビト)月ノ章ミュークレムリアルムファム屍族屍族屍族プルミエールアリエッタバルバロト人族(12歳)人族(13歳)人族(40歳)血ノ章ラグナウェルラールウェアアーネル半屍族屍族屍族グラトリエル屍族その他アーデルハイトレイチェル屍族屍族うむ、かなり増えました(`・ω・´)でも、現時点で登場している人物の半分も描けてないのですけどね。二十二人の大屍族と、それに付き従う屍血姫が其々二人ずつ、系四十四名。近しい血縁など全てを合わせると、屍族だけでも、考えたくない数字になります(汗)
2010/11/09

剣聖レイチェル・レオンハートです。レイチェルは、同人(漫画)の方で、第一話の敵役として登場していたので、彼是、6年以上の付き合いです。当時はソロモン72霊の一柱・氷魔ウェパルとして、†COB†移植後は、氷剣ウェパルを携えた大屍族としてです。このブログでは数年前に、簡易設定を書いてますが、血統アルカナ:正義継承血族:レオンハート/現当主:レイチェル(外見年齢17)能力:契約の剣己が『悪』と定めたモノに対する絶大なる力(※心に迷いがあれば発揮されない能力)明らかに、主人公補正な能力です(*゜∀゜*)y-~~~
2010/11/05

アチラ側では印刷所のスケジュールを確認する時期な今日この頃。教会船の船長なのに、海賊船の首領っぽいバルバロトさんです。彼の過去は結構複雑な設定だったりしますが、そこら辺はアリエッタが聞き出してくれる筈です(笑)
2010/11/02
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