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ベートーヴェン:交響曲第4番、第6番【中古】 ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」 /ブルーノ・ワルター,コロンビア交響楽団 【中古】afb
2020年07月31日
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だけど。ごはんを作っていた文さんの横顔が、浮かんでくる。居酒屋で、文さんの部屋で、ふとさびしそうに見えた文さんの顔が、浮かんできてしまう。「・・・・・あ、」ちらっと、普通に言えばいいのだ。文さんは丁寧にごはん作ってましたよー、って。事情なんてよくわからないですけど、って感じで。さらっと、ただ見たことを言いましたってことで、流してもらって構いませんってことで。「真紀子さん?」イチローが、わたしを見た。「あー、あの、」そうそう、なんでもない感じで。ふつーに、ちょっと言ってみました、っていうふうに。軽い感じで。「ふ、ふ、文さんは、かっ亀だって、ちゃ、ちゃんと面倒みてるじゃないですかあああああああっ!」絶叫が、木村家のリビングに響き渡った。それまでの会話は突然断ち切られ、ぴたりと静まりかえってしまった空間に、わたしの叫び声の残響だけがあった。止められなかった。「み、みみみなさんの、好みとか、けっ健康だって、かっかっかっ考えていたんですよおおおおおっ!おうおああああっーっ」自分の声で耳が痛い。喉も痛い。涙がぽろぽろとこぼれてくる。鼻水も流れてきた。息が苦しい。みなさんが、ぽかんとした顔でこっちを見ている。「え、なに・・・・・」声のほうに顔を向けると、階段のところに文さんが立っていた。(柴崎友香さん「パノララ」P174)
2020年07月31日
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ベートーヴェン:交響曲第3番ほか【中古】 ベートーヴェン:交響曲第3番 /オットー・クレンペラー(指揮),フィルハーモニア管弦楽団(o.) 【中古】afb
2020年07月30日
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先週、グループ展でもそのあとの打ち上げでも、文さんはお客さんや友人たちに飲み物を取ってあげたり、所在なくしている人(私含む)には話しかけたり人を紹介したり、社交性に富んだふるまいだった。よくしゃべってよく笑って、それはこの部屋からときどき聞こえてきた賑やかな声によって思い浮かべていた通りだった。だから、そのぶん、家族といるときの文さんがほとんどしゃべらなくて笑うこともないのが、気に掛った。一週間前、久しぶりに木村家全員集合の食卓に呼ばれた。一言も会話をしないというわけではなく、最小限のこと、食器を取ってとかそこ開けてとかその返答はあるのだが、たとえばその時開催中であったグループ展のことや、文さんの部屋に来ていた友人のことなどは、まったく口にされることはなかった。イチローを除いては、文さんも、将春さんもみすずさんも絵波も、お互いとにかく面倒そうに、短く言葉を交わすだけだった。イチローにしても、家族といっしょにいるときは、文さんに対して少々ぶっきらぼうな態度をとるようにも見えた。本館リビングにいる文さんと、友人たちに囲まれている文さんとは、別人みたいに感じる。(柴崎友香さん「パノララ」P102)
2020年07月30日
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ベートーヴェン:交響曲第1番、第2番ベートーヴェン:交響曲第1番&第2番[1997年&1999年ライヴ]/ヴァント(ギュンター)[HybridCD]【返品種別A】
2020年07月29日
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それから思い出して、みすずさんにもらったデジタルカメラのデータをノートパソコンに取り込んだ。サムネイルをクリックすると、横に長い、帯状の画像が表示された。拡大して、上下をモニターの幅に合わせて見る。カメラの自動スクロール機能で見た時とはまた違って、パソコンの画面に立体的に空間が現れると、そこに手を突っ込めそうな広がりを感じた。昨夜の、本館二階リビングの光景。端にはキッチン、銀色の冷蔵庫、正面にはみすずさん、イチロー、窓、トトロ、巨大ソファに転がる絵波、ボクサーポーズの将春さん、大画面テレビ。カメラを持っていたわたしとそのうしろの壁以外の、そのときそこにあったもの。二百七十度の範囲を平面に収めているため、画像の中の空間は歪んでいる。魚眼レンズの像を横に引っ張ったみたいでもあり、キュビズムの絵画にも似て、別の角度から見た世界をつなぎ合わせた形になっていた。パノラマ写真ってこんなふうになるのか、と画像を右に左に動かしながら眺めた。(中略)二枚目は、みずずさんが左端の起点で、イチロー、窓、トトロ、将春さん、絵波、それからテレビの後ろの壁のみすずさんの写真が飾ってあるところまで写っていた。三枚目は、一枚目とほとんど同じアングル。テーブルでほおづえをついているみすずさんが、こっちに視線を向けていた。レンズを通すと急に女優然として見える。オーラがあるとかいうやつだろうかと陳腐なことを考えながら、画面をスクロールして、手を止めた。イチローがいなかった。そのときそこに存在していたはずのもののなかで、イチローだけが、一部分も、写っていなかった。(柴崎友香さん「パノララ」P71)
2020年07月29日
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ベートーヴェン:三重協奏曲ほかベートーヴェン:三重協奏曲 他/エマール(ピエール=ロラン),アーノンクール(ニコラウス)[CD]【返品種別A】
2020年07月28日
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「あ、はい、いただきます」差し出したグラスに、ワインが注がれた。「お酒、好きなの?」「普通です」緊張しつつ、みすずさんの隣のイチローの表情をうかがうと、イチローは無表情で、わたしの顔をじっと見つめていた。そのまま、しばらくしても視線を動かさない。なんだろう。もしかしてわたしのことが好きなのか、などとは思えなかった。目はわたしに向けているけれど、なにも伝わってこない。なにも、見ていない気がする。みすずさんに似て大きなはっきりした目の、茶色っぽい二つの瞳が、プラスチックの作り物のように、暗い穴のように、ただそこにあった。テーブルを挟んで向かい合っているだけなのに、イチローとのあいだに距離を感じた。遠近感が狂ってすーっと遠ざかっていくみたいで、怖い、と咄嗟に思った。(柴崎友香さん「パノララ」P71)
2020年07月28日
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ベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲
2020年07月27日
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「倉庫・・・・・」「おれ、夜しかいないし。中学入ってからはずっとここだからなあ。ほら、部屋って言うか、倉庫の端に寝場所があるって感じ」イチローは、黄色い壁の真ん中の、山小屋みたいな木製ドアを開いて、わたしに中を見せた。学校の教室より広い空間は、床は土間だし、本館と接している壁はコンクリートむき出し、その他三方はベニヤ板張り。真ん中から階段が二方向に伸び、本館側と一番奥にもドア。錆びた自転車が三台並び、スチール棚には段ボール箱が積まれ、手前においてあるベッドがなければ、まさに倉庫だった。ベッドの横には、灰色のスチール製ロッカーが並んでいた。そこにイチローの荷物が入っているのだと説明されたが、、生活感はなかった。古びてところどころへこんだ縦長のロッカーを見て、最初に勤めていた会社を思い出した。その光景は、会社のロッカーを開け閉めしていたころの気分や出来事も、同時に私の心の中に連れてきた。あまり思い出したくない感情が、胸の奥から湧き出してくる。冷たい血が流れてくるみたいに。(柴崎友香さん「パノララ」P64)
2020年07月27日
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バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番、第2番、パルティータ第1番【輸入盤】無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番、第2番、パルティータ第1番 ヒラリー・ハーン [ バッハ(1685-1750) ]
2020年07月26日
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柴崎友香さんの「百年と一日」を買書つんどく。「代々「正」の字を名に継ぐ銭湯の男たち、大根のない町で大根の物語を考える人、解体する建物で発見された謎の手記・・・・・時間と人と場所を新しい感覚で描く物語集。」(筑摩書房の紹介)
2020年07月26日
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それは、一目見て、変な建物だった。右半分がコンクリートの四角い三階建てになっていて、大きさからしてそれが「本体」のようだった。その左側が、黄色い壁の木造二階建てと無理矢理接合されていた。さらにその左に鉄骨がむき出しのガレージがあり、その鉄骨の上に赤い壁の小屋がのっかっていた。(中略)さらに目立って「変」なのは、建物のあっちにもこっちにもくっついている外階段だった。鉄製の簡素な階段が、小屋の横から木造の屋上へ、そこからさらにコンクリート三階建ての屋上へと連なっている。コンクリート二階から三階への階段もあるし、ガレージの横から赤い小屋への階段もあった。松の木が斜めに伸びている門の前に立つと、「あの上」イチローが言った。「あれが、その部屋」ガレージの隣の黄色い木造にまたがって載っかている、真っ赤な小屋。赤い壁に赤い三角屋根、そこに白いパラボラアンテナが一つ。こちら側の壁に窓。子供がお絵かきで描いた家みたい、と思った。イチローは、黒いワンボックス車と白い軽自動車が停めてあるガレージの前を通り、その屋上に伸びている階段を示した。「この階段が真紀子さんの玄関」(柴崎友香さん「パノララ」P13)
2020年07月26日
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バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番、ストラヴィンスキー::ヴァイオリン協奏曲
2020年07月25日
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イチローは休日出勤になり、待ち合わせは夕方だったが、せっかくなのでわたしは昼前に電車に乗り、S駅で降りた。大学生などはもう春休みだし、この春からの新生活の下見や買い物なのか、若い人たちが多くて街はいっそうごちゃごちゃと騒がしかった。東京に引っ越してきた当初は、物珍しさもあってこのあたりにもよく来たが、前の会社で仕事がきつくなってからは、自宅と会社をつなぐ沿線以外に出かけることはほとんどなくなってしまっていた。だから、久しぶりに、人の、期待とか高揚とか、大げさに言えば「夢」がふわふわ浮かんでいるこんな場所をこんな時期に歩くと、自分もそのお裾分けに与れそうな気がしてくる。(柴崎友香さん「パノララ」P10)
2020年07月25日
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村上春樹さんの「一人称単数」を買書つんどく。「「一人称単数」とは世界のひとかけらを切り取る「単眼」のことだ。しかしその切り口が増えていけばいくほど、「単眼」はきりなく絡み合った「複眼」となる。そしてそこでは、私はもう私でなくなり、僕はもう僕でなくなっていく。そして、そう、あなたはもうあなたでなくなっていく。そこで何が起こり、何が起こらなかったのか? 「一人称単数」の世界にようこそ。」(文藝春秋社の紹介)
2020年07月24日
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男の子はわたしのことはときどき見るんだけど、なんも言わなくて、つまんなかった。わたしはテレビの前に座って、お腹が空いたなーって思って、カレーライスわたしにもくれないかなって思ったんだけど、言ってみたんだけど、なんも答えてくれなかった。台所に行ってみたけど、鍋にはもう残ってなかったし。そしたらやっと、男の子がしゃべった。帰ったほうがいいよ、って。だからわたしは帰ることにした。(柴崎友香さん「千の扉」P268)というわけで、柴崎友香さんの「千の扉」を読みました。いろんな時代のいろんな人のことが、とびとびに描写されるので、散漫な読み方をしてしまったこともあり、それぞれの物語がどう繋がって、どう回収されているのかよくわからないまま終わってまった。や、しかし、柴崎さんの「場所」とか、そこにまつわる「記憶」とか、への執着(?)、や、執念(?)はすごくて、相変わらずだなあ、や、とくにこれはすごいのかも、と思もいました。
2020年07月24日
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ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第5番『幽霊』、第3番、ヴァイオリン・ソナタ第7番、第4番、他【輸入盤】ピアノ三重奏曲第5番『幽霊』、第3番、ヴァイオリン・ソナタ第7番、第4番、他 シュタイアー、ゼペック、ケラス(2CD) [ ベートーヴェン(1770-1827) ]
2020年07月23日
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石原燃さんの「赤い砂を蹴る」を買書つんどく。「画家の母・恭子を亡くした千夏は、母の友人・芽衣子とふたり、ブラジルへ旅に出る。芽衣子もまた、アルコール依存の夫・雅尚を亡くした直後のことだった。ブラジルの大地に舞い上がる赤い砂に、母と娘のたましいの邂逅を描く。渾身のデビュー小説! 」(文藝春秋社の紹介)
2020年07月23日
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もう一枚は、折りたたまれていて、広げてみると地図だった。このあたりの住宅地図で、何度も広げたり畳んだりしたせいで、折り目は擦り切れ、破れているところもあった。配達先だったのか、名前や集金日がいくつか書き込まれていた。千歳は、畳の上にその地図を広げ、破れ目が広がらないように気をつけながら、隅の折れていた部分も丁寧に伸ばした。長い間に積もった埃で、掌がべたついた。薄い黄色の紙の上の街は、黒い線で表されていた。今はもう暗渠になった川があったり、地下鉄の駅がなかったりしたが、大きな道は、だいたい同じだった。団地は、まだ木造平屋の時代だ。右横と下の部分には、商店の広告が並んでいる。この建物で最初に営業していた「北川青果店」の名前もあった。(中略)わたしが今いる場所は「北川青果店」と書いてあるここ。団地から通う道は今よりも幅が狭い。会社から大通りを避けて通る路地は、この地図ではところどころ行き止まりになっている。地図に描かれた大まかな地形と地名だけが同じで、いくつもの別の世界が乗っかっている。誰も自分の世界しか生きていないが、共通の地図を使っているから同じ街だと思っている。別の時代の街も、別の暮らしがある街も、自分が知っているところと同じだと思っている。自分が見た街ではない時間の街を、すぐ近くにいる別の誰かが見た街を、直接見ることはできないのに。たとえ同じ場所にいても見ることができないのだと、思い知ることしかできないのに。見ることができないからこそわたしはどうしても見てみたくなる。知りたいと思う。(柴崎友香さん「千の扉」P246)
2020年07月23日
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ベートーヴェン:ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」、第30番【中古】 ベートーヴェン:ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」&第30番 /エミール・ギレリス(p) 【中古】afb
2020年07月22日
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「わたし、人ってよくわからない。想像しても、自分以外の人の気持ちはわからないし、生きてるってことも、死ぬってことも、どういうことなのか、よくわかってない」一俊は怪訝な表情になり、千歳も自分が何を話しているのだろうと思っていた。「テレビドラマを見てるのと、変われへんねん。他人事で、おもしろがって、覗き見したいだけ。勝男さんのことも、メイや、たぶん、枝里さんのことも」メイから実際に連絡が来たり、枝里に、たとえば引っ越し先や仕事について相談されたりしたら、面倒に感じるだろうと、千歳は思っていた。自分の興味で、あれこれ気にしているあいだはいいけれど。「それ以上のことは、めんどくさいし、しんどい。人に関心もたれるのも、なんか不安になる。期待にこたえられないから。だから、一人のほうがいいと思ってた」少し、沈黙があった。「うん。そんな感じがしたから、いっしょにいたい、結婚したいと思った」一俊が言った言葉がどういう意味なのか、千歳は正確にはわからなかった。ただ、一俊の中ではなにかしら筋の通った理由があるのだと理解した。それに比べて自分には、一俊と結婚したことについて、自分自身にさえ説明できるような理由がないように思った。(柴崎友香さん「千の扉」P238)
2020年07月22日
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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ「悲愴」「月光」「熱情」【中古】 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ「悲愴」「月光」「熱情」 /エミール・ギレリス(p) 【中古】afb
2020年07月21日
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翌週、勝男は再びその店を訪れた。年内の営業は最後という日だった。もう一度、女を誘った。店が終わるころに前を通ってみると、ちょうど女が出てきた。女は面倒そうな顔をしたが、酒を飲まないなら、と条件をつけた。二人でしばらく歩き、屋台で中華そばを食べた。女は花江という名前だと教えた。食べ終わってまた歩き、その間に、花江が結婚できない相手の子を妊娠していて、知られたくないから横須賀の実家にも帰れないことを、勝男は知った。おれはその子供を育てたい、と勝男は言った。聞いたとたんに花江は笑い出した。あんた、なに言ってんの。そんな冗談で、女がよろこぶとでも思ったの。勝男は、笑わずに同じ言葉を繰り返した。おれはその子供を育てたい。(柴崎友香さん「千の扉」P232)
2020年07月21日
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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ「テンペスト」・「ワルトシュタイン」・「告別」【中古】 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ「テンペスト」・「ワルトシュタイン」・「告別」 /エミール・ギレリス(p) 【中古】afb
2020年07月20日
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最初きれいな布団に寝かされていた祖父の顔を見せられたときも、怖いとは思ったが、悲しみやさびしさは湧いてこなかった。人がいないのを見計らってそっと近づいて、布を持ち上げて顔を見てみた。人形みたいな肌の質感が気になってつついてみた。それを、親戚に見咎められ、親がなっていないと母がその親戚から叱られた。家に帰ってから、葬儀のあいだに興味を持った物事をこっそりノートに絵入りで解説を書いた。その中にはおもしろかった、楽しかった、という言葉もあった。それを母が見つけて、人が死んだときにこういうことを言ってはいけないのだと怒り、そのうちに泣き始めた。父はそれを聞いて面倒そうに、千歳に注意した。それ以来、なにかある度に両親は、なにを考えているかわからない、と困惑し、千歳のほうも自分の気持ちや学校での出来事を隠すようになって、ますますこじれていった。それよりも前から、千歳も、両親も、互いにどう接すればいいか、行き違っているところはあった。千歳は、学校でも同級生とうまく付き合えなかったり、不用意なことを言ってしまって女の子が泣き出したりしたこともあったので、自分は人としての気持ちに欠けたところがある、それを表に出さないように気をつけなければ、と思ってきた。それなのに、この年齢になってまで同じようなことを繰り返してしまったと後悔した。(柴崎友香さん「千の扉」P204)
2020年07月20日
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バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1、3番、パルティータ第2番J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1&3番 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 [ 渡辺玲子 ]
2020年07月19日
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N・K・ジェミシン「第五の季節」を買書つんどく。「これは、世界の終わりの物語ー数百年ごとに“第五の季節”と呼ばれる破局的な天変地異が勃発し、文明を滅ぼす歴史がくりかえされてきた超大陸。その世界には、地球と通じる能力を持つがゆえに虐げられる“オロジェン”と呼ばれる人々がいた。そんな中、あらたな“季節”が到来しようとしていた・・・・・。前人未踏、3年連続で三部作すべてがヒューゴー賞受賞。新時代の破滅SF。」(「BOOK」データベースより)
2020年07月19日
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団地の部屋で、圭子は彼にもらった写真を眺めた。植物園の樹皮のはがれた木の前で振り返ったところ。新宿の路地で壁のもたれているところ。印画紙の上に黒い粒子で表された植物、コンクリート、ガラス、それから人。自分の顔だが、知らない人のようだった。「今まで、自分の顔をちゃんと見たことがなかった」圭子はつぶやいた。夕食に焼いた秋刀魚を運んできた勝男が、写真を覗いた。「そこに座っているおまえも、その写真に写っているおまえも、おまえじゃねえか」「えー、そうかなあ。違うと思うけど」圭子は、勝男の顔を見上げて言った。自分とは似ていない、勝男の顔。「違っても、どっちもおまえだってことだ」勝男はぶっきらぼうに言って、秋刀魚の皿を座卓に並べた。「お父さん」そのときなぜそれを聞こうと思ったのか、あとになっても圭子はわからなかった。「お父さんは、お母さんとどうして結婚したの。お母さん、別の人の子を妊娠してたんでしょう。つまり、わたしを・・・・・」「父親に会ってみたいか?」勝男は、どさっと音を立てて腰を下ろした。圭子は、勝男の頭から足まで、確かめるように見た。今ではその人が、圭子の唯一の家族だった。「会いたいとも会いたくないとも思わない」「そうか。よかったよ、誰だか知らねえからさ、言われたら困るとこだった」(柴崎友香さん「千の扉」P199)
2020年07月19日
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ベートーヴェン:「月光」「悲愴」「熱情」、シューベルト:即興曲【中古】 ベートーヴェン:「月光」「悲愴」「熱情」/シューベルト:即興曲 /ウラディミール・ホロヴィッツ 【中古】afb
2020年07月18日
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シェイクスピア「ジョン王」を買書つんどく。「偉大な父ヘンリー二世と勇猛な兄から王位を継いだ末子ジョン。フランスと戦うか、和睦か。王位継承者である甥を生かすか、殺すか。ローマ法王と対立か、和解か。悩み、考え抜いた決断はすべて裏目に出て、混乱は深まる。「イングランド史上最悪」と評される弱き王と、その強い母、歯に衣着せぬ「私生児」、兄の未亡人ら個性的な人物たちが織りなす、歴史劇。」(「BOOK」データベースより)
2020年07月18日
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火曜の夜に圭子から電話があった。一俊の携帯にかかってきてしばらく話し、そのあと千歳に代わった。勝男がまた体調を崩しているようだった。「脚はよくなって、熱が出る前は川沿いの公園まで歩いて行ってきたんだけどねえ。もう少し涼しくなったらそっちにいっぺん連れて行こうと思ってるのよ。ここにいても知り合いもいないし、と言っても道で会った人に話しかけてるけど。やっぱりそこにいるほうがね、気力がね、違うだろうから」聞きながら、千歳は今までとは違った不安に駆られた。寒くなる前に帰ってこられなければ、勝男はここに戻れなくなるのではないか。自分がぐずぐずと勝男の探している人に行き当たらないから、そのせいで勝男が帰ってこられないのではないか。「高橋さん」だって、もし一度見たあの人なら健康そうだったが、いつなにがあるかわからない。早くしなければ、と気ばかりせくものの、やはり「高橋さん」の部屋の扉をノックするには至らなかった。(柴崎友香さん「千の扉」P179)
2020年07月18日
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ベートーヴェン:後期ピアノ・ソナタ集 のうちDisk2ベートーヴェン:後期ピアノ・ソナタ集 [ マウリツィオ・ポリーニ ]
2020年07月17日
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「このへんの木、全部桜ですよね」「そうよ、ものすごいんだから。毎年ご近所の方たちとお花見するから、あなたもいらっしゃいよ」川井さんは、これまでの花見の思い出話を始めた。来年の三月の末には、自分はここに住んではいないだろう、と千歳は思う。勝男の留守を預かっているという名目での、数か月のつもりの居候である。勝男が戻ってくれば、当初の予定どおりここから遠くない場所で部屋を借りて一俊と暮らす。離れるのはさびしいが、勝男がもうそろそろ戻ってこなくては困る。(中略)子供たちが出ていったあと、親だけになる。家賃を考えればほかへは移れない人もいる。川井さんのように、そして勝男のように、この場所に住み続けたい人も多くいる。そして建物も住む人も、すべてがゆっくりと衰えて行く。新しいビルや高層マンションが次々と驚くようなスピードで増え続ける都市の真ん中で、ここは時間の速度が落ちていくように、千歳には感じられた。(柴崎友香さん「千の扉」P176)
2020年07月17日
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ベートーヴェン:後期ピアノ・ソナタ集 のうちDisk1ベートーヴェン:後期ピアノ・ソナタ集 [ マウリツィオ・ポリーニ ]
2020年07月16日
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「千歳さん、父となにか話してたでしょう」圭子は、千歳の目をじっと見た。「父は、母以外に、誰かいたんじゃないかっておもってたことがあったの」「いや、ちゃいます、ちゃいます。不倫とかそういうのでは、ないです」千歳は、慌てて頭と手を振ったが、圭子は視線を逸らさなかった。「すみません、わたしも詳しいことは教えてもらってないんです。ただ、昔好きだった人がいて・・・・・」誰にも言うなよ、あんたにだけ教えるんだからな、勝男の声が頭の中で反響した。テレビの横に置かれた記念写真の中の花江を気にしながら、千歳は声を低くして続けた。「この近くに住んでたそうで」「母と暮らしたことじゃなくて、その人のことがここに帰りたい理由なの?その人のことのほうが今では心に残ってるってことかしら」「そういうことでは、なさそうな・・・・・。たぶん、若いころの思い出がきらきらしてる的な感じなんちゃうかなーと、わたしとしては推測していまして」確かに妻だった人、一俊の祖母である英恵のことは、少しも聞いていなかった。勝男が千歳に話したのは、その結婚前に好きだったという人のことだけだ。この場所で出会ったその人のこと。(柴崎友香さん「千の扉」P154)
2020年07月16日
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ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番、第5番【中古】 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番&第5番 /アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ/カルロ・マリア・ジュリーニ,ウィーン交響楽団 【中古】afb
2020年07月15日
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インターネットで検索すれば、ここに陸軍の施設があったことや土中から人骨が大量に出てきて人体実験の疑いもあったことや、その場所に建てられた感染症の病院にまつわる怪談話や都市伝説の類がいくつも出てくる。サイトの黒い画面や無人の風景の画像から受けるイメージは、この場所で実際に暮らしていると大なり小なり誇張されたものに感じられる。確かに標高四十四メートルの山のそばには、石造りの建物の一部が残っている。陸軍の音楽学校だったと知れば、それなりの感慨がある。古びた石の表面から、時間の経過を想像することもできる。しかしその石造りの建造物は今では教会と幼稚園の一部になっていて、幼稚園側には子供を乗せる椅子がついた自転車が並ぶ。立派な枝ぶりの桜から木漏れ日が差す斜面を、犬を連れた人が横切る。坂道をジャージを着た学生が走っていく。低層棟のベランダに花柄の布団が干してある。それが今ここで千歳に見えるすべてのもので、いくら目を凝らしても軍服を着た人や幽霊は千歳には見えたりはしない。山の上から東京中が見渡せたという焼け野原も見えない。団地の巨大な建物が日差しを反射して白く光り、その向こうにはタワーマンションが建設中で、さらに先には新宿にひしめくように超高層ビルが建っている。(柴崎友香さん「千の扉」P147)どうも、このお話の舞台は、新宿区戸山町というところで、たしかに今は「戸山ハイツ」という大規模団地になっているということです。(Thanks to 後藤健太郎さんのブログ)
2020年07月15日
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ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番、第4番【中古】 ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番,第4番 /内田光子 【中古】afb
2020年07月14日
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宮崎駿さんの「シュナの旅」(アニメージュ文庫)を読みました。「風の谷のナウシカ」を読み直している合間?、みたいな感じです。「神人」によって人間から穀物(大麦)の「種」が奪われたため、人々は穀物の種まき・収穫ができなくなり、穀物(精麦された)を手に入れるのに「人」の命を引き換えにしないといけなくなった世界を舞台に、主人公「シュナ」が「神人」のもとから穀物の「種」を取り戻すお話です。穀物を得るために人の命であがなうことがなくなるという、めでたしめでたし、のお話なのですが、そもそも、なぜ穀物の「種」が「神人」に奪われることになったのか、なぜ人の命であがなわれなければならないのか、何も語られません。これは、このお話のもとになったチベット民話「犬になった王子」からして、そうなのかもしれません。よう知らんけど。いずれにしろ、とても理不尽なことです。宮崎駿さんは、「あとがき」で、このお話をアニメ化したかったみたいなことを書いておられますが、ちょうどその頃「ナウシカ」のアニメ映画化が進んでいたと思われるのに、そのことには、これまた一言も触れられていません。なんなんでしょうかね。それと、最近この本がよく売れているようなのですが(たしかに僕も買ったひとりです)、なにかあったんですかね?いよいよアニメ化されるとか・・・・・。
2020年07月14日
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ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番、ピアノ・ソナタ第30番、第31番WARNER CLASSICS NEXT BEST 100 39::ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ピアノ・ソナタ第30番&第31番 [ エレーヌ・グリモー ]
2020年07月13日
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圭子の母花江は、その前の年に死んだ。花江も、「よくある話」の一人だった。圭子は、自分が勝男と血のつながりがないとわかったのはいつだったかはっきりと覚えていない。なんとなく、勝男と自分が全然似ていないことや、母方の祖父母の態度から感じ取っていたのだと思う。妊娠していた母と、父は結婚して、その二か月後に自分が生まれていた。勝男の子供として、届は出されていた。今までに、そのことを誰にも話したことはなかった。勝男にも、花江にも、半年前に少しだけつきあった男にも。花江が死ぬ前に二週間ほど入院していたあいだも、何度か、自分が知っていることを母に告げようかと考えたが、結局言わなかった。母は知っているような気もしていたし、言ったからといってなにが変わるものでもない。興味がないと言えば嘘になるが、もう一人の父親が誰かわかったとしてなにがしたいということもなかった。(柴崎友香さん「千の扉」P84)
2020年07月13日
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東浩紀の「哲学の誤配」を買書つんどく。「誤配とは自由のことである――。韓国の読者に向けて語った2つのインタビューと、中国・杭州での最新講演を収録。誤配から観光へ展開した東思想を解き明かす必読のテキスト。韓国の若手論客パク・カブンによる解説も掲載。日韓並行出版。」(ゲンロンの紹介)
2020年07月12日
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そっと起き上がり、台所で水を飲んで部屋に戻ると、薄闇の下で一俊が上半身は何も着ないまま転がっていた。千歳は傍らにしゃがみ込み、タオルケットをかけてやった。三時間ほど前に、自分の上に乗っかっていたその肌が、ゆっくり明けてゆく青い光に浮かび上がっているのを眺めた。人間は重い。一俊の肌の温度と水分を受け止めていたとき、千歳はそう思っていた。見た感じよりも、ずっと重い。この重さに、なんとなく安堵する。この体には、骨やら内臓やら血やら、いろんなものがちゃんと詰まっているのだと思う。この人と暮らしてみることにして、よかったと思った。自分は、人間の中にそういうものが詰まっていることを、すぐ忘れてしまうから。(柴崎友香さん「千の扉」P58)
2020年07月12日
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この頃は、寝る前に宮崎駿さんの「風の谷のナウシカ」を読みなおし続けています。
2020年07月11日
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「高橋さんは、高層棟の何階にお住まいかわからないんですよね」勝男は、眉根を寄せて千歳を見上げた。残り少なくなった白髪の隙間に、いくつもシミが見えた。頭の形があまりに丸く整っているので、千歳は撫でたい衝動に駆られたが、実行しなかった。「勝男さんが、前に教えてくれた・・・・・」「ああ、征彦だ、高橋征彦」「そんなお名前だったんですか」「言わなかったか?二回、部屋に行ったことがある。一度はその箱を預けるときで」二か月前に勝男が大腿骨を骨折して入院していた時、千歳は勝男から、自分の形見に箱をやる、と言われたのだった。高橋というやつに渡してあって、そいつは団地に住んでいる、と説明した。箱の中には、自分が好きだった人にもらったものが入っている。何年か前にふと思い立って訪ねてみようとしたが、思い違いをしていたのかどの部屋かわからなくなった。(柴崎友香さん「千の扉」P53)
2020年07月11日
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ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番≪皇帝≫ 、ピアノ・ソナタ第28番 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番≪皇帝≫ ピアノ・ソナタ第28番 [ エレーヌ・グリモー ]
2020年07月10日
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一週間後に一俊の会社に商品のサンプルを持って行った帰りに、お茶に誘われた。コーヒーを飲みながら、結婚しませんか?と唐突に言われたときは、誰について、どういう意味のことを言っているのか、わからなかった。このあいだ話しているときに、なんとなくそう思って。一俊は、仕事の話をしているのと変わらない表情だった。あんまり人に通じなさそうなことを一生懸命しゃべってて、ぼくが聞いたらいいんじゃないかなー、いや、ぼくはその話を聞きたい、って思ったんですよね。と、一俊は言ったが、いまだに千歳は、一俊の真意がつかめないでいる。真意、など聞く必要もないかもしれないし、そんなものは元からないとも考えている。一俊と結婚した真意は、などと誰かに問われても、自分だって説明できないに違いない。(柴崎友香さん「千の扉」P23)
2020年07月10日
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ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第3、4、5番【中古】 ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第3番 イ長調 /M.ロストロポーヴィチ 【中古】afbmilet:eyeseyes [ milet ]
2020年07月09日
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五階建ての棟の先には、高層棟が見える。何階建てなのか、ぱっと見たところはわからない。以前住んでいた市営住宅にも五棟あった高層棟は十一階建てだったから、ここも十一階か十二階だろう。あの部屋ならきっと、新宿の高層ビルまで見通せる。この四階の部屋も、欅や桜のおかげで景色はいいのだが、他の棟はどんな感じなのか、覗いてみたかった。この都営団地には、三千戸もの部屋があった。三千の部屋に、七千人近い人間が住んでいた。そしてそのどこかに、三千のドアのどれかの中に、わたしの探している人がいるはず。千歳は、窓縁に座って、膨大な数の窓とベランダを眺めた。(柴崎友香さん「千の扉」P9)
2020年07月09日
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