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『†Princesse du sang†』 光ノ章 2-03【涜聖】光ノ章 2-03【涜聖】―シャルロットSIDE― 蒼穹の輝きも失せて、黄昏に染まった神都の石畳に囚人馬車の影が伸びる。 罪人の名はミルフィーナ・ド・グラドユニオン。 その容姿だけでも十分に人目を惹く彼女だったが、聖女の守護役を代々務めるグラドユニオンの家名を知らぬ者など、この聖地アレシャイムでは皆無であろう。 だが、その名声も今は地に堕ち汚泥に塗れている。 沿道から投掛けられる侮蔑と憎悪の視線、視線、視線―――それら全てをミルフィーナは直立不動の姿勢で受け止めていた。 「あっ…」 鋼鉄の車輪が横切る甲高い金属音に反応して目深に被った頭巾を擡げる人影がある。 そこに覗く顔はシャルロット・アルジャベータ・リュズレイのものであった。 少女は喪に服した神都に溶け込むように漆黒の外衣を纏っていた。 「フィーナ……」 人垣の隙間からミルフィーナの姿を認めたシャルロットは下唇を強く噛んだ。 まるで、猛り狂う凶獣でも捕縛したかのように、ミルフィーナの頚部と手首は三つ穴式の金属板に拘束され、その両脚には一抱えもある巨大な鉄球の枷が填められていた。 姉のように信頼するミルフィーナの無残な姿に、シャルロットは居た堪れなくなり再度俯いてしまう。 いや、少女を最も深く傷つけたのは、大衆がミルフィーナへと投掛ける負の感情の連鎖だったのかもしれない。 獄窓の住人へと容赦ない悪罵と石礫が飛ぶ度に、左右に控えた護送の騎馬隊から制止と叱咤の声が響いていた。 数を頼み、それに溺れた大衆の制御は困難を極めているようだ。 それほどまでに民衆から賢聖とまで謳われたフォン=バレル三世の死は神都に深刻な陰りを生じさせていた。 一時は暴徒と化した民衆が守護騎士団の宿舎を取り囲む事態に発展するなど、反乱する情動の大波が各所に打ち寄せていた。 「何も知らない民衆に罪はありません」 シャルロットの心裡を見透かした言葉が背後から掛けられた。 その清冽な声はゆっくりと諭すような調子で続く。 「彼らの義憤は教皇殺害の咎人に対して覚えられています。 ミルフィーナ卿が無実の人であるのならば、彼女の名誉は必ずや取り戻せましょう」 振り返ったシャルロットの眼前に己と同様に漆黒の佇まいがあった。 目深に落ちた頭巾から窺える血色を帯びた唇が微笑を浮かべている。 首元より流れ落ちる黒髪と袖口から伸びる手指の白さが病的な対比と映る人物である。 「ファティマ様…」 シャルロットはわき上がる激情を嚥下すると小さく頷く。 「ご婦人方、無駄話はそれぐらいにしないかい?」 両者の会話に割って入る三つ目の影。 この人物もまた黒衣の人であった。 「アレを見失ったら元も子もないだろう?」 その人物は囚人馬車が通り抜けた方角に向け顎をしゃくる。 「この青年の言葉通りです。 まずはミルフィーナ卿を助け出し、その口から直接に真実を聞きだせねばなりませんわ」 「ファティマ・イス猊下。 俺にはエドゥアルト・ラガ・ディファルという立派かどうかは判断しかねるが、とりあえずは呼び名には困らない程度に名前があるのだが……」 三人目はヴィルヘルムの指示で道連れとなったエドゥアルトであった。 もっとも、それを拒絶しなかったのは、彼持前の“興味本位”や“お節介”といった類の悪癖の賜物でもある。 「あら、私些細なことには拘らない主義なのよ」 フォティマ・イスはエドゥアルトの軽口を手馴れた感で煙に巻く。 「どの部分が些細なのか詳しくお聞きしたいところだが―――やめておくとするか」 エドゥアルトにもそれは伝わっているようで、戯けたように舌先を突き出していた。 「賢明ですわ」 「お二人ともふざけ過ぎです」 シャルロットの叱咤を、ファティマ・イスは深謝の態、エドゥアルトは惚けた口笛と両者其々の姿勢で感受する。 「これは然り。 このまま聖女さまのご機嫌を損ねては神聖冒涜に値するな。 そうなると俺まで牢獄行きか?」 少々度が過ぎる軽口を叩くエドゥアルト。 シャルロットは青年をきつく一瞥すると、両の拳を握り締めて、ひとり歩みを進めてしまう。 「もう少し聖女さまの心情を慮ってくださいまし」 エドゥアルトの耳元で小さく告げると、少女の後を追うファティマ・イス。 「おやおや、俺が悪者なのか? 場を和ます冗談のひとつぐらい広い心で許容して欲しいものだな」 溜息混じりにそう呟くと、肩を落として二人を追従するエドゥアルト。 相縁奇縁、この奇妙なとり合わせの救出隊が実現したのは今から半日ほど遡ることになる――― ==============================================今週は時間がとれなく、伝奇もコチラも更新は微妙だったのですが、区切りがついたので、短いですがUPします。※推敲はフリーページ内で行います
2010/03/31
光ノ章_02-02【我意】を推敲致しました。============================================================光ノ章_02-02【我意】============================================================【改稿・加筆/エドゥアルトとシャルロットa】 襟足を見せつけるように白銀色に斑な紅が混じる長髪をかき上げる青年。 左右非対称に編込まれた髪束が波打つように揺れる。 「どちらにしても貴方には関係のないことです」 シャルロットの返答は素っ気無い。 青年の容貌どころか存在自体に興味が無いらしい。↓★推敲★↓ 続けて不届きにも神仏を引き合いに自讃を繰り広げる。 青年が襟足を見せつけるように白銀色に斑な紅が混じる長髪をかき上げると、左右非対称に編込まれた髪束が波打つように揺れた。 「どちらにしても貴方には関係のないことです」 だが、シャルロットの返答は素っ気無い。 青年の容貌どころか存在自体に興味が無いらしい。============================================================【改稿・加筆/エドゥアルトとシャルロットb】 視線を正面に据えたまま神都の舗装された石畳を歩くシャルロット。 その堂々たる様にエドゥアルトは思わず目を見張る。↓★推敲★↓ 視線を正面に据えたまま神都の舗装された石畳を歩くシャルロット。 その堂々たる様にエドゥアルトは思わず目を見張る。 少女の横顔から一般人では決して持ち得ない洗練された気品が感じられたからだ。 それは生まれや育ちで養われる類のものではなく魂に宿る感性とでも喩えるべきだろうか。============================================================【改稿/エドゥアルトの台詞】 「これは心外。 これでも権威を笠に利権にしがみつくお偉方たちよりは信心深いと自負しているつもりなのだが……。 いや、寧ろ女神に愛されているのは俺のほうで―――」↓★推敲★↓ 「これは心外。 これでも権威を笠に利権にしがみつくお偉方たちよりは信心深いと自負しているつもりなのだが……。 まぁ、俺のように神の方から進んで寵愛を賜れる人間には、信仰など無用の長物ではあるがね」============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。※微修正致しました。
2010/03/27

『†Princesse du sang†』 光ノ章 2-02【我意】光ノ章 2-02【我意】―シャルロットSIDE― 大きく息を吸い、そして吐く。 シャルロットは鉄の門扉に手を掛けると、ひとつの決意と共にそれを押し開く。 「これはこれは、いったい何所にいかれるのかなシャルロット姫?」 軽い口調と共に、赤と紫の奇抜な衣装に身を包んだ青年が煉瓦の門柱の陰から現れる。 「何方ですか?」 不審気に柳眉を顰めるシャルロット。 籠姫としての生活が長かったせいか、他者を認識する術に疎く、記憶の照合に失敗したらしい。 「おいおい、まさか覚えてないのかい?」 シャルロットの思わぬ反応に、さも心外だと言わんばかりに天を仰ぐ青年。 「昨日、老卿の執務室で対面済みの筈だが…。 ほらっ、あの場に美の女神もかくやあらむと喩えるべき美貌の持ち主がいただろう?」 襟足を見せつけるように白銀色に斑な紅が混じる長髪をかき上げる青年。 左右非対称に編込まれた髪束が波打つように揺れる。 「どちらにしても貴方には関係のないことです」 シャルロットの返答は素っ気無い。 青年の容貌どころか存在自体に興味が無いらしい。 「そいつは困るな。 不肖このエドゥアルト、老卿からシャルロット姫の監視役を命じられていてね。 貴女にもしもの事があったら、俺の立つ瀬が無い」 「先生が?」 シャルロットもヴィルヘルムの意に反する行動には負い目がある。 故に世話を焼いてくれた侍女たちの目を盗み、黙って主席枢機卿の邸宅を抜け出すつもりであった。 もっとも、堂々と正門から赴く辺りが、浮世離れした間の抜けようだった。 「さよう、俺の言葉は老卿の意志でもある。 ご理解頂けたのならば、先程の質問にお答えくださりますかな?」 「決まっています。 フィーナを助けにいきます」 そう言うと、青年の脇をすり抜けて歩みを進めるシャルロット。 エドゥアルトは慌てて少女に追い縋るとそれに並走する。 「こんな真昼間にかい?」 現在、太陽の位置を確かめるには首を垂直に傾ける必要がある。 朝露の気配は既に消え、神都を彩る潅木や草花も、空高く昇った太陽の強い日差しを浴びてうな垂れ始めていた。 「なにか問題があるのですか?」 形式上は参考人としてヴィルヘルムの審問下にあるシャルロットが、公然と昼日中を闊歩して問題がないわけもない。 なにより老卿の面目が立たぬだろう。 「やれやれ、これだから止ん事無きお方は……」 もっとも、直に聖女の拝顔を賜った人間などこのアレシャイムでもごく僅かである。 自身の正体が割れないことを承知の上で、元老院が強硬手段を講じ難い昼日中を選んだのならば大したものである。 だが、その線は薄そうである。 エドゥアルトの双眼に映るシャルロットの姿がそれを如実に物語る。 少女の纏う金銀細工の絢爛たる意匠を凝らした紫法衣。 それは教皇庁でも最上位の聖職者、つまり教皇と並び立つ聖位に与えられるものである。 傍目にその様は、己が聖女だと吹聴しているようなものであった。 「少しは民草の苦しみにも目を向けて欲しいものだ」 シャルロットが中央通りに出るや否や、エドゥアルトの目算どおり幾つもの視線が少女の紫色の法衣に注がれる。 但し、その内の三割ほど、特に若い娘の目線は隣のエドゥアルトに対して直線的であった。 「あなたはアダマストル公国の人間ではないでしょう?」 視線を正面に据えたまま神都の舗装された石畳を歩くシャルロット。 その堂々たる様にエドゥアルトは思わず目を見張る。 「ふむ、確かに他国の民が背負う辛苦にまで口出しするは、幾分王族としての思慮に欠けるか。 だが、聖女としてはどうだい? 敬虔な一信徒の願いを聞き届けてくれてもよいだろう?」 「(聖女として…)」 聖女という単語に反射的に脚が止まってしまうシャルロット。 ミルフィーナを救い出したいという気持ちに偽りは無い。 だが、己が生きた過去の全てを否定することは、やはり出来なかった。 これ幸いと無言で立ち尽くすシャルロットの眼前にエドゥアルトが再度立ち塞がる。 「メナディエルの敬虔な信者は私に対してそのような口の利き方を致しませんわ」 エドゥアルトを睨みあげると、語尾を荒げるシャルロット。 「これは心外。 これでも権威を笠に利権にしがみつくお偉方たちよりは信心深いと自負しているつもりなのだが……。 いや、寧ろ女神に愛されているのは俺のほうで―――」 顎裏に親指を添え両眼を閉じると何やら自己陶酔を始めるエドゥアルト。 しかし、無駄話に付き合うつもりは更々ないらしく、さっさと歩を進めるシャルロット。 「あーまてまて。 現時点でミルフィーナ・グラドユニオンは元老院の掌中にある。 彼女の所在さえ定かではないのに、いったい何所に乗り込むつもりだい?」 「それは……これから考えます」 元老院が管轄する審問会において、ミルフィーナには教皇殺害の首謀者としての聖審が下った。 古老たちの意向は明らかだ。 彼らにとって都合の悪い何かを隠匿する為に、ミルフィーナを人柱とするつもりなのだろう。 だが、人前には決して現れない古老たちの在所を突き止めるのは不可能に近い。 しかも、教皇座空位となった現在、このアレシャイムの実質的な支配者は彼ら元老院であるといっても過言ではない。 表立ってその根城を探すことは得策ではなかった。 世間に疎いシャルロットにもそれぐらいは理解できる。 しかし、なにもせずに指を加えて傍観者となることは、過去の自分に立ち戻る行為であった。 「まさか、このルブリス島を隅々まで探し回る気ですか?」 自暴自棄になりつつあるシャルロットの二の腕を鷲掴むエドゥアルト。 彼は少女のしなやかな身体を力任せに胸元へと引き寄せる。 「くっ……放しなさい! これ以上あなたの無駄話に付き合っている暇はありません。 こうしている間にもフィーナは……」 「おいおい、俺の話を聞いていなかったのかい? はじめから止める気なんてないさ。 それに俺の言葉で止められるとも思っていない。 流石にそこまで自惚れてはいないよ」 エドゥアルトは天を仰ぐと、やれやれと息を吐く。 「現在、老卿がさる人物と密かに連絡をとっている。 話によるとミルフィーナ・グラドユニオンを救出する為には必要不可欠な人材らしいが―――」 そこで言葉を切るとシャルロットの反応を窺う。 「どうだい、俺の話を聞きたくないかい?」 両眼を見開くシャルロット。 少女の紅眼から抵抗の意志が薄れたことを確認すると、エドゥアルトは満足したように笑みを浮かべる。 ==============================================みんなで行けば怖くない「贖罪の牢獄編」に突入です。※推敲はフリーページ内で行います
2010/03/25
0-00【炎神】a~cに関する推敲を致しました。============================================================夜ノ章_00-00【炎神】============================================================【改稿/冒頭】 盲目の魔女が異界より齎した真紅の流砂に呑み込まれ、この地に根付いた文明の都は、一夜の内に滅び去ったと史実には記されている。↓★推敲★↓ 嘗てこの地に根付いた文明の都は、盲目の魔女が異界より齎した真紅の流砂に呑み込まれ一夜の内に滅び去ったと史実には記されている。============================================================【改稿・加筆/城砦の描写】 そして―――今、この呪われた地に佇む古き城砦に、ひとつの影が堕ちようとしていた。↓★推敲★↓ そして、この呪われた地に悠久の時を刻む古き城砦にも、ひとつの影が堕ちようとしている。============================================================【加筆/フルカスに対するアーネルの描写】 屍血姫の配慮に感謝の念を抱きつつ、アーネルは老父の膝元に手指を添える。↓★推敲★↓ 屍血姫の配慮に感謝の念を抱きつつ、アーネルは老父の膝元に淑やかに手指を添える。============================================================【改稿・加筆/抜刀された喰骨黒炎の描写】 屍霊甲冑の複眼がアーネルの掌中で黒漆塗の鞘から抜取られた業物を見やり一言。↓★推敲★↓ 屍霊甲冑の複眼がアーネルの掌中から伸びる業物を見やり一言。 知らぬ間に、冷たい輝きを放つ黒鋼の刀身は黒漆塗の鞘から抜き放たれていた。============================================================【改稿・加筆/戦闘描写】 『ならば、その身を以って知るがよい。 純粋なる力の前では汝ら肉に束縛されし剣技など児戯にも等しきことを』 語尾に被さるように唸りをたてて振り落とされる戦杖。 それを抜刀した喰骨黒炎で逆袈裟に斬り上げるアーネル。 蒼黒の焔が散り、弾き返された戦杖の勢いに屍霊甲冑の体勢が僅かに崩れる。 がら空きの胴体に返す刀で喰骨黒炎を真向に斬り下げるアーネル。 「くっ」 呆気なく雌雄が決したかに思われた―――しかし、苦悶の声をあげたのはアーネルだった。 屍霊甲冑の装甲には傷ひとつない。 そればかりか、何事も無かったかの如く、戦杖が打撃の雨を降らす。 『先程の勢いはどうした? 剣速が鈍っておるぞ』↓★推敲★↓ 『ならば、その身を以って知るがよい。 純然なる力の前では汝ら肉に束縛されし剣技など児戯にも等しきことを』 語尾を呑み込むように唸りをたてて振り落とされる戦杖。 それを抜刀した喰骨黒炎で逆袈裟に斬り上げるアーネル。 戦杖の纏った蒼黒の焔が散り、弾き返された勢いに圧された屍霊甲冑の巨躯が揺らぐ。 「終わりです」 がら空きの胴体に返す刀で喰骨黒炎を真向に斬り下げるアーネル。 鋼の雄たけびが生じ、雌雄は呆気なく決したかに思われた。 しかし、驚愕に目を見開き数歩後退ったのはアーネルであった。 屍霊甲冑の黄金の装甲は、彼女の全体重を乗せた斬撃を受けて傷ひとつない。 その事実はこの死闘の均衡を奪う。 『なにが終わったのかな?』 打撃の豪雨がアーネルを襲う。 それらを辛うじて弾き返すアーネル。 『先程の勢いはどうした? 剣速が鈍っておるぞ』============================================================【加筆/屍霊甲冑の言葉】 『我が双炎は魂を喰らう。 嘗て滅ぼした屍族の怨霊がこの蒼黒の焔には宿っているのだ。 666の全ての器が満たされた時、彼らは永遠の縛鎖から解放される』↓★推敲★↓ 『我が双炎は魂を喰らう。 嘗て滅ぼした屍族の怨霊がこの蒼黒の焔には宿っているのだ。 そして、我が備える666の全ての器が満たされた時、彼らは永遠の縛鎖から解放される』============================================================【加筆/屍霊甲冑の意志】 相手の打突の力を相乗した渾身の斬撃が屍霊甲冑の装甲に吸い込まれる。 それは、防御に関する一切の動作を放棄した捨て身の血路だった。↓★推敲★↓ 相手の打突の力を相乗した渾身の斬撃が屍霊甲冑の装甲に吸い込まれる。 それは、防御に関する一切の動作を放棄した捨て身の血路だった。 薄闇に幽鬼のように浮かぶ複眼の輝きから闘争の意志が消える。============================================================【改稿(※以下に続く重複描写による)/装甲に関する言葉】 『日比金の装甲にこれほどの大穴を穿たれたのは、其方の曽祖父キスラム公以来になるか』↓★推敲★↓ 『まさか、刀撃のみで我が装甲を砕く者がおろうとは思わなんだ』============================================================【改稿/アーネルの症状描写】 今のアーネルは感覚を失った右腕ばかりか、屍霊甲冑の打突で砕かれた左鎖骨から胸骨にかけての損傷が酷い。 刀を振るうことさえ困難な状況だった。↓★推敲★↓ 感覚を失った右腕ばかりか、屍霊甲冑の打突で砕かれた左鎖骨から胸骨にかけての損傷が酷い。 今のアーネルには刀を振るうことさえ困難であった。============================================================【改稿(※上記加筆による描写重複による)/屍霊甲冑の描写】 闘争の意志を失った複眼が物憂げに佇むアーネルを見据える。 血染めのドレスに血刀を携えたアーネルの姿は、夜を塗上げた彫刻のように、妖艶で退廃的な美を醸しだしていた。↓★推敲★↓ 屍霊甲冑の個眼のひとつひとつが物憂げに佇むアーネルを見据える。 血染めのドレスに血刀を携えたアーネルの姿は、夜を塗上げた彫刻のように、妖艶で退廃的な美を醸しだしていた。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/03/20

『†Princesse du sang†』 夜ノ章 0-00【炎神】夜ノ章 0-00【炎神】―アーネルSIDE― 『見事だ』 屍霊甲冑の腹部装甲に銀色の刀線が浮きあがる。 それは瞬く間に全方位へと走り、成人の頭ほどの大穴を穿った。 『日比金の装甲にこれほどの大穴を穿たれたのは、其方の曽祖父キスラム公以来になるか』 如何にも感慨深げに砕かれた胸部装甲を見下ろす屍霊甲冑。 崩れた去った鎧の下には、本来在るべき肉体の類はなく、ただ黒々とした虚ろな空間が広がっている。 「アナタを斃す術を新たに見出さねばならなくなったようです」 アーネルの両眼が細められる。 血統アルカナの屍霊は、その名が示す通り魂だけの存在とされていた。 アーネルも物理的な攻撃が通じないことは粗方予想していたが、こうしてはっきりと現実を突き付けられては、対策を怠った己の不備を悔やまざるを得ない。 「(屍霊術の鍛錬もしておくべきでしたね……)」 今のアーネルは感覚を失った右腕ばかりか、屍霊甲冑の打突で砕かれた左鎖骨から胸骨にかけての損傷が酷い。 刀を振るうことさえ困難な状況だった。 恐らく深層圏を統べる高位の術式ならば、この屍霊甲冑とも互角以上に渡り合える筈である。 もっとも先天的に屍霊術の才が乏しかったアーネルには端から無理な話ではある。 『その必要はない』 アーネルの心中を読取ったのか、否定の意志を提示する屍霊甲冑。 「戦わなくていいのですか?」 『既に試練は完遂された。 其方は古の超金属である日比金の装甲に傷をつける程の使い手。 我が継承者として申し分ない』 闘争の意志を失った複眼が物憂げに佇むアーネルを見据える。 血染めのドレスに血刀を携えたアーネルの姿は、夜を塗上げた彫刻のように、妖艶で退廃的な美を醸しだしていた。 「ならば、アナタには死に損ねた責任をとって貰わねばなりません」 前置きもなにもない唐突な言葉。 それがアーネルの口唇から放たれたと理解するまで、幾許かの時間を要する屍霊甲冑。 『なにを言っておる?』 そして、真意を掴み損ねて尋ね返す。 「もの好きな屍霊が私を生かしてしまったからです」 それはまるで生き残ったことに対する不満をぶつけるような言い草であった。 アーネルは感覚を失った状態の右腕を頭上に掲げると、 「片腕には片炎ですか?」 アーネルの示唆は、戦いの最中、屍霊甲冑が双炎の片割れである紅黒炎の力を用いなかったことに向けられる。 『我が試練は、其方の自殺願望を満たす為にあるものではない。 滅びを望むなら、其方の意志で自害すればよかろう』 否定ではない返答。 それはアーネルの言葉に幾許かの真実が含まれていることを意味していた。 「託された意志。 死を許されない業を背負う故に、私は自身の意志で滅びるわけにはいかないのです。 バルズール家の屍族として恥ずることの無い最期を迎えねばなりません」 アーネルは抜身の喰骨黒炎に視線を落とすと、小さく呟く。 フルカス亡き今、アーネルはバルズール最期の血統である。 その血筋を己の手で絶やすことは、アーネルの気高き自尊心が許さなかった。 相応しき死に場所を得ること、それは生き続けることを命題とするが故の渇望であった。 『己が意志で死ねぬ故、背負う宿業の上で散りたいと? 随分と身勝手な話だ』 「その通りです。 ですが、利き腕を封じられたのは私の不覚。 そこに情けをかけるは武人として恥ずべき行為です」 甚だ譲るつもりは無いらしく明快に断言してのけるアーネル。 射抜くような視線が屍霊甲冑の複眼と交差する。 『言いおるわ。 しかし、我は別に其方を気遣ったわけではないぞ。 手負いの相手を叩きのめしたところで自慢にはならぬ故の判断だ』 憤慨するわけでもなく、自身の理を述べる屍霊甲冑。 「それでも同じことです。 アナタの落度で私は生き残ったのだから」 アーネルの双眸に哀切な翳が掠める。 そこには反論を許さぬ凄味のようなものが宿っていた。 『無益な問答だ。 勝者足る其方が、敗北を認めた我に何を望む?』 屍霊甲冑は、詭弁を弄することの無意味さを悟ったようだ。 目の前の屍族の娘は、死しても尚、己の主張を曲げそうになかったからである。 「これから先、私がバルズール家の屍族として相応しくないと判断した時、アナタの手で私を殺してください」 静謐な空気にアーネルの意志が溶ける。 その心から不純な感慨は既に消えていた。 『よかろう。 その言葉を受け入れ、其方を血統アルカナ“戦車”の継承者と定めよう。 我が真名はビルザ・ギス・エストーラ。 しかと見届けようではないか、其方がどのように生き、そして死すのかを』 「ありがとうございます」 ビルザ・ギス・エストーラの肯定にアーネルは双眼を伏せる。 『それで、これからどうするつもりなのだ?』 「この砦を出て、旅に出ようかと思います」 そこに意を決したという感は微塵もない。 アーネルは予めそうすることを思い定めていたのだろう。 『バルズール家を捨てるというのか?』 屍霊甲冑の意志に不審の色が混ざる。 「いいえ、寧ろその逆です。 私はバルズール家本来の役割を全うしようと考えています」 『何を考えておる?』 「ラインフェルデンの正統血統を継ぐ者を探そうと思います」 喰骨黒炎を納刀すると、淡々と言葉を紡ぐアーネル。 『彼の血脈は魔女の大禍により滅び去った。 今更それを探してなんとする?』 ラインフェルデン家は今から数千年前、アーネルの曽祖父の代にその血脈が途絶えたと伝えられている。 元々は二十二家と称される大屍族のなかでも三皇家に連なる栄誉ある家系であるのだが、盲目の魔女の災厄を招いた血族として、畏怖と忌諱の対象でもあった。 「バルズール家は代々“審判”の血統アルカナの継承血族ラインフェルデン家に傅いてきました。 私はただ、バルズールの血脈者としての在るべき姿で生きようと考えたまでです」 逃れられぬ死地へと己を導くこと。 それは滅びこそ自らを象る断片の一つだと信じるアーネルの至純なる渇望であった。 ==============================================淀み無いようで、結構揺らぎ捲くりのアーネル嬢です(笑私に彼女の心情を描ききる才が無いだけなのですが、日々精進を貫けばいつの日かきっと……鬱になりそうorz次回からシャルロット編に戻ります。※推敲はフリーページ内で行います
2010/03/18

父フルカスの心臓を貫いたのが右腕ということからも、アーネルは本来、右利きです。ただ、今回の戦闘では、冒頭に於いて右手の感覚を喪失していた為に、不慣れな左手での抜刀となっております。それは、以降の戦闘の為に余力を残しているといった含みもありますが、今回の戦闘に限っては、(敵役の打突が心臓を狙う)=(対象の身体に左向きの圧力が加わる)その力を利用する為には回転方向の関係上、どうしても左手での抜刀が必要でした。B-PARTの後書きとして書くつもりだったのですが、この記述で文字数制限値を超過したら本末転倒なので今日の日記になった次第です。
2010/03/13

『†Princesse du sang†』 夜ノ章 0-00【炎神】夜ノ章 0-00【炎神】―アーネルSIDE― アーネルの心臓が大きく跳ねた。 右腕から白い肌を刺し貫くような冷たい熱が伝わってくる。 ――――ドクンッ 『我は古より連なりし力の奔流……』 まるで意識の深層から語りかけてくるような声がアーネルの頭蓋内に反響する。 そこに含まれる圧倒的な威圧感がアーネルの背筋を震撼させていた。 『我は戦を司りし双炎の闇……』 刹那―――フルカス・バルズールの亡骸を蒼黒と紅黒、ふたつの炎が包み込む。 「くっ」 苦悶の喘ぎを吐きつつアーネルが背後へと飛び退く。 外傷はなかったが、冷熱に晒された右肘から先の感覚が完全に消失していた。 「お嬢様、御気をつけあそばせるよう。 その者、血統アルカナ“戦車”の屍霊にございます。 若き日のフルカスさまでさえ、彼の者を手懐けるのに三日三晩の時を要しました」 首筋に触れた硬質な感触にアーネルの双眼が僅かに見開かれる。 厄介な事実と共に、肩越しに差し出された一刀。 それはフルカス・バルズールの三佩刀が一振り、天炎・地焔と並ぶ上古刀、喰骨黒炎であった。 黒漆塗の鞘に収められた大刀を受け取ると、背後に視線を走らせて口元を緩めるアーネル。 「感謝します」 開け放たれた扉の先に向けて、屍血姫たちの最期の忠義に感謝する。 主人の滅びは呪約を結んだ屍血姫たちの死滅をも意味する。 フルカスの愛刀をアーネルに託すことは、主人への弔いの意味もあったのだろう。 アーネルは乱れた呼気を散らすようにゆっくりと息を吐き前方を凝視する。 うねり狂う炎柱の内部に巨大な影が陽炎の如く揺らいでいた。 『汝が我を求める者か?』 空気を震わす轟音と共にそれは現出した。 悠然と佇む屍霊を宿した巨躯は、頭部に三つの複眼を宿した全身甲冑で身を固め、胴体の左右に備えた両腕には双炎を宿した長大な戦杖が其々構えられている。 そして、その全てが壮麗な黄金色で統一されていた。 「そのようですね」 アーネルの肯定を耳を劈く地響きが呑み込む。 真上から振り下ろされた屍霊甲冑の一振りが、アーネルの足元に大穴を穿っていた。 『我が壊打を受けて刃毀れひとつおこさぬとは、流石は喰骨黒炎』 屍霊甲冑の複眼がアーネルの掌中で黒漆塗の鞘から抜取られた業物を見やり一言。 『否、其方の並外れた抜刀術と膂力にこそ敬意を表すべきか』 次いでの賞賛は屍霊甲冑の渾身の一撃を、神速の居合術をもって弾き落としたアーネルへと向けられる。 「必要とあらば何度でもそうするまで」 アーネルは喰骨黒炎を再度納刀すると、右膝を落とす。 左の手指は右に携えた柄を回り込むように鍔に添えられている。 『笑止、あの程度の一撃を受け流した程度で調子に乗られては困る』 「御託は必要ありません」 凛として言い放つアーネル。 その心には一片の淀みも感じられない。 『ならば、その身を以って知るがよい。 純粋なる力の前では汝ら肉に束縛されし剣技など児戯にも等しきことを』 語尾に被さるように唸りをたてて振り落とされる戦杖。 それを抜刀した喰骨黒炎で逆袈裟に斬り上げるアーネル。 蒼黒の焔が散り、弾き返された戦杖の勢いに屍霊甲冑の体勢が僅かに崩れる。 がら空きの胴体に返す刀で喰骨黒炎を真向に斬り下げるアーネル。 「くっ」 呆気なく雌雄が決したかに思われた―――しかし、苦悶の声をあげたのはアーネルだった。 屍霊甲冑の装甲には傷ひとつない。 そればかりか、何事も無かったかの如く、戦杖が打撃の雨を降らす。 『先程の勢いはどうした? 剣速が鈍っておるぞ』 屍霊甲冑の示唆する通り、アーネルの剣速は徐々に失われていた。 居合術の基本は抜刀時の鞘走りをして剣速を加速する一撃必殺の剣技である。 斬撃の応酬を繰り返せば、その真価が損なわれるは必然であった。 だが、実際はそれだけではない。 「(これは……)」 アーネルは異質な感覚に陥っていた。 一合、二合と屍霊甲冑と打ち合う度に、喰骨黒炎の刀身に蒼黒の焔が絡まりつく。 それは次第に剣筋の制御を妨げ、鉛の塊を振り回しているかのような錯覚を引き起こしていた。 『我が双炎は魂を喰らう。 嘗て滅ぼした屍族の怨霊がこの蒼黒の焔には宿っているのだ。 666の全ての器が満たされた時、彼らは永遠の縛鎖から解放される』 屍霊甲冑の頭部に穿たれた三つの複眼が怪しい輝きを放つ。 『そして、其方は178個目の魂だ』 アーネルの頬から鮮血が噴出す。 序所にだが屍霊甲冑の戦杖がアーネルの身体を捉えだしていた。 「(薄傷とはいえ……このままでは血が足りなくなる)」 頭部を掠めた打撃に真紅の霧が舞い、アーネルの視界が一瞬だが塞がる。 その間隙を縫った屍霊甲冑の横薙ぎの一撃がアーネルの脇腹を抉る。 「…っ」 壁際まで弾き飛ばされたアーネルが声も無くその場に崩折れる。 『存外に楽しめたが、所詮はこの程度か』 「いいえ……まだです」 全身を血に染めたアーネルが片膝をついて起き上がる。 不幸中の幸いか、口腔に滲む鉄の味に触発された屍族の恒常機能が、意識の喪失を妨げていた。 『ほう、流石はフルカスの娘といったところか』 歩み寄る屍霊甲冑を迎え討つように重心を下げるアーネル。 それは抜刀の姿勢であった。 『其方お得意の居合術には、その単調さ故の致命的な欠点がある。 それを命の代価として教えて進ぜよう』 無造作に両者の間合いが接触する。 アーネルの抜刀に合わせ、屍霊甲冑の戦杖が正面から突き込まれた。 膂力に数段勝る相手が力を一点集束させた打突である。 その軌道を変えることは不可能に近い。 さりとて、躱わせば動作に淀みが生じる。 それはそういう部類の攻撃であった。 「(死を恐れてはいない……だが―――)」 次の瞬間、アーネルの左胸から血飛沫が舞い上がり喰骨黒炎が空を斬る。 だが、それに驚愕の声をあげたのは屍霊甲冑であった。 腕に伝わる肉を貫く感触が不意に消失したのだ。 「抜刀術とは最速最短の直線運動で標的を仕留める剣技」 アーネルは戦杖の圧力に逆らうことなく身体を旋回させると、更なる一歩を踏み込む。 「そして、その真髄は死中に活を求める一太刀にこそあります」 相手の打突の力を相乗した渾身の斬撃が屍霊甲冑の装甲に吸い込まれる。 それは、防御に関する一切の動作を放棄した捨て身の血路だった。 ==============================================知識が皆無だったので、「居合」について書籍やネットで調べてみたのですが、居合の基本は座った姿勢から行うものらしいです。考えてみれば、言葉の中に“座る”の意を示す「居」が含まれていました(汗※推敲はフリーページ内で行います
2010/03/12
簡易的ですが「シャルロット編」の全体推敲を致しました。大幅に直した部分と全く手付かずの部分との落差はありますが、以前よりは読み易くなったと思われます。当時、単体推敲しなかった部分を重点的に見直した方が良さそうですね(汗正直、「ミューク編」を読み直すのが怖くなりました……
2010/03/07

『†Princesse du sang†』 夜ノ章 0-00【炎神】夜ノ章 0-00【炎神】―アーネルSIDE― 生命が死に絶えた地―――アネクメネビュート。 盲目の魔女が異界より齎した真紅の流砂に呑み込まれ、この地に根付いた文明の都は、一夜の内に滅び去ったと史実には記されている。 一説では、魔女に穿たれた異界の歪は今もアネクメネビュートの何処かに存在し、呪われた流砂を吐き出し続けているらしい。 もっとも、現在進行形で拡大する砂漠化による土壌侵食との因果関係は定かではない。 しかし、均衡を失った自然体系が南西大陸一帯を死の大地へと変貌させたことは紛れもない事実である。 そして―――今、この呪われた地に佇む古き城砦に、ひとつの影が堕ちようとしていた。 「アーネル…我が娘よ……そ、こにおる…のか?」 豪奢な肘掛け椅子に深く腰を落とした白髪白髭の老屍族が、喉奥から絞り出すように愛娘の名を発する。 「はい」 真紅の絨毯に片膝を預けたままアネールは面を上げる。 燃えるような赤髪に少しつり上がった目元が特徴的な屍族の娘であった。 人族に外見換算すれば、歳の頃十七・八に相当するだろう。 「ここへ…」 老父の意に従い距離を詰めるアーネル。 同時に老屍族の傍らにあった二つの影が音も無く後方へと退く。 右に痩身だが整った体躯の壮齢の男性。 左に長い黒髪を螺旋金環で結いあげた妖精的な美貌を宿した妙齢の女性。 この老屍族に永遠の忠誠と隷属を誓った屍血姫の両者であった。 「私はここにおります」 屍血姫の配慮に感謝の念を抱きつつ、アーネルは老父の膝元に手指を添える。 「我の…命……もはや、幾許もない…」 衣擦れした紅衣の袖口から骨ばった指先が伸ばされる。 それは痙攣を繰り返しながら愛娘の頬に接触した。 見上げるアーネルの紫水晶の双眼に痩せ細った老父の姿が映りこむ。 眼窩の底に沈んだ紅眼、肩下まで流れた頭髪は全て白髪と化している。 嘗て“紅の屍神”とまで畏怖された大屍族フルカス・バルズールの名を確信せしめる身体的特徴は全て失われていた。 「お父様…」 アーネルの柔らかく膨らむ朱色の唇が惰性のままに言葉を漏らす。 フルカスは齢三千歳に至る老齢の屍族である。 しかし、彼の命を蝕んでいるのは生理的寿命といった安直なものではない。 血壊―――それは屍族固有の死病であった。 この悪疾は近親婚を繰り返し、血脈の純血性を尊ぶ大屍族にほど発症率が高い。 その名の通り血液が崩壊する病で、性染色体の変異により引き起こされる遺伝病でもある。 初期症状は血液中の血小板が破壊されて凝固異常が起きる。 それが中期に差し掛かると深部出血が引起され、大部分の発症者は頭蓋内での出血により、重症化し死を迎える。 だが、この段階で死ねた者は幸せな部類に属している。 最終段階に達すると、身体の穴という穴から血液を噴き出し壮絶な死期を迎える事になるからである。 罹患後の進行速度も極めて速く、高い恒常性機能を持つ屍族ですら半年を待たず絶命すると謂われている。 発症から一年余りの時を生き永らえたフルカスの生命力こそ驚嘆の域にあった。 「アーネル…お前は、血族の…掟に従い……受け継がねば……」 途切れ途切れに紡がれるフルカスの意志。 そのひとつひとつが、降り積もる雪のようにアーネルの心裡に蓄積されていく。 バルズール家の血統アルカナ“戦車”は、力を持って力を制することを旨とする苛烈なる夜の意志だ。 彼の力は現継承者を弑することで、代々受け継がれてきた。 死期を悟ったフルカスは愛娘に自分を殺せと命じているのだった。 「我がそうしたように…お前も……ね…ばならない」 死の淵に瀕したフルカスの紅眼が、強い意志の輝きを燈す。 それは燃え尽きる寸前の蝋燭の燐光を思わせた。 「さらばだ…アーネル……」 フルカスは咳き込みながら言い終えると、ゆっくりと双眸を閉じ“その時”が来るのを待つ。 「はい、お父様」 玲瓏たる所作で右腕を前方へと突きだすアーネル。 フルカスの両眼が見開かれ、肉の引きちぎれる嫌な音が周囲に響く。 アーネルの指先が肋骨の浮きでた胸板を貫き、老父の心臓へと到達する。 その血塗られた所作からは一分の戸惑いも躊躇いも感じられない。 「すまぬ…な…お前…にばかり―――」 室内に備え付けられた篝火の炎が大きく揺れる。 薄闇に陰っていたアーネルの横顔が一瞬照らしだされた。 しかし、視力の大半を失っていたフルカスに、愛娘の表情を伺い知る術はなかった。 「お父様が気に病むことはなにもありません。 これは変える事も変わらぬ事も望まなかった私の咎」 アーネルは臆することなく与えられる全てを受け止めていた。 それがバルズール家の血脈に連なる彼女自身の矜持であった。 フルカスの青ざめた白い肌が氷のように冷たい躯へと変貌していく。 突き入れた腕から伝わる生命の鼓動が急速に薄れ途切れる寸前、 「お別れです」 アーネルは滅び逝く老父に覆い被さるように身体を預けると、冷たく輝く紅玉の額冠に訣別の接吻をする。 ――――ドクンッ ==============================================突然ですが、『†Curse of blood†』時に半端に書き上げた、【炎神】の変換作業に入りました。短編なので、3part程で完結する予定ですが、全文推敲&加筆なので、原文は3割程度しか残らないと思います。アーネルはシャルロットと対比するような生き様設定なので、【籠姫】の後に、どうしても書いておきたいと考えた次第です。※推敲はフリーページ内で行います
2010/03/06
図書館に用意されたソファーに座るとなぜか落ち着かない今日この頃。そういえば、子供の頃から人が寄り付かない宗教学関連の書架の間にお目当ての本を持ち込んでは、立ち読みをするのが好きだった気がします。と、個人的な捻くれ話は45度ぐらい扨置き、今日は某私立図書館の傍で昼食をとる機会があり、帰りがけに図書館1階で文章の書き方関連の本に目を通して来ました。かなり身につまされる部分が多く、もっと前段階で読んでおくべきだったと実感しています。コツコツと自分なりに成長していくのもアリかなと考えていましたが、牛歩過ぎて電子顕微鏡でも用いない限り、成長の跡が確認出来ない有様ですしね。それと、悲しい話題がもうひとつ、以前は揃っていたクトゥルフ関連の書籍が検索データから消失していてびっくりです。借りたまま返さない方が居たのか、はたまた、かなり年季の入った書籍だったので現世に原型を留められなくなったのか……(汗以上、伝奇の短編を書き上げた序の日記でした。・・・実のところ、今回、図書館に行ったのは『民俗学関連の書籍』が目当てでした。意識して物事に取り組まなかったツケみたいなモノを最近払っている気がします。
2010/03/05
同様の描写が連続していた部分の細部改稿を含め下記の推敲を致しました。光ノ章 1-01【神都】&1-02【古怪】の台詞中で、シャルロットの本当の母親の名前を記述する誤りが見つかり、該当部分の訂正を致しました============================================================光ノ章_02-01【籠姫】============================================================【改稿/冒頭】 「聖女に一服盛るとは、老卿も罰当りだな」 ヴィルヘルムの命で意識を失ったシャルロットを隣室の寝台へと運ぶエドゥアルト。 彼は半ば呆気にとられながらも、師の大逸れた油断のならなさに感嘆の息を漏らす。 どうやら、差し出された香草茶に睡眠薬が混入していたらしく、先程まで息巻いていたシャルロットは夢の中である。↓★推敲★↓ 「聖女に一服盛るとは、老卿も罰当りなことだ」 ヴィルヘルムの命で意識を失ったシャルロットを隣室の寝台へと運ぶエドゥアルト。 先刻、差し出された香草茶には睡眠薬が混入されていたらしく、シャルロットは強制的に夢の中の住人である。 彼は半ば呆気にとられながらも、師の大逸れた油断のならなさに感嘆の息を漏らす。============================================================【改稿/エドゥアルトの描写】 僅かに苦笑したエドゥアルトが不意に真顔に戻る。↓★推敲★↓ 僅かに苦笑したエドゥアルトだったが、不意に真顔に戻る。============================================================【改稿/ソフィアの性質描写】 その言葉通りソフィアは見掛けによらず豪胆な性格だった。↓★推敲★↓ その言葉通りソフィアは見掛けによらず豪胆な性格の持ち主だった。============================================================【加筆/シャルロットの目覚め】 寝台に横たわったまま、ぼんやりと窓の向こう側に視線を延ばすシャルロット。 そこには澄み切った青い空が続いていた。↓★推敲★↓ 紗幕の隙間から白々とした朝陽が差し込んでいた。 寝台に横たわったまま、ぼんやりと窓の向こう側に視線を延ばすシャルロット。 そこには澄み切った青い空が続いていた。============================================================※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。
2010/03/02
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