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昨日の夜のことだ。 能季は宮中の宿直(とのい)のため、夜遅くまで起きていた。 宿直所には、能季以外にも数人の若い公達が詰めている。 だが、能季はあまりその者たちの話の輪に加わることはない。 能季は別に人嫌いではないが、宮中での人交わりでは、とかく聞きたくもないことを聞いたり、知りたくもないことを知ってしまったりすることもある。 二年前、十四歳で侍従に任じられて宮中に伺候(しこう)するようになってから、能季は自分の置かれている立場というものをまざまざと思い知らされることも多かった。 それで、能季は何となくそのような鬱陶しさから逃れようとすることが多くなっていったのである。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年03月26日
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今宵は空が掻き曇り、月はおろか星明り一つ見えない。 辺りは漆黒の闇だ。 だが、少し暗闇に慣れた目なら、痩せた数本の柳の並木が見えるだろう。微かに水の流れる音も聞こえてくる。 ここは平安京の大内裏の東端に沿って走る東大宮大路。 通りの中ほどを、細い掘割が通っている。内裏へ引かれて宮庭の御溝水(みかわみず)となっていることから、大宮川と呼ばれているものだ。 その傍らに、藤原能季と藤原師実は、それぞれに従者を連れて立っているのだった。 視線の先の一本の柳のこずえに、白っぽい布切れのようなものが結びつけられている。 時折吹くじっとりと湿った風に、その布切れがゆらゆらと揺れていた。まるで、女の白い手がゆっくりと手招きしているように。 そう思うと、さすがに能季の方もぞっと背筋が寒くなるのを覚える。 この場所には、ずっと以前から一つの噂があった。 それは、女の怨霊が出る、ということだった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年03月19日
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羅刹 -左京大夫藤原道雅異聞- 生暖かい風が、ふいに頬をなぶった。 目の前の暗闇の中で、何か白いものがふわりと巻き上がる。 能季(よしすえ)の袖に縋りついていた師実(もろざね)は、思わずひいぃっと声を上げ、さらに能季の腕にしがみついてきた。 だが、能季は師実の手を振りほどき、細い肩を押しながら言った。「ほら、あれだ。私はここにいるから、行って取って来るがいい」 だが、師実はまだ能季の袖に縋って、しきりにかぶりを振っている。師実の従者の行綱(ゆきつな)が、見かねて囁いた。「私がちょっと行って、取って参りますよ。なに、誰が取ってきたかなんてばれやしませんからな」 だが、能季は行綱を制して言った。「いや、師実が行かねば意味がない。これは度胸試しなのだから」 能季は少し身を屈め、師実の目をじっと覗き込んだ。「あんな風に馬鹿にされて口惜しくはないのか。男なら覚悟を決めて、あの片袖を取って来い。私がここで見守っていてやるから」 能季から力強く肩を叩かれた師実は、昨夜の屈辱感が甦ってきたのか、それともようやく勇気が湧いてきたのか、かすかに頷くとしっかりと顔を上げて暗闇に向き直った。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年03月17日
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この作品は、2006年に新潮エンターテイメント大賞に向けて書いたものです。(結果の方は、惨敗(ToT)/~~~) 2006年というと、もう8年近く前になるんですか。。。 この年には、長編1本と、この作品を含めた短編を2本を書いております。ああ、こんなにたくさん小説が書けていたのは、もうずいぶん前になるんですね。 子供が生まれてからはどうにも時間が作れず、ほとんど1行もかけてない始末。せめて、今ある原稿を大幅に書き直して再チャレンジしたいんですが、それにすら手をつけられず。。。 子供がもっと大きくなって、手を離れないと無理かな~(T_T) でも、あきらめちゃったわけではありませんよ! 親がずっと夢を追い続けている姿を見せることも、一つの立派な子供への教育だと思うし♪ これからも、なんとか頑張って、小説を書き続けていきたいと思います。 それでは、次回からの連載のご紹介です。 時は平安時代。名門貴族の家に生まれた少年が、友人の命を救うため、平安時代に実際に起きた怪事件の謎に挑みます。 タイトルは、『羅刹 ―左京大夫藤原道雅異聞―』。 ちなみに、道雅は百人一首にも歌がとられている有名人ですが、この小説の主人公は道雅ではありません(^^ゞ 今回は、原稿用紙にして275枚の長編。。。(ごめん) 長いですが、よかったらお付き合いくださいませ~m(__)m↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年03月12日
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久々の短編連載、何だかさっくりと終わってしまいましたね。 週に二度ほどしか更新できず、時間だけは結構かかっているんですが。 では、今回の作品の反省会~(^^ゞ この作品は、あらためて読めば読むほど、書き直したくなるところがいっぱいでした。 まず、京乃の正体がすぐわかりすぎる(~_~;) いつもお読みいただいている千菊丸さんにも、思いっきりばれてましたね(^^ゞ もうちょっとわかりづらくする必要があったと思います。 それから、最後の近江守の言葉も、今思えばかなり疑問が。 ただ黙って優しくするだけでは、いずれ破たんが来るのは明らかです。 ほんのひと月も一緒に暮らせば、近江守の素生など聡い吉祥にはわかってしまうでしょう。 また、近江守が吉祥を知らぬふりをし続けるのも、吉祥にとってはある意味ひどい侮辱です。何しろ、自分が心の奥底で最も大切に思っている人が、変わり果てた自分に気づかないってことなんですから(^^ゞ 吉祥が近江守の正体に気付いた時、いずれにしてもそれ以上彼女は近江守の元に居続けることはできないと思われます。 二人が互いに知らぬふりを続けることで、吉祥を救うことができるという風にするなら、もっと吉祥が納得するような理由やシチュエーションが必要だったでしょう。 あと、後半がさらっと流れすぎて、近江守の言動が薄い?です。もっと、女を不幸にする男の浅はかな残酷さ(笑)を描かなければ。。。 いろいろ考えていると、どんどんあらが見えてくるので、反省はこの辺で。。。(^^ゞ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年03月11日
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老尼はしばらく涙に濡れた目で近江守を見上げていたが、再び懐から数珠を取り出すと低く経文を唱え始めた。 近江守も一緒になってしばらく手を合わせた。だが、やがて老尼から目を離し、眼前に広がっている琵琶湖の情景を眺めた。 初めてこの近江へやってきてこの辺りを通ったのも、今のようにもう夕暮れ刻だった。 だが、あの時と違って、空は鈍色に掻き曇り、澱んだような暗い雲が西の山の端に広がっている。西方浄土を思わせるような神々しい光も、御仏の導きを示すような波間の煌きも、今は何もない。 それは、吉祥の行く先を暗示しているように思えた。 吉祥、そなたは何を思いながら、この波間に沈んでいったのだろう。 あの天女のように美しく誇り高かった吉祥にとって、身を持ち崩して老いさらばえ、見る影もないほどに落魄れ果てた姿を晒すということが、どういう意味を持つものだったのか……それも、私、という人間の前に。 寒々しい風が、琵琶湖の湖面を吹き抜ける。それは未だこの世を彷徨う吉祥の魂であるような気がした。 言葉にならない唸り声を上げながら、風は近江守の耳元をなぶっていく。 近江守は吉祥の答えを聞こうと、耳を澄ませた。 だが、聞こえてきたのは、海鳴りにも似た、遠い波音の響きだけだった。 (了)*参考……「今昔物語集」巻第三十「中務大輔娘成近江郡司婢語第四」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年03月10日
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その時、ふいに一陣の風が、近江守の頬をなぶった。 顔を上げた近江守が見たのは、瀬田唐橋の優美な姿だった。 おそらく吉祥はそこから水面へ身を投げたのだろう。 あの橋の上に立って、長い黒髪を強い風に靡かせている吉祥の姿が目に浮かぶ。 夜明け前の薄暗い闇の中で、遠い琵琶湖の波の音を聞きながら、吉祥は何を思ったのか。 その問いに答えるように、老尼は涙声で呟いた。「あなた様を見ていると、あの幸せだった懐かしい時代を思い出します。まだ、中務大輔様も北の方もお健やかで、吉祥様も若く美しく、まるで天女のようでございました。本当に、あの頃は楽しゅうございましたね。わたくしのようなものでも、何一つ不自由なく暮らしていられたあの頃を、思い出さずにいる時はありません。きっと、吉祥様はもっとそうだったのでしょう。最期にあなた様に会うことができて、吉祥様も満足なされたのだと思います。ようやく、思い残すことなく、浄土へ旅立てると。そして、今はもう御仏の元で、吉祥様もお楽になられたことでしょう」 老尼は再び声を上げて泣き出した。 だが、近江守は俯きながら、誰にともなく小声で呟いた。「いや、そうではあるまい。ただ、私が愚かだったのだ。何も言わず、私の素性も明かさず、手元に引き取って優しく面倒を見てやればよかった。そうすれば……吉祥は死なかっただろう」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年03月06日
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すべては自分のせいだというように、老尼は肩を落として項垂(うなだ)れる。近江守は近江郡司の下卑た顔を思い出しながら言った。「でも、その男には古い妻がいて、すぐに吉祥を捨ててしまったというではないか」「はい。その古妻というのは、この地の豪族の娘でしてね。孫息子が吉祥様を連れて戻ったという噂が広まると、すぐに古妻の親戚どもが騒ぎ出しました。その上、この女はひどく気性が荒くて。始終嫌がらせをしたり、悪口を言いふらしたり。終いには、私どものいた館に踏み込んで、散々に荒らしまわる始末。それで、孫息子も古妻に恐れをなして、こちらには通ってこなくなったのですよ」「それから吉祥は郡司の本宅の方に?」 老尼は唇を噛み締めながら答えた。「争いの源を一先ず親元に引き取って、事をきちんと治めたいとのとのことでした。親戚どもとも話し合って、孫息子の次妻としていずれ添わせるからと。でも、父親の郡司の方が、すぐに吉祥様に手をつけてしまって。わたくしは約束が違うと申しましたが、わたくしの娘はとうの昔に亡くなって、郡司の舘は後妻が牛耳っていました。それに、孫息子も面倒なことが嫌いで、すでにわたくしなど気に止めなくなっておりましたから、どうすることもできません。それで、わたくしは遠く離れた尼寺へ押し込められ、吉祥様はそのまま郡司の妾に。吉祥様がお年をお召しになり、郡司も飽きてしまってからは、もう下女同然の扱いでございました。わたくしはもう無念で。吉祥様にはお詫びの仕様もございませぬ」 老尼はそう言うと、とうとう泣き伏してしまった。近江守は老尼へ掛ける言葉も見つからず、ただ老尼の悲しみと苦悩を思いやって、その小さな背を撫でるだけだった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年03月04日
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