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シャルロットのGIFアニメを作ったので同じ主人公としてミュークverも制作しました。今回悩んだ点は胸の大きさだけですが、この動き・このネタだけは、あのキャラの為に残しておきたいといった気持ちがあり、構想段階で躓くことも多々です。ブログ掲載時の一画像辺りの容量限界もあるので、レイヤの枚数もあまり増やせませんしね。ただ、その辺はある程度の制限があった方が逆に創りやすいといった利点もあります。どっちやねん(笑)
2010/09/28

シャルロット・リュズレイのデフォ絵(GIFアニメ)を作成致しました。キャラの性格を考慮した上で描いているのですが、形式上は聖女ということで祈りのポーズです。新キャラ追加ということで、脈略もなしに過去GIFアニメも掲載。 シャルロット アリエッタレムリアアーデルハイトルムファムプルミエールアーネル・・・コレはボツるか迷いどころ、
2010/09/25

以前、製作したアリエッタの歩行アニメGIFがあまり可愛くなかったので、髪跳ねや、頭身などに修正をいれてみました。ただ、そのままだとアレなので座りverで作り直しています。
2010/09/23

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-05【脱出】月ノ章 1-05【脱出】―ミュークSIDE― 「ぐすっ……だって何処も彼処もびしょぬれで……とても、火なんてつけられなくて……。 そ、それに変な鳥が……急に飛んできて……」 レムリアは肩を震わせながらしゃくりあげている。 「そ、そうか。 せ、精一杯やったのなら仕方なかろう。 失敗は誰にでもあるからの」 ミュークはレムリアから視線を逸らすと、気まずそうに頬を掻く。 どうやら命じた本人が霧の影響を計算に入れていなかったらしい。 「ミュークさま……、今日はなんでそんなにお優しいのですか?」 レムリアは驚いたように頭を跳ね上げる。 優しく労わるミュークの声に、深く感じいるどころか不審の眼差しを浮かべている。 「ワチキが優しいといけないのかや」 少し憮然とした口調で返すミューク。 「だ、だって……、普段のミュークさまなら問答無用でど突き回した挙句、海に投げ入れるぐらい日常茶飯事なのに……」 そこで、はたと気づいたレムリアが硬直する。 「ま、まさか、散々弄んでおいてポイ捨てするおつもり―――むがっ」 ミュークの鉄拳がレムリアの顔面に命中。 「ひ、人聞きの悪いことを申すな! ワチキがそんなことするわけないじゃろう。 それに、優しいのは生まれつきじゃ」 言動の不一致から些か説得力に欠けるが、ミュークは至極当然といった口調である。 「そ、それで、ミュークさま。 そちらは……、もしかして聖女シャルロットですか?」 鼻面を抑えながらレムリアが尋ねる。 これ以上この話題を長引かせても損をするだけだと判断したのだろう。 なら最初から深入りしなければ済む話なのだが、浮かんだ疑問を口にせずにはいられない損な性分であった。 「むっ!? シャル姉さまはプルのだからあげませんよっ!」 プルミエールが肩を怒らせて反応する。 どうやら、聖女に関連する単語が琴線に触れる仕組みらしい。 ミュークは再び無益な問答を繰り返そうとする人族の少女を手で制すると、 「いや、この娘はアダマストル公国の第二王女プルミエール・リュズレイじゃ」 「うみゅ、よきにはからうです♪」 ミュークの紹介を受けたプルミエ-ルが態度だけ王族の風格で無い胸を張った。 「えっ、え~と、その……宜しくお願いします」 レムリアは頭に疑問符を浮かべながらもペコリとお辞儀をする。 だが、こそこそとミュークの耳元に口を近づけて、 「なぜ聖女シャルロットではなく、その妹君を?」 「そういえば、忘れておったわ」 ミュークは思い出したようにレムリアの脳天に拳骨を落とす。 「あぐぅ……、いきなり酷いですよぉ」 レムアリがたん瘤のできた頭を抑えながら抗議の声をあげる。 「当然の報いじゃ。 聖女はこの船には乗っておらなんだぞ。 まったく、とんだ誤情報を掴ませおってからに」 ミュークの口調は厳しい。 もっとも、最終的な決断を下した負い目もあり、手加減はしている。 「で、でも、さっき、誰にでも間違いはあるから仕方ないって……」 「それを真に受けたワチキの浅はかさに腹が立つから殴ったまでじゃ。 ワチキは自分自身には厳しいのでな」 無茶苦茶な自己理論を展開するミュークに、レムリアは「それならご自分を殴ればいいのに」などと心の中で思ったが、勿論口にはしない。 というか、出来ない。 「それに、その様子では脱出手段も確保できてはおるまい」 「うっ……」 図星を指されてうろたえるレムリア。 確かに仕置かれて当然のように失態を繰り返していた。 「使えない下僕ですね」 「同意」 プルミエールがレムリアを扱き下ろして、今度はルムファムが同意する。 性格は真逆のように見えるが、内心で考えていることは同じらしい。 「そもそも―――ムグ!?」 二の句を継げかけたプルミエールの身体が崩れ落ちる。 ミュークは当身で気絶させた小さな体を物陰に引っ張り込む。 瞬時に双子の屍族も後に続いた。 「最初からこうするべきじゃたな」 今し方居合わせた位置に主柱の物見台から投光が投げかけられていた。 所々に設置された角灯や篝火の明かりも霧の影響で弱々しい。 光源から数歩離れれば暗がりになっている為、夜目が利かない人間相手ならば見つかる心配はないだろう。 息を潜めていると、案の定、周囲は再び闇に閉ざされる。 「これ以上、この船に長居は無用なようじゃな」 如何に百戦錬磨の水夫とはいえ、視界が悪い上に空を自由に飛び回る敵が相手では些か分が悪いだろう。 なにより、レムの件もあり、竜鳥の襲来にミュークたち屍族の存在が無関係とは言い難い。 この上、船が沈みでしようものなら、流石に目覚めが悪かった。 「で、でも、どうやって航行中の船から? 下は海なんですよ」 レムリアが至極もっともな質問をする。 「教会船ともなれば緊急避難用の小型艇ぐらい常備してある筈じゃが、今はそれを探している暇はあるまい」 ミュークは落下した竜鳥に歩み寄ると、暗紫色の羽毛に覆われた眉間に指先を突き立てる。 僅かな脈動と共に暖かな血流が派手に飛び散った。 「ふむ、まだ息はあるようじゃな。 では、役に立って貰うぞ」 覚醒した竜鳥が苦悶から跳ね回り、迫害者を啄ばもうと身を捩る。 翻された前脚がミュークの首筋を掠めた。 「ミュークさま!?」 「心配は要らぬ」 驚いたレムリアが駆け寄ろうとするが、ミュークはそれを手で制した。 『我が血の一滴は、不滅なる契約となりろう』 ミュークは胸元に垂れ落ちた血液を指先で拭うと、それを竜鳥の躯に塗りつける。 すると、竜鳥の巨躯が痙攣するように蠢き、牙を抜かれたように大人しくなる。 「命じる―――ワチキを最寄の陸地へと運ぶのじゃ」 ミュークの両眼が冥紅に染まっていた。 血統アルカナ“女教皇”の三能力の中でも最たる力を宿す“精神操作”である。 この能力は術者の血液を触媒に、絶大なる強制力を対象の精神に植付けるものであった。 「レムとルムもワチキの身体に掴まるのじゃ」 ミュークはプルミエールを小脇に抱えると、脱出用に用意した布束を竜鳥の首回りに巻きつける。 竜鳥が大きく咆哮して両翼を羽ばたかせ始めた。 「まさか、これで逃げるおつもりですか!?」 レムリアが目を白黒させて訊ねる。 屍族特有の色白の肌から血の気が引いて、輪を掛けて青白くなっていた。 もっとも、竜鳥の胃袋に収まりかけた経緯があるので、腰がひけて当然である。 「ああそうじゃ。 泣き言など聞いておる暇はない故、さっさとせぬか」 「で、でも……」 ミュークが強く促すが、レムリアの反応は煮え切らない。 「仕方ない。 ルム、やるのじゃ」 コクリと頷いたルムファムが、まごつくレムリアの首根っこを鷲掴む。 そして、竜鳥が船縁から飛び立つ瞬間、間一髪で巨体へと飛び乗る。 「って、ひぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ~~わぁぁぁああ……」 竜鳥はぐんぐん上空へと舞い上がっていく。 「どうじゃ、なかなかに爽快な脱出劇じゃろう」 「行き当たりばったりの間違いではないですか」 レムリアが珍しく明確な反論に転じる。 「だいたいレムの失態が原因なのじゃから。 見苦しいぞよ」 などと、緊張感の無いやり取りが続く。 暫くすると霧の彼方にイプス岬の稜線が浮かび上がっていた。 岸壁付近の海面には、まるで巨大な魔物に食い散らかされたように船の残骸が数多く横たわっていた。 近海で座礁した船が海流の影響で流れ着いているようだ。 「あ、あのミュークさま、心なしか高度が下がっているように思えるのは気のせいでしょうか?」 レムリアの言葉通り、竜鳥の羽ばたきも不安定なものへと変わっていた。 「心配するなや。 イプス岬近海は船の墓場と呼ばれる岩礁地帯じゃ。 少しばかり水に浮かなくとも、どうにかなる」 ミュークの返答はごく近い未来を予期していた。 「え~と、ボクが訊きたいのはそういうことじゃなくて……。 そもそも、なぜ落ちることが想定済みなのですか?」 汗だくで真意を質すレムリア。 「元々竜鳥の巨躯は空を飛ぶには適しておらん。 その上、余分な重しを四つも付けておるのじゃ。 順調に飛行しろと云うほうに無理があるじゃろう。 なにより、この竜鳥は怪我まで負い、まともに動ける状態ではなかった。 以上の事実から凋落といった結論が帰納される」 ミュークは多角的な見地から断言してのけた。 「そんなの嫌だぁぁぁぁぁぁ……」 レムリアの悲鳴が岸壁を削る波の音に混じって消えた。 「はて、なにか大事なことを忘れている気がするの……」 ミュークは暗い海に身を投げだされてから、そう自問したが、結局答えは得られなかった。 ==============================================ほぼ新しい話を書いた気分です(汗)時計台での試練で使用したい描写がある為に、ここで“精神操作”の布石を敷いておきました。
2010/09/22

※改稿箇所が多岐に及んだ為、通常形式で載せます★部分が新たに追加された演出です。プルミエールを連れて船室を脱出↓大灯台の視認と竜鳥の出現↓★甲板で竜鳥に襲われる↓双子と合流(★レムリアは竜鳥の口の中で発見)↓★竜鳥に血統アルカナ『女教皇』の“精神操作”を行使↓★竜鳥に乗って脱出↓海に飛び込む(落ちる)『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-05【脱出】月ノ章 1-05【脱出】―ミュークSIDE― ミュークの視線の先では、プルミエールがそそくさと旅支度を始めていた。 その場に同性しか居ないとはいえ、ポンポンと衣服を脱ぎ捨てる人族の少女に、王族としての気品や威厳は皆無である。 「(否、誠に王侯貴族らしい厚顔無恥な気質を兼ね備えているのか)」 ミュークが下手な感慨に浸っていると、警戒を喚起する銅鑼の音が耳朶を打つ。 警鐘が掻き鳴らされる度に、教会船の空気が徐々に張り詰めていった。 「レムの方も準備が整ったようじゃな」 ミュークが独り言つ。 レムリアには帆に火を放ち小火騒ぎを起こせと命じていた。 船員の注意を惹きつけることが目的だが、度を越せば逆効果である。 早々に脱出を計らねば手遅れになるだろう。 「では、こちらも逃走経路を確保せねばならぬな」 ミュークは名残惜しそうに目の保養を打ち切ると、足早に窓際へと移動する。 遥か遠方、深い霧越しに見上げる漆黒の中、巨大な黄昏色の焔が視界に灯る。 「古の炎……テトラモルフ大灯台か」 屍族の目を以ってしても、夜闇と霧に閉ざされた外形を視認することは適わない。 だが、その存在は遥か天空に輝く灯明が証明していた。 有史以前、黒歴史と呼ばれた時代に、この巨大な塔は築かれたとされている。 しかし、大灯台に関する知識は、その監視者であった大屍族グリムデンの血統と共に絶たれていた。 一部の秘蔵書が、教皇庁アレシャイムの大図書館に保管されていると噂されるが、真意の程は定かでない。 「主が滅びても尚、その輝きは失われぬか」 ミュークが廃れた哀感を零す。 大灯台が頂く灯台光の正体は“古の炎”と称される巨大な蛍輝石である。 蛍輝石は脈動する瞬間、強烈な単一色の光を放つ。 それは純粋で波長が長い分、視程の短い霧中でもよく透る。 船の墓場とされるこの海域を突破するには欠かせない道標であろう。 「ん?」 その時、ミュークの視界の端に夜よりも暗い影が映りこむ。 ゆっくりと両翼をうねらせながら船央楼の上空を旋回する巨大な飛影。 「グリムデンの竜鳥!?」 ミュークが暫し呆然と立ち尽くす。 “グリムデンの竜鳥”とは大屍族ベルムード三世がこの地に放った夜の眷属である。 貪欲そうな狂眼に長く鋭い嘴、蝙蝠の翼と巨躯を誇る夜行性猛禽類で、醜く曲がった鉤爪には猛毒を備えていた。 常に群れで行動する習性を持ち、大型の肉食獣、時には人間をも捕食する危険な古来種である。 「なるほど騒ぎの原因はこれじゃったか……と、すれば尚更急がねばなるまい」 ミュークは窓辺を彩る紗布を数枚、力任せに引き抜く。 そして、布端を手際よく結び付けて縄状の束に仕上げる。 「これでよいじゃろう」 ミュークは満足そうに頷くと、両手に布束を抱えたまま露台へと続く硝子扉を開け放つ。 「レムがこの騒ぎに巻き込まれておらねばよいが……」 聡い少年であるから人族に捕まるようなドジは踏まない筈だ。 だが、一方で不幸を呼び寄せる妙な資質がある為に、突如現れた怪鳥の胃袋に収まっている可能性も捨てきれない。 なにより、ミュークには一抹の懸念があった。 竜鳥の生育域は大灯台周辺に限られており、海上の船舶を襲うことは稀である。 主であるベルムード三世と同等の負の魂―――つまりミュークと双子の存在に惹かれて、この教会船を襲来したのかもしれない。 ミュークは船室でプルミエールを見張らせていたルムファムを呼び寄せると、 「ルム、甲板に降りてレムを探してくるのじゃ」 ルムファムはこくりと頷くと、露台から幅広の欄干にふわりと飛び乗る。 次の瞬間、その姿は闇に溶けて忽然と消えていた。 ミュークは上甲板を注視するが、夜の闇をも見通せる屍族の暗視能力も、陰鬱な霧に閉ざされた空間では大して役には立たなかった。 知覚できるのは、人の動きに合わせて踊る角灯の淡い光と、耳障りで鬱塞な喧騒だけだ。 「ルムの前世は軽業師じゃろうか……」 ミュークが捻りのない物思いに耽っていると、 「プルは赤いのが良かったです」 背後から不機嫌そうな声と共に黒法衣を纏ったプルミエールがやってくる。 目元の化粧は落とされ、今は頭の左右で結われた長い金髪も解いていた。 アダマストルの王族であるプルミエールには上位聖職者用の紅い法衣が給されていた。 だが、夜闇に乗じて行動できるようにと、アリエッタに配給された黒地の下位法衣に着替えさせたのだ。 本来、聖職位階とは身分や血統に左右されない、神聖で冒すべからざるものである。 しかし、大部分の高位聖職者は世俗権力と結びつき腐敗しきっていた。 プルミエールに対する厚遇もそういった背景が少なからずあるのだろう。 「この船を無事に降りたいのならば、我慢するのじゃ」 ミュークは少女の望みを引き合いに説き伏せようと試みる。 「ぶぅ~。 コソコソするのはもっとキライです」 プルミエールは不服そうに頬を膨らませる。 どうやら現状把握能力に欠陥があるようであった。 「今しばらくの辛抱じゃよ。 それで人族の娘よ、其方はこれを使い下に降りのじゃ。 今、欄干に括りつける故、そこで大人しく待っておれ」 ミュークは布束を掲げると、命綱を用意する為に露台欄干へと歩み寄る。 「うにゅ。 わかりました―――とうっ!!」 可愛らしい気合声。 振り向いたミュークが止める間も無くプルミエールは宙に身を躍らせていた。 特等船室は船央楼の最上階、上甲板から数えれば三階の高さに位置する。 そのような高みから、生身の人間が飛び降りて無事で済むわけがない。 「だぁ~、待つのじゃ!」 狼狽したミュークが急ぎその後を追う。 上甲板に降り立つと、すぐ目の前にプルミエールがいた。 「うぐ……ぐぅぅ」 プルミエールは痺れた両脚をガクガクと痙攣させながら苦しげに呻いている。 着地には成功したようで、表立った怪我はしていないようだ。 ミュークはプルミエールの人間離れした身体能力に唖然としながらも、ほっと胸を撫で下ろした。 「いったい、なにを考えておるのじゃ、一歩間違えれば死んで―――」 そこまで言って、ふっとミュークの顔から表情が消える。 ―――血の匂いを嗅いだからである。 「ちっ、此方も気づかれたようじゃ」 鼓膜を揺さぶる重々しい羽ばたきに、ミュークが頭上を振り仰いだ。 一匹の竜鳥が血風を巻き起こしながら急降下してくる。 「大人しくしておれよ」 ミュークはプルミエールの首根っこを掴まえて真横へと跳躍した。 その後を追うように、巨大な影が低空から迫る。 「な、なんですか。 アノでっかい鳥!?」 プルミエールが楽しげな声で訊ねてくる。 「黙っておれ、舌を噛むぞよ」 反転したミュークが船縁を蹴り、強襲する鉤爪の下を間一髪で潜り抜る。 プルミエールを抱えたままで攻勢に転じるわけにもいかず、再び体勢を立て直して身構える。 だが、終局は呆気なかった。 目標を喪失した竜鳥が、勢いを削ぎ切れずに船縁へと激突したことで、一方的にも思えた戦いは決着をみた。 「それでルム、お主は何をやっておるのじゃ?」 甲板に横たわる巨体に唖然としながらも、ミュークはもっと別の疑問を口にする。 竜鳥の背に見慣れた人影を認めていたのだ。 「喰われた」 ルムファムの返答は端的でわかり易い。 「誰か~。 助けて……ください」 巨大な嘴の間から、此方も聞き慣れた声。 ミュークは竜鳥の口内から漂う悪臭に顔を顰めながらも、中からレムリアを引っ張り出す。 「その様子では、ワチキの言付けは遂行しておらぬのじゃろう?」 「うっ、うぅ……ぅ……、申し訳ありません」 レムリアは澄んだ碧眼に涙をいっぱいに湛えていた。 「泣き虫」 と、ルムファムが融通無碍に切り捨てる。 「まったくですね」 その横でウンウンと頷くプルミエール。 こちらも初対面のレムリア相手に遠慮会釈がない。 屍族と人族、種族は違えど二人の少女の間に奇妙な連帯感が生まれていた。 ==============================================
2010/09/22
喉風邪なので最悪です。風邪といえば、「馬鹿は風邪をひかない」という慣用句がありますが、あれって、愚鈍な人間は、風邪を引いたことにすら気が付かないという意味だったのですね(汗)てっきり、馬鹿には風邪の菌すら寄り付かない的な語意だと思ってました。今まで意味も知らずに使い続けていました┃壁┃∀`)ヨキニハカラエ
2010/09/20

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-04【妹姫】月ノ章 1-04【妹姫】―ミュークSIDE― 「御免するのじゃ」 ミュークは突然の乱入者に目を丸くする金髪の少女に向き直る。 腕を伸ばしてドレスの胸元を掴むと、力任せに引き裂いた。 「うにゃ!!」 緊張感の欠如した声。 四散したドレスの内側から覗く幼い肌。 折れそうに細い首筋から、膨らみはじめた胸の谷間までが露になる。 「……やはり」 ミュークは最悪の予感が現実になり言葉を失う。 そこに霊環アシュタリータは存在しなかった。 聖女と霊環は対なるものであり、一見してそれとわかる聖女の御璽(みしるし)である。 聖女アルジャベータの血と力を最も色濃く宿すリュズレイの一族に誕生した嫡女は、赤子の砌から成人の儀を行う十六歳の誕生日を迎えるまで霊環を外すことを許されない。 いや、外すことが適わないと例えるべきか。 霊環は聖女足り得る資質を持つ者が身に付けると、一定の因果を踏まねば外せない呪具でもあったからだ。 どちらにしても、ここまで用意周到に準備を重ねた計画が最終段階になって、「実は人違いでした」などといった理由で納得できるわけもない。 「な、なな……、なんですかその目は! プルのおっぱいは“栴檀は双葉より芳し”で未来志向なんですからね!!」 金髪の少女は両手で胸元を覆い隠すと、狼狽した声でまくしたてる。 どうやら、ミュークの態度が別種の誤解を与えてしまったようである。 もっとも胸と同様に頭のほうも足りていないらしい。 貧弱な胸の隆起の未来を願うなら、ここは大器晩成と擬えるべきだ。 言葉通りなら、お先真っ暗だと宣言しているようなものである。 「ムカー、この牛チチ女め! なんとか言いなさいです!!」 金髪の少女の敵愾心は自己主張の激しいミュークの双球にも向けられる。 大き過ぎる乳房に真逆の劣等感を抱いているミュークに対して、理不尽極まりない物言いであった。 「う、牛チチ……!? 大は小を兼ねるという諺を知らんのか! 大きい方が断然偉いのじゃ!!」 心底を鋭く抉る罵詈雑言に、ミュークもようやく我に立ち返ったようだ。 だが、冷静さは置き忘れてきたようで、子供の喧嘩になっている。 「あーいえば、こーいう、まったく大人げないです」 金髪の少女は地団駄を踏みつつ、大きく両頬を膨らませていた。 元々、大きな胸に憧れている分、大小の論争に関しては攻め手に欠いているようだ。 「元はといえば其方が―――くっ、まぁ……よい。 娘よ、名はなんと申すのじゃ?」 ミュークは逆上しかけた精神を抑えつけると、多少ひび割れた声で尋ねた。 「なんですかいきなり」 金髪の少女はさも迷惑だと言わんばかりに―――いや実際その通りなのだが、胡散臭そうにミュークを睨め付ける。 「答えるのじゃ」 一方、ミュークは目前の少女に多大なる興味を抱いていた。 愛らしい容姿に野生の肉食獣並みの運動能力を兼ね備え、高貴な生まれと思いきや、まるで教養が無い。 この人族の少女は相反する要素を兼ね備えた規格外の偏物だった。 「アリアリのことは、まーいいです。 でも、プルのおっぱいをバカにしたことはゆるさないです!」 「ん? プルとな。 其方はまさか……プルミエール・リュズレイ。 アダマストルの第二王女なのかや?」 突込みどころは満載であったが、ミュークの驚きはその一点に向けられた。 「むむ、なぜプルの名前を!?」 「いや、其方が名乗ったようなものじゃろう。 しかし、恐れ入ったわ。 よもや、第二王女を囮役として利用するとは思わなんだ。 存外食えぬ輩が人族にもいるようじゃな」 ミュークは謀れたことに憤慨するどころか、半ば感心していた。 「しかし、そうなると聖女シャルロットは陸路を選んだのか。 残念だが、教皇庁への道程内で拐かす機会は失われたようじゃな」 「シャル姉さまはプルのですから欲しくてもあげませんよ!!」 プルミエールが鼻息も荒く殺気全開で身構える。 どうやら、琴線に触れてしまったらしい。 目の前で肉親の誘拐計画を聞かされたのだから当然と言えば当然の反応である。 「まぁ、待つのじゃ。 ワチキたちは霊環アシュタリータさえ手に入れば、其方の姉君を害するつもりはない。 寧ろ愛でたいぐらい―――いや、なんでもない」 ミュークは余計なことまで口に仕掛けてひとつ咳払いをする。 もっとも、差し当たり実害はないと判断したのだろう。 本来の目的の方はあっさりと口外していた。 「アシュたーにゃ……にゃ。 うみゅ、それはシャル姉さまがつけている首輪のことですか?」 プルミエールは左右に首を傾げながら、考えるような仕草を見せている。 小さな身体が揺れる度に、胸元から覗く桜色の先端がミュークの目を惹きつけていた。 「そのようじゃな」 よって、返答も心ここにあらずの状態。 実に厄介な性癖である。 「うみゅ。 プルをこの船から降ろしてくれたら、その首輪をあげてもいいですよ」 プルミエールはポンと手を打つと、突拍子も無い交換条件を持ち掛けてきた。 「……ああ、そうか―――って、なんじゃと!?」 ミュークは口をあんぐり開いたまま唖然とする。 「(どういうことじゃ? このような無益な取引になんの意味がある。 あきらかに得をするのはこちらだけではないか……)」 ミュークはプルミエールの真意を計り損ねていた。 冗談と解釈するのが妥当ではあるのだが、目が本気なのである。 だが、例え王族であっても国宝でもある霊環アシュタリータを個人の一存でどうにかできるとは到底思えない。 なにより必然的に取引が成立するまでプルミエールを手元に置くことになる。 本人の意思で同行する以上、内から生じる問題は少ないだろうが、周囲の人間はそうもいかない。 一国の王女が忽然と姿を消すのだ、国内のみならず大陸全土に厳重な検問体制が敷かれる筈である。 そうなれば大幅に行動が制限されることになるだろう。 「(だが、ここでこの娘を手放すにはあまりにも惜しい……)」 ミュークは内心で抱く苦慮とは裏腹に、別の可能性も同時に考えていた。 プルミエールの利用価値である。 巧く立ち回れば聖女を誘きだす餌ともなりえる存在だ。 「いいじゃろう。 それで手を打つとしよう」 ミュークは心中の葛藤とは裏腹に、思いの他あっさりと結論付ける。 そして、柔らかく微笑すると、プルミエールに向けて右手を差しだす。 それが人族間で用いられる友好の証だと心得ていたからである。 「うみゅ。 アリアリもついでに持っていくので良きに計らいなさいです」 しかし、当のプルミエールは無意味に踏ん反り返ったまま偉そうに命令してきた。 ミュークは空振りした掌を眺めて、早々に後悔をはじめていた。 ==============================================
2010/09/19

※改稿箇所が多岐に及んだ為、通常形式で載せますちょっぴりHぃ描写と共にプルミエールの出番を大幅に増やしたので、題名を1-4【取引】→1-4【妹姫】に変更します。『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-04【妹姫】月ノ章 1-04【妹姫】―ミュークSIDE― 「むむっ、アレはなんですか? アリアリ」 コルセット風ドレスを纏った金髪の少女が、剣呑な面持ちで扉口を指差す。 「え~と……はい、確認してきます」 アリアリと名指しされた栗髪の少女が危なっかしく走りだす。 手足をドタバタとせわしなく動かす姿は、宛ら羽ばたきの練習をする雛鳥のようである。 そして案の定というか想定内に、毛足の長い絨毯の切れ目に足をとられて蹴躓いた。 「はわっ!!―――ンガっ」 そのまま受身もとらずに顔面を板床で強打する。 伏したままヒクヒクと痙攣を繰り返す小さな身体。 「だ、大丈夫かや?」 流石に居た堪れなくなったのかミュークが尋ねる。 「だ、だいじょうぶ……です」 栗髪の少女はよろよろと立ち上がると、震えた声で返答する。 間近にすると、眠たげに垂れる目元と寝癖のような跳毛が印象的な少女だ。 潤んだ碧眼が捨てられた子犬のようでもある。 キラリと光る広めのおでこが真っ赤に腫れあがっている点はご愛嬌だ。 「あ、あの……、わたしはアリエッタ・ルーンフォルテと申しますぅ」 栗髪の少女は間延びした声で名乗りをあげる。 それから、威儀を正して深々と頭を垂れた。 この丁寧な返礼は、名を示したミュークに対してだろう。 頼りなさそうな外見とは裏腹にしっかりとした礼節をわきまえているようだ。 「……ん?」 ミュークの視線がアリエッタの纏う上衣に留まる。 そこに描かれた紋章は、レムリアが齎した資料にも記載されていたものだ。 ―――聖剣を模した十字に身を絡ませる飛竜 「(この紋章は確か、聖アルジャベータ守護騎士団の意匠。 なるほど、見掛けで判断すべきではないということか)」 ミュークが顎をしゃくって合図すると、背後に控えたルムファムの碧眼が淡い燐光を発する。 「へっ?―――むがっ」 次の瞬間、アリエッタの視界は天地が逆転する光景と共に闇に閉ざされていた。 跳躍したルムファムの両脚が蛇のようにアリエッタの細首に巻きつき、ふたり分の体重を乗せて床に捻り倒したのだ。 哀れ、碌な受身もとれなかったアリエッタは冷たい床の上で目を回している。 「か、勘違いじゃった可能性も否めぬな……」 ミュークの頬を冷たい汗が一筋、二筋と伝っていく。 確かにルムファムの手並は見事である。 しかし、聖女の守護役がこうも簡単に打ち倒されるとは到底考えられない。 そんな感慨を抱いたミュークであったが、それは当たらずも遠からず。 アリエッタはまだ見習い騎士の身分であった。 「なっ!? アリアリになんてことを!!」 金髪の少女が、頭の左右で結われた髪束を逆立てながら突進してきた。 どちらにしても後には引けぬ状況らしい。 「ルム、先ほども申したが、出来る限り手荒な真似は―――」 しかし、皆まで聞かず、ひと呼吸で金髪の少女に肉薄するルムファム。 そのまま無防備に晒されたわき腹に軽く左手を添えると、物言わぬ唇が鋭い呼気を放つ。 「にゅっ!!」 弾かれたように金髪の少女が大きく後ろに吹き飛ぶ。 ルムファムは突きだした左腕をそのままに、無機質な碧眼を細めて前方を見やる。 「ううん……あう~」 金髪の少女は小さな呻き声を洩らしながら頭を抱えて床に蹲っていた。 大股を広げた状態で尻餅をついている為に、白い太股と可愛らしい純白のショーツが丸見えである。 「ほう、ルムの攻撃を躱すとはなかなかやるのう」 ミュークが関心したように呟く。 その言葉通り、ルムファムの寸打が放たれた瞬間、金髪の少女は後方に飛び退いて威力を和らげていた。 東方に伝わる格闘術に「浮身」と呼ばれる武術の極意があると伝え聞くが、恐らくそれに近い重心制御を行ったのだろう。 ちなみに、勢い余って円卓の角に後頭部を強か打ちつけたのは、ただの誤算である。 「いきなりコブシで語りあおうとは……。 “じょーしき”というものがないのですかっ!!」 怒気を孕む声、金髪の少女の足蹴りがルムファムの足元を薙ぎ払う。 猪突猛進、退くことを知らないルムファムが珍しく後方に下がる。 ミュークが見守る中、金髪の少女とルムファムの攻防が更に続く―――両者とも、まるで神舞を舞うが如くしなやかな動きだ。 それは野生動物が本能のままに戦う姿を連想させた。 「大したものじゃな」 ミュークは素直に感心する。 もっとも、ルムファムが手加減していることは明らかだ。 しかし、それを差し引いても、身体能力に秀でた屍族とここまで渡り合える人間など、そうそういるものではない。 それが年端もいかぬ少女であるなら尚更である。 「(んっ、年端もいかぬ?)」 ミュークは抱いた思惟にどこか引っ掛かるものを感じた。 聖女シャルロットは当年、成人の儀を迎える妙齢の娘である筈だ。 冷静になれば聖女だと憶測したこの金髪の少女は、噂に聞くシャルロット・リュズレイの様相とはかけ離れていた。 「まさか……まさか、まさか―――」 ミュークは念仏のように連呼しながら二人の少女の戦いに割って入る。 そして、左右から迫る両者の拳を交差させた掌で受け止めた。 ==============================================
2010/09/19

※改稿箇所が多岐に及びすぎました(汗)『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-03【聖船】月ノ章 1-03【聖船】―ミュークSIDE― 目下、教会船アメナディル号は不幸の集積場と化していた。 “とある人災”で乗組員には生傷が絶えず、心労で寝込む者が後を絶たなかったのである。 そして、その最たる被害者である船上司祭のザゼルは、別種の不幸を上書きされている真っ最中であった。 「さっさと脱ぐのじゃ」 ミュークは老司祭の喉元に仕込み短剣を突きつける。 赤裸々に脱衣を促しているが、勿論ミュークにそっち系統の趣味はない。 寧ろ真逆の性癖の持ち主である。 よって目当ては中身ではなく老人の纏う聖職衣。 ミュークは愛用の紅の長衣、ルムファムはフリル付きの漆黒のドレス、其々が場違いに目立つ装いを是正しようとの算段である。 偶々忍び込んだ船室で、この老司祭と鉢合わせて現行に到っていたのだ。 「ぶっかぶか」 ルムファムが丈の合わない袖口を振り回しながら不平を漏らす。 どうやら一足先に、老司祭の所持していた予備の聖職衣を着付けて貰っていたようである。 「我慢するのじゃ、そんな成りでも多少の目眩ましにはなるじゃろうしな」 ミュークは下着姿になった老司祭に馬乗りになると、紅の長衣の上から脱ぎたての聖職衣に袖を通している。 肉感的な娘が半裸の男に跨る姿は、傍から見ると淫猥な光景に見えなくも無い。 「無駄な抵抗はしないほうが身の為じゃぞ」 ミュークは寝台に横たわる老司祭に覆いかぶさるような体勢で更に警告する。 「そっ、其方何者だ!?」 「ワチキはミューク・ウィズッド。 ある目的を果たす為に罷り越した。 人族特有の社会制度から察するに、お主はその老い具合からも位の高い聖職者と見受けられる。 合縁奇縁に腐れ縁とも申すし、ワチキの役に立って貰うぞよ」 ミュークは慇懃に名乗りを挙げると、不気味に微笑む。 「やはり賊の類か!? ぐっ……っ」 ミュークの腕を振りほどこうと試みた老司祭の身体を、横合いから伸びた小さな手が寝台へと押し戻す。 驚いた老司祭が視線を横に向けると、流れるような銀髪の少女が枕元に佇んでいた。 ルムファムである。 ミュークは老司祭の軽率な行動に肩を竦めると、 「お主の命を主方自身がどう扱おうと勝手じゃが、老い先短い人生をここで終わらせたくはあるまい?」 ミュークは脅しをかけるように口調に凄みを効かせた。 更にルムファムが老司祭の喉元を圧迫して演出を添える。 相手を害する気など更々ない三文芝居であったが、当事者間ではご利益があったようで、 「な、なにが聞きたい?」 喉奥から絞り出されたような老司祭の声。 「ナイトクランで招き入れた客人は今何処におる?」 ミュークの質問に老司祭の顔に警戒の念が浮き上がる。 「……知らぬ」 老司祭は多大な時間をかけて一言そう呟いた。 この状況下で口を割らないとは、見上げた信仰心であった。 ミュークは苦笑すると、 「答えずとも良い。 ワチキの目を見るのじゃ」 ミュークの双眸に冥い紅色の輝きが宿る。 寝台に横たわる老司祭は魅入られたように視線を逸らす術を失う。 「―――くっ!?」 小さく呻いた老司祭の意識がまどろむように混濁する。 まるで心の奥底を覗かれているような不安定な感覚が年老いた精神を蝕んでいた。 たった今、ミュークが行使した“力”は、血統アルカナ【女教皇】の持つ“精神操作・意志伝達”と並ぶ“記憶探知”である。 この能力は対象者と視線を合わせることで発動条件を満たす。 暫くしてミュークは満足したように頷くと、 「船央楼上層の特等船室……、そこにおるわけか」 「なっ、なぜ……」 老司祭の両眼が驚愕に見開かれる。 「お主がそれを知る必要はない」 ミュークが目配せすると、ルムファムの拳が老司祭の鳩尾に突き刺さる。 「がぁっ……」 潰れた苦鳴と共に老司祭の身体から力が抜け落ちた。 「潜心の深度が浅かった故、たいした情報は得られなかったが、この老人の記憶ではナイトクランで迎賓した人物は二人とある。 恐らくは一方が聖女で、残りは護衛者であろうな」 ミュークが質問の内容で対象を聖女と特定しなかったのには二通りの理由があった。 この老人が聖女に関する詳細を知らなかった場合と、聖女自身が身分を偽って船に乗り込んでいる事態に順応する為である。 更なる条件を満たせば、意識の深層に沈む失われた記憶すら呼び起こせたが、被体のみならず術者自身の負担も大きく実用性は低かった。 「誰か来たようじゃな」 ミュークの優れた聴覚器官が船内通路を歩く足音を捉えていた。 暫くして、船室の扉を叩く音。 「ザゼルさま、いらっしゃいますか? 少々、問題が起こりまして……」 船室の外から若い男の声。 「(問題……? レムの仕業かの……)」 ミュークは息を殺して、声の齎す情報に集中する。 だが、暫しの沈黙の後、室内からの応答がないことに諦めたのか、気配は遠ざかっていった。 問題とやらの詳細を掴み損ねたミュークは内心で舌打ちをする。 「問題とやらは気になるが、ワチキたちも先に進むとしようぞ」 長く同じ場所に留まれば発見される危険性が高まる。 扮装したとはいえ、船内を無闇矢鱈と動き回るわけにもいかず、迅速に事を運ぶ必要があった。 ・ ・ ・ 数刻後、ミュークとルムファムは、取得した記憶を辿り、目的地である船央楼上層に到達していた。 船内廊下は他の階層より幾分広めにとられており、突き当たりには目的地である重厚な扉が見える。 「好都合ではあるが、些か無用心じゃな」 呆れた口調とは裏腹に、船の墓場と呼ばれるこの危険海域で外敵への警戒が緩む事はミュークの思惑通りだった。 船の航行すらままならない岩礁地帯で、海賊や私掠船に襲撃される可能性はゼロに等しい。 乗組員の注意は外敵の侵入ではなく自然の脅威へと向けられている筈だ。 「ようやく、聖女とやらに拝顔賜れるわけじゃな」 ミュークは繊細な金刺繍の施された赤絨毯の上を大股で進む。 そして、特等船室の両扉が目と鼻の先に迫った時、唐突に眉根を寄せた。 「ん?」 室内から言い争うような声が聞こえたのだ。 ミュークは扉に耳を宛がうと、そっと聞き耳を立てる。 『―――船を……さいですぅ~』 正確な内容は聞き取れなかったが、それはまだ幼い舌足らずな少女の声だった。 興味をそそられたミュークは両扉を僅かに開き室内を覗き込む。 「(ほぅ……これはっ!?)」 室内には、腰に両手をあてて偉そうに踏ん反り返っている金髪の少女と、その横で萎縮するように縮こまる栗髪の少女が居た。 どちらも年の頃十二、三歳程度であるだろう。 特にミュークの目を惹きつけたのは金髪少女の双眼であった。 左右非対称な眼色は少女に何処か普遍的な神秘性を与えていた。 「(まさか魔力の象徴たるオッドアイの持ち主にお目にかかれるとは……)」 何処か倒錯的で恍惚とした表情のミューク。 まるで少女の金銀妖眼に魅了されてしまったかのようである。 「ゴクリ」 ミュークの喉が大きく鳴る。 どうやら、聖女と思しき金髪の少女と戯れる甘やかな夜を妄想しているようだ。 半開きとなった口元から垂れた涎を袖口で何度も拭う。 レムリアが同行していたら一悶着あったことは間違いない。 「よ、よいか、ルム。 金色の髪の娘子に対しては間違っても手荒に扱ってはならぬぞ。 アレはワチキのじゃからな」 などと、挙句の果てに公言する始末。 そんなミュークを無機質に見上げるルムファム。 「べ、別にやましいことなど、こ、これっぽっちもないのじゃぞ。 ワチキに限って下心などあるわけもなく……そ、その……あ、アレじゃアレ」 しどろもどろに弁明するミューク。 だが、ルムファムの無言の圧力は強まるばかり。 耐え切れなくなったミュークは、わかり易いカタチで現実逃避をした。 後先考えずに扉を蹴破って凍りついた時計の針を半ば強制的に進めたのだった。 「ワチキはミューク・ウィズイッド。 以後、お見知りおきをお願いするのじゃ」 欲望とは種族を超えて正常な判断を狂わせるらしい。 ==============================================
2010/09/18

楽天ブログに半角一万文字以上の記事が投稿できる件ですが、やはり記事投稿時の文字カウント機能に不具合があるようです。(↑不具合を恐れて文章を削ってしまいましたが、この記事も当時、他ツール計測では半角一万文字以内でした)他ツールを使用した数値より二・三割、水増しカウントされています。(※文字数が多いほど誤差も大きくなるようです)要するに本来なら一万文字以内の記事が一万文字以上と誤カウントされ投稿されているだけのようです。それが証拠に、他ツールで一万文字以上と表記された記事は投稿出来ませんでした。以上、うーたんレポートでした(`・ω・´)
2010/09/17

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-02【聖船】月ノ章 1-02【聖船】―ミュークSIDE― 「ゼェ、ゼェ……なんでこんなことに……うぅ」 レムリアが息も絶え絶えに愚痴を零す。 少年屍族は積み上げられた酒樽の上からギシギシと耳障りな音を響かせる船板を不安そうに見下ろしていた。 教会船アメナディル号の船倉に潜りこんで数日あまり、まるで順応する兆しを見せない怯えようである。 「まったく……。 雨風も防げ食料の心配もない、おまけに酒は旨いときた。 レムは何が不満なのじゃ?」 ミュークは軽々と酒樽を持ち上げると、黄金色に輝く蜂蜜酒を喉奥に流し込んでいる。 うわばみもかくやあらむ飲みっぷりだが、如何に恒常性機能に優れた屍族でも少々度を越えていた。 「だって……う、海。 この下、海なんですよ。 もし、底が抜けたら……あわわ」 「そのように要らぬ心配ばかりしておったら、この先身が持たぬぞ。 少しはルムを見習ったらどうじゃ?」 ミュークは背後で寝息をたてているルムファムに向けて顎をしゃくる。 「で、でも……」 「屍族の生理的特性である水嫌いは仕方ない。 だが、ここまでくると病気じゃな」 ミュークは内心で苦笑すると、懐から取り出したプリウスの実をレムリアに向けて放る。 「それを食せば少しは落ち着くじゃろう」 「は、はい」 レムリアは言われるままにうろこ状に網目の張った朱色の表皮に歯を立てる。 プリウスの実には血の渇きを抑制すると共に、精神を安定させる効能がある。 吸血行為を良しとしない双子の屍族にとって、長旅には欠かすことのできない必需品であった。 「ミュークさまも、あまり飲み過ぎると流石にまずいと思いますが……」 レムリアが千鳥足で別の酒樽へと歩み寄るミュークを見咎めて反撃を試みる。 充分な糧食を積んだ船倉とはいえ、あまり派手に飲み食いを続ければ、流石に怪しまれるだろう。 「酒の味もわからぬお子様が意見するなど千年早いわ。 その性根を叩き直してやる故、ちこう寄れ―――んっ?」 ミュークがレムリアを酒の肴に新たなる暇つぶしを考えていると―――不意に長衣の裾をひかれる感触。 視線を移すと、そこには寝惚け眼で見上げてくるルムファムの姿。 「ルムも欲しいのかや?」 ミュークがプリウスの実を手渡そうとするが、ルムファムは首を横に振る。 「大母(アルフォンヌ)さま」 前置きも何もない、突然のルムファムの言葉。 「母上がどうしたのじゃ?」 当惑するミュークを他所に、ルムファムはまるで子犬のようにスンスンと鼻を鳴らしながら何かを探し求めている。 「ルム?」 ミュークは目前で突飛な行動を繰り返すルムファムに対して眉を顰める。 だが、ふと思い至ったように、鼻から大きく息を吸い込むと、 「ふむ、この香りは……。 はて、なんの匂いじゃったかの?」 船倉の雑多な臭気に混じり、僅かだが芳しく甘い香りがミュークの鼻腔をくすぐっていた。 「ルルワインですね。 アルフォンヌさまがお好きだったアルナ科に属する植物です」 レムリアがミュークの疑問を解き明かす。 ルルワインは美しい花を咲かせることで有名な多年草だ。 その実は観賞用よりも、寧ろ食用に重宝されている。 球根などは都に持っていけば、ひと山で金貨1枚程度の価値があった。 「なるほど、それならワチキにも覚えがある筈じゃな。 母上と共に暮らしておったレムとルムならば尚更かの」 ミュークは合点がいったように頷く。 「ルルワインは北辺に位置するヤガ=カルプフェルト王国では滅多に手に入らないとても高価な花です。 西大陸南端のイプス岬周辺の塩湿地帯にのみ群棲する稀少な植物なので仕方ないとも言えますけどね」 教会船に密航して以来、醜態を晒し続けていたレムリアが、汚名返上とばかりに持てる限りの知識を披露する。 本で得た知識である為に、整合性は高いが若干信頼度に欠ける点がある。 要するに情報が古いのである。 「ふむ、どうやらこの船はイプス岬を迂回せず船の墓場を突っ切るつもりらしいの……」 ミュークは細顎に指をあて双眼を閉じた。 「決行はルブリス島に下船した直後と考えておったが、これは好都合やもしれぬ」 そう独り言つとミュークはレムリアに向けて手招きをする。 「うっ、なんですか。 出来ればこのままお話してくださると……」 レムリアは山積みになった酒樽の頂上から弱々しく返す。 船床が抜ける心配をするのなら、酒樽に乗って重量を一点集中させる方が、よほど危険性は高まる筈だが、そこまで気が回らないのか、はたまた気持ちの問題なのか、頑として酒樽の上に陣取ったまま動かない。 「いいから、来るのじゃ。 レムはワチキのことが信じられぬのか?」 ミュークはレムリアの忠心をくすぐるように再度促す。 「うう……、ミュークさまは意地悪です」 そう言われては逆らえないレムリア。 渋々とながら船板の上に降り立った。 「レム、お主にやって貰いたいことがある」 「は、はい」 ミュークの唐突な物言いに、若干腰が引け気味のレムリア。 「予定とは異なるが、聖女の身柄をここで掌中に収める。 今からひと働きして貰うぞよ」 ミュークは天柱に吊るされた洋灯から手際よく油壷を取り外す。 そして、掛け金に括り付けられた発火石を添えてレムリアへと手渡した。 「レム、お主は急ぎ上甲板へと向い、逃走手段を確保した後、帆に火を放つのじゃ」 レムリアは言葉の意味を理解できずにキョトンとする。 だが、次第に命令内容が脳内に浸透したようで、どっと冷や汗を溢れさせた。 「ええぇ~。 絶対に見つかっちゃいますよ……」 幼いとはいえレムリアも屍族の端くれである。 よほどの手練相手でなければ人族相手に遅れをとることはない。 もっとも、この少年屍族の場合、肉体的な強さではなく精神面に問題があるのだろう。 「イプス岬近海は濃霧と岩礁に閉ざされた名にし負う魔の海域じゃ。 船員の注意は外に向いてる上に闇夜に乗じて行動すればそう簡単には見つからんよ」 「で、でも……、仮に成功しても船が火事になったら沈没しちゃいますよぉ?」 レムリアの口調は非難がましい。 「この船の乗組員たちもそこまで愚鈍ではないじゃろう。 心配しなくともレムが海の藻屑となることはあるまい」 ミュークは一瞬言葉に詰るが、ひとつ咳払いをすると余裕の態度で返す。 レムリアはまだ何か言いたそうではあったが、不承不承口を閉ざす。 ミュークの表情から、それが無駄な労力だと悟ったのだろう。 「ルムはワチキと共に聖女の身柄を奪取する」 ミュークは背後を振り返ると、まだ何処か眠たそうな少女屍族の頭をポンと叩く。 ルムファムは機械仕掛けの人形のようにコクリと頷いた。 ==============================================
2010/09/17

※改稿箇所が多岐に及んだ為、通常形式で載せます『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-02【聖船】月ノ章 1-02【聖船】―ミュークSIDE― 「これが聖女シャルロットに関する資料になります」 レムリアは満面の笑みでに数枚の羊皮紙を差し出す。 ここ数日における情報収集の成果である。 ミューク当人がレムリアの才覚を認めていたこともあるが、子供相手なら人族の警戒心も薄れるだろうと、聖女の動向を探らせていたのだ。 「ふむ、教会船アメナディル号か……確かに、胡散くさい動きじゃな」 ミュークは羊皮紙の束に一通り目を通すと、内の一枚、リザロス湾に入出航する船舶情報に注目する。 「はい、西大陸最大の港を有するナイトクランに教会船が訪れることは珍しくもありません。 ですが、王室専用港に入港する船舶となると話は別です。 船員の動きにも幾つか不審な点が見られますし、聖女シャルロットはこの船で教皇庁に向うと考えて間違いないと思われます」 レムリアは矢継ぎ早に論証の根拠を並べ立てる。 ミュークに向けられた表情は自信に満ち溢れていた。 「ふむ」 しかし、当のミュークは怪訝に眉根を寄せると再度、資料に目を落とす。 アルジャベータ聖誕祭の斎行に合わせ、アダマストルの第一王女でもある聖女が警備の厳重な同公国を離れるこの時節。 現今が聖女を拐かす絶好の好機であるのは、疑いようも無い。 なにより籠姫として、一部の王族・高位聖職者を除けば、全く人目に晒されずに育てられた人物である。 伝え聞く僅かな外見だけを頼りに聖女を特定するには、好都合な状況であった。 差し当っての問題は、聖女の一行が教皇庁へと向う道程に陸路と海路、そのどちらを選ぶかという点であったのだが――― 「あ、あの……何処か不審な点でも?」 黙したままのミュークに不安を覚えたのか、レムリアが恐る恐る訊ねる。 「いや、この資料だけを見ればレムの推測は正しいとワチキも思う」 言葉とは裏腹にミュークの反応は煮え切らない。 確かにレムリアの持ち込んだ情報を鵜呑みにすれば、聖女の一行は海路で教皇庁へ向う可能性が高いだろう。 加えて最近になって国内の街道整備や盗賊の取り締まりなどが積極的に実施された形跡もなく、陸路を選ぶとは考えづらい。 しかし、あまりにも情報が一方に偏りすぎていた。 多少気の利く知恵者がいれば、そういった偽装工作を行う可能性もある。 長期間、王室専用港に教会船を停泊させている点は明らかに無用心であるからだ。 「うぅ……、もう一度調べなおしてきます」 ミュークの抱く疑念がレムリアにも伝わったようで、その声からは最初の力強さが失せていた。 「待つのじゃ。 幾分拍子抜けした感もあるが、想像以上に情報が集まったのも確かじゃ。 公国内部に箝口令が敷かれている以上、更なる成果は望めまい。 良くやったのレム」 ミュークはレムリアを呼び止めると、小さな頭を胸元に引き寄せて愛おし気に撫で回す。 柔らかな双丘に顔を埋めた少年屍族の頬がみるみる紅潮していった。 「(確証に近い情報が得られたことに、ワチキ自身戸惑っておったのかもしれぬな)」 擁立する論拠に乏しい以上、僅かでも可能性の高い方に賭けるしかない。 教皇庁までの行程を考えれば外敵に襲われる危険性の低い海路を選ぶのが常道でもある。 過去の事例もそれを物語っており、陸路で教皇庁に参じた形跡は無い。 「なにより今は、後手に回らぬように行動することが先決じゃな。 レム、ルムを起こしてくるのじゃ」 「はい」 レムリアが隣室に消えると水を打ったような沈黙がその場を支配する。 「歴史は繰り返されるか……いや業とでもいうべきなのかもしれぬな。 ウィズイッドの血族と聖女の血脈が時を経て再びまみえることになろうとはの……」 ==============================================
2010/09/17
昨日の日記ですが、こちらの一方的な誤解だったので削除しておきました(汗)実際にその画像登録サイトさまを使用してみると、検索避け機能や一覧からの完全除外など、挿絵のみに使用できるような配慮がありました。無頓着などと書いて誠に申し訳ありませんでしたと、都合の悪い話題は(/▽`)/コッチニオイトイテ現在、創作活動がキツキツな状況に陥っています。●「†Princesse du sang†」の全体推敲●小説投稿サイトに投稿する部分を再々推敲●別所で伝奇モノを定期更新●別ネーム活動での冬コミ関連のブツこの上「†PDS†」を先に進めだすと、一日が48時間ぐらい必要になるので、物語が完結してから投稿する方針に変えようかと思っております。まぁ、完結する予定は今のところ無ぃ…(*゚□゚)ノ☆)`ν゚)・;'.、クハッ!!・・・巧くなるための努力は別として、創作なんて自由にノビノビやってナンボのものなので、精神的に追い詰められないように気をつけたいと思います。今日はせっかく仕事がお休みだったのに、推敲だけで一日が終わって、なにかヤバイと直感しました(汗)
2010/09/15

※改稿箇所が多岐に及んだ為、通常形式で載せます『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-01【慧眼】月ノ章 1-01【慧眼】―ミュークSIDE― 「それで、商王ヘリソンの件じゃが、なかなか興味深いことになっておってな」 ミュークは卓上に並べられた鹿肉の蕃茄煮込みを三叉で突きながら、件の話を切り出す。 「……興味深いことですか?」 レムリアの力ない声がそれに応じる。 あの後、ルムファムの馬鹿力で湯船に引きずり込まれた挙句、手薬煉ひいて待ち受けていたミュークに身体の隅々まで念入りに手洗いされたレムリアは、未だ喪心状態から抜けきれていないようだった。 傍目には羨ましくも見える出来事だが、相手方の性癖に難があるので玩ばれた感が拭えないようだ。 それが、証拠にレムリアの目の下には黒ずんだクマが形成されていた。 逆にミュークの肌艶は増しているように見えるから尚更、不遇に感じるのだろう。 「うむ、ワチキに“アルジャベータの聖女”を拐して欲しいそうじゃ」 ミュークはまるで他愛無い日常会話のようにサラリと言ってのける。 「はぁ、なるほど―――って!? え、え~と……ボクの耳が確かなら“聖女の誘拐”がどうとか聞こえたような……」 レムリアが恐る恐る尋ね返す。 「レム、お主の耳は正常じゃ。 安心するがよい♪」 呑気に笑っているミュークと比べて、レムリアは事態をなかなか嚥下出来ずにいる。 「も、勿論、その話はお断りなさいましたよね?」 自然と見つめあう形になるミュークとレムリア。 暫しの沈黙の後、ミュークは不自然に視線を逸らすと、 「レムはまた料理の腕を上げたようじゃ」 レムリアお手製シチューを口に運び話題まで逸らそうとした。 「そ、そうですか♪」 そんなあからさまな逃げ口上にも馬鹿正直なレムリアは満更でもなさそうである。 「美味」 独り黙々と食事を続けていたルムファムからも同意の声があがる。 此方に他意はない。 それを聞いたレムリアは大きく胸を反らすと、 「何を隠そうこの鹿肉の蕃茄煮込みはボクの自信作なんです♪」 「そうじゃろう、そうじゃろう♪」 にやにやと人の悪い笑みを浮かべるミューク。 「一晩、赤葡萄酒漬けにした鹿肉を軽く炒めた後、熟成させた蕃茄と香味野菜を混ぜてじっくりと大鍋で煮込みます。 最期に隠し味の蜂蜜を入れて、もうひと煮たちさせれば完成です。 蕃茄の軽い酸味と蜂蜜の農耕な甘みが絶妙のハーモニーを―――」 レムリアの熱弁が不意に途切れる。 どうやら、口車に乗せられたことに漸く気がついたようだ。 「ボクをからかって楽しいですか?」 レムリアは不機嫌そうにそう呟く。 「ん、いや……そ、そんなことはないぞよ」 ミュークは慌てて表情を引き締めるが時既に遅かった。 レムリアの非難がましい視線が痛い。 「ほ、ほれっ、ルムもそうじゃろう?」 困り果てたミュークは隣で空皿の山を築いているルムファムに助け舟を乞う。 「美味」 だが、此方は、食欲のみに忠実でそれどころではないようだった。 「もういいです。 それで、やっぱり手遅れなんですか?」 レムリアはほとんど自棄糞に話を戻す。 「ワチキがこんな面白そうな余興を見過ごすと思うのかや?」 「でしょうね……」 該博深遠な知識を誇るミュークであるが、進んで厄介事を招き入れる傾向があった。 しかも、不公平なことに、ミュークの思いつきで酷い目に遭うのは常にレムリアの役回りで、当人にとってこれは受け入れ難い現実である。 レムリアは何かを覚悟したように大きく息を吐くと、 「アルジャベータの聖女はアダマストル公国の第一王女でもある筈です。 そんな密謀(たくらみ)が公になれば異端者の烙印を捺されるどころか、国家反逆罪に問われて極刑は免れないでしょう。 言葉は悪いですが、屍族であるミュークさまを信用して打ち明けられる話とは到底思えません」 「ワチキも同意見じゃな」 ミュークもレムリアの示唆する点は十二分に心得ていた。 依頼主が同族である人間以上に屍族を信頼しているわけもない。 だが、それを差し引いても異種族に頼らざる得ない何かがあるのだろう。 そこに裏がないと考えるほうに無理がある。 ―――問題はその理由だ。 ミュークは鬱陶しそうに前髪をかき上げると提議された疑問を咀嚼する。 邪推すれば、依頼主が趨勢に応じて随意に関係者を始末したいと考えている場合だろう。 直接手を下さずとも教会や国、屍族を異端視する機関はいくらでも存在する。 容易に罪を着せることも可能であるし、なにより教敵である屍族の言葉に耳を傾ける人族は少ない。 密事が外部に漏れる危険性も低いだろう。 「(いや、使い捨ての駒を探すならもっと適当な存在がおるか……)」 落ちぶれたとはいえ二十二家に連なるウィズイッドの屍族に接触を図る危険を冒したのだ。 他にもそれ相応の目論見がある筈だ。 ミュークはそこで思考を断つと、 「レム、お主は依頼主の真意を何処にあると考える?」 根拠など幾らでも擁立出来るが、決定的な証左に欠けている為に合理的とはいえない。 ミュークはレムリアの純粋な意見も参考としたいようだ。 「真意ですか……。 そういえば、依頼主はなぜ聖女の身柄を必要としているのですか?」 レムリアは少し迷いながらそう尋ね返す。 「確実とまでは云えぬが、依頼主の目的は聖女そのものではない」 「じゃあ一体……、聖女の存在よりも価値を見出せるものなんて―――」 そこで、はたと思い至ったレムリアが目を見開く。 「そ、そうか、霊環アシュタリータ。 アダマストル王家に伝わる秘宝が目当てなんですね?」 「ご名答じゃ。 聖女が肌身離さず所持しておる宝具が目当てと思って間違いなかろう。 伝え聞くところによれば、その霊環とやらは一定の儀式を踏まねば、外すことの出来ぬ代物らしい。 生きたままといった条件もそこに含まれているのやも知れぬ」 聖女の存在は聖アルジャベータ公会にとって信仰の象徴でもある。 身代金を目的とするにはあまりにも大それているし、逆に宗派絡みの謀略ならば生きたままという条件が不要である。 利権絡みの線が薄くなれば、選択肢は限られていた。 「なによりそれは、ワチキが提示した“条件”を呑んだことからも明白じゃしな」 ミュークはそう口走ってから「しまった」という顔をする。 案の定、レムリアもその条件とやらに興味を抱いたようで、 「条件ですか?」 と、聞き返してくる。 「それは……まぁ、アレじゃ。 うむ、たいした内容ではない。 気にするなや」 しどろもどろに言葉が濁る。 ミュークも理由を明かせぬ謀に一枚噛むほど愚かではない。 だが、その代価が金銭に換えられぬほど魅力的なものであれば、やはり食指は動く。 そして、そのような報酬を依頼を引き受ける条件として要求していたのだった。 ―――依頼の対価として聖女を所望すると ミューク自身、仮面の人物の動揺を誘うつもりで、依頼内容と重複する報酬を口にしたのだが、ひょんなことから、隠された真実に一歩近づく破目になった。 「う、う~ん……」 全てを語らぬミュークにレムリアは未だ半信半疑であるようだ。 「屍族の首人といった珍品は好事家共の垂涎の的じゃ。 遠回りにも思えるが、今は非合法市場の流通経路に通じた人間との接触を増やすことが最善じゃろう」 取引相手のひとりは商人ギルドの長である。 彼が持つ磐石且つ幅広い情報網は首人となった母を探し出す大きな手助けとなるに違いない。 巧く立ち回れば相手の弱みを握ることすら可能かもしれないのだ。 ミュークの言わんとすることは理解出来るらしく、レムリアから反論の声はない。 「さて、大まかに事態は飲み込めたじゃろう。 レムも早々に覚悟を決めるのじゃ」 「な、なぜ、ボクだけ?」 ひとり名指しされたレムリアが恐る恐る尋ね返す。 そんなレムリアを面白がるようにミュークは大きな胸を張り、 「なんとなくじゃ」 とてつもなく不吉な予感を感じ、身震いするレムリアであった。 ==============================================かなり致命的なミス記載がありました(汗)
2010/09/15

※改稿箇所が多岐に及んだ為、通常形式で載せます『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-00【日常】月ノ章 1-00【日常】―ミュークSIDE― この旅亭『ナシード』をミュークは甚く気に入っていた。 古くは破棄された貴族の屋敷を改築したものであるらしく、瀟洒な外観と気品漂う佇まいである。 特に目を惹くのは館を囲む高い外壁で、大量の蔦が蜘蛛の巣の様に絡まり大樹の様相を呈していた。 「ナシード(ここ)を丸ごと買い上げて正解じゃったの」 ことは数日を遡る。 聖アルジャベータ公会のお膝元であるナイトクランに到着して以来、ミュークたち一行は塒(ねぐら)探しに奔走していた。 屍族である身にとって、昼日中の褥の確保は緊急かつ最重要課題であったのだ。 金銭を積めば幾らでも選択肢はあったのだが、屍族の退廃した美的感覚に沿う物件はそうそう見つかるものではなかった。 そんな時、偶然出合ったのがこの古ぼけた城館宿であった。 ミュークは直ちに屋敷を丸ごと買い取りたいと申し出た。 最初は渋っていた宿の主人も、最終的にはふたつ返事で了承した。 ミュークが血統アルカナ“女教皇”の能力を行使して宿主の心裡を読み取り、そこにつけ込んだのだ。 ナシードの面する旧表通りが、近年の区画整備によって嘗ての賑わいを失い、宿の経営状態がお世辞にも良好ではなかったこと。 そして、新たに事業の再建を図ろうと夢見ていた宿主に対して、現表通りで貸し宿を再興するだけの金銭を工面したのだ。 結果、この取引は両者にとって満足のいくものに終わった。 もっとも、ルムファムの無言の圧力が主人の決断を後押ししたことは語るまでもない。 「なにより興趣をそそるのはこの湯殿じゃ。 ウルムドラ地方で採取された一枚岩の火成岩をくり貫いて造られておる」 ミュークは満足気に頷くと、陶製の水差しを傾けて浴槽に湯を張る。 続けて、湯船に指先を沈め微かに香草の匂いを漂わせる白い水面をかき混ぜた。 その動きに合わせ衣服に張り付いた大きな乳房が淫猥に揺れる。 ミュークの幼げな容貌とは裏腹に、不釣合いなほど肉感的な肢体は、見る者を誘惑する禁断の彫刻のように蒼白く甘い芳香を放っていた。 「ルム、早うするのじゃ」 ミュークはずぶ濡れになった修道着を乱雑に脱ぎ捨てると背後を振り返る。 その視線の先には身体に絡まった衣服と格闘を続けている少女屍族の姿。 「ぐぅ……む~」 ルムファムは小さく唸りながら床の上をコロコロと転げまわっていた。 その様は自分の尻尾に戯れる仔猫のようである。 ミュークはルムファムの不器用さに軽く呆れながらも手招きをした。 それを見たルムファムがよたよたと近寄ってくる。 ミュークは慣れた手付きで幼げな身体に巻きついた腰紐を解き、修道着を残らず取り去ってしまう。 「ふむ」 ミュークは上目づかいに見上げてくるルムファムの裸体をじっくりと観賞する。 幼い肢体には、壊れやすく脆いこの年頃独特の甘酸っぱい危うさがあった。 少年のようにも見える細い身体だが、服の上からでは殆ど目立たないほのかな膨らみも、僅かだがほころびる兆しを見せ始めている。 ミュークはルムファムの妖精のような肢体に心を奪われていた。 元来の性癖もあるのだが、湯浴みの度にそんな状態なので――― 「くしゅん」 可愛らしいくしゃみがミュークを現実へと呼び戻す。 「ゴホン。 風邪をひいては元も子もないの」 ミュークは取り繕うように咳払いをすると、慌ててルムファムを温かな湯桶に浸からせる。 それから壁掛け棚に並ぶ石膏の壺の側面を数回叩き中身を確認すると、ひとつを選び取り蓋を回す。 途端に仄かな甘い香りが周囲に広がった。 「人間共が常用する安物の香油だが、今はこれで我慢するのじゃぞ」 ミュークは零れでた液体を自らの両手に滲ませると、諭すように語り掛ける。 「んぅ……」 ミュークの両手が幼い肌を這う度にルムファムの発育途上の身体が跳ねる。 「ほれっ、暴れぬなや。 肌の手入れも女子の嗜みじゃぞ」 暴れる獲物を自分の太腿で押さえ窘めるミュークだったが、 「―――つぅ」 不意に走った鋭い痛みに眉を顰める。 同時にルムファムの動きもぴたりと停止していた。 少女の指爪がミュークの左頬の薄皮を剥ぎ、そこから朱色の粒が滲みでていた。 振り向いたルムファムの瞳は何処か落ちつかげに揺れている。 そこに宿るのは不安や悔恨の念だ。 「大丈夫じゃ」 ミュークはルムファムを安心させるように呟くと、指先をそっと傷口にあてる。 押し出された血液が胸元に零れて、丸みを帯びた裸身をなぞり落ちた。 ルムファムの喉がコクンと小さく鳴る。 その表情は憑かれたような虚ろなものに変わっていた。 「欲しいのかや?」 ミュークは指先に付着した己の生血を舌先で舐めて悪戯っぽそうに微笑む。 「いいのじゃぞ。 ワチキは母上のようにヒトの生血を飲むことを禁じてはおらぬ」 更にルムファムの耳元に口を寄せ言葉を続ける。 幼い身体は何かに堪えるように身動ぎすらしない。 ミュークはルムファムの耳朶に軽く歯を立てると、熱く火照った唇を少女の耳の裏からうなじにかけてついばむように移動させる。 ルムファムの強靭な自我が崩壊しかけた時――― 「あ、あの……ミュークさま」 室内を仕切った紗布の向こう側に小さな影が映る。 「レムリアかや?」 「は、はい。 朝摘みの蒼月草の調合が終わったので……」 レムリアが事前に頼まれた品を持参したようである。 蒼月草から得られる揮発性の油は、湯に混ぜると溶解して皮膚を膜で覆い、屍族元来の水に対する精神的な恐怖を和らげる効果があった。 「ご苦労じゃたな」 ミュークは間が悪いとも絶妙とも言える頃合に現れたレムリアに苦笑する。 「そ、それじゃボクはこれで……」 「待つのじゃ、偶にはレムも一緒に入らぬか?」 そそくさと立ち去ろうとするレムリアをミュークが呼び止める。 「い……いぃ、いえ。 ボ、ボクは遠慮しておきます」 紗布越しにもレムリアの慌てふためいた様子が伝わる。 レムリアがミュークとの湯浴みを断るにはふたつの理由がある。 一つは、水に濡れるのを嫌う屍族の本能的な性質が顕著であること。 そして二つ目は、ミュークと一緒では目のやり場に困るからだ。 年頃の少年屍族にとってミュークの肉感的な肢体は凶器に等しかった。 それを知ってか知らずか、ミュークは垂れ絹を勢いよく跳ね除ける。 「わあああああ!?」 「それはつれなかろう」 ミュークは逃げ出そうとするレムリアの襟首を鷲掴むと、人の悪い笑みを浮かべる。 「後生だから許してくださいぃ~」 それからレムリアにとって描写するには酷な数分間が過ぎていった。 ==============================================
2010/09/13
さっそくですが投稿以前に問題が発生しました。たった今、投稿サイト探しの序に、他の方が書いたネット小説なるものに目を通してみたのですが、そこで衝撃的な事実が発覚!!今まで登場人物の台詞を書く時、鉤括弧ごと会話部分を一文字下げていましたが、アレって下げちゃ駄目なの?誰も下げてない(汗)改めて市販の小説などを見直しても、どれも下がってませんねorz縦書きだと「」の位置が下揃えなので、ちょっぴり空白があるように見えましたが、ただの目の錯覚だったようです。もっとも、絶対に下げなければダメといった決まりもないようなので、寧ろここは知らなかったではなく、知った上で、敢えて下げていたという姿勢を貫き通し、旧態依然の発想に毒されない個性として誤魔化…(*゚□゚)ノ☆)`ν゚)・;'.、クハッ!!・・・せないと思いますorz
2010/09/12
ここは“ヒク”サイト……もとい、“ヒキ”サイト気味に運営を続けていますが、そろそろ、『†Princesse du sang†』を何処かの「小説投稿サイト」さまに投稿・連載してみたいなと考えています。小説家になろうライトノベル作法研究所 作家でごはん!のべぷろ!アットノベルス調べてみると上記の5サイトさまがメインでHITしたので、上の何処かにしようとおもうのですが……いろいろと迷っているので、今週はこの系統の日記が増えそうです。
2010/09/12

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 0-03【双子】月ノ章 0-03【双子】―双子SIDE― 「でも、どうして今回に限ってボクたちに買出しをお申しつけになられたのですか? てっきりミュークさまは“ああいったこと”がお好きなものだとばかり……」 どこか言い難そうに言葉を濁すレムリア。 「ああいったこと?」 「はい、新しい街を訪れると、決まって闇市や競売で人族との心理的な駆け引きに興じられておりますから。 先日も“首人”に関する情報に法外な金額をふっかけてきた商人貴族の鼻っ柱を楽しそうに圧し折っておられました。 あの時はミュークさまが屍族だと悟られて大騒動になりかけましたけど……」 ミュークは端正な顎先に右手を添えると考えるような仕草を見せる。 そういえば、ヘリソン子飼いの商人と一悶着あった気もする。 考えてみればそれが原因でヘリソンの耳にウィズイッドの名が届いたのかもしれない。 「よく覚えておらぬがそんなに楽しそうじゃったかの?」 「はい。 それはもう楽しそうでした♪ 一見理不尽にも思える方法で相手の理論武装を一枚一枚丁寧に論破して、その欠陥を逐一論えては更なる心理的動揺を誘い、疲弊し精神的に追い詰められた獲物を物理的にも丸裸に―――あぐぅ」 ミュークの正拳が皆まで言わせずレムリアの額を打ち据える。 「随分と詳細な分析じゃが……。 それは遠まわしにワチキがネチネチとした陰湿な性格だとでも云いたいのかや?」 ミュークが半眼で尋ねる。 よく見るとこめかみにヒクヒクと青筋を浮かべていた。 「あう~……ごめんなさいぃ……。 でも、旅に出てからのミュークさまは随分とお変わりになられました」 赤みを帯びた額を擦りながらレムリアは言葉を続ける。 「も、勿論良い意味でですよ!」 ミュークに真顔で見据えられ、また余計なことを口走ってしまったかと、理由もわからずあたふたと汗だくになるレムリア。 「そ、その……、巧くいえないのですが……。 ヤガ=カルプフェルトに居た頃のミュークさまはどことなく毎日が退屈そうでした。 でも、今はボクたちにもよく笑顔をお見せくださります。 ボクはそれがたまらなく嬉しいんです」 運命の悪戯で、今は放浪の身となってはいるが、自分の在るべきカタチを見失っていたミュークにとってそれは面映さを覚える言葉だった。 ミュークはレムリアの顔を覗き込むように身を屈めると、小さな頭を軽く小突く。 「まぁ……よい。 そろそろ夜も明ける。 続きは寝床に帰ってからじゃ」 ふと、気づけば生まれたばかりの微光が露出した白蝋の肌を刺激していた。 中級以上の屍族が太陽の光を浴びた程度で命を落とすことはない。 だが、屍族は例外なく遺伝性の光線過敏症をその身に宿している。 長時間被照状態にあれば、射部に水疱・膨疹・丘疹・紅斑などの火傷にも似た皮膚症状が発症する。 外衣で身体を覆っていても、まだ幼いレムリアとルムファムには負担が大きいだろう。 「はい、投宿を門前払いした宿屋の主人から巻き上げた旅亭に帰るんですね♪」 「誤解を招くような表現をするなやっ!」 ミュークが再度鉄拳を振り上げる。 「ひゃわわ……」 驚いたレムリアが尻餅をついた瞬間―――風を切る音がミュークとレムリアの鼻先を掠めて視界を横切る。 それは一瞬前までレムリアが居た空間を削りとるように横断し、遠くで派手な爆砕音を響かせた。 「……ル、ルム?」 ミュークは恐ろしく嫌な予感を覚えながら双子の片割れ、寡黙な少女の姿を確認する。 「むぅ……」 ルムファムは低く唸ると、まず自分の手元を不思議そうに、次に音のした方向をつまらなそうに眺めた。 少女の視線を追ったミュークは我が目を疑った。 都市の名物でもあった天然大理石の大噴水が無残な瓦礫の山と化していた。 今はただ、嘗ての名残を惜しむように巨大な水柱を大聖堂の天辺付近まで盛大に吹き上げている。 人工の集中豪雨に晒されて、あっという間にびしょ濡れになるミュークとルムファム。 「わーわー、あわわ……」 レムリアだけが降り注ぐ地下水から器用に逃げ回っている。 リベル大聖堂の前庭一帯が見る見る浸水していく。 暫し呆然としていたミュークが慌てて頭振る。 これだけ目立った破壊活動を行ったのだ人目を惹かないわけもない。 案の定、疎らだった人の気配が参集しつつあった。 「だぁ~、ナニをやっておるのじゃ!!」 ミュークの悲痛な声が朝靄に包まれたナイトクランの空気に溶けて消えた。 ==============================================この部分は書き上げた当初、念入りに推敲した経緯もあり、直し自体は楽でした。
2010/09/11

※改稿文量はそれほど多くないのですが、改稿箇所が多岐に及んだ為、通常形式で載せます『†Princesse du sang†』 月ノ章 0-03【双子】月ノ章 0-03【双子】―双子SIDE― 朝靄に包まれたリベル大聖堂の幻想的な佇まいを背に三つの人影があった。 「ふたりともワチキの助力なしでも十分生きてゆけそうじゃな」 レムリアが調達したプリウスの実を受け取ったミュークは満足したように頷く。 「そ、そんなことありません! 取引きの成功は事前にミュークさまの助言があったればこそです」 レムリアは謙遜どころか己の功績を真っ向から否定する。 その碧眼は、捨てられた子犬のように心許なげに曇っていた。 ミュークの物言いから、突き放すような響きを感じ取っていたのだろう。 ルムファムに到っては、小さな両手でミュークの長衣の袖口を握り締めて離さない。 「これっ、心配せずともふたりを置いて何処にもいったりはせぬよ」 ミュークは双子のいじらしい様子に口元を綻ばせる。 そこに自立を促すといった含みは更々なく、保護者としての純粋な褒め言葉であったのだが、どうやら誤解を与えてしまったようである。 この双子、今でこそミュークが面倒を見てはいるが、元々はミュークの実母であるアルフォンヌ・ウィズイッドが何処ぞで拾ってきた遺児である。 酔狂にもアルフォンヌは僻地の古城で人目を憚るように、この双子を育てていたようである。 もっとも、娘にとって母のそういった気まぐれは、取るに足らない出来事であった―――あの時までは。 それから数年後、気の迷いや戯れでは済まされない事態が生じることになる。 アルフォンヌはウィズイッドの血統アルカナ『女教皇』の継承資格に双子の後見人となることを定めたのだ。 無論、ミュークの動揺は隠しようがなかった。 しかし、この母にしてこの子ありか、娘自身も屍族としては一風変わった性質(性癖)の持ち主であった。 俄かに喪失していた双子が見目麗しく成長した姿を確認すると二つ返事でそれを承諾した。 娘は生来の美童趣味だったのである。 決して遠くはない過去を懐かしむようにミュークは口元を緩める。 「そ、それで……、ミュークさま。 アルフォンヌさまのご消息の方は?」 レムリアはミュークの複雑な心裡を察したのか、少し聞きづらそうに尋ねる。 ミュークは深いため息をつくと、首を横に振り、 「見当違いじゃったよ。 ワチキをウィズイッドの血族だと知った上での接触であったから多少の期待はしておったが、ヘリソンに母上の“首人”についての記憶はなかった」 ミュークの云う“首人”とは屍霊術の秘法によって半永久的な命を与えられた生物の異称だ。 切り落とした頭部から伸びる頚椎に寄生植物アタナシアを植え付けて、濃縮された千年樹の樹液で満たされた特殊な首台に着床させることで呪法は完遂される。 端的に云えば、生前の記憶を保ったまま永久の時を生きる喋る生首である。 メナディエル正教の元老院の面々が首人の賢人たちによって形成されている事実は大陸でも有名な話だ。 「そ、そうですか……。 でも、お気を落とさないでください。 諦めなければきっと見つかるはずです。 ボクたちも及ばずながら尽力させて頂きます!」 レムリアの真摯な物言いにミュークは苦笑する。 「うむ、期待しておるぞよ」 ミュークはこの双子を高く評価していた。 レムリアの真っ直ぐな心理眼、ルムファムの的確な真理眼は数千年生きた屍族にも劣らぬものであった。 永らく人里離れた僻地で育てられた為、浮世離れした感性の持ち主なのは否めないが、その点に関してはミュークも同様である。 足りない部分は時間が解決してくれるだろう。 「で、でも……、ボクたちでは足手まといにしかならないかもしれませんけど……」 ばつが悪そうにそう付け加えると、照れくさそうに頭を掻くレムリア。 「要らぬ心配じゃ。 もとよりそう簡単に見つかるとは思っておらぬ」 ミュークたちが実母であるアルフォンヌの頭部を求めて旅をする経緯は些か複雑であった。 ウィズイッド家は聖剣戦争以降、人類最古の王国ヤガ=カルプフェルトの宰相職を歴任していた。 人類との共存はミュークの実母、前ウィズイッド家当主アルフォンヌの本懐でもあったからである。 だが、聖剣戦争から数百年の時を経て、アルフォンヌは自己が救った人間の手によって貶められ、反逆罪で斬首されることになる。 ミュークは母の死を知ると、身辺に危害が及ぶ前に、私有地と財産の全てを王国に進上していち早く国外へと出奔する。 ミューク自身、ウィズイッド家が背負う古きしがらみから解放されることを強く望んでいたこともあり、遊歴に身を窶すことに対する抵抗はまったくなかったのである。 今にして思えばアルフォンヌは愛娘が一族を捨てることも含め、全てを心得た上で運命を受け入れていたのかもしれない。 若くしてミュークに血統アルカナの継承を急がせたのも、その為であったのだろう。 ウィズイッドの血統アルカナ『女教皇』とはそういった“力”であったからだ。 血統アルカナ『女教皇』は他者の心を操り読み解く力。 その力の本質は、ウィズイッドの血族間でも継承者のみに知らされ秘匿されてきた。 大屍族達は互いの血統アルカナが宿す力を畏怖し警戒していたからこそ、現在まで安易な衝突が避けられてきたのだ。 しかし、それから間も無くして、ミュークは母の頭部が“首人”となり今も生きながらえているという噂を耳にする。 真相を確かめる為、ミュークはヤガ=カルプフェルトに急ぎ帰参するが、既にアルフォンヌの頭部は王国から持ち出された後だった。 その後、首人となったアルフォンヌの消息を追い大陸を転々とする日々が続いていた。 ==============================================
2010/09/11

※続きですこの場面はノリノリで書いていた記憶があります(笑)『†Princesse du sang†』 月ノ章 0-02【双子】月ノ章 0-02【双子】―双子SIDE― 「そ、そんな、馬鹿な……」 ゴルダの表情には焦りが色濃く浮き出ていた。 それもその筈、懐にしまったセナートル金貨が影も形もなくなっていたのだ。 ゴルダは恥も外聞もなく纏っていた衣服を脱ぎ捨てると、それを裏返しにしてバサバサと乱暴に振り回す。 しかし、衣擦れの音に硬質な響きは混ざらなかった。 そんなゴルダを尻目にレムリアは多少意地悪く口調を荒げた。 「現実の金貨が消えてなくなるわけもありません。 ボクが世間知らずな屍族だと、高を括って欺くおつもりですか?」 レムリアの詰問に呼応するようにルムファムの冥い碧眼がゴルダを睨めつける。 僅かでも双子の屍族を抑制する箍が緩まれば、ゴルダの命は消し飛ぶかと思われた。 「ま、待ってくれ、何かの間違いだっ!!」 しどろもどろに弁明するゴルダ。 脂肪で弛んだ頬肉を情けなさそうに歪ませると、ついには帳場台の下に這い蹲り回る始末だった。 「ない、ない……ない」 うわ言のように何度も呟くゴルダ。 「代金の差額どころか、受領した金貨まで返却できないとなると……。 ボクにも店主さんに悪意がないと信じることは到底無理です。 もし一方的に取引を違えられた場合、闇商人の貴方なら一体どうしますか?」 床に伏したままのゴルダの喉がゴクリと音をたてる。 商人組合に所属する店舗での売買なら過失に応じた損害賠償を求めるのが通例だ。 しかし、危険と常に隣り合わせな人間、市場の裏側に存在する闇商たちはもっと端的な解決法を採る。 取引違反に対して、耳や鼻、特に性質が悪い者は腕など―――見せしめとして身体の一部を切り落として制裁とするのだ。 一見、信用とは無関係な裏社会であるが、実はその逆で、法外な売買が成立するからこそ、厳格な掟が存在していた。 「そ、そうだっ! 少し待ってくれないか。 この街の、両替商組合に隠し金庫を預けている。 そこにいけばセナートル金貨そのものは無理でも十分な補償が出来る。 だから―――」 ゴルダは裏返った声で譲歩を求めた。 なにしろ、ルムファムがこれ見よがしに鈍く光る短剣をチラつかせている為に、生きた心地がしなかったのだ。 「もしも、店主さんが逆の立場であったのなら、その言葉を信じることができますか?」 レムリアの切り返しにゴルダは言葉に詰る。 軽々しく嘘をつけない辺り、根は正直者なのだろう。 「ボクもことを大袈裟にしたいとは考えていません。 むしろ店主さんのように有能な人間とは有意義な関係を築きたいと考えています」 泥沼にはまり込んでいくゴルダに対してレムリアの対応は努めて冷静だ。 「と、当方に一体どうしろと?」 「今のボクと店主さんに“足りないもの”で差額分を補って貰えれば結構です」 「足りないものと申しますと?」 成り行きから金銭ではないだろう。 だが、いくら考えてもゴルダにはこの会話に“不足する要素”の見当がつかなかった。 暫くゴルダの反応を伺っていたレムリアが穏やかな口調で答えを導く。 「“信用”ですよ」 「し、信用?」 ゴルダが狐につままれたような顔で間の抜けた声をだす。 「簡単なことです。 ボク達がここを訪れた際に店主さんが常に有意義な取引相手であってくれれば良いだけです。 尚、この契約は両者のどちらかが死ぬまで継続すること、以上です」 「そ、そんな簡単なことでいいのかい?」 幾分拍子抜けした感のあるゴルダであった。 恐らく、もっと無理難題を突きつけられると想定していたのだろう。 「ボク達屍族にとって、そしてミュークさまがご本懐を遂げる為にも、必要不可欠なことなのです」 屍族が異端視されるメナディエル教圏の国家で、ゴルダのように商売を通じて国際情勢に敏感な人間を味方にすることは、己の身の安全を計る上でも重要な問題であった。 「だが、こういってはなんだが。 こちらが裏切らないという保障はない。 それでもいいのかい?」 ゴルダはそう聞かずにはいられなかった。 「そうはなりません」 レムリアは首を横に振ると得意気に続ける。 「仮に店主さんが屍族を異端視する勢力、例えば公国や教会にボク達を売るような真似をしたとします。 その結果、通常なら報奨金を得られる上に身の危険もなくなり一挙両得です。 ですが、闇商としての店主さんを取り巻く環境を考えれば、得るものより失うものの方が遥かに大きい。 違いますか?」 聖女の末裔を王族として頂くアダマストル公国は聖アルジャベータ公会の総本山である。 屍族は異端視され、その存在が露見すれば、メナディルの教義の下に正義の鉄槌が下されることになるだろう。 だが、ゴルダ自身も違法な商売に身を窶している以上、なんらかの処罰は避けられない。 いや、これ幸いと財産を没収された挙句、罪人として投獄される憂き目に遭うのがオチであった。 「た、確かに……」 ゴルダは額に滲み出た汗を矢継ぎ早に拭う。 「ご理解頂けたのならば幸いです。 それとコレをどうぞ」 レムリアは満面の笑みで一枚の金貨をゴルダに手渡す。 「コレはっ!?」 見紛う筈もない。 それはセナートル金貨だった。 「先ほど床に落ちていたものを拾いました」 ゴルダは驚いたようにレムリアの顔を凝視する。 その両眼には疑いと非難の色が濃い。 「あはは……、そんな目で見ないでくださいよ。 ボクは嘘はついていませんよ。 これは金貨の在り処を尋ねなかった店主さんの落ち度です。 勿論、店内での拾得物です。 お話が済めばお返しするつもりでした♪」 いけしゃあしゃあと言ってのけるレムリア。 「じゃあ尋ねるが、この金貨を落としたのは誰だい?」 「確信を突いてきましたね。 お察しの通り、金貨を落としたのはルムです」 レムリアの回答にゴルダも得心するが、そうなると別の疑問が浮かんでくる。 「一体いつの間に掠め取ったんだい?」 「短剣を抜き取る時、店主さんが目を閉じた隙にですよ」 「……たしかに油断大敵だな」 ゴルダは大きく肩を落として茫然自失だ。 己が少年の手の平の上で踊らされていた事実は、闇人としての自尊心を酷く傷つけていた。 流石に居た堪れなくなったのか、レムリアはばつが悪そうに頭を掻く。 「騙すような真似をして申し訳ありません。 ですが、こうでもしないと店主さんは屍族と無用な関係を持とうとはしなかったでしょう。 う~ん、やっぱり怒っていますか?」 レムリアが上目遣いにゴルダを見つめる。 その聡明そうな碧眼はウルウルと滲んでいた。 屍族とはいえ、子供相手にこれ以上の醜態を晒すのも情けないと感じたのか、ゴルダはレムリアから目を背けると、ひとつ咳払いをする。 「い、いや……、商談に駆け引きはつきものだ。 それと見抜けなかったコチラにこそ落ち度がある。 なに、こちとらお天道様の真下で商売できるような真っ当な人間じゃない。 取引相手が脳足りんだと余計な心配も増すが、アンタのように賢い人間―――いや、屍族ならば大歓迎だ」 それに適度な緊張感を保てる点が特にいい。 ゴルダは内心でそう付け加えると晴れ晴れとした心からの笑顔をみせた。 「だが、もしも差額の釣り銭を用意出来たらどうするつもりだったんだい?」 ゴルダがふと感じた疑問を口にする。 「その時は―――」 レムリアが勿体振るように言葉を切る。 「その時は?」 ゴルダは鑑定台に身を乗り出すように少年の言葉に聞き入っている。 「おつりは全部“ガープ銀貨”でお願いしますと―――仮にそれも満たしているようなら、全て“銅貨”でと言います。 条件を満たさなくなるまで貨幣換算価値の低い硬貨に切り替えるつもりでした♪」 レムリアは事も無げに言ってのけた。 かなり乱暴な手段に思えるが、確かにガープ金貨四万三千枚は銀貨で四十三万枚、銅貨に換算すると四百三十万枚になる。 そんな大量の硬貨を常備している場所など政府直下の両替機関以外に見当がつかない。 「それと、店主さんがセナートル金貨での取引に応じてくださることにも確信がありました。 その金貨の真価を知る者なら、是が比にでも入手を試みることは計算済みでしたしね」 「大したボウヤだ」 感心するようのゴルダは呟いた。 ==============================================
2010/09/08

※推敲が全文に及んだので通常形式で載せます『†Princesse du sang†』 月ノ章 0-02【双子】月ノ章 0-02【双子】―双子SIDE― 「ルム、“店主さんに預けたもの”を返して貰ったらどうかな?」 レムリアが含みを持った物言いをする。 ルムファムは無言で頷くと、ゴルダの左手を貫通した短剣の柄を無造作に掴む。 「ちょ、ちょっと待ってくれ」 ゴルダはきつく瞼を閉じて、未知の激痛に備えて身を硬くした。 しかし、幾ら待てども一向にその時はやって来ない。 「もう終わりましたよ」 レムリアの声にゴルダが恐る恐ると両眼を開く。 刃で貫かれた瞬間と同様に微塵の苦痛も感じさせることなく短剣は抜取られていた。 ゴルダは左手を胸元に手繰り寄せるとほっと安堵のため息をつく。 「それでは頼んだ商品をお願いできますか?」 「は、はい、只今ご用意致します」 ゴルダは大きな図体を揺らしながら店奥へと消える。 暫くして戻ってきたゴルダの両腕には大量の荷物が抱えられていた。 「どれも信頼できる武器商人から仕入れた自信の業物です」 帳場台の上には様々な形状の武器が所狭しと並べられている。 鋼玉製の大剣に巨大な破壊鎚、果ては攻城用の小型連弩と、レムリアの注文に則して、威力よりも頑丈さを優先した武器が目立つ。 「それと、こちらがプリウスの実となります」 ゴルダが拳大に膨らんだ巾着を三つ提示する。 レムリアは内のひとつを手に取ると、革紐で縛られた巾着の封を解き中身を確認する。 途端に甘酸っぱい香りが周囲に漂い、屍族の少年の鼻腔をくすぐった。 「ゴクリ……」 レムリアは陶酔したような眼差しで小さく喉を鳴らす。 鮮やかな朱色の果実から放たれる血色の芳香に屍族の本能が刺激されたようだ。 「ご満足頂けましたか?」 ゴルダが揉み手をしながら問い掛ける。 「……確かに受け取りました」 レムリアは理性を総動員して巾着から目を逸らすと、満足したように頷く。 一方、ルムファムは山済みにされた武器を物色中であった。 己の身の丈ほどもある大刀を軽々と持ち上げると、握り具合を確かめるように刀身を軽く振る。 「これはお目が高い。 それは東方伝来の名刀で、別名“首薙ぎ”と呼ばれる業物です。 人骨など紙の如く両断することでしょう」 ゴルダの言葉通り、その重厚な風格は熟練の刀匠が鍛えたに違いないと思わせる大刀だった。 すると、ルムファムがきょろきょろと周りを見回す仕草を見せる。 その視線はなにかを求めるように宙を彷徨っていたが、目前の肉の塊―――脂肪の詰まったゴルダの土手っ腹の上でぴたりと留まる。 「あ、あの……如何されましたか?」 ゴルダは不吉な予感に僅かに身を退いて尋ねる。 ルムファムは暫し逡巡すると、“何か”の確認をとるようにレムリアを振り返った。 「いい?」 そして、研ぎ澄まされた刀身とゴルダの腹部を交互に見やって端的に是非を促す。 「ぜ、ぜったい駄目!」 レムリアはその意図を察して全力で却下した。 ルムファムは両眼に不満の色を滲ませるが、不承不承ながら大刀を帳場台の上に戻す。 「そ、それで如何なさいますか? どれも甲乙つけがたい業物ですが」 双子の物騒な遣り取りに不信感を募らせながらも、ゴルダは商魂逞しく取引を進める。 「全部」 と、ルムファム。 試し斬りができなかったという理由でもなかろうが、ひとつに選ぶのは諦めたらしい。 「だ、そうです」 続けて、レムリアが溜息混じりに続ける。 「全てとなると多少値は張りますが宜しいですか?」 「構いません、先ほどのセナートル金貨で清算してください」 「わかりました。 プリウスの実と合わせてガープ金貨七百枚―――」 ゴルダは、そこではたと気づいた。 無論、既に預かったセナートル金貨の付加価値を考えれば十分に事足りる金額だ。 ゴルダも双子の支払い能力に関しての心配はない。 「どうしました?」 レムリアが涼しげな顔で訊ねる。 「い、いえ、誠に申し上げ難いことなのですが、差額分の釣り銭が幾分不足しておりまして……」 随分と間を空けてゴルダは答える。 その声は多少上擦っていた。 「不足ですか?」 「はい、一般的な取引に差し支えない金銭は常備しておりますが、その、なんと申しますか……まさか、セナートル金貨でのお支払いとは想定外の出来事でして……。 商品のお取引は後日改めてというカタチでお願いできませんでしょうか?」 商売柄、貴重な珍品・稀少品を取り扱ってはいるが、盗まれても足がつく現物とは違い、必要以上の金子を店に置くことは、防犯上の観点から避けていたようである。 どうやら今回ばかりは、ゴルダの必要以上に用心深い性格が災いしたようだ。 「それは出来ません。 ゴルダさんが商品の対価を受け取った時点で、この取引は成立しています」 「も、勿論、セナートル金貨はお返し致します」 ゴルダは懐に手を差し込み、弄るように蠢かす。 しかし、求めていた感触は存在しなかった。 「もう暫くお持ちください」 狼狽したゴルダは懐から中身のたっぷり詰った金嚢を取り出すと、それを逆さに振る。 色鮮やかな宝石・貨幣の類が帳場台の上に零れ落ちて、うず高く積みあがった。 腫れぼった手指が大量の硬貨を器用に掻き分ける。 見事な手並みだが、次第に指先の震えが止まらなくなる。 ==============================================
2010/09/08

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 0-01【双子】月ノ章 0-01【双子】―シャルロットSIDE― だが、少年の言葉にそれまで無表情だったルムファムの柳眉がぴくりと吊上がる。 不意に膨れ上がる殺気――― 「ひわっ」 レムリアの間の抜けた悲鳴に遅れて、甲高い破砕音が店内に響く。 少年が恐々と音の発生源に視線を移すと、陳列棚の一角が弾け飛んでおり、奥の壁にひしゃげた短剣がめり込んでいた。 「い、いきなり……ナ、ナニをするんだよっ!?」 尻餅をついてへたり込んだレムリアが抗議の声をあげる。 「ワタシがおねーさん」 ぞっとするような冷たい声には反論を許さない不気味な力強さがあった。 レムリアは気圧されたようにルムファムから視線を外すと咳払いをひとつする。 「と、とりあえず……、そ、その問題は後でゆっくり話し合うとして……。 店主さん、壊れた品物はこちらで弁償させて頂きます」 レムリアはペコペコと申し訳なさそうに頭を下げる。 「い、いや、気にしなくていい。 あんな安物二束三文でくれてやっても問題ない品だ」 ゴルダは二重の意味で呆気にとられていた。 ルムファムの非常識な怪力振りもさることながら、レムリアの屍族らしかぬ低姿勢にである。 「ほら、ルムも謝って」 レムリアは非難するようにルムファムを睨みつける。 だが、少女は懲りた様子もなく、今度は見せつけるように修道服の胸元から短剣を取りだした。 「ぎゃ!!」 一瞬身構えたレムリアだったが、悲鳴は予期しない方向から聞こえてくる。 「ひぃぃぃ……」 ゴルダのぶよぶよとした脂手が、ルムファムの放った短剣によって帳場台に縫いつけられていた。 驚嘆すべきはその投擲の正確性ではなく、どのような業を用いたのか、短剣で貫かれた傷口からは一滴の血も流れ落ちてはいないことだ。 「ルム……?」 レムリアが三白眼で理由を尋ねる。 「逃げた」 ルムファムの返答は短い。 どうやら、隙をついて店奥に逃れようと画策したゴルダに対して先手を打ったらしい。 ルムファムの気配察知能力は野生の超感覚並みに優れているので、間違いはないだろう。 「品物を売って貰えないとボクも店主さんも不幸になりそうです。 ここはお互いの為に賢く行動しましょう」 「……わ、わかった。 そ、それで本日の御用向きの品は?」 ゴルダは顔中に油汗を浮かべたまま引き攣った愛想笑いを浮かべる。 「プリウスの実を三袋。 それと材質は特に問いません。 この店で最も頑丈な武器を数個、適当に見繕って貰えますか?」 ゴルダの喉がゴクリと大きな音をたてる。 「お客様……プリウスの実は公には取引をされていない希少品です。 とても個人商店で提供できる品ではございませんが?」 「あれ、可笑しいな。 ミュークさまが貧民街でなら手に入ると仰っていたのに……」 レムリアが困り顔でぶつぶつと呟く。 ゴルダは少年が度々口にする“ミューク”という名の人物に多大な興味をそそられていた。 しかし、身の安全を考慮するに、深く詮索する気にもなれない。 「きっと何かの間違いでしょう。 当店はしがない雑貨屋でございます」 「ですが、お店のほうは随分と繁盛しているみたいですね」 レムリアは店内を見渡し幾分場違いな感想を述べた。 店内の淀んだ空気、陳列棚や床に堆く積もった粉塵、どれも盛況とは評し難い光景だ。 「な、なにを根拠にそのような……。 い、いや、誠にお恥ずかしい限りですが、ここ数年は客足も遠のくばかりで閑古鳥が鳴く侘しさです」 だが、レムリアの皮肉ともとれる物言いに、当のゴルダは露骨に焦りだした。 その尋常ならざる発汗量からも、嘘が苦手な性分であることが伺える。 「確かに店頭にある商品、雑貨の類はまったく売れていないようです。 でも、だからこそ、長年間口を広げられる理由が、別にあるとお見受け致しました」 レムリアが明快に断言してのける。 その様子から隠し立ては無益と理解したのか、ゴルダは諦めたように溜息をついた。 「ふぅ……これはお人が悪い。 すべて見抜かれているようですな。 お察しの通りこの店は表立っては雑貨店などを営んでおりますが、裏では好事家相手の闇商品を扱っております」 ゴルダはそこでひとつ咳払いをすると、 「ようこそ『ダスト・ウィズ』へ。 ご希望の商品はなんなりと取り揃えますぞ」 ゴルダは表の顔を脱ぎ捨てると、改めて目前の双子を客として迎え入れる覚悟を決めたようだった。 その言葉通り店の地下には古今東西から集められた“毒薬・禁魔法薬”の類から、古種・巨人族の失われた技術“カラクリ”といった珍品、果てはロストワードの彫り込まれた石版まで、公での取引を禁止されている品物が保管されているのだ。 「それでは、先ほど所望した品は用意できますか?」 「勿論ですお客様。 ですが、プリウスの栽培や流通は、教会法のみならず、公国の法律で厳しく制限されております。 入手に危険を伴う分それなりの額になるわけですが―――」 ゴルダもその筋では名を馳せた闇商人であった。 商売の話となれば気後れはしていない。 「生憎その方面には通じて意いないので、相場は如何程なのですか?」 レムリアが至極真っ当な反応をしめす。 ゴルダはレムリアの頭の天辺からつま先までを値踏みするように観察すると、 「そうですな……ガープ金貨五百枚。 大負けに負けて金貨四百枚といったところでしょうな」 明らかにふっかけであるのだが、レムリアに気づいた様子は無い。 西大陸で最も広く流通するガープ金貨一枚は、同銀貨十枚に匹敵し、銅貨なら百枚分の価値がある。 ちなみにガープ銀貨が一枚あれば、七日間は衣食住に困らない。 これだけでもゴルダの提示した金額が如何に法外なものであるかがわかる。 屍族が人間の市場、しかもその裏側に精通しているわけもない。 そう結論付けたゴルダの詐欺まがいの奸計であったのだが、 「わかりました。 その金額でお願いします」 いともあっさりと返されて驚いたのはゴルダのほうであった。 「し、失礼ですがガープ金貨四百枚ですよ。 本当にわかっておいでですか?」 金貨四百枚ともなれば、持ち歩くにはかなりの重量になる。 なにより見た目にも嵩張る筈である。 銀貨や銅貨に換算すれば尚更である。 ゴルダもこの双子がそのような大金を所持していないことは一見して判断していた。 体よく追い返そうと画策していたゴルダにとって、それは想定外の事態であった。 「当店は信用貸しなどは一切おこなっておりませんが……」 「わかっています」 そういって、レムリアは帳場台の上に一枚の古ぼけた金貨を置く。 「こ、これは……セナートル金貨!?」 ゴルダの両眼が剥きだされた。 本来それが持つ貨幣価値は金の含有量に依存する。 そういった意味でセナートル金貨は西大陸で広く流通するガープ金貨やウリクス金貨より僅かに質は落ちる。 だが、セナトール金貨は一夜のうちに滅び去ったといわれる古代王国ニクネベェンの空中都市でのみ鋳造・使用されていた幻の貨幣であった。 とある国の好事家が、それ欲しさに全ての財産を投げ打ったという逸話があるほどだ。 「それでは、足りませんか?」 「な、何を馬鹿なことを!! これ一枚でガープ金貨五千枚の価値はありますぞ」 ゴルダは自由になる右手でセナートル金貨を引っ手繰ると、早々に懐へと仕舞い込んでしまった。 レムリアの気が変わらぬ内に取引を成立させたかったのであろう。 流石に闇商を営んでいるだけあって、こういった珍品・稀少品には目がないようであった。 先程までの慎重さはどこ吹く風、ほくほく顔で愛想笑いを見せている。 「どうやら、了承頂けたようですね」 満面の笑みを浮かべるレムリア。 ==============================================ここら辺文章が酷かったです(涙)比喩表現などで二重三重に同じ意味が被っていたり……多少でも、マシになっていれば幸いです。
2010/09/06

※推敲が全文に及んだので通常形式で載せます『†Princesse du sang†』 月ノ章 0-01【双子】月ノ章 0-01【双子】―シャルロットSIDE― リザロス湾の西側に広がる歓楽街。 表通りから隔たれた裏路地の先には堕ちた街(ダストシティ)と呼ばれる貧民街がある。 そこは自由を求める逃亡奴隷達の逃げ込み場であり、公国の制度に反発する反乱分子の根城が多く構えられている。 人身売買や不法な取引の温床、そういった裏社会の闇商人や奴隷商人等の巣窟でもあった。 無論、住人に市民権は無く、公国の行政の対象から完全に切り離された無法地帯と化している。 アダマストルは比較的裕福な層が住む国家であるのだが、首都ナイトクランに集束される冨と名声は、同時にこういった深い闇をも生じさせていた。 そして“その店”は貧民街でも最も治安の悪い三番区画にあった。 小ぢんまりとした店構えでこれといった特徴はない。 店内の壁一面に並べられた陳列棚には小麦や豆類、玉蜀黍、埃を被った雑貨の類が所狭しと陳列されていた。 物々交換が取引の中心である貧民街で雑貨屋に訪れる客は稀だ。 それは陳列棚に降り積もった塵埃からも判断出来る。 しかし、不思議なことにこの店―――ダスト・ウィズは二十年もの長きに渡り営業を続けている。 帳場台の奥には、東方伝来の珠盤を用いて本日の売り上げを数える男が一人。 店主のゴルダである。 まるまると肥えた怠惰な容姿と、鼻下にたくわえた黒髭が特徴的な人物だ。 「ん?」 それは、ゴルダが店仕舞を始めようと考えた矢先の出来事であった。 不意に肌寒さ感じたゴルダは怪訝に眉根を曇らせる。 そのまま、億劫そうに店口へと首を回らすと、古びた木扉が風に揺られて耳障りな悲鳴をあげていた。 老朽化に伴い建てつけが悪くなった扉が何かの拍子に開いたのだろう。 ゴルダは独り合点すると、重い腰を上げる為に両膝に力を籠めた。 「なっ!?」 視線を正面に戻したゴルダの両眼にそれが映りこんでいた。 目の前に立つ小さな人影。 気配など微塵も感じさせずに店内に入り込んだ闇は、漆黒の長衣を纏い、同系色の面紗で目元以外の全てを覆い隠している。 胸元には赤と金の糸で十字の紋章が刺繍された前掛けが見える。 それはこの大陸では珍しくないメナディエル正教に属する見習い修道女の装いであった。 小柄な修道女は、長衣の裾をずりずりと引きずりながら物珍しげに店内を物色している。 「ここはアンタのような人間が来る場所じゃない」 諭すような口調とは裏腹に、ゴルダの表情には如何にも迷惑そうな色がありありと窺えた。 だが、その修道女は気にした素振りもなく、帳場台の前に歩み寄る。 「教会への寄付なら十二分に進呈している筈だ」 ゴルダが苛立ったように声を荒げる。 真っ当な商売なら国の許可状を得た上で、その土地のギルド(同業組合組織)へと定期上納金を納めるだけで事は済む。 だが、貧民街で無許可の商いを行う人間は、国境役人である税関吏への袖の下、多方面に影響力が強い教会への寄進など、一見悪習にも思える慣例が当たり前に罷り通っている。 無論、二重三重に上前を撥ねられるわけだから気分が良いわけもない。 「どちらにしても、もう店仕舞いだ。 悪いが帰ってくれ」 加えて、闇商として培った長年の勘が、夜の芳香を漂わす目前の修道女に警鐘を鳴らしていた。 「おい、アンタ」 ゴルダの手が帳場台越しに修道女の肩口に触れる。 すると、驚いたように小柄な身体が跳ねて、その弾みで頭套が滑り落ちる。 「わっ、ボ、ボクのことを言っているのですか?」 現れたのは、癖のある銀髪に深い蒼色の瞳が印象的な少女―――いや少年であった。 歳の頃十歳前後、儚く脆いこの年頃独特の中性的な魅力が同居している。 だが、ゴルダの視線を最も惹きつけたのは少年の不自然なまでに白い肌。 貴族階級の間では、白粉を用いて化粧を施すことも慣習の範疇である。 しかし、天然染料は高額な為に一般の庶民がそう易々と入手出来る代物ではない。 清貧を信条とする修道関係者には似つかわしくない代物であろう。 そして、そこにはもうひとつの可能性が潜んでいた。 早計すぎる判断ではあったが、ゴルダには直感めいたものがあった。 「アンタ……屍族なのか……?」 ゴルダの呼吸が急速に荒くなる。 「えっ、あ……はい」 少年は隠すつもりがないらしくあっさりと肯定する。 だが、ゴルダの方はそうもいかない。 腫れぼった指先で弾かれたように首筋を確認する。 「心配いりません。 ボクは無断で他人の血を戴いたりはしませんから」 ゴルダの心情を察し柔軟に応対する少年。 だがその顔は何処か哀し気に見えた。 もっとも、当事者であるゴルダは口約束で身の安全を保障されても落ち着けるわけがない。 「レム……コレ殺さないの?」 感情を伴わない少女の声。 それはゴルダの背後から聞こえた。 得も言われぬ恐怖がゴルダの精神を束縛していた。 金縛りにあったかのように身体が硬直して動かない。 「ひっ!?」 ゴルダの首筋に引き攣ったような痛みが走り、遅れて首筋に生温かい液体が浮き上がる。 手を添えたままの首回り、だぶついた顎肉の間に冷たい感触があった。 ゴルダの全身からじっとりと冷たい汗が噴きだしてくる。 「ちょ、ちょっと待ってルム。 そんなことをしたら、またミュークさまに怒られるよ」 レムと呼ばれた少年は慌てたように少女の行動を制止する。 少年は恐怖に硬直するゴルダへと視線を戻し、 「先ほども言いましたがボクたちは買い物に来ただけです。 用が済めばすぐに帰るのでご安心ください」 そう言って少年は破顔する。 それは見る者を安心させ警戒心を和らげる純真な笑顔だった。 「ああ……だが、その前に後ろのお嬢ちゃんをどうにかしてくれないか? こ、このままじゃ首元が冷えて敵わない」 「あっ、すいません。 ルム、いい加減に解放してあげなよ」 少年が目配せをすると、ゴルダの背後で気配が動く。 ゴルダは首筋から刃物の感触が消えたのを察知すると、恐怖の発生源を確認するべく背後を振り返る。 「これは……」 そこには薄暗い店内の陰影に溶け込むように、屍族の少女が佇んでいた。 ゴルダは視界におさまった少女の愛らしい容姿に感嘆の息を洩らす。 癖のないサラサラとした白銀髪を腰の辺りまで伸ばし、淡い碧眼には危うげな色を宿している。 そこには物言わぬ人形のような儚さを伴った美しさがあった。 屍族の少女はふらふらと夢遊病者のような足取りで帳場台を横切ると、少年の右隣にちょこんと納まる。 僅かな差異はあるものの並んでみるとまさに生き写しであった。 「そういえば自己紹介がまだでしたね。 ボクはレムリア・グリンハルト。 こっちは双子の妹のルムフォムです」 レムリアはまずは自分を、続けて横に並んだ双子の片割れを紹介する。 そして丁寧に謝意を述べて、短躯を折って一礼した。 ==============================================
2010/09/06
※続きです============================================================月ノ章_00-00【屍族】============================================================【改稿・加筆/ミュークと仮面の人物の駆け引き】 豪奢な細工の施された天窓から洩れる月明かりが照らし出す仮面の下、その陥没した眼底から発せられる視線に、尋常ならざる強靭さを宿していたからでもある。 「仮面の君よ。 其方は客人に対し、その顔を隠さねば非礼になるほど醜悪な相貌をしておるのかや?」 痛烈な皮肉である。 身分を明かせない理由がある事を察した上であるのだから尚更だ。 「これは手厳しい。 しかし、素顔を見せぬのは信頼の証。 何より私の素性を知れば、貴女に危害が及ぶと考慮したからです」 仮面の男の言葉に偽りがないことはミュークにもわかっていた。 無論、男が指す“信頼”とはミューク自身にではなく、その“力”にこそ向けられているのだろうが――― 「そのようじゃな。 其方はワチキが継ぎし“血統アルカナ”の『力』をよく存じているとみえる。 じゃが良いのかの? 商王殿は如何にも無防備じゃぞ。 其方からお主の正体を“視る”事もワチキには可能じゃ」 ミュークの鋭い眼光がヘリソンを射抜く。 室内に鈍い音が響き、毛足の長い絨毯の上で無様に這い蹲るヘリソン。 その両眼には人間が屍族に抱く根源的な恐怖が宿っていた。 仮面の男は片手をあげ給仕の娘を呼び寄せると、 「ヘリソン様はご気分が優れぬご様子。 すぐに私室の方にお連れしなさい」 仮面の男はヘリソンが這う這うの体で退席するのを見届け苦笑する。 「面倒なことじゃな」 ミュークが誰にともなくそう呟く。 「彼には私の後見人としてこの場に同席して頂きましたが、気の毒な事をしてしまったようです」 仮面の男が傷心を装っているのは明らかだった。 「まぁ、良い。 して、ワチキの『力』を必要とは如何なる理由でかの?」 「それは貴女の返答しだいでお話することになります」 ミュークはこの会談の行方をいぶかしんでいた。 秘密裏にことを遂行したい場合、最初に依頼内容を明かさぬのも常等手段であることは確かだが・・・ 「ワチキの受諾の有無がなければ話せぬ内容かや?」 「そうなりましょうか」 言葉を釣り糸にしての、心裡の探りあいを拒むように、仮面の男は円卓におかれた貴紅酒を盃に注ぐと、丁寧に勧めてくる。 貴紅酒は大陸北部の寒冷地帯でのみ生息するプリウスの果汁を発酵させた果実酒である。 天然に濃縮されたプリウスの果汁は、甘味と酸味が豊富で人間の血液と酷似した含有成分を持ち、屍族の吸血欲求を満たす代用品として広く知られていた。 しかし、貴紅酒はメナディルの法では禁じられた銘柄であった。 プリウスの実には多量の麻薬成分が含まれており、度を越せば飲む者を廃人にする。 ミュークは貴紅酒が並々と注がれた盃を口元にあげると、一気に飲み干した。 この塔に招かれてから、既に相当の量を嗜んでいる筈だが、彼女は平然としていた。 例え屍族であったとしても、摂取しすぎれば毒にしかならない貴紅酒を、自らの手で更に盃に注ぐと、不意に悪戯めいたことを企む子供のような笑顔をみせた。 「ふむ、面白くはないが、興味深いの・・・」 「?」 全ての感情を遮断していた仮面の下から、男の動揺に似た戸惑いの色が窺えた。 ミュークは目の前の男から発せられる不可思議な既視感に耽溺していた。 警戒と好奇心が綯交ぜになり、さらに興味を増長する。 「商王を傅かせる人間の腹の裡を知るのも暇つぶしぐらいにはなるじゃろう。 それに貴重な貴紅酒をこれだけ頂いている。 これで断れば非礼となろうしな」 ミュークは肩上で短く切り揃えられた栗色の髪を気だるげに掻き揚げると、 「では、その密事とやらの趣旨を窺うとしようかの?」 先程までの慎重さが嘘のように、興味深げな態度。 ミュークは茶目っ気を帯びる表情でにんまりとする。 仮面の男はミュークの態度を了承の意思と受け取ったのだろう。 満足そうに頷くと口を開く。 「アルジャベータの聖女を生きたまま囚えて頂きたい」 それは、ミュークの抱いた推量を遥かに超えたものであった。 このナイトクランを中心に、様々な人間の思惑や陰謀が禍々しく世界に渦巻こうとしていた。↓★推敲★↓ 屍族の鋭敏な感性が仮面に穿たれた目元から発せられる眼光に、尋常ならざる強靭さを感じ取っていたからである。 「仮面の君よ。 其方は客人に顔を明かせぬほど醜悪な相貌をしておるのかや?」 痛烈な皮肉である。 身分を明かせない理由がある事を察した上であるのだから尚更だ。 「これは手厳しい。 しかし、素顔を見せぬのはミューク様に対する信頼の証。 これはそういったもので御座います」 仮面の人物の言葉に偽りがないことはミュークにもわかっていた。 無論、仮面の人物が指す“信頼”とはミューク自身にではなく、彼女が持つ“力”にこそ向けられている。 「そのようじゃな。 其方はワチキが継ぎし“血統アルカナの力”をよく存じているとみえる。 じゃが良いのかの? 商王殿は如何にも無防備じゃぞ。 アチラからお主の正体を“視る”事もワチキには可能じゃ」 ミュークの言葉に一拍遅れて、室内にヘリソンの悲鳴が響いた。 椅子から転げ落ちた拍子に、強か腰を打ちつけたようで、商王は毛足の長い絨毯の上で無様に這い蹲っていた。 「わ、わたしは何も知らないのだ。 ただ、よい儲け話があると持ちかけられて……」 聞いてもいないのにべらべらと喋りだすヘリソン。 どうやら理性の箍が外れてしまったようである。 その両眼には人族が屍族に抱く根源的な恐怖が宿っていた。 苦笑した仮面の人物が大きく手を打ち鳴らして室外から給仕の娘を呼び寄せる。 「ヘリソン殿はご気分が優れぬご様子。 すぐに私室の方にお連れしなさい」。 「面倒なことじゃな」 ミュークが誰にともなくそう呟く。 「ヘリソン殿には仲介役としてこの場に同席して頂きましたが、気の毒な事をしてしまったようです」 仮面の人物が傷心を装っているのは明らかだった。 「まぁ、良い。 して、ワチキの“力”を必要とは如何なる理由でかの?」 ミュークはこの会談の行方をいぶかしんでいた。 三大商王を仲介役として顎で使える者ならば、大概の望みは思いのままである。 それに先ほどのヘリソンの言葉。 三大商王の食指を動かすほどの儲け話などそこらに転がる小事である筈がない。 「それはミューク様の返答次第となりますかな」 仮面の男は円卓におかれた貴紅酒を盃に注ぐと、それを丁寧にミュークへと勧めてくる。 どうやら、言葉を釣り糸にしての心裡の探りあいは本意ではないらしい。 「これはなかなかの上物じゃな」 ミュークは貴紅酒が並々と注がれた盃を口元に近づけると、紅い舌でペロリと水面を打つ。 貴紅酒は大陸北部の寒冷地帯でのみ生息するプリウスの果汁を発酵させた果実酒である。 天然に濃縮されたプリウスの果汁は、甘味と酸味が豊富で人間の血液と酷似した含有成分を持ち、屍族の吸血欲求を満たす代用品として広く知られていた。 しかし、貴紅酒は教会法では禁じられた銘柄であり表の世界では流通していない。 プリウスの実には多量の麻薬成分が含まれており、度を越せば飲む者を廃人にする禁酒であるからだ。 「ワチキの受諾の有無がなければ話せぬ内容かや?」 「そうなりましょうか」 「ふむ、気に入らぬこともあるが、興味深いの……」 ミュークは手にした盃を傾けると、それを一気に飲み干して、悪戯めいた笑顔をみせる。 全ての感情を遮断していた仮面の人物から動揺に似た戸惑いの色が窺えた。 ミュークの真意をはかり損ねたのだろう。 「商王を傅かせる人間の腹の裡を知るのも暇つぶしぐらいにはなるじゃろう。 それに貴重な貴紅酒を頂いたことじゃしな。 これで断れば非礼となろう」 ミュークは肩上で短く切り揃えられた栗色の髪を気だるげに掻き揚げると、 「では、その密事とやらの趣旨を窺うとしようかの?」 仮面の人物はミュークの言葉を了承の意思と受け取ったのだろう。 小さく頷くと口を開いた。 「アダマストル第一皇女であるシャルロット・アルジャベータ・リュズレイを生きたまま囚えて頂きたい」 それは、ミュークの抱いた推量を遥かに超えたものであった。 このナイトクランを中心に、屍族と人族、様々な思惑や陰謀が禍々しく蠢きだしていた。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/09/04
今回は月ノ章の全体推敲を見送る予定だったのですが、読み直すと酷かったのですることにします。・・・初っ端から直す文量が多かったので全文載せるか迷いました(汗)============================================================月ノ章_00-00【屍族】============================================================【改稿・加筆/ミュークの回想】 彼女は辺境の未開地に逃れた人間たちを保護し、彼らに様々な知恵を授けた。 長い時を経て、そこには独自の文化や宗教が生まれる。 だが、それは屍族の過酷な支配に対する反乱を誘発する火種ともなった。 その熱は次第に大陸各地へと飛び火し、大陸全土を巻き込んだ血みどろの大戦へと発展した。 後に“聖剣戦争”と呼ばれる戦いの先駆けである。 アルフォンヌの抱いた未来は儚くも潰え、結果として北西大陸を支配していた大屍族達は駆逐されることとなる。 生き残った力ある屍族達も呪詛の言葉を残しつつ、東方世界へと逃れていった。 「(―――ワチキには母上の考えは理解できぬ)」 ミュークは胸裡を占める重みに堪えかねたようにゆっくりと息を吐く。 「幾分大人気なかったようじゃの。 それに、商王殿もこのような無駄話をする為にワチキを招いたわけでもあるまい?」 「い、いえ……。 貴女が故国を捨て、この西大陸を見聞してまわっているとの噂を耳にして以来、ぜひとも一度お話をと思い―――」 徹底して体裁を取り繕うヘリソンに苦笑するミューク。 「ふむ…。 じゃが、このバールペオル大陸は屍族の支配から解き放たれて久しい。 無様に生き恥を晒しているワチキよりも其方たち人間のほうが何かと詳しいじゃろう。 遠まわしな物言いは好かぬ。 話があるなら単刀直入に申されてみよ」 ヘリソンの額には尋常ならざる量の汗の粒が浮かんでいた。 彼は困ったように傍らに座る人物へと視線を移す。↓★推敲★↓ アルフォンヌはウィズイッドの領有地に圧制から逃れた人族を保護して、屍族に対抗すべき様々な知恵を授けた。 だが、長い時を経て、屍族と人族の勢力図には如実な変化が生じることになる。 繁殖力に長けた人族が屍族の支配から脱却すべく、大陸の各地に自治領を形成して全面抗争を開始したのだ。 その熱は次第に西大陸全土へと飛び火して、血みどろの大戦へと発展した。 後に“聖剣戦争”と呼ばれる戦いの先駆けである。 長い戦いの末、北西大陸を支配していた大屍族達は駆逐される。 結果、アルフォンヌの抱いた未来は儚くも潰えた。 生き残った力ある屍族たちも呪詛の言葉を残しつつ、東方世界へと逃れていった。 「なによりワチキには母上の考えは理解できぬ」 ミュークは胸裡を占める重みに堪えかねたように独り言つ。 「如何なされました?」 それを聞きとがめたヘリソンが不審気な眼差しで尋ねる。 「いや、此方の話じゃ。 先程は幾分大人気なかったようじゃの。 それに、商王殿もこのような無駄話をする為にワチキを招いたわけでもあるまい?」 「い、いえ……。 ウィズイッド家のご息女が故国を捨て、この西大陸を見聞してまわっているとの噂を耳にして以来、ぜひとも御高説を承りたいと―――」 ヘリソンは底意を隠したまま徹底して体裁をとり繕う。 「ふむ……。 じゃが、このバールペオル大陸は屍族の支配から解き放たれて久しい。 無様に生き恥を晒しているワチキよりも其方たち人間のほうが知識には明るいじゃろう。 遠まわしな物言いは好かぬ。 話があるなら単刀直入に申されてみよ」 ミュークの老猾な切り返しに、ヘリソンが目に見えて狼狽する。 商王は困ったように傍らに座る人物へと視線を移した。============================================================【改稿/仮面の人物の描写】 「ミューク・ウィズイッド様。 貴女は現実主義者であれるようだ。 ヘリソン様、ここは正直にお話された方が得策でありましょう」 その人物は素顔を隠すように奇妙な仮面を被り、細身の長身をゆったりとした上衣で包みこんでいた。 簡素な身形だが、この男が高貴な身分の人物である事は、僅かな所作から窺い知れた。 その素朴な装いも自らの身分や素性が知れる全てを排除した結果であるのだろう。↓★推敲★↓ 「ミューク・ウィズイッド様。 貴女は我々より遥かに現実主義者であれるようだ。 ヘリソン様、ここは正直にお話された方が得策でありましょう」 声の主は素顔を隠すように奇妙な仮面を被り、細身の長身をゆったりとした上衣で包みこんでいた。 簡素な身形だが、この人物が高貴な身分の出である事は、僅かな所作から窺い知れた。 その素朴な装いも自らの身分や素性が知れる全てを排除した結果であるのだろう。============================================================【改稿・加筆/ミュークとヘリソン】 「う、うむ…確かにそのようだ―――だが……」 ヘリソンの口調は如何にも釈然としない。 彼自身、なにか逡巡することがあるようだ。 僅かな―――彼にとっては無窮に感じられたであろう時を費やして、その迷いを振り払うように大きく息を吐くと、両手を強く握り締める。 「わ、我々は貴女の……屍族としての特異な『力』を必要としているのだ」 「ふむ」 屍族との接触は教会の法で禁じられている。 そのような危険を犯してまで接近してきた彼らの思惑にミュークは少なからず興味を抱いていた。 この招待を受けたのもただの気まぐれではない。 「じゃが、其方たちは何か勘違いしておられるようじゃな。 ワチキが素直にお主達人間の願いを聞き届けるとでも思っておるのかや?」↓★推敲★↓ 「う、うむ……」 だが、ヘリソンの口調は如何にも釈然としない。 どうやら、この会合に逡巡するところがあるようだ。 僅かな―――当人にとっては無窮に感じられたであろう時を費やして、ヘリソンは心裡の迷いを振り払うように大きく息を吐くと、 「わ、我々は貴女の……いや、ウィズイッド家に伝わる特異な“力”を必要としているのだ」 「ウィズイッドが継承する血統アルカナの能力を欲していると?」 ミュークの紅眼がヘリソンを射抜く。 屍族との接触は教会法で禁じられている。 そのような危険を犯してまで接近してきた商王の思惑にミュークは少なからず興味を抱いていた。 この招待を受けたのもただの気まぐれではない。 「そ、その通りです」 ヘリソンは喉に詰まった塊を嚥下しようと生唾を飲み込む。 「じゃが、商王殿は何か勘違いしておられるようじゃな。 ワチキが素直に其方たち人族の願いを聞き届けるとでも思っておるのかや?」============================================================【改稿/ミュークの突き放した返答】 「それは商王殿自らで考えるがよかろう」↓★推敲★↓ 「それを提示するのはそちらの領分じゃろう」============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/09/04
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