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2012.02.24
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カテゴリ: 歴史
チャイナ・ウォッチャー平野聡さんの鋭い洞察を紹介します。

「漢族は56の兄弟民族からなる祖国大家庭における最も先進的な存在であり、漢族がおくれた少数民族を発展の道に導くことは中国の特色ある社会主義の先進性のあらわれ」なる言説が国是としてあるようですね。驚いた。・・・・これって五族協和の大東亜共栄圏の焼き直しみたいなもんだよ。


中国が中国である限り 真の民主はありえない
中国の現在と過去を覆い尽くす息も詰まらんばかりの社会矛盾。その袋小路にひとしきり風穴を開けるかのように、昨年秋以降広東省で「烏坎(うかん)事件」が起こった。この事件は、近年の中国における「群衆性事件」の中でもひときわ大規模にして持続性があるのみならず、中国の社会矛盾の一つのあり方を最も典型的に示していることから注目を集めている。果たして、この事件は今後の中国を良い方向で変えうるものなのだろうか?

<土地の錬金術が横行した烏坎村>
事件の舞台となった広東省の東部沿岸・陸豊市は、かつて貧しさのため華僑を多数送り出してきたという土地柄である。しかし、改革開放が加速した1990年代以後、在外華僑・華人が祖先の故郷に錦を飾るのを兼ねて活発に投資するようになり、労働集約的な工業化が進んだ。工場をつくるには開発区が必要であり、華僑は農村の党幹部に対し安く土地を融通してもらえるよう接近した。そして党幹部も、開発区が成功すれば自らの利権と業績にもつながることから、土地国有制という金科玉条のもと、農地を裁量一つでかき集めて売りつけた。烏坎村も、そのような党官僚による土地の錬金術が横行した村の典型である。
 しかもこの村は、 同族結合の社会文化的遺産が根強く残る華南の農村らしく、特定の宗族(同族集団)が村の党支部と村民委員会を約40年来独占し、他の宗族に属する人々を排除してきたのみならず、予め候補者と当選者の数が一致した形式的な官製選挙(中国語で定額選挙と呼び、これを以て「人民民主主義」の体裁を取り繕う)すら実施されなかったという。 そこで、村の運営から排除された人々は市・省などに上訴を繰り返し、公正な村落運営を目指したものの、単に成果は得られないばかりか、党支部による土地使用権売却益の独占までもが明るみになり、ついに昨年9月以降止むにやまれぬ行動に打って出た。

<度重なる衝突 広東省トップの汪洋が動く>
具体的には、まず昨年9月22日に陸豊市政府が3000~4000人の村民によって包囲され、以来しばしば公安当局との衝突が発生した。さらに12月9日には、陸豊市を管轄する汕尾(さんび)市政府が「大陸外の勢力やメディアに唆された勢力が、小さな村の問題を無限に拡大した」という陰謀論的な判断を下し、既存の村党委員会を擁護した。これに激高した人々と当局の対立は頂点に達し、当局は異議申し立て側の代表である薛錦波氏を拘束、薛氏は2日後に拷問で死亡したのみならず、人々は遺体の返還と問題の徹底解決を求め、村の中心にあたる天后宮(媽祖廟)前の広場で連日集会を繰り返した。日本のメディアやネット上に掲載された写真画像には「独裁反対」「民主選挙を我に」「中央は烏坎を救え」「腐敗官僚は無道」「天理は何処にあらんや」などというスローガンが氾濫し、あたかも解放区さながらの観を呈したのである。

 事がここに至り、改革派として知られる汪洋・中国共産党広東省委員会書記が動いた。住民の過激な運動について一律に不問として、各宗族の代表からなる「烏坎村代表臨時理事会」の正統性を認めたのである。それを受けて今年1月には新たに烏坎村党総支部が設立されたほか、 先日村民代表選挙が開催されて新たな村民委員会が組織された。こうして、長らく専横を尽くした旧党支部・村民委員会は解散し、烏坎の人々は一応勝利した。

<中国史における農民の存在とは>
(文字数制約のため省略)

<農村が変貌を始めてから節目の2012年>
(文字数制約のため省略)

<烏坎事件は民主化につながるのか?>
しかし筆者の見るところ、それが果たして本当に中国における民主化の端緒になるのか、些か疑問を禁じ得ない。

 漢語の各種ネット記事を閲覧するにつけ、確かに農民の主張には、末端の変革に満足せず、国政に至るまで民意代表を選出するよう求めるものもあったらしい。とはいえ彼らは同時に、まず何よりも共産党中央を擁護し、党中央が反腐敗の旗幟を鮮明にして適切な判断を下すことを求めている。それは一応、直接体制と対峙することにより即座に鎮圧されることを避け、現在の国家体制と妥協しながら漸進的に社会変革を目指すものであるのかも知れない。

とはいえ、「各《宗族》の代表による村党支部・村民委員会の再組織」という主張は、全ての村民の意見が個人の意見として尊重され、その集積として村民自治を構築するというよりも、宗族という末端の利益集団を社会の基本的単位として、各宗族が等しく村政という資源に均霑することを求めているものであろう。それが新「党総支部」を通じて首尾良く実現されたのち、もし各宗族が新たなクライエンテリズム(コネと権力の占有が生み出す上下関係)の末端となるのみで、多くの人々がそれに安住してしまうとすれば、  逆に「宗族間の利害調整」という枠組みに異議を申し立てる個人の訴えが封じ込まれる可能性も否定できない。宗族という末端の社会的結合は、たしかに同族の血縁集団として個人個人に近い存在であるかも知れないが、宗族の内部においても厳然とした権力関係や格差がある。発言権のある者が専横し、発言権のない者はいつまでたっても利益に与れない可能性もある。

<共産党に「正しさ」を託しても信頼できない>
(文字数制約のため省略)

<中国自身の政治改革こそ必要>
(文字数制約のため省略)

<極点に達する漢人と少数民族>
 しかし中国の国家統一問題は、単に台湾のみを対象としたものではない。中華人民共和国の圧政に長年来あえぎ、現状への問題意識を表明するだけで「国外勢力の影響を受けた分裂主義分子」として厳しく弾圧され続けている内陸アジアの少数民族をめぐる問題でもある。
中華人民共和国がもし本当に「統一された多民族国家」であるのならば、その一部分で始められた民主的な地方自治の試み=烏坎モデル(?)は速やかに全国へと広げられるべきであり、当然の前提として政治的な意見表明の自由も認められるべきであろう。しかしそのようなことになれば、少数民族が即座に中国からの独立を求めることになるのは、2008年以後のチベット問題、09年夏のウルムチ事件、そして11年の内モンゴル抗議運動など、漢人と少数民族対立が極点に達している状況からして余りにも明らかである。

 では、漢人社会には自由で民主的な自治を認め、少数民族には一切それを認めず、相変わらず森厳たる軍事力や警察力で抑圧を続け、少数民族地域の経済的利益を漢人(及び中国語を母語とするムスリムの回族)資本がほしいままにするのであれば、それは中国が激しく憎む日本帝国主義の植民地支配と同じようなものに過ぎないだろう。いやそもそも、 「漢族は56の兄弟民族からなる祖国大家庭における最も先進的な存在であり、漢族がおくれた少数民族を発展の道に導くことは中国の特色ある社会主義の先進性のあらわれ」なる言説が何らの躊躇いもなく横行すること自体、この国家を国家たらしめるものは大漢族主義そのものであり、大東亜共栄圏論の出来の悪いコピーに過ぎない。したがって、既に明白に漢人優位となっている国家において、さらに「祖国中華」への忠誠心の度合いに応じて政治的権利の付与に差をつけるとすれば、それは改めて明白に「少数民族は能力と忠誠心の両面で劣っているので二等・三等国民に過ぎない」と宣言するようなものである。そのあかつきには、さらに少数民族の怒りを激発することになろう。

<このままでは少数民族との大混乱は避けられない>
(文字数制約のため省略)

<中国人に突き付けられる究極の選択肢>
 かくして、中国の人々には究極の選択肢が待ち受けていることになる。

 中国における真の自由と民主の実現と国際的な尊敬を望むのであれば、「大漢族主義」の矛盾が根深い現状では少数民族の独立論は抑えられない以上、中国地図が今のかたちであることを諦めなければならない。これは中国近現代史における中国ナショナリズムと少数民族の不幸な関係の絶対的帰結である。

 中国の巨大な領域と、漢人主導の共産党が「おくれた」少数民族を多数従えて「正しい」発展に導いていることを誇りに思い、「偉大な祖国」への忠誠を覚えるナショナリストであり続けるのであれば、それらの価値に比べて自らの自由と民主などは全く大したことはないと諦めなければならない。

それではもう一つの選択肢として「大漢族主義」を捨て、完全に各民族が平等な社会をつくれば良いではないか? しかしそれは、漢族優位の価値観と不可分な近代中国ナショナリズムと抵触する。

 そもそも漢字文化を共有しない少数民族にとって、「中国」という文字が発する価値自体が不明である以上、「漢字文明の偉大さや先進性」なるものとともに立ち現れ自らを圧迫する「中国」に従う理由などない。モンゴルやチベットが清に従っていたのは、満洲人皇帝が草原世界共通の信仰であるチベット仏教のパトロンであったからであり、東トルキスタンのトルコ系ムスリムが清の領域に組み込まれたのは、この地を支配していたモンゴル系の王国ジュンガルが清に滅ぼされ、満洲人皇帝はイスラーム信仰を認めたからである。 だからこそ辛亥革命による清の崩壊以後モンゴルは独立に走り、チベットや東トルキスタンも独立しようとして失敗したのである。 辛亥革命が近現代中国の一大慶事であるなどという議論は、清から受け継いだ領域の安定的維持という立場からすれば著しい誤謬であり、むしろ昨年の辛亥革命100周年は清の崩壊による領域不安定化100周年として記憶されるべきある。

<中国問題は日本問題でもある>
結論として、国家のありかたそのものがリベラル・デモクラシーの実現と直結しており、しかも計り知れない混乱につながりかねないという一大問題に比べれば、広東の農村における事件がもたらしたものは、当事者にとって気の毒ながら小さな問題に過ぎない。今後中国で引き起こされるあらゆる下からの要求が果たして平和的な体制転換につながるか否かは、常に「国家の統一」という、中国にとって最も困難な問題との関連で考えられるべきであろう。

 そして、この当面考え得る極端かつ悲劇的な二分法ではない穏健な解決策を模索するのは、第一に中国の全ての人々の問題であるが、同時に中国と関わり合いを持つ全ての国々の問題でもある。何故なら、投資や技術供与など諸外国の経済的な対中関与、そしてそれを加速させた「チャイナ・ファンタジー」、すなわち「経済発展による社会の開放こそ、中国が西側と同じ価値観を共有するに至る最良の道である」という、 中国ナショナリズムの過激な信念を正面から捉えようとしない甘美な思い込みこそ、過去20年来の中国の経済発展を加速させ、中共が動かし得る政治資源を圧倒的なものにし、人々を抑圧する構造を固定化したからである。


文字数制約のため省略したヵ所がありますが、全文は 孔子批判4 に載せています。





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Last updated  2018.11.08 07:02:12
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