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2012.09.08
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カテゴリ: 映画
たまたま「中国・台湾・香港映画のなかの日本」という本を図書館で借りたのですが・・・


つまり「仰げば尊し」や「赤とんぼ」が流れる台湾映画とは何だろう?ということですね。


【冬冬の夏休み】
台湾
候孝賢監督、1984年台湾制作

<goo映画解説>より
祖父の住む田舎で夏休みの数日を過ごす、幼い兄妹の様々な人々との出会いと体験を綴った物語。監督は「風櫃の少年」の侯孝賢、脚本は侯孝賢と朱天文、撮影は陳坤厚が担当。出演は王啓光、リー・ジュジェン、陳博正ほか。

<大使寸評>
『海角七号』で「野ばら」が歌われたように、「仰げば尊し」や「赤とんぼ」が流れる台湾映画である。
まだ観た映画ではないけど、こんど大学図書館でDVDを探してみよう。

goo映画 冬冬の夏休み


この本「中国・台湾・香港映画のなかの日本」の関連個所を紹介します。

<「冬冬の夏休み」>p83~85
 台湾映画の代表的監督候孝賢は、1947年中国広東省生まれ、故郷梅県は漢民族の有力なサブグループである客家の根拠地で、父親は現地の教育官僚だった。
 彼が生まれてから間もないある日、父は地元のスポーツチームを広東省の首府広州での試合に引率して行き、そこで大学時代の友人に出遭う。友人は当時台湾の大都会台中市で市長の職にあった。日本敗戦後の台湾では、大陸からやって来た外省人が、次々に要職を占めていたのだ。「あっちは水道があって便利だぞ」と聞き、父も台湾に渡った。台北、そして南部の大都市高雄で教育関係の仕事につき、2年後、梅県に残っていた家族も呼び寄せる。もともと学校の教師としていた母は、姑と子どもたちを連れて台湾に向かった。奇しくも1949年、国共内戦が激化し、国民党政府が台湾に敗走する年だった。

 台湾南部で育った候孝賢は、家では客家語、学校では中国語、近所の友だちとは台湾語を話して育った。地元の高校を卒業後、兵役についたのち、台北の国立芸術専門学校映画科に進学した。高雄郊外の基地の町、鳳山に住んでいた子ども時代から映画が好きで、日本映画を多く見ており、印象に残る作品は『里見八犬伝』、好きな女優は岩下志麻。このような経歴は、外省人の彼が台湾本省人のように育った印象を与えるかもしれないが、後年、映画監督になって香港に行き、生まれてはじめて映画館で中国映画を見たとき、「中国語の台詞が聞こえてきただけで胸がいっぱいになって、最後まで鳴き通しだった」とも話している。その矛盾こそが候孝賢というキャラクターをつくり上げたのだろう。
(中略)

<「仰げば尊し」、「赤とんぼ」が流れる台湾>p87~92
 日本人のノスタルジアを喚起する台湾ニューシネマ作品としては、おそらく「冬冬の夏休み」(1984年、候孝賢監督)が最右翼だろう。小学校を卒業したばかりの少年冬冬(トントン)と妹のティンティンが、母親の入院中、祖父母の家でひと夏を過ごし、不思議な体験をするという台湾版「となりのトトロ」だ。ただし、製作されたのはこちらが先で、宮崎駿監督は「千と千尋の神隠し」冒頭シーンで食べ物屋が軒を並べる場所のイメージを、「非情都市」(1989年)から得たことを公言しているほどの候孝賢ファンだ。
 朱天文の原作を候孝賢が共同脚色した「冬冬の夏休み」の舞台は、台湾苗栗県銅羅(ラは金偏に羅)。時代は映画が製作された1984年に設定されている。苗栗県は歴史的に客家の多い地域で、銅羅の共通語も客家語である。ただし、ここの客家人は清朝時代から台湾に暮らす本省人で、候孝賢一家のように戦後中国から渡って来た外省人ではない。1895年に台湾が日本に割譲されたとき、客家による抵抗運動の拠点となったのが、実はこの銅羅であったことは、四半世紀のちに客家語映画『1895』(2009年、ホン智育監督)が描きだすことになる。『冬冬の夏休み』の舞台が銅羅なのは、同地が朱天文の母親で、川端康成の小説など日本文学の翻訳家として著名な劉慕沙の出身地であるためだ。子ども時代の彼女たち姉妹は、しばしば銅羅に住む祖父母をおとずれたという。朱家は文学一家で、妹の朱天心も小説家である。本作は時代こそ違うものの、外省人の父と本省人の母をもつ朱天文姉妹の生育歴を反映した作品といえるだろう。

 映画は冬冬の卒業式シーンからはじまる。小学校の体育館に子どもたちが整列し、代表が答辞を読み上げている。会場に流れるているのは「蛍の光」のメロディーだ。しばらくして、中国語による「仰げば尊し」の合唱がはじまる。日本人なら不思議に感じずにはいられない。どうして台湾の学校で「仰げば尊し」が歌われるのだろう。それは、もちろん、かつて日本が半世紀間この島を殖民統治したためだ。しかし、日本は1945年の敗戦と同時に、台湾を放棄したのではなかったか。その通りである。そして、台湾を接収した中華民国は、共産党との内戦中で、大陸反攻作戦を練るのに忙しく、とりあえず目の前にあったものを、日本家屋であれ日本の唱歌であれ、そのまま使用せざるをえなかった。時が流れるうちに、それらは、日本で生まれたものでありながら、同時に台湾のものになった。

(中略)
 到着した祖父母の家は立派な病院だ。昭和の洋館といったおもむきだが、門前には松のかわりに背の高いビンロウ椰子の木が植えられている。一階入り口近くに診療室や薬の調合場があり、奥に応接間と家族の食堂、台所など。靴を脱いで板張りの階段を上がると、二階には寝室となる畳敷きの部屋が並んでいる。撮影に使われたのは、実際に朱天文の祖父が経営し、暮らしていた病院で、1950年の完成。日本の敗戦後に、台湾本省人の医師が設計した木造建築ということだ。たいへん立派な建物で、木の床はぴかぴかに磨き上げられ、そこを靴下で滑って遊んでいた冬冬を、まるで日本人のように口数が少ないおじいさんがじろりと睨みつける。年齢からして、日本時代に医学校を卒業したのだろう。
 『冬冬の夏休み』は、この洋館が主人公ともいえる映画だ。台湾の田舎にある昭和の洋館。そこに住む日本人のような台湾の医師。しかしよく見ると、いろいろなことが少しずつ日本とは違う。和室の床が日本よりずっと高く、部屋も小さめなのは、台湾人が和室を部屋というよりは、中国式寝台を大きめにしたものととらえているためだ。畳は床面というよりもマットという感覚である。だから彼らは、畳の上に布団を敷かず、ゴザと上掛けだけ用意して、ごろんと寝てしまう。畳の部屋に入院した患者のハンズも敷布団は使っていない。暑い土地だから、その方が理にかなっているのだろう。

 小説家である朱天文は、母と離れて過ごしたひと夏の想い出を冬冬兄妹に託した。戦後渡台した国民党軍人を父にもつ彼女は、普段は都会の片隅にある外省人ばかりの軍人居住区で、中国人として生活していた。子どもの頃の彼女にとって、母方の祖父母の家は、農村地帯にあるだけでなく、日本時代につながる歴史をもつ点で、エキゾチックな場所として目に映ったにちがいない。監督である候孝賢にとっても『冬冬の夏休み』は異文化としての台湾を撮った作品だと位置づけられる。

(中略)
 映画のひとこまに、冬冬がおじいさんとふたりで話をするシーンがあった。唐代の王維による漢詩「独り異郷に在りて異客と為る」を冬冬に暗唱させたあと、おじいさんは古いアルバムを取り出し、手回しの蓄音機にレコードを乗せる。流れ出すのは西洋のクラシック音楽、スッペ作曲「詩人と農夫」だ。この場面で、候孝賢は本来歌謡曲を流そうとしたが、楊徳昌のアドバイスでクラシック音楽、それも入門的色彩の強い「詩人と農夫」に変えたと伝えられる。厳密な意味は不明だが、台湾における日本のイメージが、純和風というよりは、啓蒙的な昭和モダンだということは指摘できる。コロニアル様式の病院を建て、洋館建築を伝えた日本人は、西洋音楽も運んできた。それは日本の近代化自体が西洋に学ぶかたちをとったためだ。

 映画の幕切れ、夏休みも終わりが近づき、楊徳昌演じる父が車で幼い兄妹を迎えに来る。車が走り出すと同時に流れるのは「赤とんぼ」のメロディーだ。秋も近いから?「仰げば尊し」っではじまり「赤とんぼ」で終わるのが偶然であるはずはない。のちに候孝賢の代表作と呼ばれることになる『非情城市』(1989年)には、敗戦後日本に引き揚げることになった日本人校長の娘が、教室でオルガンを弾きながらやはり「赤とんぼ」を歌うシーンが出てくる。戦後世代の台湾人にとって「赤とんぼ」が植民地時代を象徴する楽曲のひとつとなっているといえよう。
 候孝賢、朱天文、楊徳昌という外省人二世トリオが『冬冬の夏休み』を仕上げたのは1984年。台湾で抗日映画が集中的に撮られてから、まだ数年しかたっていない頃だ。その一方、映画の冒頭で冬冬は同級生とこんな会話を交わす。「同級生の何某は東京デズニーランドに行くんだって」。日本は敵なのか味方なのか。遠いのか近いのか。30代の外省人たちが見つめる昭和の洋館は謎に満ちている。そのエキゾチシズムをノスタルジアと呼ぶことが、果たしてできるものだろうか。 




【中国・台湾・香港映画のなかの日本】
台湾
林ひふみ著、 明治大学出版会、2012年刊

<「BOOK」データベース>より
陳凱歌、張芸謀、侯孝賢、楊徳昌、王家衛…。中国、台湾、香港出身で、二〇世紀末の国際映画祭を席巻した監督たちは、いずれも戦後生まれながら、例外なく日中戦争のトラウマを作品に映し出していた。そして21世紀。中国の馮小剛、台湾の魏徳聖が生み出した記録的大ヒット作のクライマックスシーンで日本語の歌が流れ、観客の心を癒やした。日本と中国語圏の近現代史を映画によって読み直す。

<大使寸評>
この本では日本語で歌われた「野ばら」と「知床旅情」に着目して・・・・そこから日中の近現代史に触れながら中国、台湾、香港の映画を語るわけです。
大使が映画で読みとれなかった台湾の悲しみなんかが、この本でよくわかりました。(礼)
著者は香港特派員を経験した中国通とのことです。

Amazon 中国・台湾・香港映画のなかの日本






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Last updated  2012.09.09 20:56:50
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