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明けまして、おめでとうございます月ノ章的にタイムリーなルムファム&ミュミュです。(※ミュミュは使い回しの補正verです)よい構図が浮かばなかったので、知り合いに適当にポーズをとって貰って参考にしました。まぁ、ここでこんな風に利用されているとは露ほども思わないでしょうけど┃襖┃ω・o)ノヤッホーちなみに、サークルの方でも、年賀状絵を描いています♪今年も日々精進ですなー
2010/12/31

『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-01【月兎】月ノ章 3-01【月兎】―プルミエールSIDE― ―――一方その頃、件の二人組みは…… 「ルムルム、なにか面白そうなことはないですか?」 プルミエールがさも退屈そうに欠伸をする。 長椅子から伸ばされた細い両足が、手持ち無沙汰にバタバタと交互に揺れていた。 「絶無―――いや……」 ルムファムが吐いた否定を呑み込む。 無機質な碧眼がプルミエールの肩越しに据えられていた。 釣られてプルミエールが背後を振り返ると、 「うにゅ!?」 暖炉脇に穿たれた壁穴から、真っ白な球体が突き出ていた。 注視すると、ふさふさの羽毛の中に、赤く小さな角のようなものが生えた小動物の類だと判別できた。 「ルムルム……アレはなんですか?」 プルミエールは長椅子から身を乗り出して訊ねる。 少女の声に反応した白い球体から、ぴょこんと一対の大きな耳が伸び上がった。 「存知せず。 だが、形状からミュミュと仮定する」 『みゅ~』 ルムファムの言葉を肯定するように一声鳴くと、“それ”はくつろぐ様に伸びをする。 色素欠乏症の赤い瞳と額の一角、長い耳を覆う真っ白な長毛は、野生のミュミュの持つ典型的な特徴であった。 この謎の生物はウサギ科に属する草食哺乳類であり、女神メナディエルが御遣いを創造した際に、生贄の器とされた経緯が聖伝承にも記されている。 主な生息地は西大陸北部の氷河地帯であり、捕獲の難易度に加えて、宗教的神聖視からメナディエル教圏での捕獲・売買が禁止されている為、通常では値段がつかないほどの付加価値がある。 そして、ミュミュの神秘性をより崇高なものへと昇華したのは、その生存期間である。 野性のミュミュは人族の数倍の寿命を誇るとされていた。 数字が不確かなのは、ミュミュの生態研究が始まって数百年、選ばれた被験体が未だに健在だからである。 その生態は不老の象徴として現在進行形で研究対象となっていた。 現在では人為的交配が進み主に好事家の間で、愛玩用のペットとして飼われる例もあるが、家畜化されたミュミュの寿命は、長くて三十年程度だと定義されている。 「“みゅみゅ”というのですか、か~い~ですね♪ でも、あのヘンタイ牛チチお化けと名前が似てるので、可愛くない方は“ミュクミュク”に格下げしますです」 一方的に綽名で命名しておいて、随分と勝手な言い草だが、触らぬ神に祟り無しであった。 「捕縛するか?」 「うむ、よきに計らいなさいです」 ルムファムに焚きつけられたプルミエールが勢い良く立ち上がる。 制止役どころか進んで扇動するあたり、屍族の少女も同様の倦怠感に苛まれていたようだ。 『みゅみゅ?』 不穏な空気に、ミュミュの黒く縁取りされた丸くて大きい瞳が、キョロキョロと不安そうに揺れていた。 「ルムルムはそっちです」 珍しく頭を使ったプルミエールが、ルムファムと挟み込むようにミュミュへとにじり寄る。 『みゅ~……』 人族と屍族、ふたりの少女の眼光から不吉なものを感じ取ったようで、ミュミュは尾っぽをピンと立てて警戒していた。 と、次の瞬間、脱兎の如く逃げ出す。 「ぐぶぅ」 一拍遅れて、飛び掛ったプルミエールが顔面から石壁に突っ込む。 それでも怯まず、少女の腕がミュミュの消えた壁穴を弄るが、望んだ手応えは得られなかったらしく、 「ルムルム、追いかけるです!」 叫ぶや否や、立ち直ったプルミエールも駆ける。 廻廊に出ると、夜闇に覆われた木立の間を白い塊が飛び跳ねていた。 どうやら、壁穴は中庭に通じる廻廊側に抜けていたようだ。 「そこだ」 「そこかぁぁぁ―――げふ」 ルムファムが拾い上げた枯枝を投げつけるが、割って入った障害物に阻まれる。 「むぅ、どこいったです」 枯葉の山から顔を振り上げたプルミエールが左右を見渡している。 後頭部にルムファムが投じた木片が突き立っているが、気づいていないらしい。 『みゅみゅ』 誘うような鳴声がプルミエールの耳朶に触れる。 見ると、廃庭の中央に位置する噴水台の上に、ミュミュがちょこんと佇んでいた。 「オワリだ」 血の気が引く宣告。 噴水台の裏側に回り込んだルムファムが、ミュミュの背後から掴み掛かる―――が、そこに猪突猛進、プルミエールが頭から突っ込んできた。 「うぎゃん」 ミュミュを挟んで額と額でお見合いをする二人の少女。 絡み合った小さな身体は、水受け台の上に倒れ込む。 「ルムルム、なんで邪魔ばかりするですか!」 尻餅を着いたプルミエールが不満の声をあげる。 「解せぬ」 理不尽な抗議にルムファムも抑揚の無い声で反論する。 この即席鬼ごっこは、地理に通じた上、小回りが利くミュミュに分があるようだ。 普段なら手荒な手段に走るルムファムも、手加減をしているようで、動きに精彩さを欠いていた。 加えて、目前で不規則な動きを繰り返すプルミエールの存在も足枷になっているのだろう。 と、突然、中庭に地鳴りのような大音響が響き渡り、 「うにゃあぁぁぁぁぁぁ~」 老朽化した水受け台が付加重量に耐え切れずに崩落する。 哀れ、凸凹ふたり組みは、地中深くに呑み込まれていった。 「無事か?」 枯れ蔦に掴り落下を免れたルムファムが、下方を見下ろして尋ねる。 「うぐぅ……ひどい目にあったです―――ん?」 手を着いた部分から、ぶにょんと柔らかい感触が返ってくる。 視線を落としたプルミエールが驚いたように両眼を見開く。 「ヘビだな」 ルムファムが的確に事実のみを口にする。 プルミエールの尻の下では、トグロを巻いた大蛇が瓦礫に潰されて、哀れ天に召されていた。 「むぅー、身をていしてプルを守るとは見上げたヘビさんですね」 随分と勝手な言い草だが死人に、否、死蛇に口無しであった。 大蛇との間で幸福量は保存されていたようで、かすり傷ひとつ負わずに済んだらしい。 「それにしても、キモチわるいところですね」 目を凝らすと、大蛇の周りには白骨化した小動物の屍骸が散乱していた。 推察するに、中庭に迷い込んだ獲物を捕食して、塒である地下貯水槽に持ち込んでいたようだ。 『みゅ♪ みゅ♪』 嬉しそうな鳴声と共に、ミュミュが大蛇の胴体によじ登ってくる。 そして、何を思ったか、プルミエールの足元に胡桃をひとつ置いた。 「プルにくれるのですか?」 プルミエールが物言いたげに見上げてくるミュミュに訊ねる。 『みゅー』 ミュミュは少女の膝元で甘えるように擦り擦りする。 どうやら、中庭の主であった大蛇を退治してくれたことに対する感謝の意らしい。 「出口だ」 ルムファムが地上へと続く石段を指差している。 大半が土砂で塞がれていたが、大蛇の這入口らしき縦穴が地上へと通じていた。 「ふいー、空気がおいしいですね」 プルミエールはルムファムの後に続いて、地表に這い出すことに成功すると、大きく深呼吸をする。 「其方たち、このような場所で何をやっておるのじゃ?」 そこへ、仕事を放棄したミュークが偶々通り掛る。 「ムムっ、やっと帰ってきましたかミュクミュク」 プルミエールは両手を腰にあてて、偉そうに踏ん反り返った。 少女の頭の上に陣取ったミュミュも心なしか尊大に伸びをしている。 「微妙に呼び名が変わっている気もするが……、それはまぁ良い。 それよりも、その頭の上の白い毛玉はなんぞや?」 ミュークが立て続けに疑問を投げかける。 「よい質問です。 こっちはかーいい方のミュミュです♪」 「事情は知りたくも無いが、なにやら水面下で貶められた気がするぞや」 ミュークはこの得体の知れない胸のもやもやが、嫉妬の類でないことを切に願うのであった。 「まったくミュークさまは……」 そこに、後からやって来たレムリアが合流する。 「あれっ、それはもしかして野生のミュミュですか?」 レムリアが、プルミエールの周囲を廻るようにミュミュを観察する。 この曰くありげの小動物が、屍族の少年の知的好奇心を刺激したらしい。 「恐れいりなさいです」 「うん、本当にスゴイです。 ところでプルプルさん、コレなんですか?」 レムリアが少女の後頭部に刺さったまま放置されていた木片を無造作に抜き取る。 「ぷしゅぅぅぅぅう……」 プルミエールが空気の抜けるような音を口唇から漏らして卒倒する。 ひっくり返った少女の頭部から、ドクドクと赤い染みが地面に広がっていた。 「うわぁぁぁぁぁ……。 ど、どど、どうしたんですか!?」 慌てたレムリアは、しどろもどろに周囲に助けを求めるが、 「レムのせいじゃな」 「レムが悪い」 ミュークとルムファムは他人事のように顔を逸らしていた。 ==============================================金策&月兎は、伏線回収の短編扱いです。3章に闘技場編が収まり切りそうにない場合は独立させます。長編は基本的に短編の集合体なので、コレに限った話ではないのですけどね。
2010/12/22

※新章突入です『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-00【金策】月ノ章 3-00【金策】―ミュークSIDE― 「なぜワチキがこんなことをせねばならぬのじゃ!」 給仕に扮したミュークが鼻息も荒く調理場に戻ってくる。 左右両手に携えた銀盆の上には空皿の山が堆く築かれていた。 「ふたりで働いた方が、お金が早く貯まるからですよ。 あと、これ窓際のお客さんの料理です。 冷めない内に持っていってください」 レムリアが、自慢の腕を振るった小鹿のパイ包み焼きの大皿を差し出す。 こんがりキツネ色のパイ皮と、冬茸と刻み野菜の色彩が食欲をそそる一品である。 「疲れたのじゃ。 ワチキは暫し休むので、他の者に頼めばよかろう」 ミュークは空皿を銀盆ごと流し台に投げ捨てると、調理場の隅に座り込んでしまう。 何事かと他の雇われ給仕の視線が集まる。 「風邪で寝込んでいるご主人に代わり、厨房を任されたボクの身にもなってください」 レムリアはミュークの投げ遣りな対応に小声で抗議する。 「あーあー、レムは信頼厚いお立場で良いのう」 しかし、ミュークは頬を膨らませて、そっぽを向いてしまう。 レムリアの料理の腕が見初められ、この宿酒場アルドンテで働き始めて、三日目の夜。 等々、ミュークが我慢の限界を迎えてしまったようだ。 「こういった大衆酒場は、屍族だと悟られずに済む最適の働き口なんです。 首にされたらどうするおつもりですか?」 夜間営業であることに加えて、大抵の酒場は店内が薄暗い。 それに、泥酔した人族は、容易に記憶障害を起こすので重ねて好都合であったのだ。 「肌粉さえつけておれば、そのような杞憂は要らぬ」 屍族は二つの理由で、肌粉と呼ばれる天然染料を用いる場合がある。 ひとつは生来の遺伝性光線過敏症による陽光炎症を防ぐ為。 そして、もうひとつは、現地人の肌色に似せて正体を隠す為である。 今回、ミュークの指す肌粉とは後者であろう。 肌の露出する部分に染め粉を塗り込んだ上で、身体から発する鬼気を抑制する術さえ心得ていれば、屍族だと勘付かれる心配はまずない。 「原因の一端を担っているボクが言うのもアレなのですが、その肌粉の代金さえ儘ならない懐具合なんです。 それに、人族の社会では働かないとお金は手に入らないんですよ。 知らなかったのですか?」 「それくらい知っておるわ。 ワチキは飲んだくれ相手に媚び諂った挙句、尻まで触られておるのじゃぞ。 雇用契約にそのような項目はなかった筈じゃ」 「で、でも……、それぐらい我慢してください」 レムリアの視線がミュークの纏う仕事着に落ちる。 当人には不本意であろうが、胸元が強調された前掛け型の給仕ドレスがよく似合っていた。 特に肉感的な肢体の持ち主が身に着けると、ひと際魅惑的で人目を惹く仕立て具合になっている。 もしかすると、この衣装をミュークに着せたくて、雇い入れたのではないかと勘繰りたくなるほどだ。 要するに、この事態は、アルドンテの主人にとって想定内の客引きであるのだろう。 「そ、それに、常日頃、ボクたちにもっと酷いことをしているじゃないですか」 珍しく立場が逆転して、レムリアも強気だった。 「レムの癖に生意気な。 そもそも、なぜワチキが働かねばならぬのじゃ」 結局、ミュークが不機嫌な原因はそこに起因するようだった。 「まさか、プルプルさんを働かせるおつもりだったのですか?」 レムリアが心底呆れたように尋ね返す。 「あの“人型災厄発生器”は端から戦力外じゃ」 ミュークはさも心外だと言わんばかりに鼻を鳴らす。 己の感知せぬ場所で、全力で卑下されたプルミエールは、もっと心外であっただろう。 「そうなると、働き手はボクとルム、それにミュークさましかいないわけです。 だとすれば、プルプルさんの監視はルムに任せて、残りの者が働くべきです」 レムリアの言い分は当然である。 力仕事ならば、ルムファムに適任だが、接客業となると、あの鉄仮面少女に勤まるわけが無い。 というか、高確率で死人がでる。 「ワチキは働きたくないのじゃ。 それに、ルムよりも心を籠めてプルミエール嬢の世話ができる」 もう駄々を捏ねる子供と変わらない。 レムリアの正論に対しても、真っ向から曲論をぶつける始末であった。 そもそも、頭の中に、労働に勤しむといった発想そのものが無いのだから仕方ない。 「ミュークさまは問題行動を起こしたばかりなので却下です。 それにプルプルさんも、ルムにだけは一目置いているようなので、そういった観点からもルムが適任です」 あの二人が互いに親近感を抱きあっていることは疑いようも無い。 “動”と“静”、一見して正反対な性質に思えるが、内に潜む唯我独尊な生き様はそっくりであった。 それに、胸元の辺りが洗濯板なことも共通点である。 「ならば、知的で可憐なワチキに適した高報酬な頭脳労働を探して参れ」 と、無理難題を突きつける。 「高額報酬限定なら、個室でお客と朝まで会話する店員募集と、歌って踊れる露出狂の方を急募という貼紙がありました。 ただ、なぜか、どちらも若い女性限定で、ミュークさまお独りで働くことになっちゃいますけど、それでもいいのな―――ぎゃふん」 ミュークの肘鉄がレムリアの鳩尾を抉る。 それは、明らかに如何わしい水商売の類である。 「ワチキは愛でるほう専門じゃ。 他人に身体を触れさせるのは趣味ではない」 「うぅ……。 身元不詳では、まともな仕事にはありつけませんよ」 腹部を押さえて蹲るレムリアが、ミュークの身勝手な言い分に愚痴を零す。 「どちらにしても、これ以上ここで働くのは御免じゃ」 立ち上がったミュークは、逃げるように厨房脇の裏口から姿を消してしまった。 「待ってくださいよー」 慌ててその後を追うレムリア。 抜け出た裏路地は、屍族の少年の心裡を映し出すように、陰鬱な閉塞感に満ち溢れていた。 ==============================================
2010/12/18
光ノ章【シャルロット編】0-00【聖女】の内容が、0-01【妹姫】になっていた点を修正致しました
2010/12/15

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-08【転換】月ノ章 2-08【転換】―ミュークSIDE― ・ ・ ・ 「―――と、いうわけで、ボクは不可抗力だと思うわけです」 最期はお決まりの自己弁護で締め括るレムリア。 「畢竟、病床に伏せるワチキの看病も忘れて、プルミエール嬢と賭博場で遊び惚けた挙句、全財産を失ったと?」 ミュークは足元で蠢く柔らかい物体を足先で小突き回しながら尋ねる。 「あ、あの、その言い方だと身も蓋もないのですが……」 頬を引き攣らせたレムリアが婉曲に意見する。 真正面から抗議すれば藪蛇になることは理解しているようだ。 金銭問題に関しては責任転嫁も可能だが、教会船の一件から失態続きなので、自然と弱腰になってしまう。 そもそも、レムリアの掴まされた誤情報が原因で、狂い始めた歯車である。 聖女を拐かす千載一遇の好機を逸したことにまで、話を蒸し返されては堪らない。 「それとも、他に申し開きしたことでもあるのかや?」 ミュークは重ねて疑問調で返す。 「うっ…。 そもそもボクは聖女の誘拐なんて無謀なことは最初から反対だったのに……」 となれば、発端まで問題を掘り下げねばレムリアに勝機は無い。 「では、レムには些かも責任がないと申すわけじゃな?」 ミュークはわざとらしく首を傾けて思案顔である。 全てはミュークが独断で引き受けた話であり、責任の一端は彼女にもある。 しかし、明確な過失が浮き彫りになっている分、形勢は圧倒的にレムリアに不利であった。 「……ミュークさま、もしかしてボクのことお嫌いですか?」 「ワチキの口から直にそれを聞きたいのかや?」 レムリアの苦し紛れの訴えも、あっさり門前払いをされる。 「全部ボクが悪かったです」 心が折れたレムリアが、意気消沈して項垂れる。 端から勝機など無かったようだ。 「まぁ、過ぎてしまったことを兎や角云っても始まらぬし宥恕しよう。 それで、ワチキが眠っている間に、何か変わったことはなかったかや?」 ミュークが、拍子抜けするほど、呆気なく話題を転換する。 どうやらこの馴れ合いを楽しんでいただけらしい。 「それなら最初から許してくれればいいのに……」 レムリアは恨みがましくミュークを睨む。 「ん、何か云ったかや?」 「なんでもありません」 拗ねたように口先を尖らせてはいるが、根本は従順なレムリアだった。 気を取り直して再度、口を開く。 「賭博場で耳にした話なので、真意の程は定かではありませんが、宜しいでしょうか?」 「ふむ、レムが全財産をカモられた賭博場でとな?」 一旦、許しておいて、性懲りも無く話題を蒸し返すところが、ミュークの悪癖である。 「うっ……」 レムリアは思わぬ不意打ちを受けて絶句する。 「冗談じゃ。 して、それはどのような風聞じゃ?」 「アレシャイムで教皇フォン=バレル三世が暗殺されたそうです」 「ほう、なかなかに聞き捨てならぬな」 ミュークは僅かに目を見開いて感心を示す。 「そして、その首謀者は聖アルジャベータ騎士団の団長であると実しやかに囁かれています」 レムリアが語った内容は、ミュークの想像を遥かに超えたものであった。 人や金の集まる酒場や賭博場には思わぬ情報や儲け話が転がっていることがある。 なかでも各国の世情や政治的動向などは、傭兵稼業は勿論、交易商人にとっても、金相場や物価変動に直結する問題なので得難い情報だろう。 しかし、その大半は流言蜚語の類であり、真実を見抜く経験と千里眼がなければ痛い目をみるのが関の山である。 「俄かには信じ難いが、一分の真実は含まれておると考えて間違いなかろう」 理由は簡単、噂はそれを信じるに足る理由付けがあって初めて成立する。 教皇の死などという大それた虚偽を流布しても、直に偽りだと見破られるだろう。 加えて噂を流した発信者に到っては、身元を特定されれば教会法で罰せられ兼ねない。 「それと、どちらかというとこちらのほうが大事だと思いますが……」 「まだ、何かあるのかや?」 「そ、その……」 ミュークの問い返しに、レムリアは視線を泳がせて言葉を濁す。 「せ、聖女シャルロットが行方不明となっているそうです―――って、うわ!?」 レムリアが悲鳴を上げながら後退る。 ウネウネと常軌を逸した蠕動運動で迫り来る人影に気づいたからであった。 「むががー!!」 不気味な唸り声と共に、ブチブチと繊維物が千切れる音が室内に響き渡る。 「うがむが……ゴックン。 それは、どーゆーことですかっ!?」 「ひわっ、プルプルさん落ち着いてください」 プルミエールは恐るべき咀嚼力で猿轡を嚥下すると、レムリアに詰め寄る。 肉どころか骨まで噛み砕きそうな剣幕であった。 「機は得難くして失い易しとは良く云ったものじゃな……」 経済的困窮に加え、聖女が行方不明と思案投首な難題が山済みである。 どうやら、今後の指針を一から練り直す必要があるようだった。 ミュークは薄汚れた天井を仰ぎ深く長嘆した。 ==============================================
2010/12/15

※大まかな流れは変わってませんが、ほぼ全文書き換えました。読み易さ重視で余計な描写を削ってみました。※文字数制限をちょっぴり超えたので二つに分けます『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-08【転換】月ノ章 2-08【転換】―ミュークSIDE― 「やはり、レムが持っておったか」 ミュークは差し出された巾着からプリウスの実を取り出すと、指先で弾いて口内に抛り込む。 「ふぅ……」 強く奥歯で噛み砕くと、口腔内に甘い酸味と鉄の味が広がり、心身を苛む渇きの衝動が嘘のように退いていった。 「それで、レム。 病躯のワチキを放っておくほど、大事な用件とは何ぞや?」 落ち着きを取り戻したミュークは、言葉に多少の棘を含ませて尋ねる。 心情内訳は憤慨半分、興味半分である。 「え~と、ボク自身、よく覚えてなくて……。 確か……夕刻までは、ここでプルプルさんの監視をしていた筈なのですが……」 と、レムリアが視線を下げる。 石床の上には、荒縄でふん縛られたプルミエールが、無造作に転がされていた。 「ウガガぁ……ガウゥゥ~」 うっかり目が合うと、地鳴りのような唸り声が恨みがましく室内に反響する。 口元で硬く結ばれた猿轡を噛み切らんばかりの剣幕である。 「ていっ」 「ぐがぃ……ぐぅぅ」 ミュークは足元でくぐもった唸り声をあげる物体にひと蹴り入れると、強制的に黙らせる。 「それで?」 そして、何事もなかったかのように、レムリアに向き直る。 他人事とは思えない惨事から、慌てて視線を外すとレムリアはたどたどしく続ける。 「そ、その、気づいたらゴミ捨て場で寝ていて……。 その間の記憶が一切ないんです」 己の言葉に確信が持てないのか、レムリアの口調は歯切れが悪い。 俄かには信じ難い奇異な話である。 「ルムは何か知ってる?」 レムリアは猶予うような口調で、ミュークの肩越しに問う。 「拒絶する」 一拍遅れて室内に響いたルムファムの声。 その声に真っ先に反応したのは、無慈悲に質疑を却下されたレムリアではなく、ミュークであった。 「……ルム、いつからそこにおった?」 振り返ったミュークは、部屋の片隅にルムファムの姿を認めて、半ば呆れたように苦笑する。 「ずっと」 ルムファムの返答は端的に事実を語るのみである。 「そ、そうか……」 反応に困りミュークは言葉を濁す。 いい加減にこの“一人幽鬼ごっこ”を止めさせないと、その内、身近な者が心臓発作で本物の幽鬼になり兼ねない。 「突発性の夢中遊行症とかなのかな……」 一方、レムリアは暗澹たる面持ちで眉根を曇らせていた。 確かに、理性の感知せぬ行動が、記憶からすっぽり抜け落ちていたら不安にもなるだろう。 「ふむ、身体の異変など思い至る節はないのかや?」 仕方なくミュークも、この安手な推理劇に付き合う。 「そういえば、頭のてっぺんに大きな瘤がありました。 普通に転んでぶつける場所でもないし、気味が悪いですよね」 レムリアが頭頂部の辺りを擦りながら答える。 「なるほどの……」 半眼になったミュークが室内を見渡すと、容疑者と思しき人物と刹那的に視線が交差する。 が、それも一瞬で、避けるように明後日の方向へと顔が逸れた。 あからさま過ぎるルムファムの反応である。 「(雉も鳴かずば撃たれまいに……)」 ミュークは早々にレムリアの失言が齎した悪因悪果だと決め付ける。 もっとも、対象の記憶が吹っ飛ぶ程、問答無用で撲りつけるルムファムの豪胆振りにも少なからず問題はある。 「(状況証拠だけで真実に到りそうなものであるが、大方、その無自覚さ故の惨事なのであろうな)」 などと、心裡で達観したミュークだが、無論口には出さなかった。 そのほうが見ていて面白いからである。 「ま、その問題は追々片付けるとして、巾着のなかにあった金嚢のことなのじゃが。 どのような不吉の前触れか、中身が空じゃ。 何か申し開きしたいことがあるなら聞いてやってもよいぞ」 当事者間の問題(人為的な怪異)はさて置き、ミュークは己も実害を被りそうな題材に話を切り替えた。 「うっ……」 見る見る内にレムリアの顔中に汗の玉が浮き上がる。 「あ、あの……怒らないで聞いていただけますか?」 息苦しい沈黙の中、レムリアは誤魔化すような曖昧な笑みで伺いを立てる。 「よかろう。 話してみるのじゃ」 ミュークが促すように咳払いをひとつすると、レムリアは大袈裟すぎる身振り手振りと多少の脚色を加えて、事の顛末を語りだす。 ==============================================
2010/12/15

※大まかな流れは変わってませんが、ほぼ全文書き換えました。いろいろとタイミングが悪く、結構ぷちHぃ場面があります(笑)まぁ、私は私が理想とする、より良い物語を目指すだけです。『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-07【血渇】月ノ章 2-07【血渇】―ミュークSIDE― ゆっくりとミュークの双眸が開く。 早鐘を打つ心臓の鼓動が、この目覚めが現実世界のものであると裏付けていた。 「なぜ、今更あのような夢を……」 滲んでいた視界が鮮明になると、無機質な灰色の天井が映りこむ。 ミュークは、幌を張っただけの簡易寝台から身を起こして、注意深く周囲の状況を確認する。 「ここは―――」 声を発した瞬間、ミュークの身体が九の字に折れ曲がった。 喉元に伸びた手指が狂ったように首筋を掻き毟る。 「っ……っう……喉が……灼ける……」 魂を侵食するような血の渇望に、思考の持続が儘ならなかった。 屍族が有する吸血本能は、種そのものが備える生理的な特徴である。 人族で例えるなら“食欲”と“色欲”の丁度中間に位置する根源的欲求である。 強靭な肉体と精神を誇る屍族であっても、それに打ち勝つ術を見出した者は未だいない。 「立て続けに力を使い過ぎたようじゃな……」 ミュークは長衣の腰帯に手を伸ばすが、そこに求めた感触は感じられなかった。 金嚢と共にプリウスの実を入れた巾着が無くなっていたのだ。 「ま、手短に血液の提供者は幾らでもおるしの」 暫し、呆然としたが、心中で物騒な結論に到る。 それに、巾着に関しては、休眠した所有者に代わり、雑務担当のレムリアが預かっていると考えるのが妥当である。 どちらにしても、今は肉体と精神を蝕む渇きの衝動を抑制することが焦眉の急であった。 早々に双子と合流して、プリウスの実を取り戻さねばならない。 「それにしても、レムとルムは何処にいきおった」 ミュークは夢遊病者のように立ち上がると、覚束ない足取りで、暗い歩廊へと踏み出す。 剥きだしの内壁には、等間隔で石室への入り口が穿たれており、朽ちた調度品の残骸が散乱していた。 打ち捨てられて、かなりの時を経過しているようだった。 更に歩を進めると、腐植土が堆積した中庭に抜ける。 天井から降り注ぐ月明かりが、ミュークの頸部に走る朱線の痕を痛々しく照らしだしていた。 「ん?」 ミュークの脚が止まる。 視界の片隅で、小さな影が跳ね上がったのだ。 一瞬の出来事だった為に、明確な種の判別まではつかなかったが、廃屋に住み着いた小動物の類である可能性が高い。 「低劣な畜生の生血でも渇きを癒す手助けにはなろうが……」 降り積もった枯葉が盛り上がり、中庭の木立を縫うように移動する。 「しかし、捕えるにはそれ以上に骨が折れそうじゃな。 阿呆らしい」 ミュークはあっさりと諦める。 費用対効果の均衡が著しく崩壊していたのだ。 しかし、獣の気配を察知する為に、五感を張り詰めていたことが思わぬ幸運を呼び込むことになる。 「ん?」 屍族の鋭敏な聴覚器官が、常人なら感知することさえ適わない微かな物音を捉える。 音に誘われて、中庭を囲む廻廊の一角に辿り着くと、目前に閉ざされた一枚扉があった。 「誰かいるのかや?」 ミュークの誰何は廃屋を包む静謐な空気に虚しく溶ける。 再度、尋ねる。 しかし、返答はない。 焦れたミュークは赤茶けた金属性の取っ手を捻り、躊躇なく内側へと押し開く。 室内から零れた幽光が、回廊の石畳に伸長する。 「ふむ」 部屋の中央には樫木の卓子があり、淡い橙色の光を燈す青銅の角灯が据え置かれていた。 視線で見渡すと、ミュークの抱く幾つかの疑問が解消される。 ひとつは件の物音に関してだ。 奥壁に造りつけの暖炉があり、薪の爆ぜる音韻に合わせ炎が踊っていた。 そして、もうひとつは、 「睡眠は子供の甲斐性だが、育つのが悪態ばかりというのは如何なものじゃろうな」 暖炉の手前に据え置かれた長椅子の上に、惰眠を貪るプルミエールの姿を確認した。 足元の敷布の上には聖なる十字が刺繍された黒法衣が無造作に脱ぎ捨てられている。 「ワチキが意識を失っている間に、教会船での一件に手が廻ったのやもしれぬな」 見当違いの推測だが、賭博で大負けした挙句、一文無しになって宿を追い出されたなどと、一足飛びに想像出来るわけもない。 どちらにしても、姿が見受けられない双子も、この廃屋を塒としていることだけは間違いない。 プルミエールが五体満足でここに居ることが、その証明である。 レムリア独りで、この人族の少女を御せるとは到底思えない。 かといって、ルムファムだけでは、別の意味で無事でない可能性が高い。 些か無用心ではあるが、何か理由があって出払っているだろう。 「それにしても……」 ミュークの視線が、プルミエールの幼げな柔肌に落ちる。 「こういった無茶苦茶な手合いをワチキ好みに調教するのも一興か」 長椅子の手前で身を屈めたミュークが、くんくんと鼻を鳴らす。 「この鼻梁をくすぐる甘く芳しい処女の香り……堪らぬわ」 ミュークの紅眼に好色な光が宿る。 そして、湧き上がる欲求を抑えきれないように少女に覆いかぶさる。 「ぅ……ん?」 「少しぐらい味見をしても罰はあたらぬじゃろうて……」 熱い息が顔にかかり、プルミエールの意識が半ば覚醒するが、ミュークに自重する気配はない。 どす黒い渇望が身裡より生まれ、理性のタガが外れてしまっているようだ。 「聖女アルジャベータの血脈。 一度、味わってみたいと思っておった」 ミュークはごくりと唾を飲み込むと、血よりも紅い口唇を少女の首筋に宛がう。 蠢く舌先が幼い肌に浮き出た汗粒を丹念に舐めとる。 「にゃにゅ!?」 肌を這いずる湿った感触に、プルミエールの両眼が驚いたように開く。 慌てて跳ね起きようとする少女の身体を、ミュークの細くしなやかな指先が封じる。 上掛けが滑り落ち、肌着を身に着けていなかったプルミエールの上半身が露になる。 まだ幼い膨らみが外気に晒されていた。 「……っ、痛いです!」 プルミエールの顔が苦痛にゆがむ。 ミュークの爪が喰い込んだ少女の肌が赤く充血していた。 「病人のワチキを放って惰眠を貪っておった罰じゃ」 歪んだ状況設定に興奮したミュークが舌なめずりをする。 お仕置きを口実に徹底的に弄ぶ算段らしい。 「みゅーみゅー!? なにするですかっ!!」 「無理矢理というのも、これはこれでそそるものがある」 理解不能な現状に慌てふためくプルミエールを組み伏せるミューク。 純粋な膂力だけなら、屍族であるミュークに分がある以上、容易には抜け出せない。 「歳相応と云えなくもないが、随分と貧相な乳肉じゃな」 ミュークは腕の中で滅茶苦茶に暴れる小さな肢体を適度に泳がせる。 挑発的に震える発育途上の隆起を観察する相貌は、屍族特有の退廃的な妖艶さに満ちていた。 「差し詰め洗濯板といったところかの。 どうじゃ、ワチキが揉んで大きくして―――」 「ムカ!! 誰が洗濯板ですか!?」 言うが早いか、跳ね上がったプルミエールの右膝がミュークの鳩尾に突き刺さる。 「ぐぅ……、こ、この、じゃじゃ馬娘めぇ」 激痛に堪えかねたミュークが、食いしばった奥歯の間から苦悶の息を漏らす。 思わぬ反撃に緩む拘束。 その隙を見逃さず、プルミエールが飛び起きる。 「大人しく手篭めにされておればよいものを……」 「ヘンタイ牛チチお化けめっ! プルがせいばいしてあげるです!!」 両腕を激しく振って、怒気を発散するプルミエール。 逆恨みや見当違いなど、余計な不純物が付与しない正当な憤懣であった。 稀有な例である。 「だ、誰がヘンタイじゃ!? ワチキは屍族にしては常識人だと屍族世界では有名な筈じゃぞ……たぶん」 自業自得なのだが、ミュークは大人気なく反論する。 その表情からは、先程までの毒気が完全に削ぎ落ちていた。 もっとも屍族世界の一般常識と、人族の社会通念が比較対象になるわけもない。 そして、双方共にそんな状態であるから、第三者が室内に入って来ても全く気づかない。 「そんなに有名なのですか? ……ていうか、ミュークさま、意識を取り戻されたのですね♪」 いつの間にやら現れたレムリアが、何処となく複雑な表情でミュークの復帰を喜ぶ。 「それで、一体何をなさっているのですか? ああ……別に言いたくないなら無理強いはしません。 触らぬ神に祟りなしといいますが、放っておいても巻き込まれそうなので、便宜上、聞いてみただけなので」 相も変わらず一言多かった。 ==============================================
2010/12/13
先日、度々お世話になっているサークルさまで、「東方」関連の音楽CDを戴いたので、原作の方にも手を出してみたのですが、画面の下半分しか見ている余裕がないです(∀`*ゞ)テヘッ学生時代は“しゅーてぃんぐnoうーたん”として巷のゲーセンでは見物人の輪ができたのに、もう、攻めの姿勢が皆無です。序にその時に話題になったのですが、創作同人サークルの御三家って、既に商業メーカー化したとか細かい(?)ことは(/▽`)/コッチニオイトイテ上海アリス幻樂団さまTYPE-MOONさま07th Expansionさまですよね?勿論、芥川龍之介や太宰治とか、そっち系のお人は抜きでの話です。なぜか、ゲーム関連のサークル様しか思い浮かばないのです(汗)
2010/12/11
たまーに見る「テガミバチ」ですが、アリアさんの制服、後姿がHぃですね。もう、お尻に視線が釘付けでした。キャラの衣服をデザインする時って、後面はオマケ程度にしか考えていませんでしたが、お尻の重要性を再認識させられました。“衣服を纏ったままde、尚「Hぃ」”そこにうーたんの追い求める究極形態が(ry※この記事は、うーたんが人並みの羞恥心を(σ・∀・)σゲッツした場合、消失する恐れがあります。
2010/12/11

※ナシュードの過去に対するミュークの関連性を高めました。関連部分に加筆が多いです。『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-06【幻影】月ノ章 2-06【幻影】―ミュークSIDE― 黒、黒、黒…… 視界の全てが漆黒に塗り込められていた。 己が目を開けているのかさえ定かではない。 闇のみが蠢く虚無の世界。 ミュークの意識は微睡み漂い、深淵に沈む失われた過去と融合する。 ―――……カチ……カチ 何かを感じた。 『……音?』 ―――カチカチカチ それは、一定の間隔で音階を刻み続ける。 ミュークは脳内に反響する針音を頼りに、自分の存在を知覚していた。 ―――……カチカチ …… ―――……さま …………? 「ぅ……ん?」 微かに身じろぎをして、ひとりの少女が目を覚ました。 天蓋付きの寝台から身を起こす。 片手で紗幕を払うと、ぼんやりと濁った紅眼だけを動かして、瀟洒な調度品が並ぶ室内を見渡している。 「ミュークお嬢様」 声に誘われて、少女の虚ろな視線が寝台脇へと落ちる。 そこには、前掛け型の仕事着を纏った下女が傅いていた。 肩口で切り揃えた黒髪と同色の瞳が、逡巡を混在させている。 「お身体の具合は如何ですか?」 黒髪の下女が少女の気色を伺う。 ここ数日、少女の身体は起き上がることさえ儘ならぬほど疲弊していた。 それは二十二家に伝わる夜を継承した後遺症だった。 「案ずるなや……多少、物憂いが、今はそれだけじゃ。 それで用向きはなんじゃ?」 少女は額に張りついた前髪を気怠げにかき上げる。 「あ、あの……、アルフォンヌさまがお呼びになっておられます」 下女が怖々と口を開く。 それが少女の機嫌を損ねる可能性を承知しているのだろう。 「あの女がかや? どうせまた聞くに堪えない戯言の類じゃろう」 少女は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、一糸纏わぬ姿で大理石の露台へと歩み出る。 あの女―――アルフォンヌの所懐は聞くまでもない。 近日、王都で開催される記念祭への参加を強要する腹積りであろう。 「ワチキは愚劣で低脳な人間共と馴れ合うつもりは―――いや、まて」 少女は心裡に蟠る不快感を吐き捨てようとして、ふと思い止まる。 まるで、悪戯を思い付いた子供のように、血色の口唇が吊り上がった。 「ワチキも王国の禄を喰み、特権を享けた身であるからな。 遅れるが王都には必ず参上すると、あの女には伝えておけ」 紅と蒼、天上に輝く双月を背に、少女の腰まで届く長い栗色の髪が、吹き寄せる風に散り散りに乱されていた。 ・ ・ ・ 『愚かな……』 ミュークは血を吐くような思いで過去の幻影を見下ろす。 だが、そんな感慨も仮初めに、再び意識が闇と混濁する。 ・ ・ ・ ―――カチカチカチ ・ ・ ・ ―――……カチカチ 「……弱さとは悪じゃ」 聞き慣れた声に呼び起こされる。 ミュークの意識が“少女の世界”へと接触した。 「ふん」 人族最古の王国ヤガ=カルプフェルト。 雷鳴が乱舞する曇天の下、少女は首都リューゲルトの中央街路を大股で歩いていた。 昨夜まで、建国記念祭を祝して華やかに彩られた街角は、今や血臭に満ち、降りしきる雨に叩かれた人血が、赤い血飛沫をあげている。 血反吐と嘔吐物を撒き散らしながら、断末魔の苦悶に喘ぐ人族の群れ。 それは指物、地上に再現された地獄絵図とでも例えるべきか。 「使い捨ての玩具程度と概算しておったが、あの男―――ナシュードといったか、思わぬ拾い物だったようじゃな」 少女の視界に広がる現実は、ただの予定調和でしかない。 惨状を鑑みるに、ナシュードの計画は滞りなく遂行されているのだろう。 「ふむ、これは赤砂蜥蜴の毒か……」 其処彼処で朽ち果てた遺体の状態から少女はそう判断した。 赤砂蜥蜴の毒は即効性の致死毒ではない。 宿主の体内に毒巣を生成後、内側から細胞を枯死させる寄生毒素である。 「大方、都市の水瓶である地下貯水池に、件の毒を投げ込んだのじゃろう。 安易ではあるが、効果的な遣り口じゃな」 水道橋によって齎された新鮮な水は、無味無臭の毒水となり、地下水路を通じて街中に運ばれた。 少女の明快な頭脳は、ひと目で正鵠に近い所感を導き出す。 「王位を簒奪された前国王の息子として生きるか。 人の世の宿業とは螺旋の如く巡るらしい」 少女は鮮血が齎す高揚感に突き動かされるように高らかに哄笑を放っていた。 ・ ・ ・ そこで、再びミュークの意識が少女のそれと切り離される。 『ナシュード……』 その名を忘れる筈も無い。 人族を虫けら同然に卑下していたミュークにとって、その男は初めて興味を抱いた人族の固体だった。 あの日、ミュークはウィズイッド領に広がる古代樹林で、今にも朽ち果てようとしていた人族の青年を拾った。 それは一時の気紛れ。 傷ついた小動物に対して抱く保護欲と同種の感情であった。 数ヵ月後、怪我の癒えた男と対面したミュークは驚きを禁じえなかった。 男の相貌が、前国王オルクと瓜二つであったからだ。 男の生立ちは奇異なものであった。 両親の記憶は無く、物心がついた頃には、辺境の僧院で半ば幽閉状態で育てられていたらしい。 しかし、最近になって、周辺で不審な出来事が多発して、命の危険を感じた男は、僧院からの逃亡を計ったらしい。 その途中、何者かの襲撃を受け倒れていたところを、こうして保護されたというわけだ。 全てを鵜呑みにしたわけではなかったが、実に興味深い話であった。 前国王一家は、十二年前の大災禍で焼死したとされている。 だが、当時、五歳であった王太子ナシュードの遺体だけは最期まで発見されることはなかった。 もし存命ならば、丁度、男と同程度の年齢になっていることだろう。 『今にして思えば、あの男の裡に、己と同質の“何か”を見出したからやもしれぬ』 ミュークはウィズイッド家の再興を図る為の布石として男を利用しようと画策する。 オルクの息子が存命しているとの噂を王国に流布したのだ。 ミュークは男にナシュードと名乗らせると、失われた過去と栄華を取り戻す機会を与えた。 男が本物のナシュード王子であるかどうかなど、些事に過ぎなかった。 ナシュードは手始めに、赤砂蜥蜴の猛毒を用いた大禍を引き起こし、王国に疑心暗鬼の楔を打ち込んだ。 その後、現政権内で虐げられていたオルクの側近だった者達との気脈を通じ、政治的術策を用いて王宮内の反乱分子を纏めあげることに成功する。 更に屍族との共存を図るといった旧態依然たる社会体制に不満を持つ不穏分子を煽り、件の大量虐殺の全てを屍族の犯行と位置づけたのだ。 それは同時に、屍族を国家の中枢に抱く現王政を“仮想敵”として、民意を遠ざける結果となる。 ミュークは飼い犬に手を噛まれる在り様に激怒したが、この時、既にナシュードは他者が御せる存在ではなくなっていた。 あの時、ミュークはそれと知らずに、ナシュードの裡に眠る“野心”という名の竜に、天を目指す翼を与えてしまっていたのである。 三年の時を経て、ナシュードは諸侯や市民の推戴を得る。 そして、屍族を討伐する救国の英雄―――正当なる王位継承者として新政府を確立した。 王権を担うに値する王族の殆どが毒害されていたこともあるが、ナシュードは自身の才覚でその全てを成し遂げていった。 旧政府の打倒を果たした後、間も無くアルフォンヌ・ウィズイッドは処刑された。 それは、人族と屍族の共存を目指した旧穏健派の助命が交換条件であったともされている。 しかし、アルフォンヌの生死に関しては、もうひとつ、真しやかな噂が囁かれていた。 貴女の該博深遠な知識を惜しんだ者達の手により“首人”と化し生き永らえているといったものだ。 ミュークが事の成り行きを知り得たのは、ヤガ=カルプフェルトを逃げ延びた後であった。 『母上を死地へと追いやったのはワチキじゃ……』 ==============================================
2010/12/11

※細かい比喩表現に変更が多かったので全体推敲になってしまいましたが、この部分の推敲は比較的に楽でした。『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-05【女難】月ノ章 2-05【女難】―双子SIDE― 「ふぅ……」 ミューク命名“不幸請負人”のレムリアは、文字通り不幸のどん底に居た。 否、正確に描写するならその過程にあった。 怪我の功名というべきか、ミュークが派手に倒れ込んだ為に、形ばかりの質疑応答で、優先して自由都市ザクルフォルドへの滞在許可が降りたまではよかった。 問題はその後、事体が最悪の方向へと急転直下したのだ。 「いつまでも、こんなところにいるわけにもいかないし……」 この街外れの廃屋に住み着いて、早三日目の夜を迎えている。 無論、最初から宿無しだったわけではなく、不幸な人災が連鎖した挙句、路銀が尽きて宿を追われてしまったのだ。 「それにしても、人族ってみんなこうなのかな?」 レムリアの恨みがましい視線の先には、微妙に傾いた長椅子の上で爆睡するプルミエールの姿。 ことの始まりは、この人型災厄発生器が屍族同様の生活習慣に、早々に耐え切れなくなったことに起因する。 日中の外出規制と、自由行動の禁止など、人質兼賓客の立場に対して至極当然な処置にも、当の本人は納得いかなかったらしい。 むずかるプルミエールを持て余したレムリアは、少女の機嫌をとる為に賭博場へと付き添う羽目に陥ったのだ。 「まぁ、ボクにも責任がないわけじゃないけど……」 当初、レムリアも負けが込めば、切り良く退散する腹積もりであった。 しかし、プルミエールの野生の勘が、その計算を狂わせた。 あれよあれよと神懸かった連勝を続けてしまい、引き際を見失ってしまったのである。 あまつさえ、制止役のレムリアまでもが「これでミュークさまの散財癖で冷えこんだ懐も暖まる」などと欲を掻いたのが不味かった。 調子に乗って、胴元相手に大博打を挑み惨敗。 掛金を失うどころか借金までこさえる始末。 お陰で今では宿代にも窮する非常事態であった。 「まぁ、アレは誰が見ても如何様だったと思うし仕方ないかな。 それに、この子に関しては、あのミュークさまですら、多少(※意訳)傍迷惑でも大目に見ているぐらいだしね」 自分のことを棚に上げ、レムリアは上から目線で大人振る。 屍族の少年にもミュークの下心丸出しの思惑は明らかだ。 プルミエールを聖女シャルロットとの取引に利用するとは建前で、あわよくば“聖霊環”もろ共、双方の身柄をせしめてしまおうとの魂胆なのだろう。 そうそう上手くことが運ぶとは思えないが、ミュークがそれを望むのならば、従う以外に選択肢はない。 「うにゅ……」 プルミエールが手狭な座面上で器用に寝返りを打つ。 その拍子に、包まっていた安手の毛布がずり落ちてしまう。 「ふぅ」 レムリアは毛布を拾い上げると、プルミエールの身体に丁寧に掛け直す。 少女の長い髪が黄金色の川となって溢れだして、長椅子から床板へと伝っていた。 金髪の隙間から垣間見える顔立ちは、まだ幼さく愛くるしい。 小児愛好趣味のミュークが食指を伸ばしたくなる理由にも頷けた。 「綺麗な髪だな……」 レムリアが無意識の内に、少女の金髪を指先で掬い上げる。 「えっちぃ」 唐突に、掛けられた無機質な声。 レムリアは摘み食いを見咎められた子供のように、条件反射で後ろ手になる。 「こ、これは違うんだ……」 狼狽しきった顔で戸口を見つめるレムリア。 そこには、様々な物理的法則から解放されたルムファムが無造作に佇んでいた。 どうやら、古びた床板も錆びた蝶番も、耳障りな奇音を奏でて修繕を促す家具特有の普遍的所作を忘れてしまったらしい。 「そ、その……なんていうか。 ひ、人族の生態に学術的興味を掻き立てられて観察なんかをしてみたり……。 で、でも、天地神明に誓って疾しい気持ちなんてこれっぽっちもないから。 ほ、ホントだよっ!!」 レムリアは、耳の先まで真っ赤にして、しどろもどろに身の潔白を立証しようとする。 それもその筈、人族の少女の寝顔を無遠慮に検分している姿を、こともあろうに最も見られたくない相手に目撃されてしまったのだ。 屍族を異端視する国家が大部分を占める西大陸では、同族との交流さえ儘ならない。 異種族であっても、同年代の異性を相手に興味を抱かないほうが異常である。 しかしながら、感情的要素が一切欠如しているルムファム相手にその手の言い訳は通用しない。 「それはミュークさまの。 残念だなレム」 弁明の甲斐もなく、よくわからない慰めを貰う。 レムリアの碧眼が泣きそうに潤むが、今は落ち込むよりも先んじて、聞きたいことがあった。 「そ、それで、ミュークさまの容態はどうだった?」 「起きない」 ルムファムは能面のような表情で端的な状況だけを伝える。 「そうか……。 血統アルカナの力を使いすぎて休眠状態に陥ることは今までもあったけど……。 流石に一週間も眠りこけたままだと心配だな」 「医者に診せるか?」 珍しくルムファムの口数が多い。 表向きな変化には乏しいが、この屍族の少女も内面ではミュークを慮っているようだ。 「人族の医者に? それは無理だよ。 屍族だと知られて、役所に通報でもされたら余計に厄介なことになるからね」 かといって、レムリアにも対案があるわけでもない。 結局、この場の誰にも、現状を維持しつつ、ミュークの回復を待つ以外の選択肢は見出せなかった。 「とりあえず、あの子の食べ物だけは確保しないと。 人族は屍族と違って、三日飲まず食わずだと死んじゃうらしいからね」 「かいしょーなし」 ルムファムの辛辣なツッコミ。 三度の飯を何よりも愛する屍族の少女にとって、食料供給の対象外にされたのが不満なのだろう。 「誰のお陰で、この寒空のなかで、雨露を凌げていると思っているんだよ」 宿屋を追い出されて路頭に迷う最中、レムリアは丸一日をかけて、この廃屋を見つけ出したのだ。 潔癖症のレムリアにとっては、苦渋の決断であったが、見慣れると家屋を蝕む青黴も壁画めいた趣があるなどと思えるから不思議である。 「それと、前から薄々感じていたことだけど、ミュークさまとルムは、ボクの善意の無償労働に対して、もう少し感謝の念があって然るべきだと思う」 レムリアが唇を尖らせて抗議する。 「よくやったな」 苦労の対価は、抑揚の無い賞賛だった。 これでも、ルムファムにとっては最大限の譲歩であろう。 「少しは表情筋を使わないと、将来、皺だらけに―――ヒッ!?」 何気なく放った言葉が災いして、レムリアの意識は強制的に現実から遮断された。 果たして、その一言多い癖が“不幸”を呼び寄せる最大の要因だと、屍族の少年が気づく日は来るのであろうか? ==============================================
2010/12/09

※大まかな流れは変わってませんが、ほぼ全文書き換えました。『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-04【国境】月ノ章 2-04【国境】―ミュークSIDE― 自由都市ザクルフォルドは、サリナハームとアルル=モア、建国以来続いていた両公国の武力抗争に終止符が打たれた折に、その国境線に建築された和平確立の象徴であった。 都市の統治機構こそ、両公国の代表者六名からなる評議会が有していたが、共有領地として国家・宗教的規制から切り離されていたが故に、様々な職種・国籍の者が集い、国際色豊かな街並みを形成している。 加えて、同都市は大陸行路の中継貿易基地としての恵まれた立地条件に相乗する、低い関税率を適用しており、海都ナイトクランに次ぐ市場規模を誇っていた。 ・ ・ ・ 「名前と出身地、滞在目的を述べよ」 守備兵が事務的な口調で、御者台の上で愛想笑いを浮かべる商人風の男に催告する。 質疑応答の間、検問使が男の荷馬車に所狭しと積み込まれた物資の審査を行なっていた。 「問題ありません」 荷馬車から降りた検問使が首肯すると、 「よし、通れ!」 守備兵は男に滞在許可証を手渡す。 「次の者!!」 そして、機械仕掛けの人形の如く、同様のやり取りが繰り返される。 今宵もザクルフォルドへと向う隊商の列は、昼夜問わず途絶えることはなかった。 ・ ・ ・ 「なかなか前に進みませんね」 額に手を翳したレムリアが爪先立ちで、前方に連なる荷馬車の列を眺めている。 大灯台を後にしたミュークたち一行は幾許かの行程を経て、サリナハーム側に位置する国境検閲所の列に紛れ込んでいた。 「ミュークさま?」 レムリアが怪訝に眉根を曇らせて、ミュークの横顔を覗き込む。 こういった状況を真っ先に、いや、今は二番手で愚痴を零す筈のミュークが大人し過ぎるのだ。 「ん? 何か云ったかや?」 目深に被った頭套からミュークの顔が覗く。 元々、透けるように蒼白い肌から、更に血の気が失われているように見えた。 「いえ、これだけ並んでも、まだ、半分程しか進んでないように思えたので……」 「ザクルフォルドは別名“眠らない街”とも呼ばれておる。 非合法の闇市が公然と立ち並ぶ様は、壮観の一言じゃ。 それに、公営の大賭博場があり、一攫千金を狙う散財者共も集まっておるのだろう」 「ミュークさまはこの街にお出でになったことがあるのですか?」 レムリアが身を乗り出すように尋ねる。 「母上に連れられて一度だけ、あの時は、そう……いや、何でもない。 どちらにしても、暫くはプルミエール嬢と寝食を共にする故、寝床を確保してやらねばなるまい」 ミュークはぎこちなく口元を緩めると、苦笑混じりに吐息を零す。 その視線は、ルムファムの背中で安穏と寝息をたてるプルミエールに向けられていた。 如何なる時も己の生活習慣を崩さないこの超健康優良児の精神は、樹齢千年を超える古代樹すら見劣りするような図太さを誇っているに違いない。 「幸いザクルフォルドは流れ者の巣窟じゃ。 中に入ってしまえば、暫くは安全じゃろう」 「そ、そうですね。 でも、人族ってほんとにたくさんいるのですね♪」 妙なところに感心しきりのレムリアは心ここに在らずといった表情だ。 普段、人目を避けて行動している為に、目前に広がる雑踏に純粋な感動を覚えているのだろう。 「そうじゃな……」 しかし、ミュークは少年の感嘆にも曖昧に同意するだけで、それ以上会話に踏み入ることはなかった。 「ミュークさま、もしかしてお身体の調子が悪いのですか?」 「なぜ、そう思うのじゃ?」 ミュークが気怠げに首を振ると、額には浮き出た汗粒が頬を伝い落ちる。 「だって、いつものミュークさまなら、ボクの発言の粗を見つけ出しては難癖をつけて、骨までしゃぶり尽くす勢いで苛め―――うっ!?」 レムリアが慌てて口を噤むが、時既に遅し、ミュークの冷たい視線が凶器と化して突き刺さってくる。 「日頃、レムがどのような目でワチキのことを見ているのか、よくわかったぞ」 ミュークは両腕を大きく広げて、レムリアへと躙り寄る。 「い、いえ。 ボクはミュークさまを“自動皮肉製造機”だとか、重度の“加虐性淫乱症”だとか思ったことは過去に一度としてなく。 む、寧ろ、尊敬や崇拝の……あ、あの聞いてますか?」 レムリアはじりじりと後退るが、国境城壁に穿たれた関所内は手狭な上に、人や荷馬車でごった返しており、あっさり壁際に追い込まれる。 「何か言い残すことはあるかや?」 ミュークはレムリアの細肩に両の掌を置くと、じわじわと圧力を加えていく。 周囲の喧騒さえなければ、肩肉と鎖骨が軋み奏でる不気味な協奏曲が聞き取れたかもしれない。 それが証拠に、逃げ場を失った獲物は、陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクとさせていた。 「あ、あの……、せっかく並んだ列から離れるのは、マズイのではないでしょうか?」 顔を引き攣らせたレムリアが、理を以って窮地の脱出を図る。 「心配無用じゃ。 ルムが代わりに並んでおる」 ミュークの肩越しで、ルムファムが無情に頷いていた。 無論、第三者たる周囲の人間も、進んで厄介事に巻き込まれたくはないらしく、皆、素知らぬ振りである。 よって、この場でレムリアに見方する者は皆無であった。 「あう……」 レムリアは諦めたように涙に潤む碧眼をきつく閉じる。 ミュークの多段屈折した精神構造の生贄となって幾年月、無駄に培われた鋭敏な自己防衛本能は、ひとつの論理的帰結を導きだしていた。 要するに抵抗すればするほど、キツイお仕置きが遂行されるのである。 「さて、どのような仕置きが―――」 と、ミュークの声が唐突に途切れ、レムリアの両肩に食い込む指先が滑り落ちる。 続けて、何か重たいものが崩折れる音。 「へっ!?」 驚いたレムリアが双眼を開くと、ミュークの身体が糸の切れた操り人形のように倒れこんでくる。 「ミュークさま!?」 レムリアの悲痛な叫びも、ミュークに届くことはなかった。 ==============================================
2010/12/07

※続きです『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-03【灯台】月ノ章 2-03【灯台】―ミュークSIDE― 『ムカっ! プルをダマしましたね!!』 当たり前であるが、少女の身体を拘束したフェイトリングは今も具現化したままである。 ―――いや、なんかいろいろと間違っているから。 それと、一人称は“プル”じゃなくて“我”だよ。 言霊は一字一句正確に唱えないと意味がないんだ 『まちがってないです! “プル”は“ワレ”じゃないです』 ―――え、え~と、確かにその通りではあるんだけど……。 い、いや。これはそういう問題じゃない気もする インクル・ノス・クルンが当惑気味の視線をミュークへと移す。 早くもお手上げといった意思表示だ。 『そういうわけじゃ、他の手段を講じるしかあるまい?』 ミュークは苦笑して思考の転換を促す。 彼女は最初からこうなることを予期していたのだろう。 ―――そうだ! それなら“運命の輪”の継承能力を使えばいい。 論より証拠、まずはボクを受け入れて欲しい 『他に妙案が浮かばぬ以上、其方の案に乗るしかあるまいな』 小さく頷いたミュークが教会衣の袖口を肘上まで捲り上げる。 そして、露になった白蝋の下膊に躊躇無く吸血牙を突き立てた。 染みひとつ無い美しい肌に引かれる二筋の朱線。 『契約の証じゃ』 差し出されたミュークの手首から滴り落ちる赤い液体を、インクル・ノス・クルンが指先で掬い取る。 ―――ボクは周期と永続を司りし夜の意志、“運命の輪”インクル・ノス・クルン。 この真名と交わされし血の契りに懸けて、屍族のお姉さんが滅びの時を迎えるまで、共にあることを誓うよ♪ インクル・ノス・クルンは、まるで化粧を施すように己の薄い唇に血紅をさすと、優雅な所作で腰を折り一礼する。 次の瞬間、少年の陰影は光の粒子となって、ミュークの身体に溶け込んでいく。 『くっ……』 ミュークの双眼で冥色の陽炎が揺れる。 胸の奥で熱い脈動が弾け、それは痺れるように全身へと浸透していった。 (―――さっそくだけど、解呪の言霊を唱えてみてよ) インクル・ノス・クルンがミュークの脳内に直接語りかけてくる。 『うむ、我、フォルトゥナの剣なり』 天瞬、白銀色に輝く光の繭がミュークの掌を包み込む。 やがて眩い白光は、半円状の握り手から3振りの刃が伸びる異形の刀剣へと姿を変えた。 『これは……、剣なのかや?』 淡い燐光を放つ刀身から放射される冷気がミュークの魂を震撼させた。 (―――それが【フォルトゥナの剣】の真の姿だよ。 斬りつけた相手の時を壊し消滅させる力。 簡単に説明すると、対象が経験した過去の一部を切り取ってなかったことに出来るんだ。 フェイトリングは“運命の輪”の意識の一部だから、その剣の干渉を受ける筈さ。 まぁ、物質的な殺傷能力は無いから武器としてはてんで役立たずだけどね) 『くぁっ……』 突然、ミュークは身体をくの字に折り曲げると、大きく肩で息をする。 同時に実体化した【フォルトゥナの剣】が霧散して消失した。 (―――ああ、言い忘れていたけど、【フォルトゥナの剣】の発動と維持には、肉体と精神、その両方に大きな負担が掛かるから、あまり長い時間実体化させておくことは不可能だよ。 まぁ、それは血統アルカナの全ての能力にいえることだけどね) 『時間に干渉出来得る程の力であるのなら贅沢は云えぬ。 では、プルミエール嬢を助けるとしようか』 脳内に響く声に留意しつつ、ミュークは時計台の機械基盤を駆け上る。 接触型で尚且つ発動時間に制限がある能力であるが故に、対象に接近しなければ話にならない。 (―――過信は禁物だよ。 【フォルトゥナの剣】の効果はあくまで断片的な時間干渉であって、相対的なものではない。 つまり、対象から過去を切り取っても、事象そのものは世界に残留する。 よって、同様の過去を共有した他者には、なんら影響を与えることは無いんだ) インクル・ノス・クルンは言葉を慎重に選びつつ、更に続ける。 (―――あと、注意点をひとつ。 この能力の使用者は、対象から“消失させたい時間”を共有、又は限りなくそれに近いカタチで記憶していなければならない。 あやふやな知識で【フォルトゥナの剣】を使用すれば、とんでもないことになるから気をつけてね) 『了承した』 振り子の鉄球に飛び乗ったミュークの双眼が鮮血色の燐光を帯びる。 『うにゅ、みゅーみゅー! ナントカするですぅ~!!』 プルミエールがイヤイヤと首を振りつつ助けを求めていた。 ミュークは視界の正面に対象を捕捉すると、 『我、フォルトゥナの剣なり!!』 再び具現化した【フォルトゥナの剣】を上段に構える。 そのまま、躊躇することなく、振り上げた白銀の三枚刃をプルミエール諸共に円環へと振り下ろし―――“フェイトリングが具現化した瞬間から現在までの時間”を断ち斬った。 『おっと……』 ミュークが自由落下する小さな身体を両手で受け止める。 『ふふふ、“女教皇”の力と掛け合わせるに、申し合わせたような能力じゃな。 って……これ、暴れぬなや』 口元を緩めたミュークの腕の中で、プルミエールが出し抜けにジタバタと暴れだす。 『いきなりブン投げるとわー。 なにごとですか!?』 件の記憶を切り取られたプルミエールにとって、この糾弾は至って正当である。 『あ、あれは、仕方なかったのじゃ』 ミュークが苦しい弁明をする。 『ひとごろしですー』 『人聞きの悪いことを云うなや!』 ミュークは聞き分けの無いプルミエールを押さえ込むのに必死だった。 (―――ふぅ……。 ボクの役目はこれまでのようだね。 疲れたから暫く眠ることにするよ。 それと、用がある時は遠慮なく呼んでね。 ボクは常に屍族のお姉さんと共にあることをお忘れなく) インクル・ノス・クルンの呆れたような声が、ミュークの頭蓋に響く。 『ミュ、ミュークでよ……いぞ、げふっ―――はぁはぁ……このっ』 一方のミュークは、どーでもいい周期と永続を体感中である。 (―――それじゃ、ミュークお姉さん。 これからも宜しくね♪) そして、インクル・ノス・クルンの意志が途絶える。 『ん?』 突如、ミュークの視界が万華鏡のように歪み回転する。 恐らく、インクル・ノス・クルンが意識が閉ざされたことにより、この空間を維持する為の、なんらかの力が失われたのだろう。 『うに!? 目が回るにゃーふぁにゃ……ぶふぅ~』 プルミエールの奇妙な叫び声と共に、時を刻む運命の間は消失した。 ・ ・ ・ 両眼をゆっくりと開く。 「なんじゃ、その顔は? もう少し嬉しそうな顔をせぬか」 ミュークの視線の先に、今にも泣き出しそうなレムリアの顔があった。 「ミュークさ―――げふん」 堰を切ったように駆け出したレムリアが、不意に体勢を崩して素っ転ぶ。 その様子を傍目に、いの一番でミュークの元に辿り着くルムファム。 「ル、ルム、今、足を掛けただろ!?」 レムリアの非難の声にも、ルムファムは素知らぬ振りである。 「うにゅ!? ミューミュー。 おなわにするので、そこになおりなさいです!」 更に祭壇から勢いよく飛び起きたプルミエールが突っ掛かってくる。 ミュークはいつも通りの現実に帰還したことを実感した。 ==============================================
2010/12/05

※大まかな流れは変わってませんが、ほぼ全文書き換えました。※2-3【灯台】下はかなり長いので前半・後半に分けて推敲します。今回は後半部分ですが、文字数制限を大幅に超えたので二つに分けて投稿します。『†Princesse du sang†』 月ノ章 2-03【灯台】月ノ章 2-03【灯台】―ミュークSIDE― フェイトリングを解呪したミュークは、重層旋盤に降り立つ。 身体の節々が不愉快な軋みを訴えていたが、奥歯を噛み締めて苦痛に耐える。 ―――捕まったのとはちょっと違うけど、ボクの負けみたいだね 飛鳥の如く滑空したインクル・ノス・クルンが開口一番そう切り出した。 『口は減らぬが、心掛けだけは殊勝じゃな』 ―――口が悪いのはお互い様だよ♪ でも、どうやってボクの真名を? インクル・ノス・クルンは正直な疑問を口にする。 敗北の一端を担った要因に興味があるのだろう。 『それに関してはプルミエール嬢の功績じゃな。 あの馬鹿娘が其方の心を掻き乱してくれたお陰で、血統アルカナ“女教皇”の記憶探知を遠隔から行使することができた。 この能力は対象が脳裏に連想した記憶ならば、視線を合わせるだけで盗み視ることが可能じゃ』 ―――心を読む力か……厄介なチカラだね。 屍族のお姉さんは“彼女”に認められてはいないけれど、選ばれてはいるってことかな インクル・ノス・クルンは得心したように何度も頷く。 『あの者はワチキが真の継承者足りえるかを、常にここから見定めておる』 ミュークは親指を内に返して豊かな胸元を指すと更に続ける。 『ワチキはその宿代として“女教皇”の力の一端を行使できるのじゃ。 もっとも、急激な血の渇きに苛まれる故、一日に一・二度使用するのが限界じゃがな』 ―――ふ~ん、訳ありみたいだし、これ以上は聞かないでおくよ。 それに、気になる存在はもうひとりいるしね インクル・ノス・クルンは興味深げに頭上を仰ぎ見る。 ミュークも釣られるように視線を上げた。 『デカチチ! はやく、たすけるですー』 途端に、罵声の雨霰が降り注ぐ。 その手の趣味でもあるのか、プルミエールは解呪の言霊を唱えることもなく、複数のフェイトリングに絡め取られたまま宙ぶらりんの状態である。 見ようによっては、意志を持った黄金の円環に緊縛される美少女という、不謹慎で居た堪れない構図である。 最も、「コロス」だの「シネ」だのと物騒な単語を撒き散らすので、意識的に放置されていたのだ。 ―――でも、固体として相成れない筈の、屍族と人族が、こんなに息の合った連携を取れるとは思わなかったよ インクル・ノス・クルンは視線を正面に戻すと、呆れたような顔で愚痴を零す。 元来、屍族と人族は捕食者と被捕食者の関係であり、決して交わる事は無い。 『残念じゃが、意志の疎通など端からしておらぬぞ。 なにより、あの娘を意のままに操るなど、到底不可能じゃ。 ワチキはただ、信じて疑わなかった。 プルミエール嬢の常軌を逸した頑丈さと、脳足りん振りをな』 ミュークはインクル・ノス・クルンに気取られぬよう幾重にも奸策を弄した。 しかし、それとは知らずプルミエールが解呪の言霊を唱えれば、この作戦は御釈迦であったのだ。 ―――ふ~ん、最初から屍族のお姉さんは、ボクの注意を逸らす為の囮役だったわけだね インクル・ノス・クルンはその場に座り込むと感心したように口唇を緩める。 『最初に切ったカードを最期の最期で切り札として再利用したまでじゃ。 それを捨て札と判断したのは早計じゃったな』 ミュークは栗色の髪に指先を入れてかき上げると、微笑しながら付け加えた。 『うにゃ、無視するなー』 怒気を孕んだ訴えが、舞台に降りかけた緞帳を引き裂く。 当人を蚊帳の外に、発展する会話に腹を立てたようである。 『それで、アレは其方の力でどうにかならんのか?』 再度、頭上を見上げたミュークが、げんなりとした表情で尋ねる。 ―――前にも言ったと思うけど、フェイトリングはボクの意志でどうにかなるものじゃないんだ 不気味に輝く円環は、獲物を締め上げて逃さない。 プルミエールが抗う度に法衣が捩れ上がって、挙句の果てには、大股開きでショーツを晒す破目に陥っていた。 『な、ななな……!?』 プルミエールが、羞恥から顔を真っ赤にしている。 『解呪の言霊は他人が唱えても効力があるのかや?』 ―――残念だけど、囚われた当人じゃないと意味がないよ 『……じゃろうな。 だとすれば、果てしなく厄介なことになる』 この場の誰かが、あの天才の方と紙一重の少女に、直接、言霊を覚え込ませるといった偉業を成し遂げねばならない。 そして、それはミュークの役回りであろう。 ―――そんなに大変なことかな? この程度の短い言霊なら、一度聞けば子供でも覚えられる筈だよ 『そう思うのなら、其方が試してみればよかろう』 ミュークの返答はつれない。 ―――え、え~と、プルプルさん。 その金色の輪っかを外す方法があるんだけど、聞いて頂けますか? インクル・ノス・クルンは、噛み砕いた調子でプルミエールに語りかける。 ミュークの投げ遣りな対応に得体の知れない不安を感じたのだろう。 石橋を叩いて渡る覚悟のようだ。 『ムム!? きいてあげないこともないです』 予想通り理不尽に偉そうだが、下手にでたことが幸いしたようで、会話が成立した。 ―――それは「我、フォルトゥナの剣なり」って言うと、消えるようにできているんだ 『なぬ、そーゆーことはもっと早くおしえなさいです!!』 不都合棚上げ娘が、唾を飛沫かせて噛み付いてきた。 ―――いや、試練の最初に説明したんだけどね 『まったく、こんかいだけは、とくべつにゆるしてあげるです』 都合の悪いことは聞こえていないようだ。 ―――あ、うん、ありがとう 『ゴホン、え、え~と……、プ、プルは、フォ、フォルテナ?……の剣です』 前言撤回、都合の良し悪しは関係ないようだ。 どうやら、頭部に記憶装置を積んでいないらしい。 暫しの沈黙の後――― ==============================================
2010/12/05
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