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夫がある女に恋をして夢中になっている。それは妻の立場にある者にとっては耐えがたいことだ。 その上、その女が自分より高貴であれば、正妻の座から追い落とされてしまうこともありうる。 当然、心変わりした夫を恨み、くどくどと厭味を言ったり、時には激しく詰(なじ)ったりすることもあろう。 もちろん、そのような振る舞いをする夫が悪いのだが、そういう妻をもてあまして、つい逆上してしまう夫も多いと聞く。道雅は気の短い男だったらしいから、大和宣旨を黙らせようと手を上げてしまったのだろうか。 それにしても、道雅の子供まで産んで安定した妻の地位にあり、自身も歌の上手で聡明な才女である大和宣旨を追い詰めるような女とは、一体誰だったのだろう。「そのやんごとなきお方とはどなただ」 能季はいつの間にかすぐ目の前にまで擦り寄っている小中将に向かって呟いた。 小中将はさらに能季の耳元に口を寄せて囁いた。「それが、口に出すのをはばかられるようなお方で」「構わぬから言ってくれ」「当子内親王様」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月28日
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「それで、大和宣旨は中宮御所を頼ったのか」「おそらく。道雅殿はその後も始終文を寄越したそうですが、しばらくしてようやく諦めたのか、大和宣旨に付きまとうのをやめたそうです」 大の男がか弱い女に暴力をふるう。それも自分の妻に。 確かに、道雅は乱暴者だったと父も言っていた。でも、それにはそれなりの理由があるのだろうか。「それにしても、大和宣旨と道雅殿の不和のわけとは、一体何なのだろう」 能季は首を捻(ひね)りながら小中将に尋ねてみた。 小中将は能季の膝先まで身を捩(よじ)って近づくと、噂好きの女房らしく目を輝かせながら囁いた。「それについて、ちょっと面白い話を耳にしました」「何だ」「その頃、密かに囁かれる噂があったのだそうです。道雅殿があるやんごとなきお方に懸想(けそう)して、密かにお通いになっていると」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月26日
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「妍子様は何か知っておられたのか」「おそらく、大和宣旨が話したのでしょう。もちろん、中宮様は口外などなさいませんでしたが。でも、その頃御所ではこの話題で持ちきりになり、しきりと大和宣旨と道雅殿の間に何があったか取りざたされたそうでございます。わたくしが話を聞いた女房が言うには、大和宣旨はひどく怯えきっており、大そう痩せ衰えていたとか。それに、身体にも少し傷があったそうで、道雅殿から何か恐ろしい仕打ちをされたのではないかと」「道雅殿から暴力をふるわれた?」「もちろん、確かな話ではございませぬ。どんな仕打ちをされたのか、詳しいこともわかりませぬ。でも、道雅殿は荒三位と渾名(あだな)されるほど、乱暴者として評判だったそうですからね。それくらいしか考えられぬと」「そうか。夫の暴力から逃れるために宮仕えを。それも中宮様の御所に」 中宮の御所ともなれば、警備は厳重を極める。身元の不確かな者は決して中には入れないし、御所内ではたとえ関白であっても勝手な振る舞いなど絶対に許されない。 中宮の許しがなければ、たとえ自分の妻であっても自由に会うことはできないだろう。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月25日
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「それはどういうことか」 小中将は女が噂話をする時特有の、剥(む)き出しの好奇心を無理に押し隠すような囁き声で言った。「大和宣旨は夜中にこっそり逃げてきたのですよ」「逃げてきた? どこから?」「自分の屋敷から。その頃、大和宣旨は道雅殿の妻として、何不自由なく里で過ごしていたのだそうです。父上の平惟仲殿はもう亡くなっておられましたが、道雅殿は夜離れすることもなく時々通って来ていたし、子供たちも生まれていました。ですから、本来なら気苦労ばかりが多い宮仕えなどしなくても良いはず。ところがある夜、大和宣旨は伝手(つて)を頼って妍子様の御所へ駆け込み、どうしてもこちらの御所へお仕えしたいと言って聞かなかったそうでございます。そして、誰が迎えにきても、決して自分を引き渡してくれるなと」「それは一体何故だろう」「その女房も詳しいことは知らないと申しておりました。大和宣旨は中宮様や上臈の方々のところへ連れて行かれ、しばらく極秘に何か話をしていたそうでございます。その後は局を与えられ、しばしの間御所の奥で匿(かくま)われておりました。夫の道雅殿からはうんざりするほど文が届くし、一度は御所にまでわざわざ迎えに来られたそうですが、中宮様は大和宣旨に会わせることをきっぱりとお断りになった由」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月19日
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「それは一体どういうことだろう」「さあ、わたくしにもわかりませぬ。とにかく、それからは道雅殿について何を訊ねても知らない、よく覚えていないの一点張り。わたくしがそれでも押して訊ねると、気分がすぐれぬからと奥へ入ってしまわれたのです」「そうか。では、それ以上のことはわからなかったのだな」「まあ、見損なってもらってはこまります。そんなことで諦めるわたくしではございませぬ。とにかく、御所の他の女房たちを片端から捕まえて、大和宣旨の昔のことをいろいろ聞いてみました」「何かわかったか」 思わず身を乗り出した能季に、小中将は得意満面の笑顔で答えた。「もちろん。古株の女房の一人が、大和宣旨がまだ道雅殿と夫婦であった頃のことを覚えておりました」「それは確かな話か」「はい。その女房は以前、三条帝中宮の妍子様の御所にいたそうで。大和宣旨も長年同じ御所に仕えておりましたからね。大和宣旨とも親しく付き合ってきたらしいのですよ。でも、大和宣旨がそこへ出仕してきた時、ちょっとした騒ぎがあったのだそうです」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月17日
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「一度も? それは何故だろう」「さあ、それはよくわかりませぬ。わたくしは道雅様のことは知りませぬが、定頼様とは比べ物にならないほどひどく醜くてつまらない御方で、お話するのが恥ずかしかったからではないでしょうか」「いや、そうではあるまい。私も道雅殿はよく知らぬが、私の父の話では大そうな美男で評判のお方だったとか。それに中関白家の嫡流の貴公子だ。藤原公任殿の子の定頼殿には、勝るとも劣らないのではないか」「そうなのですか。では、あれは一体どうしたのでございましょう」「何だ」「下野は大和宣旨と道雅殿との間柄について何も知らぬと申すので、わたくしは今日の昼間に章子内親王様の御所へ大和宣旨を訪ねていったのですよ。下野が以前から借りたいと大和宣旨にお願いしていた歌の集があるというし、あちこちの御所へ四条宮からの文を遣いする用事もございましたので、それを口実に。もちろん、大和宣旨は快く会って下さり、わたくしにも四条宮の様子などいろいろと尋ねて、楽しくおしゃべりをしていたのですが、話をさりげなく道雅殿へ向けたとたん……」「大和宣旨はどうしたのだ」「突然顔を真っ青にして、黙り込んでしまわれました」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月12日
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「まだ、女房勤めをしているのか」「はい。大和宣旨は長年三条帝の中宮藤原妍子様の御所にもお仕えし、宮中での嗜(たしな)みにも大そう詳しいので、今でも御所では重く扱われているそうでございます」「下野に、大和宣旨と道雅殿とのことを聞いてみたか」「それが……」「何だ?」「下野は今まで、大和宣旨がかつて道雅殿の北の方であったということを知らなかったそうなのですよ」「そうか。道雅殿と夫婦であったのはもう何十年も昔の話だから、知らぬのも無理はないのかも知れぬ」「それが、そうでもないようで。大和宣旨は年寄りらしく昔話が好きで、誰彼構わず捕まえては、よく昔の恋の話などをくどくどするのだそうです。歌会なんかで会う度に同じ話をするので、下野はいつも閉口させられたとか。その昔、宮廷一の貴公子であられた藤原定頼様が通って来られていた頃の話など、もう耳にたこができるほど度々聞かされたと言っておりました。ところが、道雅様の話は一度もなさったことがないというのですよ」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月11日
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能季は師実の一件についてどこまでこの小中将が知っているのか少し不安だったのだが、行綱はどうやら小中将に肝心な話はまるでしていないらしい。 安堵する能季に、小中将はにじり寄るように膝を進めてきた。その色っぽい身ごなしにもかかわらず、小中将の話し方はてきぱきして要領が良い。「わたくしは大和宣旨のことはそれほど良くは存じません。もちろん、名前くらいは知っておりますよ。名の知れた歌詠みだということも。でも、もうずいぶんお年なので、わたくしどものような若い者とはさほど付き合いがないのです。それで、歌詠みのことは歌詠みに聞くのが一番良いと、下野(しもつけ)の局にいろいろ訊ねてまいりました」 下野という名を聞いて、能季の胸はどきりと鳴った。 下野というのは、小中将と同じく四条宮に仕える女房である。下野も歌の上手として知られ、世間で持て囃(はや)されている女房の一人だ。 だが、能季の胸を高鳴らせたのは、もちろん既に中年女の下野本人ではない。能季は自分の心の動揺を隠して、小中将に訊ねた。「そうか。それで、下野は何と言った」「大和宣旨は今、今上の皇后であられる章子内親王様の御所におられるそうです」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月10日
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行綱はいつもの饒舌(じょうぜつ)で言い訳をはじめたが、小中将はぴしゃりとそれを遮(さえぎ)った。「話を聞いてきたのはすべてこのわたくしでございます。わたくしから直接申し上げた方が良ろしかろうと思い、行綱殿に供をお願いしてこちらまでやってまいりました。行綱殿がおっしゃるには、他ならぬ能季様からのお尋ね。何としてもお力になりたいと」 そう言って、小中将はまたにっこりと微笑んだ。 小中将は行綱に頼まれたから一肌脱いだのではなく、あくまでも能季のためだと言いたいらしい。どうやら小中将の狙いは、宮中でも評判の貴公子である能季と近づきになることのようだ。 行綱は得意なおしゃべりの機会を奪われて不満げだったが、小中将にはまるで逆らえないらしい。小中将の隣に座を占めると、忠実な番犬よろしくあっさり聞き役に回ってしまった。 能季はまだ側に控えて小中将を睨(にら)みつけている真砂を下がらせると、小中将に言った。「私が尋ねたいのは、大和宣旨のことなのだが」「行綱殿がおっしゃるには、藤原道雅殿の北の方であった頃のことがお知りになりたいとか」「そうだ。私の友人が道雅殿の婿になりたがっていてね。道雅殿のお人柄や家族のことを知りたいというのだよ」「そういうことでしたの。行綱殿もはっきりおっしゃらないし、一体どうしてそんなことをお知りになりたいのかと思っておりましたわ」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2014年11月05日
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